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京都地方裁判所 平成22年(ワ)4152号 判決 2011年12月16日

原告

被告

主文

一  被告は、原告に対し、二三九万七五〇円及びこれに対する平成一九年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、一五〇〇万円及びこれに対する平成一九年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  仮執行宣言

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告が後記交通事故により原告に生じた人身損害について、被告に対し民法七〇九条に基づく損害賠償金及びこれに対する事故発生日である平成一九年四月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

二  前提となる事実

次の事実は、当事者間に争いがなく、もしくは、後記各証拠または弁論の全趣旨により容易に認められる。

(1)  本件事故(争いがない事実及び甲一、三)

ア 発生日時

平成一九年四月二八日午前一〇時五〇分ころ

イ 発生場所

京都市山科区小山鎮守町一九番地七先府道大津淀線(以下「府道」という。)道路上(以下「本件事故現場」という。)

ウ 事故現場付近の道路状況、事故当事者及び事故態様等

本件事故発生現場付近の道路状況は、別紙交通事故現場見取図(甲一の一部)のとおりである。

本件事故発生地点は、概ね南北に通じる市道小山大宅線(以下「市道」という。)と概ね東西に通じる府道との交差点(以下「本件交差点」という。)の府道の東側入口の手前の道路上である。府道は歩車道の区別がなく、市道には歩車道の区別があり、両側に歩道が設置されている。

被告は普通貨物自動車(ワンボックスタイプのワゴン車、以下「被告車」という。)を運転し、府道を西進して本件交差点に差し掛かり、その東側入口手前に、対面信号が赤色表示であったため信号待ちのため停車し、対面信号が青色表示に変わったので発進し、その直後に、原告(平成一二年○月○日生、当時七歳)を左側車輪で乗り上げ、轢過した。(以下「本件事故」という。)

(2)  原告の受傷及び治療等(甲四から六の五六まで)

ア 症状及び医療機関

原告は、本件事故により、右大腿骨骨幹部骨折等の傷害を負い、洛和会音羽病院(以下「音羽病院」という。)及び元津音羽前田診療所(以下「前田診療所」という。)において、次のとおりの治療を受けた。

イ 入院治療

(ア) 第一回入院

平成一九年四月二八日から同年六月一四日まで

音羽病院整形入院(四八日間)

上記入院中、同年五月二日に創外固定術を行い、術後リハビリ訓練を経て、退院に至った。

(イ) 第二回入院

平成一九年七月一九日から同月二三日まで

音羽病院整形入院(五日間)

同月二〇日抜釘を行った。

(ウ) 第三回入院

平成二〇年七月一八日から同月二三日まで

音羽病院形成外科入院(六日間)

右大腿前面を中心に陥凹性の瘢痕拘縮と左中指環指部に瘢痕拘縮が存在し、同月一九日、全身麻酔下に瘢痕拘縮形成術(右大腿、左手部)を施行した。

ウ 通院治療(通院実日数合計三七日間)

(ア) 前田診療所通院(二六日間)

平成一九年六月一八日(整形外科、甲六の五)

同月二五日(整形外科、甲六の七)

同年七月二日(整形外科、甲六の八)

同月九日(整形外科、甲六の九)

同月二六日(リハビリ、甲六の一一)

同月二七日(リハビリ、甲六の一二)

同月二八日(整形外科、甲六の一三)

同月三〇日(整形外科、甲六の一四)

同月三一日(リハビリ、甲六の一五)

同年八月一日(リハビリ、甲六の一六)

同月二日(リハビリ、甲六の一七)

同月三日(リハビリ、甲六の一八)

同月四日(リハビリ、甲六の一九)

同月六日(リハビリ、甲六の二〇)

同月八日(リハビリ、甲六の二一)

同月九日(リハビリ、甲六の二二)

同月一一日(リハビリ、甲六の二三)

同月一六日(リハビリ、甲六の二四)

同月一七日(リハビリ、甲六の二五)

同月一八日(リハビリ、甲六の二六)

同月二二日(リハビリ、甲六の二七)

同月二四日(リハビリ、甲六の二八)

同月二五日(リハビリ、甲六の二九)

同月二七日(リハビリ、甲六の三〇)

同年九月一〇日(整形外科、甲六の三一)

平成二〇年三月三一日(整形外科、甲六の三六)

(イ) 音羽病院通院(一一日間)

平成二〇年三月二八日(皮膚科、甲六の三四)

同年五月一二日(形成外科、甲六の三七)

同年七月五日(形成外科、皮膚科、甲六の三九から四一まで)

同月二八日(形成外科、甲六の四四)

同年八月一日(形成外科、甲六の四七)

同月八日(形成外科、甲六の四八)

同月一五日(形成外科、甲六の五〇)

同月二二日(形成外科、甲六の五一)

同月二九日(形成外科、甲六の五二)

同年九月一二日(皮膚科、形成外科、甲六の五三、五四)

同年一〇月二四日(形成外科、甲六の五六)

同日、経過良好にて治療終了となった(甲五)。

なお、平成一九年六月二一日の音羽病院救急外来(甲六の六)、平成二〇年五月二四日の音羽病院救急外科の外来診療(甲六の三八)、平成一九年一一月一〇日の音羽病院救急外科での外来診療(甲六の五七)、平成二〇年七月二九日音羽病院救急外科(甲六の四六)、及び平成二〇年一二月二六日の音羽病院皮膚科の外来診療(甲六の五八)については、いずれも、本件事故による傷病の治療と認めるに足りる証拠はない。また、平成一九年一〇月二日(甲六の三二)、同月一一日(甲六の三三)は、診断書等の発行のみで診療ではない。

三  争点及び争点に関する当事者の主張の概要

本件の争点は、(1)被告の過失責任及び過失相殺(争点一)、(2)原告が被った損害の額(争点二)であり、争点に関する当事者の主張の概要は以下のとおりである。

(1)  被告の過失責任及び過失相殺(争点一)について

(原告)

ア 事故発生状況

事故発生状況は、被告車は停止線を越えて止まっており、原告が被告車の前を横切って、横断歩道を斜めに渡って府道を横断しようとして、被告車の左前方に出ようとした矢先に被告の運転車両が発進した。前方を含め周囲を全く確認せずに被告が発進させた被告車により、原告は、被告車の左前輪から轢かれた。

事故直後、被告は原告の母らに「二回轢いた」と発言したこと、原告が被告車の左前輪と左後輪との間に滑り込むというのは極めて不自然であることなどから、原告は被告車の前方にいて、発進した被告車に轢かれたことは明らかである。

イ 被告の過失

被告には、本件事故に関して、青信号で発進する際、十分周囲の確認をして進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、原告の存在を見落として発進し、漫然と進行して原告を轢いた過失がある。

(被告)

ア 事故発生状況

本件事故の発生状況は、概ね甲一記載の被告の指示説明のとおりであり、被告は、停止線手前で信号待ち停止し、対面信号が青色表示に変わった後、発進したが、その間、原告の姿は確認していない。

そして、被告車の左後輪が何かに乗り上げたため停止したところ、原告が転倒していた。

原告が被告車の前方で転倒していた事実はなく、被告は、原告を被告車の左後輪でのみ乗り上げており、左前輪では乗り上げていない。したがって、被告車が発進したころ、被告車の左前輪と左後輪の間に、原告の足が入り込み、被告車の左後輪で轢かれたものと推認される。

被告車の左後輪には擦過痕が残っていたが、左前輪に擦過痕は存在していない。また、甲一によると、被告車のホイールベースは、二・七mであり、被告車が原告を二回轢過するには、二・七m以上進行しなければならないところ、被告は左にタイヤが何かを乗り上げて異変に気付いた後、一・九m進行して停止しているのであり、したがって、被告車が原告を二回轢過した事実はない。

イ 被告の過失

被告の過失は否認する。

上記アの事故発生状況によると、発進させた後、原告の足が一瞬の間に被告車の前輪と後輪との間に入り込むということにつき、被告に予見可能性はなく、回避可能性や回避義務もない。よって、被告には、本件事故につき過失はない。

(2)  原告の被った損害の額(争点二)について

(原告)

ア 傷害慰謝料 二五〇万円

原告は、本件事故により音羽病院に長期間入通院して治療を受けた。

なお、原告の母親は、被害者の入通院のため仕事を休まなければならなかったし、付添看護も必要であり、高額な治療費も負担しなければならなかったことも勘案されるべきである。

イ 後遺障害慰謝料 三〇〇万円

原告には、右下肢に手術の跡等による醜状痕が残った。まだ小学生である原告にとり、精神的苦痛は大きい。後遺障害等級上は一二級に相当する。

ウ 逸失利益 八二四万九九〇六円

労働能力喪失率一四%、基礎収入を年収五五四万七二〇〇円(平成一九年度の賃金センサス男子労働者平均賃金)、ライプニッツ係数一〇・六二三で算出するのが相当で、上記金額となる。

エ 弁護士費用 一三〇万円

オ 損害合計及び請求額

上記アからエまでの合計は一五〇四万九九〇六円であり、その内金として、一五〇〇万円を請求する。

(被告ら)

ア 傷害慰謝料

金額の相当性を争う。

原告の母親が仕事を休んだ点、付添看護及び高額な治療費については不知。高額な出費は治療費で評価されるべきである。

入通院慰謝料額は多くとも一七五万円である。

イ 後遺障害慰謝料

否認する。醜状痕は下肢に残存するため自賠責保険後遺障害等級上の「外貌」に該当せず、また、手のひら大以上の瘢痕ではない。

ウ 逸失利益

否認する。後遺障害はなく、労働能力喪失は認められない。

エ 弁護士費用

金額の相当性を争う。

第三当裁判所の判断

一  被告の過失責任及び過失相殺(争点一)について

(1)  事故発生状況

関係証拠(甲一、八、九、乙一、原告法定代理人親権者母A本人(以下「原告母A」という。)、被告本人)によれば、次のとおりの事故発生状況が認められる。

ア 原告が被告車に轢かれた地点について

関係証拠(甲五、原告母A)によると、原告の本件事故による負傷は右大腿骨骨折及び左手指の外傷であり、そのうち、直ちに相当量の出血をしたのは、左手指の外傷のみである。そして、甲一の交通事故現場見取図(以下「見取図」という。)には、本件交差点の東側入口手前の車両通行部分の南側(被告車の進行方向に向かって左側)で、停止線のある程度西側(被告車の進行方向では前方)に、楕円状に広がりのある区域に点を付して「血痕」と記載されている。そして、見取図には被告による指示説明として、左後輪が乗り上げた地点がfile_5.jpg、原告が転倒した地点がfile_6.jpgとして、ほぼ同じ地点に記載されているが、これらは、上記停止点のすぐ西側であって、上記の血痕が記載されている地点よりやや東側にずれている。検討するに、被告は、左後輪が何かに乗り上げたので停止し、降車して見ると、子どもが倒れていたと供述しているのであり、その供述を前提とすると、子どもが倒れていた地点は、後輪の後付近であることは間違いがないはずである。そうすると、被告が原告に後輪が乗り上げ、原告が倒れていた地点とする見取図のfile_7.jpg、file_8.jpgの地点よりやや西側に当たる地点である血痕が楕円状の点により示されている地点は、被告が被告車を停止した時点で被告車の車体の左側の下になっていた地点であると考えられる。原告の本件事故による負傷状況及び出血状況によると、路上に血痕が残された地点は、転倒轢過された地点であるか、その直後に移動されて横たわるなどした地点であると考えられるが、後輪の後に倒れている原告をその前方の被告車の車体の下に移動するということは考えられず、仮に移動するとすれば、車両通行部分から路側帯部分に移動させるはずであり、これらの検討からすると、血痕が残されていた地点がほぼ原告が転倒・轢過された地点であると認められる。

そして、甲一における被告の指示説明の内容及び通常の実況見分の進行が客観的な事故の痕跡を確認した後、それを踏まえて、事故当事者の指示説明を受け、それを確認するという手順で行われることを考慮すると、被告は、本件事故直後に、被告車の左後輪の後付近に、左手から血を流して倒れている原告を見て、さらに、実況見分の際にその血痕のある地点を見ていながら、あえて、それよりやや東側の地点を後輪が乗り上げ、原告が倒れていた地点として指示説明した上、本件における本人尋問でもこの甲一に記載されている自分の指示説明が事故発生状況であると供述した(被告の本人調書一四項)という事実が認められる。後輪が乗り上げた地点及び原告が倒れていた地点に関するこれらの被告の供述は、甲一の血痕についての記載などの証拠によれば、事実ではなく、また、血痕があった地点と異なる地点を原告の倒れていた地点であると述べるということを負傷して出血しながら倒れていた原告を現に直ちに見ていた被告が行うのは、明らかに不自然であり、何らかの意図に基づく虚偽供述である可能性が非常に高いというべきである。

なお、原告は、被告車が発進前に、その車体全体が停止線を越えて停車していて、原告は横断歩道のすぐ東側から斜めに府道を横断しようとしたと主張するが、上記のとおり血痕が残っていた地点が原告の轢過された地点と認められ、甲一によると、それは、停止線のすぐ西側付近であり、横断歩道よりはやや東側に離れたところであると認められるので、原告の上記主張中の被告車の停止していた地点及び原告が横断しようとして被告車に轢過された地点についての主張は採用できない。

イ 本件事故に至るまでの原告の動向などについて

関係証拠(甲一、八、九、乙一、原告母A本人、被告本人)によると、以下の事実が認められる。

本件事故前に、原告は、当時小学四年生の原告の姉と共に犬に散歩をさせるために外出した。原告の姉が犬を抱いて先に家を出て、原告が後から付いていった。被告が本件交差点の東側で信号待ち停止していたとき、その前方の交差点手前に設置された横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)を北側に渡りきった地点の歩道上(見取図の甲地点)に女の子(原告の姉)が犬を抱いて立っているのを被告は見た。原告の姉は、原告より先に本件横断歩道を渡って、そこで、原告を待っているところだった。原告は、府道の南側路側帯を歩き、または走って、停車している被告車の南側を通り過ぎ、被告車の左前方辺りから斜めに原告の姉がいるところに向かって府道を横断しようとした。その際に、原告は路側帯付近にある側溝の蓋につまづいて、府道の車両通行部分、被告車の前方左側に転んだ。その直後に、被告車の対面信号が青色表示に変わり、被告は、原告が前方に倒れていることに気付かないまま、発進し、原告を左側の車輪で轢き、乗り上げた感じがあったことから急停車するとともに降車し、負傷して倒れている原告を自車の左後方に発見した。被告車が原告を左前後輪で二回轢いたかどうかについては、原告の右大腿骨骨折の原因となった轢過は左後輪によるものと認められるが、前輪が通過するときと後輪が通過するときの間に原告が体を動かしている可能性もあり、また、原告に生じた負傷の状況から二回の轢過が確実にあったと推認することもできず、左前輪でも原告を轢過したかどうかは証拠上不明であるというほかない。

原告が、府道を横断しようとしたときの横断歩道の信号表示については、原告は転んだ際に動けないほどの怪我をした形跡はないのに、被告車の前から退避する間もなく轢かれていることから、被告車の対面信号が青色表示に変わる直前であった蓋然性が高く、したがって、歩行者用信号は既に赤色表示になった直後であったと推認される。

被告は、本人尋問において、横断歩道右側にいた原告の姉を見て、「犬を抱いていて、ちょっと怖いかなと注意はしてました」と述べており、原告の姉が府道を右から左へ不意に横断しようとするなどの可能性を感じていたことを述べているが、このとき、原告の姉は、原告が安全に府道を横断できるかどうかを心配しながら見ていたと推認される。

ウ 発進する前の被告車の停車位置について

上記ア及びイの認定によると、原告が府道を横断しようとした地点は、被告車のすぐ前付近であり、その際に、路側帯の側溝の蓋につまづいて転び、被告車に轢かれた地点は、見取図に「血痕」と記載されて示されている地点であって、これは、停止線よりやや西より(見取図の関係距離から推定すると停止線の西側二m程度と考えられる。)であり、したがって、被告車は、停止線を若干越えて停止していたと推認される。停止線から交差点入口の横断歩道までやや距離があるこの交差点の形状からすると、停止線をいくらか越えて信号待ち停止することは、ありがちなことと思われ、また、それが実質的な危険を生じさせる悪質な違反とまでは考えにくい。

(2)  被告の過失について

上記(1)の事故発生状況からすると、被告に、原告が自車の前方を横断しようとして転倒していたのに、これを発見できずに、自車を発進させたこととなり、本件交差点が住宅街の中にあること(甲九)及び被告は信号待ち停止していたときに、原告を待っている原告の姉の姿を見ていることから、周囲に府道を横断しようとするものがいないか十分注意すべき状況があったと認められ、自車の左前方から府道を横断しようとして自車の前方左側に転倒した原告を死角などにより、発見することができなかったと認めるに足りる証拠はなく、発進に当たっての前方及び周囲の安全確認義務違反の過失が認められる。

(3)  過失相殺

上記(1)の認定事実によると、原告にも、横断歩道の歩行者用信号が赤色表示となった後に横断しようとした過失があるほか、横断歩道からずれた場所で横断したこと、被告車の直前を横断しようとしたことなどの危険な横断態様が認められ、過失相殺を行うべきである。

基本的過失割合を決めるに当たっては、歩行者用信号がある交差点において、歩行者が赤信号で横断を開始し、自動車が青で進入した類型となると一応考えられるが、原告が横断を開始した時点での被告車の対面信号は赤色表示であり、本件において、予見の容易さ及び結果回避との関係で、前方及び周囲の安全確認義務がより問われるのは、むしろ、発進時ではなく、原告が横断を開始し、被告車の前で転倒した時点であるので、歩行者が赤色信号で横断開始、自動車が赤色信号で進入の類型もある程度参照すべきである。前車の類型の基本的過失割合は、歩行者七:自動車三であり、後者の基本的過失割合は、歩行者二:自動車八である。本件においては、歩行者六:自動車四を基本的な過失割合と解するのが相当である。

修正要素として認められるのは、原告に有利なものが、住宅街(一〇%)、児童(一〇%)、歩車道の区別なし(一〇%)の合計三〇%であり、被告に有利なものが、直前横断(五%)、横断歩道から外れたところでの横断(一〇%)の合計一五%である。

修正を施すと、原告四五:被告五五の過失割合で過失相殺を認めるのが相当である。

二  原告が被った損害の額(争点二)について

(1)  傷害慰謝料 二五〇万円

前記前提となる事実によれば、入院期間は、三回にわたり合計五九日間であり、通院治療期間は、約一六か月間(本件事故発生日であり一度目の入院開始日である平成一九年四月二八日から治療終了とされた平成二〇年一〇月二四日までの間が約一八か月であり、ここから入院期間の約二か月を差し引くと通院治療期間は約一六か月となる。なお、実通院日数はやや少ないが、傷病の内容から、実通院日数による通院治療期間の修正は必要ないと考えられる。)に及んでいる。なお、実通院日数は、合計三七日である。

治療内容は、右大腿骨骨折についての整復、骨癒合が主であり、その他に、左手指の外傷や右大腿骨骨折の治療により生じた瘢痕等の形成が行われた。右大腿骨骨折については、創外固定術という骨折部分は右大腿骨近位端付近であるが、同骨遠位端付近に孔を空けて棒状の器具を通して固定した状態を保つ施術がされ、その状態が第一回目の入院期間中ほぼ続いていた(甲二、四、五、原告母A本人)のであり、骨折部位及び治療の状況に照らすと、治療中に原告が受けた精神的肉体的苦痛は相当に大きかったものと考えられ、傷害慰謝料額算定に当たっては、入通院期間に応じた標準的な金額と重傷事例のための標準的な金額を参照し、その中間程度とするのが相当であり、入院約二か月、通院約一四か月で通常基準及び重傷基準の中間額は二五六万円程度である。これに、被告は、原告を轢過した地点や被告車の停止位置について虚偽の事実主張を行い、それを前提として、被告車の前輪と後輪の間に原告の足が入り込んだというおよそありそうにない事実の主張までして、過失責任を完全に否定する態度を続けたことも、原告の精神的苦痛を増幅させた事情として考慮すべきであり、これを加味して、上記金額に一割程度加算し、二八〇万円程度とするのが相当と考えられる。諸般の事情を考慮して、原告の主張金額の範囲内で二五〇万円を認めることとする。

なお、母親の入通院付添については、別途、近親者付添看護費の項目を設けて別途考慮するのが相当であるから、傷害慰謝料算定に当たっては考慮しない。また、高額な治療費については、傷害慰謝料額の算定に当たっては考慮すべき事項とは考えられない。

(2)  後遺障害慰謝料 一〇〇万円

甲二によると、原告の右下肢には、大腿部の上部に三か所の凹みを伴う手術痕と縫合痕、大腿部の下部、膝のすぐ上に三か所の凹みを伴う手術痕が残っている。これら瘢痕は、いずれも、かなり目立つ一定程度の醜状を呈するものである。甲二の写真は撮影年月日が、「二〇〇九・〇八・二四」とクレジットされており、上記前提となる事実記載の治療経過との関係で、第二回目の入院における形成術を終えてから約一年程度経過した時期のものであり、それ以降だんだんと薄らぐことはあっても、基本的にはこの程度の瘢痕が将来的に長期にわたり残存するものと推認される。

これらの醜状瘢痕は、下肢にあることから、自賠責後遺障害等級上の「外貌」には該当しないものの、本人に軽視できない精神的な苦痛を与え続ける醜状痕であると認められる。よって、諸般の事情を考慮し、外貌醜状(自賠責保険後遺障害等級上性別を問わず一二級)の標準的な慰謝料額の少なくとも三分の一程度の後遺障害慰謝料を認めるのが相当であり、その金額を一〇〇万円とする。

(3)  逸失利益 〇円

原告に、本件事故により、労働能力の一定程度喪失をもたらす後遺障害が生じたとは証拠上認められない。

(4)  近親者入通院付添看護費 四六万五〇〇〇円

原告の入通院時の年齢(七歳から八歳にかけて)、負傷の内容及び治療状況などによると、原告母Aが入院期間中については、毎日付き添ったとする証言は信用することができ、また、通院についても同人が全て付き添ったものと推認される。

入院日数は、上記のとおり、合計五九日であり、通院日数は、合計三七日である。

近親者付添看護費を入院については、一日六〇〇〇円、通院については一日三〇〇〇円とするのが相当である。

6000円×59日+3000円×37日=46万5000円

(5)  小計

上記(1)から(4)までの小計は、三九六万五〇〇〇円である。

(6)  過失相殺

396万5000円×0.55=218万750円

(7)  弁護士費用 二一万円

(8)  合計 二三九万七五〇円

三  結論

よって、原告の請求は、被告に対し、二三九万七五〇円及びこれに対する本件事故のあった日である平成一九年四月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、理由があり、その余は理由がない。

以上の次第で、主文のとおり判決する。

(裁判官 栁本つとむ)

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