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京都地方裁判所 平成22年(ワ)3348号 判決 2011年6月07日

原告

被告

主文

一  被告は、原告に対し、八六一万七〇九三円及び内七八三万七〇九三円に対する平成二一年七月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五〇分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告は、原告に対し、八九八万九四六一円及び内七九八万九四六一円に対する平成二一年七月二六日か支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、信号機による交通整理の行われている十字路交差点において、直進しようとした原動機付自転車と右折しようとした対向車が衝突した交通事故につき、原動機付自転車の運転者である原告が、対向右折車の運転者である被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)三条又は民法七〇九条に基づき、人身損害の賠償を請求する事案である(弁護士費用を除く損害に対する遅延損害金の起算日は事故の日である。)。

一  争いのない事実

(1)  交通事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

① 日時 平成二一年七月二六日午後九時五〇分ころ

② 場所 京都市左京区孫橋町五番地先交差点(以下「本件交差点」という。)

③ 関係車両 ア 原告運転の原動機付自転車(ナンバー<省略>)(以下「原告車」という。)

イ 被告運転の普通乗用自動車(ナンバー<省略>)(以下「被告車」という。)

④ 態様 信号機による交通整理の行われている十字路交差点である本件交差点を直進しようとした原告車の側面と、対向車線から同交差点に進入して右折しようとした被告車の前部が衝突した。

(2)  運行供用者

被告は、本件事故当時、被告車の運行供用者であった。

(3)  原告の負傷

原告は、本件事故により、右手関節・左肘・両膝打撲擦過傷、右手関節三角骨骨折の傷害を負った。

(4)  通院経過

原告は、上記傷害の治療のため、次のとおり通院し、その治療費として計九万五二四〇円を要した。

① 平成二一年七月二六日ないし同年九月二九日

京都第二赤十字病院

② 平成二一年七月二七日

洛和会丸太町病院

③ 平成二一年九月三〇日ないし平成二二年四月二二日

整形外科こやなぎクリニック

(5)  後遺症認定

原告は、平成二二年四月二二日、整形外科こやなぎクリニックで右手三角骨骨折後手関節拘縮につき症状固定の診断を受け、損害保険料率算出機構は、右手三角骨骨折に伴う右手関節の機能障害につき、自動車損害賠償保障法施行令別表第二の一二級六号に該当すると認定した。

(6)  損害てん補

原告は、本件事故につき、自賠責保険から三四四万円の支払を受けた。

二  主な争点及びこれに関する当事者の主張

本件の主な争点は、被告が無過失で原告に過失があったか否か(自賠法三条ただし書)、被告に過失があったか否か(民法七〇九条))と過失相殺である。

(1)  被告の主張

被告は、本件事故の際、本件交差点に進入し、対面信号が直進方向赤、右折方向青色矢印を表示したのを確認してから、交差道路を通行する車両等に注意しながら徐行して右折しようとしたところ、原告が赤信号を無視して同交差点に進入したため本件事故が発生した。

したがって、本件事故の発生につき被告に過失はなく、同事故は原告の一方的過失によって発生した。

(2)  原告の主張

被告は、交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等に特に注意し、交差点内を徐行して進行しなければならない注意義務があるのにこれを怠り、漫然と進行した結果、本件事故を惹起した。

原告は、本件事故の際、対面信号の青色表示に従って本件交差点を直進して通過しようとしたものであり、赤信号を無視して同交差点に進入してはいない。

第三当裁判所の判断

一  被告の責任

前記第二、一、(1)ないし(3)の事実によれば、被告は、自賠法三条ただし書の事由が認められない限り、本件事故による負傷により原告が被った人身損害を賠償する義務を負う。

二  免責事由の有無等

(1)①  前記第二、一、(1)の事実、甲九、一〇号証、乙一、二号証、四号証、原告本人及び被告本人の各尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 本件交差点付近の状況は別紙交通事故現場見取図(甲九号証及び乙一号証の各交通事故現場見取図の一部を合成し、符号を一部変え、縮小したもの)記載のとおりであり、原・被告の走行していた南北に通ずる道路(以下「南北道路」という。)と東西に通ずる道路が交差する信号機による交通整理の行われている交差点である。

南北道路は、幅員約一五・七メートルの中央線のある幹線道路で、最高速度は毎時五〇キロメートルに規制され、南行車線、北行車線とも本件交差点手前で直進・左折車用の第一通行帯、直進専用の第二通行帯、右折専用の第三通行帯の三車線となる。

本件交差点における南北道路から前方の見通しは悪くないが、同交差点を頂点として、南行車線及び北行車線とも一〇〇の二の登り勾配となっている。

イ 被告車は、車長三・三九メートル、車幅一・四七メートル、車高一・八〇メートルで、本件事故当時、方向指示器・前照灯・操縦装置・制動装置等に異常はなかった。

ウ 原告は、本件事故当時、南北道路の南行車線を北方から本件交差点方向に向かって南進し、同交差点の北方約五〇〇メートルの位置にある交差点で信号待ちをした後、同所から時速三〇キロメートルないし四〇キロメートルで進行し、減速することなく南行車線第一通行帯から本件交差点に進入し、対向車線から右折してきた被告車と衝突した。原告は、衝突の直前、右前方約一〇メートルの地点を右折中の被告車を初めて発見し、制動措置をとったが、制動効果が発生する前に被告車と衝突した。

エ 被告は、本件事故当時、南北道路の北行車線を時速四〇キロメートルないし五〇キロメートルで南方から本件交差点に向かい、同交差点手前で減速して第三通行帯から同交差点を右折中に上記のとおり対向車線の第一通行帯を進行してきた原告車と衝突した。被告は、衝突するまで原告車に気付いていなかった。

オ 本件事故当時、天候は曇りで路面は乾燥していた。

カ 最近における本件交差点の南北道路の信号周期は、青八二秒、黄色二秒、赤(青矢印)六秒、黄色二秒、全赤二秒、赤五二秒である(本件事故時点の信号周期は確認できない。)。

②ア  被告は、本件事故直後に行われた実況見分において、別紙交通事故現場見取図②'点(以下、単に符号をもって表記する地点は同現場見取図記載の該当符号の地点である。)から一〇・八メートル南方の地点で本件交差点の対面信号機が黄色表示になり、②'点で二台の先行車が第二通行帯で信号停止したのを認め、かつ減速して右折の合図を出し、②'点から二四・九メートル北方の③'点で対面信号機が赤色表示となると同時の右折可の青色矢印表示が出たのを認め、③'点から六・五メートル北方の④'点で東方の横断歩道南端近くの歩道上file_3.jpg点にいる歩行者を認め、④'点から三・四メートル離れた⑤'点でハンドルを右に転把し、⑤'点から八・五メートル離れた⑥'点に至ったときに原告車と衝突した旨の指示説明をした(乙一)。被告は、その本人尋問においても、上記指示説明と同旨の供述をするほか、自車の速度につき②'点までは時速四〇キロメートルないし三〇キロメートル、②'点から③'点までの間で時速三〇キロメートルないし二〇キロメートルに減速した旨、また、対向車が一台信号待ちのため停止していた旨供述し、乙四号証(被告の陳述書)にも同旨の部分がある(なお、乙四号証には、時速一五キロほどに減速しながら右折を開始したとある。)。

これに対し、原告は、本件事故から約一か月後の平成二一年八月二八日に実施された実況見分において、衝突地点(file_4.jpg点)から五九・九メートル北方の①点で、本件交差点北側の横断歩道を越えた第三通行帯(右折専用レーン)先端の矢印表示の手前付近に停止する右折待ち車両を認め、①点から一一・四メートル南方の②点及び②点から一四メートル南方の③点でそれぞれ対面信号機の青色表示を確認し、③点から二八・二メートル南方の④点で右前方九・三メートルの地点に被告車を発見し、制動措置を採ったが、file_5.jpg点で被告車と衝突した旨の指示説明をした(甲九)。原告は、本人尋問においても、衝突地点がfile_6.jpg点より二メートルないし三メートル南方であったとする以外は概ね上記指示説明と同旨の供述をするほか、制動措置を採るまでの自車の速度は時速三〇キロメートルないし四〇キロメートルであったと供述し、甲一〇号証(原告の陳述書)にも同旨の部分がある。

イ 停止線を通過した直後の③'点で対面信号機が赤色表示(青矢印)となったとの被告本人の供述及び自車の速度に関する原・被告本人の各供述を前提とすると、原告は、対面信号機の表示が赤色になった後に停止線を通過して本件交差点に進入したはずである。

しかしながら、対面信号機の表示が黄色及び赤色(青色矢印)となった各地点についての被告本人の供述が正確であり、かつ、本件事故当時も南北道路の信号機における青色と赤色(青色矢印)との間の黄色表示の時間が二秒であったとすると(本件交差点程度の交差点の通常の黄色表示の時間からしてその可能性は高いと考えられる。)、被告は、上記各地点間三五・七メートルを平均時速約六四キロメートル(秒速一七・八五メートル)で走行したことになり、急な減速は考えにくいから、③'点から⑥'点までの間の被告車の速度も、被告本人の供述する速度(減速して時速約一五キロメートル)を大幅に超えるはずである。その場合は、被告が③'点に至ったときに対面信号機が赤色(青色矢印)表示になったとしても、原告車も対面信号機が赤色表示になる前に停止線を通過していた可能性を否定できなくなる。反対に、速度に関する被告本人の供述が概ね正しいと仮定すると、③'点に至ったときに対面信号機が赤色(青色矢印)表示に変わったとの供述の信用性が揺らぐことにならざるを得ない。

他方、原告は、衝突直前まで被告車に気付かなかった点につき、甲一〇号証では、第三通行帯先端付近に停止していた上記右折待ち車両の陰になっていたためとし、本人尋問では、同車両や先行車両の陰になっていた旨供述する。しかし、別紙交通事故現場見取図によって認められる本件交差点付近の状況、同右折待ち車両の位置、原告車及び被告車の走行経路からして、原告が、同右折待ち車両に遮られて被告車を衝突直前まで発見できなかったとは考えられない。また、原告本人が供述する先行車両の位置関係に加え、走行中の原告車、先行車両及び被告車がほぼ一直線上に位置することは偶然の事象であることからすると、一時的に先行車両に遮蔽されて被告車が見えなくなることはあるとしても、先行車両のため衝突直前まで被告車が発見できなかった可能性はほとんどないといわざるを得ない。したがって、直近まで被告車を発見できなかった理由に関する甲一〇号証の記載及び原告本人の供述は信用し難い。なお、前記のとおり南北道路は本件交差点を頂点として勾配があるが、甲九号証によれば、原告は、少なくとも③点付近に至れば、北行車線を走行してくるかなり離れた対向車のライトを視認できたと認められる。

しかし、上記の供述等の信用性に関する判断から、当然に、原告が赤信号で本件交差点に進入したとはいえるものではない。すなわち、右折待ち車両又は先行車両のため被告車が発見できなかったとの甲一〇号証の記載及び原告本人の供述が信用できないとすると、実際は、原告が、a対向車線に対する注意を怠っていた、b対向車線だけではなく、対面信号も確認していなかった、c対向車線も対面信号も見ていたが、赤信号を無視したなどの可能性があることになる。しかし、aの事実から対面赤信号も見落としたと推認するのは無理があり、さらにbの信号見落としの事実があるとしても、その時の対面信号機の表示が赤色であったかどうかは別問題である。そもそもa、b、cのいずれであるかを確定し得る的確な証拠はない。したがって、甲一〇号証及び原告本人の供述の上記部分が信用できないとしても、それによって、当然に、③'点に至ったときに対面信号機が赤色(青色矢印)表示に変わったとの被告本人の供述が裏付けられ、その信用性が高められるという関係にはない。

ウ 他に、原告が対面信号機が赤色表示のときに停止線を越えて本件交差点に進入したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、上記事実の証明が十分ではないというべきであるから、本件事故について、被告に自賠法三条ただし書の事由があると認めることはできない。

(2)  前記認定説示によると、原告は、少なくとも対面信号機が黄色表示のときに停止線を通過した可能性が高いといえなくもないが、断定はできない。これを前提に本件事故の態様をみると、原告は、本件交差点を直進するに当たり、対向車である被告車の発見が遅れたか、その動静に対する注意を怠った過失があるというべきである。なお、原告本人は、被告は急角度の内回り右折をした旨供述する(甲一〇号証にも同旨の記述がある。)が、乙一号証及び被告本人尋問の結果に照らし採用できない。

以上の認定説示を総合すると、本件事故における過失割合は、原告一五、被告八五と認めるのが相当である。

三  原告の損害

(1)  治療費(原告主張額九万五二四〇円)

九万五二四〇円(争いがない。)

(2)  交通費(原告主張額一万四二三〇円)

甲二号証の一の一・二、六号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、京都第二日赤病院への通院(本件事故当日の通院を除く。)の際、タクシーを利用し、その料金は合計一万四二三〇円であることが認められ、原告の受傷部位、傷害の内容等に照らし、上記タクシー料金は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(3)  休業損害(原告主張額一二四万二七三七円)

原告は、平成二二年四月二二日、整形外科こやなぎクリニックで右手三角骨骨折後手関節拘縮につき症状固定の診断を受けたが(前記第二、一、(5))、上記診断に誤りがあることを窺わせる証拠はないから、原告は、同日、症状固定したものと認める。

甲七号証の一ないし三、一〇号証及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故当時、株式会社aに調理師として勤務し、同事故前三か月間に四二万円の給与を得ていたが、同事故当日から欠勤し、平成二一年一二月末日、同社を退社し、以後、症状固定日である平成二二年四月二二日まで就職していないことが認められる。原告の傷害の内容に加え、後記認定のとおり右手関節機能障害等の後遺障害が残存したことを考慮すると、原告は、本件事故による傷害のため同事故当日から平成二二年四月二二日までの二七一日間、一〇〇パーセントの休業を余儀なくされたものと認める。原告の休業損害は次の算式により一二六万四六六六円となる(原告の主張額を若干超過するが、上記金額を休業損害の額と認める。)。

420,000÷90×271≒1,264,666

(4)  傷害慰謝料(原告主張額一五〇万円)

傷害の内容、通院期間等を考慮し、相当な傷害慰謝料は一四四万円と認める。

(5)  逸失利益(原告主張額七九七万〇六八九円)

原告は、昭和六三年○月○日生まれであり(甲一)、症状固定時は二一歳である。

前記第二、一、(5)の事実、甲三、四号証によると、原告は、症状固定当時、握力が右一三・五キログラム、左三八・五キログラムであったこと、前腕関節の可動域(他動)が、回内右八〇度、左九〇度、回外右六〇度、左九〇度であり、手関節の可動域(他動)が、背屈(主要運動)右七〇度、左八〇度、掌屈(同)右四〇度、左七〇度、橈屈(参考運動)右二〇度、左四〇度、尺屈(同)右三〇度、左四五度であったこと、損害保険料率算出機構は、平成二二年六月一一日ころ、原告の後遺障害につき、右手関節三角骨骨折に伴う右手関節の機能障害として、可動域が健側の四分の三以下に制限されていることから、右前腕の回内・回外の可動域制限も含め、自動車損害賠償保障法施行令別表第二の一二級六号に該当するものと認定判断したことが認められ、上記判断は相当といえる。これによると、原告は、症状固定時から六七歳までの四六年間、労働能力の一四パーセントを喪失したものと認めるのが相当である(将来、関節拘縮が快復する蓋然性が高いことを認めるべき証拠はない。)。

原告の年齢に照らし、平成二一年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・男・二〇歳ないし二四歳の平均賃金三〇五万七三〇〇円を基礎収入として、逸失利益の現価を算定すると、七六五万三〇三三円となる。

3,057,300×0.14×17.88=7,653,033

(6)  後遺障害慰謝料(原告主張額二八〇万円)

後遺障害の部位、内容等に照らし、原告主張の二八〇万円をもって相当と認める。

(7)  過失相殺及び損害てん補

前記(1)ないし(6)の合計一三二六万七一六九円に一五パーセントの過失を相殺すると一一二七万七〇九三円となり、これから自賠責保険からの支払額三四四万円(前記第二、一、(6))を控除すると、残額は七八三万七〇九三円となる。

(8)  弁護士費用

本件の事案の内容、訴訟経過及び認容額等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は七八万円と認める。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、自賠法三条に基づく損害賠償として、八六一万七〇九三円及びうち弁護士費用を除く損害七八三万七〇九三円に対する本件事故の日である平成二一年七月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤明)

<以下省略>

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