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京都地方裁判所 平成22年(ワ)4117号 判決 2011年10月07日

原告

X(仮名)

被告

Y1(仮名) 他1名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、四一万三九三三円及びこれに対する平成二〇年五月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その一を被告らの連帯負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告に対し、連帯して、一七七万二二七八円及びこれに対する二〇〇八年(平成二〇年)五月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告が平成二〇年五月二一日午後二時四五分ころ、被告Y1(以下「被告Y1」という。)運転の普通貨物自動車(ナンバー<省略>、以下「被告車」という。)に衝突されて負傷したとして、被告Y1に対しては民法七〇九条により、その使用者である被告Y2株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては民法七一五条により、損害賠償及び上記事故日以降の遅延損害金を請求する事案である。

二  前提となる事実

次の事実は、当事者間に争いがなく、または、後記証拠により容易に認められる。

(1)  原告

原告は、平成二〇年五月二一日午後二時四五分ころ、○○市<以下省略>先の車道幅員約三・九mで概ね東西に通じる市道(以下「市道一」という。)とその北側に幅員三・四mの市道(以下「市道二」という。)が接続するT字型交差点(以下「本件交差点」という。)から市道二に数m入った地点(以下「本件現場」という。)において、犬を洗っていた。

(2)  被告Y1

被告Y1は、平成二〇年五月二一日午後二時四五分ころ、○○市<以下省略>先道路上に、被告車(飲料運搬車)を運転して、飲料の自動販売機への搬入充填作業の従事中に通りかかり、市道二の西側に設置されている自動販売機への飲料の搬入充填のため、市道一から市道二へと後退して進入した。(甲四、被告Y1本人)

(3)  被告会社

被告会社は、被告Y1の使用者であり、上記(2)の被告Y1の従事していた作業は、被告会社の業務である。

三  争点及び争点に関する当事者の主張の概要

本件の争点は、(1)被告車と原告との衝突の有無(争点一)、(2)被告Y1の過失及び過失相殺(争点二)、(3)原告が被った損害の額(争点三)であり、各争点に関する当事者の主張の概要は以下のとおりである。

(1)  被告車と原告との衝突の有無(争点一)について

(原告)

原告は、平成二〇年五月二一日午後二時四五分ころ、原告の自宅マンション前である本件現場において、しゃがみ込んで犬を洗っていたところ、被告Y1が被告車を運転して本件交差点から被告車を後退させて本件現場に接近し、被告車後部を原告に衝突させた。

被告車が市道一を西から東に進行して本件交差点を一度通り過ぎ、本件交差点において切り返しをしていたことについては、原告は気がついていたが、この交差点を利用して、市道一の西向きに方向転換をしようとしていると理解し、市道二に後退で進入してくるとは予想していなかった。

被告車がバックブザーを鳴らしていた事実、原告の一・五m手前で一度停止した事実はない。

(被告ら)

被告Y1は、本件交差点から市道二へ後退して進入するに際し、市道一を西から東に向けて進行し、一度本件交差点を通り過ぎてから停止し、後退で市道二に入ろうとした。本件交差点北東角付近にバイクが駐車してあったので、それを避けるために五回ほど切り返しながら市道二へと進入した。被告Y1は、原告及びもう一人の女性の二人が本件現場の路上にしゃがんでいるのを後退開始前から確認していた。被告Y1はバックモニターを見ながらゆっくり後退しようとした。被告Y1はバックブザーを鳴らしながら徐行で後退し、原告から一・五mほど手前でいったん停止したところ、原告らは、「危ない」と言って脇により、道を空けた。被告Y1は、バックモニターで確認しながら後退し、原告の手前一・五mで停止したのであるから、被告車が原告に接触していないことは、疑う余地がない。

(2)  被告Y1の過失及び過失相殺(争点二)について

(原告)

被告Y1は、原告が本件現場の路上にいるのを発見したのであるから、本件現場を通過して後退するに当たり、原告との接触を避けるべき注意義務があるのにこれを怠り、原告が避けると思って漫然と後退させて原告に被告車を接触させた過失がある。

被告らの過失相殺の主張については否認ないし争う。被告車の本件交差点で切り返しをしていた動きから、原告には、被告車は、市道一を西へと進路変更するものと思われ、市道二へと後退で進入してくるとは予想できなかった。しかも、バックブザーを鳴らすこともなくそのまま後退してきたため、原告と一緒にいた女性は「危ない」といいながら横に逃げたが、被告車に対して後ろ向きでしゃがんでいた原告は逃げ遅れ、被告車が停止した時点で接触されてしまったのであり、原告に退避の遅れの過失はない。

(被告ら)

被告Y1の過失については争う。バックブザーを鳴らし、バックモニターで確認し、原告の手前一・五mで停止しているのであって、被告Y1に後退に際しての注意義務違反はない。

むしろ、原告に、被告車の後退に気付いていたのであるから、速やかに退避すべき義務があるのにこれを怠った過失があり、過失相殺されるべきである。

(3)  原告が被った損害の額(争点三)について

(原告)

ア 原告の本件事故による負傷と治療

原告は、被告車に接触された事故(以下「本件事故」という。)により、左肩打撲、頚椎捻挫、左足関節炎の傷害を受け、平成二〇年五月二三日から平成二一年四月二八日まで康生会東山武田病院(以下「東山武田病院」という。)に通院し、治療を受け(通院実日数八四日)、同日症状固定と診断された。

イ 治療費 七万二九六〇円

東山武田病院分 五万八四三〇円

こまち薬局薬代 一万四五三〇円

ウ 文書料 一万五七五〇円

エ 休業損害 一二二万二四五二円

基礎収入を年額一三〇万一一七九円、休業日数三四三日で計算。

オ 通院慰謝料 一五〇万円

通院一一か月

カ 損害のてん補

自賠責保険金 一二〇万円

キ 弁護士費用 一六万一一一六円

(被告ら)

全て争う。

ア 原告の負傷について

事故後二日後に原告が初めて通院した際の傷病名は、末梢神経障害及び左肩打撲である(甲一〇の二頁)。その後、一一月三〇日まで同傷病名が維持され(甲一〇の二頁から八頁まで)、平成二〇年一二月五日作成の診断書では、突如「頚椎捻挫」「左足関節炎」が傷病名としてあがっている。これらについては、原告は受傷当初は訴えていなかったものと思われ(なお、これらの傷病名については、治療開始日の欄がなぜか空欄とされている)、本件事故との因果関係、受傷事実には疑義がある。

仮に接触があっても、末梢神経障害は発生しないし、右肩打撲で長期の治療を要することも、休業を要することも考えられない。

初診時の訴えは、左肩の痛みのみであり、診断書も左肩打撲の記載のみである。その左肩打撲についても、原告の自己申告以外に症状を基礎付けるものは見当たらない。そして、初診時の診断書に、「約二週間の加療を要する見込み」と記載されているにとどまる。

頚椎捻挫については、事故から四一日経過した平成二〇年七月一日、原告は、初めて項頚部痛を訴え(乙三の七頁、乙六)、傷病名に頚椎捻挫が加えられ、頚部MRI撮影がされた。しかし、この時点で医療記録に記載されているのは原告の自覚症状のみである。そして、七九日経過後に頚部捻挫に対するリハビリが開始された。三か月間処置が何もされておらず、八月から消炎鎮痛処置が開始されている経緯についての担当医師宛の照会に対する回答は要領を得ない(乙九)。

原告の頚部痛は本件事故に起因するとは考えられない。

左足関節炎については、事故から一八〇日後の平成二〇年一一月七日に初めて痛みを訴えており(乙三の一一頁、乙一一)、平成二〇年九月一二日作成の労災関係の請求書にも傷病名は「左肩打撲、頚椎捻挫」のみ記載されている(乙一一)。また、左足関節炎については、原告自身の訴えのみであり、ほかに何ら異常所見はない。医師の回答も要領を得ない(乙九)。事故後一八〇日を経過した後の左足関節痛が本件事故に起因するものとは考えられない。

イ 治療費について

原告主張の治療費額と原告が証拠として提出した診断書・レセプトの合計金額が一致しない。

治療期間を一一か月も要する負傷ではない。

ウ 文書料について

甲一一記載の文書料は何の文書を作成したものか不明である。

後遺障害診断書作成料は、後遺障害が残存していない本件では必要ない。

エ 休業損害について

休業損害証明書(甲八)は信用できない。

受傷事実そのものの疑義などから休業の必要性が認められない。

また、a社から給与を得ていたことに疑問がある。なお、労働基準監督署は労災申請に対して、労働者性が認められないとしている(乙一三)。

オ 通院慰謝料

争う。

原告主張額は高額すぎる。

カ 損害のてん補(自賠責保険金)

原告が自賠責保険金として一二〇万円の支払いを受けた事実は認める。仮に本件事故により原告に損害が生じていたとしても、これにより全ててん補済みである。

第三当裁判所の判断

一  被告車と原告との衝突の有無等(争点一)について

原告は、本人尋問において概要次のとおり供述した。

自宅マンションの前である本件現場において、交差点に背を向けてしゃがんで犬を洗っていたら、被告車が切り返しをしていて、元来た道を戻るのかと思っていたら、一緒にいたAさんが「危ない」と叫んだため、被告車が迫ってきていることに気付いて犬を抱えてガレージに逃げたが、逃げるときに被告車の後部に原告の左肩が当たった。当たってから、被告車は停止した。被告Y1は、被告車から降りて、そのまま自動販売機に向かった。被告Y1が被告車に戻ってきたときに、私が「当たったんだけど」というと、被告Y1は、「どけ」、「くそがき」と私に言った。警察官から事情を聴かれているとき、被告Y1は「当たったかも」と言っていた。

上記の原告の供述は非常に具体的で自然であり、被告車のバックブザーには気付かず、被告車のエンジン音で被告車の動きに気付いたとする点は、バックブザーを鳴らさずに後退することは考えにくく、原告の記憶違いと思われるが、原告は被告車の動きから本件交差点で方向転換をしようとしており、それ以上市道二に入ってきて原告に接近して来ないであろうと予想していたといい、一度通り過ぎたのち切り返しをしながら後退で市道一か市道二に入っていたという点は被告Y1も認める供述をしており、この状況からすると、被告車の動きに関する原告の上記予想は合理的であり、それを前提とすると、バックブザーが鳴っていたとしても、それは切り返しのための後退に伴うものと理解され、直ちに原告に被告車が接近している危険を予測させるものではないと考えられ、この記憶違いが原告の事故状況に関する供述の信用性を損なうことはない。また、被告Y1が警察官から事情を聴かれた際に「当たったかも」と述べていたとする点は、その見分の経緯に関しては争いがあるものの、原告と被告Y1とがそれぞれ警察官に現場で説明したことは原告及び被告Y1も認めており、その被告Y1及び原告立会による実況見分の記録として警察官により作成された現場の見分状況書(甲二)に、衝突があったことが前提の見分状況が記載されていることから裏付けられる。

以上によれば、原告の上記供述は信用することができ、後退していた被告車の後部がしゃがんでいた原告の左肩にぶつかるという事故があったことが認められる。

被告Y1は、本人尋問において、原告がいたところの一・五mくらい手前で停止し、バックモニターで見ながら後退していたので、原告に当たっていないし、警察官にも当たっていないと説明したと供述する。しかし、被告Y1は、その少し後に当たったことについて抗議した原告に対して、当たっていないことを述べたり、本当に当たったのかどうか、どこが当たって痛まないかどうかなどを尋ねることもせず、原告に対して、「どけや」と怒鳴りつけ、「バックブザー鳴ってんのに聞こえへんのか」と原告に言い、そのように怒鳴ったり言ったりしたのは、「バックブザーが鳴っているのになんでどかんのや」という気持ちがあったからだと供述している。また、原告に対して、「くそがき」などという汚い言葉を投げかけたことも否定しない。これは、およそ一・五m手前で停止し、ぶつからずに退避してもらったことをバックモニターで確認していた運転者の述べるべき内容では全くなく、むしろ、被告Y1がバックブザーなどから気がついてよけてくれると思い込んでいたところ原告がよけてくれずにぶつかってしまい動揺していたことを如実に示すものであり、また、警察官作成の上記の現場の見分状況書の記載や被告Y1の勤務先会社である被告会社の担当者が原告の母親にある程度丁重な謝罪をしていることなどを総合すると、被告Y1は事故後、ぶつかったこと自体は概ね認め、少なくとも明確には否認していなかった事実が認められる。

以上によると、被告Y1の原告にぶつかっていないという本人尋問における供述は、信用できないばかりか、本件事故発生当時、原告にぶつかったことを認識していたにもかかわらず、あえて、記憶に反した供述をしている蓋然性が認められる。

そして、ぶつかった際の状況については、原告本人及び被告Y1の供述、甲二を総合すると、低速で後退し停止間際の被告車の後部車体にしゃがんでいた原告の左肩があたり、原告は転倒することなく立ち上がり、ガレージに犬を抱えて逃げることができ、被告車は衝突地点からほんの少し進行した地点で停止したというものであったと認められる。

二  被告Y1の過失及び過失相殺(争点二)について

被告Y1に本件事故に対して、後退する際の安全確認を怠った過失が認められることが明らかである。

本件現場は、通り抜けができない三・四mと幅員の狭い生活道であり(現場の見分状況書(甲二)市道二を「京都市道」と記載しているが、甲三や甲四によると、市道二を少し北上したところに道路中央に車両の通り抜けを妨げる金属製のポールが設置されており、外見上は典型的な「私道」であり、甲二の「市道」とする記載の正確性には疑問の余地もある。少なくとも、実情としては、付近住民の生活道であり、大型の車両が通り抜けることは想定されないような道路である。)、市道一を西から東に一度通り過ぎてから、切り返しをしながら後退し、後部を市道二に入れていたという被告車の動き及び、市道二の交差点から数mの地点に道路中央にしゃがんで犬を洗うなどしている人が二人いるのに、被告車の運転者が原告らに対して、声を掛けることも、クラクションを鳴らすこともしなかったという状況からすれば、原告が被告車は方向転換をするもので原告がしゃがんでいる地点まで後退してくることはないであろうと予想したことは合理的であり、退避しなかったことが原告の過失であるとは考えにくい。

ところで、後退四輪車とその後退先にいた歩行者との事故については、後退する際にはその後退先の安全確認が義務づけられていることから、主たる過失は四輪車側の安全確認義務違反であり、後退車両において後方の安全確認は困難である場合が多い反面、歩行者側においても、通常、低速で進行する後退車両の接近に気付き退避する余地があることを考慮して、五%程度の退避義務違反の過失を認めるのを基本とすべきであると解されるが、本件事故においては、原告側に有利な事情として、住宅街等(-五%)、原告は被告車の後退開始前から被告車の後方にいた(-一〇%)の二つが認められ、基本割合から原告に有利に合計一五%の修正をするのが相当であり、これに対して、被告側に有利な修正要素は、切り返しとの区別がつかないためバックブザーが鳴っていたことを明確な警告と評価すべきかどうかは若干の疑問があるが、これを警告として評価すれば、一〇%であり、これを含めて修正要素を総合したとしても、原告側過失は〇%となる。

以上によれば過失相殺を認めるのは相当ではない。

三  原告が被った損害の額(争点三)について

(1)  原告の本件事故による負傷と治療

原告は、被告車に接触された事故(以下「本件事故」という。)により、左肩打撲、頚椎捻挫、左足関節炎の傷害を受け、平成二〇年五月二三日から平成二一年四月二八日まで東山武田病院に通院し、治療を受け(通院実日数八四日)、同日症状固定と診断された。

被告らは、左肩打撲の傷害についても自覚症状以外の所見がないことから疑問とし、頚椎痛については事故後四一日経過後、左足関節痛については、事故後一八〇日経過後に初めて担当医師に訴えており、本件事故との因果関係が認められないとするが、原告は、事故時に先ずぶつかったところの左肩がすごく痛み、病院ではまずそれを話し、頚部と左足については当初から痛みがあったが左肩ほどではなかったので当初様子を見て、平成二〇年七月一日の診察の際に頚部痛と左足の痛みも医師に話したと供述し、これら全て本件事故により生じた症状であると供述し、乙三の三頁から七頁までによると、平成二〇年五月二三日の初診時及び同年六月三日の第二回目の診察時においては、原告は担当医師に左肩の痛みを訴え、頚部及び左足関節の痛みは訴えていないこと、初診時の問診で、左肩の痛みと共に左上肢のしびれを訴えていたこと、同年七月一日の第三回目の診察時に項部痛と左足痛を訴えており、原告の上記供述は裏付けられている。そうすると、原告において、医師に訴える必要があると思う程度の痛みが頚部と左足関節部に生じたのは、六月三日の診察後七月一日の診察の間ということになるが、七月一日としても、事故後四〇日程度であり、医師に対する訴えが確認されるまでの時間の経過のみから因果関係がないことを推認することはできない。確かに、他覚的所見は少ない(カルテ上は、ジャクソンテスト、スパーリングテストにつき±という記載が数回あることを確認できる程度である)が、担当医師が左肩痛、項頚部痛、左足関節部痛を本件事故による症状として理解し治療をしてきたことを誤りとする積極的かつ具体的な根拠は見いだせない。また、低速とはいえ、大型車両がしゃがんでいる不安定な姿勢の身体に接触したという事故状況からすると、原告の身体に加わった外力が軽微なものと断定することはできず、また、負傷部位も衝突状況と明らかな齟齬はない。したがって、事故状況から原告が主張する症状、受傷が本件事故により生じたことを否定することはできない。

以上により、原告の主張する傷病、治療について、本件事故によるものと認める。

なお、乙三によると、上肢のしびれは平成二〇年一〇月一〇日の診察において、なし(-)と記載され、その後、あきらかに左肩打撲関連の症状に関する記載は見当たらず(もっとも、肩甲部に関する記載がありこれが左肩打撲関連か、頚椎捻挫関連かは記録上判別できない)、その後は、主として項頚部痛、左足部痛に関する治療が続いている。

(2)  治療費 一〇万一五七〇円

東山武田病院分 八万七〇四〇円

甲一〇の二枚目ないし八枚目の明細書中文書料分(二枚目記載の療養給付請求書取扱料二〇〇〇円、六枚目及び八枚目各記載の休業給付請求書料各二〇〇〇円)を除く医療費の合計は九万六〇四〇円であり、被告が指摘するとおり、原告主張額五万八四三〇円と一致しない。主張額の方が三万七六一〇円少ない。甲七の自賠責保険金支払い案内をみると、合計二万八六一〇円の治療費が東山武田病院に自賠責保険から直接支払われており、この分が主張額から脱漏していると思われる。さらに九〇〇〇円の差額が残るが、これは不明である。原告主張金額に二万八六一〇円を加えると、八万七〇四〇円となる。自賠責保険金は既払金として全額控除するので、それとの均衡、衡平上、自賠責保険金により支払われた治療費を損害の方にも計上しないと衡平を失することも考慮して、原告主張金額より、二万八六一〇円多いが、八万七〇四〇円を治療費として認める。なお、各明細書の金額は下記のとおりである。

甲一〇の二枚目四八四〇円(療養給付請求書取扱料二〇〇〇円を除く)

同三枚目二二八〇円

同四枚目四五六〇円

同五枚目二〇五二〇円

同六枚目二五〇八〇円(休業給付請求書二〇〇〇円を除く。)

同七枚目二〇五二〇円

同八枚目一八二四〇円(休業給付請求書二〇〇〇円を除く。)

以上合計九万六〇四〇円

こまち薬局薬代 一万四五三〇円(甲一二)

8万7040円+1万4530円=10万1570円

(3)  文書料 一万五二五〇円

原告は一万五七〇円を主張し、その証拠は甲一一であるとするが、甲一一の各領収書記載内容は、いずれも文書料として税込五二五〇円とするのみでその文書の種類・内容を明らかにしない。甲一〇の一枚目から三枚目の金額及び領収書の発行日は下記のとおりである。

ア 甲一一の一枚目 五二五〇円(h二一年一〇月一九日)

イ 同二枚目 五二五〇円(h二一年四月一五日)

ウ 三枚目 五二五〇円(h二一年五月一一日)

上記の各領収書発行日の当日または近接した日(領収書発行日より前の)に発行された文書を本件書証から検索すると、甲五の自賠責保険後遺障害診断書が上記アの発行日の二日前の発行であり、上記アに対応するものと推定されるが、後遺障害に関する請求のない本件に関し自賠責後遺障害診断書料について必要性が認められず、損害として認められない。上記イ及びウの文書に相当する文書は本件証拠上見当たらず、特定できない。

ただし、乙四の診断書は、初診時のものであり、これについては必要性が認められる。そのほかにも、自賠責保険金が給付されていることから、その関係での診断書、明細書等の提出が必要であったことが推認される。

以上によると、原告主張額程度の出費が文書料として余儀なかったと認められる。

(4)  休業損害 一七万一一一三円

基礎収入については、関係証拠(甲六、一三から一五の四まで、原告本人)を総合すると、事故前において、少なくとも、甲六記載の年収一三〇万一一七九円に相当する稼働をしていた事実が認められる。

休業日数については、負傷内容及び治療経過に照らし、通院日数の四八日程度と認める。

(5)  通院慰謝料 一二九万六〇〇〇円

負傷内容及び通院治療経過に照らし、実質的には通院五か月程度の治療と評価するのが相当である。これに対応する標準的な通院慰謝料は、一〇八万円であると解される。また、本件においては、被告側の一方的な過失であるに止まらず、ほぼ故意とも言うべき事故状況であるにも関わらず、事故直後に原告は被告車運転者である被告Y1から乱暴かつ汚い言葉で罵倒を浴びせられるなどし、その後一時的に責任を一応認めるような対応が被告側からされたこともあったが、その後再び責任否定に転じ、本件訴訟においても、被告らは事故の存在自体を否定する主張を行い、被告Y1は当たっていないと断言する証言を行っている。これらの事情は、原告の本件事故による精神的苦痛を著しく増幅したと認められるから、この点を慰謝料額に反映するのが相当であり、標準的な慰謝料額に二割加算することとする。

108万円×1.2=129万6000円

(6)  小計

上記(2)から(5)までの合計 一五八万三九三三円

(7)  過失相殺

上記認定のとおり認めないのが相当である。

(8)  損害のてん補

自賠責保険金一二〇万円(争いがない)

158万3933円-120万円=38万3933円

(9)  弁護士費用 三万円

(10)  合計(認容すべき額)

四一万三九三三円

四  結論

よって、原告の請求は、被告らに対し、連帯して、四一万三九三三円及びこれに対する本件事故のあった日である平成二〇年五月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、理由があり、その余は理由がない。

以上の次第で、主文のとおり判決する。

(裁判官 栁本つとむ)

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