京都地方裁判所 平成21年(ワ)1696号 判決 2010年12月09日
原告
X
被告
Y
主文
一 被告は、原告に対し、四三三〇万一〇〇四円及びこれに対する平成一七年九月一八日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告に対し、四三七〇万八二五六円及びこれに対する平成一七年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行宣言
第二事案の概要
本件は、原告が、交通事故により被った人身損害につき、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償金並びにこれに対する遅延損害金として、上記第一記載の支払を求める事案である。
一 前提となる事実
次の事実は、当事者間に争いがなく、もしくは、証拠または弁論の全趣旨により認めることができる。
(1) 本件事故
次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した(甲一)。
ア 発生日時 平成一七年九月一八日午前三時三五分ころ
イ 発生場所 滋賀県米原市番場地先名神高速道路上り線四〇七・二キロポスト付近路上
ウ 事故態様 上記道路の追越車線を走行していた原告運転の普通乗用車(原告車)に、走行車線から追越車線に進路変更した被告運転かつ保有の普通乗用車(被告車)が接触し、その反動で原告車が中央分離帯に接触し、さらにその反動で道路左側側壁に衝突し、その反動で中央分離帯に衝突し、原告が負傷した。
(2) 原告の負傷及び治療経過など
原告は、本件事故後、下記アないしオのとおり入通院して治療を受けた。
ア 彦根市立病院(甲二の一ないし四、乙一、七)
平成一七年九月一八日から同年一二月八日まで整形外科に入院(主治医A)
入院日数八二日
診断傷病名:頚椎捻挫、頸髄損傷、嘔心、右肩打撲、頚部打撲、頭部打撲、胸腹部打撲、不眠症、逆流性食道炎、頸髄損傷の疑い、胃潰瘍、腰部打撲、末梢神経障害、低脊髄圧症候群の疑い、菌血症、便秘症、再発性逆流性食道炎、うつ状態、不安障害
イ 武田病院(甲三、五、乙八)
過表に手術を受けたこともある自宅に近い病院として、原告の希望により、彦根市立病院から武田病院に転院した。
平成一七年一二月八日から平成一八年三月一五日まで整形外科に入院(主治医B)
平成一七年一二月二〇日に、第三/四頚椎前方固定術を実施した。
平成一八年三月一六日から同年六月二二日まで通院(実通院日数二六日)
診断傷病名:外傷性頚椎椎間板症、後天性免疫不全症候群の疑い、坐骨神経痛、腰痛症、バレ・リュー症候群等
ウ 武田総合病院(甲四、乙九)
武田病院の紹介により平成一八年六月八日から平成一九年七月二三日まで耳鼻咽喉科に通院(実通院日数三日、ただし、うち二日は症状固定診断を受けた後の通院である。)
診断傷病名:頚椎症、慢性咽喉頭炎、嚥下障害
(3) 症状固定診断を受けた日及び自賠責保険後遺障害の等級認定など
原告は、平成一八年六月二二日に、武田病院整形外科(主治医Bにおいて、外傷性頚椎椎間板症(バレ・リュー症候群)について、症状固定と診断された(甲五)。
原告は、自賠責保険後遺障害等級認定手続において、平成一九年九月二八日ころに通知を受けた認定において、「右上下肢シビレ、脱力感左頚部~左肩痛、歩行障害、左手指巧緻運動障害」との訴えにつき、本件事故による受傷を契機とする非骨傷性の脊髄症状によるものと捉えられ、その程度については、総合的に評価すれば、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(五級二号該当)と、嚥下障害につき「嚥下の機能に障害を残すもの」(一〇級相当)と判断され、併合四級であり既存障害として、平成八年三月六日発生の交通事故による神経系統の機能又は精神の障害(本件事故と同一系列)に対し、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」(九級一〇号該当)と認定されており、これを既存障害とする加重障害適用とする認定を受けた。(甲六の一及び二)
(4) 既存障害の概要
原告は、平成八年三月六日、バイクに乗車して青信号に従って交差点に進入したところ、赤信号を無視した自動車に衝突され、外傷性頚部症候群、第三腰椎椎体剥離骨折、外傷性腰椎椎間板症の傷害を負い、武田病院で第五/六頚椎及び第四/五腰椎の脊柱固定術を含む治療を受け、平成一一年三月三一日に同病院(担当医師B)で、頚椎及び腰椎不撓性、両手指握力低下、左坐骨神経・左脛骨神経圧痛、左大腿後部・左下腿外側後部・左第一趾知覚鈍麻、頚椎部の運動障害等の神経障害及び第五/六頚椎前方固定、第四/五腰椎前方固定による頚椎部及び腰椎部の運動障害を残して症状は固定したとの診断を受け(甲一三)、そのころ、自賠責保険後遺障害の等級認定手続において、脊柱の障害について六級五号、神経系統の障害について九級一〇号に該当すると認定された(甲六の一)。
(5) 責任原因及び過失相殺
被告は、本件事故により原告に生じた人身損害につき自動車損害賠償保障法三条による責任を負う。
原告には、本件事故発生ないし損害の発生または拡大に関係する過失があり、本件事故による人身損害賠償額につき三割の過失相殺を行うべきである。
(6) 損害のてん補 一四二六万二一四三円
本件事故による損害につき一四二六万二一四三円の既払いがある。
二 争点及び争点に関する当事者の主張の概要
本件の争点は、損害であり、争点に関する当事者の主張の概要は下記のとおりである。
(1) 第三/四頚椎前方固定術の必要性、相当性など
(原告)
原告には、本件事故翌日の平成一七年九月一九日時点から、腱反射、知覚障害の異常が認められている。本件事故により原告の第三/四頚椎に外傷性の異常が生じたことは、医療記録上明らかであり、自賠責保険後遺障害等級認定においてもこれが明確に認められている。
頚椎前方固定術実施後に、武田病院で診断された「歩行困難」及び「左手指巧緻運動障害」が彦根市立病院においては診断されていないのは、彦根市立病院入院中、原告は歩行不可能であり、食事も経口取得できず、日常生活動作もほとんど不可能だったところ(乙七の五頁)、武田病院において頚椎前方固定術を施行した後、杖歩行や食事の経口摂取が可能になったという経過によるものであり、前方固定術で症状が悪化したことを示すものではまったくない。また、嚥下障害についても、症状が顕在化したのは、前方固定術施行後であるが、彦根市立病院入院中は、寝たままで水分を少量ずつ摂取する以外は食物を経口摂取できない状態であったので、嚥下障害がいつ生じたのかは原告には分からない。
武田病院の担当医は、原告の第三/四頚椎に椎間板膨隆が認められ、かつ、原告が本件事故によりバレ・リュー症状を発症したと認められたことから、原告を外傷性頚椎椎間板症と診断し、事故後三か月が経過しても、頚部痛、左上下肢のしびれ、起坐困難、悪心といった状況が継続していたため、それを改善する目的で、第三/四頚椎前方固定術を実施した。
そして、頚椎前方固定術の実施により、原告の症状はほとんど寝たきりの状態から著しく改善している。
嚥下障害については、本件事故により前方固定術実施前から存在していたものか、前方固定術の影響で生じたものかは不明であるが、前方固定術は必要性が認められる施術であり、かつ、それにより症状の著しい改善がもたらされたことからすると、たとえ、前方固定術の影響で嚥下障害が生じたとしても、嚥下障害は本件事故と相当因果関係が認められる障害である。
(被告)
彦根市立病院において行われたレントゲン、CT、MRIの各検査上、原告の第三/四頚椎に明らかな異常所見は認められておらず(乙七の三頁、五〇から五二頁)、本件事故により、原告の第三/四頚椎に外傷性の異常が生じたとは認められない。原告について、本件事故による傷害に関し、頚椎前方固定術はもとより、何らかの整形外科的施術を行う必要性があったとは認められない。彦根市立病院の担当医師は、原告の症状が心因性のものであることを疑い、心療内科の受診を指示し、原告を診察した心療内科の医師も心因性であることを示唆し、整形外科手術の必要性は一切指摘されていなかった(乙七の四三頁、六一頁)。
武田病院の診療録においても、なぜ頚椎前方固定術を行う必要があるのかは明らかでない。
一般に、バレ・リュー症候群として説明されている不定愁訴の発生原因は不明であり、心身症の一種であるという見解も有力であり(乙一三)、これに対して外科的手術を施すことは意味がなく、少なくとも前方固定術の有用性については今日では疑問視されている(乙一二)。
原告の症状は、武田病院における頚椎前方固定術により改善されておらず、むしろ、彦根市立病院入院時にはなかった歩行障害、左手指巧緻運動障害などが生じ、症状を悪化させていると言える。
原告の第三/四頚椎の異常とこれに伴うとされる症状は、頚椎前方固定術によって生じたものと考えられる。また、嚥下障害も同じく頚椎前方固定術の影響によるものである。
したがって、頚椎前方固定術及びそれによって生じたものと考えられる歩行障害、左手指巧緻運動障害、嚥下障害などに関する損害は、本件事故と相当因果関係が認められない。
本件事故後に原告に残存した後遺障害は、本件事故前からあった既存障害と必要性のない頚椎前方固定術により症状が発生ないし悪化したものであり、本件事故とは相当因果関係がない。
(二) 原告の損害
ア 治療費
(原告)
本件事故による治療費として、一四六万一二八〇円が必要であった。
(被告)
本件事故後に原告が受けた治療の治療費の額が一四六万一二八〇円であったことは認めるが、第三/四頚椎前方固定術の実施及びそれに伴い生じた治療費は、本件事故と相当因果関係がある損害とは認められない。
イ 付添看護費
(原告)
寝たきりであった入院当初から、ある程度身動きがとれるようになった平成一八年一月末までの一三六日中、看護師の資格を持つ原告の妻が入院先に行き排便入浴等の介護を現実に行った日数が合計七八日あった。
したがって、七八日分、日額六五〇〇円、合計五〇万七〇〇〇円の付添看護費を要した。
(被告)
否認する。
ウ 通院費
(原告)
通院費として、自家用車ガソリン代一万二六〇円、タクシー代金六万九五四〇円の合計七万九八〇〇円を要した。
(被告)
不知
エ 入院雑費
(原告)
二六万八五〇〇円(入院日数一七九日、日額一五〇〇円)
(被告)
日額一一〇〇円が相当である。
オ 装具費
(原告)
七万八六三円(甲一二の一及び二、乙六)
(被告)
認める。
カ 休業損害
(原告)
本件事故前年の給与額は、年間八二四万九三六円(日額二万二五七八円)であり、本件事故による休業日数は二三四日で、その期間中に原告に支払われた給与額は、四一九万九一九七円であり、234日×2万2578円=528万3252円との差額は、一〇八万四〇五五円であり、これが休業損害額である。
(被告)
争う。
キ 入通院慰謝料
(原告)
二六七万円
(被告)
争う。
ク 後遺障害逸失利益
(原告)
症状固定時の原告の年齢は四四歳であり、併合第四級(九級の既存障害)で、労働能力喪失率は五七%、症状固定時から定年(六〇歳)までの一六年間については、基礎収入を本件事故の前年の年収額である八二四万九三六円とし、中間利息控除はライプニッツ係数一〇・八三七八により、定年から労働可能年限(六七歳)までの七年間については、基礎収入を平成一九年男性労働者大学卒の六〇歳の平均賃金六六七万六七〇〇円とし、中間利息控除は二三年の係数一三・四八八六から一六年の上記係数を差し引いた二・六五〇八により、算出すると、824万936円×10.8378×0.57+667万6700円×2.6508×0.57=6099万6961円となる。
現在、原告は、杖なしでは起立を続けることも、三〇mないし四〇m以上歩くこともできず、日常生活において車椅子を使用しているような状態である。原告の身体状況上、勤務先の警察署内において行える業務が非常に限られざるを得ない。職場で冷遇されているが格別の努力で勤務を継続している。そして、今後も長期間勤務を継続できる保証はなく、再就職はほとんど不可能である。本件事故前と事故後とでは、外勤をある程度行えていたのが全くできなくなるなど、勤務の実情には大きな変化がある。
(被告)
争う。
本件事故後も原告には従前通り基本給が支払われており、定期昇給も行われており、昇任試験の受験が困難であることなどは本件事故以前からであり、本件事故前と本件事故後とで、収入や将来の昇進についての不利益の面では顕著な変化がない。日常生活の不便は増大したといえるが、これは既往症と前方固定術の影響であるから本件の後遺障害逸失利益を算定する上で考慮すべきではない。本件事故による労働能力喪失の事実は認められない。
ケ 後遺障害慰謝料
(原告)
一〇〇〇万円
(被告)
争う。
コ 弁護士費用
(原告)
三九七万三四七八円
(被告)
争う。
第三当裁判所の判断
一 第三/四頚椎前方固定術の必要性、相当性などについて
(一) 主治医の見解
関係証拠(甲一五、一七)によると、第三/四頚椎前方固定術の適応を認めこれを実施したB医師の見解の概要は、次のとおりである。初診当時、頚部痛、左上下肢のしびれ、起座困難(悪心、嘔吐)、左手握力低下、左上下肢の知覚鈍麻などの症状を認めた。
MRI検査で、第三/四頚椎に椎間板膨隆(椎間板障害あり)が見られ、事故により、バレ・リュー症状が発症したと思われ、外傷性(事故による)椎間板症と診断した。事故後に、バレ・リュー症状や左上下肢障害が生じているので、第三/四頚椎椎間板の膨隆は事故によるものと推定した。
入院後、受傷後約三か月経過しても症状に変化がなく、MRIで第三/四頚椎の所見が見られたので、平成一七年一二月一六日、患者に病態の説明をして、患者が手術を希望したため、手術実施を決断した。
第三/四頚椎前方固定術の適用があると判断したのは、バレ・リュー症状及びMRI所見からであるが、MRI上の脊髄圧迫所見は軽度であり、前方固定術の適応は主としてバレ・リュー症状である。
術後、起坐、起立、歩行が可能となり、悪心、嘔吐も消失し、食事摂取が可能となった。これらは、バレ・リュー症状の改善のためである。左上下肢しびれ、脱力感、疼痛、歩行障害、左手指巧緻運動障害は、手術直後に症状の悪化が認められず、本件事故時の脊髄の損傷に起因したものと思われる。
(二) 検討
上記の主治医の見解中、原告の第三/四頚椎の椎間板に膨隆があること、バレ・リュー症状が見られたこと、事故後約三か月間にわたり保存的療法を行っても、疼痛、悪心、嘔吐などにより、ほぼ寝たきりで通常の食事が取れないなどの深刻な症状が続き、原告の症状は軽快しなかったこと、術後、まもなく悪心や吐き気が治まり、次第に左上下肢のしびれも軽減するなどし、それまで不可能であった通常の食事を摂ることや上体を起こし、歩行訓練をするなどができるようになったことなどは、全て関係医療記録(甲八、乙七、八)により明確に裏付けられる。
また、バレ・リュー症状につき第三/四頚椎前方固定術の適応があるとする見解が一般に認められていることも、甲一八(要旨を日本整形外科学会において発表し、医学雑誌「整形外科」に掲載された学術エッセイであり、具体的な反論がなければ、ある程度医学界において是認されている見解と推認される。)により、支持されていると認める。被告が提出し、乙一一の意見書が引用する乙一二の文献には、確かに、前方固定術につき特に慎重にすべき見解が記載されているが、必ずしもバレ・リュー症状が認められる症例に対する記述ではなく、また、実証的なデータは示されておらず、この文献のそもそものテーマが外傷性頚部症候群一般についての保険による補償や医療費の効率化も視野に置いた治療方針であることなどからすると、本件について前方固定術の必要性に疑義を呈するものでも、バレ・リュー症状について前方固定術の適応を疑問とするものでもないと考えられる。また、乙一〇及び一一のCの意見書は、原告の病状について、手術により治療効果は全くなくむしろ悪化しているとするなど、原告本人を診察しておらず医療記録の閲読を基にした意見であるにもかかわらず、医療記録上の明確な記載と矛盾する非実証的な記述や独断的な記述も多く、上記の主治医の見解に具体的な疑義を呈する合理的な見解は含んでいない。
以上によれば、本件事故後、原告に施行された第三/四頚椎前方固定術は、必要かつ相当な施術であったと認められる。
なお、嚥下障害と左手指巧緻運動障害の後遺障害については、前方固定術実施以前には、その有無について確認されていない症状であり、性質上本件事故による頸髄部の損傷など傷害により生じることも、前方固定術の結果生じることも共に考えられるものであり、前方固定術実施以前は深刻な症状があり、これらの症状が仮に術前からあったとしても、症状として確認は困難であったと考えられ、その発生原因は両者のいずれであるか不明というほかない(これらが前方固定術の実施の際の手術手技の誤りによるものと具体的に推認させる証拠はない)。以上によると、前方固定術の実施により著しく症状が改善されたことに照らせば、本件事故により生じたものであるときはもちろん、仮にこれらが前方固定術実施の影響で生じた症状であるとしても、本件事故と相当因果関係がある後遺障害であることは否定されず、認められる。
二 各損害項目、過失相殺、損害のてん補及び弁護士費用について
(1) 治療費 一四六万一二八〇円
金額については、一四六万一二八〇円であることが争いなく、これが全て本件事故と相当因果関係がある損害とすべきことについては、上記一で認定した事実による。
(2) 付添看護費 五〇万七〇〇〇円
彦根市立病院入院中の平成一七年九月一八日から同年一二月八日まで、同日武田病院に転院してから平成一八年一月三一日までの武田病院入院期間中、ほぼ寝たきりで家族の付添介護を必要とすることが各主治医により認められた状態であり(甲七、八)、その間、原告の妻が病院に来て、体を拭いたり排便の世話をしたりするなどの現実の介護を行った日数は合計七八日間であった(甲九)。
よって、七八日分、日額六五〇〇円とし、合計五〇万七〇〇〇円の付添看護費を認めるのが相当である。
(3) 通院費 七万九八〇〇円
通院費として、自家用車ガソリン代一万〇二六〇円、タクシー代金六万九五四〇円の合計七万九八〇〇円を要した(甲一四)。
(4) 入院雑費 二六万八五〇〇〇円
入院日数は合計一七九日であり、日額一五〇〇円が相当である。
1500円×179日=26万8500円
(5) 装具費 七万〇八六三円
争いがない。
(6) 休業損害 一〇八万四〇五五円
甲一一により上記の原告主張額を認める。
(7) 入通院慰謝料 二六〇万円
入院期間一七九日(約六か月)、通院期間九九日(約三か月)であり、入通院慰謝料としては、二六〇万円が相当である。
(8) 後遺障害逸失利益 六〇五四万七二八四円
症状固定時の原告の年齢は四四歳であり、併合第四級(九級の既存障害の加重適用)で、労働能力喪失率は、92%(4級)-35%(9級)=57%とすべきであり、症状固定時から定年(六〇歳)までの一六年間については、基礎収入を本件事故の前年の年収額である八二四万九三六円とし、中間利息控除はライプニッツ係数一〇・八三七七により、定年から労働可能年限(六七歳)までの七年間については、基礎収入については、比較的新しい賃金センサスを参照すべきであるから、平成二〇年男性労働者大学卒の六〇歳ないし六四歳の平均賃金年収六三七万九四〇〇円の数値を採用し、中間利息控除は二三年の係数一三・四八八五から一六年の上記係数を差し引いた二・六五〇八によることとして、算出すると、
824万936円×10.8377×0.57+637万9400円×2.6508×0.57=6054万7284円となる。
なお、原告は公務員(警察官)であり、事故前とほぼ同等の給与を支給されているが、本件事故による後遺障害によって、原告の身体能力は、杖を使用して短距離歩行できるが、日常生活において車椅子を使用しているような状態に大きく低下しており、大幅な実質的な労働能力喪失が認められる。そして、以前はある程度行っていた外勤が、本件事故後は全くできなくなっており、勤務を継続していることは、職場における勤務内容の配慮とともに、原告の並大抵ではない努力にもよるもので、今後も長期間勤務を継続できるかどうかは、不確実である。
したがって、症状固定後も概ね同等の給与を支給されているにしても、後遺障害逸失利益を通常の基準による計算額から減額することは相当ではない。
(9) 後遺障害慰謝料 一〇〇〇万円
四級(九級の既存障害加重適用)であり、原告主張額を相当と認める。
(10) 上記(1)から(9)までの合計
7661万8782円
(11) 過失相殺
×0.7=5363万3147円
(12) 既払金控除
-1426万2143円=3937万1004円
(13) 弁護士費用及び認容すべき額
+393万円=4330万1004円
三 結論
以上によれば、本件請求は、四三三〇万一〇〇四円及びこれに対する平成一七年九月一八日以降支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないので、訴訟費用の負担については、請求額中の認容部分の割合が九九%以上であるので全て被告の負担とすることとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 栁本つとむ)