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京都地方裁判所 平成21年(ワ)50号 判決 2009年8月10日

原告

X1 他1名

被告

主文

一  被告は、原告X1に対し、一五九五万六〇一八円及びこれに対する平成一八年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、一五六〇万七〇三五円及びこれに対する平成一八年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇〇分し、その五八を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告X1に対し、二七一六万四三三五円及びこれに対する平成一八年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、二六七九万〇六〇六円及びこれに対する平成一八年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが、(1)被告と亡A(以下「亡A」という。)との間で発生した交通事故により、亡Aが死亡し、同人及び原告らが損害を被った、(2)原告らは、相続により、亡Aの被告に対する損害賠償請求権を承継した旨主張し、被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、上記損害賠償金(原告X1につき二七一六万四三三五円、原告X2につき二六七九万〇六〇六円。後記二(2)(原告らの主張)イ(カ)及び同ウ(エ))及びこれに対する不法行為の日である平成一八年一〇月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

一  争いのない事実等

次の事実は、当事者間に争いがないか、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨により認めることができる。

(1)  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

ア 発生日時 平成一八年一〇月一七日午前四時八分ころ

イ 発生場所 京都市左京区新生洲町九六番地先路上(以下「本件事故現場」という。)

本件事故現場及びその付近の状況は別紙図面記載のとおりである。

ウ 事故態様 被告は、普通乗用自動車(〔ナンバー省略〕。以下「被告車」という。)を運転し、本件事故現場付近を南北に走る道路(以下「本件道路」という。)を北から南に向けて進行し、折から進路上を同一方向に向かい自転車を運転して進行中の亡Aの上記自転車後部に被告車前部を追突させ、同人を跳ね上げ路上に転倒させた。

(2)  亡Aの死亡

亡Aは、平成一八年一〇月一七日、本件事故により、頭蓋内損傷の傷害を負い、上記傷害により死亡した。

(3)  責任原因

被告は、本件事故当時、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していた者である。したがって、被告は、自賠法三条に基づき、本件事故により亡A及び原告らが被った人的損害を賠償する責任を負う。

(4)  原告らの相続

原告X1及び原告X2は、いずれも亡A(○○○○年○月○日生〔本件事故当時四四歳〕の男性。イスラエル国籍を有する者である。)の兄である。原告X1及び原告X2は、亡Aの死亡に伴い、相続の準拠法となるイスラエル法(法の適用に関する通則法三六条)により、各自、被相続人亡Aの被告に対する損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続した(甲七、甲八の一ないし三、甲九の一、二、甲一〇)。

(5)  損害のてん補 四二五万一九四〇円

原告らは、本件事故により被った損害のてん補として、上記金額の支払を受けた。

二  争点

(1)  事故態様及び過失相殺

(被告の主張)

亡Aは、自転車を運転していたのであるから、本来、歩道寄りの本件道路南行車線の第一車線左端を進行すべきであったのに(又は、本件道路には、歩道が設けられていたのであるから、自転車運転者としては、交通安全のためには、歩道を進行すべきであった。)、中央分離帯寄りの第二車線を進行していた。しかも、当時は、夜間であり、自転車を発見しづらい状況にあった。

本件事故が発生する直前における被告車の速度につき、時速約八〇キロメートルであった旨の後記原告らの主張は否認する。被告車の速度は時速六〇ないし七〇キロメートルであった。

したがって、本件事故の発生については、亡Aにも過失があり、過失相殺をすべきである。

(原告らの主張)

本件道路は、本件事故現場付近において、最高速度が時速五〇キロメートルに規制されていたところ、被告は、これを時速三〇キロメートル超過する時速八〇キロメートルで進行していたものであり、故意に比肩する重大な過失があった。また、被告には著しい前方不注視があった。したがって、過失相殺をすべきではない。

(2)  亡A及び原告らの損害

(原告らの主張)

ア 亡Aの損害等

亡Aは、本件事故により、次のとおり損害を被った。

(ア) 治療費 一五万二七九〇円

(イ) 葬儀関係費 四〇九万九一五〇円

(ウ) 死亡逸失利益 二一五八万一二一三円

亡Aは、イスラエル国籍を有する本件事故当時四四歳の男性であったから、死亡逸失利益算定における基礎収入としては、本件事故当時である二〇〇六年につきイスラエル政府機関である中央統計局が、四四歳・男性・一二年の義務教育及び二年の大学在籍という条件で算定したイスラエル労働者の平均賃金である月額二六万六六五二円(月額九五七八NIS、本件事故日の通貨レート二七・八四円=一NISにより算定したもの)を用いるのが相当である。

そして、生活費控除率につき五〇パーセント、就労可能期間につき六七歳までの二三年間(六七歳―四四歳。そのライプニッツ係数は一三・四八九である。)とするのが相当であるから、死亡逸失利益は、次のとおり上記金額となる。

26万6652円(月額)×12か月×(1-0.5)×13.489=2158万1213円

(エ) 死亡慰謝料 二〇〇〇万円

(オ) 前記(ア)ないし(エ)の合計 四五八三万三一五三円

(カ) 前記(オ)につき損害のてん補後の残額 四一五八万一二一三円

4583万3153円-425万1940円(前記1(5))=4158万1213円

(キ) 原告らが承継した損害賠償請求権 各二〇七九万〇六〇六円

原告らは、前記(カ)の損害賠償請求権を各二分の一の割合で承継した(各二〇七九万〇六〇六円。一円未満切り捨て)。

イ 原告X1の請求する損害賠償金

(ア) 亡Aから承継した損害賠償請求権(前記ア(キ)) 二〇七九万〇六〇六円

(イ) 近親者固有の慰謝料 二五〇万円

(ウ) 来日渡航費・宿泊費用 二六万三一三五円

(エ) 各種書類作成費用 一一万〇五九四円

上記書類は、日本の裁判所に対する相続や委任関係を証明する資料として、作成、翻訳を要したものである。

(オ) 弁護士費用 三五〇万円

(カ) 前記(ア)ないし(オ)の合計 二七一六万四三三五円

ウ 原告X2の請求する損害賠償金

(ア) 亡Aから承継した損害賠償請求権(前記ア(キ)) 二〇七九万〇六〇六円

(イ) 近親者固有の慰謝料 二五〇万円

(ウ) 弁護士費用 三五〇万円

(エ) 前記(ア)ないし(ウ)の合計 二六七九万〇六〇六円

(被告の主張)

ア 原告らの主張アのうち、同(ア)(治療費)及び同(イ)(葬儀関係費)は認め、その余は否認する。

イ 原告らの主張イ及び同ウは否認する。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)(事故態様及び過失相殺)について

(1)  前記第二の一の事実及び証拠(甲三の一ないし七、甲四の二ないし五、甲六)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 本件事故現場及びその付近の状況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場付近を南北に走る本件道路は、中央分離帯が設けられている片側二車線の見通しの良い直線道路であり、本件道路南行車線及び同北行車線の両脇には、それぞれ歩道が設けられていた(上記南行車線の東側に設けられた歩道は、幅員四・五メートルで、道路標識等により普通自転車がこれを通行することができることとされていた。)。本件道路は、本件事故現場付近において、最高速度が時速五〇キロメートルに規制されていた。

イ 被告は、平成一八年一〇月一七日午前四時八分ころ、普通乗用自動車(被告車)を運転し、本件道路南行車線の第二車線を北から南に向けて進行したところ(別紙図面の①地点付近から②地点付近へと進行したものである。なお、当時、日の出前であったが、本件事故現場付近は街灯があり比較的明るかった。)、前記指定最高速度を遵守し前方を注視して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、前方注視不十分なまま上記最高速度を超える時速約八〇キロメートルで進行した過失により、別紙図面の②地点付近で、折から進路上を同一方向に向かい自転車を運転して進行中の亡Aを前方約七・三メートルの地点(上記図面のfile_7.jpg地点付近)に初めて発見し、急制動の措置を講じたが、衝突を避けることができず、上記自転車後部に被告車前部を追突させ、亡Aを跳ね上げ路上に転倒させた。

(2)  前記(1)に対し、被告は「被告車の速度は時速六〇ないし七〇キロメートルであった」旨主張するが、前記第二の一の事実及び証拠(甲三の二、六、甲四の二、三、五)によれば、前判示のとおり、被告車が別紙図面の②地点付近を進行していた時の速度は時速約八〇キロメートルであったことが認められる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

(3)  前記(1)の事実によれば、被告には、被告車を運転し、本件事故現場手前に差し掛かった際、①規制された最高速度(時速五〇キロメートル)を遵守すべき注意義務があったのにこれを怠り、上記最高速度を時速約三〇キロメートル超過する速度(時速約八〇キロメートル)で被告車を進行させた過失及び②前方注視義務があるのにこれを怠り前方注視を怠ったまま被告車を進行させた過失があるというべきであるが、一方、亡Aにも、自転車を運転し、本件道路を進行するに当たり、歩道寄りの本件道路南行車線の第一車線左端(又は、上記第一車線の東側に設けられている歩道)を進行すべき注意義務があったのにこれを怠り、中央分離帯寄りの第二車線を進行した過失があるというべきである。そして、前判示の本件事故現場付近の状況、本件事故の態様等にかんがみれば、本件事故の発生における過失割合は、亡A二〇パーセント、被告八〇パーセントと認めるのが相当である。

二  争点(2)(亡A及び原告らの損害)について

(1)  亡Aの損害等

ア 治療費 一五万二七九〇円

亡Aが、本件事故により、治療費として、上記金額の損害を被ったことは、当事者間に争いがない。

イ 葬儀関係費 四〇九万九一五〇円

亡Aが、本件事故により、葬儀関係費として、上記金額の損害を被ったことは、当事者間に争いがない。

ウ 死亡逸失利益 二一五八万〇五七三円

前記第二の一の事実及び証拠(甲一二の一、二、甲一六、二一)並びに弁論の全趣旨によれば、亡Aは、本件事故により、死亡逸失利益として、次のとおり上記金額の損害を被ったことが認められる。

(ア) 基礎収入

月額二六万六六五二円

(イ) 生活費控除率

五〇パーセント

(ウ) 就労可能期間

六七歳までの二三年間(六七歳―四四歳。そのライプニッツ係数は一三・四八八六である。)

(エ) 計算式

26万6652円(月額)×12か月×(1-0.5)×13.4886=2158万0573円(1円未満切り捨て)

エ 死亡慰謝料 一二〇〇万円

本件事故の態様、本件事故による重大な結果、イスラエルと日本の経済状況の違いなど諸般の事情にかんがみれば、死亡慰謝料については、亡Aの慰謝料として一二〇〇万円、原告らの近親者固有の慰謝料として各一五〇万円(亡Aの慰謝料及び原告らの固有の慰謝料の合計は一五〇〇万円である。)を認めるのが相当である。

オ 前記アないしエの合計 三七八三万二五一三円

カ 前記オにつき過失相殺後の残額 三〇二六万六〇一〇円

前記オにつき前判示のとおりの過失相殺を行うと、残額は次のとおり上記金額となる。

3783万2513円×(1-0.2)=3026万6010円(1円未満切り捨て)

キ 前記カにつき損害のてん補後の残額 二六〇一万四〇七〇円

3026万6010円-425万1940円(前記第二の一(5))=2601万4070円

ク 原告らが承継した損害賠償請求権 各一三〇〇万七〇三五円

原告らは、前記キの損害賠償請求権を各二分の一の割合で承継した(各一三〇〇万七〇三五円)。

(2)  原告X1の請求する損害賠償金

ア 亡Aから承継した損害賠償請求権(前記(1)ク) 一三〇〇万七〇三五円

イ 固有の損害

(ア) 近親者固有の慰謝料 一五〇万円

前記(1)エのとおり。

(イ) 来日渡航費・宿泊費用 二六万三一三五円

前記第二の一の事実及び証拠(甲一四、一五、一七)並びに弁論の全趣旨によれば、原告X1は、本件事故により、来日渡航費・宿泊費用として、上記金額の損害を被ったことが認められる。

(ウ) 各種書類作成費用 一一万〇五九四円

前記第二の一の事実及び証拠(甲一〇、一一、甲一二の一、二、甲一三、一八、一九)並びに弁論の全趣旨によれば、原告X1は、本件事故により、各種書類作成費用として、上記金額の損害を被ったことが認められる。

(エ) 前記(ア)ないし(ウ)の合計 一八七万三七二九円

(オ) 前記(エ)につき過失相殺後の残額 一四九万八九八三円

前記(エ)につき前判示のとおりの過失相殺を行うと、残額は次のとおり上記金額となる。

187万3729円×(1-0.2)=149万8983円(1円未満切り捨て)

ウ 前記ア及び同イ(オ)の合計 一四五〇万六〇一八円

エ 弁護士費用 一四五万円

本件事案の内容、本件訴訟の経過及び認容額等にかんがみれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、原告X1につき上記金額とするのが相当である。

オ 前記ウ及び同エの合計 一五九五万六〇一八円

(3)  原告X2の請求する損害賠償金

ア 亡Aから承継した損害賠償請求権(前記(1)ク) 一三〇〇万七〇三五円

イ 固有の損害

(ア) 近親者固有の慰謝料 一五〇万円

前記(1)エのとおり。

(イ) 前記(ア)につき過失相殺後の残額 一二〇万円

前記(ア)につき前判示のとおりの過失相殺を行うと、残額は次のとおり上記金額となる。

150万円×(1-0.2)=120万円

ウ 前記ア及び同イ(イ)の合計 一四二〇万七〇三五円

エ 弁護士費用 一四〇万円

本件事案の内容、本件訴訟の経過及び認容額等にかんがみれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、原告X2につき上記金額とするのが相当である。

オ 前記ウ及び同エの合計 一五六〇万七〇三五円

三  以上によれば、被告は、自賠法三条に基づき、①原告X1に対し、一五九五万六〇一八円(前記二(2)オ)及びこれに対する不法行為の日である平成一八年一〇月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を、②原告X2に対し、一五六〇万七〇三五円(前記二(3)オ)及びこれに対する不法行為の日である平成一八年一〇月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務をそれぞれ負うものというべきであり、各原告の被告に対する請求は、上記金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととする。

(裁判官 井田宏)

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