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京都地方裁判所 平成21年(ワ)2653号 判決 2011年2月01日

原告

被告

主文

一  被告は、原告に対し、一〇〇七万四五六〇円及びこれに対する平成二一年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告は、原告に対し、二〇三〇万三八四二円及びこれに対する平成二一年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、被告運転の車両が先行車両に追突し、その衝撃により同先行車両が更に先行する原告運転車両に追突した玉突き事故につき、原告が、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求する事案である(遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日)。

一  争いのない事実及び容易に認定できる事実(引用証拠等のない事実は争いがない。)

(1)  交通事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した

① 日時 平成二一年四月二九日午前一〇時五二分ころ

② 場所 京都市山科区小山中ノ川町三番地先路上

③ 関係車両 ア 原告が運転する自家用普通乗用自動車(〔ナンバー<省略>〕)(以下「原告車」という。)

イ A(以下「A」という。)が運転する自家用普通乗用自動車(〔ナンバー<省略>〕)(以下「A車」という。)

ウ 被告運転の自家用普通乗用自動車(〔ナンバー<省略>〕)(以下「被告車」という。)

④ 態様 原告車、A車及び被告車の順で走行していたところ、被告車がA車に追突し、その衝撃でA車が原告車に追突した。

(2)  原告車の権利関係

原告は、原告車についての所有権留保売買契約の買主である(丙九、弁論の全趣旨)。

(3)  通院状況

原告は、本件事故後、次のとおり通院した。

① 武田総合病院(甲二)

平成二一年四月二九日(実通院日数一日)

診断名・頚椎捻挫、胸椎捻挫、腰椎捻挫

② 十条リハビリテーション病院(甲三ないし五、一八の一、一八の二の一ないし四、一九の一、一九の二の一ないし三、二〇の一、二〇の二の一・二)

平成二一年四月三〇日ないし平成二二年三月五日(実通院日数一四〇日)

診断名・頚椎捻挫、腰椎捻挫、頚椎椎間板ヘルニア、バレ・リュー症候群

(4)  後遺症診断等

① 十条リハビリテーション病院の医師は、平成二二年三月五日、同日をもって原告につき症状固定の診断をした(甲三三)。

② 損害保険料率算出機構は、平成二二年七月二二日ころ、原告につき後遺障害非該当との判断をし、これに対する原告の異議申立てに対し、同年一二月七日ころ、同様の判断をした(丙五、一二)。

(5)  原告の受傷歴

① 原告は、平成一九年七月二三日、運転するワンボックスカーを停止させていたところ、大型観光バスに追突され(以下、この事故を「第一事故」という。)、同日、事故現場近くの病院で診察を受けた後、十条リハビリテーション病院において、同月二七日から同年八月一一日まで入院治療、同月一三日から通院治療を受けた(丙二)。

② 原告は、第一事故による通院中の平成二〇年二月二四日、追突事故に遭い(以下、この事故を「第二事故」という。)、右前額部打撲、頸椎捻挫等の傷害を負い、同年一二月二五日まで十条リハビリテーション病院で通院治療を受けた(丙二)。

③ 十条リハビリテーション病院における主治医が認識把握する第一事故の初診時から第二事故の終診時までの間の自覚症状の推移、他覚的所見、画像所見、神経額的所見の推移等は、別紙一、二のとおりである(丙二・九〇、九一頁)。

④ 十条リハビリテーション病院の主治医は、平成二〇年一二月二五日、第一事故及び第二事故につき、同日を症状固定日と診断した(丙二・八五頁)。

⑤ 原告は、上記症状固定日後も、十条リハビリテーション病院に通院を継続して物理療法等を受け、本件事故六日前の平成二一年四月二三日も通院している(丙二)。

⑥ 損害保険料率算出機構は、第一事故及び第二事故による後遺障害に関し、両事故による受傷に伴う頸部痛、めまい、上肢のしびれ脱力感、手指のしびれ等の症状につき自動車損害賠償保障法施行令別表第二(以下、単に「別表第二」という)の一四級九号、第一事故による受傷に伴う腰背部痛等の症状につき同級同号にそれぞれ該当するものと認定した(丙五)。

二  主な争点及びこれに関する当事者の主張

(1)  受傷の有無、相当通院期間、後遺障害の有無、既往症減額等

① 原告の主張

ア 原告は、本件事故により二度の大きな衝撃を受けている。これは、A車が一旦追突した後に原告車との間隔ができたところA車が再度惰性で衝突したか、A車が原告車の下に潜り込んで、それが外れるときに二度目の衝撃を受けたものである。その衝撃により、原告車のトランクの下部破壊・上部変形、リアバンパーの傷・欠損、トランク内の部品の破損、車体後部シャシの亀裂・歪み・凹み、ナンバープレートの変形・傷、マフラーの傷が生じたことからして、原告の受けた衝撃は大きかった。

イ 原告は、本件事故の際、首を大きく前後に振られ、運転席のシートで後頭頸部を強打し、頸部から両肩の疼痛と頸部から手の先まで激しい電流が走ったようなしびれを感じ、すぐに動けなかった。

ウ バレ・リュー症候群は本件事故後初めて診断された傷病であり、自覚症状も耳鳴りなどが同事故後に加わっている。したがって、本件事故による傷病名、症状は、第一事故、第二事故のときと全く同じではない。

本件事故直近のMRI撮影は、平成二〇年九月一九日で、所見は「半年前と著変なし、C三/四、C五/六の椎間板が前突」であるのに対し、本件事故当時のMRI所見は「C三/四、C五/六、C六/七の椎間板後突、硬膜嚢の圧排、C三/四にして骨棘形成、C五/六椎間板の狭小化」であり、同事故前との器質的変化が明らかで同事故による受傷が認められ、また、C六/七の椎間板後突は新たに認められた傷害で、硬膜嚢の圧排は、前に突き出していた椎間板が、後方に突き出して硬膜嚢を押し出していることを示すが、この前突は、上記平成二〇年九月一九日撮影のMRIでも認められたところ、たった七か月後にC六/七が加わって後突することが経年性の変化であるとの被告の主張は医学的根拠に欠ける。

② 被告の主張

ア 本件事故による傷病名は、頸椎捻挫、バレ・リュー症候群、腰椎捻挫、頸椎椎間板ヘルニアであり、第一事故、第二事故と同一であり、自覚症状も、後頸部から背部、腰部への痛み、手指外側のしびれ、冷感、頸部から上肢にかけての疼痛、天候不良時のめまい、発汗、吐き気、耳鳴り、悪心、圧迫感と第一事故、第二事故の時の同じで、後遺障害として認定された症状そのものである。

本件事故に関する後遺障害の内容としては、C三/四、C五/六、C六/七の椎間板後突、硬膜嚢の圧排、骨棘形成C三/四、C五/六、椎間板の狭小化が認められているが、これは典型的な経年性所見であるとともに、第一事故、第二事故によるものであって、本件事故によるものではない。

以上のとおりであるから、原告は、本件事故により受傷していない。仮にしているとしても、同事故の影響は軽微で、一か月以上の通院治療は必要としない。

仮に、後遺障害が認められるとしても、第一事故、第二事故、素因の寄与度は、九割以上である。

イ 原告車は、修理期間五日の軽微損傷である。被告のいう「シャシ」はバックパネルで、変形しやすくした衝撃吸収部位である。トランク内側のひび割れは、鉄板の上に塗った材料のひび割れであり、熱や寒暖の差によりひび割れが生ずるから、本件事故によるものか否か不明である。ナンバープレートは材質が弱いので弱い衝撃でも当然変形する。

(2)  原告車の車両損害

① 原告の主張

本件事故による原告車の損傷修理に六二万九八九九円を要した。

② 被告の主張

原告車の時価は三六万五〇〇〇円であり(レットブック価格五〇万円、走行距離一二万キロメートル超過により一二万円減算、車検残りが一二か月未満により一万五〇〇〇円減算)、修理見積金額より低額なので、三六万五〇〇〇円が損害額である。

(3)  相当な代車使用期間

① 原告の主張

原告は、本件事故による原告車の損傷のため平成二一年五月一日から同年六月一七日までの四八日間、代車を使用した。

なお、被告車についての任意保険の保険者(保険会社)は、平成二一年五月八日になってようやく原告車の被害状況を確認し、その後、Aとの間の遺失割合につき疑義を挟み修理にかかるのを待つよう修理業者に要望し、原告が何度も迅速な対応を求めたにもかかわらず回答を留保し続けたため、原告は、修理に取りかかることできず、修理日数五日間を除き上記の四八日間の代車使用を余儀なくされた。

② 被告の主張

加害者が支払を拒否していたときでも、被告が負担すべき代車費用は事故から修理に通常要する期間である。むしろ、拒否されたときは、修理してその費用を相手方に請求するのが本来である。相当な代車使用期間は実際の修理に要した五日間で十分である。

第三当裁判所の判断

一  被告の責任

前記第二、一、(1)の事実、甲五〇、五一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、原告は、片側二車線道路(国道一号線)の第一通行帯において、交通整理の行われていない交差点通過直後、渋滞のため停止していたこと、同通行帯を原告の後方から走行してきた被告は、上記交差点手前三〇メートル前後の地点からA車(ベンツS五〇〇L)を追従していたが、同交差点手前一五メートル前後の地点から左前方に視線を移し、約二三・六メートル進行した地点で、原告車の後方に停止していたA車を発見し、制動措置を採ろうとしたが約一・九メートル進行してA車後部に追突し、同車はその衝撃で約四メートル前進して原告車の後部に追突したことが認められる。

上記認定事実によれば、被告は、先行するA車の動静を注視して運転すべきところ、これを怠ったため本件事故が発生させたものと認められるから、被告は、原告に対し、民法七〇九条に基づき、同事故により原告の被った損害の賠償義務を負う。

二  原告の損害

(1)  治療費(原告主張額六一万八二〇〇円)

① 甲二号証ないし五号証、一八号証の一、一八号証の二の一ないし四、一九号証の一、一九号証の二の一ないし三、二〇号証の一、二〇号証の二の一・二によれば、前記第二、一、(3)の通院治療費として、計六一万八二〇〇円を要したことが認められる。

②ア 前記第二、一、(5)の事実、甲三五号証、五〇号証、丙二号証によれば、原告は、本件事故当時、第一事故及び第二事故により生じた頸部痛等の治療のため十条リハビリテーション病院に通院していたが、本件事故により、項頸部から両肩にかけての放散痛が増悪し、ふらつき、めまい、手指のしびれも増強したことが認められ、これによれば、原告は、本件事故により、頸椎捻挫等(前記第二、一、(3))の傷害を負ったものと認められる。

イ 被告は、本件事故後により原告の受けた衝撃は軽微であり、同事故後の原告の症状は、本件第一事故、第二事故による傷害の症状と同一であることなどから、原告は、本件事故により受傷していない旨主張する。

本件事故は、玉突きであり被告車に直接追突されたAに比し、原告の受けた衝撃は小さく、原告車がいわゆる衝突安全ボディを採用しているとしても、本件事故により、原告車が、停止状態から約四メートル進行したA車(ベンツS五〇〇L)に追突され後部に損傷を受けたことは否定できず(甲三七、三八、四〇ないし四八)、事故態様から原告がおよそ受傷する可能性がないとはいえない。また、仮に、本件事故前後で原告の症状の種類が同一であるとしても、上記認定のとおり症状の増悪、増強がある以上、同事故による受傷を否定する理由にはならない。

第一事故、第二事故による後遺障害の影響は、既往症減額として考慮すべきである。

したがって、被告の上記主張は採用できない。

③ 以上によれば、上記治療費六一万八二〇〇円は、既往症減額を別とすれば、本件事故による損害と認めるべきである。

(2)  文書料等(原告主張額四万七七五〇円)

甲二ないし五号証、一八号証の二の四、一九号証の二の三、二〇号証の二の二、二一ないし三一号証によれば、前記通院期間中、診断書等の文書料として計四万七七五〇円を要したことが認められる。

(3)  薬剤費(原告主張額四一万二六二〇円)

甲六、七号証、二一ないし三一号証によれば、原告の前記通院期間中の薬剤費として、少なくとも原告主張の四一万二六二〇円を要したことが認められる。

(4)  装具代(原告主張額一万八二八二円)

甲八号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成二一年五月ころ、治療のため頚椎装具を装着することとなり、その費用として一万八二八二円を要したことが認められる。

(5)  休業損害(原告主張額八万一三四七円)

甲三二号証の一・二及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成七年から、武田総合病院に事務職として勤務し、本件事故当時は次長の職にあったこと、原告の平成二〇年分の給与所得は五九三万八三一六円であること、原告は、本件事故による受傷のため、平成二一年四月及び同年五月、有給休暇を五日分(一日休暇四日、半日休暇二日)を取得したことが認められ、これによれば、原告は、下記算式により、八万一三四六円(一円未満切り捨て。以下同じ)の休業損害を被ったものと認められる。

5,938,316×5÷365≒81,346

(6)  通院慰謝料(原告主張額一九〇万円)

原告の傷害の内容及び通院状況等の事情を総合すると、通院慰謝料は一五四万円が相当である。

(7)  逸失利益(原告主張額一二五八万七七四四円)

① 前記第二、一、(4)、①の事実によれば、原告は、平成二二年三月五日、症状固定となったものと認めるのが相当である。

② 甲三三号証、三五号証によると、上記症状固定日当時、原告の自覚症状は、後頸部から背部、腰部への痛み、手指外側のしびれ、冷感、頸部から上肢にかけての疼痛、天候不良時のめまい、発汗、はきけ、耳鳴り、悪心、圧迫感であり、他覚症状・検査結果として、C三/四、C五/六、C六/七の椎間板の後突、硬膜嚢の圧排が平成二一年四月三〇日撮影のMRI所見で、骨棘の形成C三/四、C五/六の椎間板の狭小化、上肢尺側の知覚鈍麻が認められ、頸部から肩部に放散痛があり、バレ・リュー症状が認められたこと、平成二〇年一二月二五日の症状固定診断日(前記第二、一、(5)、④)と比較すると、バレ・リュー症状が強く現れ、その症状が頑固に残存していること、以上の事実を認めることができる。

上記認定事実によれば、原告には、平成二二年三月五日の症状固定時点で、頸部の傷害に起因する「局部に頑固な神経症状を残す」(別表第二の一二級一三号)後遺障害が残存したものと認めるのが相当である。

③ 本件のように、既存障害と同一部位に加重障害が生じた場合、逸失利益の算定は、当該事故前の実収入(既存障害残存下での実収入)を基礎収入とし、当該事故自体による労働能力喪失率及びライプニッツ係数をそれぞれ乗じて算出するのが相当である。原告が第一事故及び第二事故による後遺障害として、本件事故後の上記後遺障害と同様、頸部起因の頸部痛、めまい、上肢のしびれ脱力感、手指のしびれ等の症状につき別表第二の一四級九号該当と認定されていたこと(前記第二、一、(5)、④)、及び平成二二年三月五日の症状固定時の症状等に照らすと、原告は、本件事故自体により、その労働能力の一〇パーセントを喪失したものと認めるのが相当であり、その喪失期間は、症状固定時の症状、MRI所見の内容等を勘案し、一五年と認める。基礎収入を上記と同じく年五九三万八三一六円とし、逸失利益の現価を算出すると、次の算式のとおり六一六万三七三四円となる。

5,938,316×0.10×10.3796≒6,163,734

(8)  後遺症慰謝料(原告主張額三〇〇万円)

本件事故後の後遺障害の内容、程度、第一事故及び第二事故による後遺障害の程度等の事情を総合すると、後遺症慰謝料は一八〇万円をもって相当と認める。

(9)  車両損害(原告主張額六二万九八九九円(修理費用))

前記のとおり、原告車は、本件事故により後部等に損傷を受けたが、甲九号証によると、その修理に六二万九八九九円を要することが認められる。

他方、甲九号証、丙一号証の一・二によると、本件事故時における原告車の時価は、走行距離が一二万二七八八キロメートル、車検残月数が九か月であることも考慮すると、三六万五〇〇〇円であることが認められ、これによると、原告車は、本件事故によりいわゆる経済的全損となったものと認めるのが相当であり、その損害額は三六万五〇〇〇円である。

(10)  代車料(原告主張額一〇〇万八〇〇〇円)

① 甲九、一〇号証、一一、一二号証の各一、一三ないし一五号証、弁論の全趣旨によれば、原告車は、アルファロメオ(一五六ツインスパーク二〇〇〇)であり、原告は、これを日常的に使用していたこと、原告は、本件事故後、平成二一年五月一日から同年六月一七日までの四八日間、アルファロメオを代車として使用し、その代車料は一〇〇万八〇〇〇円であること、原告車の修理期間は五日間であったこと、本件事故後、被告車に係る任意保険の保険会社は、同事故が順次追突事故との疑いを持ち、そのための調査に時間を要したため、代車料等の支払(保険金の一部支払)を留保し、修理業者は修理に着手せず、原告は、上記期間、代車を使用していたが、結局、上記保険会社は、平成二一年七月三日ころ、代車料等の支払を拒否したことが認められる。

② 本件のように事故車が経済的全損となった場合、事故と相当因果関係のある代車料は、原則として、経済的全損であることが判明するまでの期間及びその終期から買替え完了までの間の代車料と解するのが相当であり、本件の場合、原告車の車種等も考慮すると、この期間は、通常、計一か月程度と考えられるが、上記認定のとおり、保険会社の調査に時間を要したとすると、正式の修理の見積を取るのが多少遅れるのもやむを得ないと解されるから、四〇日間につき代車使用の必要性を認めるのが相当である。

相当代車料を一日二万一〇〇〇円(1,008,000÷48。原告車の車種に照らし相当代金の範囲内と認める。)とすると、四〇日間の代車料は八四万円となる。

三  既往症減額

(1)  原告は、第一事故、第二事故による受傷のため十条リハビリテーション病院において継続的に通院治療を受け、症状固定の診断を受けた後も同病院に通院している最中に本件事故に遭ったものであり(前記第二、一、(5)、①ないし⑤)、別紙一、二記載のとおり、第一事故初診時から第二事故の終診時(症状固定時)までの間、自覚症状の程度は一部を除き軽減しているが、種類には変化がなく(背部痛、腰痛は一時消失したが後に再発した。)、神経学的所見もほとんど変化が見られない。そして、丙二号証によれば、平成二〇年一二月二五日の上記症状固定時から本件事故までの間に症状の変化があった形跡はなく、上記認定のとおり、本件事故後、同事故前と比較して項頸部から両肩にかけての放散痛が増悪し、ふらつき、めまい、手指のしびれも増強したが、丙二号証によっても、症状の種類には格別変化は見られない。なお、前記第二、一、(4)、①の症状固定診断に係る診断書には自覚症状として耳鳴りの記載があり(甲三三)、十条リハビリテーション病院の診療録(丙二)上、本件事故前に耳鳴りの記載はないが、同事故後にもその記載は見られず、その発症時期は不明で、本件事故との因果関係の有無は判断できない。

画像所見について見ると、別紙一のとおり、主治医は、平成二〇年九月一八日撮影のMRI所見として「C三/四、五/六椎間板前突 cord微圧迫」としており、cordは、臍帯(umbilical cord)(別紙一の画像所見、(2)、その他欄の訂正前)ではなく、脊髄(spinal cord)の意味と解される。これに対し、本件事故直後の平成二一年四月三〇日に十条リハビリテーション病院で撮影したMRI画像につき、読影医は、「C三/四、C五/六、C六/七disc(椎間板)は後方へ突出し、硬膜嚢を圧排しています。」との所見を示しており(丙二)、少なくとも、本件事故によりC六/七に異常が発生した可能性が高いといえる。この点に関し、原告は、C三/四、C五/六についても、本件事故前前突であったのが、同事故により後突となる変化が生じた旨主張し、上記のとおり、主治医も、平成二〇年九月一八日のMRI所見は前突であるとしている(別紙一のとおり、平成一九年七月二七日及び平成二〇年二月二六日の画像所見も同様)。しかし、読影医のMRI所見は、平成二〇年二月二六日撮影分が「C三/四椎間板突出…軽い脊髄圧迫 C三/四、五/六椎間板突出 脊髄は正常」、同年九月一八日撮影分が「C三/四椎間板突出…軽い脊髄圧迫 脊髄は正常 半年前と著変なし」であり、本件事故前椎間板が前方に突出していた旨の明確な所見は示されておらず(丙二)、「椎間板突出…軽い脊髄圧迫」とあることからすると、むしろ後方に突出していたと考えるのが自然といえること、上記二回の画像所見を記載した読影医と、平成二一年四月三〇日の画像所見を記載した読影医は別人であり、同二回の読影医は、半年後の同年一〇月六日撮影のMRIの所見を「C三/四、五/六、六/七 disc slight protrusion(椎間板軽度突出) C三/四レベルでわずかな脊髄圧迫 前回MRIと著変なし」としていること(丙二)に照らすと、本件事故前、椎間板が前突であったとの主治医の見解は、にわかに採用できない。したがって、上記のとおり、本件事故に起因する可能性の高い異常所見はC六/七に見られると認めるに止めるが、本件事故による原告の受傷はこの点からも裏付けられるという余地がある。

また、バレ・リュー症候群は、本件事故後に付された診断名であるが、甲三三ないし三五号証によると、主治医は、本件事故後の項頸部から両肩にかけての放散痛の増悪及びふらつき、めまい、手指のしびれの増強から上記診断をしたことが認められ、本件事故により従来とは全く機序等を異にする自律神経症状が発症したというより、従来からの症状が本件事故により一層増悪、増強したものと見られる。

(2)  上記の諸点を考慮すると、本件事故後の原告の症状の相当部分は、第一事故及び第二事故による既往症によるものと考えざるを得ず、公平の見地から、前記第三、二、(1)、(3)、(4)、(6)の各損害については七割の既往症減額をするのが相当と判断する(上記以外の損害費目については、既往症減額を要しない。)。

前記第三、二、(1)、(3)、(4)、(6)の各損害の合計は、二五八万九一〇二円であり、七割の既往症減額をすると、七七万六七三〇円となる。これに前記第三、二、(2)、(5)、(7)ないし(10)の各損害を加算すると、一〇〇七万四五六〇円となる。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、一〇〇七万四五六〇円及びこれに対する不法行為の後の日であり、訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成二一年八月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤明)

別紙一 頚椎捻挫・腰椎捻挫の症状推移について(受診者名X様 昭和四六年○月○日生) <省略>

別紙二 神経学的所見の推移について(受診者名X様 昭和四六年○月○日生) <省略>

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