大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成21年(ヨ)718号 決定 2009年12月28日

主文

一(1)  債権者X1社は、債務者に対し、別紙「車両目録一」記載の各車両につき、債務者より別紙「整備作業価格」記載の価格で点検、整備、修理のサービス(ただし、道路運送車両法に基づく定期点検及び整備を除く。)の供給を受ける契約上の地位にあることを仮に定める。

(2)  債務者は、債権者X1社に対し、別紙「車両目録一」記載の各車両につき、別紙「整備作業価格」記載の価格で点検、整備、修理のサービス(ただし、道路運送車両法に基づく定期点検及び整備を除く。)を供給せよ。

二(1)  債権者X2社は、債務者に対し、別紙「車両目録二」記載の各車両につき、債務者より別紙「整備作業価格」記載の価格で点検、整備、修理のサービス(ただし、道路運送車両法に基づく定期点検及び整備を除く。)の供給を受ける契約上の地位にあることを仮に定める。

(2)  債務者は、債権者X2社に対し、別紙「車両目録二」記載の各車両につき、別紙「整備作業価格」記載の価格で点検、整備、修理のサービス(ただし、道路運送車両法に基づく定期点検及び整備を除く。)を供給せよ。

三  債権者らのその余の申立てをいずれも却下する。

四  申立費用はこれを二分し、その一を債権者らの負担とし、その余を債務者の負担とする。

理由

第一申立ての趣旨

一  主文第一項及び第二項と同じ。

二(1)  債権者らは、債務者に対し、別紙「車両目録一」及び「車両目録二」記載の各車両につき、平成二一年一〇月一日から平成二二年九月三〇日まで、債務者より、代金七〇〇万円で、道路運送車両法に基づく定期点検、整備及び車両のエンジン、シャーシ部分に関する一般整備のサービス供給を受ける契約上の地位にあることを仮に定める。

(2)  債務者は、債権者らに対し、別紙「車両目録一」及び「車両目録二」記載の各車両につき、平成二一年一〇月一日から平成二二年九月三〇日まで、代金七〇〇万円で、道路運送車両法に基づく定期点検、整備及び車両のエンジン、シャーシ部分に関する一般整備のサービス供給をせよ。

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、債務者から購入した車両(トラック)により運送業を営み、かつ、債務者からそれらの車両の点検、整備、修理等のサービスの供給を受けてきた債権者らが、債務者からそれらのサービスの供給を平成二一年一二月末日をもって停止する旨の通知を受けたことから、それぞれ、債務者に対し、①債権者らが保有する車両(債権者X1社につき別紙「車両目録一」記載、債権者X2社につき別紙「車両目録二」記載の各車両。以下「債権者ら保有車両」という。)につき、債務者の定める別紙「整備作業価格」記載の価格で車両の点検、整備、修理のサービスの供給を受ける契約上の地位を仮に定めること、②債権者ら車両につき、平成二一年一〇月一日から平成二二年九月三〇日まで、代金七〇〇万円で道路運送車両法に定める定期点検・整備及び車両のエンジン、シャーシ部分に対する一般整備のサービスの供給を受ける契約上の地位を仮に定めることを内容とする仮処分の発令を求めた事案である。

二  前提事実

(1)  当事者等

債権者X1社は昭和四九年に、債権者X2社は平成一〇年に設立されたそれぞれ運送業を営む株式会社である。債務者は、トラック、バスなどの輸送用機器の製造、販売、修理等を業とする株式会社である。

(2)  債権者らと債務者との取引経過

ア 債権者ら代表者は、昭和四三年に運送業を創業し、爾後、昭和四九年に債権者X1社を、平成一〇年に債権者X2社を設立した後も、一貫してその事業用のトラックを債務者(その子会社であった販売会社を含む。)あるいはその前身であるa株式会社、b株式会社(以下、「債務者」と表記するときは、これらの前身の会社を含むことがある。)から購入し、トラックの点検、車検、整備、修理を債務者の直営工場に依頼していた。

イ 債権者らと債務者は、平成三年ころから、債権者らが保有する車両の全部についての道路運送車両法に定める定期点検(三か月点検及び一二か月ごとの車検)及び整備、エンジン及びシャーシについての一般整備(以下「法定整備等」という。)を一括料金で債務者が行う旨の「点検整備等請負契約」を締結し(ただし、契約当事者は、平成一七年までは債務者の子会社であったc自動車販売株式会社であり、平成一八年からは債務者の宇治支店である。)、爾後、平成一九年一〇月一日(契約の終期は平成二〇年九月三〇日)まで、一年ごとに年間の請負代金額を定めて契約書を交わし、債務者は、同契約に基づき、債権者らの保有するトラックにつき、法定整備等を行ってきた。

なお、平成一七年度及び平成一八年度(年度は一〇月一日から翌年九月三〇日まで)の請負代金額は四五〇万円、平成一九年度の請負代金額は六〇〇万円である。

ウ 債権者らは、平成三年以降も、法定整備等のほかに、随時、債権者らが保有する車両の点検、整備、修理等(以下「一般修理」という。なお、一般修理には、他府県での故障や夜間の故障等の緊急修理対応が含まれる。)を債務者に依頼してきた。平成一九年度及び平成二〇年度における一般修理にかかる代金の請求額及び支払額は、以下のとおりである。

①債権者X1社

平成19年度 請求額 五一万七七二三円

支払額 四四万〇〇〇〇円

平成20年度 請求額 五三万二六九一円

支払額 四九万五〇八七円

②債権者X2社

平成19年度 請求額 四〇五万八一〇八円

支払額 三八〇万〇三五八円

平成20年度 請求額 二一〇万二九二三円

支払額 一六七万三〇〇〇円

(3)  債務者による取引停止通知

ア 債務者は、平成二〇年一〇月一日以降、債権者らとの間で法定整備等にかかる点検整備等請負契約につき、契約書を取り交わすことなく、引き続き法定整備等を行い(ただし、その代金については、債権者らが年額七〇〇万円である旨主張するのに対し、債務者は、別紙「整備作業価格」のとおりと思われる債務者の定価による代金額[債権者X1社につき九八四万六一三五円、債権者X2社につき二六九七万九六八八円]を主張し、現在、大阪地方裁判所に請負代金請求訴訟を提起している。)、また、一般修理も行っていた。

イ 債務者は、平成二一年九月ころ、債権者らに対し、債権者ら保有車両にかかる法定整備等、緊急修理対応を含む一般修理のサービス供給を同年一〇月末をもって打ち切る旨を申し入れ、その後、同年九月三〇日付で、同年一〇月一日から同年一二月三一日までの間は、別紙「整備作業価格」のとおりの価格で法定整備等及び一般修理を行うが、平成二一年一二月末日限りをもってそれらのサービス供給を打ち切る旨を債権者らに通知した。

第三当裁判所の判断

一  法定整備等にかかる契約上の地位を仮に定める申立てについて

(1)  まず、債権者らは、債務者との間で、債権者ら保有車両につき、平成二一年一〇月一日から平成二二年九月三〇日まで、代金合計七〇〇万円(その内訳は、債権者X1社につき二〇〇万円、債権者X2社につき五〇〇万円の趣旨と解される。)で法定整備等のサービス供給を受ける契約上の地位を仮に定めることを求めている。

(2)  しかし、債権者らと債務者は、法定整備等に関し、平成一九年一〇月一日に、契約期間の終期を平成二〇年九月三〇日とする点検整備等請負契約書を交わしたのを最後に、法定整備等に関する契約書を交わしておらず、一件記録によっても、平成二一年一〇月一日から平成二二年九月三〇日までの間、債務者が債権者ら保有車両の法定整備等を行う旨の契約が締結されたと認めるに足りる疎明はない(債権者ら自身も、平成二〇年一〇月一日から平成二一年九月三〇日までの間、代金七〇〇万円で債務者が法定整備等を行う旨合意したとは主張するものの、平成二一年一〇月一日から平成二二年九月三〇日までの間について、その旨の合意があったとは主張しない。)。

(3)  債権者らは、債務者が債権者ら保有車両の法定整備等を長く請け負ってきた経過から、点検整備等請負契約書による法定整備等の請負契約は継続的給付契約であり、債務者が一方的にサービス供給を打ち切るのは不当であると主張するものと解される。

しかし、法定整備等は、道路運送車両法上の三か月ごとの点検、一二か月ごとの車検及び整備など予めその実施時期等が定まっているものを内容としていると解され、不測の事態による故障等に関する緊急の修理対応などは含まれていないところ、債権者らがこれらを債務者以外のトラック製造メーカーの整備工場やその他の民間整備工場に依頼して行うことが不可能ないし著しく困難であるとは直ちに認められない。また、債務者は、最後に交わした点検整備等請負契約の期間が満了した平成二〇年九月三〇日以降、平成二一年一二月末日までの期間を設け、現在まで約一年三か月の間、引き続き債権者ら保有車両の法定整備等を行っており(なお、債務者らは、平成二〇年一〇月一日から平成二一年九月三〇日までの間についても、債務者が法定整備等を行う旨の合意があったと主張するがこれを認めるに足りる疎明はない。)、債権者らには、債務者からの法定整備等のサービス供給停止に備える十分な猶予期間があったといえる。以上に加えて、債務者は、上記猶予期間中の点検、整備、修理代金につき、債務者の定価による合計三六八二万五八二三円(ただし、平成二〇年一〇月分から平成二一年九月分まで)の支払を求めるのに対し、債権者らは、これを大きく下回る代金額を主張して、債務者への支払に応じていないことによれば、債務者が、平成二一年一二月末日をもって、債権者らに対する法定整備等にかかるサービスの供給を打ち切ることが不当であるとは直ちにはいえない。

二  一般修理にかかる契約上の地位を仮に定める申立てについて

(1)  次に、債権者らは、債務者との間で、債権者ら保有車両につき、別紙「整備作業価格」のとおりの価格で一般修理にかかるサービス供給を受ける契約上の地位を仮に定めることを求めている。

(2)  債務者の債権者らに対する一般修理にかかるサービス供給については、契約書その他の書類は作成されていないものの、債権者ら保有車両は全て債務者が製造し、販売したものであること、債権者らは、約四〇年もの間(債権者ら代表者による個人事業の時期を含む。)、保有車両の点検、整備、修理等を債務者に依頼してきたことなどによれば、債権者らと債務者との間には、債権者ら保有車両につき、債務者が継続的に点検、整備、修理等を行う旨の黙示の合意があったということができ、この点は債務者も明らかには争わない。

(3)  もっとも、債務者は、一般修理にかかるサービス供給についても、平成二一年一二月末日をもって打ち切る旨を債権者らに通知しているので、債務者が一般修理にかかるサービス供給を打ち切ることが不当であるか否かについて検討する。

この点、一般修理には、他府県での故障や夜間の故障時の緊急修理対応が含まれていて、債権者らのような運送業者については、トラックの突然の故障や不具合による積荷の遅配や事故の発生などの事態を回避するために、これらの緊急修理対応が不可欠であると考えられる。そうであればこそ、債務者は、全国に合計二六二箇所の工場を設置し、かつ、二四時間体制で修理に応じることで、自社トラック販売先の緊急修理の需要に応えているのであり、これらの緊急修理は、トラック製造メーカー以外の民間整備工場において十分な対応ができるとは考え難く、また、債務者製造にかかる債権者ら保有車両については、債務者以外のトラック製造メーカーにおいても、部品や修理方法の相違などの理由から適切に対応できないというのである。

これらを踏まえると、債務者は、自社製造のトラック等の車両につき、債権者らを含む販売先に対し、緊急修理対応を含む一般修理サービスを供給することが強く要請され、これは、整備不良や故障による事故の発生を防止する観点からみれば、債務者の社会的責任ともいえるのであって、債務者の一般修理サービスの供給停止が正当化されるのは、サービス供給を停止しなければ債務者に著しい損害が発生したり、あるいは、販売先との間の信頼関係を回復不能な程度に破壊されているなどの特段の事情がある場合に限られるというべきである。

然るに、「本件においては、債権者らは、債務者が定める別紙「整備作業価格」のとおりの価格でのサービス供給を求めているのであり、これに応じることで債務者に著しい損害が発生するとはいえない。

また、債務者は、債権者らから、法定整備等に関して著しく廉価な代金での点検、整備を強いられてきた、一般修理に関しても大幅な減額を求められてきたなどと主張し、このことが債務者が債権者らに対するサービス供給の停止を決断した主因であると認められる。しかし、それらの債権者らの要求に応じてきたのは他ならぬ債務者自身であり、上記一で判断したとおり、法定整備等に関して、従前のものと同様の原価を下回る金額での点検整備等請負契約を継続する必要はないものの、これを超えて、債務者の定める価格でのサービスの供給を求める債権者らに対し、サービス供給を停止することが直ちに正当化されるとはいえず、本件において、上記特段の事情があるとは直ちには認められない。

(4)  以上によれば、債権者らは、債務者に対し、一般修理にかかるサービス供給を受ける契約上の地位にあると一応認められる。

また、債務者からこれらのサービス、特に緊急修理のサービスの供給を受けることが債権者らの事業に不可欠であることは既に述べたとおりであり、債務者が、債権者らに対し、平成二一年一二月末日をもって、これらのサービスの供給停止を通知していることを踏まえると、債権者らに生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるために、債権者らの上記契約上の地位を仮に定めることが必要であるといえる。

ただし、一般修理、即ち、債権者ら保有車両の点検、整備、修理には、法定整備等が含まれうるが、法定整備等のうち、道路運送車両法に基づく定期点検・整備についてサービス供給を継続する必要性がないことは既に述べたとおりであり、他方、法定整備等のうち、エンジン及びシャーシの一般整備については、債権者ら保有車両に対する緊急の修理の際の整備内容に含まれうる。そこで、債権者らの申立ては、債権者ら保有車両に対する点検、整備、修理から、道路運送車両法に基づく定期点検・整備を除くものについて、それらのサービスの供給を求める契約上の地位を仮に定めることを求める限度において理由があるというべきである。

三  したがって、本件申立ては、主文第一項及び第二項の範囲で理由があり、その余は理由がないから、上記の範囲でこれを認め、申立費用の負担につき、民事保全法七条、民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を適用し、債権者らに、債務者のため、それぞれ金五万円の担保を立てさせた上、主文のとおり決定する。

(裁判官 溝口優)

別紙 車両目録一、二《省略》

別紙 整備作業価格

一般整備作業及び車検整備作業の作業代、部品代等は、次のとおりとする。

一 一般整備作業代

(1) 一般整備作業の時間レートは一時間九〇〇〇円(消費税別)とする。

(2) 一般整備作業代は下記のとおりとする。

d株式会社が標準的に設定している作業標準時間×整備作業時間レート(消費税別)

(3) 部品・油脂類

d株式会社が標準的に設定している価格とする。

(4) 二四時間サービス

整備・部品代金の他に出動費として金二万円(消費税別)

二 車検整備作業代

(1) 基本作業代 別紙一(小型トラック)

別紙二(中型トラック)

別紙三(大型トラック)

(2) 車検整備作業時に付帯整備作業、追加作業が発生した場合は、一般作業代と同じ扱い

(3) 車検代行手数料は金一万六八〇〇円(消費税別)、印紙代金一〇〇〇円

三 支払方法

毎月二〇日締め、翌月二〇日振込とする。

別紙一~三《省略》

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例