京都地方裁判所 平成21年(ワ)2715号 判決 2014年9月17日
原告
X1(以下「原告X1」という。)<他2名>
原告ら訴訟代理人弁護士
赤津加奈美
被告
株式会社創生(以下「被告創生」という。)<他1名>
同代表者代表取締役
A
被告ら訴訟代理人弁護士
置田文夫
同
中野勝之
主文
一 被告らは、原告会社に対し、連帯して、二八六万一九八九円及びこれに対する平成二一年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告X1に対し、連帯して、九九万三〇〇〇円及びこれに対する平成二一年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告X2に対し、連帯して、九九万三〇〇〇円及びこれに対する平成二一年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを四〇分し、その三九を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
六 この判決は、一ないし三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、連帯して、原告らに対し、二億〇〇七四万六一一六円及びこれに対する平成二一年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、別紙一(物件目録)記載一の土地(以下「本件土地」という。)上の同記載二の建物(以下「本件建物」という。)を共有する原告X1及び原告X2並びに本件建物で呉服店を営む原告会社が、本件土地の北側に隣接する土地(後記「本件マンション土地」)において、被告創生が被告かねわに発注したマンション建築工事の土地掘削工事によって、本件建物が不同沈下及び変形したと主張して、被告かねわに対しては、不法行為に基づき、被告創生に対しては、共同不法行為又は原告らとの間の協定(後記「本件協定」)に基づき、不同沈下及び変形の修復費用並びに修復中の休業損害等の損害金二億〇〇七四万六一一六円及びこれに対する不法行為の日の後の日である平成二一年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
一 前提事実(証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告X1及び原告X2は、本件土地・建物を、各持分二分の一の割合で共有している。
本件建物は、昭和三四年三月一二日、Bが購入し、昭和五〇年五月一七日、原告X1及び原告X2が相続した。
イ 原告会社は、呉服京染の販売等を業とする株式会社であり、本件建物で呉服店「○○」を経営している。
ウ 被告創生は、①不動産の売買、賃貸借、管理及び仲介、②都市開発に関する企画、調査、設計、③土地建物の有効利用に関する企画、調査、設計、④建築工事業等を目的とする株式会社である。
エ 被告かねわは、建築、設計、請負等を業とする株式会社である。
(2) 本件マンション建築工事前の状況
ア 本件土地・建物
本件建物は、本件土地上に、西棟、渡り廊下及び東棟から成り、西棟は、遅くとも明治三一年には存在した木造瓦葺二階建の京町家であり、東棟は、昭和四〇年ころ増築された鉄骨補強の木造瓦葺二階建の建物である。
イ 本件土地周辺の状況
本件土地、本件土地の北側に隣接する別紙一(物件目録)記載三の土地(以下「本件マンション土地」という。)及び本件土地の南側に隣接する別紙一(物件目録)記載五の土地(以下「本件南側土地」という。)は、いずれも別紙二のとおり、西側で道路に接するところ、その間口は狭く奥行が長い形状、いわゆる「うなぎの寝床」である。
ウ 本件南側土地におけるマンション建設
(ア) 本件南側土地上には、平成一四年ないし平成一六年二月二三日、株式会社藤木工務店が、別紙一(物件目録)記載六の鉄筋コンクリート造陸屋根一一階建の共同住宅(以下「本件南側マンション」という。)を建築した。
(イ) 原告ら及び株式会社藤木工務店は、平成一六年八月二〇日、本件南側マンション建築工事に関し、本件建物の不同沈下及び変形について、株式会社藤木工務店の費用負担で補修し、かつ、賠償金を支払う旨の合意をし、株式会社藤木工務店は、これらを履行した。
エ 本件マンション土地
本件マンション土地上には、昭和五五年四月二四日に鉄骨造陸屋根四階建の建物(以下「本件既存建物」という。)が建築されていた。
(3) 本件マンション建築工事及び原告ら・被告ら間の協定等
ア 被告創生は、平成一八年二月二八日、本件マンション土地を購入し、被告かねわに対し、本件既存建物の解体工事及び別紙一(物件目録)記載四の鉄筋コンクリート造陸屋根一二階建の共同住宅(以下「本件マンション」という。)の建築工事を注文した。
イ 被告かねわは、平成一八年三月二二日ないし同年五月一二日、本件既存建物の本体部分を解体した。
ウ 原告ら及び被告かねわは、平成一八年五月一日、被告かねわが、本件マンション建築工事に関し、本件建物の不同沈下及び変形の発生を防止し、発生した損傷を補修すること等を合意した(以下「本件覚書合意」という。)。
エ 被告かねわは、平成一八年一一月二日ないし同月一一日、地盤を硬化するため、別紙三のうちの「本件既存建物断面図」のとおり、本件土地との境界付近において、薬液を本件マンション土地に注入した。しかし、薬液の一部は、本件土地の中庭部分から漏出した。
被告かねわは、平成一八年一一月下旬ないし同年一二月中旬、深さ約一メートルのコンクリート製の受前(後記「本件既存受前」)を残し、本件既存建物の基礎部分を撤去した。
オ 原告ら及び被告らは、平成一八年一二月一八日、被告かねわが、万一、本件マンション建築工事に起因して原告X1及び原告X2所有家屋の聚楽壁に損傷を与え、その損傷が一見して判明する場合、被告創生が、損傷箇所が存する部屋全ての聚楽壁を修復するものとする、尚、その費用は被告かねわの負担とする等の合意した(以下「本件協定」という。)。
カ 被告かねわは、平成一八年一二月中旬ないし平成一九年二月上旬、本件マンション土地において、本件土地の土留めとして、別紙三のうちの「本件マンション断面図」のとおり、H鋼の親杭に横矢板を設置し、同年三月上旬まで、本件マンションの基礎部分を施工した。
キ 被告かねわは、平成一九年一二月一日、ナットを本件建物上に落下させ、本件建物の瓦一枚を破損したため、同月五日、被告かねわの費用負担で、本件建物の瓦六枚を補修した。
ク 被告かねわは、平成二〇年二月七日までに、本件マンション建築工事を完成した。
(4) 本件建物の調査
ア 本件南側マンションの建築後
Cは、平成一六年一月一七日、原告らの依頼を受けて、本件建物の不陸調査をし、別紙四の一のとおり、本件建物の不同沈下を報告した。
イ 本件マンション土地掘削工事前
株式会社アーク・ワンは、平成一八年三月二三日及び同年四月二四日、被告かねわの依頼を受けて、本件建物の不陸調査及び内部調査等をし、不陸調査について別紙五の一のとおり、内部調査について別紙六「平成一八年三月二三日及び平成一八年四月二四日」欄のとおり、本件建物の不同沈下及び変形を報告した。
ウ 本件マンション土地掘削工事後
(ア) 株式会社アーク・ワンは、平成一九年四月一〇日、被告かねわの依頼を受けて、本件建物の不陸調査及び内部調査等をし、不陸調査について別紙五の二のとおり、内部調査について別紙六の「平成一九年四月一〇日」欄のとおり、本件建物の不同沈下及び変形を報告した。
(イ) Cは、平成二三年一月一五日、原告らの依頼を受けて、本件建物の不陸調査をし、別紙四の二のとおり、本件建物の不同沈下、最大幅九ミリメートル、全長約三・二メートルの地割れ(以下「本件地割れ」という。)及び無筋コンクリート基礎に幅〇・五ミリメートルのひび割れ(以下「本件基礎ひび割れ」という。)の存在を報告した。
(ウ) 証人Dは、平成二三年一〇月一三日、原告らの依頼を受けて、本件建物の不陸調査をし、別紙四の四のとおり、本件建物の不同沈下を報告した。
二 争点
(1) 本件マンション建築工事と本件建物の不同沈下及び変位との因果関係
(2) 被告かねわの責任
(3) 被告創生の責任
(4) 原告らに生じた損害
三 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件マンション建築工事と本件建物の不同沈下及び変位との因果関係)について
【原告らの主張】
ア 本件建物の不同沈下及び変形は、本件マンション建築工事後に発生したこと
(ア) 本件南側マンション建築工事によって発生した本件建物の不同沈下及び変形は、株式会社藤木工務店が補修して、修復されていた。
原告らは、その後、本件マンション建築工事まで、本件建物の使用に何ら支障を感じなかった。
(イ) 本件マンション建築工事によって、本件地割れ及び本件基礎ひび割れが発生した。
本件マンション建築工事によって、本件建物の北側(本件マンション側)は、別紙四の三のとおり、最大一〇・五ミリメートル(P41)も沈下した。
本件マンション建築工事によって、本件建物の東庭縁側の東建具(ガラス戸)は、平成一八年一二月下旬ないし平成一九年一月下旬、つっかい棒を設置しなければならないほど、変形(湾曲)した。
イ 本件マンション建築工事によって本件土地の変形が生じたこと
(ア) 一般的に、地盤を掘削したとき、背後地盤には、鉛直方向に圧縮とせん断の変形が発生する。地盤が軟弱であったり、深く掘削したりすれば、すべり破壊に至るため、掘削底面から四五ないし六〇度の範囲で、地表面に引張力が発生して、変形が大きいとき、亀裂が発生する。
本件マンション土地周辺の深さ二ないし三メートルの地盤は、比較的緩く、掘削すれば、背後地盤に圧縮とせん断による変形を生じさせるものであった。
(イ) しかるに、本件マンション建築工事は、本件建物の北端に近接した本件マンション土地において、深さ約一メートルまで掘削して、約一〇日間放置したり、本件既存建物の基礎部分である幅約二メートル、深さ約一・七メートルのラップルコンクリートを撤去したり、親杭を設置するため、直径三〇センチメートル以上、深さ六メートルの孔を七〇センチメートル間隔で掘削したり、横矢板を設置するため、その間を掘削したりして、掘削面を露出するものであった。
薬液による地盤の硬化は、そもそも範囲や濃度が不確実で、現実に薬液が地表に漏出し、また、ラップルコンクリート等の撤去と共に除去されて、土留めとして効果がなかった。本件既存受前は、深さ約一メートルしかなく、土留めとして効果がなかった。本件既存建物の親杭は、老朽化した鉄道レールの廃材で、横矢板も、木製で、本件マンション建築工事当時、腐敗し又はラップルコンクリート等の撤去と共に除去され、いずれも土留めとして効果はなかった。
(ウ) 以上によれば、本件マンション建築工事によって本件土地の変形が生じ、これによって、前記アの本件建物の不同沈下及び変形が生じたことは明らかであり、本件マンション建築工事と本件建物の不同沈下及び変位との間には因果関係が存在する。
ウ 被告らの素因減額(民法七二二条二項類推適用)の主張に対して
所有権侵害において、過失相殺等はあり得ない。
本件建物は、違法建築ではないし、本件マンション土地にはみ出していたわけでもないから、「過失」と評価される事実はない。
【被告らの主張】
ア 本件マンション建築工事後に本件建物に生じた不同沈下及び変形の程度は僅かであること
(ア) 本件建物は、基礎が、レンガ積基礎(軸組及び壁を仕上げた後、レンガ積の上に移動し載せたもの)、葛石上建基礎(軸組がほぼ完成した後、石を下から取付け固定したもの)、玉石基礎(地盤を突き固め、自然石を置き、束を立てて、床のきしみを起こさせないもの)、無筋コンクリート基礎、コンクリートブロック基礎が混在し、無筋コンクリート基礎は、ジャンカや欠損があり、通気のため開口がはつりとられている等、連続性、一体性を欠き、本件建物の西棟が築一〇〇年以上、東棟が築四〇年以上の経年劣化した建物であった。
本件建物は、本件マンション建築工事前に既に、不同沈下及び変形があった。本件地割れ及び本件基礎ひび割れも、本件マンション建築工事前から存在した。
(イ) 本件マンション建築工事後、本件建物の北側は、別紙五の三のとおり、最大七ミリメートル(P41)沈下したにすぎない。
イ 本件マンション建築工事による不同沈下及び変形ではないこと
(ア) 次の点は、本件マンション建築工事による不同沈下及び変形ではないことを示している。
① モルタル仕上げで伸縮性がほぼない本件建物の北側(本件マンション側)外壁には、ひび割れが発生していない。
② 引張力に弱い無筋コンクリートである本件建物の東棟の基礎には、東西方向のひび割れが発生していない。
(イ) 本件建物の不同沈下及び変形の原因は次のような点にあり、本件マンション建築工事と本件建物の不同沈下及び変位との因果関係はない。
a 本件南側マンション建築工事
一般的に、地割れは、地盤の変形があった側により多く発生する。
本件地割れの南側には細かなひび割れがあった。
よって、本件地割れは、本件南側マンション建築工事によるものである。
b 本件建物二階の積載荷重
本件マンション建築工事前、本件建物の東棟六畳及び東棟八畳は、北側に沈下していた。したがって、本件建物二階に大きな積載荷重があった。
よって、本件建物の不同沈下及び変形は、本件建物二階の積載荷重によるものである。
c 本件土地の脆弱性
本件土地の深さ二ないし三メートルの地盤は、盛土で、本件土地内においても、圧縮性が不均等であった。
よって、本件建物の不同沈下及び変形は、本件土地の脆弱性によるものである。
d 本件土地の乾燥収縮
本件土地の周辺の地下水位は、平成一五年三月に一・八メートルであったのに対し、平成一八年五月に三・〇メートルと、大きく変動した。本件建物の床下は湿気が高い。本件土地の周辺の深さ二ないし三メートルの地盤は、盛土で、粘性が低い。よって、本件地割れは、本件土地の乾燥収縮によるものである。
e 地下鉄工事
平成九年に開業した京都市営地下鉄東西線の工事が、本件土地の近隣で行われた。大規模な地下水のくみ上げ等があったはずである。
よって、本件建物の不同沈下及び変形は、地下鉄工事によるものである。
ウ 素因減額(民法七二二条二項類推適用)
仮に、本件マンション建築工事と本件建物の不同沈下及び変位との因果関係があるとしても、前記ア(ア)及びイ(イ)の事情を考慮するべきである。
(2) 争点(2)(被告かねわの責任)について
【原告らの主張】
ア 親杭横矢板工法は、親杭と親杭の間を掘削してから横矢板を設置するまで、掘削面が露出することが避けられないし、横矢板を設置した後も、横矢板背後に掘削面と隙間が残るから、背後地盤が崩壊することは防止できても、変形することは避けられない。
本件建物は、本件土地上に基礎を設置する伝統工法に基づく建物であって、本件マンション土地との境界に近接し、薬液が漏出して地盤の硬化が計画どおりでなかったから、被告かねわは、本件土地の変形によって、本件建物が影響を受けることを予見できたし、本件覚書合意によって、予見していた。
したがって、被告かねわは、本件土地が崩壊することを防止するだけに止まらず、①本件土地との境界から十分離れたところを掘削面とするか、②親杭横矢板工法を採用しないか、③本件土地の地盤を硬化して、本件建物を下支えする等、本件土地の変形を防止する措置を講じるべきであった。
イ しかるに、被告かねわは、本件土地が崩壊しないようには配慮していたかもしれないが、本件土地との境界に近接したところを掘削面とし、本件建物の下支えをすることなく、親杭横矢板工法を採用して、本件土地を変形させ、本件建物の不同沈下及び変形を発生させた。
よって、被告かねわは、原告らに対し、不法行為責任を負う。
【被告らの主張】
ア 親杭横矢板工法は、本件土地及び本件マンション土地のような京都市中心部の比較的安定した土地において、土留めとして、一般的なものである。
イ 加えて、被告かねわは、本件マンション建築工事において、次のとおり、措置を講じたのであって、被告かねわに過失はない。
① 本件建物に接していた本件既存建物の土間コンクリートを、振動が伝わることを防止するため、本件既存建物の基礎部分の解体前に撤去した。
② 薬液により、本件土地との境界付近の本件マンション土地の地盤を硬化した。
③ ラップルコンクリートを、静的破砕工法(コンクリートに孔を空けて薬液を充填し、その膨張を利用した、騒音及び振動が少ない工法)で撤去した。
④ 親杭横矢板工法に当たり、山留構造計算を行った。
⑤ 騒音及び振動が少ないアースオーガ(回転するスクリューを地中にねじ込む機械)を使用し、掘削面を硬化するセメントミルクを注入しながら、親杭のための孔を掘削した。
⑥ 横矢板背後の掘削面との隙間には、セメントを混ぜた土を充填した。
⑦ 雨水の浸入を防止するため、コンクリート製の土留天板を設置した。
⑧ 鉄骨製の切梁や腹起こしを設置して、親杭横矢板を支保した。
⑨ 後記本件既存受前をコンクリートで補強した。
(3) 争点(3)(被告創生の責任)について
【原告らの主張】
ア 共同不法行為
被告創生は、本件マンション建築工事の注文主として、請負人である被告かねわと客観的関連共同関係がある。
また、被告創生は、経済的効率性を優先して、被告かねわが本件建物の不同沈下及び変形を発生させる親杭横矢板工法を採用することを決定した。
よって、被告創生は、原告らに対し、被告かねわと共同不法行為責任を負う。
イ 本件協定
被告創生は、本件協定に基づき、本件マンション建築工事によって発生した本件建物の不同沈下及び変形について、損害賠償責任を負う。
【被告創生の主張】
争う。
なお、本件協定は、聚楽壁の崩壊又はひび割れを想定したもので、散切等は「一見して判明する損傷」ではない。
(4) 争点(4)(原告らに生じた損害)について
【原告らの主張】
ア 本件建物の不同沈下及び変形の修復工事
(ア) 本件土地の地盤硬化 二九〇万九五二〇円(消費税八パーセント込)
(イ) 本件建物の補修 六九三〇万五八六八円(消費税八パーセント込)
(ウ) 本件建物の中庭及び東庭 二三三二万八〇〇〇円(消費税八パーセント込)
なお、本件建物は、築一〇〇年以上の京町家であって、呉服店「○○」のブランドイメージの主要な部分を担っていたから、安価な材料や技術で修復工事を行ってはならない。
イ 修復工事期間中の休業損害
一億四二六一万八九三三円/年(原告会社の平成二二年七月一日ないし平成二五年六月三〇日の売上総利益の平均)×六か月/一二か月=七一三〇万九四六六円
ウ 調査費用
原告会社は、株式会社国原技術に対し、本件マンション建築工事の前後において、本件建物の不陸調査及び内部調査を依頼し、五五万六五〇〇円を支払った。
エ 本件建物の瓦屋根の修復工事
原告会社は、本件建物の瓦屋根全部を、二六〇万円で修復した。
本件マンション建築工事による落下物等によって汚損及び破損した部分もあるから、約三分の一である八七万円が損害である。
オ 弁護士費用 一六八〇万円
カ 合計 一億八五〇七万九三五四円
なお、原告らは、第六回口頭弁論期日において、以上のとおりに、損害額を整理した(請求原因事実を変更した)が、請求の趣旨は減縮しないと述べた。
【被告らの主張】
本件建物の不同沈下の修復は、三〇万円又は六二万円で足りる。
本件建物の変形の修復は、二六万六七〇〇円で足りる。
第三当裁判所の判断
一 認定事実
前記第二・一の前提事実と証拠<省略>によれば、次の事実が認められる。
(1) 本件マンション土地、本件土地及び本件南側土地
ア 本件マンション土地、本件土地及び本件南側土地は、いずれも、別紙二のとおり、西側で道路に接し、その間口が狭く、奥行が長い形状、いわゆる「うなぎの寝床」である。
イ 地表から深さ二ないし三メートルまでの地盤は、盛土で、N値(標準貫入試験において、六三・五キログラムのハンマーを高さ七五センチメートルから自由落下させ、サンプラーを三〇センチメートル打ち込むのに要した落下回数であり、砂質土で、一〇以下で軟弱土、三〇以上で良質土と評価される。)が一〇以下であり、以深の地盤は、砂礫で、N値が五〇以上である。
地下水位は、深さ六ないし八メートルである。
(2) 土質工学の知見
地盤を掘削したとき、背後地盤には、鉛直方向に圧縮とせん断の変形が発生する。地盤が軟弱であったり、深く掘削したりすれば、すべり破壊に至るため、掘削底面から四五ないし六〇度の範囲で、地表面に引張力が発生して、変形が大きいとき、亀裂が発生する。
(3) 本件建物
ア 本件建物は、西棟、渡り廊下及び東棟から成る。
本件建物の西棟は、遅くとも明治三一年には存在した木造瓦葺二階建の京町家であり、基礎がレンガ積基礎(軸組及び壁を仕上げた後、レンガ積の上に移動し載せたもの)及び葛石上建基礎(軸組がほぼ完成した後、石を下から取付け固定したもの)で、床束が玉石基礎(地盤を突き固め、自然石を置き、束を立てたもの)である。
本件建物の渡り廊下は、昭和四〇年ころ増築され、基礎がコンクリートブロック積基礎である。
本件建物の東棟は、昭和四〇年ころ増築された鉄骨補強の木造瓦葺二階建の建物であり、基礎が無筋コンクリート基礎及びレンガ積基礎で、床束が玉石基礎である。無筋コンクリート基礎の一部は、通気のため、はつりとられている。
イ 株式会社藤木工務店は、本件南側マンション建築工事(平成一四年ないし平成一六年二月二三日)によって発生した本件建物の不同沈下及び変形の一部について、平成一六年九月一五日までに、補修した。
株式会社藤木工務店は、本件南側マンション建築工事によって発生した本件建物の東棟八畳、六畳及び廊下の壁及び開閉困難、東庭縁側犬走り亀裂等について、原告らに対し、賠償金として、平成一六年八月三一日までに、三五〇万円を支払った。
(4) 本件マンション建築工事
ア 本件マンション建築工事以前の本件マンション土地の状況
(ア) 本件マンション土地には、昭和五五年四月二四日、本件既存建物が建築されていた。
(イ) 本件マンション土地には、本件土地の土留めとして、別紙三のうちの「本件既存建物断面図」記載の「既存コンクリート製受前」のとおり、深さ約一メートルのコンクリート製の受前(以下「本件既存受前」という。)及び同記載「既存土留レール」のとおり、親杭と横矢板が設置されていた。
(ウ) 本件マンション土地には、本件既存建物の基礎として、別紙三のうちの「本件既存建物平面図」及び「本件既存建物断面図」のとおり、高さ約一・七メートル、幅約二メートルのラップルコンクリートが、隣地境界線沿いに五個ずつ設置されていた。
イ 本件マンション建築工事の経過
(ア) 本件既存建物の本体部分の解体(平成一八年三月二二日ないし同年五月一二日)
(イ) 準備(平成一八年五月一三日ないし同年一一月一日)
被告かねわは、株式会社東洋設計事務所に対し、本件マンション土地のボーリング調査を、株式会社青木組に対し、土留めとしての親杭横矢板工法の構造計算を依頼した。
被告かねわは、同年一〇月三〇日、本件既存建物の基礎部分の解体等の振動が本件建物に伝わるのを防止するため、本件建物に接していた本件既存建物の土間コンクリートを撤去した。
(ウ) 地盤の硬化(平成一八年一一月二日ないし同月一一日)
被告かねわは、地盤を硬化して本件土地の土留めとするため、別紙三のうちの「本件既存建物断面図」のとおり、本件土地との境界から二〇ないし三〇センチメートル近接した本件マンション土地において、約一メートルごとに、深さ約三メートルまで、薬液を注入した。
しかし、薬液の一部は、本件土地の中庭部分から漏出した。
(エ) 表層の掘削(平成一八年一一月二〇日ないし同月二九日)
被告かねわは、深さ約一メートルの本件既存受前を残し、本件マンション土地を、ラップルコンクリート天まで深さ約一メートル、掘削した。
(オ) ラップルコンクリート撤去
被告かねわは、静的破砕工法(コンクリートに孔を空けて薬液を充填し、その膨張を利用した、騒音及び振動が少ない工法)により、ラップルコンクリートを破砕、撤去し、埋め戻しをした。
このとき、ラップルコンクリート一か所あたり、約五・四平方メートル(=幅約二メートル×[深さ約一メートル+高さ約一・七メートル])の掘削面が露出した。
(カ) 親杭の打設(平成一八年一二月中旬ないし平成一九年一月中旬)
被告かねわは、アースオーガ(回転するスクリューを地中にねじ込む機械)を使用して、掘削面を硬化するセメントミルクを注入しながら、別紙三のうちの「本件マンション断面図」のとおり、約一メートルごとに、直径約三〇センチメートル、深さ約六メートルの孔を掘削し、H鋼を設置した。
(キ) 一次掘削(平成一九年一月一七日ないし同月下旬)
被告かねわは、親杭間ごとに、深さ約二メートル掘削して、高さ約二五センチメートルの横矢板約八枚を設置し、横矢板背後の掘削面との隙間に、セメントを混ぜた土を充填した。
このとき、約一平方メートル(=幅約一メートル×[深さ約二メートル-本件既存受前高さ約一メートル])の掘削面が順次露出した。
(ク) 本件既存受前補強(平成一九年一月中旬ないし同月下旬)
被告かねわは、別図三のうちの「本件マンション断面図」のとおり、本件既存受前と親杭横矢板との間に補強コンクリートを充填し、親杭横矢板の上部に土留天板コンクリートを設置した。
(ケ) 切梁及び腹起こしの構築(平成一九年一月下旬)
被告かねわは、深さ八五センチメートルに、親杭横矢板の水平方向に鉄骨製の腹起こしを、垂直方向に切梁を設置して、親杭横矢板を支保した。
(コ) 二次掘削(平成一九年一月下旬)
被告かねわは、親杭間ごとに、深さ約二メートルから更に深さ約二・二メートル掘削して、高さ約二五センチメートルの横矢板約八枚を設置し、横矢板背後の掘削面との隙間に、セメントを混ぜた土を充填していった。
このとき、約二・二平方メートル(=幅約一メートル×深さ約二・二メートル)の掘削面が順次露出した。
(サ) 基礎部分(平成一九年二月上旬ないし同年三月上旬)
(シ) 本体部分(平成一九年三月一八日ないし同年一二月初旬)
(ス) 竣工(平成二〇年二月七日)
(5) 本件建物の不同沈下及び変形並びに本件地割れ及び本件基礎ひび割れ
ア 本件建物の不同沈下の状態は、次のとおりである。
(ア) 本件南側マンション建築後
平成一六年一月一七日 別紙四の一
(イ) 本件マンション土地掘削工事前
平成一八年四月二四日 別紙五の一
(ウ) 本件マンション土地掘削工事後
平成一九年四月一〇日 別紙五の二
平成二三年一月一五日 別紙四の二
平成二三年一〇月一三日別紙四の四
イ 本件建物の変形の状態は、別紙六の「平成一八年三月二三日及び平成一八年四月二四日」欄、同「平成一九年四月一〇日」欄のとおりである。
ウ 本件地割れは、本件マンション建築工事の後、本件土地の北端から二ないし三メートル南側に、本件マンション土地との境界と平行に発生した。また、本件基礎ひび割れも、本件マンション建築工事の後、生じた。
すなわち、平成二三年一月一五日実施の調査で本件地割れ及び本件基礎ひび割れを発見したCは、平成一五年一月一六日ないし平成一六年一月一七日に八回(内、本件建物の床下の調査は三回)、原告らの株式会社藤木工務店に対する補修請求等のために、本件建物を調査した者であり、当時、本件地割れ及び本件基礎ひび割れを見過ごしたとは考えにくい。
また、本件土地の深さ二ないし三メートルの地盤は、以深の地盤と比較して、軟弱であり(前記(1)イ)、土質工学上、掘削面から四五ないし六〇度の範囲で地表に亀裂が生じる可能性があるところ(前記(2))、上記平成一六年の調査当時は既に、本件南側土地の本件土地に近接した掘削面の露出は解消されており、その後本件マンション建築工事までの約二年間、本件地割れ及び本件基礎ひび割れを発生させる原因になる事実は認められない。
さらに、本件地割れの最大幅は、平成二三年一月一五日にCが測定して九ミリメートルであったものが、平成二四年四月一七日に証人Eが測定して約一二ミリメートルと拡大していることからすると、被告らが主張する乾燥収縮、経年変化等が、本件建物の築年数(一〇〇年以上又は四〇年以上)と比較すれば極わずかというべき期間(平成一六年一月一七日ないし平成一八年二月二八日)で、急激に進行したとは考え難く、それらが原因となって、本件地割れ及び本件基礎ひび割れを発生させたとは認められない。
二 争点(1)(本件マンション建築工事と本件建物の不同沈下及び変位との因果関係)について
(1) 前記一の認定事実によれば、本件マンション建築工事と本件建物の不同沈下及び変位との因果関係については、以下のとおり考察される。
ア 本件建物は、本件マンション土地掘削工事(本件マンション建築工事のうち、本件既存建物の基礎部分の解体及び本件マンションの基礎部分の施工。平成一八年三月下旬ないし平成一九年二月上旬。)の後、本件建物の北側(本件マンション側)が、三ないし一〇・五ミリメートル沈下した(別紙四の三、別紙五の三)。これは、調査日時、調査者、調査方法が異なることによる差を考慮しても、有意な沈下というべきである。
また、本件建物は、現在、東棟六畳で北東の敷居天(P48)が南西の敷居天(P46)より八ないし九ミリメートル沈下し、東棟八畳で北西の敷居天(P50)が南東の敷居天(P56)より一四ないし一六ミリメートル沈下し、西棟六畳で北西の敷居天(P17)が南東の敷居天(P23)より六ないし七ミリメートル沈下した状態である(別紙四の二・四)。
さらに、本件建物は、本件マンション土地掘削工事の後、建具、枠、壁の隙間の増減等の変形が発生した(別紙六「平成一九年四月一〇日」欄)。
したがって、本件建物は、本件マンション土地掘削工事の後、受忍限度を超える不同沈下及び変形が発生した。
イ ところで、本件土地の深さ二ないし三メートルの地盤は、以深の地盤と比較して、軟弱であり(前記一(1)イ)、土質工学上、掘削面から四五ないし六〇度の範囲で地表に亀裂が生じる可能性があるところ(前記一(2))、本件マンション土地掘削工事の後、本件土地の北端(本件マンション側)から二ないし三メートル南側に本件マンション土地との境界と平行に本件地割れが発生した(前記一(5)ウ)。
そして、本件マンション土地掘削工事は、本件建物との境界に近接した本件マンション土地を掘削し、特に、ラップルコンクリート撤去の際に約五・四平方メートル、二次掘削の際に約二・二平方メートルの掘削面が露出するものであった(前記一(4)イ(オ)、(コ))。なお、地盤の硬化は、薬液が地表に漏出して(前記一(4)イ(ウ))、浸透する範囲が確実でなかったり、ラップルコンクリート(特に、中央のもの。別紙三のうちの「本件既存建物平面図」参照)撤去と共に除去されたりして、土留めとして、本件土地の崩壊はともかく、変形を防止できたものとは認められない。
ウ したがって、本件マンション土地掘削工事によって、現在、本件建物にみられる不同沈下及び変形を修復する必要がある損害が発生したと認められる。
(2) しかしながら、他方、前記一の認定事実によれば、以下のとおり、本件建物が、修復を必要とする、現在のような不同沈下及び変形に至ったことには、本件マンション土地掘削工事以外の要因の存在が認められる。
ア 本件建物の不同沈下は、現在、本件建物の北側(P33)と中央部(P62)との四四ミリメートルの差を最大とする複雑な不同沈下であり(別紙四の四)、一つの原因によるものとは認められない。
そして、本件建物は、本件マンション土地掘削工事以前、既に、東棟六畳で北東の敷居天(P48)が南西の敷居天(P46)より二ないし三ミリメートル沈下し、東棟八畳で北西の敷居天(P50)が南東の敷居天(P56)より七ないし八・五ミリメートル沈下し、西棟六畳で北西の敷居天(P17)が南東の敷居天(P23)より六ないし七ミリメートル沈下した状態であった(別紙四の一、別紙五の一)。
また、本件建物は、本件マンション土地掘削工事以前から、柱、建具、床、枠、壁等の隙間、亀裂、散切等が多数発生していた(別紙六「平成一八年三月二三日及び平成一八年四月二四日」欄)。
イ そして、本件建物の基礎は、連続性、一体性を欠くことから(前記一(3)ア)、本件土地の変形の影響は本件建物全体に明確に現れることはない反面、部分的には大きな影響を受けやすかった。
また、本件マンション土地掘削工事の前、本件既存建物の新築工事において、ラップルコンクリート設置のため、本件建物の北端に近接した本件マンション土地が、深さ約二・七メートルまで掘削されたにもかかわらず、本件既存受前は、深さ約一メートルしかなく、以深の土留めは、親杭が老朽化した鉄道レールの廃材で(前記一(4)ア(イ))、本件土地の変形防止の効果は疑わしかった。
さらに、本件マンション土地掘削工事の前、本件南側マンション建築工事において、本件建物の不同沈下及び変形が発生した(別紙四の一)。なお、その後の補修は一部に対するもので、金銭賠償により解決された部分もあったから(前記一(3)イ)、本件南側マンション建築工事の影響が全て回復されたとは認められない。
ウ したがって、本件建物の性質、本件既存建物の新築工事及び本件南側マンション建築工事によっても、現在、本件建物にみられる不同沈下及び変形を修復する必要がある損害が発生したと認められる。
(3) 以上を総合考慮すれば、本件マンション土地掘削工事は、本件建物の現在の不同沈下及び変形を修復する必要がある損害の発生について、その二割に寄与したと評価するのが相当である。
三 争点(2)(被告かねわの責任)について
前記一の認定事実によれば、本件マンション土地は、間口が狭く奥行が長いため(前記一(1)ア)、本件マンション土地に中高層住宅を建築する場合、本件土地との境界に近接した部分を掘削しなければならなかったところ、親杭横矢板による土留めは、その工程で掘削面の露出を避けられないため(前記一(4)イ(オ)、(カ)、(キ)、(コ))、背後地盤が崩壊することを防止できても、土質工学上、変形することは避けられなかったこと、しかも、薬液による地盤の硬化は、薬液が本件土地の地表に漏出し(前記一(4)イ(ウ))、その効果を疑わなければならなかったこと、被告かねわは、事前調査によって、本件建物には既に不同沈下や不具合があり、基礎が本件土地上に乗っているだけで本件土地の地盤の変形による影響を受けやすいため、本件土地の地盤に変形が生じれば、本件建物の不同沈下や不具合が受忍限度を超えるおそれが高いことを認識し得たことが認められる。
そうすると、被告かねわとしては、本件土地の崩壊だけではなく、変形も防止するために、親杭横矢板等による土留めに頼るのではなく、本件土地の地盤を硬化する等、本件建物を下支えして、本件建物の不同沈下及び変形を防止する措置を講じるべきであったというべきである。
したがって、これらの措置を講じなかった被告かねわには、原告らに対する不法行為責任が認められる。
四 争点(3)(被告創生の責任)について
前記第二・一の前提事実のとおり、被告創生は、本件マンション建築工事の注文主であるのと同時に、土地建物の有効利用に関する企画、調査、設計に加えて、建築工事等を目的とする者であるから(前記第二・一(1)ウ、同(3)ア)、住宅密集地域における狭小地上の中高層住宅の建築について、十分な知識を有していると認められる。そして、本件マンション土地及び本件土地のように軟弱な地盤を掘削すれば、周辺土地に影響を及ぼし、特に隣接した本件土地で、掘削面に近接して建てられている本件建物に対し、何らかの損傷を生じさせることは、容易に認識し得たはずである。
そうすると、被告創生は、被告かねわに対し、本件マンション建築工事を注文するに当たり、又は、施工中でも、本件建物の損傷を防止するよう、適切な指示を与え、かつ、被告かねわが採ろうとしている防止措置についての説明を受け、それを検討して、損傷防止に十分なものであることを確認した上で、本件マンション建築工事の注文又は指図をすべきであったというべきである。
したがって、これらを行わなかった被告創生は、原告らに対し、被告かねわと共同不法行為責任を負う。
五 争点(4)(原告らに生じた損害)について
(1) 損害額
ア 本件建物の不同沈下及び変形の修復工事 一八〇万六〇〇〇円
(ア) 本件土地の地盤硬化
本件建物の現在の不同沈下及び変形は、隣接する本件マンション土地及び本件南側土地の掘削によって、背後地盤に発生する鉛直方向の圧縮等の変形が原因と認められるところ(前記二)、現在、掘削面の露出は解消されているから、本件地盤を強化する必要は認められない。
(イ) 本件建物(中庭及び東庭を含む)の補修
a 京町家修復の専門業者と認められる宮崎木材工業株式会社による「○○店地盤沈下修繕工事」(基礎補強及びレベル調整、大工手間〔土台・柱・壁下地・天井・鴨居調整及び一部取外し再取付け〕、左官手間〔既存壁土再利用、不足分は新規補充〕等)の見積額九〇三万円が、必要かつ十分と認められる。
b 原告らは、本件建物の軸組のみを残した半解体修理として、合計九二六三万三八六八円を主張する。しかし、これは、現在の建築関係法令による規制を回避するため半解体を選択したもので、全解体を前提とした、本件建物の修復を超え、改良をも含むものであるから、本件建物の現在の不同沈下及び変形の修復として、必要とは認められない。
他方、被告らは、本件建物の本件マンション土地掘削工事後の変形に対する修理として二六万六七〇〇円を主張する。しかし、これは、前記認定の本件建物の現在の不同沈下及び変形の修復として、十分とは認められない。
(ウ) よって、被告らの不法行為との因果関係がある損害は一八〇万六〇〇〇円(=九〇三万円×寄与度二割〔前記二(3)〕)と認められる。
イ 修復工事期間中の休業損害 二六〇万一九八九円
(ア) 前記ア(イ)の工事期間は、その内容を考慮して、一か月間と認めるのが相当である。
そして、原告会社の平成一七年七月一日ないし平成二〇年六月三〇日及び平成二二年七月一日ないし平成二五年六月三〇日の売上総利益の平均は、月一三〇〇万九九四八円(≒[一億四七三五万〇六四三円+一億八〇二一万五二六六円+一億八一二九万三六〇〇円+一億三八六〇万九九八九円+一億四三三六万九四三二円+一億四五八七万七三七八円]÷六年÷一二月)であったところ、原告会社が呉服京染の販売等を業とする者であることも考慮すれば、休業損害は、上記売上総利益月平均額一三〇〇万九九四八円と認めるのが相当である。
(イ) よって、被告らの不法行為との因果関係がある損害は二六〇万一九八九円(≒一三〇〇万九九四八円×寄与度二割〔前記二(3)〕)と認められる。
ウ 調査費用
原告らは、被告かねわが依頼した株式会社アーク・ワンの調査(別紙五の一・二)が信用できなかったため、原告会社において、株式会社国原技術に対し、本件建物の不陸調査及び内部調査を依頼して五五万六五〇〇円の支払を余儀なくされたと主張する。
しかし、調査費用は、被告らに対する補償を求めるための費用であって、後記(2)のとおり認める弁護士費用の外、独立した損害と認めることはできない。
エ 本件建物の瓦屋根の修復工事
原告会社は、本件建物の瓦屋根全部を、二六〇万円で修復したところ、原告らは、本件マンション建築工事による落下物等によって汚損及び破損した部分もあると主張する。
しかし、被告かねわは、その直前、ナットを本件建物上に落下させ、本件建物の瓦一枚を破損したため、被告かねわの費用負担で、本件建物の瓦六枚を補修したことも考慮すれば(前記第二・一(3)キ)、本件建物の瓦屋根の上記修復工事と、被告らの共同不法行為(前記三及び四)との因果関係を認めることはできない。
(2) 損害の帰属及び弁護士費用
ア 原告X1
本件建物を持分二分の一の割合で共有する原告X1の損害は、被告らの不法行為との因果関係のある本件建物の不同沈下及び変形の修復工事一八〇万六〇〇〇円(前記(1)ア)の二分の一である九〇万三〇〇〇円と認める。
また、本件事案の内容及び前記損害額等の諸般の事情を総合考慮すると、被告らの不法行為との因果関係のある原告X1の弁護士費用は、九万円と認める。
イ 原告X2
本件建物を持分二分の一の割合で共有する原告X2の損害は、被告らの不法行為との因果関係のある本件建物の不同沈下及び変形の修復工事一八〇万六〇〇〇円(前記(1)ア)の二分の一である九〇万三〇〇〇円と認める。
また、本件事案の内容及び前記損害額等の諸般の事情を総合考慮すると、被告らの不法行為との因果関係のある原告X2の弁護士費用は、九万円と認める。
ウ 原告会社
本件建物で呉服店を営業する原告会社の損害は、被告らの不法行為との因果関係のある休業損害である二六〇万一九八九円(前記(1)イ)と認める。
また、本件事案の内容及び前記損害額等の諸般の事情を総合考慮すると、被告らの不法行為との因果関係のある原告会社の弁護士費用は、二六万円と認める。
六 結論
以上によれば、原告X1及び原告X2の請求は、被告らに対し、民法七一九条一項前段・七〇九条に基づき、それぞれ九九万三〇〇〇円及びこれに対する不法行為の日の後の日である平成二一年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり、原告会社の請求は、被告らに対し、民法七一九条一項前段・七〇九条に基づき、二八六万一九八九円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから、それぞれの限度で認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 比嘉一美 裁判官 永野公規 島田理恵)
別紙<省略>