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京都地方裁判所 平成21年(ワ)854号 判決 2009年9月30日

原告

X1 他2名

被告

Y1 他1名

主文

一  被告らは、原告X1に対し、各自二〇一〇万四五五四円及びこれに対する平成一九年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2に対し、各自一〇〇五万二二七七円及びこれに対する平成一九年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告X3に対し、各自一〇〇五万二二七七円及びこれに対する平成一九年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを一〇〇分し、その八五を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

六  この判決は、第一ないし三項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告らが、原告X1のため一四二〇万円の担保を供するときはその仮執行を免れることができ、原告X2のため七一〇万円の担保を供するときはその仮執行を免れることができ、原告X3のため七一〇万円の担保を供するときはその仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告X1(以下「原告X1」という。)に対し、各自二三七一万一三〇六円及びこれに対する平成一九年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2(以下「原告X2」という。)に対し、各自一一八五万五六五四円及びこれに対する平成一九年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告X3(以下「原告X3」という。)に対し、各自一一八五万五六五三円及びこれに対する平成一九年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが、(1)被告Y1(以下「被告Y1」という。)とAとの間で発生した交通事故により、Aが死亡し、同人が損害を被った、(2)原告らは、相続により、Aの被告らに対する損害賠償請求権を承継した旨主張し、被告らに対し、被告Y1については民法七〇九条に基づき、被告Y2(以下「被告Y2」という。)については自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、それぞれ上記損害賠償金(原告X1につき各被告に対し二三七一万一三〇六円、原告X2につき各被告に対し一一八五万五六五四円、原告X3につき各被告に対し一一八五万五六五三円。後記二(2)〔原告らの主張〕ケ)及びこれに対する不法行為の日の後である平成一九年一二月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

一  争いのない事実等

次の事実は、当事者間に争いがないか、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨により認めることができる。

(1)  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

ア 発生日時 平成一九年一二月二三日午前一〇時〇分ころ

イ 発生場所 大津市衣川二丁目三二―二一地先県道(以下「本件事故現場」という。)

ウ 事故態様 被告Y1は、普通乗用自動車(〔ナンバー省略〕。以下「被告車」という。)を運転し、本件事故現場付近を東西に通じる道路(以下「本件道路」という。)を東から西に向けて時速約四〇キロメートルで進行し、本件事故現場手前に差し掛かったところ、進路前方の本件道路左側の外側線上を同方向に進行するA運転の自転車(以下「原告自転車」という。)を認めていたのであるから、原告自転車の動静を注視しその安全を確認して追い越すべき注意義務があるのにこれを怠り、連続して対向進行する車両の動静などに気を取られて、原告自転車の動静を注視せずに進行した過失により、進路前方に設置されていたガードレールを避けようとして進路を右に変更してきた原告自転車を、前方約八・三メートルの地点に認めて急制動の措置を講じたが間に合わず、被告車左前部を原告自転車後部に追突させてAを跳ね上げてフロントガラス左側端部に衝突させて路上に転倒させた。

(2)  Aの死亡及び相続

ア Aは、平成一九年一二月二三日、本件事故により傷害を負い、上記傷害により死亡した。

イ Aの相続人は、妻である原告X1(法定相続分二分の一)、子である原告X2(法定相続分四分の一)及び子である原告X3(法定相続分四分の一)であり、原告X1は、被相続人Aの被告らに対する損害賠償請求権を二分の一の割合で、原告X2及び原告X3は、被相続人Aの被告らに対する損害賠償請求権を各四分の一の割合でそれぞれ相続した(甲五ないし八)。

(3)  責任原因

被告Y1には、本件事故の発生につき前方注視義務を怠った過失があり、民法七〇九条に基づき、本件事故によりAが被った損害を賠償する責任がある。

被告Y2は、本件事故当時、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していた者であり、自賠法三条に基づき、本件事故によりAが被った人的損害を被告Y1と連帯して賠償する責任がある。

(4)  損害のてん補

原告らは、本件事故によりAが被った損害のてん補として、被告らから(被告ら加入の任意保険会社から)二一六万九三一〇円の支払を受けた。

二  争点

(1)  過失相殺

(被告らの主張)

本件事故の発生について、原告自転車を進路前方に認めておきながら、その動静を注視せずに減速することなく漫然と法定速度で進行した被告Y1に主たる責任があることは無論である。しかし、Aにも、右に進路変更をするにあたって、その合図をせず、右後方の安全を十分確認しないで、右に進路変更をした過失がある。

Aの過失割合は二〇パーセントとみるべきであり、上記割合により過失相殺がなされるべきである。

(原告らの主張)

被告らの上記主張のうち、Aが右に進路変更をするにあたりその合図をしなかったとの点は否認し、その余は争う。本件事故の発生について、Aの過失はない。

(2)  Aの損害等

(原告らの主張)

Aは、本件事故により、次のとおり損害を被った。

ア 治療費 七一万三〇五五円

イ 葬儀関係費 一二〇万円

ウ 死亡逸失利益 一五三七万八八六八円

(ア) 基礎収入

年額三六〇万六〇〇〇円(年金収入である。)

(イ) 生活費控除率 四〇パーセント

(ウ) 年金収入を失った期間

Aは、死亡当時、平均余命が九年であり、そのライプニッツ係数は七・一〇八である。

(エ) 計算式

360万6000円×(1-0.4)×7.108=1537万8868円

エ 死亡慰謝料 二八〇〇万円

オ 前記アないしエの合計 四五二九万一九二三円

カ 前記オにつき損害のてん補後の残額 四三一二万二六一三円

4529万1923円-216万9310円=4312万2613円

キ 弁護士費用 四三〇万円

ク 前記カ及び同キの合計 四七四二万二六一三円

ケ 原告らは、Aの前記クの損害賠償請求権を、前記一(2)のとおりの割合(原告X1につき二分の一、原告X2及び原告X3につき各四分の一)で承継した(原告X1につき二三七一万一三〇六円、原告X2につき一一八五万五六五四円、原告X3につき一一八五万五六五三円)。

(被告らの主張)

ア 原告らの主張ア(治療費)は認める。

イ 原告らの主張イ(葬儀関係費)は否認する。領収証等があるのは一〇六万二五〇五円にすぎない。

ウ 原告らの主張ウ(死亡逸失利益)は否認する。

生活費控除率は少なくとも六〇パーセントとすべきである。

エ 原告らの主張エ(死亡慰謝料)は争う。

二〇〇〇万円が相当である。

オ 原告らの主張オないしケは否認し争う。

第三当裁判所の判断

一  前記第二の一の事実及び証拠(甲一ないし三)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  本件事故現場及びその付近の状況は別紙図面記載のとおりである。

本件事故現場付近を東西に通じる道路(本件道路)は、中央線が設けられている片側一車線の前方の見通しの良い直線道路であり、その両側端には外側線が標示されている。本件道路東行車線の北側には歩道が設けられているが、本件道路西行車線の南側には歩道がなく、本件事故現場付近には、飲食店等との境界付近に長さ約五メートルのガードレールが設置されている。本件道路は、最高速度時速四〇キロメートルの交通規制が実施されている。

(2)  本件事故の態様は、次のとおりである。

A(昭和三年○月○日生。当時七九歳の男性)は、平成一九年一二月二三日午前一〇時〇分ころ、自転車(原告自転車)を運転し、本件道路西行車線南側の外側線付近を東から西に向けて進行し本件事故現場手前に差し掛かったところ、別紙図面のfile_3.jpg地点付近から進行するにあたり、進路前方に設置されていた前記ガードレールを避けるため右に進路変更をし、上記file_4.jpg地点付近から別紙図面のfile_5.jpg地点付近、file_6.jpg地点付近へと進行したところ(進路変更の幅は数一〇センチメートルであり、原告自転車は、進路変更後も、上記西行車線の左端付近を進行していたものである。)、後方から進行してきた普通乗用自動車(被告車)の左前部が原告自転車後部に衝突した。Aは、上記進路変更の際、右後方の安全確認を十分していなかった(なお、上記進路変更に関し、被告らは、Aが右に進路変更をする前に合図をしなかった旨主張するが、上記事実を認めるに足りる証拠はない。)。

一方、被告Y1は、平成一九年一二月二三日午前一〇時〇分ころ、被告車を運転し、本件道路西行車線を東から西に向けて時速約四〇キロメートルで進行し本件事故現場手前に差し掛かったところ、別紙図面の①地点付近で、脇見をして進行し、別紙図面の②地点付近で、進路前方の上記西行車線左側の外側線上付近を同方向に進行するA運転の原告自転車を認めたが(その時の原告自転車の位置は上記file_7.jpg地点〔上記②地点から一六・七メートルの地点である。〕付近であった。)、原告自転車の右横を通過するにあたって、減速をし安全な速度で進行すべき注意義務があるのに、また、原告自転車の動静を注視しその安全を確認すべき注意義務があるのに、これらを怠り、減速をすることなく上記速度で、また、連続して対向進行する車両の動静などに気を取られ原告自転車の動静注視不十分のまま進行した過失により、別紙図面の③地点付近で、上記のとおり進路前方のガードレールを避けようとして右に進路変更をしてきた原告自転車を、前方約八・三メートルの地点(上記file_8.jpg地点付近)に認めて急制動の措置を講じたが間に合わず、上記file_9.jpg地点付近で、被告車左前部を原告自転車後部に追突させ、Aを跳ね上げてフロントガラス左側端部に衝突させて路上に転倒させた。

(3)  Aは、平成一九年一二月二三日、本件事故により、脳挫傷等の傷害を負い、大津赤十字病院に搬送されたが、同日、上記傷害により死亡した。

二  争点(1)(過失相殺)について

被告らは、Aには本件事故の発生につき過失があり過失相殺がなされるべきである旨主張するので、以下検討する。

前記一の事実によれば、本件事故の発生について、被告Y1には、被告車を運転して時速約四〇キロメートルで進行し、本件事故現場手前に差し掛かり、前判示のとおり、原告自転車を認めたのであるから、原告自転車の右横を通過するにあたって、減速をし安全な速度で進行すべき注意義務があるのに、また、原告自転車の動静を注視しその安全を確認すべき注意義務があるのに、これらを怠った過失があるというべきである。一方、Aについても、本件道路西行車線を進行し、本件事故現場付近で右に進路変更をするにあたって、右後方の安全確認を十分しなかったとの事実が認められる。しかしながら、前判示の本件事故現場付近の状況、本件事故の態様、被告Y1の過失の内容等のほかAの年齢(Aは、本件事故当時七九歳であり、高齢であった。)にかんがみれば、Aに係る上記事実を過失相殺における過失とするのは相当でなく、本件事故の発生における過失割合は、A・〇パーセント、被告Y1・一〇〇パーセントと認めるのが相当である。したがって、被告らの上記主張は採用することができない。

三  争点(2)(Aの損害等)について

(1)  治療費 七一万三〇五五円

Aが、本件事故により、治療費として、上記金額の損害を被ったことは、当事者間に争いがない。

(2)  葬儀関係費 一二〇万円

前記一の事実及び弁論の全趣旨によれば、①一般に、葬儀関係費としては、一二〇万円を下らない費用を要するのが通常であること、②Aの葬儀関係費についても、領収証等により確認された支出は一〇六万二五〇五円であるが、それ以外の支出があり、一二〇万円を下らない費用を要したこと、③したがって、Aは、本件事故により、葬儀関係費として、一二〇万円の損害を被ったことが認められる。

(3)  死亡逸失利益 一二八一万五三六三円

前記一の事実及び証拠(甲三、六ないし一七)並びに弁論の全趣旨によれば、①A(当時七九歳)は、本件事故当時、妻である原告X1、(当時七四歳)と二人暮らしであったこと、②本件事故当時、Aには、年額三六〇万六〇〇〇円の年金収入があり、原告X1には国民年金からの収入があったこと、③Aは、本件事故当時、自宅が自らの所有する不動産であったため、住居費として賃料の負担がなかったこと、④Aは、本件事故により、死亡逸失利益として、次のとおり上記金額の損害を被ったことが認められる。

ア 基礎収入

年額三六〇万六〇〇〇円(上記年金収入)

イ 生活費控除率 五〇パーセント

上記基礎収入は年金収入であることのほか、その金額やAの上記の生活状況等にかんがみれば、生活費控除率は上記割合と認めるのが相当である。

ウ 年金収入を失った期間

Aは、死亡当時、七九歳の男性であり、その平均余命は九年であり(平成一九年簡易生命表)、そのライプニッツ係数は七・一〇七八である。

エ 計算式

360万6000円×(1-0.5)×7.1078=1281万5363円(1円未満切り捨て)

(4)  死亡慰謝料 二四〇〇万円

ア 前記一の事実及び証拠(甲三、六ないし一四)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(ア) A(当時七九歳)は、本件事故当時、妻である原告X1(当時七四歳)と二人暮らしであった。

原告X1は、本件事故前の平成一六年秋ころ、認知症を発病したため、日常生活につきAの介護なくしては生活できない状態となっており、生活用品・食料の買い出し、掃除、洗濯、炊事等の家事全般はAが行っていた。

自宅(平成九年に新築されたもの)は、Aの所有であり、借入はなかった。Aは、転勤を繰り返す仕事であったが、定年後に自宅を建築し、余生を妻と平穏に暮らしていた。

(イ) 本件事故でAが死亡したことにより、原告X1は、平成二〇年三月から、社会福祉法人○○が運営する施設に入所した。これは、原告X1は、元々Aの介護によって生活ができる状態で一人では生活ができず、一方、原告X2及び原告X3も既に婚姻し、実家を出て独立しており、また、原告X1の症状からして、原告X1をいずれかの自宅で介護することも困難であったからである。原告X1は、現在も上記施設で暮らしている(前記自宅は、住む者がない状態となっている。)。

イ 前判示のとおりの本件事故による重大な結果、本件事故後の経緯、Aの年齢・生活状況・家族状況等の諸般の事情にかんがみれば、死亡慰謝料として、二四〇〇万円を認めるのが相当である。

(5)  前記(1)ないし(4)の合計 三八七二万八四一八円

(6)  前記(5)につき損害のてん補後の残額 三六五五万九一〇八円

3872万8418円-216万9310円(前記第2の1(4))=3655万9108円

(7)  弁護士費用 三六五万円

本件事案の内容、本件訴訟の経過及び認容額等にかんがみれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、上記金額と認めるのが相当である。

(8)  前記(6)及び同(7)の合計 四〇二〇万九一〇八円

(9)  原告らが承継した損害賠償請求権

原告らは、Aの前記(8)の損害賠償請求権を、前記第二の一(2)のとおりの割合(原告X1につき二分の一、原告X2及び原告X3につき各四分の一)で承継した(原告X1につき二〇一〇万四五五四円、原告X2及び原告X3につき各一〇〇五万二二七七円)。

四  以上によれば、被告らは、被告Y1については民法七〇九条に基づき、被告Y2については自賠法三条に基づき、①原告X1に対し、各自(連帯して)前記三(9)の二〇一〇万四五五四円及びこれに対する不法行為の日の後である平成一九年一二月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を、②原告X2及び原告X3の各原告に対し、各自(連帯して)前記三(9)の一〇〇五万二二七七円及びこれに対する不法行為の日の後である平成一九年一二月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務をそれぞれ負うものというべきであり、原告らの各請求は、被告らに対し、上記各金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

(裁判官 井田宏)

交通事故現場見取図

<省略>

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