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京都地方裁判所 平成22年(ワ)3774号 判決 2013年2月14日

原告

被告

主文

一  被告は、原告に対し、一二六四万一二八九円及びこれに対する平成一六年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、六六六六万九八三九円及びこれに対する平成一六年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、道路上において、歩行者である原告と被告の運転する普通乗用自動車が衝突した交通事故について、被告に対し、民法七〇九条又は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、別紙「損害一覧表」の「原告の主張」欄記載の損害賠償及び事故日である平成一六年一〇月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等(末尾に証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。特に断らない限り、証拠番号には枝番を含む。)

(1)  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

ア 日時 平成一六年一〇月一〇日午前一一時二〇分ころ

イ 場所 山梨県南都留郡山中湖村平野五〇六番地二九六先路上(以下「本件事故現場」という。)

ウ 事故態様 被告が運転し、所有する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が、東西に伸びる国道一三八号線(以下「本件道路」という。)を富士吉田方面に向かって走行中、本件道路の中央線付近にいた原告に被告車の右前部が衝突した。

(2)  被告の責任

被告は、被告車を運行の用に供していたものであり、自賠法三条に基づく責任がある。

(3)  原告の治療経過

原告は、本件事故後、a病院に救急車で搬送され、左下腿骨開放骨折、左脛骨高原骨折、外傷性脾損傷、外傷性左腎損傷等、後頭部打撲、右膝挫傷等の傷病名で平成一六年一〇月一〇日から同年一一月一三日まで三五日間入院し、その後、b大学附属病院(以下「b大病院」という。)に①同月一五日から同年一二月二五日まで四一日間、②平成一八年三月二二日から同年四月三日まで一三日間、③平成一九年八月一三日から同月二七日まで一五日間入院し、同病院に平成一八年三月二二日から平成二〇年一二月八日までの間通院した(通院実日数五五日)。(上記③につき、甲一八)

(4)  症状固定と後遺障害認定手続

平成二一年一月一四日、原告の左下腿開放骨折、外傷性脾臓損傷、右膝半月損傷、右大腿部瘢痕部痛の傷病名による傷害が平成二〇年一二月八日に症状固定に至った旨の後遺障害診断書が作成された。同書の「自覚症状」欄には、左下腿部痛、開放骨折部知覚過敏、右大腿部痛、一日の一/三は左下肢や足部の痛みが気になっている状態であるとの記載があり、同書の「精神・神経の障害」「他覚症状および検査結果欄」には、左下腿部の知覚鈍麻(下腿内側下方)、知覚過敏(下腿近位部)、左下肢の筋力低下(外傷と長期療養による)、下腿部の瘢痕多数(外傷手術創)、「胸腹部臓器…の傷害」欄には、脾臓損傷(開腹手術)、(血小板の増多:内科で経過観察続けている)との記載があり、「関節機能障害」欄には、足関節機能障害として、背屈 他動 右二五、左一五、自動 右二〇、左一〇、底屈 他動 右五〇、左五〇、自動 右四五、左四五との記載があるほか、下肢の醜状障害が残存した旨の記載がある。(甲四)

損害保険料率算出機構は、外傷性脾臓破裂に伴う胸腹部臓器の障害について、「脾臓を失ったもの」として、平成一八年四月一日政令第一一六号による改正前の自賠法施行令別表第二(以下「旧基準」という。)の八級一一号に、②左下腿骨開放骨折に伴う「左下腿部痛、開放骨折部知覚過敏、一日の一/三は左下腿や足部の痛みが気になっている状態等」の症状について同基準一二級一三号に該当し、併合七級と認定した。一方、左足関節の機能障害については、その可動域が健側の可動域角度の三/四以下に制限されていないことから非該当、右大腿部受傷後の右大腿部痛については、右大腿部瘢痕部痛で骨折等は認められていないこと等から、将来においても回復が困難と見込まれる障害とはいえないとして非該当、下肢部の醜状障害について、面接等による確認が未実施であることから、後遺障害として等級評価することは困難と判断した。(甲一二)

なお、脾臓摘出については、平成一八年一月二五日付け厚生労働省労働基準局長通達(基発第〇一二五〇〇一号)により、自賠法施行令別表第二(以下、等級のみをもって示す。)一三級に含めるよう取扱いが変更され、同年四月一日以降、脾臓摘出は一三級一一号に認定されるようになった。(乙三、四)

(5)  損害のてん補

原告は、被告付保の任意保険会社から治療費等として少なくとも二二四万一七九一円を、それ以外として一二二万八七七三円の内払を受け、自賠責保険金として一〇四三万円を受領し、これを損害金元金に充当した。(弁論の全趣旨)。(なお、前記一二二万八七七三円のうち、損害保険リサーチに支払った二万円が損害のてん補となるかは争いがある。)

二  争点及びこれに対する当事者の主張

(1)  事故態様及び過失相殺

(原告の主張)

ア 原告は、夫とともに山中湖を訪れており、本件事故直前、原告夫妻は、cバス停付近でバスに乗って同所にやってくる原告の両親を待っていた。原告夫妻は、山中湖畔からバス停のある本件道路に通じる遊歩道(以下「本件遊歩道」という。)を本件道路に向かってゆっくり歩いていた際、バスが旭日丘交差点を左折して、富士吉田方面行車線(以下「西行車線」という。)上にあるバス停に止まるのを認めた。原告は、同バスの中に両親がいるのに気づき、原告の父が目的地である降車予定のバス停かどうかを運転手に尋ねており、それを母が見ている姿が目に入ったので、原告は夫より先に本件道路の歩道まで進み出て、歩道からバス停に向かって左手を振って原告の母に合図を送った。ちょうどそのとき、原告の右からやってきた自動車が停止したので、原告は、手を挙げて道路中央のゼブラゾーンまで行き、その場でバスの中にいる母親に合図をしようとして、原告が道路中央のゼブラゾーンないしは中央線上にいた際に、西行車線を時速六〇kmを超える速度で走行してきた被告車の直ぐ右側にあるサイドミラーが原告に衝突した。この点、被告は、渋滞車列の間から原告が飛び出してきた旨主張するが、本件事故当時、本件道路は閑散としており、旭日丘交差点行車線(以下「東行車線」という。)の第二車線が渋滞していたことはなく、原告が車両の間から飛び出したということはあり得ない。

イ 被告は、前方を注視することなく漫然と走行し、かつ、バス停にバスが停車している状況であるにもかかわらず、徐行しないまま側方を通過しようとした結果、本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づく不法行為責任がある。また、自賠法三条に基づく責任がある。

ウ そして、本件道路には、横断禁止規制がなされていたわけではなく、本件バス停の付近において植込みが途切れていたのであるから、被告において横断してくる歩行者を予測することができたのであり、被告は時速六〇kmを超える速度で進行していたのであるから、原告の過失は一五%を上回ることはない。

(被告の主張)

ア 本件交通事故は、被告が、加害車を運転し西行車線を富士吉田方面に向かって時速約三〇~四〇kmで走行させていた際、原告が東行車線の第二車線の信号待ち渋滞停車車両の間から同道路中央線付近に突然飛び出したため、被告車の右前部ドアミラー付近と原告が衝突したというものである。被告としては、このような場所から原告が飛び出してくることの予見は困難であり、ぶつかった瞬間も接触自体がよく分からず、妻からぶつかったことを指摘されてゆっくりとブレーキをかけて停止したのであり、原告主張のように時速六〇kmも出ていたはずがない。

イ 本件事故現場は、横断歩道や交差点の近くでなく、本件道路は歩車道の区別のある幹線道路であり、歩道と車道の間には植込みがあり、横断禁止と容易に認識できる環境であること、原告が信号待ち渋滞停車車両の間を横断して中央線付近に飛び出してきたという前記事故態様に照らすと、原告の過失は七割を下らないというべきである。

(2)  原告に残存した後遺障害の内容・程度及び後遺障害に係る損害について

(原告の主張)

ア 左膝関節部の機能障害

原告は、本件事故により左脛骨高原骨折・左腓骨骨折の重傷を負い、当初から左膝関節部痛及び左膝関節可動域制限が残存し、これにより、長時間の立位作業が困難であり、階段の昇降も容易ではない状態となったのであり、関節に著しい機能障害が残ったものとして、一〇級に該当すると認められるべきである。この点、自賠責調査事務所は、「左足関節部の機能障害については、その可動域が健側の可動域角度の三/四に制限されていないことから後遺障害には該当しない。」などというが、左膝関節部の傷害の原因の一つが左脛骨高原骨折であることに加えて原告の左膝関節面の陥没(変形)が単純X線やMRIの検査結果から認められている点をあまりにも軽視していると言わなければならない。

イ 左足首から左膝にかけての疼痛

原告は、左足首から左膝を指でなぞると、内側と外側の両方に鋭くかつ強い痛みが走り、また一日の内の多くの時間痛みに悩まされている。また、左足首正面から内側に向かって一八〇度の範囲で、くるぶし中心に半径七cmの範囲で感覚が消失し加えて左足首の動きもスムースでない。これらは、三度にわたる脛骨・腓骨骨折の手術に起因する腓骨神経障害によるものであり、重篤である。触れただけで鋭い痛みが走るとの症状につき、原告に現れた疼痛の性質や程度に鑑みると、いわゆるRSDないしはカウザルギーに類似した症状といえ、七級相当若しくは、少なくとも九級一五号相当に該当する。

ウ 骨癒合に関する後遺障害

原告に生じた傷害は重く、下腿部に相当なストレスが生じていることは疑いがなく、骨癒合が不整癒合であることを併せ勘案した場合、原告の後遺障害の程度を単に「局部に頑固な神経症状を残すもの。」として一二級とする自賠責調査事務所の判断は相当ではないことは明らかであり、本件では、骨癒合不全に準じた取り扱いをなすのが相当であり、この点で、八級九号「脛骨および腓骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残すもの」に相当するとすべきである。

エ 右膝関節部の疼痛

原告は、右膝関節部の痛みを一貫して訴えており、右大腿骨遠位内側部における頑固な外傷性疼痛が認められ、右膝内側半月板損傷が疑われる状態であり、頑固な神経症状として後遺障害等級一二級一三号に該当することは疑いない。

オ 脾臓摘出について

原告は、本件事故前は、非常に健康であったが、脾臓喪失により、疲労しやすく、風邪などにも罹患しやすくなった。そのため、外出も極力控え、たまに外出するときでも少しでも体力を温存するため必ず車での移動を余儀なくされるようになり、風邪をひき易いため細心の注意をはらわねばならず、それでも風邪をひいてしまった時は、直ぐに医者に診てもらっており、医師には「脾臓摘出」を告げただけで、常に抗生物質で点滴が施されるようになった。

脾臓は、生命の維持に不可欠な臓器ではなく、成人の場合は、脾臓を摘出してもその機能が他の臓器等(肝臓等)に代替されるため、人体に著しい影響を生ぜしめることがないという面を有する。しかしながら、他方において、脾臓は、老化したあるいは異常な赤血球の処理機能、血小板の破壊、鉄や血小板の貯留機能、免疫反応に関与するリンパ球の生産による生体防御機能がある。このような機能を持つ脾臓を摘出することによって、血小板の増加や免疫機能の低下、さらには脾臓の上記機能を代替する他の臓器等に負担をかけることにより生ずる悪影響等が認められる。すなわち、脾臓を摘出した者は、肺炎ブドウ球菌やインフルエンザ等の感染症に罹患すると重篤な症状となり、敗血症等を併発する危険性があることは、医学上周知の事実である。また、胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会では、脾臓を摘出しても「血液学的に異常は認めない」などとも指摘するが、本件でも、実際に、原告には血小板過多という異常が認められているのであるから、影響があることは明らかである。

さらに、脾臓摘出がなされた平成一六年一〇月一〇日の時点では、同摘出は旧基準の八級一一号に該当し、その労働能力喪失率は四五%として取扱われており、一三級一一号に該当するとした新たな後遣障害等級表は、平成一八年四月一日以降に発生した事故に適用するとされているのであるから、原告の後遺障害は八級と取り扱われるべきである。

カ 醜状痕について

原告の両下肢、特に左下肢には以下指摘するように多数の手術痕や皮膚の損傷痕が認められる。

① 左足の膝頭から下に向かって長さ一一cm、幅五cmの手術痕。

② 左足外側の脹脛の下部から腺にかけて一三cmの手術痕。

③ 左足脹脛の外側から左足腰にかけて一一cm、幅六cmの逆くの字の傷痕。かろうじて皮膚移植は免れたが、皮膚が非常に薄く直接触れると激痛が走る。同部分は、常に皮膚が引きつった感覚である。

④ 左足脹脛正面から内側に向かって長さ一九cmの手術切開痕。左足脹脛内側部分から同切開痕を横切るように長さ五cmの傷痕(開放骨折時に生じたものと、思われる)。

⑤ 左足脹脛内側の下部付近の皮膚の色が変色している。

左下肢の醜状痕は、膝関節以下の部位に複数の線状痕や瘢痕が相隣接して残存し、皮膚移植が検討された部位は色素脱失があり、面積を合計すると手のひらより遥かに大きな面積となるから、一二級に相当する。

これらの醜状痕のため、原告は、絶えず下半身を覆うような服装しか出来ず、女性としての身だしなみは勿論のこと、公での身だしなみも一般女性に比し相当程度制限されている。また、他人に下半身を晒すことを極力畏れているため日常生活において、全ての面で勢い萎縮的になってしまう傾向にある。就業面でも、醜状痕との関係では、人前で受傷部の傷痕を見せたくないとの思いから、その他の後遺障害とも相まって修学旅行等の行事は外してもらうようにお願いしている状態で、学校や同僚にも迷惑を掛けることがしばしばある。

キ 原告の後遣障害は多岐にわたっており、各障害の内容程度を総合勘案した結果、原告の労働能力喪失率は六七%を下らないと考える。

被告は、原告は公務員であることから減収はないと主張する。しかし、これらの後遺障害のため、通常の教職員としての活動は困難となっている。脾臓摘出との関係で言えば、非常に疲れやすくなっているため、体力的にも精神的にも負荷の大きい担任業務や修学旅行の付添い等は外してもらっている。また、免疫力低下のため、冬場は風邪を引いたりインフルエンザが流行した場合には、その行動は勢い制限的となってしまう(生徒との接触を控えがちになったりする)。また、左下肢の後遺障害のために、原告は長時間立ち続けることや長距離の歩行は困難であり、通勤にも相当の苦労を強いられているほか、英語教師であることから、重い教材を持って教室間を移動するのに苦労し、時には他の教師の助けを借りて頑張っている。また、原告の後遣障害を考えれば、担任を持つことは不可能と言わざるを得ず、担任から外すよう申し出ており、学校行事の準備や生徒の引率等においても同僚教師に迷惑をかけている。これらのように原告の努力、原告の夫らの献身的な補助、職場の同僚の援助の結果、引き続き就労できているに過ぎず、昇給ペースも他の職員と比べて遅れており、退職金や年金にも影響することになる。

(被告の主張)

ア 左関節部の機能障害について

可動域制限については、健側と比較してどの程度制限されているかによって、「機能障害」か「著しい機能障害」かが決めるのであるが、原告は、健側と比較して可動域制限が四分の一の制限も受けていない以上、「機能障害」にも当たらない。

イ 左足首から左膝にかけての疼痛について

原告主張のRSDまたはカウザルギーに類似した症状が残っていることを示す証拠はない。

ウ 骨癒合に関する後遺障害及び右膝関節部の疼痛について

原告は、本件事故により生じた傷害が重篤であることを根拠とするが、骨癒合不全については、端的に原告の骨癒合不全があるか否かを問題とすればよい。また、右膝関節部については、半月板損傷との確定診断はなされていない。

エ 脾臓摘出について

平成一八年一月二五日付け厚生労働省労働基準局長通達により、脾臓摘出は従前の旧基準八級から一三級に取扱が変更されている。厚生労働省に設けられた胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会による報告書においては、脾臓の構造及び機能について検討した上で、脾臓摘出後の後遣障害は報告されておらず、摘出により職種制限や業務の制限が生じるものではないとして、「脾臓の亡失については、免疫機能を一定程度低下させ感染症に罹患する危険性を増加させることはあり得るものの、『機能の障害の存在が明確であって労働に支障をきたすもの』(一一級九号)にも及ばないとすることが適当」であり、一一級よりも下位の等級とするのが適当であるとし、一四級とした場合には、一一級と比較して労働能力喪失率の差が大きくなるという政策的理由から、新たに一三級を設け、一三級とするのが適当とされたのであり、一三級(労働能力喪失率九%)を上回ることはあり得ない。

原告の入院経過は良好であり、平成一八年三月二二日からのb大病院からの退院時における療養計画の留意点において、「安静と運動」、「入浴」、「仕事又は学校」、「食事」のいずれについても「制限はありません」とされており、その後の経過も良好である。旧基準が改正される前から、裁判例においては労働能力喪失率が見直されている。

オ 左下腿骨開放骨折に伴う症状について

上記骨折に基づく支障は、日常生活上の支障にとどまり、せいぜい慰謝料算定の考慮要素となるにすぎない。

カ 両下肢の醜状痕

後遺障害に該当しない。

キ 原告の後遣障害は、以上の程度であり、本件における労働能力喪失の程度としては一一級で認められる二〇%程度と見るのが妥当であるが、原告は、事故後に増収しており、身分保障の厚い公務員であることを考慮すると、逸失利益は生じない。

(3)  原告に生じた損害額

(原告の主張)

原告に生じた損害は、別紙「損害一覧表」の「原告の主張」欄記載のとおりである。

(被告の主張)

別紙「損害一覧表」の「被告の主張」欄記載のとおりである。

第三当裁判所の判断

一  事故態様及び過失相殺(争点(1))について

(1)  事故態様及び責任原因について

前記の争いのない事実等、証拠(甲一、二、二六、五一、五二、五七ないし七六、乙二、七、一二ないし一四<なお、書証番号には枝番号も含む。>、証人A<以下「証人A」という。>、証人B<以下「証人B」という。>、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 本件事故現場付近の状況は、別紙交通事故現場見取図(以下「別紙図面」という。)記載のとおりであり、本件事故現場は東西に通ずる国道一三八号(本件道路)上で、旭日丘交差点から西方約八〇mの地点にある。付近は観光地であり、本件道路沿いに土産物店等が点在する。本件道路の西行車線は、幅員約三・三mの一車線道路であり、東行車線は、別紙図面のとおりゼブラゾーンが設けられて、一車線から二車線道路となっている(なお、同図面上は、中央線は直線となっているが、本件遊歩道の前のあたりでやや本件遊歩道側に膨らんで屈曲している。)。西行車線の左側は、本件事故現場の約二五m手前あたりから本件事故現場にかけてcバス停があり、その外側には、約〇・七mの路肩とさらにその外側に約二・五mの歩道がある。東行車線側の歩道と路肩との間には植込みがあるが、本件遊歩道の進入口は途切れている。東行車線は、本件遊歩道のあたりから二車線となり、第一車線は直進路となっており、その幅員が約三・一m、第二車線は右折車線となっており、その幅員が約二・二mである。その左側(北側)には約〇・九mの路肩、そのさらに外側には約四mの歩道がある。本件道路はほぼ直線であり、前方の見通しは良好である。本件道路は、時速五〇kmに規制されていた。

本件事故当時、東行の第二車線は、旭日丘交差点で右折する車両が列をなしていた。

イ 原告は、原告の夫と両親ともに山中湖で滞在する予定にしており、前記争いのない事実等(1)の日時ころ、上記のcバス停で降車して同所に到着する両親を夫と一緒に山中湖を散策しながら待っていた。西行車線にある同バス停に原告の両親が乗ったバスが到着し、バス内で原告の父が運転手に降車予定の目的地のバス停か否かを訪ねており、母が座席に座ってそれを見ている様子が原告の目に入った。そこで、原告は、原告の夫とつないでいた手を離して、両親に気づいてもらおうと夫を後ろにおいて小走りで手を挙げ振りながら、歩道を出て東行車線にある信号待ちの普通乗用自動車の車列の間を小走りで走りながらバス内の両親に向かって手を振り上げ、中央線を少し出たあたり(同図面の<×>地点よりもやや中央線寄りの地点)で、東から走行してきた被告車の右前部ドアミラーと接触し、身体が回転してゼブラゾーン付近に倒れた。一方、被告は、西行車線を走行し、本件事故現場付近に至り、同所の約二五m手前で減速して時速四一ないし四六km程度で進路遠方を見て走行していたところ、折から、原告が右の中央線付近に現れ、被告車の右ドアミラー付近が原告と接触し、直ちにブレーキをかけるも約二一・三m進行して停車した。被告車は、右フロントピラーが凹損し、右ドアミラーが後方に倒れ、インナーが脱落していた。

(2)  事実認定の補足説明

上記認定に対し、原告は、被告車が時速六〇kmを超える速度で進行してきた旨主張するが、被告が衝突してから停止するまでの距離は約二一・三m(甲二)であり、被告が衝突後直ちにブレーキをかけたとして、空走時間を〇・七五ないし一、摩擦係数を乾燥アスファルト〇・七とした場合、時速約四一ないし四六kmとの計算結果となることからすれば、被告車が時速六〇kmを超える速度で走行していたとは考え難く、これを採用することはできない。被告は、時速三〇km程度で走行していた旨及び衝突後直ちにブレーキをかけなかった旨供述するが、車体の右側から何かと接触したのであれば、直ちに停車しようとするのが通常の行動であるし、証人Aが、被告はぶつかった瞬間に急ブレーキを踏んだ旨及び時速五〇km程度で進行していた旨証言していることに照らすと、上記の計算結果のとおり、時速四一ないし四六km程度の速度が出ていたものと認められる。

また、原告は、本件事故当日、本件道路の交通は閑散としていたのであり、渋滞車列の間から飛び出したものではない旨主張するが、事故当日に行われた被告立会の実況見分の内容(甲二)及び利害関係のない目撃者である証人Aが東行車線を右折の信号待ちのために停止していた際に本件事故を目撃した旨証言していること、本件道路は直線道路で見通しがよいところ、原告は、被告車と接触するまで左側から進行してくる車両に気づかず、後ろから原告の様子を注視していたという原告の夫も左から進行する被告車に気づいていなかったこと、本件事故直前の東行車線の遊歩道よりも東の状況について、原告及び証人Bともに明確に記憶している様子が窺われないことに照らすと、上記認定のとおり認められ、原告の主張は採用できない。

被告は、本件事故現場付近を走行する際、中央線寄りを走行せず、道の真ん中を走行していた旨供述し、実況見分時において、原告が中央線から約一・三m西行車線に出た地点を衝突地点<×>として示しているところ、被告は、上記のとおり、時速四一ないし四六km程度の速度で走行して原告と接触したのであり、接触の瞬間を見ていたものではないから、衝突地点の指示は正確性に乏しいものと考えられること、前記のとおり、ゼブラゾーン付近において、中央線は右側にはみ出すように屈曲しており、証拠(甲六三ないし六五)によれば、中央線寄りに進路をとって走行する車両が複数台見られ、本件事故当時は左側のバス停にバスが停車していた状況であったことに照らすと、上記<×>地点よりも中央線寄りで接触したものと推測できる。しかしながら、被告が中央線を越えて東行車線に進出していたのであれば、東行車線で停車していた証人Aが脅威を感じてしかるべきところ、そのような証言はなく、むしろ証人Aは、被告車は普通に真ん中を走っていたと記憶していることに照らすと、衝突位置がゼブラゾーン内であるか中央線上であったとの原告主張もまた採用の限りでない。

(3)  過失相殺について

上記の認定事実によれば、原告は、渋滞車列の間を通って反対車線に進出するに当たり、いったん停止して左右の安全確認をすべきところ、バス内の両親に合図を送るのに気をとられてこれを怠り、小走りで中央線付近まで進出し、被告車の右方から接触した点において、過失が認められる。一方、被告は、本件事故現場付近が観光地で、本件道路沿いに士産物店等が点在しており、左方のバス停にはバスが停車する状況であったから、渋滞車列の間から横断者が出てくることを考慮に入れ、適宜減速の上で、左右周囲の状況を注視すべきであったのにこれを怠って、時速四一ないし四六km程度に減速したのみで、遠前方を見て走行した点において過失が認められる。双方の過失割合は、その過失の態様等一切の事情を考慮し、原告三、被告七と認めるのが相当である。

この点について、原告は、被告が徐行義務を怠った旨主張するが、停車中のバスの側方を通過する場合であっても徐行義務までが課せられるものではなく、原告主張は採用できない。また、被告は、被告車の右側方からの接触であり、回避不能であったかのように主張するところ、確かに、渋滞車列からの進出であるから、原告を認めるのが容易であったとはいえないが、被告から見て原告の手前の東行車線上の車両は普通乗用自動車であり、よく注視すれば、同車の屋根の上から原告の頭が確認できたはずであることから回避不能であったとまでは認め難い。また、被告は、原告が横断禁止規制に違反して幹線道路を横断した旨主張するが、本件道路には横断禁止規制があった事実は窺われず、また、上記の車両幅員からすれば、幹線道路には当たらないことから、上記主張は採用できない。

二  原告に残存した後遣障害の内容・程度及び後遺障害に係る損害について(争点(2))について

(1)  原告に残存した後遺障害の内容・程度について

ア 脾臓摘出による後遺障害について

前記のとおり、脾臓摘出については、旧基準において八級とされていたのが、現基準において一三級と評価することに改められている。厚生労働省に設けられた胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会による平成一七年九月三〇日付け検討結果報告(乙三、四)によれば、脾臓は、主として血液の貯留機能、老朽赤血球、血小板の破壊及びリンパ装置としての生体防御機能の三つの機能を有するが、脾臓の摘出による後遺症状は特に報告されておらず、血液学的あるいは免疫学的異常は認められておらず、脾臓の亡失により、職種制限や業務の制限が生じるものでないことはもちろん、「機能の障害の存在が明確であって労働に支障をきたすもの」(一一級九号)にも及ばないことは明らかであるとして、旧基準は改められるべきであるとの報告がなされた。その一方、「脾臓は人体最大のリンパ器官であるから、全く影響がないというわけではない。すなわち、脾臓は、肺炎球菌や髄膜炎菌などの莢膜を持った細菌に対して有効な防御機能を有していることから、脾臓を摘出した患者は、特に肺炎球菌、髄膜炎菌又はインフルエンザ菌による感染症に罹患しやすいとされており、WHOも肺炎球菌ワクチンを接種すべきリスクの高い患者の中に、無脾症患者を糖尿病や先天性免疫不全患者と並んで記載している。また、成人においても、特に重症な原疾患を有しないにもかかわらず、脾臓を摘出した者は敗血症や播種性血管内凝固症候群を起こす率が高い。現行の省令の規定は昭和二二年に設けられたものであるが、これは、当時厚生年金法が一時金を支給すべき障害として脾臓の亡失を比較的高く評価していたことを受けて規定されたものである。当時は、免疫機能の異常等を客観的に評価できる指標がないことから、症状の有無にかかわらず、人体最大のリンパ器官である脾臓の亡失をもって、免疫機能の半分を失ったものとして評価したと考えられるが、今日においては、客観的な指標により免疫機能の異常の有無を評価することができることから、脾臓の亡失をもって免疫機能の異常を示すと考えることは適切ではなくなっている。そこで、他制度の状況をみると、国民年金・厚生年金保険における障害認定基準及び身体障害者福祉法における身体障害認定基準のいずれの制度においても、脾臓の亡失ということのみをもって障害に該当するということとはされていない。また、諸外国の例をみても、現行の認定基準のように脾臓の亡失を高く(八級(五〇%の労働能力損失))評価しているものはなく、イギリス(二ないし五%の労働能力損失。我が国の一四級に相当)、イタリア(五%の労働能力喪失。我が国の一四級に相当)のように低い障害の評価を行っている。以上のことから、脾臓の亡失については、免疫機能を一定程度低下させ感染症にり患する危険性を増加させることはあり得るものの、「機能の障害の存在が明確であって労働に支障を来すもの」(一一級九号)にも及ばないとすることが適当である。」と報告され、一二級とすると一一級との労働能力喪失率が一〇%未満しか差がなく、今日における医学的知見をもってしても的確にその区別をすることが困難であり、逆に一四級とした場合には、一一級との差が大きいことから一三級を設けることにしたとの経緯が認められる。また、脾臓摘出後には、その機能は肝臓等の他の臓器の感染防御力や赤血球の状態を監視して、異常な赤血球や古くなったり傷ついたりした赤血球を除去する能力が高まることによって補われるとの医学的知見が認められる(乙六)。

証拠(甲一五、一六、二〇ないし二三)によれば、原告は、a病院での脾臓摘出術後、一時的に著しく血小板が増多し、内服治療が行われ、その後、b大病院において術後のフォローアップが行われ、その間にも通常の基準と比較して血小板数が増多していた事実が認められるほか、原告自身、本件事故前は、非常に健康であったのが、疲労しやすく、風邪などにも罹患しやすくなったと感じていることが認められるものの(原告本人)、血小板に対する投薬治療は終了して現在は行われておらず、他に免疫不全を窺わせる客観的な資料に乏しいこと、実際に感染症により職場を休職したなどの事実は窺われないことに照らすと、後遺障害の程度としては、一三級相当を上回るものと認めるに足りず、一三級相当と評価せざるを得ない。もっとも、感染症を防ぐために原告が種々の努力をしていることなどについては、慰謝料算定において考慮することとする。この点、原告は、旧基準において八級と取り扱われていることから、本件においても八級相当と取り扱われるべきであると主張するが、裁判所は損害保険料率算出機構の等級認定判断に拘束されるものではなく、症状固定時において残存した後遺障害の内容、程度を評価するものであり、旧基準が昭和二二年における医学的知見や他の法や制度との均衡から定められたものであり、今日の医学的知見に照らして適正とはいえない状況となったことから改正された経緯に照らすと、原告の上記主張は採用できない。

イ 下肢に関する後遺障害について

原告の左下腿部痛、開放骨折部知覚過敏、一日の一/三は左下腿や足部の痛みが気になっている状態、左足首の知覚異常等の症状について、証拠(甲一五、一六、一九、二九、四八、四九)によれば、原告は、a病院において、左下腿骨開放骨折・左脛骨高原骨折左膝に対する観血的整復固定術が行われ、装具が装着された状態で、平成一六年一一月一三日に退院に至ったこと、同月一一月一五日にb大病院に転院して入院が開始されたが、同日時点では、仮骨量少なく、予定よりも骨が癒合せず、職場復帰予定が複数回延期され、平成一七年三月に骨癒合良好の状態となったが不整癒合が認められていること、左足に対する神経伝導検査の結果、伏在神経障害・左腓腹神経感覚枝の障害が疑われ、d病院及びb大病院の医師が左下腿遠位内側に伏在神経領域の知覚脱失と思われる旨の意見を述べていることなどが認められ、これらの事実に照らせば、他覚的に神経系統の障害が証明されるものとして、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として、一二級一三号に該当するものと認められる。

この点につき、原告は、原告に現れた疼痛の性質や程度に鑑みると、いわゆるRSDないしはカウザルギーに類似した症状といえ、七級相当若しくは、少なくとも九級一五号相当に該当する旨主張するが、原告の通院頻度や処置内容、症状経過に照らすと、RSDやカウザルギー類似の症状が残存したものと認めることはできず、原告の主張は採用できない。また、原告は、左膝関節の可動域制限により一〇級に該当する旨主張するところ、b大病院でのリハビリが開始された段階においては、膝関節右一二〇、左八〇の可動域制限があったが、可動域訓練により改善しており、後遺障害診断書(甲四)においても、膝関節の可動域制限についての記載がなされていないことが認められ、左膝関節の可動域制限が残存したと認めるに足りない。なお、左足関節については、同診断書上、背屈(他動)において健側(右)二〇度に対して患側(左)は一五度(底屈の他動値は両方五〇度)となったことが認められ、診療録上においても、同様の記載が認められるが、可動域角度については、同一平面の運動である底背屈の合計値で比較することになるところ、上記の健側合計七五度、患側合計六五度となるから、その可動域が健側の可動域角度の三/四以下にも制限されておらず、関節の著しい機能障害及び機能障害に該当すると認めることはできない。さらに、原告は、膝関節の骨癒合について、「脛骨および腓骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残すもの」として八級九号該当性を認めるべき旨主張するが、骨癒合は得られており、これを上記一二級相当の神経症状のほかに後遺障害と評価すべき事情はない。

また、原告は、右膝関節部の疼痛について、右膝内側半月板損傷が疑われ、頑固な神経症状として一二級一三号に該当すると主張するところ、平成一九年三月時点において、半月板損傷の疑いがあるとされ、場合によっては関節鏡検査が必要であるとされたが、同年七月においては、マクマレー反射も陰性であり、MRI画像上も問題がなく、関節鏡検査は必要がないと判断されており(甲一九)、b大病院における医療照会書に対する回答(甲二九の二)においても依然として「疑い」にとどまっていることからすれば、他覚的に神経系系統の障害が証明されるとまではいえない。もっとも、本件事故により右膝挫傷の傷害を負い、原告が右膝痛の存在を継続して訴えていることは診療録上においても認められているのであるから、「局部に神経症状を残すもの」としての後遺障害該当性は認めることができる。

ウ 醜状痕について

証拠(甲一九・三五頁裏、同・三九頁裏、甲三〇、三一)及び弁論の全趣旨によれば、原告の左下肢には、左足の膝頭から下に向かって約一三cmの線状痕、脛の内側と外側、足首部にそれぞれ約一二cm、約一三cmの線状痕、左足脹脛内側の下部付近に手のひら大程度の皮膚変色、右下肢についてそれぞれ約一六cm、約一〇cmの線状痕等が残存したことが認められる。これらの下肢の醜状痕について、掌の大きさを相当程度超える瘢痕、っまり掌の大きさの三倍程度以上を残し、特に著しい醜状と判断される場合に当たるとはいえないことから一二級とはいえないものの、上記の程度からすれば、一四級の醜状痕としての後遺障害該当性を認めるのが相当である。

エ その他

原告は、平成一七年一一月にうつ状態の診断を受けたとして非器質性精神障害の一二級に該当する旨主張するが、原告の通院は一回にとどまっており、非器質性精神障害としての後遺障害を認めることはできない。もっとも、本件の受傷内容からすれば、肉体的のみならず精神的苦痛も相当に大きく、この点が精神状態に影響を及ぼした可能性はあるが、この点は、入通院慰謝料において評価されるべきであり、後記の慰謝料算定における一切の事情として斟酌した。

(2)  後遺障害逸失利益について

被告は、原告が身分保障のある公務員であり、本件事故前の平成一五年分の給与所得七七四万三五五八円に対して、事故後の平成二〇年分給与所得七八〇万七九二七円に増収していることから、原告に減収はなく、後遺障害逸失利益は生じない旨主張する。

しかし、証拠(甲五一、五二、証人B、原告本人)によれば、原告は、公立高校の英語教師であるところ、上記の左下腿部痛、開放骨折部知覚過敏等のために、立位、階段の昇降、英会話のためのテープレコーダー等の荷物をもって教室間を移動することなどが困難であり、場合によっては他の教師の助けを借りていること、学校の場所によっては通勤にも困難をきたしていること、生徒指導、行事の準備や運営に支障が生じており、学校内でインフルエンザが流行した際には、感染を防ぐために生徒への指導が消極的にならざるを得ないことなどの支障が認められる。そして、これらのために重い責任を果たすことができず、担任を持つことができないままとなっており、その他クラブ活動や公式行事での引率等ができないことが、人事評価ひいては昇給や昇格に影響することも容易に予測される。

そうすると、事故前と比較して減収がないとしても、逸失利益を否定するのは相当ではなく、その逸失利益は、上記(1)ア、イに認定した後遺障害の程度と原告の職における具体的な支障及びその収入への影響を総合考慮し、原告には、労働能力喪失率二〇%の逸失利益を認めるのが相当である。そして、基礎収入について、原告は、症状固定時の給与を基礎としているものであるが、これは今後の昇給や退職金等を考慮しない額であることを考慮すると、高額であるとは解されず、同額を基礎とするのが相当であり、同様の趣旨から定年後も含んだ六七歳までの逸失利益を認めるのが相当である。

したがって、原告の後遺障害逸失利益は、以下の計算による額となる。

計算式:780万7927円×0.2×12.8211(21年のライプニッツ係数)=2002万1242円(1円未満切捨て)

(3)  後遺障害慰謝料

上記(1)に認定した後遺障害の内容、程度、上記(1)ウについては後遺障害逸失利益においては考慮されないことを総合考慮し、一〇〇〇万円を相当とする。

三  原告に生じた損害(争点(2))について

(1)  原告の損害

ア 治療費等 二二四万四四〇四円

原告主張の治療費額(差額ベッド代、食事療養費、薬代、装具代、後記イ以外の文書料を含む)二二四万一七九一円に対し、被告主張の治療費額は二二四万四四〇四円となっている。これらの相違は、b大病院における治療費等の額から来ているところ、原告は、b大病院分の治療費等額を八一万〇二九七円としているが、証拠(乙九、一一)によれば、被告主張のとおり、八一万二九一〇円と認められる。したがって、治療費等の額としては、二二四万四四〇四円と認められる。

イ 文書料 二万三一〇〇円

原告主張の文書料のうち、職場である京都市教育委員会事務局に対し、休職の際に必要な書類として提出するために要した診断書料、診断書発行証明書料(甲五三の三ないし一〇、一二ないし一四)合計二万三一〇〇円は本件事故と相当因果関係ある損害と認められる。診断書再発行料(甲五三の二)及び提出先の不明な診断書料(甲五三の一一)については、相当因果関係ある損害か否かが明らかでなく、損害と認めがたい。また、その余の文書料については、支出を裏付ける証拠の提出がなく、損害と認められない。

ウ 車椅子レンタル代 六万七七六五円

当事者間に争いがない。

エ 入院雑費 一五万六〇〇〇円

当事者間に争いがない。

オ 入院付添交通費、夫の休業損害 九万一〇二八円

原告は、a病院での入院期間中に原告の夫や母が入院付添をしたとして、その入院付添交通費及び休業損害を請求しているところ、前記のとおり、原告の傷害は重篤であり、左下腿骨開放骨折、左脛骨高原骨折、脾臓損傷に対する脾臓摘出術等が入院当初に相次いで行われ、その後、敗血症による白血球の増加、発熱などが生じていたことに照らすと、病院が完全看護であったとはいえ、親族による看護や、医師による説明などを受ける必要があったことは否定できず、原告の夫らの居住地が京都、病院が山梨であったことを考慮すれば、入院付添交通費の一部は損害に該当するというべきである。そして、診療録(甲一五)によれば、平成一六年一〇月二六日には解熱し、同年一一月五日のリハビリ実施計画書においては、当初、一部介助が必要であったトイレへの車椅子駆動、車椅子・ベッド間移乗、整容、更衣がいずれも「自立」とされていることに照らすと、そのころには既に付添の必要性も減少していたものと解される。そうすると、付添の状況(甲八、五四、五五)を考慮し、原告の夫分及び原告の母分のそれぞれについて、片道の交通費を一万三〇〇〇円として二往復ずつの五万二〇〇〇円について相当因果関係ある損害と認める。原告の夫の休業損害については、付添の必要性が上記の事情にあるため、代替性がなかったことを考慮すると、通常の通院付添費日額を基礎とするのは相当でなく、原告の夫の休業損害について、一日の損害を九七五七円(甲五〇)とし、その四日分の合計三万九〇二八円について相当な損害と認める。よって、合計額は九万一〇二八円となる。

カ 通院交通費 一一万八三八〇円

一〇万一〇九〇円の通院交通費が原告の損害となること、及び原告が通院のために平成一七年五月から九月までの間に上記のほかタクシー代として一万七二九〇円を支出したことは当事者間に争いがない。そこで、平成一七年五月ないし九月の間のタクシー使用の必要性が問題となるところ、証拠(甲一九)によれば、上記期間は、原告においてリハビリが継続しており、同年九月の段階でもまだ一本杖歩行で、日常生活にも支障があるとされている状態であったことに照らすと、タクシー使用の必要性を認めるのが相当である。よって、一一万八三八〇円が損害として認められる。

キ 休業損害 一〇二万七三一九円

原告が、一〇二万七三一九円の休業損害を被ったことは当事者間に争いがない。原告は、上記に加え、平成一九年一二月の賞与減額分について休業損害を請求するが、証拠(甲九、一〇)によれば、平成一九年一二月の賞与減額分については、上記の一〇二万七三一九円に含まれると認められることから、別途平成一九年一二月分の賞与減額分を損害として認めることはできない。

ク 入通院慰謝料 二五〇万円

本件の受傷内容、程度、治療経過(入院一〇四日、通院期間一四一七日)及び本件に現れた一切の事情を斟酌し、上記額が相当である。

なお、被告は、原告の入院外泊期間を入院期間に含めるべきでないと主張するが、原告が連続して長期間の外泊をした事実はなく、原告の受傷の内容、程度からすれば、帰宅後に通常の日常生活が営めるわけではなく、原告の家族が相当に尽力をして原告を迎え入れたことが推測できることからすれば、被告の主張は採用できない。また、原告の実通院日数はさほどではないが、受傷の内容、程度からすれば実日数のみで評価すべきでなく、治療経過を総合考慮すると、上記額は下らない。

ケ 後遺障害逸失利益

前記のとおり、二〇〇二万一二四二円である。

コ 後遺障害慰謝料

前記のとおり一〇〇〇万円である。

サ 小計三六二四万九二三八円

(2)  過失相殺後の金額

上記(1)サから原告の過失割合部分を控除すると、二五三七万四四六六円となる。

計算式:3624万9238円×(1-0.3)=2537万4466円(1円未満切捨て)

(3)  損益相殺後の金額

まず、自賠責保険金として受領した一〇四三万円は損害金元金に充当されることになる(弁論の全趣旨)。

次に、治療費相当額については、前記(1)アで述べたとおり、二二四万四四〇四円と認められ、これが被告により支払われたことが認められるから、これも損害のてん補となる。

そして、原告は、原告が被告付保の任意保険会社からの内払のあった一二二万八七七三円のうち、二万円については、損害保険リサーチに対する支払であるから損害のてん補とならない旨主張するところ、当該二万円は原告に対して支払われたものではなく、損害保険リサーチに対して直接支払がなされたものであるところ、その支出の意味内容が明らかでなく、事故態様に関する調査費用だと推測したとしても、それは、被告の付保保険会社における保険金支払の要否を判断するためであると解されるから、この部分について損害のてん補に当たると認めるに足りない。

したがって、上記合計一三八八万三一七七円が上記(2)に充当されることとなり、以下の額となる。

計算式:2537万4466円-(1043万円+224万4404円+120万8773円)=1149万1289円

(4)  弁護士費用

本件事案の概要及び認容額に照らすと、弁護士費用としては一一五万円が相当である。

(5)  合計一二六四万一二八九円

第四結論

よって、原告の被告に対する請求は、一二六四万一二八九円及びこれに対する平成一六年一〇月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容し、原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 中武由紀)

<以下省略>

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