京都地方裁判所 平成21年(ワ)1643号 判決 2011年5月24日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,4億7275万円及びこれに対する平成12年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が平成9年に発注したごみ焼却施設建設工事の指名競争入札において,入札参加業者である被告,日立造船株式会社(以下「日立造船」という。),JFEエンジニアリング株式会社(変更前の商号は「日本鋼管株式会社」。以下,商号変更の前後を通じて「日本鋼管」という。),株式会社タクマ(以下「タクマ」という。)が談合を行って,受注予定者を被告と決め,談合に参加していなかった入札参加業者である株式会社A(以下「A」という。),B株式会社(以下「B」という。)及び株式会社C(以下「C」といい,被告,日立造船,日本鋼管,タクマ,A,Bと併せて「本件7社」という。)に対し,被告が受注することについて協力を求め,その了解を得た上,本件7社が競争入札に参加し,被告が落札した結果,落札価格(請負代金額)が不当に高くなり,原告に損害が発生したとして,原告が,被告に対し,不法行為に基づき,上記談合等により不当に高額となった工事代金相当額の損害賠償を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに各項掲記の各書証及び弁論の全趣旨によって認められる事実)
(1) 入札及び請負契約
ア 原告は,平成8年ころ,甲市ごみ焼却施設の建設工事(以下「本件工事」という。)の実施を決め,請負契約を締結する業者を指名競争入札の方法により選定することとし,本件7社を指名し,平成9年5月20日,本件7社が参加して入札(以下「本件入札」という。)を行った結果,被告が,入札価格42億5000万円(税別。以下,特に断らない限り,同じ。)で本件工事を落札した。
本件7社の入札金額は,被告が42億5000万円,Cが42億9000万円,Aが49億円,タクマが49億5000万円,日本鋼管が51億円,日立造船が49億8000万円,Bが47億9000万円であった。
イ 原告は,本件入札結果に基づき,被告との間で,請負代金を44億6250万円(消費税及び地方消費税を含む。以下「本件請負代金額」という。)として本件工事の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。
被告は,平成12年2月25日,本件工事を完成し,これを原告に引き渡した。これに対し,原告は,被告に対し,同年5月18日までに,本件請負契約の代金として44億6250万円を支払った。
(2) 公正取引委員会の審決及びその後の経緯
ア 公正取引委員会は,平成10年9月17日,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成14年法律第47条による改正前のもの。以下,同改正及び後記の各改正の前後を通じ「独禁法」という。)の規定に基づく審査を開始し,平成11年8月13日,被告,日立造船,日本鋼管,タクマ及び川崎重工業株式会社(以下「川崎重工」といい,被告,日立造船,日本鋼管,タクマと併せて「別件5社」という。)が,遅くとも平成6年4月以降,普通地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注する全連続燃焼式及び准連続燃焼式ストーカ炉の新設,更新及び増設工事について,共同して,受注予定者を設定し,受注予定者が受注できるようにし,独禁法2条6項に規定する不当な取引制限をして3条に違反したとして,別件5社に対し,同法48条2項に基づき,排除勧告をした。
イ 別件5社が,上記アの排除勧告の応諾を拒否したため,公正取引委員会は,同年9月8日,独禁法(平成17年法律第35条による改正前のもの)49条に基づき,別件5社を被審人とする審判開始決定をした(平成11年(判)第4号。以下,これにより開始された事件を「別件審判事件」という。)。
ウ 公正取引委員会は,平成18年6月27日,別件審判事件につき,別件5社が,遅くとも平成6年4月以降平成10年9月17日までの間,「共同して,地方公共団体発注の全連続燃焼式及び准連続燃焼式ストーカ炉の新設,更新及び増設工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,地方公共団体発注の全連続燃焼式及び准連続燃焼式ストーカ炉の新設,更新及び増設工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって」,独禁法(平成17年法律第35号による改正前のもの)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであり,かつ同法54条2項に規定する「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するものと認められるとして,同条項,7条2項に基づく排除措置を命ずる審決をした(以下「別件審決」という。)。
なお,別件審決は,別件5社が受注予定者を決定したと推認される工事として,本件工事を挙げている。
(以上について,甲8,9,弁論の全趣旨)
エ 別件5社は,別件審決を不服として,その取消しを求める訴訟を東京高等裁判所に提起した(同庁平成18年(行ケ)第11号~第13号事件)が,同裁判所は,平成20年9月26日,別件5社の請求をいずれも棄却する旨の判決をした(以下「別件審決取消判決」という。甲10)。
オ 別件5社は,別件審決取消判決を不服として,最高裁判所に上告提起及び上告受理申立てを行ったが,同裁判所は,平成21年10月6日,別件5社の上告及び上告受理申立てをいずれも退ける決定をした(甲11,弁論の全趣旨)。
2 争点及び当事者の主張
(1) 本件入札における不法行為の存否
(原告の主張)
被告を含む本件7社は,本件入札において,以下のアないしウの各行為を行った。
ア 被告を含む別件5社は,平成6年4月から平成10年9月16日までの間,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注する全連続燃焼式及び准連続燃焼式ストーカ炉の新設,更新及び増設工事について,受注機会の均等化を図るため,下記(ア)ないし(ウ)の内容の合意をした(以下「本件基本合意」という。)。
(ア) 地方公共団体が建設していることが判明した工事について,各社が受注希望の表明を行い,
a 受注希望者が1社の工事については,その者を当該工事の受注予定者とする。
b 受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。
(イ) 別件5社の間で受注予定者を決定した工事について,別件5社以外の者(以下「アウトサイダー」という。)が指名競争入札等に参加する場合には,受注予定者は自社が受注できるようにアウトサイダーに協力を求める。
(ウ) 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する。
イ(ア) 被告は,平成7年9月28日ころまでに,別件5社の営業責任者の会合で,本件工事の受注を希望し,別件5社は,本件基本合意に基づき,本件工事の受注予定者を被告と決定した(以下,これを「本件個別合意」という。)。
(イ) また,被告は,本件入札に先立ち,本件基本合意に参加していなかったC,A及びB(以下,3社を併せて「本件アウトサイダー」という。)に対し,被告が落札できるよう協力を求め(以下「本件協力要請」という。),本件アウトサイダーから協力する旨の合意を得た(以下「本件協力合意」という。)。
ウ 別件5社のうち被告,日立造船,日本鋼管及びタクマの4社並びに本件アウトサイダー3社(本件7社)が,本件入札に参加し,本件個別合意及び本件協力合意により,被告が本件工事を落札した。具体的には,被告が,本件入札前に,被告の受注予定価格を42億5000万円と,本件7社のうち被告以外の6社の入札すべき金額を次の(ア)~(カ)のとおり決定し,同6社に対し,上記各金額を連絡し,同6社が連絡を受けた価格で入札することにより,被告が本件工事を落札した。
(ア) C 42億9000万円
(イ) A 49億円
(ウ) タクマ 49億5000万円
(エ) 日本鋼管 51億円
(オ) 日立造船 49億8000万円
(カ) B 47億9000万円
(被告の主張)
否認する。(原告の主張)アないしウのいずれの事実も存在しない。
(2) 損害の存否及び金額
(原告の主張)
原告は,上記(1)(原告の主張)の不法行為により,以下のとおり,4億7275万円の損害を被った。
ア 本件工事について,上記(1)(原告の主張)の不法行為がなく公正かつ自由な競争に基づいた場合の適正な価格と本件請負代金額との間には,以下の事実から,少なくとも本件請負代金額の10%以上の差が生じているというべきであり,原告は,上記不法行為により,少なくとも本件請負代金額44億6250万円の10%に相当する4億4625万円の損害を被った。
(ア) 独占禁止法研究会が,平成15年10月に,直近5年間の主要なカルテルについて,公正取引委員会の審査開始後の下落率を調査した結果,別紙1のとおり,その平均下落率は20.97%であった。
(イ) 公正取引委員会が,平成8年から平成15年3月までの間に排除勧告又は課徴金納付命令を行った事件における同委員会の審査開始後の落札価格の下落率を算出したところ,過去の入札談合・カルテル事件の平均は16.5%の下落率,入札談合事件に限っては18.6%の下落率であり,調査対象の約9割の事件で8%以上の下落率であった。
(ウ) 原告を始め,全国の地方公共団体において,ほとんどの場合,入札参加者との間で,談合が行われた場合の損害賠償予定額ないし違約金を,契約金額の10%以上と合意している。
(エ) 公正取引委員会が,平成16年3月,直近5年間の市町村等の地方公共団体発注のストーカ式燃焼装置を採用する全連続燃焼式及び准連続燃焼式ゴミ焼却施設の建設工事についての入札談合事件について,同委員会による審査開始後の下落率を調査した結果,その平均下落率は12.4%であった。
(オ) 独禁法(現行法)の課徴金の額が10%と定められている(同法7条の2)。
(カ) 平成6年度から平成10年度までの地方公共団体発注のごみ焼却炉の受注について,公正取引委員会が別件5社による談合があったと認定しなかった物件のうち,落札率が90%以下であった工事は9件,80%以下であった工事も6件あった。
イ また,原告は,本件訴訟の提起及び追行を,原告訴訟代理人らに委任したから,それに伴う弁護士費用2650万円は,上記(1)(原告の主張)の不法行為による損害に当たる。
(被告の主張)
以下のとおり,原告の損害に関する主張は主張自体失当であり,原告に損害の発生は認められない。
ア 一般に,落札価格は,当該工事の種類や規模,参加している業者の数や各業者の事業規模,当該工事に対する受注意欲の多寡,入札当時の社会経済情勢,入札が行われた地域の特殊性等の様々な要因が複雑に影響し合って形成されるものであり,損害の発生が認められるためには,本件工事について談合がなかった場合に形成されたであろう本件工事の落札価格(以下「想定落札価格」という。)が,上記の各種の要因に基づき算出されなければならないところ,本件においては,上記の要因に基づいた想定落札価格が主張されていないから,原告の主張自体失当である。
イ 原告は,本件7社の行為がなかった場合の価格(想定落札価格)が,本件請負代金額を下回ることを所与の前提とするが,本件入札のように,予定価格非公表の場合,談合がなければ想定落札価格が必ず下がるとはいえないから,上記の前提自体失当である。
ウ (原告の主張)ア(ア)ないし(カ)の事実は,いずれも想定落札価格と本件請負代金額との間に,本件請負代金額の10%以上の差が生じていることの根拠となるものではないから,それらを根拠とすること自体失当である。
第3当裁判所の判断
1 認定事実等
前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実を認めることができる。
(1) ごみ焼却施設について(甲8)
ア ごみは,家庭生活の営みに伴って排出される一般廃棄物と,事業者の事業活動に伴って排出される産業廃棄物とに区分され,廃棄物の処理及び清掃に関する法律により,一般廃棄物は市町村が処理し,産業廃棄物は排出した事業者が自らの責任において処理することになっている。このため,市町村は,その区域内で排出される一般廃棄物を処理するために単独で又は他の市町村とともに一部事務組合又は広域連合を結成してごみ処理施設を整備しており,国は,市町村,一部事務組合及び広域連合等の地方公共団体が一般廃棄物を円滑かつ適正に処理するために行うごみ処理施設の整備事業について,補助金を交付している。
イ 地方公共団体が整備するごみ処理施設は,ごみの処理方法により,①ごみ焼却施設,②ごみ燃料化施設,③粗大ごみ処理施設,④廃棄物再生利用施設及び⑤高速堆肥化施設に区分される。このうち,ごみ焼却施設は,燃焼装置である焼却炉を中心に,ごみ供給装置,灰出し装置,排ガス処理装置等の焼却処理設備を配置し,ごみの焼却処理を行う施設である。
ウ ごみ焼却施設は,1日当たりの稼働時間により,①24時間連続稼働する全連続燃焼式(以下「全連」という。),②16時間稼働する准連続燃焼式(以下「准連」という。)及び③8時間稼働するバッチ燃焼式に区分される。また,ごみ焼却施設は,採用される燃焼装置の燃焼方式により,①ストーカ式燃焼装置(ごみをストーカ上で乾燥して焔燃焼させ,次に,おき燃焼させて灰にする装置をいう。)を採用する焼却施設(ストーカ炉),②流動床式燃焼装置,③ガス化溶解式焼却施設があり,①及び②が主要機種である。
エ 地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事には,新設,更新,増設,改造及び補修工事がある。「新設工事」とは,ごみ焼却施設を新たに建設することであり,「更新工事」とは,老朽化したごみ焼却施設の建替えや老朽化した焼却炉などの入替えを行うことであり,「増設工事」とは,既設のごみ焼却施設の処理能力を増加させるため,当該施設の一部として焼却炉等を新たに増設することであり,新設,更新及び増設工事のいずれも,ごみの焼却処理に必要な施設又は設備を新たに建設又は整備することである。
(2) ごみ焼却施設の一般的な発注方法(甲8)
ア 発注までの概略
地方公共団体は,ごみ処理施設を建設する実行年度の前々年度以前にごみ処理基本計画を策定する。ごみ処理基本計画において,地方公共団体は,将来の人口の増減予測に基づいてごみの種別ごとの排出量を推計し,リサイクルできるごみの量や地域内で処理が必要なごみの量などを把握した上,その処理のために設置すべき施設の整備計画の概要を取りまとめている。地方公共団体は,その後,ごみ処理施設の建設用地の選定,環境アセスメント,都市計画の決定等の手続を経た上で,実行年度の前年度にごみ処理施設整備計画書を作成し,都道府県を経由して国に同整備計画書を提出する。その際,工事費用を把握するため,将来の入札に参加させられる施工業者を選定し,工事の仕様を提示して「参考見積金額」を徴している。そして,国が国庫補助事業として予算計上した地方公共団体のごみ処理施設整備事業については,予算計上後に内示が行われ,当該地方公共団体は,この内示を受けた後に一般競争入札,指名競争入札,指名見積り合わせ又は特命随意契約のいずれかの方法により,発注している。
地方公共団体は,整備すべきごみ処理施設が焼却施設である場合,通常,ごみ処理施設整備計画書の作成時点までに,あらかじめ当該施設の燃焼方式をいずれとするか定めているが,燃焼方式を1つに定めずに発注手続を実施する場合もある。
イ 発注方法
(ア) 地方公共団体は,全連及び准連ストーカ炉の新設,更新及び増設工事(以下,併せて「ストーカ炉の建設工事」という。)を「指名競争入札」,「一般競争入札」,「指名見積り合わせ」又は「特命随意契約」の方法により発注しているが,ほとんどすべては「指名競争入札」,「一般競争入札」又は「指名見積り合わせ」(以下,併せて「指名競争入札等」という。)の方法によっている。また,地方公共団体は,ストーカ炉の建設工事の発注に当たり,ほとんどの場合,ごみ焼却施設を構成する機械,装置の製造及び据付工事並びに土木建築工事を一括して,後記のプラントメーカー又はプラントメーカーと土木建築業者による共同企業体に発注しているが,ごみ焼却施設を構成する機械,装置の製造及び据付工事と土木建築工事とを分離して,前者をプラントメーカーに,後者を土木建築業者に,それぞれ発注する場合もある。
(イ) 地方公共団体は,指名競争入札又は指名見積り合わせの方法で発注するに当たっては,入札参加資格申請した者のうち,地方公共団体が競争入札参加の資格要件を満たす者として登録している有資格者の中から指名競争入札又は指名見積り合わせの参加者を指名している。また,一般競争入札に当たっても,資格要件を定め,一般競争入札に参加しようとする者の申請を受けて,その者が当該資格要件を満たすかどうかを審査し,資格を有する者だけを一般競争入札の参加者としている。(甲査14,17)
ウ 発注件数及び金額
平成6年度から平成10年度までの間に,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事の契約件数は87件,発注トン数(1日当たりのごみ処理能力トン数)は2万3529トンであり,発注金額(受注業者の落札金額による。以下同じ。)は約1兆1031億円である(甲査29)。
(3) ストーカ炉の建設工事市場における別件5社の地位
ア 別件5社について(甲10)
別件5社は,少なくとも別件審決がされた時点まで,全連及び准連ストーカ炉を構成する機械及び装置を製造し,これらを有機的に機能させるための据付工事を行うとともに,設備機器を収容する工場棟の建設その他の土木建築工事をも行って,当該ごみ焼却施設及びその関連施設の建設を行う者であり,プラントメーカーともいわれていた。
イ ストーカ炉のプラントメーカー(甲査29,31)
ストーカ炉のプラントメーカーとしては,平成6年度から平成10年度までの間,別件5社のほかに,株式会社D(以下「D」という。),A,E株式会社(以下「E」という。),F株式会社(以下「F」という。),B,C,G株式会社,H株式会社,I株式会社,J株式会社,株式会社K,L株式会社,M株式会社,N株式会社等が存在していた。
ウ ストーカ炉の建設工事市場における別件5社の地位
(ア) 別件5社の位置付け(甲査20,28,31)
別件5社は,少なくとも平成10年9月17日以前,ストーカ炉の建設工事の実績の多さ,施工技術の高さ等から,プラントメーカーの中にあって「大手5社」と呼ばれていた。
(イ) 別件5社の事業能力
a 別件5社の製造能力(甲査29,34,45)
別件5社は,平成10年9月17日以前,特に1炉につき1日当たりのごみ処理能力トン数が200トン以上の焼却炉の製造能力において,他社に比べて優位性を有していた。
b 別件5社の情報収集力(甲査13,18,24,42,47,50~53,120,123,156~159)
別件5社は,平成10年9月17日以前,地方公共団体のごみ焼却施設の建設計画について,建設計画が判明した初期の段階から具体化される過程において,ごみ焼却施設の機種,処理能力,建設予定時期等様々な情報を順次収集することにより把握していた。
c 別件5社の指名実績
(a) 見積設計図書の作成依頼における実績(甲査18,23,24,34)
地方公共団体は,ごみ焼却施設に係る整備計画書を厚生省(平成10年9月17日当時の名称)に提出するに当たり,その資料の1つとして見積設計図書を作成する必要があるところ,プラントメーカーとしては,その作成依頼を受けることは,施設の規模,選定機種,稼働時間等が把握でき,発注仕様書に自社が製造するストーカ炉の仕様を反映できる可能性があるとともに,加えて当該ごみ焼却施設に係る指名競争入札等が実施される場合に入札参加業者として指名を受ける確率が高まることから,非常に重要なものと認識し,見積設計図書の作成依頼を受けられるようにすることをまず目標として営業活動を行っていた。実際に,別件5社は,平成10年9月17日以前,ごみ焼却施設の建設を計画する地方公共団体から見積設計図書の作成依頼を受けることが多かった。
(b) 発注手続実施時の指名における実績(甲査29,149)
別件5社は,平成10年9月17日以前,地方公共団体が実施するストーカ炉の建設工事の指名競争入札等において指名を受ける機会が多く,指名競争入札等に数多く参加していた。一方,別件5社以外のプラントメーカーが指名を受ける機会は少なく,別件5社と別件5社以外のプラントメーカーには格差があった。
d 別件5社の受注実績
(a) 別件5社は,平成10年9月17日以前,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事を数多く受注してきた。平成6年度から平成10年度までの地方公共団体のストーカ炉の契約において,別件5社が受注した件数は,87件中66件であり,その割合は受注金額(落札金額による。)で約87.0%(約9601億円)であり,別件5社以外のプラントメーカーが同工事を受注することは少なく,別件5社と別件5社以外のプラントメーカーには格差があった。(甲査29,160)
(b) ごみ焼却施設の規模(1日当たりのごみ処理能力トン数)は,当該施設を設置する地方公共団体の区域内の1人当たりのごみ排出量等に基づいて算出されることから,当該地方公共団体の人口に比例して大型化するところ,平成6年度から平成10年9月17日までの間,東京都や政令指定都市などが発注する規模の大きなストーカ炉の建設工事を受注したのは別件5社だけであった。そして,いわゆる地方都市に当たる地方公共団体は,ストーカ炉の建設工事を発注するに当たって東京都や政令指定都市の同工事の発注に係る動向を見て発注内容を検討する傾向にあることから,別件5社だけが東京都や政令指定都市が発注するストーカ炉の建設工事を受注していたことは,ごみ焼却施設の建設を計画するその他の地方公共団体に対する営業を行う上で別件5社にとって有利であった。(甲査11,29,34,118)
e 別件5社以外のプラントメーカーの地位(甲査39,48,110~112,114~118)
別件5社以外のプラントメーカーも,別件5社と同様に,地方公共団体発注のストーカ炉の建設工事の入札に参加すべく営業活動を行っていたが,別件5社の営業活動が強力なために,受注実績に結びついておらず,平成8年から平成10年ころ,別件5社と協調した行動をとることによりストーカ炉の受注実績を得ることを検討していたプラントメーカーもあった。
(4) 別件5社担当者による会合の開催(甲査28,33,46,104,105,139)
ア 別件5社は,遅くとも平成6年4月以降,各社のごみ焼却施設の営業責任者クラスの者が出席する会合を,毎月1回程度,開催場所は各社の持回りで開催していた(以下「本件会合」という。)。
イ 本件会合には,被告から機械事業本部環境装置第1部環境装置1課長であるa(昭和61年10月から同課配属,平成8年4月から同課課長。以下「a」という。)が,日立造船から環境・プラント事業本部環境東京営業部長であるbが,日本鋼管から環境第1営業部第1営業室長であるc(平成10年1月以前は環境プラント営業部配属)が,タクマから環境プラント統括本部東京環境プラント部第2課長であるdが,川崎重工からは,平成8年4月以前は機械・エネルギー事業本部営業総括部環境装置第1営業部長であるe,同月以降は機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部営業開発第2部長であるf(平成8年4月に機械・エネルギー事業本部営業総括部環境装置第1営業部主査となり,平成9年6月に機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部環境装置第1営業部長となり,平成10年1月に同営業本部営業開発第2部長に就任。以下「f」という。)が,それぞれ出席していた。
ウ 平成6年4月から平成10年9月まで,本件会合への出席者は,川崎重工のeからfへの交代以外には変更がなく,これらの者は,別件5社の本社のごみ焼却施設の営業担当部署の部長若しくは課長又はこれらと同等の待遇の者であった。
(5) 別件5社の従業員の供述等
ア aの供述(甲査28,46)
aは,平成10年9月17日,公正取引委員会で行われた審査官からの事情聴取に対して,自身が平成6年4月以降,本件会合に出席するようになったこと,本件会合の出席者は,発注が予定されている物件については,大分前から情報をつかんでおり,どのような物件があるかについては出席者全員が共通の認識を持っていること,本件会合では,ごみ処理施設の発注が予定される物件について,各出席者が,それぞれ受注を希望するか否かを表明し,受注希望者が1社の場合は,当該社が受注予定者つまりチャンピオンとなり,受注希望者が2社以上の場合は,希望者同士が話し合って受注予定者を決めること,受注予定者を決める基本は各社が平等に受注するということであり,各社が受注するごみ処理施設の処理能力の合計が平等になるように受注予定者を決めていたこと,自身が本件会合に出席するようになってから,受注希望がかち合っても希望者同士の話合いですべて受注予定者が決まっていたこと,ごみ処理施設の受注予定者を決めるに当たっては,ごみ処理施設の処理能力によって1日の処理能力が400トン以上を「大」,200トン以上400トン未満を「中」,200トン未満を「小」とし,それぞれに分けて受注希望物件を確認し,受注予定者を決めていること,別件5社以外の者が指名された場合は,受注予定者が相指名業者に対し個別に自社が受注できるように協力を求め,相指名業者に物件を受注させる必要が生じたときには,受注予定者が本件会合で了承を受けた後,相指名業者に受注させていたこと,受注予定者は,当該物件について積算し,別件5社及びそれ以外の相指名業者に入札すべき金額を連絡して協力を求め,別件5社は受注予定者が受注できるように協力していたこと,自身が本件会合に出席した以降被告が受注予定者となった物件のほとんどすべては予定どおり被告が受注していたことを供述した。
イ 日本鋼管のg(以下「g」という。)の供述等(甲査35,44)
gは,平成8年7月から,日本鋼管大阪支社の機械プラント部環境プラント営業室長を務めていたが,平成10年9月18日,公正取引委員会で行われた審査官からの事情聴取に対して,大阪支社では,近畿一円の官公庁が発注するごみ処理施設の見積価格や入札価格については,すべて本社の環境プラント第2営業部第1営業室から指示された価格で対応していたこと,平成8年秋から冬にかけて,本社環境プラント営業部のh(以下「h」という。)第2営業部長(肩書きは当時のもの),同部のi第1営業室長及びj第1営業室係長と飲食店で飲食した際,同人らから,ごみ処理施設の受注調整の内容を聞いたこと,その内容は,①別件5社のみで指名競争入札が行われる場合には,別件5社のルールによって,あらかじめ,物件ごとに受注予定者が決められる,別件5社にDとAが加わって指名競争入札が行われる場合には,日本鋼管が受注予定者となっている物件についても,上記2社と話合いを行うが,必ずしもすべて受注できるか分からない,別件5社にD,A,E及びBが加わった9社で指名競争入札が行われる場合には,日本鋼管が受注予定者となっている物件について,E及びBとも話合いを行う,②別件5社の担当者が集まる張り付け会議と呼ばれる会議を年1回開催して,別件5社が情報を有している物件について,別件5社が平等に分け与える形で,物件ごとにあらかじめ受注予定者を決めている,③張り付け会議では,別件5社の各社から,受注予定者となりたい受注希望の物件を述べ,希望者が1社だけの場合には当該会社が受注予定者となり,希望者が複数の場合にはその場で受注予定者を決める,④1日のごみ処理能力によって受注予定物件を400トン以上の大規模物件,100トン以上400トン未満の中規模物件,100トン未満の小規模物件の3つに区分し,それぞれに分けて受注予定者を決める,⑤受注予定者は当該受注予定物件について受注する権利を持つとともに別件5社以外のプラントメーカーが入札に参加しないように発注する地方公共団体に働きかける義務を持つ,⑥指名競争入札が数年後に行われた場合でも,受注予定者は当該物件を受注する権利を持つ,⑦別件5社以外のプラントメーカーが入札に参加することとなった場合には「たたき合い」が生じることもあり,受注予定者が必ずしも受注できるとは限らないが,受注できなかった場合でも,別件5社は補填といった面倒はみない,というものであったことを供述した。
gが,平成8年秋から冬にかけてごみ処理関係について部下を指導するために作成したメモ(甲査35)には,「ストーカ炉は,大手5社(NK,日立造船,三菱重工,川重,タクマ)が中核メンバーで,DとAが準メンバー。但し,E,B等は話合いの余地はある。」,「※ストーカー大手5社のルール①大(400t以上),②その他全連(399t以下),③准連の3項目に分けて張り付け会議を行う。1年に1回。その時点で明確となっている物件を,だいたい各社1個ずつ指定する。その後はその物件は100%その会社が守る権利と義務が発生する。その物件が何年先かは関係ない。同年度に重なったりゼロであったりする。比率は5社イーブン(20%)その物件に5社以外のメンバーが入った時は,タタキ合いとなる。業界は補てん等一切行わない。20%のシェアを維持する方法は受注トン数/指名件数でありその為に指名は数多く入った方がベター。」等と記載されている。
ウ 被告のk(以下「k」という。)の供述等(甲査40,42,43,49,102)
kは,平成8年3月から,被告中国支社の機械1課に配属され,同年4月から同課課長となり,官公庁相手のごみ処理施設等の営業を担当していたが,平成10年9月18日,平成11年7月26日,同月27日,公正取引委員会で行われた審査官からの事情聴取に対して,平成8年4月に前任のl(以下「l」という。)から引継ぎを受けた際,①ごみ焼却施設の受注については,別件5社が機会均等に受注するために,受注予定者を決めて受注予定者が受注できるようにするという慣行がある,②実際の入札で特定の物件についてどの業者が受注予定者となるかについては,各社の本社レベルで話合いが行われているなどと聞かされたことを供述した。
kが,平成8年3月,前任者のlから,同社中国支社機械一課の業務内容の引継ぎを受けた際に聞き取った内容を記載したメモ(甲査40)には,「仲 5社 機会均等」,「全連24H/DAY:東京仲」,「准連18H/DAY:東京仲」,「機バ8H/DAY:」等と記載されている。
エ 被告のm(以下「m」という。)の供述等(甲査37,47,108)
mは,昭和62年5月に被告中国支社の化学環境装置課に配属となり,平成元年4月から,同課において官公庁向けのごみ焼却施設等の営業を担当するようになったが,平成11年2月4日及び同月5日,公正取引委員会で行われた審査官からの事情聴取に対して,前任者のnの退職に伴い官公庁向けのごみ焼却施設等の営業を担当するようになった際,nから,「業界(機種別)の概況について」と題する文書を引き継ぐとともに,ストーカ炉の受注については別件5社の間に受注調整のための協定が存在し,それによって別件5社が,地方公共団体等が発注するごみ焼却施設を受注する機会を均等化しているとの説明を受けたこと,ごみ処理施設の営業を担当するようになってからも受注調整行為は行われていたこと,そのような受注調整行為は,支社レベルではなく本社レベルで行われており,管理職以上の課長クラスの者が対応していると思うこと,本社からは,地方公共団体等に対する営業活動に当たっては,「大手5社に絞り込め」と言われ,地方公共団体等が発注するごみ焼却施設の入札の指名を受ける業者を別件5社のみとさせるような営業活動を行うように指示を受けていたこと,そのため,発注予定物件の情報を得た場合には,過去の実績表を持参し,過去の実績のある会社,すなわち別件5社に指名を絞らせるために,地方公共団体等に対して「大手5社に頼むのがいいですよ」などと売り込んで,地方公共団体等の行う指名を別件5社に絞らせるような営業活動を行っていたこと,中国支社では各年度において営業目標として必注案件を設定し,これを本社に報告していること,別件5社の間には,指名を得た件数又は処理トン数を分母とした一定の計算式があるのではないかと考えられることを供述した。
mが,平成元年4月,nから引き継いだとされる「業界(機種別)の概況について」と題する文書(甲査37)には,「ごみ焼却炉」に関し,「※全連:大手5社協有.受注機会均等化(山積)…極力5社のメンバーセットが必要(他社介入の時は条件交渉を伴う)」,「(他者案件でも指名入りで分母積み上げを図る要あり)」等と記載されている。
オ タクマのo(以下「o」という。)の供述(甲査45)
oは,平成10年6月からタクマの環境プラント本部の本部長を務めており,ごみ焼却施設等の営業責任者であったが,同年9月17日,公正取引委員会で行われた審査官からの事情聴取に対して,同年7月以降,タクマの環境プラント本部営業部長から,受注を獲得するための営業方針について,何としてもタクマが受注したいという物件については,タクマが他社との間で話合いを行い,タクマの入札価格よりも高い価格で他社が入札することについて応じてもらい,他社の協力を得て受注し,他社がどうしても受注したいという物件についてはタクマが協力するとの話を聞いたことを供述した。
(6) 別件5社が受注予定者を記載したことがうかがえるリストの存在等
ア 川崎重工のp(以下「p」という。)が所持していたリストについて
(ア) 川崎重工の機械・環境エネルギー事業本部環境装置営業本部西部営業部参事であるpが所持していた「年度別受注予想 H07.09.28」と題する印刷文字で記載された表とこれを作成するための原稿とみられる手書きの表等からなる書面(以下,これらを併せて「pリスト」という。)には,別紙2のとおり,平成7年9月28日の時点で,平成8年度以降,地方公共団体からの発注が見込まれるごみ焼却施設建設工事が,年度別(平成8年度,9年度,10年度,11年度及び12年度以降の5分類)及び工事内容別(「-S」(ストーカ炉と思われる。)と「-F」の2分類)に区分されて記載され,「-S」欄の工事は合計79件(平成8~10年度分だけで56件)が記載されるとともに,工事ごとに,受注予定者として,川崎重工の略語と思われる「K」,被告の略語と思われる「M」,日立造船の略語と思われる「H」,日本鋼管の略語と思われる「N」,タクマの略語と思われる「T」の文字などが記載されていた(甲査89,140)。
(イ) 地方公共団体が平成8年度から平成10年度までに行ったストーカ炉の発注状況は,別紙3のとおりであり,①平成8年度に発注された工事(全15件)のうちpリストには12件が記載され(同リスト中の発注予想年度は平成8年度,10年度及び11年度に分布する。),Aが落札した2件(「日南地区衛生センター管理組合」工事及び「久居地区広域衛生施設組合」工事)を除く10件についてpリストに記載された別件5社の該当社がそれぞれ落札し,②平成9年度に発注された工事(全21件)のうちpリストには9件が記載され(同リスト中の発注予想年度は平成8年度ないし11年度に分布する。),Aが落札した1件(「函南町」工事)及び日立造船が落札した1件(「東京都(中央地区清掃工場)」工事)の2件を除く7件についてpリストに記載された別件5社の該当者がそれぞれ落札し,③平成10年度に発注された工事(全7件)のうちpリストには1件が記載され(「M」欄にある「名古屋五条」工事),同工事については,被告がpリストの記載どおり落札した(甲査29,89)。
(ウ) pリストの「H11」の行の「M-S」の列には,「甲市 80」の記載がある(甲査89)。
イ 別件5社に係るその他のリストとその記載内容
(ア) 川崎重工の平成9年9月ころのリスト(甲査155。「全連400T以上」,「全連200-400T未」,「全連60-200T未満」,「全連60T未満」の4つに分類している。)には「全連60-200T未満」のリストの左端欄に手書きで,14工事について別件5社の略称と思われる記載がされているところ,当該リストに記載されたごみ処理施設は,日本鋼管の同月11日付けのリスト(甲査62,63。「全連400t以上」,「全連200t以上400t未満」,「全連200t未満」に分類した上,「60t以下の物件は超小型の為,別枠とする。」との記載がされている。)に記載されたごみ処理施設と,200トン以上400トン未満の工事について川崎重工のリストに「東村山市」の記載がある点等数点を除き,ほぼ一致している(甲査62,63,155)。
(イ) 日本鋼管従業員のq(以下「q」という。)が所持していた平成9年12月17日付けのリスト(甲査58,59。「全連400t以上」,「全連200t以上400t未満」,「全連200t未満」に分類され,60トン未満の工事については別枠で記載されている。)の記載と日立造船の環境事業本部から平成10年1月27日付けでファクシミリ送信されたリスト(甲査55。「大型」,「中型」,「小型」に分類され,それぞれ400トン以上,200トン以上400トン未満,200トン未満の工事が記載されている。)の記載とは,日立造船のリストに記載のある「宗像古賀」工事が日本鋼管のリストに記載されていない点等数点を除き,ほぼ一致している(甲査55,58,59)。
(ウ) 日立造船の社内で作成された平成10年3月24日付けのリスト(甲査56。「大型」,「中型」,「小型」に分類され,それぞれ400トン以上,200トン以上400トン未満,200トン未満の工事が記載されている。)の記載は,5工事について手書きで別件5社の略称が付されているところ,同略称の記載は,被告従業員のr(以下「r」という。)が所持していたメモ帳(甲査77)の記載と一致している(甲査56,77)。
(エ) 日立造船の平成10年3月24日付けのリスト(甲査54。「大型」,「中型」,「小型」に分類され,それぞれ400トン以上,200トン以上400トン未満,200トン未満の工事が記載されている。)の記載と日本鋼管の同年9月16日付けリスト(甲査61。「400T以上(大型)」,「200T以上400T未満(中型)」,「200T未満(小型)/*60T以下」に分類されている。)の記載とは,日立造船のリストに記載のある「和歌山中部広域」工事が日本鋼管のリストに記載されていない点等数点を除き,ほぼ一致している(甲査54,61)。
(7) 受注希望を表明し,又は受注予定者を決定した会合に関するメモの存在等
ア 平成8年12月9日の会合に関するメモと思われるメモの存在と推認される事実
(ア) 被告従業員のaが所持していたノート(甲査67)には,400トン未満のごみ処理施設を列挙したとみられるリストのわきに,「1順目は自由 2順目は自由 3順目は200T/日未満」,「12/9」,「バッティングしたら12/18までに結着」との記載がある(上記ノートの前の部分の記載(甲査179添付資料)から,上記「12/9」は平成8年12月9日を意味するものと認められる。)(甲査67)。
(イ) 日本鋼管の環境第二営業部のs(以下「s」という。)が所持していた平成8年の手帳(甲査76)には,400トン未満のごみ処理施設を列挙したとみられるリストの下に,「①200t/日以上 ②200t/日未満」,「12/9 2件 ①,②双方から さらに1件②から合計3件」,「最初2件で選択されず残った場合は最後の1件(②区分)で選択可」との記載がある(甲査76)。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の事実から,平成8年12月9日に本件会合が開かれ,同会合において,地方公共団体が発注するごみ処理施設について,順番に受注希望を表明する方法で受注業者を決める話合いが行われたことを推認することができる。
イ 平成9年9月29日,同年10月16日及び同月29日の会合に関するメモと思われるメモの存在と推認される事実
(ア) 日本鋼管の環境第二営業部のsが所持していた平成9年9月1日付けのストーカ炉の手書きのリスト(甲査60)の上部余白には,「全連小型(200T未満)9/29 2~3件 大型10/16 1件 中型10/29 2件?」,「9/11大・中・小対象物件確定」との記載があり,本文中に「一緒になった場合 規模,管理者,建設用地(企業城下町)これらの指標をみて話し合い」,「救済措置あり同規模追加できる」,「増えた会社 次回調整」との記載がある(甲査60,140)。
(イ) 日本鋼管のsが所持していた同年9月11日付けのリスト(甲査62)及び同社東北支社のt(以下「t」という。)が所持していた同日付けのリスト(甲査63)の各表紙には,「全連200t未満 3件9/29(月)」,「〃 200t以上~400t未満 2件 10/29(水)」,「〃 400t以上 1件 10/16(木)」との記載がある(甲査62,63,140)。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の事実に加え,川崎重工の平成9年9月ころのリスト(甲査155)に記載されたごみ処理施設は,日本鋼管の同月11日付けのリスト(甲査62,63)に記載されたごみ処理施設とほぼ一致していること(上記(6)イ(ア))から,別件5社は,平成9年9月11日ころまでに,受注調整を行う予定物件を業者間で確定した上,同月29日,同年10月16日及び同月29日に,受注調整を行うための本件会合を行ったことが推認できる。
ウ 平成10年1月30日の会合に関するメモと思われるメモの存在と推認される事実
(ア) 日本鋼管環境第一営業部のqが所持していた平成9年12月17日付けのリスト(甲査58)のうち,「全連200t以上400t未満」の欄には,「1/20 対象物件見直し」,「1/30 張付け」との記載がある(甲査58)。
(イ) 日立造船環境事業本部営業本部の東京営業部が平成10年1月27日大阪営業部にファクシミリ送信したストーカ炉のリストの送信文書(甲査55)には,「中型の対象物件 送付します」,「1/30 ハリツケする予定です」との記載がある(甲査55)。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の事実に加え,上記(ア)及び(イ)の各リストの記載内容がほぼ一致していること(上記(6)イ(イ))から,別件5社を含むプラントメーカー数社は,平成10年1月30日,受注調整を行うための本件会合を行ったことが推認できる。
エ 平成10年3月26日の会合に関するメモと思われるメモの存在と推認される事実
(ア) 日本鋼管環境第一営業部長のu(以下「u」という。)が所持していた平成10年の手帳(甲査73)には,同年3月26日の欄に,「業<中小型物件はりつけ>」との記載がある(甲査73)。
(イ) 被告環境装置第一部次長のvが所持していた平成10年の手帳(甲査79)には,同年3月26日の欄に,「最終決定」との記載がある(甲査79)。
(ウ) 被告中国支社のkが平成10年3月26日に被告のaからの連絡内容を記載したとされるメモ(甲査96)には,「aK:3/26日秘会合で中国5県の話は出なかった。」との記載がある(甲査96,102)。
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)の事実から,別件5社は,平成10年3月26日,受注調整を行うための本件会合を行ったことが推認できる。
(8) 入札実施前に入札価格等の連絡が行われたことをうかがわせるメモの存在と推認できる事実等
ア(ア) 日本鋼管の環境エンジニアリング本部環境第二営業部長であるhが所持していたメモ(甲査124)には,別紙4の記載があり(甲査124,140),同メモ記載の「M」,「K」,「H」,「T」は,それぞれ日本鋼管を除く別件5社の略称であり,上記メモを日本鋼管のhが所持していたことから,別紙4の略称の記載のない行については,日本鋼管の金額を示すものと推認できる。
(イ) 平成10年8月31日に行われた賀茂広域行政組合発注に係るストーカ炉建設工事の入札手続における第1回の入札金額は日本鋼管が62億円,被告が65億円,川崎重工が67億円,日立造船が69億円,タクマが69億5000万円であり,日本鋼管が第1回の入札で上記金額で落札した(このような金額及び経過で入札に至った物件はほかに存在しない。)(甲査29)。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)のとおり,上記(ア)のメモの①の列の金額とは,日本鋼管において5000万円差異があることを除いて一致しており,上記(ア)のメモは,賀茂広域行政組合発注に係るストーカ炉建設工事の入札手続に関して作成されたことが推認されるところ,同メモに日本鋼管が第3回の入札に至っても落札できない場合には,第4回の入札において,日本鋼管以外の入札者がいずれも辞退することによって受注できる旨の記載があることなどからすれば,入札手続前に受注予定者である日本鋼管と同工事の指名業者である別件5社のうち日本鋼管を除く4社との間で入札金額等について調整を行い,それに沿った金額で同4社が入札したものと推認される。
イ(ア) 川崎重工の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部東部営業部参事であるw(以下「w」という。)が所持していた平成7年5月2日付けのメモ(甲査125,140)には,焼却炉工事の見積原価が積算過程とともに示され,「出し値」として,第1回から第3回までの入札価格が記載されるとともに,「不調の場合の予定価格と最低入札額の想定」がされ,「入札結果に至る過程」として2つの案が検討された上で最終案が示されている。そして,別件5社の略称とともに,別件5社の第1回から第3回までの入札金額が記載された別紙5の記載のある一覧表が添付されている。(甲査125,140)
(イ) 平成7年5月9日に指名競争入札が行われた佐渡広域市町村圏組合工事において,別件5社は,下記のとおり入札し,川崎重工が,第3回の入札で,60億5000万円で落札した(甲査29)。
a 川崎重工
第1回 62億2000万円
第2回 61億5000万円
第3回 60億5000万円
b タクマ
第1回 63億1000万円
第2回 61億9500万円
第3回 61億0500万円
c 日本鋼管
第1回 66億9000万円
第2回 62億1500万円
第3回 61億4000万円
d 日立造船
第1回 64億6000万円
第2回 61億9000万円
第3回 61億円
e 被告
第1回 66億円
第2回 62億円
第3回 61億2500万円
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の事実から,上記(イ)の入札における第1回から第3回の入札金額は,上記(ア)のメモに記載された金額と完全に一致し,上記(ア)のメモは,上記(イ)の入札に関し作成されたものと推認でき,入札手続前に受注予定者である川崎重工と同工事の指名業者である別件5社のうち川崎重工を除く4社との間で入札金額等について調整を行い,それに沿った金額で同4社が入札したものと推認される。
(9) ストーカ炉の建設工事の受注に関する数値を算出しているメモの存在と推認できる事実等
ア 被告の環境装置一課主務であるrが所持していた「O」という書出しのノートには,次の記載があり,各記載から,以下の事実を推認できる(甲査106)。
(ア) 「→12/24」という書出しの頁
同頁には,左側に,別件5社を示す略称とその右側にそれぞれの会社に対応した分数値が記載され,右側には,左側に記載された分数値よりも分母及び分子ともに増加した分数値が記載され,それぞれの右側に各社の分数値を小数値にしたものが示されており,その小数値が小さいものから順位を示す番号が付されている。そして,同頁の上部及び下部には,日付と地方公共団体による発注物件名とみられる記載及び数値の記載がある。
上記の事実から,同頁は,作成当時の別件5社の受注及び受注予定の全体的な状況を把握するために作成されたことが推認される。
(イ) 「→1/26」という書出しの頁
同頁には,上記(ア)に類似する計算結果が示されており,別件5社のほかD及びAを示す略称が加えられ,合計7社について,分数値,小数値及び順位を示す番号が記載されている。
上記の事実から,同頁は,別件5社に上記2社を加えた7社の入札状況を数値化して把握するために作成されたことが推認される。
イ pが所持していた「状況7 H07.11.30現在(H8/2調整済)」と題する2枚の表には,別件5社,D及びAの7社について,平成7年8月27日を「前回」,同年11月30日を「現状」として,「現状」欄の「A」欄及び「B」欄には,「前回」の「A」欄及び「B」欄の数値に,「変更ポイント」欄の「A」欄及び「B」欄の数値をそれぞれ加算した数字が記載され,「B」欄の数値を「A」欄の数値で除した小数値が「Q」欄に記載されており,同欄の小数値が少ない会社から順に順位を示す番号が記載されている(甲査107,140)。
上記の事実から,同表は,同表に記載された19の工事について,各工事の処理トン数を基にした数値を加えるなどして,上記7社の受注状況を把握するために作成されたことが推認される。
(10) アウトサイダーへの協力依頼をうかがわせる資料の存在と推認される事実等
ア Bエンジニアリング事業本部営業第一部第二グループリーダーであるx(以下「x」という。)が所持していた平成9年7月1日付けのメモ(甲査109)には,別紙6の記載があり,そのうち「河内長野の件」とは,同年8月8日入札の「南河内清掃施設組合(第2清掃工場)」工事に関するメモであることが推認される(甲査29,109,140)。
上記事実から,上記工事について,Bが,同年7月7日の発注者への見積書の提出に関して他者と協調するかフリーで入札するかを検討して,同工事について最終的に他社の意向に従ったとしても,次回は日立造船に対して他物件の要請をしやすくなるとの検討がされたこと,Bが上記工事について日立造船から受注の協力要請を受けていたことが推認される。
イ(ア) 日本鋼管環境第一営業部長のuが所持していた「物件情報」との表題のノートのうち「東京中央工場」と書出しの部分には,別紙7の記載が,タクマの環境プラント本部専務取締役統轄本部長yが所持していた平成10年版の手帳のうち,同年1月12日の該当箇所には「IHITEL」との記載が,被告の環境装置一課主務のrが所持していた「O」と書き出しのメモには,「中央“T”」,「I加わる,Hの上Iを説」との記載が,Fの環境・プラント事業本部長補佐兼P株式会社取締役z(以下「z」という。)が所持していた平成10年版の手帳のうち,同年1月23日の該当箇所には「HII施工①足立or最悪他でも②H9/下で50億程度…大枠OK」等との記載が,同手帳のうち「1/12(月)」と書き出しの頁には「yMD Tel」との記載が,同手帳のうち「タクマ…単独の命題」と書き出しに続く部分には,別紙8の記載がある(甲査111,112,114~118)。
(イ) Fのzは,平成11年1月25日,公正取引委員会で行われた審査官からの事情聴取に対して,東京都発注の中央地区清掃工場建設工事に関し,同工事には,同社,別件5社に加え,D,A及びEが参加したこと,Fは同工事の建設予定地が同社の豊洲工場の目と鼻の先であるため是非受注したい工事であったこと,平成元年1月21日及び同月23日に同工事に関する他社との打合せを行ったこと,上記(ア)のzが所持していた平成10年版の手帳のうち「タクマ…単独の命題」と書き出しに続く部分に記載された「Hz」とは日立造船を指すこと等を供述した(甲査118)。
(ウ) pリスト(平成7年9月28日付け)には,平成9年の「T-S」欄には「東京-中央」との記載がある(甲査89)。
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)の事実から,平成10年1月26日入札の「東京都(中央地区清掃工場)」工事については,平成7年9月28日時点ではタクマが受注予定者とされていたが,平成10年1月中旬に至ってもアウトサイダーであるFが,その建設予定地が同社の豊洲工場の目と鼻の先にあることなどを理由に受注を希望し,同社とタクマとの間で電話による話合いなどが行われたが決着がつかず,同月21日及び23日に,F,被告,E,タクマ,川崎重工,A,D,日本鋼管による話合いが行われ,その結果,Fが,上記工事について,日立造船が受注予定者とされていた「東京都(足立工場)」工事とのバーターに乗ることで「東京都(中央地区清掃工場)」工事についての受注希望を取り下げることとされ,結局,Fが「東京都(足立工場)」工事の受注予定者となり,日立造船が「東京都(中央地区清掃工場)」工事の受注予定者となり,他社はこれに協力することになったことが認められる(甲査29,111,112,114~118)。
(11) 落札率等
ア 平成6年4月から平成10年9月17日まで
上記期間に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事は87件であり(別件5社が落札した工事は66件,アウトサイダーが落札した工事は21件),そのうち予定価格が判明していた84件について落札率(予定価格に対する落札価格の比率)をみると,アウトサイダーが受注した工事の平均落札率は89.76%であるのに対し,別件5社のうちのいずれかが受注した物件(予定価格が不明なものを除く。)の平均落札率は96.6%であった(甲査29,146)。
イ 平成10年9月17日から平成16年7月31日まで
上記期間に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事は48件であるところ(甲査194の54件から第三セクター,廃棄物処理センター及びPFI事業者が発注した6工事を除いたもの。),その平均落札率は91.9%であり,そのうち別件5社が受注した31件の落札率の平均は90.1%,アウトサイダーが受注した17件の落札率の平均は95.2%であった。また,上記48件の工事のうち,平成13年度までに発注された40件の落札率の平均は95.4%,平成14年度以降に発注された8件の落札率の平均は74.4%,そのうち平成15年度以降に発注された4件の落札率の平均は63.9%であった(甲査194)。
(12) 会合の取りやめ
別件5社は,平成10年9月17日に公正取引委員会が独禁法の規定に基づき審査を開始したところ,同日以降,本件会合を開催していない(甲査104,139,143)。
(13) 本件入札に至る経緯
ア 原告は,平成8年9月ころ,一般廃棄物処理施設整備計画を作成するための参考資料として,プラントメーカーから,ごみ焼却施設建設の参考見積りをとることとした。原告は,その当時,ごみ焼却炉の燃焼方式としては全国的にストーカ炉が主流であり,原告の既存の焼却炉もストーカ炉であったことから,新しいごみ焼却施設の焼却炉もストーカ炉とすることに決定し,見積を依頼する業者として,ストーカ炉において実績のあるプラントメーカーである,被告,日本鋼管,タクマ,日立造船,C,A及びB(本件7社)を選定した。(弁論の全趣旨)
イ 原告は,平成8年11月13日,甲市役所に本件7社の担当者を集め,ごみ焼却施設建設に伴う現地説明会(以下「本件現地説明会」という。)を開催し,ごみ焼却施設建設整備計画を策定するための見積りを依頼した(弁論の全趣旨)。
ウ 原告は,本件7社からそれぞれ見積書の提出を受け,見積書の最高価,最低価を除く5社の見積りを工種ごとに比較し,それぞれの工種ごとに,最高価,最低価を除いた4社又は3社の金額を平均したものに0.9を乗じて算出した合計額である45億2224万円(税別)を設計価格として算定し,設計価格に0.98を乗じた価格である44億3180万円(税別)を予定価格とした(弁論の全趣旨)。
エ 平成9年3月1日付けの両丹日日新聞において,原告の本件工事を含むごみ焼却施設の総事業費が48億7000万円であることが報じられた(乙16)。
オ 原告は,平成9年5月20日,上記ウの設計価格,予定価格を知らせることなく,本件7社を指名業者として,本件入札を実施した(弁論の全趣旨)。
(14) 本件入札の結果
ア 本件入札における,本件7社の見積金額(既存施設の解体費用を含まない。)と入札金額は,以下のとおりであった(弁論の全趣旨)。
(ア) C
見積金額 44億3400万円
入札金額 42億9000万円
(イ) A
見積金額 55億1300万円
入札金額 49億円
(ウ) タクマ
見積金額 56億2400万円
入札金額 49億5000万円
(エ) 日本鋼管
見積金額 55億0800万円
入札金額 51億円
(オ) 日立造船
見積金額 55億7200万円
入札金額 49億8000万円
(カ) 被告
見積金額 55億3400万円
入札金額 42億5000万円
(キ) B
見積金額 55億6100万円
入札金額 47億9000万円
イ 被告の入札金額について,その落札率は95.9%であった。
2 本件入札における不法行為の存否
(1) 本件基本合意の存否について
ア 上記1(4)のとおり,別件5社は,遅くとも平成6年4月以降,各社持回りで,営業責任者クラスの者が出席の上,ごみ焼却施設の建設工事に関する会合を毎月1回程度開催していること,上記1(5)のaの供述(同ア)及びgの供述(同イ)は,地方公共団体発注予定のストーカ炉の建設工事につき,発注予定物件を処理能力(トン数)ごとに3分類し,同分類に従い受注予定者を決定していたこと,別件5社における受注希望者が1社の場合は当該会社が受注予定者となり,競合した場合には競合会社間の話合いにより受注予定者を決定していたこと等の核心的な部分において符合し,その他の関係者の各供述(上記1(5)ウ~オ)も,別件5社が,地方公共団体発注に係るストーカ炉の建設工事につき受注調整行為を行っていたことについて符合している。
そして,上記各供述に加え,別件5社が受注予定者を決定していたことを裏付けるリスト(上記1(6)),受注希望表明や受注予定者決定のための別件5社による本件会合が行われたことを裏付けるメモ(上記1(7)),別件5社間で入札価格等の連絡が行われていたこと等を裏付けるメモ等(上記1(8)),別件5社の受注割合を計算し数値により把握するためのメモ(上記1(9))が存在すること,別件5社のうちの受注予定者からアウトサイダーへの協力依頼をうかがわせる資料が存在すること(上記1(10)),予定価格が判明していたストーカ炉の建設工事のうち,公正取引委員会が独禁法の規定に基づく審査を開始した平成10年9月17日までに別件5社が落札した工事の落札率が,同一期間にアウトサイダーが落札した工事の落札率よりも顕著に高率であり,同日以降に別件5社が落札した工事の落札率が,同日以前のものと比べて低率になっていること(上記1(11))等を併せ考えれば,別件5社は,遅くとも平成6年4月までには,各営業担当者が出席して行われた会合(本件会合)において,地方公共団体発注予定のストーカ炉建設工事について,受注機会の均等化を図るため,ストーカ炉の処理能力の区分に応じ,当該物件の入札前に,受注予定者を話合いにより決定し,アウトサイダーが指名競争入札等に参加する場合には,受注予定者が,自らが当該物件を受注できるように当該アウトサイダーに協力を求めるなどした上,各社の入札価格を連絡して調整するなどして,当該受注予定者が受注できるように入札していたことが認められ,それら一連の行為は,遅くとも平成6年4月までに形成された本件基本合意に基づくものと認められる。そして,本件基本合意に基づく上記一連の行為は,少なくとも,公正取引委員会が独禁法の規定に基づき審査を開始し,別件5社による本件会合が行われなくなった平成10年9月17日(上記1(12))まで継続していたものと認められる(同日以前に本件基本合意が解消された事実を認めるに足りる証拠はない。)。
イ 被告の主張について
(ア) 関係者の供述について
a 日本鋼管のgの供述等について
(a) 被告は,gの供述及びメモは伝聞によるものであり,信用性に欠ける旨主張する。
しかしながら,gが話を聞いたとされるhは日本鋼管の本社環境プラント営業部の第2営業部長の地位にあったのであり,ストーカ炉の受注に関する責任ある立場にあって,受注調整に関わる種々の情報を入手できる立場にあり,gも,日本鋼管大阪支社の機械プラント部環境プラント営業室長として,ストーカ炉の営業を担当する者であって,その職務の性質上,ストーカ炉の受注に関し相当の関心,知識を有し,そのような関心と知識に基づいてメモを作成したといえ,伝聞であるとしてもその信用性が否定されるものではない。
(b) 被告は,被告のaの供述とgの供述及びメモには重要な点に齟齬がある旨主張する。
確かに,aの供述とgの供述及びメモを比較すると,対象物件の分類,受注予定者の決め方,アウトサイダーとの関係などについて違いが見られるが,両者は,別件5社が会合を開いて張り付け会議を行い受注予定者を決定し,別件5社で受注機会が均等になるようにしていたこと,対象物件についてトン数による区分を設けて受注調整を行っていたことなどの重要な部分において一致している。また,aが別件5社の会合の出席者として自ら体験した事実に基づいて供述しているのに対し,gのメモ等はgが自ら体験した事実ではないから,前者と比較してその正確性には自ずから限界があること,gが別件5社の受注調整のためのルールをhらから聞き,メモを作成したのは平成8年であり,時期の違いを考慮する必要があること,アウトサイダーとの関係について,aの供述はアウトサイダーとの調整が失敗した場合の対応について言及していないのに対し,gのメモ等は,その記載内容からして,アウトサイダーとの間で調整のための努力をすることは当然の前提として,それが失敗した場合について言及したもので,そのため表面上の差異が生じたにすぎないと理解できることなどからすれば,aの供述とgのメモ及び供述が実質的に矛盾しているということはできず,gのメモ及び供述に信用性がないとはいえない。
b 被告のaの供述について
(a) 被告は,別件5社の平成6年から平成10年9月17日までの受注実績に照らすと,処理能力のトン数の平等は実現されていないことが明らかであるから,aの上記1(5)アの供述は信用性がない旨主張するが,必ずしも上記期間において発注される工事のみで受注調整を行っていたということはできず,上記期間において受注実績が平等でないとしても,かかる事情がaの上記供述の信用性を失わせるものではない。
(b) 被告は,上記1(5)アの供述後,aが供述を変遷させた点を指摘する。
確かに,aは,上記供述の後,受注調整のため別件5社の担当者が集まった会合は存在しないなどと供述を変遷させ,自らがした上記1(5)アの供述を否定するに至っているが(甲査176,183~189),いずれも供述を変遷させたことについて合理的な説明がされておらず,審査官に対し,自身が記載したメモ等に関する質問にも回答しないなどの供述態度にかんがみれば,上記変遷後のaの供述は到底信用に値するものではなく,上記1(5)アの供述の信用性を否定するものとはいえない。
(c) 被告は,aの供述は,審査官が立入検査当日に混乱に乗じ,真偽も定かでない事前の談合情報による予断によって誘導を行った結果作成されたものであり,証拠価値がない旨主張する。
しかしながら,aの供述は検査当日に,検査による証拠等を吟味する間もない時点での供述であるにもかかわらず,客観的証拠と符合しているのであるから,審査官の予断により作成されたとはいえず,当日の事情聴取において,審査官がaに対し不当に意思を抑圧したという事情も認められない。
c 被告のkの供述について
被告は,kの供述内容が伝聞ないし再伝聞にすぎないなどの点で証拠価値がない旨主張するが,kは,被告の中国支社機械1課課長として,官公庁相手のごみ処理施設等の営業を担当し,その職務の性質上,ストーカ炉の受注に関し相当の関心と知識を有し,そのような関心と知識に基づいてlから聞いたことなどを供述したものといえ,その内容が再伝聞であることをもって信用性が否定されるものではない。
d 被告のmの供述について
被告は,mの供述は伝聞ないし再伝聞にすぎず証拠価値がない等と主張するが,被告の中国支社化学環境装置課において,官公庁向けのごみ焼却施設等の営業を担当していたものであり,その職務の性質上,ストーカ炉の受注に関し相当の関心と知識を有し,そのような関心と知識に基づいて,nから引き継いだ「業界(機種別)の概況について」と題する文書の中身を理解し,これを業務遂行に当たり参考にしていたものと認められる。そして,mが上記文書の内容に沿った供述をしていることからすれば,その供述が伝聞であることをもって信用性を否定することはできない。
e タクマのoの供述について
被告は,oの供述が伝聞によるものであり,信用性に乏しい旨主張するが,oはタクマの環境プラント本部の本部長を務め,ごみ焼却施設等の営業責任者であったものであり,その職務の性質上,ごみ焼却施設の受注に関し相当の関心と知識を有し,その関心の下に部下である環境プラント本部営業部長から上記1(5)オの内容の話を聞いたことを述べているのであって,話し手も同じく当該営業に関し責任ある立場の者であることをも考慮すれば,その内容が伝聞であることをもって信用できないということはできない。
(イ) 別件5社が受注予定者を記載したことがうかがえるリストについて
a pリストについて
(a) 被告は,pリストのS欄の平成8年から平成10年までの的中率は32%程度であり,計画を把握できていない工事とリストどおりに実現しなかった工事の数が多く,受注予定者を記載したものと解することはできない旨主張する。
しかしながら,pリストが受注予定者を記載したものであるといえるために,同リストが地方自治体のストーカ炉の発注計画のすべてを把握している必要はなく,同リストに記載された工事について的中率が高いという事実が認められれば,同リストが別件5社の受注予定者を記載したものであることが推認できるから,被告の上記主張は採用できない。
(b) 被告は,pリストのタイトルが「年度別受注予想」となっているとおり,同リストは受注を予想したものにすぎない旨主張する。
しかしながら,上記1(6)ア(イ)のとおり,pリストに記載されたストーカ炉の建設工事については,作成後約3年間にわたり,実際に発注された工事と合致するものが22件あり,そのうち18件の工事がpリストの分類どおりに別件5社によって受注される結果となっており,そうした一致率からすれば,単なる受注予測を記載したものとは到底考えられない。すなわち,本来であれば,自由競争の下,別件5社やアウトサイダーにより指名・受注のための熾烈な営業活動及び価格競争が行われ,最終的にどのプラントメーカーが受注するかは多種多様な要因に左右される事柄であり,別件5社がストーカ炉の建設工事の市場において大手5社としての地位を占めているとしても,別件5社ごとにどの工事を受注するかについてまで約3年間にわたって正確に予測することはおよそ不可能というべきである。
さらに,pリストが作成された平成7年9月28日ころ以降から平成10年9月ころまでにかけて,日本鋼管,川崎重工,被告が作成したその他の各リスト(日本鋼管につき甲査57,60,62,69,川崎重工につき甲査64,65,153,被告につき甲査66,67)をみると,pリストに記載された79件の工事が,未発注の工事でありながらほとんど記載されていない。この点,79件の工事の中には,例えば「東京-台船」工事のように,中止を含めて計画の見直しがされたものもあり(甲査81),発注の見通しは平成7年9月当時と必ずしも同じ状況とはいえないにもかかわらず,pリストの作成後に作成された5社のリストには一切記載がされていないということは,通常では想定し難い。
これらにかんがみると,pリストには,もはや受注希望表明の対象でなくなった工事,すなわち既に受注予定者を決定した工事が記載されたものと推認するのが相当であって,被告の上記主張は採用できない。
(c) 被告は,pリストには,将来にわたって受注調整が不可能な純粋な技術提案審査方式による発注が見込まれていた大阪市の工事が3件(「大阪-舞洲」,「大阪-平野」,「大阪-東淀」の各工事)含まれていることから,pリストは受注予定者を記載したものではない旨主張する。
しかしながら,上記の3工事について,いわゆる技術提案審査方式による発注が見込まれていたとしても,大阪市が技術提案審査方式を採用することが判明する以前に受注予定者の決定がなされ,それがそのままpリストに記載されたものである可能性があることや,技術提案審査方式が見込まれたとしても,受注予定者を決定することがあり得ないわけではないこと(技術提案審査方式が見込まれたとしても,個々の工事について実際に同方式による発注がされることが確定される前の段階にあっては,なお受注予定者を決めておくことに意味がある。)からすれば,pリストにこれらの工事が記載されていることから同リストに受注予定者を記載していたと解することの妨げにはならないというべきであり,被告の上記主張は採用できない。
(d) 被告は,pリストには,F(流動床炉)の記載があり,同リストのS欄とF欄(受注予想を記載したものであるとする。)に記載された工事の趣旨は統一的に理解すべきとの観点から,同リストは営業担当者の予想を記載したものとみるべきである旨主張する。
しかしながら,同リストのF欄の記載がいかなる趣旨で記載されたものであるかは,本件全証拠によっても明らかにすることができず,また,F欄に記載された数も13件であってS欄に比べて少なく,流動床炉について別件5社の優位性を示すような証拠もないことなどの事情を考慮すると,F欄の存在をもってpリストのS欄の記載の意味についての推認が覆るものとはいえず,被告の上記主張は採用できない。
b その他のリストについて
被告は,別件5社が情報を交換して共有していたのであれば,別件5社のリストが完全に一致するはずであるにもかかわらず,別件5社に係る各リストの記載内容には,種々の不一致がある上,別件5社のうち2社のリストに一致がみられること(上記1(6)イ参照)をもって別件5社が本件会合を開いて情報を交換したことを根拠付けることはできない旨主張する。
確かに,pリスト以外の別件5社に係るリスト(上記1(6)イ参照)には,被告が指摘する相違点が認められるが,上記1(6)イのとおり,各リストに記載された工事は,それぞれほぼ一致しているのであり,上記各リストの記載が完全に一致していなければ上記アの事実を推認する基礎とすることができないとはいえない。また,別件5社のうち個別に取り上げた2社のリストに一致がみられることから直ちに別件5社全体の情報交換の事実を推認することができないとしても,上記1(6)イのとおり,(ア)川崎重工と日本鋼管のリスト,(イ)日本鋼管と日立造船のリスト,(ウ)日立造船と被告のリスト,(エ)日立造船と日本鋼管のリスト,のそれぞれの記載がほぼ一致する事実を全体としてみれば,上記各リストの記載は,上記アの事実を推認する基礎とするに十分な事実というべきである。
(ウ) 受注希望を表明し,又は受注予定者を決定した会合について
a 平成8年12月9日の会合について
被告は,被告のaが所持していたノート(甲査67)と日本鋼管のsが所持していた手帳(甲査76)には,工事の選択の仕方について別異に解される記載があり,上記ノート及び手帳から会合の内容を推認することはできない旨主張する。
しかしながら,上記の各記載が,会合において被告及び日本鋼管の出席者が希望する工事の選択方法を記載したものであるのか,上記会合において確定された工事の選択方法を記載したものであるのかはともかく,上記各記載は,いずれも,上記会合(上記各記載に付された日付から平成8年12月9日に開催されたものであることが明らかである。)において,会合出席者が,順に受注希望を表明する内容の話合いが行われたことを推認するに十分であり,被告の上記主張は採用できない。
b 平成9年9月29日,同年10月16日及び同月29日の会合について
被告は,日本鋼管のs及びtが所持していたリスト(甲査60,62,63)が,いずれも日本鋼管のものであり,日本鋼管1社のみのリストから別件5社が受注調整の会合を開催したことを推認することはできない旨主張するが,上記1(7)イのとおり,上記リストのうち,平成9年9月11日付けのリスト(甲査62,63)には,川崎重工の平成9年9月ころのリストとほぼ一致したごみ処理施設の記載がされているのであり,被告の上記主張は前提において採用できない。
c 平成10年1月30日の会合について
被告は,日本鋼管のqが所持していたメモ(甲査58)及び日立造船のファクシミリ送信文書(甲査55)からは,日本鋼管及び日立造船を含むプラントメーカー数社による会合が行われたとはいえても,別件5社による受注調整の会合の開催を推認することはできない旨主張する。
しかしながら,上記1において認定した各事実から,「日本鋼管及び日立造船を含むプラントメーカー数社」には,別件5社が含まれていたことが推認されるのであり,上記プラントメーカー数社が別件5社と全く無関係であるかの被告の主張は採用できない。
d 平成10年3月26日の会合について
被告は,同日の会合に関するものと思料されるメモ(甲査96)を所持していた被告のkが,被告のaからごみ処理の営業について信用されていなかったと供述していること,kが同日の会合について事前に聞かされていなかったことなどから,上記メモから同日の会合の開催を推認することはできない旨主張するようである。
しかしながら,仮にk自身がaから信用されていないと認識していたとしても,aがそのように考えていたとは限らず,被告のこの点に関する主張は一方的な仮定の下にされたものである点で採用できず,また,仮にkが事前に同日の会合の開催を聞いていなかったとしても,上記メモの記載は,同日後に同日の会合についてaから聞いた内容となっているのであって(上記1(7)エ(ウ)),事前に会合の開催を聞いていなかったことは,上記メモの記載により同日の会合の開催を推認することを妨げるものとはいえない。
e その余の主張について
被告は,上記aないしdの手帳やメモの所持者が,会合の参加者ではないことから,それらから各会合の事実を推認することはできない旨主張するが,上記の手帳やメモは,その記載及びそれを「別件5社の」従業員が所持していたことにより本件会合の開催の事実を推認させるのであり,別件5社の従業員の誰がそれらを所持していたかにより上記の推認が妨げられることにはならないから,被告の上記主張は失当である。
(エ) 入札実施前に入札価格等の連絡が行われたことについて
a 日本鋼管のhが所持していたメモ(甲査124)について
(a) 被告は,同メモには,日本鋼管が,被告,川崎重工,日立造船及びタクマに対し,各社の入札価格を連絡した事実をうかがわせる記載がなく,同メモから上記4社に対し入札価格を連絡したことを推認することはできない旨主張する。
しかしながら,上記1(8)アのとおり,同メモは,賀茂広域行政組合発注のストーカ炉建設工事の入札手続に関して作成されたものであると推認され,同工事を結果として日本鋼管が落札したことが認められるところ,同メモの①の列の金額が,日本鋼管(同メモでは一番上の行)において5000万円差異があることを除いて一致しており,上記のとおりほぼ入札金額を一致させることは,事前に入札価格等を連絡することなしには困難と認められるから,被告の上記主張は採用できない。
(b) 被告は,日本鋼管のhが所持していた上記メモ(甲査124)と賀茂広域行政組合発注のストーカ炉建設工事における日本鋼管の入札価格には5000万円もの差異があり,仮に日本鋼管が別件5社のうち他の4社に上記メモに記載された金額で入札価格を連絡し,受注調整が成立していたのであれば,日本鋼管があえて5000万円下回る金額で入札するはずはない旨主張する。
しかしながら,日本鋼管において,上記工事について落札するのに予定価格にあまりにも近い金額で落札することにより受注調整が発覚するのを防ごうとの考慮が働いたことは十分に考えられ(なお,日本鋼管の実際の落札率でさえ97.53%と高い率である。甲査29),そのような考慮の下に日本鋼管が5000万円低い金額で入札したことは事前の入札価格等の連絡が行われたことを推認する妨げになるものではないから,被告の上記主張は採用できない。
b 川崎重工のwが所持していたメモ(甲査125)について
(a) 被告は,同メモには,川崎重工が,被告,日本鋼管,日立造船及びタクマに対し,各社の入札価格を連絡した事実をうかがわせる記載がなく,同メモから上記4社に対し入札価格を連絡したことを推認することはできない旨主張する。
しかしながら,上記1(8)イのとおり,同メモは,佐渡広域市町村圏組合工事の入札手続に関して作成されたものであると推認され,同工事を結果として川崎重工が落札したことが認められるところ,同工事における第1回から第3回までの入札金額が同メモに記載された金額と完全に一致しており,上記のとおり入札金額を一致させることは,事前に入札価格等を連絡することなしには困難と認められるから,被告の上記主張は採用できない。
(b) 被告は,甲査125の一覧表以外のメモは川崎重工の社名が印刷されたメモ用紙であるのに対し,一覧表だけが白紙に記載されていることなどから,上記一覧表の記載が実際の入札結果と一致していることは,同一覧表が入札後に作成されたことによる旨主張する。
確かに,上記一覧表以外のメモの用紙と一覧表の用紙とは異なることが認められるが,記載された用紙が異なることから直ちに上記一覧表がそれ以外のメモよりも後に作成されたと推認することはできず,メモ及び一覧表が一括して管理されていた事実から,それらは相互に近接した時点で作成され,保管されていたものと推認するのが合理的であり,被告の上記主張は採用できない。
(オ) ストーカ炉の建設工事の受注に関する数値の算出について
a 被告のrが所持していたノート(甲査106)について
被告は,同ノートに記載された指数(分数及び小数で示された数値)は,受注トン数を均一化することにより別件5社の受注の均衡を目指す本件基本合意との関係では,何ら意味を有さず,rが単に統計目的でデータを採取していたものである旨主張する。
しかしながら,受注機会の均等化が基本的に受注トン数を均一化することを出発点とするとしても,別件5社の各社内で受注トン数を基礎として分数値又は小数値を算出することを通じて,各社の受注機会が均衡しているかを点検・確認することも,通常考えられる方法といえるから,上記ノートが本件基本合意との間で何ら意味を有しないとはいえない。
b 川崎重工のpが所持していた表(甲査107)について
被告は,上記の表において,D及びAの欄に記載された工事が,別件5社が上記2社に対し協力への見返りとして受注させたと認めるに足りず,同表は,別件5社,D及びAの7社について,受注調整の対象となっていない工事をも含めて数値化して把握するためのものであり,そのように受注調整の対象となっていない工事をも受注調整に当たって考慮するような受注調整は極めて不公平であり,そのような受注調整を行う旨の基本合意などあり得ない旨主張するようである。
しかしながら,上記表において,D及びAの欄に記載された工事が,別件5社が見返りとして受注させたものであるか否かにかかわらず,結果としての上記7社の受注トン数及びこれを指数化した分数を算出することを通じて各社の受注機会が均衡しているかを点検・確認することも,通常考えられる方法といえるから,被告の上記主張は採用できない。
(カ) アウトサイダーへの協力依頼について
a Bのxが所持していたメモ(甲査109)について
被告は,同メモの記載からは,Bが見積書の提出に際してとるべき行動を自発的に社内で検討していた事実はうかがえるものの,それ以上に,日立造船からBに対して受注調整の協力要請が行われた事実を推認することはできない旨主張する。
しかしながら,上記メモの「次回,日造に対して…他物件に対して言いやすい」との記載からは,B社内において,「南河内清掃施設組合(第2清掃工場)」工事よりも後の工事について,日立造船に見返りを求めることが容易になるとの認識を有していたことがうかがえるのであり,日立造船から上記工事につき何らの要請もないのに上記のような認識を有することは考え難いから,上記工事について,日立造船からBに対する協力要請があったと推認するのが合理的であり,被告の上記主張は採用できない。
b 「東京都(中央地区清掃工場)」工事に関する資料について
(a) Fのzが所持していた手帳(甲査115~117)について
被告は,同手帳に記載された内容は,zが直接体験した事実ではなく,いずれも自ら考え出したか,伝聞又は再伝聞に係る事実を誇張して記載したものである上,zは「東京都(中央地区清掃工場)」工事に全く関与していなかったから,同手帳の記載からアウトサイダーたるFへの協力依頼があったと認めることはできない旨主張する。
しかしながら,証拠(甲査118)によれば,上記手帳は,zが,社内の会議内容や他社との打合せ内容をメモするために使用していたというのであり,同手帳の記載が伝聞又は再伝聞に係る事実を誇張して記載したものであるとする被告の主張は理由がない。被告は,上記主張の根拠として,Fの取締役であるαの報告書(甲審A11)を挙げ,確かに同報告書には,上記被告の主張に沿う記載があるが,同人は,上記手帳の記載自体はzが自ら記載したことを認めているところ,同手帳の記載内容は上記1(10)イ(ア)で認定したとおりであり,かかる内容,とりわけ別紙8のような記載は,他社との打合せに実際に出席していなければ記載することのできない内容といえるから,zが「東京都(中央地区清掃工場)」工事に全く関与していなかったことや上記手帳の記載をzが直接体験した事実ではなく,いずれも自ら考え出したか,伝聞又は再伝聞に係る事実を誇張して記載したものであることなどを述べる上記報告書におけるαの供述は到底信用できず,これに依拠する被告の主張も採用できない。
(b) 同工事を日立造船に受注させたことについて
被告は,別件5社の受注機会の均等を図るために,同工事の受注予定者を一旦タクマに決定したにもかかわらず,アウトサイダーであるFが当該工事の受注を希望した場合に,別件5社のうち受注予定者ではない1社に受注させたのでは,別件5社の受注機会の均等などおよそ実現不可能であり,当初の受注予定者の決定は無意味なものとならざるを得ず,同工事を日立造船が受注したことは本件基本合意の枠組みと矛盾する旨主張するようである。
しかしながら,上記1(10)イ(エ)において認定したとおり,同工事については,当初は受注予定者とされていたタクマとFとの間で話合いが行われていたことが認められ,かかる事実は本件基本合意の枠組みの中で行われたものといえるのであり,上記の事実は本件基本合意の存在を推認する事情といえ,同工事を結果として日立造船が受注したことは,上記の推認を妨げる事実とはいえないから,被告の上記主張は採用できない。
(キ) 落札率について
被告は,落札率が高いこと(上記1(11)ア)から本件基本合意の存在を推認することはできない旨主張する。
しかしながら,上記1(11)アのとおり,予定価格が判明していたストーカ炉の建設工事のうち,別件5社が落札した工事の落札率が,同一期間にアウトサイダーが落札した工事の落札率よりも顕著に高率であることに加え,同イのとおり,公正取引委員会が審査を開始した日以降に別件5社が落札した工事の落札率が,同日以前のものと比べて低率になっていることからすると,同日以前に別件5社が落札した工事について,何らかの人為的な措置が介在したものと推認しても不自然とはいえないから,上記の落札率が高い事実も,本件基本合意の存在を基礎付ける事情として考慮することが許されないとまではいえない。
(2) 本件個別合意及び本件協力合意の有無
ア(ア) 上記1において認定したとおり,ごみ焼却施設の建設工事の入札においては,施設の設置時期,立地条件,規模,燃焼方式(ストーカ炉か流動床式か等),予定価格,発注方法(一般競争入札,指名競争入札,指名見積り合わせ又は特命随意契約)などの条件が様々に異なり,個別性が強く,かつ,上記の各条件が具体化されるのは入札の直前となることもあり得る。また,プラントメーカーにおいては,別件5社が有力であるものの,他にもそれなりの規模の企業が相当数存在し,熾烈な受注競争が行われており,別件5社以外の業者が入札業者に指名されることも珍しいことではない(公知の事実)。
上記の点を考慮すると,当該ごみ焼却施設の入札より以前に,数年間に及ぶごみ焼却施設の予定工事について,本件基本合意がされたと認められ,また,その内容をまとめたと推認されるリストなどから当該ごみ焼却施設が本件基本合意の対象になっていたと推認されたとしても,それだけでは,当該ごみ焼却施設の建設工事の入札について談合が行われ,それに基づいて受注予定者が受注したと即断することはできず,さらに当該ごみ焼却施設の入札の具体的状況などについて検討する必要があると解される。特に,別件5社以外のアウトサイダーが入札業者に指名された場合には,アウトサイダーの協力なくして談合に基づく受注をすることはできないのであるから,アウトサイダーの協力について具体的な立証が必要となると解される。
(イ) これに対し,原告は,談合は密室において証拠が残らないようにされるのが通常であり,個別談合の事実について具体的な立証が求められることになると,談合の立証は不可能となるとし,上記のような考え方は,談合の事実について原告に過度の立証を求めるものであり,妥当でない旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張が,個別のストーカ炉の建設工事に,別件5社以外のアウトサイダーが入札業者として指名されている場合であっても,同工事が本件基本合意の対象になっていたと推認されれば,別件5社間の個別合意の存在を超えて,アウトサイダーに対する協力要請及び同社との協力合意をも推認すべきであるとの主張であるとするなら,かかる主張は採用することができない。なぜなら,別件5社間で本件基本合意に基づき受注予定者を決定した工事についても,他にいかなるプラントメーカーがアウトサイダーとして当該工事の指名・入札業者となるかは上記決定時には全く未定である上,上記1(3)イにおいて認定したとおり,平成6年度から平成10年度まで,ストーカ炉のプラントメーカーとして,多数の業者が存在していたのであって,別件5社間で受注予定者と決定された者が,当該工事について,他にどのようなプラントメーカーがアウトサイダーとして指名・入札業者となったとしても必ず当該プラントメーカーに対し協力を要請したり,同社から協力合意を得ていたと一般的に推認することはできないからである。
イ 本件個別合意の有無
(ア)a 上記(1)において説示したとおり,別件5社は,遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注する全連及び准連ストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等化を図るため,受注予定者を話合いによりあらかじめ決定し,受注予定者が受注できるようにする旨の本件基本合意を行ったことが認められ,少なくとも,平成10年9月17日まで,本件基本合意に基づき,ストーカ炉の処理能力の区分に応じ,当該物件の入札前に,受注予定者を話合いにより決定し,アウトサイダーが指名競争入札等に参加する場合には,受注予定者が,自らが当該物件を受注できるように当該アウトサイダーに協力を求めるなどした上,各社の入札価格を連絡して調整するなどして,当該受注予定者が受注できるように入札していたことが認められ,本件工事(平成9年5月20日入札)も,本件基本合意に基づく上記一連の行為が行われていた期間(平成6年4月から平成10年9月17日まで)に発注,入札されたものであることが認められる。
b pリストには,上記1(6)ア(ア)の事項が記載され,上記1(6)ア(イ)の事実から,同リストは,平成7年9月当時の別件5社の本件基本合意の内容をまとめたリストの1つであることが推認される。そして,pリストには,別紙2のとおり記載されていたところ,平成11年度の「M-S」とされる欄に「甲市 80」と記載されていたことから,上記記載は,被告が原告(甲市)の本件工事の受注予定者であることを示すものと推認される。
c 上記第2の1(1)アのとおり,pリストの記載どおり,被告が本件工事を落札し,原告(甲市)の予定価格が44億3180万円であるところ,被告の落札価格は42億5000万円であったのに対し,本件7社のうち,被告以外で別件5社に含まれるタクマ,日本鋼管及び日立造船の入札価格は,上記1(14)のとおりであり,いずれも原告の予定価格(44億3180万円)及び平成9年3月1日に報じられた(上記1(13)エ)原告のごみ焼却施設の総事業費(48億7000万円)を上回り,かつ,被告の落札価格よりも7億円以上高額であった。
d 被告の落札価格は42億5000万円であり,本件での予定価格は44億3180万円であるところ,被告の落札率は95.9%であった。
e 上記aないしdの各事実から,別件5社は,遅くともpリストが作成された平成7年9月ころまでに,原告(甲市)における既存のごみ焼却施設(ストーカ炉)の更新工事(本件工事)の見込みを把握した上,本件基本合意に基づき,同工事の受注予定者を被告と決定する本件個別合意を行ったことが推認できる(なお,本件工事には,別件5社のうち川崎重工が指名・入札業者に含まれていないが,同事実は,上記推認を妨げるものではない。)。
(イ) 被告の主張について
a 被告は,pリストは受注予定者を記載したものではなく,同リストの記載から本件個別合意の存在を推認することはできない旨主張するが,pリストが受注予定者を記載したものではないとの被告の主張に理由がないことは,上記(1)イ(イ)aにおいて説示したとおりである。
b 被告は,証人β(以下「β」という。)の証言などを根拠として,βが被告関西支社に異動した平成8年7月当時まで,原告に対して熱心な営業活動を行っておらず,本件工事は被告において重点的に力を入れる案件ともなっておらず,被告においては,同年8月26日に,湖北広域工事(「湖北広域行政事務センター」に係る工事と解される。甲査29)の受注ができた後,同年9月に,本件工事を重点的に力を入れる案件とすることを決定した旨主張し,pリストが作成された平成7年9月ころまでに,別件5社において,原告(甲市)における既存のごみ焼却施設(ストーカ炉)の更新工事(本件工事)について,本件基本合意に基づき,同工事の受注予定者を被告と決定した事実を争うようである。
しかしながら,平成8年8月までは本件工事に重点的に力を入れる案件となっていなかったことの裏付けとなる的確な証拠はなく,βの証言はこれを容易に信用することはできず,同証言を根拠とする被告の上記主張(さらには同主張を前提としてpリストの信用性を争う旨の主張)は採用できない。
c 被告は,pリストが作成された平成7年9月28日の時点で,別件5社において被告を本件工事の受注予定者と決定していたのであれば,当然,被告において別件5社のうち他の4社に比べコストの検討も進めているのが自然であるところ,本件工事においては,原告から見積依頼がされ,見積提出を行った平成8年11月の段階では,被告よりも日本鋼管の方が安い見積価格を提出していたから,本件工事について被告を受注予定者と決めていた事実は認められない旨主張する。
しかしながら,本件基本合意に基づく受注調整が行われていた別件5社の会合において,受注予定者の決定を超えて,見積価格も含めて調整がされていたのであれば各別,そうでない限り,具体的な工事の入札手続において,別件5社の中に受注予定者とされた者よりも低い見積金額を提出した者がいたことは,別件5社による受注予定者の決定の事実を認定する妨げとなる事実とはなり得ないと解される(さらに言えば,談合行為の発覚を防止するため,敢えて受注予定者よりも低い見積価格を提出する者を設ける可能性も否定することができない。)ところ,本件全証拠によっても,本件基本合意に基づく受注調整が行われていた別件5社の会合において,見積価格も含めて調整がされていた事実を認めることはできないから,被告の上記主張は採用できない。
ウ 本件アウトサイダーとりわけCとの関係(本件協力要請及び本件協力合意の有無)
(ア)a アウトサイダーについては,上記1(5)において認定したとおり,被告従業員のaが,別件5社以外の会社が一緒に指名を受けた場合には,受注予定者が個別に当該会社に協力を求めて,受注予定者が受注できるようにしている旨述べ,日本鋼管のgは,同社のhらから,別件5社にD及びAが加わって指名競争入札が行われる場合には,日本鋼管が受注予定者となっている物件について,上記2社と話合いを行い,別件5社にD,A,E及びBを加えた9社で指名競争入札が行われる場合には,日本鋼管が受注予定者となっている物件についてE及びBとも話合いを行うとの話を聞いた旨述べ,gが平成8年秋から冬にかけて作成したメモ(甲査35)には,「ストーカ炉は,大手5社(NK,日立造船,三菱重工,川重,タクマ)が中核メンバーで,DとAが準メンバー。但し,E,B等は話合いの余地はある。」と記載されており,別件5社の間で,受注予定者がアウトサイダーたるD,A,E及びBに対し協力を求める旨の働きかけを行う旨の合意があったことが認められる。
b しかしながら,本件入札において,本件個別合意により受注予定者と決定された被告から,本件アウトサイダーたるCに対し,被告が落札できるよう協力を求めたり,Cから協力する旨の合意を得たことを認めるに足りる証拠は存在しないから,本件アウトサイダーのうち,少なくともCとの間では,本件協力要請及び本件協力合意があったとは認められない。
(イ) 原告の主張について
a 原告は,①本件7社のうち,Cを除く6社(被告を含む。)が,いずれも原告の予定価格を大きく上回る見積額を提出していたにもかかわらず,本件入札においては,上記6社のうち被告を除く5社は,入札に際してもやはり予定価格を大きく上回る金額で入札したのに対し,被告のみがCの入札額をわずか4000万円下回る金額(被告の当初見積額よりも12億8400万円も低い金額)で入札できたこと,②被告が,本件工事にコンサルタントとして関与していたQ株式会社(以下「Q」という。)に対し,他社の見積金額を尋ねたりするなど,他社の営業活動状況に関する情報をやり取りする関係にあったことから,被告がCの入札金額を知っていたことを推認できる旨主張する。
しかしながら,上記事実から,仮に,被告が入札前にCの入札金額を知った事実を推認できたとしても,同事実を超えて,被告から,Cに対し,被告が落札できるよう協力を求めたり,Cから協力する旨の合意を得たことを推認することはできないから,原告の上記主張は失当である。
b 原告は,被告の担当者が,平成8年11月13日,本件現地説明会において,Cの担当者と会って面識を得ており,被告がCに対し協力を要請することは容易であった旨主張するが,被告の担当者とCの担当者が面識を有していたことから,直ちに被告からCに対する協力要請の事実を推認することはできないから,原告の上記主張も失当である。
c(a) 原告は,本件入札において,被告とCの入札金額が他のプラントメーカーの入札額と比べて相当低い金額となっていることから,被告が,本件入札において,公正な競争がなされたかのような外形を作り出すために,被告とCが他のプラントメーカーと比べて低い入札価格となるよう計画し,Cに対し,そのような金額で入札するよう連絡をしたこと,あるいは,被告が入札までのいずれかの時点において,Cに連絡して同社の入札予定価格を知り,その時点で被告及びCの入札価格を決定したこと,が想定されるなどと主張する。
しかしながら,逆にCの入札金額が他のプラントメーカーの入札額と同様に高額であれば,そのことをもって,被告が落札できるよう協力を求めたり,Cから協力する旨の合意を得たことを推認するということにもなるのであって,Cの入札金額が高低いずれであっても同様の結論の間接事実となるというのでは,結論ありきの非論理的な説明であるということになってしまうから,原告の上記主張は採用できない。
(b) 原告は,本件アウトサイダーであるA及びBが被告の協力要請に応じ,被告が受注できるよう協力していた旨主張し,かかる状況において,被告がCに対してのみ協力を要請しないのは不自然である旨主張する。
しかしながら,A及びBとCとでは,上記(ア)aに説示した点において大きな違いがあるのであり,本件におけるA及びBとの協力関係の有無について検討するまでもなく,原告の上記主張は理由がない。
d 原告は,①pリストにおいて本件工事の受注予定者が被告とされていること,②被告には,被告の受注実績を確保するため,是非とも本件工事を受注したいという事情があったこと,③被告従業員のaが,別件5社の間で被告が受注予定者とされた物件のほとんどすべては予定どおり被告が受注している旨述べていることなどから,本件工事についても,Cとの間で,本件協力要請及び本件協力合意があったと考えるべきである旨主張する。
しかしながら,まず,上記①については,pリストにはアウトサイダーに関する記載がないことから,その記載をアウトサイダーに対する協力要請及び協力合意の存在を推認する基礎事情とすることはできない。また,上記②については,被告の受注意欲が強いことは,(別件5社の会合等において)被告が本件工事の受注を希望したことを推認させる基礎事情となり得ることは格別,それを超えて,直ちにアウトサイダーであるCへの本件協力要請や同社との本件協力合意を推認させる基礎事情となり得るものではない。さらに,上記③については,確かに,aが上記原告主張に係る内容を供述した事実は認められるが,上記のような一般的抽象的な供述内容から,本件入札におけるCへの本件協力要請及び同社との本件協力合意の存在を推認するのは困難である上,aが「ほとんどすべて」と述べていることは,別件5社の会合において被告が受注予定者と決定された物件であっても,被告が受注できなかった物件が存在することを推認させるのであり,いずれにしても上記aの供述から本件入札におけるCへの本件協力要請及び同社との本件協力合意の存在を推認することはできない。
e(a) 原告は,Cは,本件入札における見積金額算定の時点で,44億3400万円という金額を提出しており,同社が真剣に本件工事を受注しようと思えば,上記金額よりもかなり低い金額で入札するのが自然であったにもかかわらず,同社の入札価格の見積価格に対する比率は約96.7%と高率であり,同社の入札金額である42億9000万円は,同社が自由競争の中で最終的に出した金額であるとは考えられない旨主張する。
しかしながら,本件入札における本件7社の見積金額は,上記1(14)のとおりであり,原告も認めているとおり,Cの見積金額は,他の6社に比べ,10億円以上も低い金額であった。そして,Cの,ストーカ炉の入札に対する姿勢が,当初の見積金額の段階で,同社にとって可能な極力低い金額を提出する(その動機としては,当初から他社よりも低い見積金額を提出して,発注する地方自治体に同社の存在を印象付けることなどが考えられる。)というものであった可能性も否定できず,同社の入札価格の見積価格に対する比率が高率であったことから,同社の自由競争が制限されていたと推認することはできないというべきであり,原告の上記主張は採用できない。
(b) これに対し,原告は,本件工事の総事業費には,コンサルタント費用や事務費,既存施設の解体費用等を含むことが入札業者に明らかになっており,Cは,上記総事業費を参考とし,同社の見積金額を相当下回る金額で入札しなければ落札することはできないことを予想できる状況であったところ,それにもかかわらず,Cの入札金額が,見積金額をわずか3%ほどしか下回っていないことは,Cが被告からの要請を受け,本件工事を被告が落札することに協力したことを端的に示すものである旨主張する。
しかしながら,上記(a)のとおり,Cの,ストーカ炉の入札に対する姿勢が,当初の見積金額の段階で,同社にとって可能な極力低い金額を提出するというものであった可能性は否定できず,同社にとって,見積金額から約3%を超えて値引きして入札することが可能であったかも明らかではないから,同社の入札金額が見積金額を約3%しか下回っていないことから,Cに対する本件協力要請や同社との本件協力合意の存在を推認することはできないというべきである。
f 原告は,Cは,平成元年以降,39件のストーカ炉の建設工事を地方自治体等から受注しており,工事の受注について,被告や他のプラントメーカーと競合することが多い立場にあったところ,Cとすれば,本件工事の入札について,被告に協力することによって,他の工事の入札に関して被告の協力を取り付けることが考えられ,本件入札に関して被告に協力する理由は十分にあった旨主張する。
しかしながら,上記原告主張に係る事実は,被告からCに対する協力要請が認められる場合に,Cからの協力合意を得たことと矛盾しない事実にとどまり,それを超えて積極的に,被告とCとの間の本件協力要請や本件協力合意を推認させる事実とはいえないというべきである。
g 原告は,受注予定者がアウトサイダーの協力を取り付けられないことは,談合により受注予定者となったことが意味を有しない結果となるから,受注予定者となった者は,アウトサイダーの協力を得るために全力を尽くすものと考えられるとし,被告がCに対し協力を要請し,同社から協力合意を得たと推認できる旨主張するようである。
しかしながら,別件5社間で本件基本合意に基づき受注予定者を決定した工事についても,他にいかなるプラントメーカーがアウトサイダーとして当該工事の指名・入札業者となるかは上記決定時には全く未定である上,上記1(3)イにおいて認定したとおり,平成6年度から平成10年度まで,ストーカ炉のプラントメーカーとして,多数の業者が存在していたのであって,別件5社間で受注予定者と決定された者が,当該工事について,他にどのようなプラントメーカーがアウトサイダーとして指名・入札業者となったとしても必ず当該プラントメーカーに対し協力を要請したり,同社から協力合意を得ていたと一般的に推認することはできないのであり,受注予定者となったことのみを根拠にアウトサイダーへの協力要請及び同社との協力合意を推認できるとする原告の主張は理由がない。
h 原告は,本件入札が行われた平成9年当時,地元(甲市)において,技術力を有し,土木工事に関し信頼感を得ていた業者はRであり,本件7社のうち被告以外のプラントメーカーが,真に本件工事を落札する気持ちがあるのであれば,Rを土木工事業者として起用すべく,同社と交渉を行うはずであるところ,Cは,他のプラントメーカーと同様,Rと交渉していなかったことから,Cも,被告が落札するとの認識の下,自社が落札することを想定した活動を行っていなかった旨主張する。
しかしながら,CがRと交渉を行っていなかった事実から原告主張に係る事実を推認するためには,Cにおいて,甲市において技術力を有し,土木工事に関し信頼感を得ていた業者がRであることを認識していたことが前提となるところ,Cにおいて上記の認識を有していたことを認めるに足りる証拠は存在しないから,原告の上記主張は,その前提において理由がない。
エ 本件個別合意の位置づけ
次に,被告とCとの間の協力関係を認定できなくとも,同社を除く他のプラントメーカーと被告との間の談合が認められれば,談合により本件入札に関する自由競争が阻害されたことになるとも考えられる。
たしかに,落札業者と指名業者のうちの一部の業者との間でのみ受注調整が図られ,それら一部の業者が,落札業者が予定する入札価格で落札できるように協力して,落札業者の入札価格を上回る価格で入札するなど,一部の業者との間における公正な競争が排除されていた場合には,少なくともその範囲で受注調整がされていたことに相違はなく,指名業者の全部と受注調整がされていた場合とは程度の差があるにしても,違法な行為があったということ自体は否定できない。
しかし,残りの業者との間では受注調整が図られず,その業者と落札業者との間で公正な競争が行われたといえるときは,落札価格は,残りの業者と落札業者との間の自由な競争の下で形成されたものとみることができる場合がある。かかる場合には,自由競争が阻害されたと認めることはできない。
もとより,入札参加業者間の自由な競争によって落札業者が決定されていた場合に形成されていたであろう落札価格を事後的に計算によって算定することはできず,入札の結果から推認するしかないものであるから,本件では,Cの入札価格しか推認の資料はない。Cの入札価格42億9000万円は,被告以外の別件5社,すなわち,タクマ,日本鋼管,日立造船の各入札価格である49億5000万円,51億円,49億8000万円とは,それぞれ6億6000万円以上の顕著な差があるし,他のアウトサイダーであるA,Bの各入札価格である49億円,47億9000万円とは,それぞれ5億円以上の大きな差がある。そして,上記ウのとおり,Cとの間で本件協力要請及び本件協力合意があったとは認められない以上,基本的には,Cの入札価格の決定は受注調整に基づかない自由なものであるはずである。他方,被告の落札価格は42億5000万円であり,Cの入札価格42億9000万円を4000万円下回っている。
そうすると,被告の上記落札価格は,Cの入札価格との関係で,自由な競争の下で形成されたものと評価するほかなく,結局,本件では結果的に自由競争が阻害されたとは認めることはできず,本件個別合意をはじめとする被告の行った受注調整の結果損害が発生したとはいえないことになる。
3 結論以上検討したところによれば,原告主張に係る不法行為の成立は認められない。
したがって,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却する。
(裁判長裁判官 瀧華聡之 裁判官 奥野寿則 裁判官 高橋正典)