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京都地方裁判所 平成21年(ワ)5151号 判決 2012年7月13日

原告

同訴訟代理人弁護士

中村和雄

塩見卓也

諸富健

被告

Y運輸株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

折田啓

三輪貴幸

主文

1  被告は,原告に対し,30万円及びこれに対する平成22年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを7分し,その6を原告の,その余を被告の各負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成22年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告の従業員である原告が,アルバイト就労をすることの許可を数度にわたって申請したが被告がいずれの申請も不許可としたのは違法であるとして,被告に対し,不法行為に基づき,損害(平成21年11月から平成23年2月末までにアルバイト就労ができなかったことによって得られなかった収入見込額109万2592円及び慰謝料少なくとも100万円の合計額の一部である200万円)の賠償及びこれに対する2回目の許可申請に対して被告が不許可とした平成22年12月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1  前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。)

(1)  被告は,貨物自動車運送業等を目的とする株式会社である。

被告の従業員は,正社員,準社員,パートタイマーなどの区分に分かれている。

(2)  原告

ア 原告は,平成4年2月1日に被告に準社員として入社し,それ以来大型貨物自動車の運転手として勤務している。(証拠<省略>)

イ 原告の就労状況(証拠<省略>)

(ア) 原告は,入社から平成17年10月までは,長距離の定期便であるA便を担当した。

(イ) 平成17年10月ころにA便の運行が終わり,原告は,それ以降現在まで,京阪神のみを回る定期便であるB便を担当することとなった。原告の勤務日は週6日(休日は日曜日),勤務時間は午後1時から午前0時ころまでとなり,これにより,原告の賃金は低下した。

(ウ) また,平成21年11月25日から,原告の勤務日が週5日(休日は,水曜日及び日曜日)となり,これにより原告の賃金はさらに低下した。

ウ 被告には,もともとあったa労働組合(以下「a労」という。)と平成17年5月に結成されたb労働組合Y運輸分会(以下,上記組合や上記分会を併せて「本件組合」という。)があるところ,原告は,本件組合の組合員である。

エ 原告のアルバイト就労及び被告の処分

(ア) 原告は,平成18年10月ころから,当時被告の係長であったB(以下「B」という。)の紹介によりc運輸株式会社(以下,単に「c社」という。)でアルバイトをするようになった。(証拠<省略>)

(イ) 被告は,平成19年11月9日,原告に対し,会社の許可なく無断で在職のまま他企業に就業したことは,就業規則に違反し,会社の名誉と信用を傷つけたとして,就業規則5条2項1号,38条1項3号を根拠に,同月から2か月間1万円の給与の減額を内容とする減給処分をした。(証拠<省略>)

(ウ) 原告は,その後もアルバイト就労をしていた。

(エ) 被告は,平成21年9月25日,原告に対し,再度会社の許可なく無断で在籍のまま他企業に就業したことは,就業規則に違反し服務規律を乱した行為であるとして,就業規則74条1項6号,105条1項3号,102条1項4号を根拠に,同月26日から7日間の出勤停止を内容とする出勤停止処分をした。(証拠<省略>)

(3)  被告と本件組合との交渉等

本件組合は,平成19年5月ころ,被告に対し,ビラ配布を理由に組合員の仕事内容を変更し,賃金の引き下げを行うことは不当労働行為に当たるので,撤回するよう申し入れたり,京都府労働委員会に対し,組合事務所等についてa労と同様に扱うことを求める救済の申立てをするなどしており,上記救済の申立てについては,平成20年3月13日,京都府労働委員会が不当労働行為と認めて救済命令を発した。(証拠<省略>)

また,本件組合は,平成21年3月ないし4月ころ,被告に対し,有給休暇の申請を被告が振替休日に替える取扱いを止めることや,有給休暇取得時の賃金を労働基準法どおり支払うことを申し入れるとともに,労働基準監督署にその是正を申告し,同年9月ころまでに,上記取扱いについて,被告に対して労働基準監督署の是正指導がされた。(証拠<省略>)

(4)  原告及び組合員のアルバイト就労の許可申請及び被告の不許可

ア(ア) 原告は,平成21年11月11日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(以下「原告の第1申請」という。)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 c社

勤務時間 午前8時30分から午後0時まで

仕事内容 構内仕分け作業

(イ) 被告は,平成21年11月16日,原告の第1申請に対し,原告は被告で既に時間外労働をしており,長時間労働となることから,それ以上の他企業での労働は承認できないとする内容の回答をした。(証拠<省略>)

イ(ア) 原告は,平成22年9月1日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(以下「原告の第2申請」という。)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 c社

勤務時間 午前1時から午前5時まで

仕事内容 構内仕分け作業

(イ) 被告は,平成22年9月7日,被告代理人を通じて,原告の第2申請に対し,原告は被告で夜間も走行するトラック運転手として時間外労働もしており,過労で事故の危険があること,アルバイト先が同業他社であり,被告の機密が漏れるおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

ウ(ア) 本件組合の組合員であるC(以下「C」という。)は,平成22年10月5日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(以下「Cの第1申請」という。)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 ○○城陽店(お好み焼き店)

勤務時間 午後7時から午後9時まで

仕事内容 調理補助

(イ) 被告は,平成22年10月15日,Cの第1申請に対し,Cは午前3時から午後5時までトラック運転手として勤務し,時間外労働をしており,過労で事故のおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

エ(ア) 本件組合の組合員であるD(以下「D」という。)は,平成22年11月6日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(以下「Dの申請」という。)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 △△枚方店(ファミリーレストラン)

勤務時間 午後8時から午前0時まで

仕事内容 キッチンサービス

(イ) 被告は,平成22年11月25日,Dの申請に対し,Dは午前6時30分から午後7時までトラック運転手として勤務し,時間外労働をしており,過労で事故のおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

オ(ア) Cは,平成22年11月12日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(以下「Cの第2申請」という。)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 ○○城陽店(お好み焼き店)

勤務時間 水曜日(公休) 午後5時から午後10時まで

仕事内容 調理補助

(イ) 被告は,平成22年12月2日,Cの第2申請に対し,Cは午前3時ないし4時から午後5時ないし7時までトラック運転手として勤務し,時間外労働をしており,過労で事故のおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

カ(ア) 原告は,平成22年11月12日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(以下「原告の第3申請」という。)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 c社

勤務時間 日曜日 午前10時から午後2時まで

仕事内容 構内仕分け作業

(イ) 被告は,平成22年12月2日,被告代理人を通じて,原告の第3申請に対し,原告は被告で夜間も走行するトラック運転手として時間外労働もしており,過労で事故の危険があること,アルバイト先が同業他社であり,被告の機密が漏れるおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

キ(ア) 原告は,平成23年1月29日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(以下「原告の第4申請」という。)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 □□山科店(ラーメン店)

勤務時間 日曜日 午後6時から午後9時まで

仕事内容 接客,皿洗い等

(イ) 被告は,平成23年2月14日,被告代理人を通じて,原告の第4申請に対し,原告は被告で夜間も走行するトラック運転手であること,十分な休息を取るべく定められている法定休日にアルバイト就労をすることで,十分な休息をとれないまま運転業務に従事することにあり,過労を原因とする交通事故を起こすおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

2  争点及びこれに対する当事者の主張

(1)  原告のアルバイト就労を被告が許可しなかったことが違法か否か(争点(1))

【原告の主張】

ア 被告は,上記1(4)のとおり,原告を含む本件組合の組合員が行ったアルバイト就労の許可申請に対し,全て不許可とした。

イ しかし,上記アの不許可は,次のとおり,何ら合理性を有しないものであり,結局,被告は,原告が本件組合の組合員である限り,いかなるアルバイト就労も拒絶するとの不当な方針の下に,不当な対応を繰り返している。

(ア) 被告においては,前社長が,これからは賃上げができないからアルバイトをしても構わない旨述べるなど,もともと準社員のアルバイト就労が認められていた。

また,原告の賃金額は,担当コースの変更によって大きく減額されていたため,アルバイト就労を継続する必要があった。

(イ) 原告は,原告の第1申請のとおり,アルバイト就労の許可を申請した。原告は,これまで長年にわたって当該申請に係るアルバイト就労と同一内容(アルバイト先,勤務時間,仕事内容)のアルバイト就労を行っていたものであるが,過労のために病気になったり事故を起こしたことは一度もなく,アルバイト先に被告の情報が漏れたということも一度もなかったが,無許可でアルバイト就労をしたことで2度の懲戒処分を受けたことから,アルバイト就労の許可を申請したものである。

これに対し,被告は,原告が既に時間外労働をしており,長時間労働となることを理由として当該申請を不許可とした。しかし,この当時被告が主張するようなアルバイト就労の許可基準が被告にあったとの証拠はなく,かえって,原告に対する懲戒処分まで原告のアルバイト就労が黙認されていたこと,被告は,a労の組合員に対してアルバイト就労を理由とする処分をせず,上記1(3)のとおり本件組合に対しては不当労働行為等をしていることに照らして,上記の不許可理由は口実であり,当該不許可は不当な目的でされたものである。

(ウ) 原告は,平成22年9月1日,改めてアルバイト就労の許可申請(原告の第2申請)をした。これは,被告が,原告の第1申請に対する不許可理由につき,平成22年2月1日付け準備書面において,被告での勤務開始前に6時間以上の休息時間が取れているかをアルバイト就労を認めるか否かの1つの基準としており,原告の第1申請が許可されなかったのは被告での勤務開始前に1時間の休憩時間しか取れなかったからである旨の主張をしたことから,原告が,それを受け,アルバイト先に依頼して勤務時間を変更し,被告での勤務開始前に6時間以上の休憩時間が取れるようにしたものである。

しかしながら,被告は,これに対しても,抽象的な危険性を指摘するだけで,合理的な理由があるといえないにもかかわらず,上記申請を不許可とした。

(エ) 本件組合の組合員であるC及びDの行ったアルバイト就労の許可申請に対しても,被告は,抽象的な危険性を指摘するだけの理由で,いずれも不許可とした。

(オ) 原告は,平成22年11月12日,アルバイト先に依頼し,毎週1回公休日である日曜日の昼の4時間だけのアルバイト就労について許可申請(原告の第3申請)をした。

しかしながら,被告は,これさえも不許可とした。

被告は,平成23年1月7日付け準備書面において,原告の第2申請を不許可とした理由について月間実働253時間以内とする目標を超えるためとしているところ,原告の第3申請はその目標時間に収まるものであるから,被告の主張が口実に過ぎないことは明らかである。

(カ) 原告は,平成23年1月29日,被告に対し,ラーメン店で毎週日曜日の午後6時から午後9時までの3時間だけ接客や皿洗いなどをするアルバイト就労の許可申請(原告の第4申請)をした。これは,このアルバイト内容であれば,被告の秘密情報の漏洩の可能性は皆無であり,翌日の勤務開始まで十分な休養時間が確保されると考えたからである。

しかし,被告は,この申請をも不許可とした。

(キ) 被告には,現在,同業他社で運転業務に従事している社員が数多くアルバイトとして就労しており,また,それらの者の中には,被告における就労後他社での運転業務開始まで6時間空いていない者もいる。

これらの事実は,原告のアルバイト就労の許可申請に対する被告の不許可が,被告の主張する過労防止や秘密漏洩の危険性の防止を真の理由とするものではなく,原告が本件組合に所属することを理由とした不当な動機に基づくものであることを明らかにしている。

ウ したがって,被告は,原告のアルバイト就労をする権利を不当に侵害しているのであって,原告が被った損害に対して賠償すべき不法行為責任を負う。

【被告の主張】

ア 被告は,原告を含む本件組合の組合員からのアルバイト許可の申請に対し,いずれも次のとおり合理的な理由に基づいて不許可としているのであり,その許否の検討に当たり,許可申請者が本件組合の組合員であるか否かは一切考慮していない。

なお,被告は,従業員が被告に無断でアルバイト就労をしていることを把握した場合には,すべて就業規則に基づいて懲戒処分を行っており,従業員の無断アルバイト就労を被告が黙認している実態はない。

イ 被告は,従業員のアルバイト就労を許可するか否かについて,E社会保険労務士(以下「E」という。)との打合せを経た上で,主に,従業員がアルバイト就労を行うことにより,①過労とならないか,②同業他社に対して被告の機密が漏れるおそれがないかとい観点から判断することとしていた。これは,従前からの被告の扱いを明確化したものである。

(ア) 上記①についてみると,従業員の過労を防止するという目的は,従業員自身の生命身体の保護のみならず,従業員がトラック運転という公衆の生命身体をも害しうる職務を行うことにかんがみて,他者の生命身体の保護をも目的としたものであり,真にやむを得ない目的といえる。

被告は,アルバイト就労の許否を判断する際,従業員の過労を防止するために達成目標としている毎月の労働時間(実働253時間(拘束275時間)以内とすること)を勘案しつつ,労働大臣告知「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告知第7号。以下「本件告示」という。)における一日の労働時間や休憩時間等の考え方などを参考にしている。

また,被告は,従業員のアルバイト就労終了後被告への労務提供までの休憩時間が連続6時間を切るか否かを判断材料の1つとしている。これは,(ⅰ)本件告示(2条1項3号)が労働者に勤務終了後8時間以上の休憩を与えなければならないのを原則としていることを踏まえつつ,(ⅱ)「一般乗用旅客自動車運送事業以外の事業に従事する自動車運転者の拘束時間及び休憩時間の特例について」(平成元年3月1日基発第92号。以下「本件通達」という。)が,継続8時間以上の休憩時間を与えることが困難な場合等については,1回当たり継続4時間以上の休憩時間を合計10時間以上取る必要がある旨記載し,しかし被告においては他者の生命身体を害し得るという運送業務の特殊性から従業員に従事前に十分な睡眠を取ってもらう必要があるため,最低限の睡眠時間として6時間は必要であるとの判断をしたものである。

なお,原告にこれまでアルバイト就労に起因する事故や遅刻がないからといって,アルバイト就労による過労のおそれを払拭する事情とはいえない。

(イ) 上記②についても,営利目的のために存在する法人である被告にとって,真にやむを得ない目的である。

すなわち,被告が貨物自動車運送業等を業として創業50年以上の歴史を有する株式会社であり,取引先の情報(取引先名,当該取引先に対する配送物・量・配送料・コース内容等),運送業務の作業手順,作業方法等について多種多様の機密を蓄積していること,被告は運送業務を安全かつ円滑に行うため当該機密を従業員すべてに教示していること,当該機密は日々更新・改善され,かつ容易に伝達しうる性質で,同業他社が即座に取り入れられるものであることから,従業員が被告において勤務しながら同業他社においてもアルバイト就労を行って,被告の機密が更新されるごとにそのまま機密を同業他社へ漏洩した場合,被告の機密は即座に他者に模倣ないし把握され,被告の顧客を奪い去られることが容易に想定し得る。

(ウ) そして,上記①の目的を達成するためには,アルバイト就労に係る就労先,就労時間,業務内容等を明示して被告に許可申請をさせ,被告において申請内容を検討して,当該従業員が過労にならないかの判断をする必要があること,上記②の目的を達成するためには,従業員の他社でのアルバイト就労は,日々更新される機密を即座に漏洩する危険性を有するから,従業員からアルバイト就労に係る就労先,就労時間,業務内容を明示して被告に許可申請をさせ,被告において当該内容を検討し,当該アルバイト就労により機密が漏洩されるおそれがないか否かの判断を経る必要があることから,アルバイト就労について許可制を採ることは合理性がある。

ウ 被告が行ったアルバイト就労の不許可は,次のとおり合理的である。

(ア) 原告の第1申請について

原告は,原告の第1申請当時,被告において午後1時から午前0時までドライバーとして勤務していた。原告が午前12時まで他社で労働した場合,他社から被告への移動時間や着替え時間等を考慮すると,原告はほぼ休憩しないまま夜間を含む11時間もの長時間トラックを運転することになる。

したがって,原告の第1申請を認めると,原告が過労状態となることは明らかであった。

(イ) 原告の第2申請について

原告は,原告の第2申請当時,既に被告において毎月実働230時間程度の労働を行っていたところ,原告が1日4時間のアルバイトを行うと,原告の月間実働時間は,被告が従業員の過労を防止するために目標としている毎月の実働時間253時間を超過する可能性があった。

また,原告は被告において当時1日当たり11時間もの長時間の労働を行っていたところ,さらに他社で4時間の労働を行うと,原告の1日当たりの実働時間は少なくとも15時間以上もの長時間になる。

加えて,原告が同業他社でアルバイト就労をすることにより,被告の機密が当該アルバイト先に漏れるおそれがあった。

(ウ) Cの第1申請について

Cは,Cの第1申請当時,既に被告において毎月実働283時間程度の労働を行っていたところ,Cが1日2時間程度のアルバイト就労を行うと,Cの月間実労働時間は,被告が従業員の過労を防止するために目標達成としている毎月の実働時間253時間を大きく超過するものであった。

また,Cは被告において当時1日当たり14時間もの長時間の労働を行っていたところ,さらに他社で2時間の労働を行うと,Cの1日当たりの実働時間は少なくとも16時間以上もの長時間になる。

(エ) Dの申請について

Dは,Dの申請当時,既に被告において毎月実働250時間程度の労働を行っていたところ,Dが1日4時間程度のアルバイト就労を行うと,Dの月間実働時間は,被告が従業員の過労を防止するために目標達成としている毎月の実働時間253時間を大きく超過するものであった。

また,Dは被告において当時1日当たり12時間半もの長時間の労働を行っていたところ,さらに他社で4時間の労働を行うと,Dの1日当たりの実働時間は少なくとも16時間半以上もの長時間になる。

(オ) Cの第2申請について

Cは,Cの第2申請当時,既に被告において毎月実働283時間程度の労働を行っており,被告が従業員の過労を防止するために目標達成としている毎月の実働時間253時間を既に大きく超過していた。

(カ) 原告の第3申請について

原告は,原告の第3申請当時,既に被告において毎月実働230時間程度の労働を行っていたところ,原告が週1回1日4時間のアルバイトを行うと,原告の月間実働時間は,246時間となり,原告が被告において残業等を行う可能性があることを勘案すると,原告の月間実働時間は,被告が従業員の過労を防止するために目標としている毎月の実働時間253時間を超過する可能性があった。

また,原告の第3申請に係る就労日は,原告の法定休日である日曜日であった。法定休日は,従業員に労働義務を負わせず,十分な休息を取らせるために労働基準法等に定められている休日であり,過労防止をその趣旨としている。かかる法定休日に被告以外の勤務先でアルバイト就労をするのでは,被告が設定している法定休日の趣旨が没却され,原告が過労を原因とする交通事故等を起こし,人の生命又は健康を害するおそれがあった。

加えて,原告が同業他社でアルバイト就労をすることにより,被告の機密が当該アルバイト先に漏れるおそれがあった。

(キ) 原告の第4申請について

原告は,原告の第4申請当時,既に被告において毎月実働230時間程度の労働を行っていたところ,原告が週1回1日3時間のアルバイトを行うと,原告の月間労働時間は,242時間となり,原告が被告において残業等を行う可能性があることを勘案すると,原告の月間労働時間は,被告が従業員の過労を防止するために目標達成としている毎月の実労働時間253時間を超過する可能性があった。

また,原告の第4申請に係る就労日は,原告の法定休日である日曜日であり,上記(カ)同様,法定休日に被告以外の勤務先でアルバイト就労をするのでは,被告が設定している法定休日の趣旨が没却され,原告が過労を原因とする交通事故等を起こし,人の生命又は健康を害するおそれがあった。

(2)  損害の有無及び額(争点(2))

【原告の主張】

原告のアルバイト就労を被告が違法に認めないことにより,原告は次の各損害を被った。

ア 平成21年5月から原告が2度目の懲戒処分を受けてアルバイト就労ができなくなった同年10月までの6か月間において,原告は,アルバイト先から平均月額6万8287円の収入を得ていた。

そして,原告は,平成21年11月以降,被告の定める手続に従ってアルバイト就労の許可を申請しているが,被告が不当に不許可としているため,現在までアルバイト就労ができずにいる。

そのため,原告は,平成23年2月末時点までの16か月だけでも,109万2592円(6万8287円×16か月)の損害を被った。

イ 原告は,アルバイト就労の許可申請に対する被告の不当な対応により大きな精神的苦痛を被った。

原告の精神的苦痛に対する慰謝料額は,少なくとも100万円を上回る。

【被告の主張】

争う。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

上記前提事実,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。

(1)  被告

ア 被告は,貨物自動車運送業等を目的とする株式会社である。

イ 被告においては,従業員の区分として,正社員,準社員(フルタイマー。原則として,雇用期間を定めた者であって特定の時間及び特定の業務に従事するために採用された者をいう。),パートタイマー(短時間勤務者。原則として,就業規則に定める所定就業時間(8時間)に満たない時間又は特定の日,特定の時間について会社の業務に従事するために採用された者をいう。)などがある。(証拠<省略>)

ウ 被告の就業規則

(ア) 被告は,昭和52年4月1日に就業規則(証拠<省略>)を制定したが,その37条10号は,従業員が許可なく在職のまま他人に雇用され会社の職務に悪影響を及ぼしたときは,制裁を行う旨定めている。

(イ) 被告は,平成6年4月1日の就業規則の改訂において,当該規則は正社員,準社員(フルタイマー)などに適用され,パートタイマーについては別に定めることとした。

そして,上記就業規則5条の2は,従業員は,会社の命令又は承認を受けないで在籍のまま他の事業に従事したり,又は公職についてはならないと定めていた。(証拠<省略>)

他方,パートタイマーの就業規則(証拠<省略>)においては,兼業を禁止する旨は定められていない。

(ウ) 被告の就業規則は,その後平成10年12月1日,平成13年10月16日,平成17年10月1日の各改訂を経たが,平成18年8月1日に改訂された就業規則(証拠<省略>)及び平成20年10月1日に改訂された就業規則(証拠<省略>)においても,上記(イ)同様,当該就業規則は,正社員,準社員(フルタイマー)などに適用されるが,パートタイマーについては別に定めると定められ,また,従業員が,会社の命令又は承認を受けないで在籍のまま他の事業に従事したり,又は公職につくことを禁じる旨定めている。

エ 被告のパートタイマー従業員の採用に当たっては,被告での勤務以外に競業会社に就労しているか否かや,被告以外の勤務先における就労時間について,特に問題とされた形跡はない。(人証<省略>)

(2)  B(証拠・人証<省略>)

Bは,d社で午前9時から午後6時ころまで勤務していたが,更に金員が必要であったことから,昭和62年10月ころ,被告に入社し,午前4時から午前7時ないし8時ころまで被告でも勤務(担当業務の内容は,被告がc社から請け負っていた配車業務を行うものである。)をするようになった。

その後,d社がつぶれたことや,c社から要請があったことから,Bは,平成5年ころから,c社との契約で昼間も配車業務を行うようになった。また,Bは,平成10年,正社員となり,係長となったが,平成19年ころまでc社での昼間の配車業務を継続して行った。

なお,Bは,本件組合の組合員ではない。

(3)  原告(証拠<省略>,原告)

ア 原告は,平成4年2月1日に被告に準社員として入社し,それ以来大型貨物自動車の運転手として勤務している。

イ 原告の就労状況

(ア) 原告は,入社から平成17年10月までは,長距離の定期便であるA便を担当した。A便を担当している時の原告の賃金は,名目で50万円を超え,手取りでも45万円ないし46万円であった。

(イ) 平成17年10月ころ,A便が終わり,それ以降現在まで,原告は京阪神のみを回る定期便であるB便を担当することとなった。原告の具体的なコースは曜日によって決まっており,勤務日は週6日(休日は日曜日),勤務時間は午後1時から午前0時ころまでで,勤務時間の変動はなく,決まったコースを配送する以外の予定外の仕事は入ることもほとんどなかった。

B便を担当するようになり,原告の賃金は,名目で40万円前後,手取りで30万円前後に低下した。(証拠<省略>)

(ウ) また,平成21年11月25日から完全週休2日制が導入され,勤務日が週5日(休日は,水曜日及び日曜日)となり,原告の賃金は,名目で34万円程度,手取りで25万円程度に低下した。(証拠<省略>)

ウ 原告の組合加入

(ア) 被告には,労働組合としてもともとa労が存在したが,被告による賃金の引き下げに社員準社員組合が応じるのではないかと不安を覚えた従業員16名が,平成17年5月8日,本件組合を結成し,F(以下「F」という。)が分会長となった。(証拠<省略>)

本件組合員の人数は,平成19年6月29日には,42名に達していた。(証拠<省略>)

(イ) 原告は,平成19年9月ころ,本件組合の組合員となった。

エ 原告のアルバイト就労及び被告の処分

(ア) 原告は,離婚した妻が養育する子どもの養育費・生活費,住宅ローン,両親への仕送りなどによる金員を負担していたところ,A便からB便への担当コースの変更によって給与額が低下し,生活を維持するのが困難となった。

そこで,原告は,Bに対し,アルバイト先がないか尋ねたところ,Bは,準社員はアルバイトをしても良いとの認識の下,原告に対し,c社でのアルバイト就労を紹介した。そこで,原告は,平成18年10月ころから,c社で,午前8時30分から午前12時まで,時給900円の構内作業のアルバイト就労を始め,アルバイト先のズボンで被告に出社することがあった。(証拠・人証<省略>)

(イ) 被告は,平成19年11月8日,原告と面談して無断でアルバイト就労をした事実を確認し,就労しないよう指導するとともに,同月9日,原告に対し,会社の許可なく無断で在職のまま他企業に就業したことは,就業規則に違反し,会社の名誉と信用を傷つけたとして,就業規則5条2項1号,38条1項3号を根拠に,同月から2か月間1万円の減額を内容とする減給処分をした。(証拠<省略>)

(ウ) 原告は,その後もc社でアルバイト就労を継続した。

なお,平成21年5月から10月までの原告のc社でのアルバイト就労の時間は,月間70時間から80時間30分であり,他方,このころの被告での労働時間は,同年5月から同年9月までが月間262時間30分から283時間30分,同年10月がそれまでと異なり欠勤が7日あったため月間186時間10分であった。(証拠<省略>)

(エ) 被告は,平成21年9月25日,原告と面談し,無断でアルバイト就労しないよう指導するとともに,原告に対し,再度会社の許可なく無断で在籍のまま他企業に就業したことは,就業規則に違反し服務規律を乱した行為であるとして,就業規則74条1項6号,105条1項3号,102条1項4号を根拠に,同月26日から7日間の出勤停止を内容とする出勤停止処分をした。(証拠<省略>)

(4)  被告と本件組合との交渉の状況及び原告に対する処分等

ア 本件組合は,平成19年5月17日,被告に対し,本件組合のビラ配布を理由に仕事から外すことは不当労働行為に当たること,本件組合の分会長であるFについて,同人が行っていた仕事を傭車にさせて仕事内容を変更し,Dについて,労働時間が午前中3時間短くなるような配車を行って実質的に大幅な賃下げを行おうとすることを止めることを申し入れた。(証拠<省略>)

イ 本件組合は,平成19年5月21日,京都府労働委員会に対し,組合掲示板や組合事務所について社員準社員組合と本件組合とを同様に扱うことなどを求める救済の申立てをした。(証拠<省略>)

ウ 被告は,平成19年5月21日ころから,Fの仕事内容を変更して労働時間を短縮し,Fの賃金が低下した。(証拠<省略>)

エ 平成19年6月ころ,本件組合がビラを配布したことを批判し,本件組合に断固として同調しないことを呼びかける「建交労が暴挙!!荷主様に向けビラ攻撃!!」と題する文書(証拠<省略>)が,被告支店内等に張られた。(証拠<省略>)

オ 被告は,平成19年8月2日,本件組合の組合員ではない京都支店輸送2部次長のG(以下「G」という。)に対し,管理監督者の要職にありながら同人が被告の許可なく無断で在職のまま他企業に就業したことは,就業規則に違反するとして,3か月間給与額を2万円減額するとの減給処分をした。(証拠<省略>)

カ 被告は,平成19年8月17日,Fに対し,無許可でアルバイト就労をしていたことを理由に減給処分をした。(証拠<省略>)

また,本件組合は,同日,被告に対し,Fがアルバイト就労を始めたのは被告がFの仕事を一方的に変更したことによること,被告の常務取締役であるH(以下「H」という。)がFに昔はアルバイトをしてよかった旨話したが,いつから就業規則が変わったなどを明らかにすべきこと,元の労働時間に戻すかアルバイトを承認すべきことを申し入れた。(証拠<省略>)

キ Cは,平成19年10月31日に開催された京都府労働委員会における不当労働行為事件の第1回審問期日で,被告代理人からの質問を受けて,アルバイトをしている被告の従業員として,原告の名前を挙げた。(証拠<省略>)

ク 被告は,平成19年11月9日,上記(3)エ(イ)のとおり,原告に対し,無許可でアルバイト就労をしたことを理由に,減給処分をした。(証拠<省略>)

ケ Dは,平成19年11月17日,被告との間で,それまでより3時間勤務時間が短くなる契約を締結した。(証拠<省略>)

コ Eは,平成20年2月7日,被告における兼業の許可基準(証拠<省略>)を作成した。同許可基準は,兼業を不許可とする場合を①兼業が不正な競業に当たる場合,②営業秘密の不正な使用・開示を伴う場合,③従業員の働き過ぎによって,人の生命又は健康を害するおそれがある場合,④兼業終了後被告への労務提供開始までの休息時間が6時間を切る場合,⑤兼業の態様が被告又は従業員の社会的信用を傷つける場合,⑥その他前各号に準ずる場合とされた。

サ 平成20年3月7日,被告と本件組合との団体交渉がされ,被告から兼業の基準を作成したことの報告がされた。そして,本件組合側が「働き過ぎ」の基準について質問したところ,被告側として出席したEは,1か月293時間が基準である旨説明し,被告側として出席した他の者は,誰もそれに異を唱えていなかった。(証拠<省略>)

シ 京都府労働委員会は,平成20年3月13日,被告の対応が不当労働行為に当たるとして,本件組合に対する組合事務所の貸与やチェック・オフをすることなどを命じる救済命令を発した。(証拠<省略>)

ス 京都地裁は,平成20年10月10日,被告が上記救済命令のうち組合事務所の貸与を履行しないとして,被告を過料50万円に処する決定をした。(証拠<省略>)

セ 本件組合は,平成21年4月15日,被告に対し,有給休暇の申請を被告が振替休日に替えることを止める旨を文書で回答することや,有給休暇取得時の賃金を労働基準法どおり支払うことを文書で回答することなどを申し入れた。(証拠<省略>)

ソ 本件組合は,平成21年9月7日,被告に対し,有給休暇の申請を休日に変えることが労働基準法違反であると労働基準監督署から指導がされたこと,被告は,その是正指導が入ると,是正を求める者に対して完全週休2日制にするとして不利益な取り扱いをしようとしているが,労働基準法104条に違反して許されないことなどを申し入れた。(証拠<省略>)

タ 被告は,平成21年9月14日,全従業員に対し,完全週休2日を実施すること,従前の休日の扱いを反省することなどを知らせた。(証拠<省略>)

チ 被告は,平成21年9月25日,上記(3)エ(エ)のとおり,原告に対し,無許可で再度アルバイト就労をしたことを理由に,出勤停止処分をした。(証拠<省略>)

ツ 本件組合は,平成21年10月14日,被告に対し,これまで問題としてこなかった原告の休憩時間に関して問題とする理由を明らかにすること,同年9月25日に原告にした懲戒処分は,原告が労働基準法違反を申し立てたことに対する報復と考えることなどを申し入れた。(証拠<省略>)

テ 本件組合は,平成21年10月23日,被告に対し,完全週休2日制を導入することは,平成13年9月に週40時間制が被告から提案された際に,基本給や時間給を引き下げるが,休日出勤を前提に賃金水準が下がらないことの労使確認ができてきていたことに反する旨や,上記週40時間制の導入に当たって当時の社長がこれからは賃上げができないからアルバイトをしてもらってよいとして,会社の承認なく二重就労を認めているから,原告の懲戒処分を撤回すべき旨を申し入れた。(証拠<省略>)

ト 被告は,平成22年2月9日,Bに対し,従業員のアルバイト就労を斡旋し,そのことを上司に報告しなかったことを理由に,譴責処分とした。(証拠<省略>)

(5)  原告及び組合員のアルバイト就労の許可の申請

ア(ア) 原告は,平成21年11月11日,被告に対し,次のとおりの内容のアルバイト就労の許可申請(原告の第1申請)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 c社

勤務時間 午前8時30分から午後0時まで

仕事内容 構内仕分け作業

(イ) 被告は,平成21年11月16日,原告の第1申請に対し,原告は被告で既に時間外労働をしており,長時間労働となることから,それ以上の他企業での労働は承認できないとする内容の回答をした。(証拠<省略>)

なお,このころと同じ週6日のB便を担当していた平成21年5月ないし9月当時の原告の月間労働時間は,上記のとおり262時間30分から283時間30分であった。

イ(ア) 原告は,平成22年9月1日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(原告の第2申請)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 c社

勤務時間 午前1時から午前5時まで

仕事内容 構内仕分け作業

(イ) 被告は,平成22年9月7日,被告代理人を通じて,原告の第2申請に対し,原告は被告で夜間も走行するトラック運転手として時間外労働もしており,過労で事故の危険があること,アルバイト先が同業他社であり,被告の機密が漏れるおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

なお,このころと同じ週5日のB便を担当していた平成22年4月ないし10月の原告の勤務時間は,219時間10分から239時間20分であった。(証拠<省略>)

ウ(ア) Cは,平成22年10月5日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(Cの第1申請)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 ○○城陽店(お好み焼き店)

勤務時間 午後7時から午後9時まで

仕事内容 調理補助

(イ) 被告は,平成22年10月15日,Cの第1申請に対し,Cは午前3時から午後5時までトラック運転手として勤務し,時間外労働をしており,過労で事故のおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

エ(ア) Dは,平成22年11月6日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(Dの申請)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 △△枚方店(ファミリーレストラン)

勤務時間 午後8時から午前0時まで

仕事内容 キッチンサービス

(イ) 被告は,平成22年11月25日,Dの申請に対し,Dは午前6時30分から午後7時までトラック運転手として勤務し,時間外労働をしており,過労で事故のおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

オ(ア) Cは,平成22年11月12日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(Cの第2申請)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 ○○城陽店(お好み焼き店)

勤務時間 水曜日(公休) 午後5時から午後10時まで

仕事内容 調理補助

(イ) 被告は,平成22年12月2日,Cの第2申請に対し,Cは午前3時ないし4時から午後5時ないし7時までトラック運転手として勤務し,時間外労働をしており,過労で事故のおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

カ(ア) 原告は,平成22年11月12日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(原告の第3申請)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 c社

勤務時間 日曜日 午前10時から午後2時まで

仕事内容 構内仕分け作業

(イ) 被告は,平成22年12月2日,被告代理人を通じて,原告の第3申請に対し,原告は被告で夜間も走行するトラック運転手として時間外労働もしており,法定休日にアルバイト就労することで過労による事故の危険があること,アルバイト先が同業他社であり,被告の機密が漏れるおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

キ(ア) 原告は,平成23年1月29日,被告に対し,次の内容のアルバイト就労の許可申請(原告の第4申請)をした。(証拠<省略>)

アルバイト先 □□山科店(ラーメン店)

勤務時間 日曜日 午後6時から午後9時まで

仕事内容 接客,皿洗い等

(イ) 被告は,平成23年2月14日,被告代理人を通じて,原告の第4申請に対し,原告は被告で夜間も走行するトラック運転手であること,十分な休息を取るべく定められている法定休日にアルバイト就労をすることで,十分な休息をとれないまま運転業務に従事することにあり,過労を原因とする交通事故を起こすおそれがあることを理由として,アルバイト就労を認めない旨の回答をした。(証拠<省略>)

(6)  本件告示(平成12年12月25日労働省告示第120号による改正後のもの。証拠<省略>)4条1項は,貨物自動車運送事業に従事する自動車運転者の拘束時間,休息期間及び運転時間について,①拘束時間は,1か月について293時間を超えないものとすること,②勤務終了後,継続8時間以上の休息期間を与えることなどを定め,同条3項は,業務の必要上勤務の終了後継続8時間以上の休息期間を与えることが困難な場合などには,同条1項の規定にかかわらず,厚生労働省労働基準局長の定めるところによることができると定める。

そして,本件通達(証拠<省略>)は,業務の必要上,勤務の終了後継続8時間以上の休息期間を与えることが困難な場合には,当分の間,一定期間における全勤務回数の2分の1を限度に,休息期間を拘束時間の途中及び後続時間の経過直後に分割して与えることができるものとすること,この場合において,分割された休息期間は,1日において1回当たり継続4時間以上,合計10時間以上でなければならないものとすることを定めている。

(7)  被告は,平成18年1月16日,従業員に対し,これまで被告における労働時間は月間293時間を限度としてきたが,昨今の労働基準監督署による指導,従業員の健康と安全等を踏まえ,原則として月間256時間(時間外労働が月間80時間),繁忙期は276時間を上限として,時間短縮に取り組む旨の通達(証拠<省略>)を発した。

他方,平成23年6月16日ないし同年7月15日までの1か月において,被告の従業員のうち労働時間が256時間を超える者の割合は約3分の2であった。(証拠<省略>)

2  アルバイトを許可しなかったことが違法か否か(争点(1))について

(1)  被告において準社員についてもアルバイトが許可制であったか否か

ア アルバイト就労の許可制について

労働者は,雇用契約の締結によって一日のうち一定の限られた勤務時間のみ使用者に対して労務提供の義務を負担し,その義務の履行過程においては使用者の支配に服するが,雇用契約及びこれに基づく労務の提供を離れて使用者の一般的な支配に服するものではない。労働者は,勤務時間以外の時間については,事業場の外で自由に利用することができるのであり,使用者は,労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを,原則として許されなければならない。

もっとも,労働者が兼業することによって,労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり,使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じることもあり得るから,このような場合においてのみ,例外的に就業規則をもって兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である。

そして,労働者が提供すべき労務の内容や企業秘密の機密性等について熟知する使用者が,労働者が行おうとする兼業によって上記のような事態が生じ得るか否かを判断することには合理性があるから,使用者がその合理的判断を行うために,労働者に事前に兼業の許可を申請させ,その内容を具体的に検討して使用者がその許否を判断するという許可制を就業規則で定めることも,許されるものと解するのが相当である。ただし,兼業を許可するか否かは,上記の兼業を制限する趣旨に従って判断すべきものであって,使用者の恣意的な判断を許すものでないほか,兼業によっても使用者の経営秩序に影響がなく,労働者の使用者に対する労務提供に格別支障がないような場合には,当然兼業を許可すべき義務を負うものというべきである。

イ 被告における準社員(フルタイマーを指す。以下同じ。)のアルバイト就労の許可の要否について

(ア) 被告においては,上記1(1)ウのとおり,昭和52年から既に就業規則で従業員の無許可兼業を制限する定めを設けており,平成6年から現在までの就業規則では一貫して,正社員及び準社員について兼業の許可制が採用され,他方,パートタイマーについては兼業を制限する定めを設けていない。

この点,原告は,被告の就業規則において兼業を禁止する規定が設けられたのは本件組合の結成後であり,その目的は本件組合を攻撃することにあった旨主張するが,上記のとおりの就業規則の定めの推移に照らして,採用できない。

(イ) 原告は,被告の就業規則において兼業を許可制とする定めがあったとしても,被告において実際には準社員に対して兼業を禁止していなかったと主張するが,次のとおり,原告の当該主張は採用できない。

a 原告は,被告において週40時間制を導入した時や,朝礼において,被告の前社長がアルバイトを認める旨の発言をしたと主張し,原告やBはそれに沿う供述ないし証言をする。

しかしながら,原告の供述は,週40時間制を導入した時の前社長の発言について,これからは賃金を上げることができないからアルバイトをしても良いと述べたとする程度であり,それ以外の発言内容について何ら説明できていないことからも,具体性に欠けるといわざるを得ない。また,原告は,正社員は勤務時間が変わり得るのでアルバイト就労が禁止されていたが準社員は勤務時間がほぼ一定なのでアルバイト就労が許可されていたと供述する一方,前社長の上記発言は正社員と準社員とを区分せずにされたものであると供述するのであり,矛盾したものといわざるを得ない。仮に賃上げができないからアルバイト就労をしてもよいと被告において決したというのであれば,当該事情は正社員と準社員とで共通のものであるから,共通してアルバイト就労が認められる運用がされるはずであって,正社員について無許可でのアルバイト就労が禁止されていたということは,むしろ,無許可でのアルバイト就労を認める旨の発言がなかったこと(人証<省略>)と整合的である。

朝礼における前社長の発言についても,原告の供述は他の者から聞いたとの伝聞に過ぎず,Bの証言も,時期や発言の経緯が明確でない極めて曖昧なものであって,そのような発言があったと認めることはできない。

そもそも,原告の主張にかかる前社長の発言が仮にあったとしても,それゆえにアルバイト就労をすること自体を許容する趣旨と解し得るとしても,それをもって就業規則の定めにもかかわらず無許可でアルバイト就労を行ってもよいことまで認める趣旨とは直ちに解し難い。かえって,少なくとも平成6年以降,就業規則を数度にわたって改定しているにもかかわらず一貫して就業規則に無許可での兼業を禁止する旨の同一内容の定めを設けていることに照らすと,被告としては,就業規則の定めどおり,一貫して無許可での兼業を禁止する趣旨であったとみるのが相当である。

b また,原告は,被告が従業員のアルバイト就労を黙認していた旨主張し,原告やBは,同人らがアルバイト就労をし,被告もそれを知っていた旨供述ないし証言する。

しかしながら,Bについてみると,同人はd社での勤務を本務とし,被告には1日に3時間ないし4時間程度勤務するために入社したものであり,平成6年以降の就業規則におけるパートタイマーに該当するものであって,平成5年ころにc社での昼のアルバイトをするようになった際も被告における勤務内容は同じであるから,Bが無許可で兼業していたことを理由に,被告において準社員の兼業が許されていた根拠とはなり難い(なお,Bが入社した時点の就業規則では,正社員,準社員,パートタイマーといった区分がされておらず,その時点での被告での取扱いは不明であるが,Bが兼業を前提として入社していることからすると,これをもって就業態様にかかわらず兼業が許されていた根拠とはなり難い。)。また,Bは,平成10年ころに正社員となり,その後もc社でのアルバイトを継続しているが,Bの証言によってもBがc社でアルバイト就労していることをHに報告したことはないというのであり,被告がBの兼業を黙認していたとは認められない。

また,原告のアルバイト就労についてみると,少なくとも就労開始当時準社員の兼業が禁止されているとの認識が原告になかったこと,アルバイト先の制服のズボンを着用して被告に出勤するなど兼業していることを隠そうとする行動をとっていなかったこと,原告の勤務する現場の従業員が原告のアルバイト就労を認識していたことの各事実は,原告やBの供述から認めることができる。しかし,被告におけるアルバイト就労の許可権者というべきHを含む被告の経営陣が,原告のアルバイト就労を認識,認容していたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,京都府労働委員会においてCが原告のアルバイト就労の事実を陳述するまで,無許可でのアルバイト就労を理由とする原告に対する処分がされなかった経緯に照らすと,それまで被告は原告のアルバイト就労を認識していなかったとみるのが相当である。

そして,上記の事情に加え,本件組合の組合員でないGに対しても無許可でのアルバイト就労を理由として処分がされていること(なお,原告は,Gについては勤務時間中の兼業という悪質なものであったと主張するが,Gに対する懲戒処分(証拠<省略>)には勤務時間中の兼業であったことの記載はなく,その他これを認めるに足りる証拠はない。)にかんがみると,原告を含む従業員が就業規則に違反してアルバイト就労をしていたことを知らなかったこと,Hが把握した無断のアルバイト就労に対しては,それを行った従業員に対して必ず処分をしたこと,被告がアルバイト就労を承認ないし黙認していた事実はないことを述べるHの証言は信用できるというべきである。

c また,原告は,準社員の無許可でのアルバイト就労を認める労使慣行があった旨主張するが,上記bのとおり被告が無許可でのアルバイト就労を黙認していたとはいえない以上,そのような労使慣行があったということもできない。

ウ 以上のとおりであるから,被告の準社員のアルバイト就労は,従前から,就業規則上も実態としても許可制であったと認められる。

(2)  原告のアルバイト就労の許可申請を不許可としたことの合理性ないし不当目的の有無について

ア 被告は,過労を防止するとともに被告の機密が漏洩するのを防止するという観点から,アルバイト就労の許否を判断したと主張し,Hも,それに沿う証言をする。

そして,被告の業務内容に照らすと,上記の観点からアルバイト就労の許否を判断することは自然であるし,合理性も認められるし,同様の観点から被告が平成20年2月に作成した兼業の許可基準(上記1(4)コ参照。以下「許可基準」という。)は,その内容に照らして合理性があるといえる。

もっとも,過労にしても機密漏洩にしても,どの程度の危険性があって不許可としなければならないかは,被告の業務内容,兼業許可を申請する労働者の担当職務の種類や内容,兼業として勤務する就業先の業務内容や担当職務等を具体的に検討すべきである。

イ 原告等の各申請に対する不許可の合理性について

(ア) 原告の第1申請について

被告は,原告の第1申請を不許可とした理由について,原告が第1申請当時被告において午後1時から午前0時までドライバーとして勤務しており,原告が午前8時30分から午後0時まで他社で労働した場合,他社から被告への移動時間や着替え時間等を考慮すると,原告はほぼ休憩しないまま夜間を含む11時間もの長時間トラックを運転することになる旨主張する。

被告における原告の担当業務は,大型トラックの運転であり,適切な休息時間が確保できないまま被告における業務に従事した場合には,疲労や寝不足のために交通事故等を起こし,被告の業務に重大な支障が生じるのみならず第三者にも多大な迷惑を掛けることになるものであるから,適切な休息時間の確保は,原告の労務提供にとって極めて重要な事項である。そして,本件告示が勤務終了後継続8時間以上の休息期間を与えることを定めていることに照らすと,本件許可基準において,兼業終了後被告への労務提供開始までの休憩時間が6時間を切る場合に不許可とする旨定めていることには合理性がある。

そうすると,被告が原告の第1申請を不許可としたことには,合理性がある。

(イ) 原告の第2申請について

被告は,原告の第2申請を不許可とした理由について,①当時,既に被告において毎月実働230時間程度の労働を行っていたところ,原告が1日4時間のアルバイトを行うと,原告の月間実働時間は,被告が従業員の過労を防止するために目標としている毎月の実働時間253時間を超過する可能性があったこと,②原告は被告において当時1日当たり11時間もの長時間の労働を行っており,さらに他社で4時間の労働を行うと,原告の1日当たりの実働時間は少なくとも15時間以上もの長時間になることを主張する。

まず,許可基準が定める「働き過ぎ」についてみると,被告が平成18年1月に月間実働時間の目標を256時間と定める一方で(上記1(6)参照),Eは,平成20年3月の団体交渉において「働き過ぎ」が293時間を指すと回答しており,被告側の他の出席者も異論を述べていないことから(上記1(4)サ),当該時点では被告は293時間を基準にしていたと認められる。Hは,当該293時間について,一気に256時間まで変更すると従業員の賃金が低下するので過渡的なものとして定め,その後253時間に変更した旨証言するが,その変更した時期について明確な証言ができず(Hは,その時期は分からない旨証言したり,293時間がほぼクリアできたので次の段階を設定したとし,そのクリアした時期を証言時(平成24年2月17日)の1年前くらい(平成23年2月ころとなる。)である旨証言するなど,その証言は一貫していない。また,256時間を253時間とした時期や経緯についても明確な証言をしていない。),それを裏付ける客観的な証拠もなく,その変更を従業員に示した形跡もないのみならず,原告や他の本件組合の組合員のアルバイト就労を不許可とする回答において,被告は253時間という時間を1度も記載していない(なお,被告が本件訴訟において253時間という時間数を示したのは,本件訴訟の提訴後1年以上経過した平成23年1月7日付け準備書面においてである。)。これらのことからすると,原告の第2申請を不許可とした時点で,被告において許可基準が定める「働き過ぎ」の基準が被告内部における実質的な検討を経て293時間から変更されていた事実を認めることはできない。そうすると,被告が主張する253時間が,被告の所定労働時間173時間に残業80時間を加えた時間であり,脳血管疾患等の業務起因性の認定基準に関する通達(平成13年12月12日基発1063号)において定められた時間数に照らして合理性を有するものであるとしても,上記の経過に照らして,原告の第2申請を不許可とした理由として253時間を持ち出すことは唐突といわざるを得ない。

もっとも,当時の原告の労働時間数は概ね230時間前後であり,原告の第2申請に係るアルバイト就労時間数(1日4時間で,1か月20日程度勤務すると仮定しても,月間80時間となる。)を加えると,上記253時間のみならず293時間をも超えることになる。

また,被告主張のとおり,原告の第2申請に係るアルバイト就労時間数を加えると,1日当たり,15時間もの労働をすることになり,社会通念上も過労を生じさせるというべきである。

これらのことに照らすと,被告が原告の第2申請を不許可としたことには合理性があるといえる。

(ウ) 原告の第3申請について

被告は,原告の第3申請を不許可とした理由について,①原告が既に被告において毎月実働230時間程度の労働を行っており,原告が週1回1日4時間のアルバイトを行うと,原告の月間実働時間は,246時間となり,原告が被告において残業等を行う可能性があることを勘案すると,原告の月間実働時間は,被告が従業員の過労を防止するために目標達成としている毎月の実労働時間253時間を超過する可能性があったこと,②原告の第3申請に係る就労日は,従業員に労働義務を負わせず,十分な休息を取らせるために労働基準法等が定められている法定休日であること,③原告が同業他社でアルバイト就労をすることにより,被告の機密が当該アルバイト先に漏れるおそれがあったことを主張する。

しかしながら,①については,上記(イ)のとおり,原告の第3申請を不許可とした時点において,許可基準における「働き過ぎ」は,月間293時間であったというべきであり,原告の第3申請はそれを下回る。また,仮に被告主張のとおり253時間であるとしても,原告の実働時間は概ね230時間前後であり,原告が第3申請に係るアルバイト就労をしたとしても直ちにその時間数を超えるものではない。また,月によっては253時間を超える場合があり得るとしても,原告が予定されたコース以外の業務が生じる可能性は高いとはいえず,253時間を超えることが恒常的に予定されているものではないから,そのような残業等を行う可能性のみをもって許可基準に抵触するとはいい難い。

次に,②についても,法定休日は,原告が被告における労働義務を負わないという意味であって,原告がアルバイト就労をして労働することまで禁じるものではない。上記のとおり,兼業を許可するか否かは,労働者の使用者に対する労務提供に格別支障があるかを具体的にみるべきであって,原告においては週休2日であることにも照らすと,法定休日であることをもって原告の第3申請を不許可とすることはできない(なお,Hは,不許可とした理由について,日曜日が原告の休みの日で,休みの日にアルバイト就労をするというのは過労につながると判断した旨証言しており,その休日が法定休日であるか否かを意識していなかった可能性が高い。)。

さらに,③についても,兼業による企業秘密の漏洩の危険を具体的に検討すべきところ,そもそも被告が主張する企業秘密の内容が明確でない。そして,原告は被告において運転手として勤務しているが,原告の第3申請に係る業務内容は構内作業であって,担当職務が異なるのであり,そのため,違う職種を担当した場合に,被告の企業秘密がc社に漏洩するとは具体的に想定し難い。そして,このことは,被告がc社から請け負った配車業務を被告の従業員であるBが担当していたことや,Hの証言によっても,同業会社で運転手をする者が被告で運転手としてアルバイト就労することを被告は特段問題としていないことから裏付けられているといえる。

以上のとおりであるから,原告の第3申請を被告が不許可としたことは,理由がないものといわざるを得ない。

(エ) 原告の第4申請について

被告は,原告の第4申請を不許可とした理由について,①原告が既に被告において毎月実働230時間程度の労働を行っており,原告が週1回1日3時間のアルバイトを行うと原告の月間労働時間が242時間となり,原告が被告において残業等を行う可能性を勘案すると原告の月間労働時間が253時間を超過する可能性があったこと,②原告の第4申請に係る就労日は,原告の法定休日である日曜日であることを主張する。

しかしながら,上記(ウ)同様,上記主張には理由がなく,原告の第4申請を被告が不許可としたことは,理由がないものといわざるを得ない。

(オ) C,Dの申請について

Cの各申請,Dの申請については,被告主張のとおり,アルバイト就労を認めた場合の同人らの月間実働時間数ないし1日の労働時間数に照らすと,過労を生じさせるものしてこれらを不許可としたことには合理性があるといえる。

ウ アルバイト就労の不許可の不当目的

原告の第3申請及び第4申請に対する不許可は,「働き過ぎ」の基準となる時間について従前の交渉経過等と明らか異なる時間数を突然持ち出しており,恣意的な対応をうかがわせるものである。また,法定休日を持ち出す点も,週に2日休日がある中のわずか3時間ないし4時間就労するに過ぎないものであるにもかかわらず,本来理由となり得ない法定休日を理由として持ち出しているのであって(被告における労働から解放されるという意味では週2日ある休日は同じ価値を有し,被告においていずれとも定め得るものであって,法定休日であることを不許可の理由とするのであれば,休日におけるアルバイト就労を一切認めないことを事実上意味することにもなりかねない。),兼業による支障を真摯に検討するという姿勢を明らかに欠くものといわざるを得ずない。

これらに照らすと,被告が行った不許可は,原告のアルバイト就労を不当かつ執拗に妨げる対応といわざるを得ない。

また,被告の対応が上記のとおり恣意的かつ執拗なものであることに加え,上記認定事実によれば,本件組合が京都府労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てて被告と争い,その救済命令に係る被告の不履行によって裁判所が被告に過料の制裁を科し,本件組合が労働基準監督署への申告も利用してその要求の実現を図ろうとし,(その内容の適否は別として)本件組合を批判するビラが被告の事務所内等に貼られていたなど,本件組合と被告との対立が激化していた状況にあることなどを考慮すると,原告の第3申請及び第4申請を不許可とした被告の対応は,不当労働行為意思に基づくものと推認するのが相当である。

以上のとおり,原告の第3申請及び第4申請に対する被告の不許可は,執拗かつ著しく不合理なもので,単なる労働契約上の許可義務違反を超えて原告に対する不法行為に当たるというべきである。また,その不許可の理由において,被告に不当労働行為意思も推認できるから,この点でも被告の上記不許可が不法行為に該当するというべきである。

3  損害の有無及び額(争点(2))について

(1)  原告は,まず,就労できなかったことによって得られなかった利益を主張し,その利益として,平成21年5月から同年10月までc社で行っていたアルバイト就労における収入相当額の損害を主張する。

しかしながら,原告がc社で行っていたアルバイト就労は,原告の第1申請と同内容のものであり,上記2(2)イ(ア)のとおり不許可とするのが合理的というべきものであったから,これによる収入相当額の損害があったということはできない(なお,原告の第3申請,第4申請を前提とした損害額の主張を原告はしておらず,この点は,次の慰謝料算定の一要素として考慮することとする。)。

(2)  原告は,次に,被告による不合理かつ執拗なアルバイト就労の不許可がされたことにより,本件訴訟における追加的な主張立証を含めて対応を余儀なくされ,生活の足しとすべき収入が得られなかったなどの精神的苦痛を被ったことが認められる。

そして,その苦痛に対する慰謝料額は,被告の対応の不合理性の程度,許可されるべきアルバイト就労によって得られた収入の程度,それが原告の収入に占める割合,原告が被告の不合理性の主張立証に要した労力等をはじめとする諸事情を総合的に考慮して,30万円とするのが相当である。

4  以上のとおりであり,本件請求は,30万円及びこれに対する原告の第3申請に係る不許可がされた平成22年12月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払の限度で理由があり,その余は理由がないから,主文のとおり判決する。

(裁判官 谷口哲也)

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