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京都地方裁判所 平成21年(ワ)4484号 判決 2010年11月26日

主文

1  原告の請求のうち,被告に対し,本判決確定後の賃金支払を求める部分を却下する。

2  原告が被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

3  被告は,原告に対し,平成21年7月から本判決確定まで毎月末日限り18万4000円を支払え。

4  訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

5  この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  主文2項と同旨。

2  被告は,原告に対し,平成21年7月から毎月末日限り18万4000円を支払え。

第2事案の概要

被告による雇止めをされた原告が,雇止めが無効であると主張して,被告に対し,労働契約に基づき,労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに,雇止め以降1か月18万4000円の賃金の支払を求めた事案である。

1  争いのない事実等(証拠の引用がない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  被告は,株式会社A(以下「親会社」という。)の子会社として発足した株式会社B(以下「B社」という。)が,平成19年3月に同様の子会社である株式会社C(以下「C社」という。)と統合して,株式会社Cとなり,同年7月,社名を現在の商号に変更した。

親会社は,百貨店を主要取引先として,マネキンの貸し出しや,百貨店における内装展示等を主力業務とする会社であり,被告は,子会社として,マネキンの製造,メンテナンス,内装展示のための陳列器具の商品管理及び物流業務等を業とする会社である。

(2)  親会社は,平成14年10月に民事再生開始決定を受け,平成15年3月認可決定を受けた後,平成18年4月終結決定を得て,その後,計画上の履行を完了した。

(3)  原告は,B社で勤務していたが,前記統合により被告において勤務してきた。原告は,被告の西営業所において,商品管理業務,マネキンメンテナンスとそれに付随する業務を担当していた。

(4)  原告は,平成20年3月3日付けで,被告から再雇用労働条件通知書(甲5の1)の交付を受けたが,そこには,「退職に関する事項」として,「契約期間満了の1ヶ月前までに契約書の更新について通知し,就業規則に定める条件を満たしているときは契約が更新されることがある。」と記載されていた。

(5)  原告は,平成20年6月a日の誕生日(60歳)をもって被告を退職し,翌日付けで就業規則41条に基づき,平成21年6月15日を再雇用期限として再雇用された(以下「本件再雇用契約」という。)。

この再雇用の際に作成された契約書(甲5の2)には,次のような条項が存在した。

第13条 契約の更新において,次の各号のいずれかに該当する場合は契約の終了とする。

1  業務量の減少等により契約の必要がなくなったとき。

2  職務遂行能力及び職務技能が会社の期待する程度にないとき。

3  勤務態度,勤務成績が悪いとき。

4  会社の経営の都合で人員削減の必要上やむを得ないとき。

5  協調性がなく従業員同士の協力が得られないとき。

6  現在の労働条件と異なった条件での契約更新を拒んだとき。

7  身体又は精神が健康でなく契約を更新する事が難しいと会社が判断したとき。

8  その他,前各号に順ずるやむを得ない事情があるとき。

(6) 被告は,平成20年7月24日付けで,従業員代表である原告との間で,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」という。)9条2項の規定により,協約の有効期間を同月16日から平成21年7月15日までとする継続雇用制度の選定基準に関する労使協定(以下「本件協定」という。)を締結したが,本件協定(乙6)には,次のような規定が存在した。

第1条 定年は,当社就業規則の定めによるが,定年後も継続的に働くことを希望する者で,次の各号に掲げる基準のいずれにも該当する者については,1年毎の契約の更新により再雇用(以下,「継続雇用」)するものとする。

①  勤務に精勤する意欲のある者

②  体力的に勤務継続可能である者

③  勤務に支障がない健康状態にある者

ただし,会社は必要に応じ医師の診断書を提出させることがある。

④  過去3年間の出勤率が80%以上で,当社就業規則に定める懲戒処分該当者ではないこと

⑤  過去3年間の人事考課(勤務成績・態度・協調性・能力等)が普通の水準以上であること

⑥  過去3年間に無断欠勤がないこと

第2条 継続雇用の上限年齢は次のとおりとする。

①  平成19年4月1日~平成21年3月31日の間に60歳定年到達者・・・64歳

②  (略)

(7) 被告は,本件協定の締結に先だち,平成20年2月16日に就業規則の内容を変更し,同年7月24日,D労働基準監督署に届出をしたが,変更後の就業規則(乙7)には,次のような規定が存在した。

第41条

1  従業員の定年は満60歳とし,60歳に達した日をもって退職とする。

ただし,高年齢者雇用安定法第9条2項に基づく労使協定の定めるところにより,次の各号に掲げる基準のいずれにも該当する者については再雇用する。

(1)  勤務に精勤する意欲のある者

(2)  体力的に勤務継続可能である者

(3)  勤務に支障がない健康状態にある者

ただし,会社は必要に応じ医師の診断書を提出させることがある。

(4)  過去3年間の出勤率が80パーセント以上で,当社就業規則に定める懲戒処分該当者ではないこと(通勤災害・業務中の災害による休職期間,冠婚葬祭に係る特別休暇,年次休暇消化の日数を除く)。

(5)  過去3年間の人事考課(勤務成績・態度・協調性・能力等)が普通の水準以上であること

(6)  過去3年間に無断欠勤がないこと

2  再雇用は原則1年単位の契約とし,前項を勘案して反復更新するものとする。

3  再雇用の上限年齢は次のとおりとする。

(略)平成19年4月1日~平成21年3月31日の間に60歳定年到達者・・・64歳(以下略)

4  再雇用に関する労働条件等については,個別に定める労働契約(労働条件通知書)によるものとする。

(8) 被告は,平成21年3月27日,原告に対し,「業績不振のため」を理由として,同年6月15日をもって原告との雇用契約を期間満了により終了させる(以下「本件雇止め」という。)旨の雇用契約満了予告通知(甲2)をした。

(9) 原告の1か月あたりの基本給は,18万4000円である(甲5の2,12)。

2 争点

(1)  本件雇止めについて解雇権濫用の法理が適用又は類推適用されるか。

(原告の主張)

ア 高年齢者雇用安定法9条及び本件協定の趣旨は,日本の企業で広く普及している60歳定年制のもと,厚生年金の支給開始年齢が従前の60歳から順次引き上げされ,今後も65歳まで引き上げられることにも関連し,60歳定年者の退職後の職業安定を計ることで,年金の支給開始まで,またはその後についても,高年齢者等の生活の糧を確保し,「福祉の増進」に資するようにしようというものである。

イ 前記アの趣旨を踏まえれば,本件協定1条に定める特定の除外事由がない限り,原告は64歳まで雇用されるのであって,実質的には60歳定年後64歳に達するまでの有期雇用というべきである。

そうすると,本件雇止めは,有期雇用を期間途中で解雇したものというべきであり,解雇権濫用の法理の適用があり,かつ,やむを得ない事由(民法628条)があるとはいえない本件の場合においては,無効といわざるを得ない。

ウ 前記アの趣旨を踏まえれば,高年齢者雇用安定法,本件協定及び就業規則により,原告には64歳に達するまでの間,被告における雇用継続に対する正当かつ合理的期待が生じていたといえ,解雇権濫用の法理が類推適用される。

(被告の主張)

争う。

ア 高年齢者雇用安定法が平成16年に改正されるにあたって,平成15年10月以降,労働政策審議会は,厚生労働省が同年4月に設置した「今後の高年齢者雇用対策に関する研究会」の意見を踏まえた検討を行い,平成16年1月20日,厚生労働大臣に対し,「今後の高齢者雇用対策について(報告)」と題する建議を行っている。その建議においては,60歳を超えると健康や退職の面等で個人差が拡大するため,事業主に対して一律に65歳までの雇用を求めることは困難であるという指摘もあることも踏まえて,「継続雇用制度についても,一律の法制化では各企業の経営やその労使関係に応じた適切な対応が取れないとの意見もあることから,各企業の実情に応じ労使の工夫による柔軟な対応が取れるよう,労使協定により継続雇用制度の対象となる労働者に係る基準を定めたときは,当該基準に該当する労働者を対象とする制度を導入することもできるようにする事が適当である。」,「企業経営上の極めて困難な状況に直面しているケース等については,企業の実情を十分に考慮した助言等に止める等その施策にあたって配慮が必要である。」と,事業主側の事情等も考慮すべきであるとしている。

したがって,高年齢者雇用安定法9条は,直ちに強行法規性を備えるとはいえない。

イ 原告との間の雇用契約書(甲5の2)においては,13条で,業務量の減少等により契約の必要性がなくなったとき(1号),会社の経営の都合で人員削減の必要上やむを得ないとき(4号)には契約更新が行われないことが明記されている。本件協定には,こうした要件についての規定がないが,前記アの制度趣旨に照らせば,当然の要件であり,原告もこうした規定を十分理解して本件協定を調印したものである。

本件雇止めは,同契約条項に基づいて契約更新を行わなかったもので,解雇権濫用の法理が適用されることはない。

(2)  本件雇止めが解雇権を濫用したものといえるか。

(被告の主張)

ア 親会社は,世界的同時不況の渦中にあり,国民の消費動向に著しく左右される百貨店業界を主要取引先としており,平成21年2月期において,売上高約30億円,売上総利益約13億5000万円,営業損失約1990万円,経常損失約1770万円と赤字転落した(乙4)。

イ 被告は,親会社からの業務委託料等がほぼ唯一の収入源となっているが,前記アのような事情によって,親会社から従前の業務委託料を維持できないと通告されるなど,未曾有の経営危機に瀕していた。実際,被告は,既に1億を超える債務超過状態にあり(乙3),平成21年5月期の業績は,売上高約5億1800円,売上総利益約2億2000万円,営業損失約700万円というように,いきなり赤字転落した(なお,営業外収入の1586万円は,中国での生産委託先の債務不履行等による賠償金収入であり,極めて一時的なものである。)。

したがって,原告の契約更新を行わないことについて,「業務量の減少等により契約の必要がなくなったとき。」,「会社の経営の都合で人員削減の必要上やむを得ないとき」との事由があることは明らかで,契約更新をしなかったことは適法である。

ウ 整理解雇の4要素については,次のような事情がある。

① 前記イの事情により,人員削減の必要がある。

② 被告は,平成20年12月に契約社員1名を雇止めとし,平成21年2月16日から役員及び管理職の賃金をカットし,派遣社員1名の契約を打ち切ったほか,同年6月,契約社員2名を雇止めにし,契約社員4名について雇用形態をアルバイトに変更し,同年7月16日からは非正規雇用ではない一般従業員について一時休業を実施するなど,解雇回避努力を尽くしている。

③ 本件雇止め当時,高年齢者雇用安定法に基づく再雇用者は原告を除いて5名いた。このうち2名(E・F)については,業務上の必要性(Eはマネキン等の塗装技術に優れており,後輩への指導をしてもらう必要があり,F は,大阪支店に送り込む計画のある大卒の将来の営業候補者について現場実務の指導をしており,中途で辞めさせるわけにはいかない。)があり,他方で,人件費を削減する必要があったため,アルバイト待遇として契約変更を行い,残留させた。うち2名(G・H)については,G は生産管理及び工程管理等に秀でており,後輩への指導をしてもらう必要があったこと,H は元々工場長経験者で様々な知識経験等が豊富であったことから,顧問待遇(週2~4日勤務で月額8万円の給与)に契約内容を変更して残留させた。残りの1名(I)は,配送等のトラック運転手として残留させた。

被告は,原告についても,親会社の他関連会社への出向,再就職や被告の他部署への配転の道も模索したが,いずれも経営的に原告を受け入れる余地はないと回答されたため,やむなく契約更新を行わないこととしたにすぎず,人選選定に不平等な点はない。

④ 被告は,平成21年2月13日,原告と協議した際,リーマンショックに端を発した世界的同時不況の影響により親会社の百貨店等からの受注が減少し,子会社である被告への委託量や委託額が減少したこと,同月16日には役員及び管理職の賃金をカットし,派遣社員の契約を打ち切ることとしていること,別の契約社員についても同年6月で雇止めとすることとしていること,契約社員1名については雇用形態をアルバイトに変更するようお願いする見込みであること,会社として苦渋の選択であるが,万やむを得ない措置として一人ひとりに事情を説明しながら承諾をいただいていることなどを相当の時間を割いて説明した。

また,被告は,同年3月27日,原告と協議した際,人件費だけでなく,様々な角度から対策を講じていることを改めて説明し,その中で,同年2月13日に説明した内容を繰り返し説明した。しかし,原告は,雇止め撤回を求めるのみで,被告側の説明に耳を貸そうとせず,被告等の財務諸表についても,1期分を提示したところ,原告側は,書類を確認することなく,「会社は要求を拒否した」と言い放って,席を立ってしまった。

(原告の主張)

争う。

ア 被告における債務超過額は,減少している。

イ 平成21年8月においては,売上げ総利益が平成20年,平成19年の同月比で増加しており,売上げ総利益は回復している。

ウ 売上総利益率(売上総利益÷売上高×100)は,36期は35.8%,37期は42.5%,38期(6月ないし8月)は48.6%と著しく上昇している。

エ 被告が負っている債務自体,親会社によって意図的に作られたものである可能性がある。

オ 親会社は,売上総利益率が上昇しているし,自己資本比率も高い。貸倒れの対象となる売上債権約6億円に長期貸付金を加算した合計額が10億円であるのに対し,内部留保である貸倒引当金が2.6億円もあり,異常に潤沢である。親会社は,1773万円の経常赤字を出しているのに,同引当金を取り崩して460万円の利益を計上し,180万円の株主配当までしている。

カ 被告は,本件雇止め後に一時帰休を実施するなどしており,本件雇止めの前に,これを回避するための努力をしたとはいえない。

第3争点に対する判断

1  認定事実

前記争いのない事実等に証拠(以下に個別に掲げるほか,甲35,乙5,14,証人 J,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。

(1)  高年齢者雇用安定法の改正に伴い,事業主は,継続雇用制度等の導入を義務付けられるようになり(平成18年4月1日施行),この義務を達成するために,原則として対象者に係る基準について労使協議を行い,労使協定に基準を記載した上就業規則を変更し,これを届出すべきものとされ,厚生労働大臣がこうした制度等が導入されていない事業主に対して指導,助言,勧告をすることはできるとされたものの,罰則の対象とする旨の規定は設けられなかったほか,労使協定締結の努力をしても労使協定が締結できない場合は,大企業については平成21年3月31日まで,常時雇用する従業員が300人以下の中小企業については平成23年3月31日までの間は,労使協定を締結せずに就業規則等に前記の基準を定めれば,前記の義務を達成したことになるものとされた(甲26)。

被告は,上記法改正を受けて,平成20年2月16日,再雇用制度に関する就業規則を制定した(乙7)。この就業規則41条では,従業員の定年は60歳とし,60歳に達した日をもって退職とするが,高年齢者雇用安定法9条2項に基づく労使協定の定めるところにより,勤務に精勤する意欲があること,体力的に勤務継続可能であること等所定の基準を満たせば,再雇用されること,及び再雇用は原則1年単位の契約とし,前記基準を勘案して反復更新されることが規定されるとともに,再雇用に関する労働条件等については,個別に定める労働契約(労働条件通知書)によることとされていた。

なお,被告は,B社とC社が平成19年3月1日に統合してできた会社である。原告は,もともと親会社の従業員であったが,上記統合前の平成7年4月ころから子会社のB社に勤務していた。同社では,平成18年5月17日ころ,再雇用制度導入のために就業規則の変更を行い,同日,労働基準監督署に届け出たが,その内容は,被告においてその後に定められた上記就業規則41条と全く同様であった(甲30)。

(2)  原告は,平成19年12月18日ころ,継続雇用についての希望を聴取され,再雇用を希望する旨被告に伝えたので,平成20年3月3日付けで,被告から再雇用労働条件通知書(甲5の1)の交付を受けたが,そこには,「退職に関する事項」として,「契約期間満了の1ヶ月前までに契約書の更新について通知し,就業規則に定める条件を満たしているときは契約が更新されることがある。」と記載されていた。

(3)  原告は,平成20年6月a日の誕生日(60歳)をもって被告を退職し,翌日付けで就業規則41条に基づき,平成21年6月15日を再雇用期限として再雇用されたが,この再雇用の際に作成された平成20年6月b日付け契約書には,業務量の減少等により契約の必要がなくなったときや会社の経営の都合で人員削減の必要上やむを得ないときには,契約を更新せず,契約の終了とする旨が記載された条項が存在した。

(4)  被告は,平成20年7月24日付けで,従業員代表である原告との間で,高年齢者雇用安定法9条2項の規定により,本件協定を締結した。

(5)  被告は,平成21年2月2日付けで,K労働組合の委員長である原告に対し,「未曾有の不況乗り切り策についての協議申入書」(甲6,以下「本件申入書」という。)を交付したが,本件申入書には次のとおり記載されていた。

「 米国発の金融危機に端を発した昨年来の未曽有の不況については,既に新聞・テレビ等のメディアで詳しく報道されている通りです。

Aの主力取引先である百貨店業界も,消費者の買い控えによる売上の落ち込みが激しく,昨年下半期からAを含む業界各社に値引きの要請のほか,予定されていた改装工事の凍結などの通知が矢継ぎ早に出される事態となっています。

民事再生の傷がまだ癒えないAにとって,この危機を乗り切るためには,大幅なコストのカットと人件費を含む諸経費について大胆な削減策を講じざるを得ず,既に役員・部課長級の賃金の見直しが実施されました。コストの削減については,Lに委託しているマネキンのメンテナンス料金と,商品管理手数料のカットが要請されており,当社としても徹底した合理化によりこの要請を受け入れざるを得ないと考えております。

役員給与を始めとして会社として打てる手は全て打っていく所存ですが,あらゆる手を打ち尽くしたうえで尚どうにもならない部分については,経営者として真に辛く申し上げにくいことではありますが,会社の存続のため万やむを得ず社員の皆様にもご協力をお願いしなければならないと考えております。

昨年お約束致しました4月からのベースアップに向けての2月を目途とした賃金の団体交渉は,上のような事情で今年は見送らざるを得ません。また,今年度の実施に向けて調整中であった新賃金制度につきましても,経営状況の好転が計られるまでは決着しても実現できない状況であることから議論の先送りをお願いしたいと思います。

今はむしろ,雇用の確保と賃金の見直しの両面からの選択肢を模索する時期であり,労使双方が力を合わせてこの難局を乗り越えられる結論を導き出せるような話し合いを行うべきと考えます。つきましては,以下の日時に協議の場を設定いたしましたのでご参集くださるようお願い致します。」

(6) 原告は,平成21年2月13日,他の執行委員らとともに,被告のM専務(以下「M専務」という。)及び J 室長(以下「J室長」という。)と団体交渉をした。被告代表者及び原告が記名捺印した団体交渉議事録(甲7)には,次のような内容などが記載されていた。

「(1) 未曽有の不況乗り切り策についての会社の説明

昨年末,数千万円の営業赤字を出したA本体から,Lへの業務依託料のカットの要請が有り,これを受け入れざるを得ない。

そうなると,Lとしても人件費に手を付けざるを得なくなり,役員・部課長の賃金カットは2月16日より実施の方向である。

一般社員への賃金カットは,現時点では予定していない。すでに昨年12月に契約社員1名の契約を打ち切り,今回は家賃補助の見直し2名,契約社員の契約打ち切り1名を本人の了解済みで2月16日から実施する。また雇用形態の見直し1名を実施する予定。

(2) 会社の提案

今回,契約社員の処遇について,雇い止めを含めて見直しをお願いしたい。その中にN氏の本年6月15日をもっての契約打ち切りが含まれている。」

(7)  原告は,平成21年2月26日付けの「質問事項及び要請書」(甲8)をもって,被告に対し,次のことなどを求めた。

① 「L㈱」及び「A㈱」の貸借対照表,損益計算書,販売費及び一般管理費の明細,過去3年分を提出すること。

② 「未曽有の不況乗り切り対策」の一環として会社が行おうとしている経営政策を,具体的に明らかにすること。(実施した政策も含む)

③ 上記②項を実施した場合,削減される見込みの1年間の経費(金額)を具体的に明らかにすること。

(8)  被告は,平成21年3月10日付け回答書(甲9)をもって,原告に対し,次のように回答した。

(4)①に対する回答

「株式会社Aにつきましては第62期(2008.03.01 ~ 2009.02.28),株式会社Lにつきましては第37期(2008.06.01 ~ 2009.02.28)の貸借対照表,損益計算書,販売費及び一般管理費の明細書を開示致します。」

同②に対する回答

「a) 人件費の削減

・ 経営者,管理職の賃金カット(実施済)

・ 契約社員の雇い止め(実施済1名,実施予定2名)

・ 契約社員の契約形態変更(アルバイトへの転換1名,顧問への転換2名)

・ 派遣社員の契約打ち切り(実施済1名)

b) 海外経費の削減

・ 上海事務所委託費の減額(3月より32万円減,9月より52万円減)

c) 電気代等諸経費の削減

・ 住宅補給金既定の運用

・ その他」

同③に対する回答

「a) 月額90万円(年額1080万円)

b) 年額504万円

c) 年額約100万円

上記合計で約1700万円」

(9)  原告は,平成21年3月27日,他の執行委員らとともに,被告のM専務及びJ室長と団体交渉をした。M専務及び原告が記名捺印した団体交渉議事録(乙1)には,次のような内容などが記載されていた。

「 組合が2月26日付けで,「株式会社A」と「株式会社L」の過去3期分のB/SとP/Lのコピー提示を要請したが,会社は,3月10日付け回答書で「株式会社Aにつきましては第62期(2008.03.01 ~ 2009.02.28),株式会社Lにつきましては第37期(2008.06.01 ~ 2009.02.28)の貸借対照表,損益計算書,販売費及び一般管理費の明細書を開示いたします。」と回答した。

団体交渉で再度要請したが,会社は「1期分のみ団体交渉の場で開示」したが,コピー並びに3期分の提出については会社は「1期分の開示でご理解いただけると思う。」と説明,労使の意見がまとまらず物別れとなった。」

「 組合は,指名解雇と同等な「N」氏の雇い止めを回避するための一つの手段として

① 希望退職の実施

② 賃金カットの実施

③ 協力会社に委託している業務の見直し。

④ 派遣社員やアルバイト社員の業務の見直し。

⑤ 一時帰休の実施。

などが模索できないかを提案したが,会社は,「会社を維持するための手順として,まず経営者の賃金カットを実施した。次に管理職の賃金カットも既に実行し,その上で派遣社員等の非正規社員のカット,次に有期契約の社員というように,一般的に企業が実施しているやり方を実行している」と説明し,さらに上の①から⑤についての見解を説明しようとしたが,組合は,「それ以上の説明は不要」として「N氏の雇い止めは撤回するや否や」の回答のみ要求したが,会社は「可否のみを要求するのであれば現時点考えられない」と回答した。」

(10)  被告は,平成21年3月27日,原告に対し,「業績不振のため」を理由として,同年6月15日をもって原告との雇用契約を期間満了により終了させる旨の雇用契約満了予告通知(甲2)をした。

(11)  被告の決算状況は,次のとおりである。第36期(平成19年6月1日~平成20年5月31日)において,売上高約6億1500万円,売上総利益約2億2800円,販売費及び一般管理費約2億3500万円,営業損失約630万円,当期純利益約240万円(営業外収益のうち約1000万円は倉庫料名目での親会社からの収入),平成20年5月末時点では約1億1300万円の債務超過であった(乙8)。第37期(平成20年6月1日~平成21年5月31日)においては,売上高約5億1800万円,売上総利益約2億2000万円,販売費及び一般管理費約2億2800万円,営業損失約700万円,当期純利益約650万円(営業外収益の約1600万円は,倉庫料名目での親会社からの収入と中国での生産委託先の債務不履行等による賠償金),平成21年5月時点で約1億0700万円の債務超過であった(乙3)。親会社の平成21年2月期における決算状況は,売上高約30億8000万円,売上総利益約13億5000万円,販売費及び一般管理費約13億7000万円,営業損失約1990万円,経常損失約1770万円となっていた(乙4)。

(12)  被告には東営業所と原告が所属する西営業所があるところ,従業員の推移は,次のとおりである。平成20年12月に西営業所の契約社員(O)の雇止め(ただし,主として本人の資質の問題により雇止めされたものである。),平成21年1月に西営業所の契約社員(P)の雇止め(ただし,Pの代わりに,同年1月と2月に賃金のより低いQとRを契約社員として採用),同年2月に東営業所の派遣社員(S)の契約打切り,同年4月に大学卒(T)を新規採用(ただし,まもなく親会社に移籍予定),同年6月に原告の雇止め,原告と同じ定年後の再雇用者である西営業所の契約社員4人(F,E,H,G)をアルバイト又は顧問待遇への変更が行われた。同月以降では,東営業所で4人の下請業者の契約を打ち切って,派遣社員(U,V,W,X)を採用し,同年12月に希望退職を募り,東営業所で正社員1名が応募し,平成22年1月に退職した。なお,原告と同じ定年後の再雇用者のもう一人(I)は,そのまま再雇用が継続されている。

2  判断

(1)  本件雇止めについて解雇権濫用の法理が適用又は類推適用されるか(争点(1))について

ア 高年齢者雇用安定法は,定年を65歳に引き上げ,その効力を事業主と労働者間に当然に及ぼすものではなく,各事業主に努力義務を課すものであること,被告が平成20年2月16日に制定した再雇用制度に関する就業規則41条では,従業員は,60歳の定年に達した後も,同条の定める継続雇用基準を満たす場合に,原則1年単位で再雇用され,上限年齢(原告の場合は4歳)に至るまでは反復更新が予定されていたこと,原告は平成20年6月a日に60歳になって定年を迎えたが,上記就業規則の定めに基づき,翌b日付けで平成21年6月15日までの間再雇用されたことに照らすと,原告と被告との間で締結された本件再雇用契約が,64歳までの有期雇用であったと解することはできない。

イ ところで,被告は,就業規則41条4項が「再雇用に関する労働条件等については,個別に定める労働契約(労働条件通知書)によるものとする。」とし,本件再雇用の契約書13条で会社の経営上の理由により契約更新が行われない場合を規定していることから,原告が主張するような定年後の継続雇用に対する合理的期待が生じる余地はない旨主張する。

しかし,就業規則41条1項,4項を素直に読むと,4項のいう「労働条件等」とは,賃金や労働時間等,雇用の継続を前提とした労働条件等を意味するのであって,再雇用契約の更新に関わる条件を意味するわけではないと解される。したがって,上記契約書13条の規定は,就業規則に違反し,無効である(労働契約法12条)。

就業規則で,再雇用に関し,一定の基準を満たす者については「再雇用する。」と明記され,期間は1年毎ではあるが同じ基準により反復更新するとされ,その後締結された本件協定でも,就業規則の内容が踏襲されている。そして,現に原告は上記再雇用の基準を満たす者として再雇用されていたのであるから,64歳に達するまで雇用が継続されるとの合理的期待があったものということができる。

ウ そして,原告が60歳定年までの間,平成7年4月以降統合前のB社及び統合後の被告において期間の定めなく勤務してきたことを併せ考えると,本件再雇用契約の実質は,期間の定めのない雇用契約に類似するものであって,このような雇用契約を使用者が有効に終了させるためには,解雇事由に該当することのほかに,それが解雇権の濫用に当たらないことが必要であると解される。

したがって,本件雇止めには,解雇権濫用法理の類推適用があるとするのが相当である。

(2)  本件雇止めが解雇権を濫用したものといえるか(争点(2))について

ア 前記のとおり,本件雇止めについては,解雇権濫用法理の類推適用があると解するのが相当であるところ,被告は,原告の雇止めの理由として,「業績不振のため」を挙げている。

そこで,原告に対する雇止めが解雇権の濫用に当たらないかを判断するに当たっては,本件雇止めが整理解雇の要件を満たすかどうかを検討する必要があるところ,整理解雇については,人員整理の必要性があったか,解雇を回避する努力がなされたか,被解雇者の選定基準に合理性があるか,労働者や労働組合に対する説明・協議が誠実になされたかという点を総合的に考慮して判断するのが相当である。

イ そこで,上の諸点を検討するに,まず,人員整理の必要性については,被告の売上高は,第37期(平成20年6月1日~平成21年5月31日)を第36期(平成19年6月1日~平成20年5月31日)と比較すると,約1億2000万円減少しており,販売費及び一般管理費の削減等で営業損失の拡大はわずかであるが,被告は,百貨店を主要取引先としてマネキンの貸出し等を主力業務とする親会社の子会社として,マネキンの製造,メンテナンス等を業とする会社であり,昨今の百貨店各店の業績からすると,原告を雇止めにした平成21年6月時点において,被告における今後の売上高の上昇が期待できる見込みに乏しく,人員を削減すべき必要性を認めることができる。

しかしながら,解雇回避努力の点をみると,前記1で認定のとおり,平成21年6月にされた原告に対する本件雇止めより以前においては,平成20年12月に西営業所の契約社員(O)の雇止め,平成21年2月に役員及び管理職の賃金カット,東営業所の派遣社員(S)の契約打切り,原告の雇止めと同じ時期に西営業所の契約社員(F,E,H,G)をアルバイト又は顧問待遇に変更する措置を実施しているものの,西営業所の契約社員(O)については主として本人の資質の問題で雇止めにされたものであるし,平成21年4月には,親会社に移籍する予定とはいえ新規に大学卒を採用している。そして,被告において一時帰休を実施したのは平成21年7月,希望退職を募集したのは同年12月であって,こうした経緯からすると,被告において,本件雇止め以前にそれを回避すべき努力義務を尽くしたということはできない。

また,選定基準の合理性の点についても,原告以外の再雇用労働者5人(F,E,H,G,I)は,身分がアルバイト等に変更になった者もいるが,再雇用が継続されているのに,原告のみが雇止めになった理由について,被告において,5人が必要な理由を主張しているものの,必ずしも説得力のある理由とはいい難い。

ウ 以上の検討からすると,本件雇止めについて,整理解雇の要件を満たしていると認めることはできず,被告の業績不振を理由とする本件雇止めは,解雇権の濫用に当たり無効である。

(3)  まとめ

以上のとおり,本件雇止めは無効であって,原告の地位確認を求める請求は理由がある。

なお,契約上の地位の確認請求と同時に,将来の賃金請求をする場合には,地位を確認する確定判決後も,被告が原告の労務の提供を拒否して,その賃金請求権を争うことが予想されるなどの特段の事情が認められない限り,賃金請求中,判決確定後にかかる部分については,予め請求する必要がないと解するのが相当である。本件において特段の事情を認めることはできないので,本判決確定後の賃金請求は,不適法である。

したがって,賃金請求については,平成21年7月から本判決確定まで毎月18万4000円の支払を求める限度で理由がある。

第4結論

以上のとおり,原告の請求のうち,被告に対し本判決確定後の賃金の支払を求める部分を却下し,その余の請求の請求は理由があるので,これらを認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 大島眞一)

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