大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成21年(ワ)95号 判決 2009年8月10日

原告

X1 他1名

被告

Y1 他1名

主文

一  被告らは、原告X1に対し、連帯して一九三六万三二七二円及びこれに対する平成一八年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2に対し、連帯して一九三六万三二七二円及びこれに対する平成一八年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その八を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告X1(以下「原告X1」という。)に対し、連帯して二四二〇万円及びこれに対する平成一八年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2(以下「原告X2」という。)に対し、連帯して二四二〇万円及びこれに対する平成一八年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが、(1)被告Y1(以下「被告Y1」という。)と亡A(以下「亡A」という。)との間で発生した交通事故により、亡Aが死亡し、同人及び原告らが損害を被った、(2)原告らは、相続により、亡Aの被告らに対する損害賠償請求権を承継した旨主張し、被告らに対し、被告Y1については民法七〇九条に基づき、被告Y2特産物販売有限会社(以下「被告会社」という。)については民法七一五条一項(又は、自動車損害賠償保障法三条)に基づき、被告らに対し、連帯して上記損害賠償金(各原告につき二四二〇万円。後記二(2)(原告らの主張)ウ(ウ))及びこれに対する不法行為の日である平成一八年一二月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

一  争いのない事実等

次の事実は、当事者間に争いがないか、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨により認めることができる。

(1)  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した(甲一)。

ア 発生日時 平成一八年一二月六日午後五時三九分ころ

イ 発生場所 兵庫県佐用郡佐用町平福一〇六一番地四(以下「本件事故現場」という。)

本件事故現場及びその付近の状況は別紙図面記載のとおりである。

ウ 事故態様 被告Y1は、普通貨物自動車(冷蔵冷凍車。〔ナンバー省略〕。以下「被告車」という。)を運転し、本件事故現場付近を南北に走る道路(以下「本件道路」という。)を南から北に向けて時速約五〇ないし六〇キロメートルで進行し、本件事故現場手前に差し掛かったところ、本件道路左端の被告車の進路左前方を被告車と同方向に歩行していた亡A(当時八一歳)に気付かず、被告車左前部を亡Aに衝突させて同人を路上に転倒させた。

(2)  亡Aの負傷、治療経過、死亡及び原告らの相続

ア 亡Aは、本件事故により、脳挫傷の傷害を負い、平成一八年一二月六日から平成一九年二月二六日までの間、津山中央病院に入院し(入院日数八三日)、治療を受けたが、同日、上記傷害により死亡した。

イ 亡Aの相続人は、長女である原告X1(法定相続分二分の一)及び二女である原告X2(法定相続分二分の一)であり、原告らは、被相続人亡Aの被告らに対する損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続した(甲九の一ないし三)。

(3)  責任原因

ア 被告Y1は、過失により本件事故を発生させたものであり、民法七〇九条に基づき、本件事故により亡A及び原告らが被った損害を賠償する責任がある。

イ 被告会社は、その事業のために被告Y1を使用する者であるところ、本件事故は、被告Y1が、上記事業の執行について行った被告車の運転により発生したものであり、被告会社は、民法七一五条一項に基づき、本件事故により亡A及び原告らが被った損害を被告Y1と連帯して賠償する責任がある。また、被告会社は、被告車の保有者であり、被告車を運行の用に供していた者として、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故により亡A及び原告らが被った人的損害を被告Y1と連帯して賠償する責任がある。

(4)  損害のてん補 六五六万二四六三円

原告らは、本件事故により被った損害のてん補として、上記金額の支払を受けた。

二  争点

(1)  事故態様及び過失相殺

(被告らの主張)

本件道路北行車線の西側には路側帯(以下「本件路側帯」という。)が設けられており、本件道路は、本件事故現場付近において、幅員一メートル以上の路側帯がある道路である。亡Aは、本件事故の際、本件路側帯を通行できない事情がなかったにもかかわらず、漫然と車道上を歩行していたものであり、道路交通法一〇条二項違反の過失がある。また、亡Aは、被告車が同人の至近距離の地点に接近したとき、突然、それまで歩行していた本件路側帯から本件道路北行車線(車道)に出ていったものである。

本件事故が周囲が暗くなってからの事故であり、かつ、亡Aが黒色の服を着ていたために、亡Aを確認するのが困難な状況であったことからすると、亡Aが高齢者であることを考慮しても、その過失割合は二五パーセントを下らないものであり、過失相殺をすべきである。

(原告らの主張)

亡Aは、本件路側帯の白線(路側帯と車道を区別し、路側帯の区画を示す線。以下「本件路側帯区画線」という。)の内側(本件路側帯の中)又は白線上を歩行していた。その際、交通安全のため、懐中電灯を持って、それを前後に振りながら歩行していたものである。本件路側帯の西の外側には用水路があり、歩行者は、用水路への転落を避け、安全に通行するためには、白線付近(白線の内側五〇センチメートル未満の部分)を通行せざるを得ない(本件事故当時のように暗いときはなおさらである。)。他方、被告Y1の前方注視義務違反の過失は重大であり、過失相殺をすべきではない。

(2)  亡A及び原告らの損害

(原告らの主張)

ア 亡Aの損害等

亡Aは、本件事故により、次のとおり損害を被った。

(ア) 治療費 四五六万二四六三円

(イ) 付添看護費 四九万八〇〇〇円

六〇〇〇円(日額)×八三日(入院日数)=四九万八〇〇〇円

(ウ) 入院雑費 一二万四五〇〇円

一五〇〇円(日額)×八三日(入院日数)=一二万四五〇〇円

(エ) その他治療関係費 四五五〇円

(オ) 葬儀費用 一二〇万円

(カ) 休業損害 七四万二一八六円

a 基礎収入

年額三二六万三七一二円(日額八九四二円)

b 休業期間

平成一八年一二月六日から平成一九年二月二六日までの八三日間

c 計算式

八九四二円(日額)×八三日=七四万二一八六円

(キ) 死亡逸失利益 一八八九万一三一一円

a 基礎収入 年額四一七万五七〇六円

① 二五四万七二一二円

お好み焼屋経営による収入である。

② 一六二万八四九四円

遺族厚生年金(年額一一五万一八〇〇円)及び通算老齢年金(年額四七万六六九四円)の合計である。

③ 前記①及び同②の合計は年額四一七万五七〇六円である。

b 生活費控除率 三〇パーセント

c 労働能力喪失期間

八年間(そのライプニッツ係数六・四六三)

d 計算式

417万5706円×(1-0.3)×6.463=1889万1311円

e 後記被告らの主張ア(イ)について

亡Aの通算老齢年金は、国民年金通算老齢年金(年額二三万四〇〇〇円)及び厚生年金保険通算老齢年金(年額四八万二五〇〇円)の合計年額七一万六五〇〇円であるが、遺族厚生年金受給による支給調整のため、上記厚生年金保険通算老齢年金については、そのうち年額二四万一二五〇円が支給停止となり、年額二四万一二五〇円が支給されていた(したがって、通算老齢年金の支給は年額四七万五二五〇円〔二三万四〇〇〇円+二四万一二五〇円〕となっていた。)。仮に、遺族厚生年金の逸失利益性が認められないとすれば、厚生年金の支給停止はあり得ないから、年金収入に係る逸失利益算定における基礎収入は年額七一万六五〇〇円となる。

(ク) 傷害慰謝料 一二〇万円

(ケ) 死亡慰謝料 二〇〇〇万円

(コ) 前記(ア)ないし(ケ)の合計 四七二二万三〇一〇円

(サ) 前記(コ)につき損害のてん補後の残額 四〇六六万〇五四七円

4722万3010円-656万2463円(前記1(4))=4066万0547円

(シ) 原告らが承継した損害賠償請求権

原告らは、前記(サ)の損害賠償請求権を各二分の一の割合で承継した(各二〇三三万〇二七三円)。

イ 原告らの固有の慰謝料

各原告につき二〇〇万円

ウ 各原告の請求する損害賠償金

(ア) 弁護士費用

各原告につき二二〇万円

(イ) 前記ア(シ)の二〇三三万〇二七三円、前記イの二〇〇万円及び前記(ア)の二二〇万円の合計は二四五三万〇二七三円である。

(ウ) 各原告の請求する損害賠償金 二四二〇万円

前記(イ)の二四五三万〇二七三円のうち二四二〇万円である。

(被告らの主張)

ア(ア) 原告らの主張ア(ア)(治療費)及び同(エ)(その他治療関係費)は認める。

原告らの主張ア(オ)(葬儀費用)は知らない。

原告らの主張ア(イ)(付添看護費)、同(ウ)(入院雑費)、同(カ)(休業損害)、同(キ)(死亡逸失利益)、同(ク)(傷害慰謝料)、同(ケ)(死亡慰謝料)、同(コ)、同(サ)及び同(シ)は、否認し、争う。

(イ) 原告らの主張ア(キ)(死亡逸失利益)について

生活費控除率は、就労部分につき四〇パーセント、年金部分につき五〇ないし八〇パーセントとすべきである。

遺族厚生年金は逸失利益性を有しない。

また、遺族厚生年金が支給されたため、厚生年金保険通算老齢年金の一部につき支給停止がなされていたのであるから、支給が停止された金額を逸失利益算定における基礎収入とすることはできない。

イ 原告らの主張イ(原告らの固有の慰謝料)及び同ウ(各原告の請求する損害賠償金)は、否認し、争う。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)(事故態様及び過失相殺)について

(1)  前記第二の一の事実及び証拠(甲二の二ないし七、甲一二ないし一九、乙一、二、原告X1本人、原告X2本人)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 本件事故現場及びその付近の状況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場付近をほぼ南北に走る本件道路は、中央線が設けられている片側一車線のほぼ直線で見通しの良い道路であり、本件道路北行車線及び同南行車線の両脇には、同北行車線の西側に幅員約一メートルの路側帯(本件路側帯)が、同南行車線の東側に幅員約三・五メートルの歩道がそれぞれ設けられている。本件道路は、最高速度が時速五〇キロメートルに規制されている。

本件事故現場付近の本件路側帯の西の外側には深い溝があり、歩行者は、本件路側帯の中を通行するに当たっては、溝への転落を避けるため、本件路側帯区画線付近を通行する必要があった。また、本件路側帯は、中に段差もあったため、歩行者が安全かつ円滑に歩行できる部分が狭かった。

イ 被告Y1は、平成一八年一二月六日午後五時三九分ころ、普通貨物自動車(被告車)を運転し、本件道路北行車線を南から北に向けて時速約五〇ないし六〇キロメートルで進行し、本件事故現場手前に差し掛かったところ、前方注視義務があるのにこれを怠り、進路右前方にあった会社建物を見るなど脇見をし前方注視を怠ったまま進行し(別紙図面の①地点付近から②地点付近へと進行したものである。)、折から上記北行車線の左端の被告車の進路左前方を被告車と同方向に歩行していた亡A(当時八一歳)に気付かず、上記図面の③地点付近まで進行して、亡Aを初めて認めるとほぼ同時に、上記図面のfile_3.jpg地点付近で、被告車左前部を亡Aに衝突させて同人を路上に転倒させた。上記衝突の際、亡Aが歩行していた地点(上記file_4.jpg地点付近)は、本件道路北行車線(車道)の中に約〇・五メートル入った地点であった。

(2)  前記(1)に対し、被告らは、「亡Aは、被告車が同人の至近距離の地点に接近したとき、突然、それまで歩行していた本件路側帯から本件道路北行車線(車道)に出ていった」旨主張するが、上記主張事実については、証拠が全くない。したがって、被告らの上記主張は採用することができない。

(3)  前記(1)の事実によれば、被告Y1は、被告車を運転し、本件事故現場手前に差し掛かった際、前方注視義務があるのにこれを怠り、脇見をし前方注視を怠ったまま被告車を進行させた過失があるというべきであるが(被告Y1が、亡Aを初めて認めたのは衝突とほぼ同時であったのであり、その前方不注視の程度は著しいものであった。)、一方、亡Aにも、本件道路を歩行するに当たって、本件路側帯の中ではなく、本件道路北行車線(車道)の中に約〇・五メートル入った所を歩行していたとの事実が認められる。しかしながら、前判示の本件路側帯その他本件事故現場付近の状況、本件事故の態様、被告Y1の過失の内容・程度等のほか亡Aの年齢(当時八一歳であり、高齢であった。)にかんがみれば、亡Aに係る上記事実を過失相殺における被害者の過失と認めるのは相当でなく、本件事故の発生における過失割合は、亡A〇パーセント、被告Y1一〇〇パーセントと認めるのが相当である。したがって、過失相殺をすべきである旨の被告らの前記主張は採用することができない。

二  争点(2)(亡A及び原告らの損害)について

(1)  前記第二の一の事実、前記一の事実及び証拠(甲九の一、甲一〇、一一、原告X1本人、原告X2本人)並びに弁論の全趣旨によれば、亡A(大正○年○月○日生の女性。本件事故当時八一歳)は、平成一八年一二月六日、前判示のとおりの本件事故により、脳挫傷の傷害を負い、同日から平成一九年二月二六日までの間、津山中央病院に入院し(入院日数八三日)、治療を受けたが、同日、その意識回復のないまま、上記傷害により死亡したことが認められる。

(2)  亡Aの損害等

ア 治療費 四五六万二四六三円

亡Aが、本件事故により、治療費として、上記金額の損害を被ったことは、当事者間に争いがない。

イ 付添看護費 四九万八〇〇〇円

前記(1)の事実及び証拠(甲一〇、一一、原告X1本人、原告X2本人)並びに弁論の全趣旨によれば、①亡Aは、本件事故による負傷の内容・程度等からみて、前記入院期間(八三日)につき、長女及び二女である原告らの入院付添を要し、その付添を受けたこと(上記付添看護費は日額六〇〇〇円を認めるのが相当である。)、②亡Aは、本件事故により、付添看護費として、次のとおり上記金額の損害を被ったことが認められる。

6000円×83日=49万8000円

ウ 入院雑費 一二万四五〇〇円

前記(1)の事実及び弁論の全趣旨によれば、亡Aは、本件事故により、入院雑費として、次のとおり上記金額の損害を被ったことが認められる。

1500円(日額)×83日(入院日数)=12万4500円

エ その他治療関係費 四五五〇円

亡Aが、本件事故により、その他治療関係費として、上記金額の損害を被ったことは、当事者間に争いがない。

オ 葬儀費用 一二〇万円

前記(1)の事実及び弁論の全趣旨によれば、亡Aは、本件事故により、葬儀費用として、上記金額の損害を被ったことが認められる。

カ 休業損害 五七万九一七四円

前記(1)の事実及び証拠(甲三、一〇、一一、原告X2本人、原告X1本人)並びに弁論の全趣旨によれば、①亡A(当時八一歳)は、本件事故当時、お好み焼屋を経営し、年額二五四万七二一二円(日額六九七八円。一円未満切り捨て)の収入を得ていたこと(なお、原告らは、年額三二六万三七一二円を下らない収入があった旨主張するが、上記事実を認めるに足りる証拠はない。)、②亡Aは、本件事故により負った傷害のため、平成一八年一二月六日から平成一九年二月二六日までの八三日間、就労することができず、休業損害として、次のとおり上記金額の損害を被ったことが認められる。

6978円×83日=57万9174円

キ 死亡逸失利益 一〇六二万〇三二一円

前記(1)の事実、前記カの事実及び証拠(甲五ないし七、一〇、一一、原告X1本人、原告X2本人)並びに弁論の全趣旨によれば、亡Aは、本件事故により、死亡逸失利益として、次のとおり上記金額の損害を被ったことが認められる。

(ア) 就労に係る逸失利益

七七一万九七〇八円

a 基礎収入

年額二五四万七二一二円(前記カと同じ。)

b 就労可能期間

亡Aの死亡当時の年齢(八一歳)等にかんがみれば、その就労可能期間は、平均余命(一〇・七二年。平成一九年簡易生命表)の約二分の一である五年間(八六歳までの五年間。そのライプニッツ係数は四・三二九五である。)と認めるのが相当である。

c 生活費控除率 三〇パーセント

d 計算式

254万7212円×(1-0.3)×4.3295=771万9708円(1円未満切り捨て)

(イ) 年金収入に係る逸失利益

二九〇万〇六一三円

a 基礎収入

① 年額七一万六五〇〇円

亡Aの通算老齢年金は、国民年金通算老齢年金(年額二三万四〇〇〇円)及び厚生年金保険通算老齢年金(年額四八万二五〇〇円)の合計年額七一万六五〇〇円であるが、遺族厚生年金受給による支給調整のため、上記厚生年金通算老齢年金については、そのうち年額二四万一二五〇円が支給停止となり、残額である年額二四万一二五〇円が支給されていた(上記支給停止の結果、通算老齢年金の支給額は年額四七万五二五〇円〔二三万四〇〇〇円+二四万一二五〇円〕となっていた。)ものである。年金収入に係る逸失利益算定における基礎収入については、上記通算老齢年金の年額七一万六五〇〇円と認めるのが相当である。

② 上記に対し、原告らは、「通算老齢年金の年額四七万六六九四円のほか、遺族厚生年金の年額一一五万一八〇〇円も基礎収入となるから、基礎収入は年額一六二万八四九四円となる」旨主張するが、他人の不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう遺族厚生年金は、上記不法行為による損害としての逸失利益には当たらないと解するのが相当であるから、原告らの上記主張は採用することができない。

③ 被告らは、「遺族厚生年金が支給されたため、支給が停止された厚生年金保険通算老齢年金の金額は、これを逸失利益算定における基礎収入とすることはできない」旨主張する。

しかしながら、遺族厚生年金受給による支給調整のため、厚生年金保険通算老齢年金の一部が支給停止となっても、その支給停止部分の受給権が消滅したものではなく、権利として存在しており、ただ支給調整を要する事由がある限りにおいて支給が停止されているというのにすぎないのであるから、支給停止の原因となった遺族厚生年金につき逸失利益性を否定する以上、厚生年金保険通算老齢年金を受給し得なくなったことに係る逸失利益については、支給停止部分も含めて受給権として存在する年金額を基礎として逸失利益を算定するのが相当である。したがって、被告らの上記主張は採用することができない。

b 生活費控除率

亡Aは、死亡当時、平均余命が一〇年(前判示の一〇・七二年につき一年未満切り捨て)であったところ、生活費控除率については、前判示の就労可能な八六歳までの五年間につき三〇パーセント、八七歳から九一歳までの五年間につき七〇パーセントと認めるのが相当である。

c 年金収入を失った期間及び逸失利益の金額

① 死亡時から八六歳までの五年間

上記期間のライプニッツ係数は四・三二九五であり、その間の上記逸失利益は、次のとおりである。

71万6500円×(1-0.3)×4.3295=217万1460円(1円未満切り捨て)

② 八七歳から九一歳までの五年間

上記期間のライプニッツ係数は3.3922(7.7217〔死亡時から10年間のライプニッツ係数〕-4.3295〔死亡時から5年間のライプニッツ係数〕)であり、その間の上記逸失利益は、次のとおりである。

71万6500円×(1-0.7)×3.3922=72万9153円(1円未満切り捨て)

③ 前記①及び同②の合計

二九〇万〇六一三円

(ウ) 前記(ア)及び同(イ)の合計

一〇六二万〇三二一円

ク 傷害慰謝料 一二〇万円

亡Aが負った傷害の内容、治療経過等にかんがみれば、傷害慰謝料として、上記金額を認めるのが相当である。

ケ 死亡慰謝料 二〇〇〇万円

本件事故の態様、本件事故による重大な結果、亡Aの年齢・生活状況等諸般の事情にかんがみれば、死亡慰謝料については、亡Aの慰謝料として二〇〇〇万円、原告X1及び原告X2の固有の慰謝料として各一五〇万円(亡Aの慰謝料及び原告らの固有の慰謝料の合計は二三〇〇万円である。)を認めるのが相当である。

コ 前記アないしケの合計 三八七八万九〇〇八円

サ 前記コにつき損害のてん補後の残額 三二二二万六五四五円

3878万9008円-656万2463円(前記第2の1(4))=3222万6545円

シ 原告らが承継した損害賠償請求権 各一六一一万三二七二円

原告らは、相続により、亡Aの前記サの損害(三二二二万六五四五円)につき、各二分の一の割合で損害賠償請求権を承継した(各一六一一万三二七二円。一円未満切り捨て)。

(3)  各原告の請求について

ア 各原告が承継した前記(2)シの損害賠償請求権の金額 各一六一一万三二七二円

イ 各原告の固有の慰謝料 各一五〇万円

前記(2)ケのとおり。

ウ 前記ア及び同イの合計 各一七六一万三二七二円

エ 弁護士費用 各一七五万円

本件事案の内容、本件訴訟の経過及び認容額等にかんがみれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、各原告につき一七五万円とするのが相当である。

オ 前記ウ及び同エの合計 各一九三六万三二七二円

三  以上によれば、被告らは、被告Y1については民法七〇九条に基づき、被告会社については民法七一五条一項に基づき、各原告に対し、連帯して各一九三六万三二七二円(前記二(3)オ)及びこれに対する不法行為の日である平成一八年一二月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うものというべきであり、各原告の被告らに対する請求は、上記金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

(裁判官 井田宏)

(別紙)

交通事故現場見取図

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例