京都地方裁判所 平成21年(行ウ)42号 判決 2012年2月24日
主文
1 本件訴えのうち、京都市長が別紙施設目録記載の土地及び建物についてした、平成20年度及び平成21年度の固定資産税及び都市計画税の課税免除措置の取消しを求める部分を却下する。
2 被告京都市北区長Aが別紙施設目録記載1ないし3の土地及び建物、被告京都市左京区長Bが同目録記載4の土地及び建物、被告京都市中京区長Cが同目録記載5の土地及び建物、被告京都市山科区長Dが同目録記載6の土地及び建物、被告京都市南区長Eが同目録記載7ないし9の土地及び建物、被告京都市右京区長Fが同目録記載10ないし15の土地及び建物、被告西京区長Gが同目録記載16の建物並びに被告京都市伏見区長Hが同目録記載17及び18の土地及び建物について、それぞれ平成20年度及び平成21年度の固定資産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠っていることがいずれも違法であることを確認する。
3 訴訟費用は、原告と被告京都市との間においては、原告の負担とし、原告とその余の被告らとの間においては、同被告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 京都市長が別紙施設目録記載の各土地及び建物についてした、平成20年度及び平成21年度の固定資産税及び都市計画税の課税免除の措置を取り消す。
2 主文2項と同旨
第2事案の概要
1 本件は、京都市民である原告が、別紙施設目録記載1ないし18の各固定資産は、いずれもa連合会(以下「a連」という。)の関連施設であり、京都市長がこれら各施設(以下「本件各施設」といい、個別には同目録記載の監査番号に従い、「本件施設1」などという。)の納税義務者に対して平成20年度及び平成21年度の固定資産税及び都市計画税(以下、これらを併せて「固定資産税等」という。)の課税がされなかったこと(以下「本件課税免除」という。)は違法であるとして、被告京都市に対し、地方自治法242条の2第1項2号に基づき、本件課税免除の取消しを求めるとともに、その余の被告ら(以下「被告区長ら」という。)に対し、同項3号に基づき、固定資産税等を賦課徴収しなかったことが違法であることの確認を求める事案である。
2 関係法令の定め
(1) 地方税法
ア 3条
(ア) 地方団体は、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定をするには、当該地方団体の条例によらなければならない(1項)。
(イ) 地方団体の長は、前項の条例の実施のための手続その他その施行について必要な事項を規則で定めることができる(2項)。
イ 6条
地方団体は、公益上その他の事由に因り課税を不適当とする場合においては、課税をしないことができる(1項)。
(2) 京都市市税条例(昭和15年条例第18号、昭和25年条例第49号。以下「本件条例」という。乙1)
ア 1条の2
市長は、市税その他の地方税に関する権限の一部を、別に定めるところにより、区長に委任することができる。
イ 41条
(ア) 古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法第6条1項の規定により指定を受けた歴史的風土特別保存地区の区域内における土地及び家屋で、その所有者が使用するものに対しては、固定資産税を課さない(1項)。
(イ) 前項に定めるもののほか、公益上その他の事由により市長が課税を不適当と認める固定資産に対しては、固定資産税を課さない(2項)。
ウ 217条
第41条の規定により固定資産税を課さない土地又は家屋に対しては、都市計画税を課さない。
(3) 京都市市税条例施行細則(昭和15年告示第549号、昭和29年規則第43号。以下「本件規則」という。乙2)2条は、本件条例1条の2の規定を受け、固定資産税等を含む市税に係る徴収金の賦課徴収に関する権限を京都市長から所轄区(固定資産が所在する区)の区長に委任する旨を定めている。
また、本件規則4条の5は、本件条例41条2項に規定する「市長が課税を不適当と認める固定資産」について、「本市の区域内の一部の地域において専ら直接当該地域の公共の用に供される集会所又は公会堂その他の建物及びその敷地」(1号)を挙げている(ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを当該各号のいずれかに該当する固定資産として使用する場合においては、この限りでない。)。
(4) なお、地方税法367条は、固定資産税の減免につき、「市町村長は、天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者、貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより、固定資産税を減免することができる。」と定めている。
これを受けて、本件条例55条1項は、減免の要件について規定を置き、その中で、「市長が特に必要と認める固定資産に対しては、固定資産税を減免する。」と定めている(同項5号)。
3 前提となる事実(当事者間に争いがないか、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、京都市の住民である。
イ 被告京都市は、処分行政庁が所属する地方公共団体であり、被告区長らは、いずれも京都市における行政区の事務所の長である。
ウ 別紙施設目録記載1ないし18の各固定資産の所有者は、同目録の「所有者」欄に各記載のとおりである(これらの者が、平成20年度及び平成21年度の固定資産税等の納税義務者であると推認される。)。
(2) 本件各施設
本件各施設は、いずれも別紙施設目録の「支部・分会」欄に記載のa連の関連施設(a連京都府本部又は支部〔分会を含む。〕)によって使用されている施設である。
(3) 被告京都市における課税免除の運用
被告京都市は、本件規則4条の5第1号にいう「集会所又は公会堂その他の施設」につき、自治会館、地域センター等の呼称にかかわらず、「地域社会の維持発展のためのコミュニティ活動の場として一定の公共性が認められる施設」であるとした上で、次の基準により、その該当性を判断している。
ア 多目的に利用することができる空間を備えた部屋で、必要に応じて移動又は収納が容易な椅子、机等の設備を具備していること。
イ 社会教育法22条に規定する次の事業の開催及び準備を目的として使用するものであること。ただし、専ら当該事業の企画、立案等を目的として使用する場合を除く。
(ア) 定期講座(同条1号)
(イ) 討論会、講習会、講演会、実習会、展示会等(同条2号)
(ウ) 体育、レクリエーション等に関する集会(同条4号)
(エ) 住民の集会その他の公共的利用(同条6号)
(4) 本件課税免除の経緯
被告京都市では、本件各施設(ただし、本件施設10を除く。)に係る固定資産税等につき、昭和59年度以降、本件規則4条の5第1号にいう「集会所及びその敷地」(以下、単に「集会所等」ということがある。)に該当するとして、課税免除の措置がとられてきた。
本件施設10(○○会館本部)については、平成16年度まで、課税免除の措置ではなく、本件条例55条1項5号に規定する「市長が特に必要と認める固定資産」に該当するとして固定資産税等の減免措置がとられていたが、平成17年度以降、上記同様に、課税免除の措置がとられることとなった。(以上につき、乙5、6)
(5) 本件課税免除の状況
本件課税免除の状況は、別紙施設目録の「区分」及び「備考」欄各記載のとおりである。
なお、家屋及び土地の一部について課税免除とする場合の計算方法は、建物の延べ床面積を課税免除の適用部分及び非適用部分並びに共用部分(廊下、階段等)に分類した上、共用部分の床面積を課税免除適用部分と非適用部分の面積比で按分して得た面積と課税免除適用部分の床面積を合計した面積を課税免除を適用する床面積とし、当該床面積と建物の延べ床面積の比率をもって、家屋及び土地の課税免除の適用率とされている。(以上につき、甲1)
(6) 住民監査請求及び本件訴えの提起
ア 原告は、平成21年8月5日付けで、京都市監査委員に対し、本件課税免除は違法であり、本件各施設につき固定資産税等を厳格に徴収することを求める旨の住民監査請求をした(甲1、2)。
イ 京都市監査委員は、平成21年10月2日付けで、本件課税免除が税法上許容された裁量の範囲を明らかに逸脱するものとは認め難く、被告区長らにおいて、本件各施設に対する固定資産税等の賦課を怠る事実があるとは認められないとして、原告の上記監査請求を棄却し、その旨原告に通知した(甲1)。
ウ 原告は、平成21年11月2日、本件訴えを提起した。
(7) 平成22年度以降の取扱い
被告京都市は、平成21年9月に本件各施設の実地調査を実施したが、その結果を踏まえ、本件各施設のうち、本件施設6、7、12、14及び15の一部ないし全部につき、平成22年度以降、固定資産税等を賦課徴収している。
4 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 本件課税免除が地方自治法242条の2第1項2号に規定する「行政処分」に当たるか(本案前の争点)。
(原告の主張)
本件課税免除は、地方団体がその地域における特殊事情や公益上その他の事由から、当該地方団体の条例により課税しないこととする特例的な非課税措置である点において、減免措置と同じである。被告らは、本件各施設の所有者に対する平成20年度及び平成21年度の固定資産税等の賦課につき、本件条例41条1項又は同2項に基づく課税免除措置によって免除されていると主張するのであるから、京都市長による格別の決定行為の有無にかかわらず、平成20年度及び平成21年度の本件各施設を対象とする課税免除措置が観念されていることは明らかであり、その措置の違法取消しを求めることができるはずである。
(被告らの主張)
原告は、地方自治法242条の2第1項2号の規定に基づき、a連の関係施設に対する平成20年度及び平成21年度に行った本件条例41条2項及び本件規則4条の5第1号による本件課税免除の措置の取消しを求めている。
しかし、行政処分が行政処分として有効に成立したといえるためには、行政庁の内部において単なる意思決定の事実があるかあるいは意思決定の内容を記載した書面が作成・用意されているのみでは足りず、意思決定が何らかの形式で外部に表示されることが必要である。しかるに、本件課税免除は、地方税法367条が規定する減免とは異なる制度であって、本件規則4条の5各号のいずれかに該当し、いったん課税免除の対象となる固定資産であることが確認され、課税免除の措置をとったものについては、それ以降、当該規定に該当しないこととなる場合を除き、継続して固定資産税等は課税されないこととなることから、その後の年度において、固定資産税等を課さないこととする旨の決定行為は行っていない。したがって、被告京都市の執行機関である京都市長において、本件課税免除の意思表示を外部に表示したことはなく、このような行政処分が存在していることはないから、取消しを求める行政処分自体が存在せず、その請求に係る訴えは不適法なものとして却下されるべきである。本件条例41条2項及び本件規則4条の5第1号も、具体的な課税免除の行政処分を予定しているものではなく、これに該当しない場合に固定資産税等の賦課決定をすることとしているものである。
(2) 本件課税免除が地方自治法242条の2第1項3号にいう「怠る事実」として違法といえるか(本案の争点)。
(原告の主張)
ア 地方税法6条1項に基づく課税免除の制度は、各種の政策目的、税負担の均衡等に着目して、画一的に一定の範囲のものに課税しないものとする特例的な措置であり、例えば、本件条例41条1項が古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法が指定した土地及び家屋に対する課税を一律に免除しているのが典型であって、集会所のように個別的な使用実態についての毎年の調査を必要とするものを、市長の裁量によって認定し、個々の家屋等に係る固定資産税の課税免除を行うことを予定するものではない。本件条例41条2項は、市長の裁量によって個別の不動産に対する固定資産税の課税免除を定めているが、これが地方税法6条1項の趣旨を逸脱していることは明らかであり、当該条項は違法無効であるため、同条項に基づく本件課税免除も違法・無効である。
イ 本件条例41条2項が違法・無効でなかったとしても、本件規則4条の5第1号にいう「本市の区域内の一部の地域において専ら直接当該地域の公共の用に供される」といえるためには、①市の区域内における一定の地理的範囲を対象に供用されており、②当該地域における不特定多数の住民に開放され、特定の個人や団体とは離れた一般の住民の利益を増進すると認められる用に供されることを主たる目的とし、③集会所等、地域社会の維持発展のためのコミュニティ活動の場として多目的に使用できる空間を具備し、現に社会教育法第22条1号、2号、4号及び6号に規定する事業を目的として使用されているものでなければならないというべきである。
しかるに、本件各施設が地域社会の維持発展のためのコミュニティ活動を行うに必要な設備を具備しておらず、一般住民の利益の増進となる公共の用に供されていると認定できないことは明らかである。また、本件各施設の使用状況は、客観的資料に基づき厳格に認定されなければならないところ、使用条件を客観的に把握するために不可欠ともいえる施設ごとの利用規約もなければ実際の利用状況(具体的な用途)を把握するための使用簿もない。そもそも本件各施設は、いずれも北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の富強発展に貢献する団体であるa連の本部又は支部であって、その使用がa連の活動から離れ、a連関係者以外の者に使用されていることを示すものは何もない。したがって、本件各施設が上記要件を備えていないことは明らかであり、これらを本件課税免除の対象とすることは、市長の裁量を逸脱するものであって、固定資産税等の賦課徴収権限を委ねられた被告区長らにおいて本件各施設に係る納税義務者に対し固定資産税等を賦課徴収しないことは、違法である。
(被告らの主張)
ア 地方税法6条1項の趣旨は、全国で画一的に非課税とすべきものではなくても、各地域において公益上その他の観点から課税すべきでない場合には課税しないことを地方公共団体の判断に委ねたものであり、条例による非課税措置ともいうべきものである。全国的に課税すべきでないとされる固定資産の非課税措置については、同法348条などにおいてその要件が定められている。そして、同条2項において一定の用途に供される種々の固定資産に係る非課税措置が規定されているが、これらの固定資産についても用途が変更され、同項の規定に該当しなくなった場合には固定資産税を課税する必要が生じることからすれば、各年度の固定資産税の賦課期日における当該固定資産の客観的な使用実態に照らして非課税措置の対象となるか否かが判断されるべきものである。地方税法による非課税措置と条例による課税免除は規定の形式こそ異なるけれども、一定の要件(客観的な使用実態等)に該当する固定資産について画一的に固定資産税を課さないという意味では同じものであり、このことからしても、毎年の調査が必要なものについて課税免除を行うことは予定されていないなどという原告の主張は当たらない。したがって、本件条例41条2項が違法・無効であるとはいえず、同規定に基づく本件課税免除が違法であるともいえない。
イ 地方税法6条1項は、「地方団体は、公益上その他の事由に因り課税を不適当とする場合においては、課税をしないことができる。」と定めており、これを受けて被告京都市においては、本件条例41条2項で「前項に定めるもののほか、公益上その他の事由により市長が課税を不適当と認める固定資産に対しては、固定資産税を課さない。」と定められているところ、京都市長は、どの固定資産を課税免除の対象とするか否かにつき裁量を有している。当該裁量は、租税法律主義の観点から、自由裁量ではないが、京都市長は、ある固定資産に課税しないことに「公益上その他の事由」が認められるか否かの判断の範囲において裁量を有しており、その範囲内において、政策目的から固定資産税の課税免除を行うことができる。京都市長は、上記裁量に基づき、本件規則4条の5第1号において課税を不適当と認める固定資産として集会所等を定めているが、集会所等は地域住民がコミュニティ活動を行う場として豊かな地域社会を維持し、及び形成するために不可欠であり、このような施設を設置し、維持しやすくすることは、広く市民一般の利益の増進につながることから、政策的判断として、集会所等及びその敷地について固定資産税等を課さないこととしているものである。
本件各施設は、直接使用する者は一定の市民に限定されることが多いが、地域住民のコミュニティ活動の場となる施設である限り、当該活動の活性化により、豊かな地域社会が形成され、ひいては広く市民一般の利益の増進につながることから、これらの施設を課税免除の対象とすることは、上記趣旨にかなうものである。
そして、被告の調査によれば、本件各施設は、多目的に利用できる空間を備えた部屋であることはもちろんのこと、ハングル講座や囲碁教室、料理教室を始め、学区民体育祭の慰労会、女性会や長寿会の集会、地域の子供の勉強会などに利用されており、自治会や町内会に係る集会所の利用方法と特段変わるところはないと認められ、更にはa連の構成員でなければ使用できないという事情も認められないのであるから、課税免除に該当するとしていることが違法であるとする理由はない。
以上のとおり、京都市長は、本件各施設についての課税免除は適法に行っており、原告が主張するような裁量権の逸脱は認められない。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(本件課税免除が地方自治法242条の2第1項2号に規定する「行政処分」に当たるか〔本案前の争点〕)について
(1) 地方自治法242条の2第1項2号の取消しの訴えの対象は、行政処分に限定されている。
前提となる事実(4)記載のとおり、本件各施設の土地及び建物については、昭和59年度以降(ただし、本件施設10については平成17年度以降)、本件条例41条2項及びこれを受けた本件規則4条の5第1号の「集会所及びその敷地」に該当するとして、特段の措置もなく継続的に固定資産税等が賦課されず、本件課税免除に至ったものである。ここで本件課税免除を行政処分と構成しようとすると、黙示の行為であるといわざるを得ないが、その時期や主体が明確であるとはいえず、端的に、本件課税免除を、本件条例41条2項及び本件規則4条の5第1号の要件がないのに固定資産税等の賦課決定がされない不作為ととらえ、後記2のとおり、怠る事実としてその違法性を問題とすれば足りるというべきである。
(2) これに対し、原告は、本件課税免除が特例的な非課税措置である点において、税の減免とは変わりなく、本件課税免除についても行政処分性は肯定される旨を主張する。
しかし、税の減免は、いったん発生した納税義務の全部又はその一部を地方団体の一方的な債権放棄によって消滅させる行政処分であるのに対し、課税免除は、一定の範囲のものに課税しないものとすることであり、無理にこれらを同列に論じる特別の必要もないから、原告の上記主張は採用できない。
(3) 以上のとおり、原告の取消請求に係る訴えは、その対象となる行政処分が存在しないものであるから、不適法として却下を免れない。
2 争点(2)(本件課税免除が地方自治法242条の2第1項3号にいう「怠る事実」として違法といえるか〔本案の争点〕)について
(1) 前提となる事実、証拠(甲1、乙5、6、12、13、15の1~7、16の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件各施設は、いずれもa連京都府本部又は支部(分会を含む。)が使用しているところ、そのうち、本件施設2の土地、本件施設7、8及び10の各土地・建物はいずれもa連がこれらを実質的に所有し、それ以外の施設に係る土地・建物はいずれもa連がその所有者との間で使用貸借契約を締結している。
イ 本件各施設については、本件施設10(○○会館〔a連京都府本部〕)を除き、昭和59年度から固定資産税等の全額又は一部が課税免除とされ、本件施設10については、平成16年度まで固定資産税等が減免されていたが、平成17年度以降は他の施設と同様に課税免除とされている。
ウ 被告京都市(行財政局税務部資産税課)は、平成15年度に所轄区と合同で本件各施設の実地調査を行ったほか、平成18年11月に本件施設10の実地調査を行った。
本件施設10については、平成18年度分まで集会所等としてその全部の課税免除を受けていたが、上記調査に基づき、集会所等として認められない部分については、平成19年度以降課税されることとなった。
エ(ア) 被告京都市は、平成19年8月9日、本件施設10の実地調査を行い、同施設内の写真撮影をしたが、4階及び各階で使用中の部屋については写真撮影を断られた。
上記調査の結果、本件施設10については、平成19年度当初23%であった課税免除割合が49%と認定され、課税額が減額修正された。
(イ) また、被告京都市は、平成19年8月23日、本件各施設のうち残りの各施設(a連各支部・分会)の実地調査を行い、同施設内の写真撮影等をした。
その結果、本件施設1、7、8及び18の一部を除き、いずれも集会所等として使用されているものと認定され、引き続き課税免除とされた。
(ウ) 被告京都市において、上記各実地調査に当たり、使用実態を確認することができる客観的資料を徴求するなどした形跡は見当たらない。
なお、本件各施設内の各室には、相当の割合でいずれも北朝鮮の故金日成主席と金正日総書記(当時)の各写真ないし肖像画が掲げられている。
オ(ア) 被告京都市は、原告による前記住民監査請求を契機に、平成21年9月17日、18日、24日及び25日の4日間にわたり、本件各施設の利用状況がその後変化していないか確認するため、本件各施設の実地調査を行った。具体的には、外形調査(当該施設内部の部屋の用途及び形態の確認)及び使用状況調査(貸借関係の確認、使用規約等の文書・使用簿その他使用実態を確認することができる資料による使用状況の確認)を実施し、a連の職員から聴取を行い、写真撮影をした上、上記エの各実地調査時の写真と比較し、使用状況の把握を行った。なお、本件施設4、6、7、9、11、14及び16ないし18の一部については、施設が使用中であること等を理由に写真撮影を断られた。
(イ) 上記外形調査の結果、本件施設6、7、12及び14については、課税免除の対象とされた部屋のうちの一部につき、集会所等としての外形を備えていないとの疑義が示され、本件施設15については、内部の確認ができなかったとして、集会所等としては疑義があるとされた。
(ウ) 上記使用状況調査の結果、貸借関係については、前記アのとおり確認された。また、使用状況については、本件各施設の全てにおいて、使用規約や使用簿の存在は確認されておらず、a連の職員から、使用に関しa連の構成員であること等の条件を設けていないこと、地域の住民から使用の申込みがあれば、空いている限り使用を許可している旨が口頭聴取されている。一部の施設については、口頭聴取のほか、利用申請書や講座等の募集広告により、使用状況が確認され、ハングル講座、サークル活動等に使用されている旨が認定されているが、これらの利用がa連関係者によるものか、それ以外の地域住民によるものか判然と区別することはできない。なお、平成21年の実地調査時においても、本件各施設の中には、北朝鮮の故金日成主席と金正日総書記(当時)の各写真ないし肖像画が掲げられた部屋が存在している。
カ 被告京都市は、上記オの実地調査結果を踏まえ、平成22年度以降、本件施設6、7、12、14及び15の一部ないし全部につき、固定資産税等を賦課徴収している。
(2) 地方税法6条1項は、「地方団体は、公益上その他の事由に因り課税を不適当とする場合においては、課税をしないことができる。」と規定するが、一定の範囲のものに対して課税しないこととすることは、租税公平の原則と矛盾することから、これによる弊害よりも課税免除の措置による利益が大きいときに初めて許されるべきものであって、ここにいう「公益上の事由」とは、課税対象に対し課税しないことが直接公益、すなわち広く社会一般の利益を増進し、又は課税することが直接公益を阻害する場合をいい、「その他の事由」とは、公益に準ずる事由をいうものと解される。
そして、地方団体が、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定めをするには、当該地方団体の条例によらなければならないとされている(地方税法3条1項)から、地方団体が課税免除を行う場合には、条例をもって規定をしなければならないところ、本件条例41条は、地方税法6条1項の規定を受け、古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法6条1項の規定により指定を受けた歴史的風土特別保存地区の区域内における土地及び家屋で、その所有者が使用するものに対しては、固定資産税を課さない(1項)とするほか、「公益上その他の事由により市長が課税を不適当と認める」固定資産に対して、固定資産税を課さない旨を規定している(2項)。
このような規定の仕方からすれば、本件条例41条2項の「公益上その他の事由により市長が課税を不適当と認める」とは、当該固定資産の納税義務者に固定資産税を負担させることが、直接、広く住民一般の利益を阻害することとなる場合(換言すれば、固定資産税を課さないことが、直接、広く住民一般の利益を増進することとなる場合)をいうものと解するのが相当であり、本件規則4条の5各号もこのような場合を個別具体的に列挙したものと解される。そして、租税法律主義や租税公平の原則に照らせば、市長は、本件条例41条2項及び本件規則4条の5第1号の該当性判断につき自由裁量を有するものではなく、本件条例41条1項及び本件規則4条の5各号に準ずる「公益上の事由」がある場合に限り、課税免除の措置をとることができるというべきである。(なお、原告は、本件条例41条2項が地方税法6条1項に違反し無効である旨を主張するが、課税免除に当たっては、地方団体の個別的な事情も勘案し、一般的な税負担の公平と特定の政策目的と価値についてその軽重を比較検討する必要があるもので、その判断を市長の判断にゆだねることには一定の合理性があるし、また、議会は市長に対し様々な監督手段を行使し得ることからすれば、その委任は合理的なものというべきである。)
(3) このような観点から、本件課税免除の違法性につき検討するに、そもそも、本件各施設は、いずれもa連京都府本部又は支部(分会を含む。)によって使用されている施設であり、a連は、北朝鮮と一体の関係にあって、専ら北朝鮮の国益やその所属構成員である在日朝鮮人の私的利益を擁護するため活動するなどしており(甲4の2、9、17の1・2、18、19、乙3、弁論の全趣旨)、そのような団体が使用する本件各施設に対し課税免除することが広く住民一般の利益を増進するものであるかどうかは、客観的な裏付けをもって厳格に判断すべきである。
しかるところ、被告京都市は、本件課税免除の前後(平成19年8月及び平成21年9月)において、本件各施設の実地調査を行っているが、前記(1)のとおり、平成19年の実地調査では本件各施設の写真撮影こそ実施されているものの、使用実態を具体的に裏付ける資料は確認されていないし、また、平成21年の実地調査の結果によれば、そもそも本件各施設の中には外形的にみて集会所に当たるかどうか疑問のある施設が複数存在することが判明している。本件各施設の中には写真撮影を断られ、内部の確認すらできなかった施設もあるほか、使用状況についてa連の職員からの口頭聴取のみによって集会所等と認定されている例も相当数あり、これらについては、その使用状況につき十分な調査ができていないといわざるを得ない。もっとも、一部の施設については、利用申請書(乙15の1~7)や講座等の募集広告(乙16の1・2)が存在する場合もあるが、実際に地域住民にその使用が可能であることがどれだけ周知され、また、a連の構成員以外の者がどれだけ参加していたのか明らかではなく(講座の受講料等の詳細も不明である。)、かえって、上記利用申請書によれば、「b同盟」、「c同盟」、「d同盟」、「e同盟」などa連の下部組織ないし関連組織と思われる団体による利用が相当の割合を占めていることが窺われる。中には北朝鮮の故金日成主席や金正日総書記(当時)の写真ないし肖像画が掲げられた部屋もあり、これらの施設がa連とは無関係の地域住民にとって現実に利用できるような形態で管理運営されていたとも考え難い。加えて、使用実態に関し、広く地域住民一般に開放されているというのであれば、各施設において使用規約や使用簿が備え付けられていてしかるべきところ、上記各実地調査時点において、これらの書類は確認されていない。
被告京都市は、①多目的に利用することができる空間を備えた部屋で、必要に応じて移動又は収納が容易な椅子、机等の設備を具備していること、②定期講座、講習会、体育、レクリエーション等に関する集会や住民の集会等の開催及び準備に使用されるものであることを基準に、本件各施設が集会所等に該当するとの判断をしているが(乙12、13)、結局のところ、本件各施設が多目的に利用できる状態にあったというだけで、それ以上に具体的にどのように利用されているかにつき客観的な裏付けをもって確認していないといわざるを得ない。また、被告らは、本件各施設につきa連の構成員に限らず、地域住民のコミュニティ活動のために利用できることを裏付ける証拠として、a連京都府本部の担当者及び各支部の支部委員長作成の陳述書(乙14の1~10)を提出するが、その記載内容はいずれも具体性に乏しい上、前示のとおり、その記載を裏付ける客観的な資料が欠けているか、あったとしてもそれのみでは集会所等として使用されていたことを認めるに足りないものであって、採用の限りでない。
(4) そうすると、本件課税免除については、被告区長らが、その職務権限を適正に行使すれば固定資産税等を賦課徴収し得るにもかかわらず、法令の解釈適用を誤り、課税し得ないものと解して賦課徴収をしないものであって、違法に公金の賦課徴収を怠る事実に当たるというべきである。
3 以上によれば、本件訴えのうち、本件課税免除の取消請求に係る部分は不適法であるから却下し、怠る事実の違法確認請求に係る部分は理由があるから認容する。
(裁判長裁判官 瀧華聡之 裁判官 奥野寿則 堀田喜公衣)