京都地方裁判所 平成22年(ワ)4169号 判決 2014年10月31日
原告
X
被告
Y
主文
一 被告は、原告に対し、二七三九万八九七二円及びこれに対する平成一七年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇〇分し、その一六を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、一億七〇四〇万八九一二円及びこれに対する平成一七年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、歩道上を走行していた原告運転に係る自転車と、自宅車両出入口から道路に進入した被告運転に係る普通乗用自動車が衝突する事故(後記「本件事故」)により原告が被った損害につき、原告が、被告に対し、その一部請求として、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき損害賠償を求めるとともに、これに対する本件事故日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 前提事実(以下の事実は、当事者間に争いがないか、あるいは末尾掲記の証拠等により容易に認定できる。)
(1) 本件事故
発生日時 平成一七年六月二七日 午前九時ころ
発生場所 京都市<以下省略>
関係車両 原告運転にかかる自転車(以下「原告自転車」という。)
被告運転にかかる普通乗用自動車(ナンバー<省略>、以下「被告車」という。)
態様 歩道上を東から西へ走行していた原告自転車と、自宅車両出入口より北から南に向い道路に進入してきた被告車が衝突した。
(2) 責任原因
被告には、路外施設である自宅車両出入口から道路に進入するに際し、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害しないよう(道交法二五条の二)、前方を注視し、道路を進行する歩行者または車両等の動静を十分に確認すべきでありながら、この注意義務を怠り、前方の安全確認不十分のまま被告車を進行させた過失があり、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、原告が本件事故によって被った損害を賠償する責任がある。
(3) 原告の診療経過等
ア 原告は、昭和六一年○月○日生まれの男性で、本件事故当時一九歳であり、a大学の一年に在学していた(甲一)。
イ 原告は、本件事故により受傷し、医療法人b病院(以下「b病院」という。)に搬送され、頭部外傷、頚椎・腰椎捻挫、両肩・足関節・右上・前腕打撲、右膝骨挫傷(疑)と診断され、平成一八年二月一五日の右膝滑膜切除術と同年六月二九日の再手術を含む、下記の入通院治療を受けた(甲三)。
入院 平成一七年六月二七日から同年七月一六日(二〇日間)
平成一八年二月一四日から同年三月二四日(三九日間)
平成一八年六月二八日から同年八月五日(三九日間)
通院 平成一七年八月九日から平成一八年二月一三日(実通院日数六三日)
平成一八年四月五日から同年六月二二日(実通院日数四二日)
平成一八年八月一七日から平成一九年一二月一五日(実通院日数一六五日)
ウ 原告は、平成一七年九月三〇日、両眼の違和感と視力低下を訴えてc大学医学部附属病院(以下「c大病院」という。)眼科を受診し、下記の通院治療を受けた(甲四の一)。
通院 平成一七年九月三〇日から平成一九年一〇月三一日(実日数一〇日)
エ 原告は、平成一八年六月六日、「五月になってから時々フーとなる。」と訴え、c大病院脳神経外科を受診し、下記の通院治療を受けた(甲四の二)。
通院 平成一八年六月六日から同年一二月七日(実日数四日)
オ 原告は、①頚・腰髄神経根損傷、頭部外傷、右膝滑膜炎、右足関節靱帯損傷につき平成一九年一一月三〇日に症状固定、②視力障害、複視(右外転神経不全麻痺)につき同年一〇月三一日に症状固定、③外傷性てんかんにつき同年一二月一五日に症状固定との診断を受けた(甲六ないし八)。
カ 原告は、平成二三年三月に大学院を卒業し、その後、国会議員の秘書として東京の事務所にて勤務している。
(4) 後遺障害等級認定
ア 自賠責保険の事前認定
損害保険料率算出機構京都自賠責保険調査事務所長は、本件事故による原告の後遺障害について、①頚椎捻挫後の頚痛、右上肢の痺れ、めまい、嘔気等につき、局部に神経症状を残すものとして自賠等級別表第二第一四級九号(以下「一四級」のように等級のみで示す。)に該当し、②腰椎捻挫後の腰痛、右下肢の脱力等につき、局部に神経症状を残すものとして一四級に該当するが、③両肩関節、右肘関節、右膝関節、右足関節、手関節及び股関節の可動域制限については、いずれも後遺障害に該当せず、④外傷性てんかんについては、後遺障害に該当せず、⑤視力障害・複視については、後遺障害に該当せず、⑥右膝部の醜状痕については、後遺障害に該当しないとして、原告の後遺障害等級を併合一四級と判断し、この判断は、異議申立においても変更されなかった(甲九、乙三六)。
イ 共済による後遺障害認定
全国大学生活協同組合連合会共済センターは、本件事故による原告の後遺障害について、①頚椎部、腰椎部の運動機能障害につき、脊柱に著しい運動機能障害を残すものとして六級に該当し、②肩関節、股関節及び膝関節の機能障害はそれぞれ一二級に該当し、③頭部外傷、外傷性てんかんに起因する神経系統の機能障害につき、神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し軽易な労務以外の労務に服することができないものとして七級に該当し、④複視につき一三級、視力障害につき九級に該当するが、⑤右膝の醜状障害は、下肢の露出面に手の平大の醜いあとを残すものにあたらず、対象外であるとして、原告の後遺障害等級を併合四級と判断した(甲一〇、一一)。
二 争点
(1) 過失相殺の有無・程度
(2) 原告の後遺障害の内容・程度
(3) 原告の損害
三 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(過失相殺の有無・程度)について
(被告の主張)
被告車が、時速二ないし三キロメートルという極めて低速で徐行進行し、歩道上で停止したところ、同車の左前輪部(側面)に原告自転車が衝突した。これにより、相当の強度があるボンネット端部が凹損し、原告は被告車のボンネットに乗り上げた。
このことから、原告は暴走ともいえる速度で歩道上を走行していたことがわかる。原告は、事故後、被告に対し、九時からのゼミに遅れると思い急いでいた、普段かけていた眼鏡をかけていなかったとも供述していた。
歩道上の自転車進行が許されているとしても、原告が適正な速度で前方を注視して進行していれば、本件事故は避けられていたはずである。
これらの事情からすれば、本件事故発生については、原告の過失も相当大きく、相当程度の過失相殺がされるべきである。
(原告の主張)
本件事故現場付近では、建物の外壁の工事や電気工事が行われており、歩道上に囲いが設置されるなどされており、歩道上には歩行者も複数いた。原告は、本件事故現場東の歩道北側にも、店舗駐車場からの車両出入り口があることを知っており、注意しながら進行していたし、書籍をたくさん入れた重いリュックサックを背負っていた。このように、原告が自転車で高速を出せる状態ではなかった。
また、自転車は、ハンドル部など相当堅い部分があるから、衝突箇所によっては、自転車がそれほど高速度でなくても、ボンネットが凹損することはあり得るところであり、仮に原告が高速で走行し、被告車に衝突していれば、原告の体はボンネットに乗り上げるのではなく、もっと前方に放り出されていたはずであるし、原告自転車自体も遠方に飛ばされるはずである。
なお、原告は、本件事故当日、ゼミをとっておらず、九時からの授業もなく、急ぐ理由はなかったし、眼鏡も読書をするときにかける程度であって、自転車に乗るのに普段から眼鏡は不要であった。
このように、本件事故の原因は、被告が前方の安全確認不十分のまま進行したことにある。衝突地点が、車道ではなく歩道上であったことも考慮すれば、原告には過失がないか、あったとしても極めて小さいというべきである。
(2) 争点(2)(原告の後遺障害の内容・程度)について
(原告の主張)
ア 原告は、本件事故により、①右肩関節、右股関節、右膝関節、右足関節、頚部、腰部の各可動域制限、②右下肢痙攣、痺れ、腰痛、疲労感、右下肢脱力、周囲径(大腿、下腿)が左と比べて右の方が小さい、右下肢知覚障害(触覚、痛覚とも消失)、筋力低下、③右上下肢の運動機能障害(右不全麻痺)、④頭痛、嘔吐、めまい、嘔気、頚痛、右上肢の痺れ、疲労感、右上肢の脱力、右上肢知覚障害・筋力低下、⑤複視、外転神経麻痺による視力障害、右同名半盲、視力低下、⑥外傷性てんかん、⑦高次脳機能障害(具体的には、計算能力や記銘力の低下、性格変化、半側空間無視、身体失認)の後遺障害を負った。
これらは、頭部外傷によるびまん性軸索損傷と、整形外科的要因(椎間板の突出等、腰髄神経根損傷、頚髄神経根損傷、疼痛による拘縮)が競合して発生し、重篤化したものである。
イ 原告は、右不全麻痺による安定した歩行が困難な状態にある上、身体失認により身体的移動に困難、危険が伴っている。加えて、右同名半盲による右側の視野制限や外転神経麻痺、半側空間無視が加わり、車椅子による歩行補助も不可能な状態にある。
さらに、高次脳機能障害による記銘力、計算力の低下や物忘れ、計算間違いといった問題が発生する機会が多いことや作業手順の悪さから来る稼働能率の著しい低下も認められる。
原告は現在議員秘書を務めているが、現状の就労を維持するためには、通勤時間帯の配慮、職場近くでの居住、移動の際の送迎といった職場の協力のほか、原告の障害に対する周囲の十分な理解が必要不可欠な状態にあり、原告の労働能力はほぼ喪失しており、職業選択は不可能な状態にあって、全般的に労務に服することが困難な状況にある。
このような原告の後遣障害は、少なくとも併合四級に相当し、その労働能力喪失率は九二%である。
(被告の主張)
ア ①の右肩関節、右股関節、右膝関節、右足関節、頚部、腰部の各可動域制限については、レントゲン検査の結果、骨折や脱臼などの骨傷所見は認められないこと、腰椎MRI検査や頚椎MRI検査で、外傷性椎間板ヘルニアや骨挫傷などの傷害所見は認められないこと、右膝MRI検査でも、明らかな半月板損傷や靭帯損傷の所見は認められず、顕著な関節血腫ないし水腫もないので、関節内に重度の外傷が生じているとは考えがたいことから、本件事故との間の因果関係を認めがたい。右膝痛については、先天的な円板状半月の傾向があり、それが疼痛に影響している可能性がある。
②ないし④の頚椎捻挫又は腰椎捻挫後の症状については、他覚的画像所見や神経学的異常所見に乏しく、他覚的に神経系統の障害が証明されたとは捉えがたいものの、症状推移等から将来においても回復が困難と認められ、一四級に該当する。
⑤の複視、外転神経麻痺による視力障害、右同名半盲、視力低下については、他覚的に視力低下の原因となるような異常は見られず、新たな変化も生じていないのに、それまで良好であった視力が事故後二年以上を経てから低下していること、平成一八年六月二〇日ころから外転神経不全麻痺を考慮した外転障害としての経過観察がなされているものの、同日以前に複視が認められていないことからして、いずれも本件事故との間の相当因果関係を認めがたい。
⑥の外傷性てんかんについては、てんかんも疑われる症状の訴えがあったのみで、大発作などが確認されているわけではない。また、脳波検査の結果でもてんかんを疑う所見はみられなかった。
⑦の高次脳機能障害(具体的には、計算能力や記銘力の低下、性格変化、半側空間無視、身体失認)については、MRI、CT、脳波に異常がない上、原告は本件事故後の少なからずの期間の大学生活を活発に過ごしていたこと、SPECT検査の結果をもって脳の器質的損傷があるとはいえないことから、高次脳機能障害とは診断できない。
原告の現在の症状のほとんど(運動機能障害、感覚障害等)は整形外科的な問題と考えられるが、整形外科的に原告の症状は重篤なものではない。また、びまん性軸索損傷によるのであれば、本件事故後には数日以上にわたる昏睡状態と運動障害が継続し、慢性期の頭部CTスキャンやMRIで相当程度の脳萎縮が認められてしかるべきところ、原告にはこれらが認められず、びまん性軸索損傷も否定的である。
原告の精神科的症状については、器質性精神障害である高次脳機能障害ではない以上、非器質性精神障害としての神経症圏(重度ストレス反応及び適応障害、特定不能な不安障害、解離性障害、あるいは疼痛性障害疑い)の病態と解される。
イ 以上によれば、原告の後遺障害は、自賠責保険の事前認定どおり併合一四級と認めるのが妥当である。
また、労働能力喪失率及び喪失期間に関しては、一四級認定の裏付けとなる客観的所見が存在しない以上、永続的に症状が回復不能と判断すべき理由もないので、限定するのが相当である。
ウ 仮に、これよりも重度の後遺障害を認定するとなれば、大幅な素因減額がなされる必要がある。
(3) 争点(3)(原告の損害)について
(原告の主張)
ア 治療関係費 一六〇万一六七五円
(内訳) b病院分 一四三万八四六〇円
c大病院眼科分 二万三八五五円
c大病院脳神経外科分 三六二〇円
d薬局分 一三万五七四〇円
イ 通院交通費等
(ア) 通院交通費 八九万三一六〇円
原告は、本件事故によって被った傷害により、歩行が著しく不自由な状態が継続し、通院治療を受けるにあたっては、タクシーを利用せざるを得なかった。
(内訳) b病院分 八七万〇一六〇円
c大病院分 二万三〇〇〇円
(イ) 通学交通費 二二八万一六〇〇円
原告が一年間に通学を要する実日数は、前期(四月七日から八月四日まで、120日-土日2日×17週-国民の休日5日)八一日と、後期(九月二七日から翌三月三一日まで、186日-土日2日×25週-国民の休日7日-冬期休暇期間11日)一一八日の合計一九九日である。
原告が通学できたのは、b病院から退院した翌日である平成一七年七月一七日以降であり、平成一八年は二度目の入院期間中(同年六月二八日から同年八月四日まで)は授業に出席できていないため、原告が本件事故後に通学に要した日数は、平成一七年度につき一三五日(一七日+一一八日)、平成一八年度につき一七一日(五三日+一一八日)、平成一九年度につき一九九日、平成二〇年度につき一九九日の合計七〇四日である。
他方、原告が卒業に要する単位は一二四単位であったところ、一単位あたり一五講義要するとして、総じて一八六〇講義に出席が必要となり、このうち一日あたりの講義数は三講義程度であるところ、原告は卒業までに六二〇日の登校が必要であったものと算定することができる。
原告はこの間、歩行が著しく困難となったことから、タクシーでの通学を余儀なくされ、原告の自宅からa大学までは約八kmであり、タクシー代は二kmまで六四〇円、以後三八五mごとに八〇円であるから、往復三六八〇円のタクシー代を要した。
したがって、原告が要した通学交通費は、少なくとも二二八万一六〇〇円(六二〇日×三六八〇円)である。
ウ 付添費用及び付添交通費 一九万八八一〇円
原告は、本件事故当時未成年であったところ、本件事故により重傷を負って入院に至ったとの報を受けた原告の母が、e県の実家より来訪して付き添った。
e県からの来訪に要した交通費及び原告が入院中の病院に通うために要した交通費は、一〇万〇八一〇円であり、付添費用は一日あたり七〇〇〇円として一四日分の九万八〇〇〇円を下らない。
エ 入院雑費 一四万七〇〇〇円
b病院への入院期間合計九八日につき一日あたり一五〇〇円相当額
オ 入通院慰謝料 五〇〇万〇〇〇〇円
原告が本件事故によって受けた傷害は重傷であり、特に右大腿骨挫傷に関しては手術を余儀なくされ、その入通院期間は二年に及んだ。このような長期間の入通院や手術を余儀なくされたことに伴い、原告が被った精神的苦痛を慰謝するには、少なくとも五〇〇万円以上をもってするのが相当である。
カ 休業損害 一五八万四八一四円
原告は、本件事故前、f店白梅町教室及びg店岡崎天王店でそれぞれアルバイトとして稼働していたところ、本件事故による入通院治療と後遺障害により、外傷性てんかんについての最終の症状固定日である平成一九年一二月一五日までの九〇二日間、休業を余儀なくされた。
原告は、本件事故前、f店白梅町教室には、少なくとも一か月あたり四日間勤務して五六八〇円の収入を得ており、g店岡崎天王店では、一日あたり平均五一七〇円の収入を得られる見込みであった。
原告は、いずれも一か月あたり八回は行う予定でいたところ、一か月あたりの平均収入は、f店分一万一三六〇円、g店分四万一三六〇円、合計五万二七二〇円となり、一日あたり一七五七円(5万2720円÷30日,1円未満切り捨て)となるところ、九〇二日の休業期間に対応する休業損害は、一五八万四八一四円(1757円×902日)となる。
キ 後遺障害逸失利益 一億一一三一万八四一九円
基礎収入は、平成一九年賃金センサス産業計・企業規模計・男、大学・大学院卒者、全年齢平均の六八〇万七六〇〇円により、労働能力喪失期間は、大学を卒業し就労可能予定であった二二歳から六七歳までの四五年間、労働能力喪失率は併合四級に相当する後遺障害を負ったことにかんがみ九二%とみるのが相当である。
したがって、後遺障害逸失利益は、次のとおりとなる。
6,807,600×17,7740(45年に対応するライプニッツ係数)×92%=111,318,419(1円未満切り捨て)
ク 後遺障害慰謝料 一八〇〇万〇〇〇〇円
併合四級に相当する後遺障害を負ったことを踏まえ、その慰謝料としては一八〇〇万円が相当である。
ケ 装具代 五一一万七四三一円
(ア) 原告は、装具代として平成一七年七月二七日までに七万六三八八円、平成二〇年一〇月三〇日までに一万四四二〇円を要した。
また、原告には前記後遺症のうち右膝滑膜炎を原因として、将来にわたり歩行補助杖の使用が必要であるところ、この杖は二台で一万六四八〇円、耐用年数四年であり、症状固定後、原告の平均余命五八年における買い替え費用について、中間利息を控除すれば次のとおりとなり、原告は七万一四八二円の損害を被った。
16,480×(0.8227+0.6768+0.5568+0.4581+0.3768+0.3100+0.2550+0.2098+0.1726+0.1420+0.1168+0.0961+0.079+0.0650)=71,482
(イ) この他にも、原告は、座位保持装置(平成二五年八月ころ購入、五六万一一四四円、耐用年数三年)、屋内用右短下肢装具(平成二六年二月ころ購入、四万五〇一一円、耐用年数三年)、及び屋外用右短下肢装具(平成二六年二月ころ購入、一一万二八三六円、耐用年数三年)を要しており、これらも平均余命五三年にわたり、耐用年数ごとの買換が必要になるところ、その額は、下記のとおり合計四九五万五一四一円である。
(561,144+45,011+112,836)×(1+0.8638+0.7462+0.6446+0.5568+0.4810+0.4155+0.3589+0.3100+0.2678+0.2313+0.1998+0.1726+0.1491+0.1288+0.1112+0.0961+0.0830+0.0753)=4,955,141
(ウ) なお、上記(ア)及び(イ)の既購入分は、障害者福祉制度により全額公費負担となったが、公費負担の制度は、社会保障の性質を有する給付であり、代位規定もないこと、将来にわたって公的給付制度により確実に給付されるか未定であることから、損益相殺の対象とすべきではない。
コ 将来の薬剤料 七三万八四七七円
原告は本件事故による後遺障害により、症状固定以後も、抗てんかん剤、鎮痛剤及び胃薬の投与を必要としており、これら薬剤にかかる費用は月額三二七〇円であり、原告の平均余命五八年間に要する薬材料は、次のとおりとなる。
3,270×12月×18.8195(58年に対応するライプニッツ係数)=738,477(1円未満切り捨て)
サ 将来の介護費用 二〇六〇万七九〇〇円
原告は、左側一本杖で連続一km歩行が可能、階段の昇降は努力すれば数段可能という程度で、歩行速度はかなり遅く、安定せず、見守り下でなければ転倒しそうなほどである。
日常生活においても、入浴は、シャワーは可能であるが、深い浴槽に入ることは介助がなければできず、家事は食器洗いや洗濯ができないため、友人等の助けを得ている。
このような原告の後遺障害の程度からすると、原告が今後生活をしていくうえで、通勤等外出時の見守り、日常生活の介助等が必要であり、これに要する介護費用は一日三〇〇〇円を下らない。
したがって、将来の介護費用は、次のとおりとなる。
3,000×365×18.820(平均余命58年に対応するライプニッツ係数)=20,607,900
シ 物損 五二万五一一五円
(内訳)東芝製携帯電話(平成一七年六月二四日購入修理費) 四二〇〇円
東芝製オーディオプレーヤー(平成一六年一月ころ購入 修理費) 二万五二〇〇円
メガネフレーム(全損 平成一五年一〇月ころ購入) 七万三五〇〇円
メガネレンズ(全損 平成一七年三月ころ購入) 五万六七〇〇円
パソコン(全損 平成一五年二月ころ購入) 三二万三〇〇〇円
靴(全損 平成一六年九月ころ購入) 一万二八〇〇円
自転車(全損 平成一七年四月ころ購入) 二万一七一五円
鞄(全損 平成一五年九月ころ購入) 八〇〇〇円
ス 既払金等 △八一四万〇三四八円
(内訳)被告が加入する任意保険 二二四万〇九四八円
自賠責保険(仮払金) 四〇万〇〇〇〇円
自賠責保険(後遺障害分) 七五万〇〇〇〇円
障害年金(平成二四年三月受給分まで) 四七四万九四〇〇円
セ 小計 一億五九八七万四〇五三円
前記アないしスの合計
ソ 弁護士費用 一五四九万〇〇〇〇円
タ 合計 一億七五三六万四〇五三円
前記セ及びソの合計
ただし、原告の請求は、上記合計のうち一億七〇四〇万八九一二円である。
(被告の主張)
休業損害及び後遺障害逸失利益は否認し、通学費用及び弁護士費用の相当性については否認ないし争い、既払金等のうち任意保険会社からの支払分及び自賠責保険からの仮払金は認め、その余は不知。
なお、本件事故から症状固定日までの治療期間は相当であるが、二回の滑膜切除術及びそれに関連した入院治療の効果には疑問がある。
また、原告は、平成一七年一二月ころには、非肉体労働は可能になっていたから、休業損害が認められるとしても同時期までである。
第三争点に対する判断
一 争点(1)(過失相殺の有無・程度)について
(1) 本件事故態様
前記前提事実及び証拠(甲二、乙一)によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件事故現場は、別紙交通事故現場見取図のとおり、東西に通ずる道路(今出川通)に沿って設置されている自転車通行が許された歩道があり、その北側マンションから上記道路に出るための車両出入口が設けられている。
イ 被告は、被告車を運転し、上記車両出入口から右折して道路に入ろうと、歩道の手前、別紙交通事故現場見取図①地点で一時停止したものの、歩道の左方の安全確認不十分のまま、時速約二ないし三kmで発進し、原告自転車が歩道上を左方から進行してくるのに気付かず、被告車を同②地点まで歩道に進出させ、同file_4.jpg地点で原告自転車前輪部に被告車左側前部を衝突させた。
この衝撃により、原告は被告車のボンネット上(同file_5.jpg地点)に乗り上げ、原告自転車は同file_6.jpg地点に転倒した。
ウ これに対し、被告は、同②地点で一〇秒程度停止して左右を確認していたところに、原告自転車が衝突してきた旨供述するが、この供述は、実況見分調書(甲二)や警察官に対する供述調書(乙一)の内容と異なる上、このように念入りに左右を確認したのであれば、原告自転車が近づいてくるのに気付かないはずはないのに、衝突まで原告自転車には気付かなかったと述べるなど不自然であって、採用できない。
また、原告は、同file_7.jpg地点より車道寄りを通行していた旨供述するが、本件事故直後に実施された実況見分(甲二)により明らかな被告車の凹損箇所や原告自転車の転倒地点に照らし、原告自転車の通行位置についても実況見分調書の記載は信用でき、これに反する原告の供述は採用できない。
(2) 過失内容
上記認定にかかる事故態様にかんがみれば、被告には、路外施設から道路に進入するに際し、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害しないよう注意すべき義務があり(道交法二五条の二)、被告車を路外の車両出入口から歩道に進出させるに当たっては、左右歩道の交通の安全を確認して進出すべきでありながら、これを怠り、左方歩道の交通の安全確認不十分のまま被告車を歩道に進出させた過失があるというべきである。
他方、原告にも、自転車の通行が許された歩道を通行するに当たっては、前方を注視すべきはもとより、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行すべき義務がありながら(道交法六三条の四第二項)、これを怠り、歩道の車道寄り部分を通行せず、車両出入口から徐行して歩道に出てくる被告車に気付かないまま、原告自転車を走行させた過失があるというべきである。
これに対し、被告は、原告には原告自転車を暴走ともいえる速度で走行させた過失もあると主張し、その旨供述する。しかし、証拠(乙一)によれば、原告自転車の進路前方には工事用のポールや脚立が置かれていることが認められ、原告が原告自転車を高速で走行できる状況にはなかったというべきである。このことは、原告自転車が衝突地点のすぐ横に転倒していることや、原告自身も被告車のボンネットに乗り上げたのみであったことによっても裏付けられる。
また、被告は、原告が本件事故時、眼鏡を掛けていなかったことを指摘するが、本件全証拠によっても、原告が眼鏡を掛けていれば、より早く被告車の存在に気付いたという事情は認められず、この点を原告の過失とみることはできない。
(3) 過失割合
以上に認定したところによれば、路外の車両出入口から歩道に進出しようとした被告の過失は、歩道を直進していた原告の過失に比して重いといわざるを得ず、本件事故に対する過失割合は、原告一五%、被告八五%と認めるのが相当である。
二 争点(2)(原告の後遺障害の内容・程度)について
(1) 診療経過等
以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠により認められる。
ア 原告は、本件事故当時一九歳で、a大学の一年に在学していた。
イ 原告は、平成一七年六月二七日、本件事故により受傷し、b病院に搬送された。
b病院では、頭部外傷、頚椎・腰椎捻挫、両肩・足関節・右上・前腕打撲、右膝骨挫傷(疑)と診断され、整形外科にて、平成一七年六月二七日から同年七月一六日まで二〇日間の入院治療、同年八月九日から平成一八年二月一三日まで実通院日数六三日間の通院治療が行われた。
なお、本件事故当日の平成一七年六月二七日、原告は頭痛、嘔気を訴え、b病院脳神経外科の診察を受けたが、神経学的所見及び頭部CTスキャンで異常を認めず、外傷による一時的なものと判断され、同年九月二一日にも再受診が行われたが、頭部CTスキャンで異常を認めず、頚椎捻挫からのものと判断された。
ウ 原告は、平成一七年九月三〇日、両眼の違和感と視力低下を訴えてc大病院眼科を受診したが、その原因となる眼科的な疾患は検出されず、平成一九年一〇月三一日まで実通院日数一〇日間の通院による経過観察を受けた後、同日、視力障害、複視(右外転神経不全麻痺)につき症状固定との診断を得た(甲七)。
エ 原告は、平成一八年二月一四日、持続する右膝の痛みのため、b病院整形外科に再入院し、右膝滑膜切除術を受け、同日から同年三月二四日まで三九日間の入院治療を受け、同年四月五日から同年六月二二日まで実通院日数四二日間の通院治療を受けた後、同年六月二八日には再入院による再手術を受け、同日から同年八月五日まで三九日間の入院治療、同月一七日から平成一九年一二月一五日まで実通院日数一六五日間の通院治療を受けた。
この間の平成一九年一一月三〇日に、原告は、頚・腰髄神経根損傷、頭部外傷、右膝滑膜炎、右足関節靱帯損傷につき症状固定との診断を得た(甲六)。
オ 原告は、平成一八年四月五日、大学からの勧めで、hクリニック(精神科・心療内科)を受診した。「何をしても楽しくない。やる気がでない。痛みばかりに気をとられてしまう。」等の訴えに対し、通院精神療法と薬物療法(抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬等)が行われた。
カ 原告は、平成一八年六月六日、「五月になってから時々フーとなる。」と訴え、c大病院脳神経外科を受診した。頭部MRIの画像診断や脳波検査などで異常所見はなく、紹介元であるb病院への返事では、「てんかんを疑う所見はありませんでした。」と記された。
キ 原告は、平成一九年七月二五日、「昨晩、気を失って起きたら鼻などから血が出ていた。」と訴え、c大病院脳神経外科を再受診したが、「二年前の交通外傷で、一年前のMRI、脳波検査で異常がなく、その後の一年間において外傷が原因であらたな異常が生じる可能性は極めて低く、症状も変化していないのであれば、現時点において検査を行う必要性は低い。」と説明され、検査は行われなかった。
ク 原告は、平成一九年一二月一五日、b病院にて、外傷性てんかんにつき症状固定との診断を得た(甲八)。
ケ 原告は、平成二〇年六月二六日、hクリニックから、外傷後ストレス障害(PTSD)の診断のため、c大病院精神神経科を紹介され、同病院を受診したが、「PTSDと診断できるか微妙なところ」、「A(担当医)としてはA項目「(DSM―Ⅳ)の診断基準」は満たさないと考える」と診断された。
コ 原告は、平成二三年三月に大学院を卒業し、その後、国会議員の秘書として東京の事務所に勤務した。
サ 原告は、平成二四年四月一五日、頚部痛と右優位の四肢脱力・痺れの悪化を主訴としてi病院整形外科を受診し、頚髄症と診断され、ネックカラーの着用が行われた。
シ 原告は、平成二四年四月二一日、四肢の痺れの増悪と意識の混濁を自覚し、j医科大学附属病院救急部を受診し、精査加療目的で神経内科に緊急入院となった。SPECT(単一フォトン断層撮影)による脳血流検査では、「両側後頭葉の血流の低下、eZISで右後頭葉の血流低下、右側頭部の相対的血流上昇」などの所見が見られたが、症状増悪の原因については特定できず、同年六月四日の退院時のk医療研究センター病院への紹介状の傷病名は、「解離性障害の疑い、頭頚部外傷後遺症の疑い、外傷後てんかんの疑い、軽度変形性頚椎症、腰椎椎間板ヘルニア」とされた。
ス 原告は、平成二四年八月二七日、k医療研究センター病院に入院した。精神科へのコンサルトが行われ、「解離性障害と診断するのは難しい」との見解が示され、一方、外傷性てんかんについては、「てんかんではなく、pseudo(偽性)の可能性が高い」と判断された。
セ 原告は、平成二五年七月二四日、k医療研究センター病院からの紹介で、lリハビリテーションセンター病院を受診し、高次脳機能障害との診断を得た。
(2) 症状経過
ア 右肩関節、右股関節、右膝関節、右足関節、頚部、腰部の各可動域制限について
(ア) 上記各部位の可動域の推移
掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
本件事故直後のb病院初診時(平成一七年六月二七日)、原告には、両肩挙上痛があるも九〇。挙上は可能、右大腿骨内果に圧痛があり、外反痛はないが、内反痛があり、両足関節両側内外果に圧痛があり、頚部両回旋痛が認められた(甲二二、乙二:二頁)。
各関節や部位の主要運動に関する他動的可動域は次のとおりであった。
年月日 部位(運動)
H一八・一二・二七
膝(屈曲:右一〇〇度左一三五度)
頚(屈曲一〇度、伸展五度、回旋二五度)
腰(屈曲一〇度、伸展〇度)
(乙三:一五ないし一六頁)
H一九・七・三一
肩(屈曲:右九〇度左一六〇度、外転:右九〇度左一三〇度、内転:右〇度左〇度)
膝(屈曲:右一一〇度左一三〇度、伸展:右〇度左〇度)
頚(屈曲三〇度、伸展一〇度)
腰(屈曲三〇度、伸展一〇度) (乙三:一二頁)
H一九・九・二〇
膝(屈曲:右一〇〇度左一三五度、伸展:右〇度左〇度)
頚(屈曲一〇度、伸展五度、回旋二五度)
腰(屈曲一〇度、伸展〇度)(乙三:九ないし一〇頁)
H一九・一一・三〇
肩(屈曲:右一一〇度左一六〇度、外転:右九五度左一七〇度、内転:右〇度左〇度)
股(屈曲:右六五度左一一〇度、伸展:右五度左一五度、外転:右一五度左三五度、内転:右一五度左二〇度)
膝(屈曲:右九〇左一三〇度、伸展:右〇度左〇度)
足(屈曲:右一〇度左二五度、伸展:右四〇度左四五度)
頚(屈曲五度、伸展〇度、回旋一五度)
腰(屈曲一〇度、伸展〇度) (甲六)
H二〇・六・二五
肩(屈曲:右九〇度左一六〇度、外転:右九〇度左一三〇度、内転:右〇度左〇度)
膝(屈曲:右一一〇度左一三〇度、伸展:右〇度左〇度)
頚(屈曲三〇度、伸展一〇度)
腰(屈曲三〇度、伸展一〇度) (乙三:二頁)
(イ) 可動域制限の程度
上記経過のうち、可動域制限が最も小さくなった時点でみても、原告は右肩関節につき健側の四分の三以下(平成一九年一一月三〇日時点)、右股関節につき健側の四分の三以下(同日時点)、右足関節について健側の四分の三以下(同日時点)、頚部につき参考可動域(屈曲六〇度、伸展五〇度、回旋一二〇度)の二分の一以下(屈曲・伸展につき平成二〇年六月二五日時点、回旋につき平成一九年九月二〇日時点)、腰部につき参考可動域(屈曲四五度、伸展三〇度)の四分の三以下(平成二〇年六月二五日時点)に可動域が制限されていることが認められ、右膝関節の可動域については健側の四分の三以下に制限されていないこと(平成二〇年六月二五日時点)が認められる。
イ 腰部及び右下肢の症状について
(ア) 自覚症状
証拠(甲六、二二、乙二三:五、六頁、乙二四:八、一一ないし一六頁)によれば、原告は、本件事故直後から、一貫して、右下肢の痙攣、痺れ、腰痛、疲労感、右下肢脱力等の自覚症状を訴えていたことが認められる。
(イ) 画像所見
掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
平成一七年六月二八日のMRI検査の結果、L三/四、L四/五に椎間板の変性と椎間板膨隆程度の突出が認められ、正中型の突出で脊柱管狭窄が認められ、L四/五の両側椎間孔に軽度狭小化が認められた(乙二三:一八頁)。
平成一八年一一月一一日のMRI検査でも同様に、L四/五に右中外側椎間板の突出、L三/四に中心タイプ椎間板膨隆、L四/五の両側神経孔に狭小化が認められ、硬膜嚢の圧迫はL四/五>L三/四と認められた(乙一二:一一頁)。
平成二四年八月二九日のMRI検査でも同様に、L三/四からL五/Sにかけて椎間腔の軽度狭小化、椎間板の輝度変化(低信号(黒く)に変化)が認められ、L三/四では正中後方、L四/五では後方やや右側、L五/Sでは後方やや左側寄りの椎間板の突出や椎体骨棘による硬膜嚢圧排、同部での両側椎間孔狭小化が認められた(甲五五、乙五八の一)。
(ウ) 神経学的所見
掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
平成一七年七月四日実施のラセーグテストの結果は、右七〇度で腰痛、左陰性であった(乙二三:六頁)。
平成一九年一一月二九日実施の腰髄神経根損傷に関わる検査の結果は、ラセーグテスト及びSLRテストのいずれも右三〇度、左七〇度、FNSテストは陽性、徒手筋力検査はいずれも左より右の筋力が低下、右下肢の触覚・痛覚はいずれも消失、大腿周径は右四九・五cm、左五〇・五cm、下腿周径は右四一cm、左四二cmであったが、下肢健反射は左右ともに正常で、病的反射はなかった(甲六)。
ウ 頚部及び右上肢の症状について
(ア) 自覚症状
証拠(甲六、二二、乙六:一ないし四頁、乙二三:四、五頁、乙二四:八、一一ないし一六頁)によれば、原告は、本件事故直後から、一貫して、頭痛、咽吐、めまい、嘔気、頚痛、右上肢の痺れ、疲労感、右上肢の脱力、右上肢知覚障害・筋力低下等の自覚症状を訴えていたことが認められる。
(イ) 画像所見
掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
平成一七年七月二日のMRI検査の結果、C五/六、C六/七等に軽微な椎間板膨隆が認められた。(乙二三:一六頁)。
同年一一月四日のMRI検査でも同様に、C七/THに軽度中心椎間板膨隆が認められた(乙一二:一四頁)。
平成一八年四月二二日のMRI検査でも同様に、C六/七に椎間板の変性及び軽度膨隆があり、硬膜嚢前面の圧排が認められ、C七/THの椎間板もほぼ正中で軽度の突出が認められた(乙一二:一二頁)。
(ウ) 神経学的所見
掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
平成一七年八月九日には、握力が右二〇kg、左三六kgであり、右の握力低下が認められたものの、上腕腱反射は正常で左右差がなかった(乙六:四頁、乙一四:一四頁)。
平成一八年一二月七日のc大病院での診察結果は、神経学的に右上肢尺位側優位の感覚障害、右上肢手内在筋優位の筋力低下、右ジャクソン陽性が認められたが、神経伝導速度検査の結果は、F波を含め明らかな異常を認めなかった(乙三二:二二頁)。
平成一九年一一月二九日実施の頚髄神経根損傷に関わる検査の結果は、握力が右二五kg、左三八kg、徒手筋力検査は左上肢より右上肢の筋力が全般に低下、上腕周径は右三三cm、左三五cm、右上肢の触覚は鈍麻ないし消失、右上肢の痛覚は鈍麻、右上腕腱反射はやや低下、病的反射はないものの、右手指巧緻運動はやや拙劣であった(甲六)。
エ 右上下肢の運動機能障害(右不全麻痺)について
前記診療経過及び掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
原告は、本件事故後、右半身の疼痛が強く、移動はほぼ全介助であったが、徐々に疼痛が軽減し、平成一七年七月一六日の退院時には一本杖歩行となった(乙二三:六頁、乙二四)。
原告は、平成二四年四月一五日、頚部痛と右優位の四肢脱力・痺れの悪化を主訴としてi病院整形外科を受診し、同年四月二一日にも、四肢の痺れの増悪と意識の混濁を自覚し、j医科大学附属病院救急部を受診し、緊急入院したが、症状増悪の原因については特定できなかった。
その後のリハビリにより、原告は、左側一本杖での歩行が可能となったが歩行速度はかなり遅く、安定せず見守り下でなければ転倒しそうであり、右足が下垂してつまずきそうになり、杖なしでは安定した立位保持が不能な状態である(甲五四)。
オ 視力低下、複視及び右同名半盲について
掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
原告は、平成一七年九月五日ころより、視力低下を訴え、b病院からの紹介で、同月三〇日、c大病院眼科を受診した(乙三二:一六、一七頁)。
その後の視力経過及び眼科的所見は次のとおりである(甲二三、三五、乙三二:三三ないし三六頁)。
いずれも眼底、対光反応に異常はなく、自覚症状を説明する他覚的所見に乏しく、原因となる明らかな疾患は検出されていない(甲七、二三、乙三二:三三ないし三六頁)。
年月日 自覚症状 眼科的所見 視力
H一七・九・三〇 見えにくい 特に異常なし 右一・五左一・五
H一八・四・二一 見えにくい 特に異常なし 右一・二左一・〇
H一八・六・二〇 複視あり 右方視にて複視増強
H一八・六・二一 複視あり 右方視にて増強 眼球運動がぎこちない 右一・〇左一・二
H一八・八・一六 右眼が見えにくい 眼球運動がぎこちない 右〇・九左一・〇
H一九・六・二〇 右眼が見えにくい 右方視がぎこちない 右〇・七左一・〇
H一九・七・二五 眼が疲れやすく見にくい 眼底は異常なし 右〇・三左〇・八
H一九・九・二一 右眼が見えにくい 水晶体、眼底異常なし 右〇・二左〇・四
H一九・一〇・三一 複視あり 右方視で複視増強
H二〇・一二・一六 複視あり 複視は全周であるが、右方視で特に強い 右〇・二左〇・五
H二三・七・二一 右同名半盲 右〇・二左〇・四
H二四・三・一一 右同名半盲 右〇・一五左〇・三
カ てんかんについて
前記診療経過等及び掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
原告は、平成一八年五月一六日、b病院を受診し、「同月一五日、授業中に意識が飛んだ。」と訴え(乙七:一九頁)、同年六月六日、「五月になってから時々フーとなる。」と訴え、c大病院脳神経外科を受診したが、頭部MRIの画像診断や脳波検査などで異常所見はなく、てんかんを疑う所見はなかった(乙七:二一頁、乙三二:七〇頁)。
原告は、同年八月二四日より、抗てんかん薬であるデパケンの処方を受け、内服を開始した(甲八、乙八:二頁)。
原告は、平成一九年七月二五日、b病院を受診し、「昨日、家で勉強していてトイレに行った後、気がついたら倒れていた。鼻血が出ていた。デパケン飲んでからは減ってきているが、フワッとなって、気がつくと時間が過ぎていることがちょくちょくあった。」と訴え(乙九:一二頁)、c大病院脳神経外科を再受診したが、「二年前の交通外傷で、一年前のMRI、脳波検査で異常がなく、その後の一年間において外傷が原因であらたな異常が生じる可能性は極めて低く、症状も変化していないのであれば、現時点において検査を行う必要性は低い。」と説明され、検査は行われなかった。
原告は、同年一二月一五日、b病院を受診し、「一二月八日にけいれんがあった。」と申し出た(乙九:二一頁)。
原告は、平成二〇年一月二二日午後〇時二〇分、b病院を受診し、「六時ころ右半身のけいれんあり、三〇分から六〇分意識障害あり。」と申し出た(乙九:二三頁)。
原告は、平成二〇年一月二六日、b病院を受診し、「同月二二日にけいれんがあった。六時に右半分だけ金縛りにあったみたいになり、そこから意識が飛び、気付いたら七時くらいであった。」と申し出た(乙九:二四頁)。
しかし、脳波上、てんかんを窺わせる異常はなく、いずれのてんかん発作も受診時には回復しており、その詳細は不明である(乙一四、三六、弁論の全趣旨)。
キ 脳機能に関する症状について
(ア) 日常生活、社会生活状況
掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
原告は、本件事故後、大学院に進学し、平成二三年三月に大学院を卒業し、同年四月から、衆議院議員秘書として、電話の取り次ぎやパソコンの入力等の事務作業に従事し、東京で一人暮らしをしている(甲六九、原告)。
原告は、日常生活は一応自立しているものの、本件事故後、物忘れがひどく、何度も同じことを尋ねたり、買い物に出ても何を買うのか忘れたり道に迷うことも多い。右不全麻痺により安定した歩行が困難である上、右同名半盲や半側空間無視により、右側に気付きにくく、まっすぐ歩いているつもりが次第に右側に寄ってしまい、側溝に落ちそうになったり、車に接触しそうになるなど、一人での移動は困難である。
また、炊事、洗濯、掃除などの家事全般は、母親や弟が月二、三回、原告の元を訪れて行っており、平成二五年一一月から障害者自立支援法に基づき障害程度区分二の認定を受け、居宅介護サービス(月一〇時間の居宅家事援助、ただし平成二六年一二月から月一五時間の居宅家事援助と月三時間の通院等の介助)を受けている(甲四九、五〇、五三、六九、原告)。
(イ) 神経心理検査所見
掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
平成二四年九月五日実施のBIT(行動性無視検査)の結果は、通常検査一四六点中六六点(cut off 一三一点)、行動検査八一点中二七点(cut off 六八点)であり、いずれもかなり得点が劣っていた。また、左視野の右側は体幹を傾けて代償しているが、右視野についてはほとんど代償が見られなかった(甲四一:七三頁)。
平成二四年九月一三日実施のWMS―R(日本版ウェクスラー記憶検査)の結果は、それぞれ平均一〇〇点のところ、言語性記憶は五七点と低く、視覚性記憶、一般的記憶、注意・集中力、遅延再生はいずれも五〇点未満で測定不能であった。検査のやり方を理解できにくかったり、理解できてもすぐに忘れて誤答となることがあった(甲四一:一〇七頁)。
平成二四年九月二〇日実施のMMS言語記憶検査の結果は、有意味綴りは中度記憶障害以上、無意味綴りは重度記憶障害と判定された(甲四一:一〇八頁)。
平成二五年八月八日ないし九日実施のWAIS―Ⅲ検査の結果、知的には平均域にあるが、言語性優位で、群指数では処理速度の著しい低下が認められた(甲四四:五、六頁)。
平成二五年八月九日実施のWMS―Rの結果は、言語性記憶は六五点、視覚性記憶、一般的記憶、注意・集中力、遅延再生はいずれもスケールアウトであった(甲四四:五頁)。
平成二五年八月一三日付け心理検査所見には、認知機能について、見当識はほぼ保たれている、右側の無視傾向は強い、重度の記憶障害が認められ、現状では日常生活を送る上でも周囲の見守りや援助、記憶の補償手段の活用が必要であるとある(甲四四:六頁)。
(ウ) 画像所見
前記診療経過等及び掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
原告の頭部CT、MRI及び脳波検査に異常所見はなかった。
平成二四年五月一二日に実施されたSPECT検査では、両側後頭葉血流低下、統計処理画像(eZIS)では、右後頭葉血流低下、右側頭葉相対的血流上昇が認められた(乙四四:四二頁)。
平成二四年八月二八日に実施されたSPECT検査では、全体的な大脳血流の高度低下、右視床の相対的血流低下、統計処理画像(eZIS)では両側後頭葉の血流低下が認められた(甲四二)。
(3) 本件事故との因果関係
ア 右肩関節、右股関節、右膝関節、右足関節、頚部、腰部の各可動域制限について
前記症状経過のとおり、本件事故後、上記各関節・部位に可動域制限の生じていることが認められる。
しかし、頚部及び腰部については、本件全証拠によっても、せき椎圧迫骨折や脱臼等の器質的損傷やせき椎固定術の施行は認められない。前記症状経過のとおり、画像所見上、頚椎及び腰椎の椎間板突出が認められるものの、いずれも経年変性による膨隆である。また、本件事故直後の平成一七年七月四日実施のラセーグテストは右七〇度左陰性であり、椎間板ヘルニアの存在を示唆する所見は得られておらず、変性所見に本件事故による外傷が加わったことで神経の圧迫ないし損傷が生じたとも認められない。上記椎間板突出が外傷を契機とするものであれば、症状はその直後が最も重く、経時的に軽快するはずであるが、前記症状経過のとおり、平成一九年一一月二九日実施のラセーグテストで右三〇度左七〇度、FNSテスト陽性、右下肢全体に筋力低下など、時間の経過とともに症状は悪化しており、上記椎間板突出が変性所見であることを裏付ける。さらに、前記症状経過のとおり、下肢腱反射は平成一九年一一月二九日時点で左右ともに正常であり、上腕腱反射も平成一七年八月九日時点で左右ともに正常であって、平成一八年一二月七日の神経伝導速度検査でも異常はなく、頚部及び腰部の神経損傷は認められない。
以上のとおり、頚部及び腰部に、本件事故による器質的変化は認められないことから、同部の可動域制限を、本件事故と相当因果関係を有し、かつ将来においても回復が困難と見込まれる後遺障害とは評価できない。
右肩関節、右股関節、右膝関節、右足関節についても、本件事故による頚部及び腰部の椎間板損傷や神経損傷が認められないことは上記のとおりであり、各関節の可動域に影響する神経損傷は認められない上、各関節に骨折や脱臼等の器質的損傷を認めるに足る証拠もない。前記診療経過等のとおり、原告は本件事故後、右膝滑膜炎と診断され、二度にわたる滑膜切除術を受けているものの、証拠(乙二三:一七頁、乙二六:一〇頁、乙二九:八頁)によれば、原告に生じた滑膜炎は内側及び外側半月板前方の一部にすぎず、平成一七年六月三〇日実施の右膝MRI検査でも、半月板、十字靱帯について正常と評価されていることが認められ、上記右膝滑膜炎が右膝関節の可動域制限の原因とは認められない。なお、証拠(甲三一)中には、可動域制限の原因としてギプス・装具等の固定による筋性拘縮を指摘する部分があるが、このような拘縮は、リハビリによる解消が期待できるものである。以上のとおり、上記各関節部に本件事故による器質的変化は認められないことから、同部の可動域制限を、本件事故と相当因果関係を有し、かつ将来においても回復が困難と見込まれる後遺障害とは評価できない。
イ 腰部及び右下肢の症状について
前記症状経過のとおり、右下肢の痙攣、痺れ、腰痛、疲労感、右下肢脱力等の自覚症状は、本件事故後から一貫しており、かつ本件事故態様とも整合的であることからして、本件事故と相当因果関係を有し、かつ将来においても回復が困難と見込まれる神経症状と認められる。
もっとも、本件事故による腰椎の椎間板損傷や神経損傷が認められないことは前記のとおりであり、上記自覚症状を裏付ける他覚的所見は認め難く、他覚的所見を伴わない神経症状という限度で、本件事故と相当因果関係を有する後遺障害と認められる。
ウ 頚部及び右上肢の症状について
前記症状経過のとおり、頭痛、嘔吐、めまい、嘔気、頚痛、右上肢の痺れ、疲労感、右上肢の脱力、右上肢知覚傷害・筋力低下等の自覚症状は、本件事故後から一貫しており、かつ本件事故態様とも整合的であることからして、本件事故と相当因果関係を有し、かつ将来においても回復が困難と見込まれる神経症状と認められる。
もっとも、本件事故による頚椎の椎間板損傷や神経損傷が認められないことは前記のとおりであり、上記自覚症状を裏付ける他覚的所見は認め難く、他覚的所見を伴わない神経症状という限度で、本件事故と相当因果関係を有する後遺障害と認められる。
エ 視力低下、複視及び右同名半盲について
前記症状経過のとおり、原告に視力低下や複視が現れたのは、本件事故から約一年後の平成一八年六月以降であり、眼底、対光反射に異常はなく、原因となる疾患が検出されていないことにかんがみれば、視力低下や複視を本件事故と相当因果関係を有する後遺障害と認めることはできない。
前記症状経過のとおり、右同名半盲が明らかになったのは、平成二三年七月二一日であり、証拠(乙三二:一二頁、乙四二の一)によれば、平成一九年九月二一日に実施された対座検査で右同名半盲が検出されていないことから、右同名半盲は同日以降に生じた可能性が高いこと、画像検査で右同名半盲を裏付ける脳挫傷や脳出血等の頭蓋内異常は指摘されていないことが認められる。このように本件事故から約二年以上経過後に生じ、これを裏付ける原因疾患が検出されていないことにかんがみれば、右同名半盲を本件事故と相当因果関係を有する後遺障害と認めることはできない。
オ てんかんについて
前記症状経過のとおり、意識が飛ぶという訴えが原告からあったのは本件事故から約一一か月後の平成一八年五月であり、その後のけいれんや意識障害等の訴えも、その詳細は不明であり、これがてんかん発作であったかは不明であること、頭部MRI画像や脳波上、てんかんを疑う所見はないことにかんがみれば、てんかんを本件事故と相当因果関係を有する後遺障害と認めることはできない。
カ 右上下肢の運動機能障害(右不全麻痺)及び脳機能に関する症状について前記症状経過のとおり、右半身の疼痛及び不全麻痺による右上下肢の運動機能障害は、本件事故から一貫しており、その程度は、平成一七年七月一六日の退院時に一本杖歩行となった後、平成二四年四月一五日及び同月二一日に症状が増悪したものの、その後のリハビリにより平成一七年七月一六日の退院時と同程度にまでは回復しているものと認められ、右側空間無視の傾向や記憶力の低下といった症状も、本件事故から一貫しているものと認められる。
この点、原告は、上記症状を、本件事故による頭部外傷後のびまん性軸索損傷が原因で高次脳機能障害を生じたものと主張し、証拠(甲四〇、四四)中にはこれに沿う部分がある。
しかし、証拠(乙四八、四九の一)によれば、びまん性軸索損傷によるものであれば、事故後には数日以上にわたる昏睡状態と運動障害が継続し、慢性期の頭部CTスキャンやMRIで相当程度の脳萎縮が認められてしかるべきところ、本件全証拠によっても、原告が本件事故後数日以上にわたり昏睡状態にあったとは認められず、前記症状経過のとおり、原告の頭部CT、MRI及び脳波検査に異常所見は認められない。SPECT検査では脳血流の低下が認められているものの、二回の検査で血流低下の部位は異なり、かかる血流所見をもって、一時的な脳機能の異常にとどまらず、持続する機能不全を表すものと評価することはできない。したがって、本件事故によるびまん性軸索損傷の発症は認められない。
原告は、本件事故による軽度外傷性脳損傷後の高次脳機能障害の可能性も指摘する。しかし、証拠(乙五七の一)によれば、その診断基準の第一要件は、「受傷後に混迷または見当識障害、三〇分以内の意識消失、二四時間未満の外傷後健忘症、これら以外の短期間の神経学的異常(たとえば局所徴候、痙攣、外科的治療を必要としない頭蓋内疾患等)が少なくとも一つ存在すること」であるところ、本件事故直後のb病院での診療録(乙二、二三、二四)から、上記第一要件を満たす状況は認められず、本件事故による軽度外傷性脳損傷の発症は認められない。
以上により、原告には、脳の器質的病変が認められないから、原告の前記症状を、高次脳機能障害によるものとは評価できない。
そして、証拠(乙四九の一、乙五九の一)によれば、器質性精神障害である高次脳機能障害が否定される以上、原告の前記症状は、非器質性精神障害によるものということができる。
このことは、原告が、hクリニックにて重傷ストレス反応との診断を受け(乙三三:八頁)、c大病院精神神経科にてPTSDと診断できるか微妙なところとして、不安障害(特定不能のもの)との診断を受け(乙三二:六三頁)、j医科大学附属病院にて解離性障害の疑いとの診断を受け(乙四三:三三頁)、k医療研究センター病院にて疼痛性障害の疑い(乙四六:四一頁)との診断を受けており、原告に抑うつ状態又は不安の状態に該当する精神症状が認められ、かつ前記症状経過のとおり、能力に関する判断項目(①身辺日常生活、②仕事・生活に積極性・関心を持つこと、③通勤・勤務時間の遵守、④普通に作業を持続すること、⑤他人との意思伝達、⑥対人関係・協力性、⑦身辺の安全保持・危機の回避、⑧困難・失敗への対応)のうち一つ以上の能力について障害が認められることによって裏付けられる。
したがって、原告の前記症状は、非器質性精神障害の限度で、本件事故と相当因果関係のある後遺障害と認められる。
もっとも、証拠(乙六〇の一ないし四)によれば、非器質的精神障害は、その発症及び症状の残存に、事故に直接関連する要因のほか、環境要因や個体側要因が関連し合う多因性の障害とされているのであって、原告の症状の推移等に照らしても、現在の症状には、原告自身の心因的要因等、本件事故以外の要因が関与しているものと認められるから、素因減額が相当である。
(4) 後遺障害の程度
ア 腰部及び右下肢の症状について
前記のとおり、上記症状は他覚的所見を伴わない神経症状であるから「局部に神経症状を残すもの」として一四級に相当すると認められる。
イ 頚部及び右上肢の症状について
前記のとおり、上記症状は他覚的所見を伴わない神経症状であるから「局部に神経症状を残すもの」として一四級に相当すると認められる。
ウ 右上下肢の運動機能障害(右不全麻痺)及び脳機能に関する症状について
前記のとおり、上記症状は、非器質性精神障害によるものと認められ、前記症状経過及び証拠(甲四九、五〇、六九、原告)によれば、前記能力に関する判断項目のうち、①食事・入浴・更衣といった身辺日常生活は概ねできるものの、炊事、洗濯、掃除などの家事全般に、しばしば助言・援助が必要であり、③時間の遵守、④作業の持続、⑦身辺の安全保障・危機回避に、しばしば助言・援助が必要であることが認められ、「通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの」として九級に該当すると認められる。
この点、被告は、原告が本件事故後も、部活動や資格試験等に励むなど大学生活を活発に過ごし、大学院を卒業し、東京での一人暮らしや就職している旨指摘し、証拠(乙三三:四、九頁、乙五一ないし五四、五六)中にはこれに沿う部分がある。
しかし、証拠(原告)によれば、大学生活や大学院の卒業については、移動はもとより、部活動や単位の取得等に関し、友人や教授の手助けや助言によるところが大きかったこと、就労については、就労時間、就労時の移動、休憩、勤務内容等の全般に、職場の理解や協力、援助を得ていること、一人暮らしについても、移動にはタクシーを利用し、家事については家族や公的機関による援助を得ていることが認められ、被告の指摘を踏まえても、前記認定に変わりがないというべきである。
エ 以上の後遺障害を併合し、本件事故による原告の後遺障害の程度は、九級に相当すると認める。
三 争点(3)(原告の損害)について
(1) 治療関係費 一六〇万一六七五円
前記前提事実記載のとおり、原告は、①頚・腰髄神経根損傷、頭部外傷、右膝滑膜炎、右足関節靭帯損傷につき平成一九年一一月三〇日に症状固定、②視力障害、複視(右外転神経不全麻痺)につき同年一〇月三一日に症状固定、③外傷性てんかんにつき同年一二月一五日に症状固定との診断を受けており、これらのうち本件事故による後遺障害と認められないものがあることは前記認定のとおりであるが、上記各症状固定日までの治療が、診断及び治療のために必要かつ相当なものであったことは、当事者間に争いがない。なお、被告は、二回の滑膜切除術につき、その効果に疑問を呈するが、証拠(乙二三、二六、二九)によれば、本件事故後から持続する右膝の痛みに対する治療として、相当性を認めるに足る。
したがって、上記各症状固定日までの治療関係費は、本件事故と相当因果関係が認められ、証拠(甲三、四の一・二、五)によれば、症状固定時までの治療関係費(国民健康保険負担分を除く。)の内訳は次のとおりであり、合計は上記のとおりと認められる。
(内訳)b病院分 一四三万八四六〇円
c大病院眼科分 二万三八五五円
c大病院脳神経外科分 三六二〇円
d薬局分 一三万五七四〇円
(2) 通院交通費等
ア 通院交通費 八九万三一六〇円
前記認定のとおり、原告は、歩行自体、一本杖歩行で不自由である上、右側空間無視や記憶障害により、一人での外出が困難な状態にあり、通院にあたりタクシー利用の必要があったものと認められる。
そして、証拠(甲三、四の一・二、一五、一六)によれば、症状固定日までの通院交通費の内訳は次のとおりであり、合計は上記のとおりと認められる。
(内訳)b病院分 八七万〇一六〇円
c大病院分 二万三〇〇〇円
イ 通学交通費 一一六万六五六〇円
通院と同様、原告は通学にあたりタクシー利用を必要としたものと認められる。
他方、原告が主張するところによれば、原告が卒業に要する単位は一二四単位であり、一単位あたり一五講義要するとして、総じて一八六〇講義に出席が必要となり、一日あたり五講義が可能と解されるから、少なくとも卒業までに三七二日の通学が必要である。そして、本件事故までの通学日数は五五日(平成一七年四月七日から同年六月二六日まで、81日-土日2日×11週-国民の休日4日)であるから、本件事故後に原告が通学を要した日数は三一七日(三七二日-五五日)である。
したがって、原告は、少なくとも三一七日の通学が必要であったものと認められ、証拠(甲一八、一九)によれば、通学に要するタクシー代は、往復三六八〇円(片道八km、二kmまで六四〇円、以後三八五mごとに八〇円、(8km-2km)÷385m=15(小数点以下切り捨て)、15×80円+640円=1840円)であるから、通学交通費は次の限度で認められる。
(計算式)317日×3680円=116万6560円
(3) 付添費用及び付添交通費 一九万一八一〇円
証拠(甲二〇)によれば、本件事故の報告を受けた原告の母が、e県の実家より平成一七年七月三日に来訪し、同日から同月一六日までの一四日間、原告に付添い、同月一七日に帰宅したこと、この来訪及び付添にかかる交通費に一〇万〇八一〇円を要したことが認められる。
原告が本件事故当時未成年であったことに、既に認定した本件事故による原告の傷害の内容及び程度を併せ考慮すれば、原告の母による上記付添交通費と付添費用について、本件事故と相当因果関係が認められ、付添費用は、一日あたり六五〇〇円と認めるのが相当である。
したがって、付添費用及び付添交通費は、次のとおりとなる。
(計算式)10万0810円+6500円×14日=19万1810円
(4) 入院雑費 一四万七〇〇〇円
前記前提事実記載の入院期間九八日間につき、一日あたり一五〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
(計算式)1500円×98日=14万7000円
(5) 入通院慰謝料 二六六万〇〇〇〇円
前記前提事実及び前記認定にかかる本件事故による原告の傷害の内容、程度、入通院期間及び通院実日数等にかんがみれば、入通院慰謝料としては上記金額が相当である。
(6) 休業損害 一一六万八〇九〇円
証拠(甲一三、一四の一ないし一〇)によれば、原告は、本件事故前、f店白梅町教室及びg店岡崎天王店でそれぞれアルバイトとして稼働し、f店白梅町教室では採用日である平成一七年五月二三日から本件事故日である同年六月二七日までの約一か月間に四日間稼働し五六八〇円を得ていたこと、g店岡崎天王店では採用日である平成一七年四月二九日から本件事故日である同年六月二七日までの約二か月間に二九日間稼働し六万六四〇一円を得ていたことが認められ、本件事故前の一日当たりの収入は次のとおりとなる。なお、原告は、いずれも一か月当たり八回は就労する予定であったと主張するが、上記就労実態に照らし、採用できない。
前記認定にかかる原告の傷害の内容及び程度によれば、本件事故日から最終の症状固定日である平成一九年一二月一五日までの九〇二日間につき、上記就労は不可能であったと認められる。この点、被告は、平成一七年一二月ころには非肉体労働は可能になっていたと主張するが、上記就労が非肉体労働に限られるとは解されない。
したがって、休業損害は、次のとおりとなる。
(計算式)5680円÷30日=189円(1円未満切り捨て、以下同じ。)
6万6401円÷60日=1106円
(189円+1106円)×902日=116万8090円
(7) 後遺障害逸失利益 二七二〇万八二三四円
前記認定にかかる原告の年齢及び学歴並びに後遺障害の内容及び程度によれば、原告は、症状固定時である平成一九年の賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、男性、大学・大学院卒、全年齢平均賃金六八〇万七六〇〇円の基礎収入に対し、大学院卒業後から六七歳までの期間を通じて、併合九級に相当する三五%の労働能力を喪失したものと認められる。
したがって、逸失利益は、次のとおりとなる。
(計算式)680万7600円×35%×(症状固定時21歳から67歳までの46年に対応するライプニッツ係数17.8801-就労開始年齢25歳から症状固定時21歳までの4年間に対応するライプニッツ係数3.5460)=3415万3286円
もっとも、証拠(甲三二、七〇ないし七三)によれば、原告は、国民年金の障害年金として、本件口頭弁論終結時までに六九四万五〇五二(内訳、平成二三年までに四七四万九四〇〇円、平成二四年に七八万七二九八円、平成二五年に七八万五一六五円、平成二六年二月に一二万九七五〇円、同年四月に一七万八三九九円、同年六月及び八月に各一五万七五二〇円((96万6000円-17万8399円)÷5))の支払を受けたことが認められ、これを上記逸失利益から控除するのが相当である。
したがって、上記障害年金を控除した後の逸失利益は、次のとおりとなる。
(計算式)3415万3286円-694万5052円=2720万8234円
(8) 後遺障害慰謝料 六九〇万〇〇〇〇円
前記認定にかかる本件事故による原告の後遺障害の内容及び程度にかんがみれば、後遺障害慰謝料としては上記金額が相当である。
(9) 装具代 五一一万四八四二円
弁論の全趣旨によれば、原告は、歩行補助杖として平成一七年七月二七日までに七万六三八八円、平成二〇年一〇月三〇日までに一万四四二〇円を要したことが認められる。
また、前記認定のとおり、原告は、歩行や座位の保持等に補助具を要するところ、証拠(甲七四ないし七八)及び弁論の全趣旨によれば、補助具として、歩行補助杖、座位保持装置、屋内用右短下肢装具、屋外用右短下肢装具を要し、これらの購入時期、代金、耐用年数は、下記のとおりであり、購入時の原告の平均余命に要する買い換え費用は、次のとおりと認められる。
なお、証拠(甲七四ないし七七)によれば、これらのうち既購入分については、障害者福祉制度により全額公費でまかなわれていることが窺われるものの、社会保障の性質を有する給付であり、代位規定もないこと、将来にわたって確実に給付されるか未定であることにかんがみれば、損益相殺の対象にはならないものと解するのが相当である。
(内訳)
① 歩行補助杖
平成二〇年一〇月ころ購入、購入金額一方六四八〇円、耐用年数四年につき、原告の平均余命五八年間に要する買い替え費用
16,480×(0.8227+0.6768+0.5568+0.4581+0.3768+0.3100+0.2550+0.2098+0.1726+0.1420+0.1168+0.0961+0.079+0.0650)=71,482
② 座位保持装置
平成二五年八月ころ購入、購入金額五六万一一四四円、耐用年数三年につき、原告の平均余命五三年間に要する買い替え費用
561,144×(1+0.8638+0.7462+0.6446+0.5568+0.4810+0.4155+0.3589+0.3100+0.2678+0.2313+0.1998+0.1726+0.1491+0.1288+0.1112+0.0961+0.0830+0.0717)=386万5272円
③ 屋内用右短下肢装具
平成二六年二月ころ購入、購入金額四万五〇一一円、耐用年数三年につき、原告の平均余命五三年間に要する買い替え費用
45,011×(1+0.8638+0.7462+0.6446+0.5568+0.4810+0.4155+0.3589+0.3100+0.2678+0.2313+0.1998+0.1726+0.1491+0.1288+0.1112+0.0961+0.0830+0.0717)=31万0044円
④ 屋外用右短下肢装具
平成二六年二月ころ購入、購入金額一一万二八三六円、耐用年数三年につき、原告の平均余命五三年間に要する買い替え費用
112,836×(1+0.8638+0.7462+0.6446+0.5568+0.4810+0.4155+0.3589+0.3100+0.2678+0.2313+0.1998+0.1726+0.1491+0.1288+0.1112+0.0961+0.0830+0.0717)=77万7236円
(計算式)
7万6388円+1万4420円+7万1482円+386万5272円+31万0044円+77万7236円=511万4842円
(10) 将来の薬剤料 〇円
原告は、症状固定後も、将来にわたり抗てんかん剤、鎮痛剤及び胃薬の投与を必要としていると主張するが、前記認定のとおり、てんかんを本件事故と相当因果関係を有する後遺障害とは認められず、上記薬剤を、前記認定にかかる後遺障害に対するものとは認めがたい上、後遺障害に対する治療費等は前記慰謝料の中で評価されているというべきであり、これとは別に将来の薬剤料を認めることはできない。
(11) 将来の介護費用 〇円
前記認定のとおり、原告に対する介護は、見守りや声掛け等の看視的介護にとどまること、日常生活の介助等は公的支援を得ていることに鑑みれば、予想される将来の介護費用は前記慰謝料の中で評価されているというべきであり、これとは別に将来の介護費用を認めることはできない。
(12) 物損 三五万八〇六五円
証拠(甲五六ないし六四、枝番を含む。)によれば、本件事故により、原告は、携帯電話を損傷し四二〇〇円の修理代を要したこと、オーディオプレーヤーを損傷し二万五二〇〇円の修理代を要したこと、メガネフレーム・レンズ、パソコン、靴、自転車及び鞄を全損したことが認められ、それぞれの購入時期及び購入金額に照らし、本件事故時の時価を次のとおりと認める。
(内訳)携帯電話 修理費用 四二〇〇円
オーディオプレーヤー 修理費用 二万五二〇〇円
メガネフレーム(平成一五年一〇月ころ七万三五〇〇円で購入) 時価五万八八〇〇円(購入価格の八〇%)
メガネレンズ(平成一七年三月ころ五万六七〇〇円で購入) 時価五万三八六五円(購入価格の九五%)
パソコン(平成一五年二月ころ三六万円で購入) 時価一八万〇〇〇〇円(購入価格の五〇%)
靴(平成一六年九月ころ一万二〇〇〇円で購入) 時価九六〇〇円(購入価格の八〇%)
自転車(平成一七年四月ころ二万四〇〇〇円で購入) 時価二万一六〇〇円(購入価格の九〇%)
鞄(平成一五年九月ころ八〇〇〇円で購入) 時価四八〇〇円(購入価格の六〇%)
(13) 素因減額 三〇%
前述のとおり、非器質的精神障害に基づく原告の現在の症状には、原告自身の心因的要因等、本件事故以外の要因が関与しているものと認められ、原告に生じた人的損害のうち三〇%を、その素因によるものとみて減額するのが相当である。
(14) 過失相殺 一五%
前記認定のとおり。
(15) 既払金 三三九万〇九四八円
原告が被告の加入する任意保険から二二四万〇九四八円、自賠責保険から仮払金四〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、証拠(甲四三)によれば、自賠責保険から七五万円の支払を受けたことが認められる。
(16) 小計 二四九〇万八九七二円
上記(1)から(11)までの合計に上記(13)の素因減額を行い、その結果に上記(12)を加えたものに上記(14)の過失相殺を行い、そこから上記(15)の既払金を控除(ただし自賠責保険からの支払分については人的損害分から控除)した後の残額は次のとおりとなる。
(計算式)4705万1371円×(100-30)%×(100-15)%-(40万円+75万円)=2684万5565円
35万8065円×(100-15)%=30万4355円
2684万5565円+30万4355円-224万0948円=2490万8972円
(17) 弁護士費用 二四九万〇〇〇〇円
本件事案の概要、本件審理の経過、原告の請求認容額等にかんがみれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、上記のとおりと認めるのが相当である。
(18) 合計 二七三九万八九七二円
以上によれば、本件事故により原告が被告に請求できる損害額は、上記(16)に上記(17)を加えた金額となる。
四 まとめ
以上に認定したところによれば、原告の請求は、前記認定額及びこれに対する本件事故日である平成一七年六月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
よって、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言は相当でないから、これを付さない。
(裁判官 上田賀代)
別紙交通事故現場見取図<省略>