京都地方裁判所 平成22年(ワ)58号 判決 2011年7月01日
原告
X
被告
Y1 他1名
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して、三九八万三〇一六円及びこれに対する平成一八年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その一を被告らの連帯負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告に対し、各自八五五万三九五〇円及びこれに対する平成一八年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告らの負担とする。
三 仮執行宣言
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、原告が後記交通事故により原告に生じた人身損害について、被告Y1(以下「被告Y1」という。)に対しては民法七〇九条に基づく、被告Y2株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては自賠法三条本文に基づく各損害賠償金及びこれらに対する事故発生日である平成一八年四月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
二 前提となる事実
次の事実は、当事者間に争いがなく、もしくは、後記各証拠または弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 本件事故(争いがない事実及び甲一、乙一)
ア 発生日時
平成一八年四月一二日午後三時二〇分ころ
イ 発生場所
京都市西京区樫原佃二四番地先府道西京高槻線(通称物集女街道ないし嵯峨街道、以下「府道」という)北行車線上(以下「本件事故現場」という。)
ウ 事故当事者及び事故態様等
府道を北行進行していた被告Y1運転の普通乗用車(被告会社所属のタクシー車両、以下「被告車」という。)が左側路外のコンビニ駐車場に進入するために左に進路変更し、その後方から進行してきた原告運転の原付自転車(以下「原告車」という。)と衝突した。
(以下「本件事故」という。)
(2) 責任原因
被告会社は、本件事故時、被告車の運行供用者であった。(争いがない)
(3) 損益相殺
本件事故による人身損害に関して、原告は、自賠責保険及び被告会社加入任意保険会社から合計一九五万円の支払いを受けた。(争いがない)
三 争点及び争点に関する当事者の主張の概要
本件の争点は、(1)被告Y1の過失責任及び過失相殺(争点一)、(2)被告会社の責任原因(争点二)、(3)原告が被った損害の額(争点三)であり、争点に関する当事者の主張の概要は以下のとおりである。
(1) 被告Y1の過失責任及び過失相殺(争点一)について
(原告)
ア 事故発生状況
事故発生状況は、ほぼ甲二記載のとおりである。
原告が原告車を運転して府道を北向直進して本件事故現場を通過しようとしたところ、その前方を走行していた被告Y1運転の被告車が原告車に気付かないまま、本件事故現場左側にある○○コンビニ駐車場(以下「○○コンビニ駐車場」という。)に進入するため、急に減速し左折合図を出すのと同時に左折進行を開始した。そのため、被告Y1が左折合図を出した時点で被告車の後部バンパーのすぐ横辺りを進行していた原告車の進路を被告車が塞ぐ形になり、それを認めた原告が急停止及び急ハンドルを切ったが間に合わず、被告車左側面と原告車の前部分が衝突し、被告車が停止し、原告車も倒れ込むような姿勢となったが、歩道の縁石と被告車との間に挟まれるようになって停止し、完全には転倒しなかった。原告は、投げ出されるような格好となり、原告の身体(頭部、左腕、両脚)と被告車とが衝突し、原告車と被告車の間に挟まるような形でしりもちをつくような体勢になり、なかなか抜け出せなかった。
イ 被告Y1の過失
被告Y1には、本件事故に関して、進路変更に当たってその三〇m手前から合図を出し、あらかじめ道路のできるだけ左端に寄り、後方からの車両の有無及びその安全を確認して徐行すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と時速約四〇km程度から急に減速し、左折合図を出すのと同時に、急に左折進行した過失があり、その過失により本件事故が発生した。
被告Y1は事故直後、北側の駐車場に入れればよかったという趣旨の発言をしており、これは、南側の駐車場に入れるために急に進路変更した過失を認める発言と理解される。
被告Y1立会指示説明に基づき作成された現場の見分状況書(乙一)によると、被告Y1は本件事故現場から一六・九mも手前の①地点で左への合図を出して減速し、かつ、本件事故現場の手前の②地点において、後方九・七mの原告車に気付いていたというのであるが、そうであるならば、事故が発生するはずがなく、また、後方九・七mの原告車に気付いたといいながら衝突するまでブレーキをかけなかったというのは矛盾する。乙一の被告Y1の説明内容は信用できない。
ウ 過失相殺
本件事故の原因は、もっぱら、被告Y1の重大な安全運転義務違反、合図不履行によるものであり、被告Y1に一〇〇%の過失があり、原告に過失はない。
膝掛けは、ビニール製で足にからまるような物ではなく、本件事故及び原告の受傷とは何ら関係ない。
原告車のブレーキに何ら問題はなかった。
(被告ら)
ア 事故発生状況
○○コンビニ駐車場は建物の南側と北側に分かれており、被告Y1が入ろうとしたのは北側の駐車場であった。
事故態様は、乙一記載のとおりである。
被告Y1は、○○コンビニ駐車場の北側部分に停めるため、「△△」前で左折指示器を点滅して合図し、そのとき、後方からのバイクの左側すり抜けを防ぐために左側に少しハンドルを切り、左側フェンダーミラーを見つつ減速しながら左に寄せていった。そのとき、後方の原告車が左側に進入してきて、被告車の左側面に原告車のハンドル右端が接触し、両車両は停止した。
イ 被告Y1の過失
被告Y1の過失は否認する。
ウ 原告の過失(過失相殺)
原告には、①被告Y1は、左折合図を出していたのに、原告が前方不注視により左側に侵入してきたこと、②原告は膝掛けカバーをして運転しており、これが原告の足に絡んで停止のためにとっさに足を道路上に着くことができなかったこと、原告のブレーキのききが甘く、すみやかに停止できなかったことなどの過失があり、これらの過失がなければ、本件事故は発生しなかった。九割の過失相殺が相当である。
(2) 被告会社の責任原因(争点二)について
(原告)
被告会社は、自賠法三条本文により被告車の運用供用者として原告が本件事故により被った損害について賠償すべき責任を負う。
(被告会社)
争う。
(3) 原告の被った損害の額(争点三)について
(原告)
ア 治療関係費 四五万五四一五円
原告は、本件事故で転倒し、直ちに救急車でシミズ病院に搬送され治療を受け、その後も同病院で通院治療を受け、平成一八年五月一二日、頭部打撲、外傷性頸部症候群、左前腕打撲、両下腿打撲と診断されている。同年六月から菅野接骨院、同年七月からは御所東クリニックに通院し、理学療法やマッサージによる治療を受けた。同年八月からは、京都府立医科大学附属病院にて硬膜外ブロック療法を受けた。平成一九年一月三一日、御所東クリニックで症状固定の診断を受けた。(甲三の一から四まで、甲四、甲六)
シミズ病院への通院が四日間にとどまるのは、通院しやすい菅野接骨院に転院したからである。
イ 休業損害 五八六万六四八〇円
日額一万六三〇四円(事故前三か月の給与合計額の九〇分の一)の二九五日分(平成一八年四月一二日から平成一九年一月三一日まで)(甲八)に、報奨金減額分一〇五万六八〇〇円(甲五)を加えた金額
ウ 通院慰謝料 一〇一万三三三三円
通院一〇か月、むち打ちで三分の二
エ 後遺障害逸失利益 一二八万八〇八五円
原告は、頸部痛、頭痛、めまい、目のかすみ、右上肢のしびれ及び右肩の疼痛の後遺障害があり、自賠責保険後遺障害等級一四級九号に該当すると認定された(甲六)。
基礎収入は年収五九五万九六〇円(事故前3か月の給与合計額の90分の1×365)とし、労働能力喪失率は五%、労働能力喪失率は五年間(ライプニッツ係数は四・三二九)として計算する。
595万960円×0.05×4.329=128万8085円
オ 後遺障害慰謝料 一一〇万円(一四級)
カ 弁護士費用 七七万七六三二円
(被告ら)
ア 治療関係費
争う。治療経過は不知、治療の継続の必要性及び因果関係は争う。
シミズ病院では四日間の治療しか受けていない。同病院の平成一八年四月一三日付けの診断書には、「受傷より一四日間の通院加療を要する見込み」と記載され、同月二八日の診断書には、「外傷性頸部症候群」の病名のみで、「引き続き約三週間の静養を要する。」とされ、すでに「通院加療」となっていない。原告が主張するような長期間の治療を要したとは認められない。
イ 休業損害
争う。
ウ 通院慰謝料
争う。
エ 後遺障害逸失利益
争う。
後遺障害の存在を否認する。ただし、自賠責保険後遺障害等級一四級九号に該当すると認定されたことは認める。
事故後、原告の収入は減っておらず、むしろ増えているのであり、この稼働状況からすると後遺症も疑わしい。
オ 後遺障害慰謝料
争う。
カ 弁護士費用
争う。
第三当裁判所の判断
一 被告Y1の過失責任及び過失相殺(争点一)について
(1) 事故発生状況
関係証拠(甲二、甲一八、乙一、乙六、乙七から一〇の二まで、原告本人、被告Y1本人)によれば、次のとおりの事故発生状況が認められる。
ア 本件事故現場の状況
本件事故現場は、府道の北行車線上であり、この府道は、片側一車線ずつ、車線の幅員各四m、左右に西側には一・八m、東側には一・七mの幅員の歩道がある。乙一の交通事故現場見取図のfile_4.jpg地点が衝突地点であり、この見取図のfile_5.jpgで示された電柱の位置と乙九の一から三までの写真、乙七の地図を対照すると、衝突地点の左側はコンビニエンスストア○○(以下「○○コンビニ」という。)の敷地とその南に隣接する餅菓子店店舗「△△」の敷地との境目付近である。○○コンビニには店舗建物がある部分の南と北にそれぞれ駐車スペースがある。衝突地点は車線の左端から〇・八m右寄りである。
イ 被告Y1は、事故現場より南側二つ目の交差点で信号停止後、青信号で発進し、前方左側の○○コンビニ駐車場に停車しようと考えながら、時速約四〇キロで北行し、消防署の中央付近(乙七によると、消防署は府道の東側に、「△△」の直ぐ南の位置に存在する)で、車線左端付近を時速三〇キロ程度で走行する原告車を追い抜き、「△△」の右側に差し掛かってから、○○コンビニの南側駐車場に入ろうとして、左への進路変更合図をはじめると共に減速し、ハンドルを左に切った。被告Y1がハンドルを切った時点で、原告は被告車の後部から一〇m以内の左後方を走行していた。被告車の進路変更により進路前方を狭められた原告は急制動などをしたが避けきれず、被告車の左側面部に原告車のハンドル右端が接触するとともに原告の頭部等の身体も被告車の車体に衝突した。被告Y1も原告も衝突直前から急停止をしたため、原告車と被告車とは衝突地点の若干前方で並んで停止し、原告車は歩道との段差の縁石と被告車との間に挟まるようになり、その原告車と被告車との間に原告は尻餅をつくような体勢ではまり込んだ。
被告Y1は、乙六の陳述書及び本人尋問において、○○コンビニの北側駐車場に入ろうとして、「△△」の横から本件事故現場付近においては、後方からくる単車の左側すり抜けを防止するために、合図をした上車を左に寄せたにすぎず、その際に原告車が衝突してきたと供述するが、被告Y1の説明に基づいて被告会社の事故担当者Aが記載した事故発生状況説明図(甲二の三枚目)を見ると、○○コンビニ南側駐車場への進入に当たって原告車と衝突したという説明内容になっていると理解できること、被告Y1立会の実況見分に基づく現場の見分状況書(乙一)も、少なくとも、事故現場直ぐ左側の駐車場ではなく少し先の○○コンビニ北側駐車場に入れるつもりで、事故時は左に少し車を寄せただけであるという説明をした形跡は全く認められないことから、被告Y1の上記供述は信用できない。
(2) 被告のY1の過失
上記(1)の事故発生状況からすると、被告Y1に、左路外施設への進路変更に際しての後続車両との安全確認義務違反、進路変更合図の出し遅れの過失が認められる。なお、被告Y1は、本件事故現場の数十m手前で原告車を追い抜いたばかりなのであるから、○○コンビニ駐車場に入るために進路変更するに際して、原告車が直ぐ後を走行していることを認識していたはずであるにもかかわらず、原告車が回避困難な進路変更を行っており、その過失は明白かつ重いというべきである。
(3) 過失相殺
左側路外施設への進路変更四輪車と後続直進単車との衝突事故については、進路変更車側の安全確認義務違反が主たる過失と解され、後続車の前方注視回避義務違反が副次的な過失として考えられる。この事故類型では、進路変更四輪車が進路変更合図や徐行などを適正に行っている前提で、四輪車八ないし九対単車二ないし一が基本的な過失割合と解するのが相当である(別冊判例タイムズ一六号全訂四版【一六四】及び【一六五】参照。)。本件において、進路変更合図の遅れ(△△横で進路変更合図、減速、左への進路変更という一連の動作を行い、「△△」と○○コンビニの境目付近では既に左への進路変更をある程度しているのであるから、進路変更合図は、進路変更開始の三〇mは到底なく、せいぜい一〇m程度手前でようやく合図を開始したものと推認される。)、比較的直前の追い抜きがあるので、上記【一六五】に当てはめることが相当であり、仮に上記【一六四】に当てはめるとしても、進路変更合図の大幅な遅れ及び直前追い抜きにより一〇%修正して、被告側九対原告側一の過失割合として、過失相殺を認めるのが相当である。
なお、被告Y1は、原告車のブレーキが甘かったと供述するが、その根拠は薄弱であり、原告車が衝突直前において、時速三〇km程度で走行していたのに、衝突地点直後で停止していることからすると、事故時において、原告車に急停止の効果が生じていることが認められ、ブレーキに問題はなかったと認められる。また、原告がしていた膝掛けが事故発生や原告の負傷に影響したことを示す証拠はない。
二 被告会社の責任原因(争点二)について
本件事故について、被告Y1には上記のとおり過失が認められ、被告会社が本件事故時に被告車の保有者であり運行供用者の立場にあったことは当事者間に争いがなく、したがって、被告会社の責任原因を被告会社は争っているが被告Y1と連帯して損害賠償責任を原告に対して負うことが認められる。
三 原告が被った損害の額(争点三)について
以下、一円未満の端数を計算上生じる場合は各項目毎に一円未満切り捨てとする。
(1) 治療関係費 四五万五四一五円
シミズ病院、菅野接骨院、御所東クリニック及び京都府立医大付属病院通院分の治療費として上記金額を本件事故と相当因果関係の範囲内ある治療費として認める(甲三の一、甲三の二の一及び二、甲一〇の一~甲一二の九二)。
(2) 休業損害 二八六万六五四四円
日額を事故前三か月の給与合計額の九〇分の一として、一万六三〇四円と認めるとともに、休業期間を合計一一一日と認め(甲八の一及び二)、そのほかに、報奨金減額分一〇五万六八〇〇円(甲五)を本件事故による休業損害として認める。
1万6304円×111日+105万6800円=286万6544円
(3) 通院慰謝料 九六万円
症状固定日を平成一九年一月三一日と認め(甲六)、この日までを実質的治療期間として認める。治療期間九か月余りであり、主たる傷病は頚椎捻挫であることを考慮し、通院慰謝料としては、九六万円を相当と認める。
(4) 後遺障害逸失利益 八一万二八二円
頭痛及び両手のしびれが持続している点が本件事故による頸椎捻挫後の後遺障害と認められ、自賠責保険後遺障害等級上一四級に該当する(甲六、一九)。
基礎収入は年収五九五万九六〇円(事故前3か月の給与合計額の90分の1×365)とし、労働能力喪失率は五%、労働能力喪失率は三年間(ライプニッツ係数は二、七二三二)として計算する。なお、被告らは、本件事故後の原告の収入に実際には減少が見られずむしろ増加している傾向があることから、後遺障害の実在及び後遺障害逸失利益の発生に疑問を呈するが、上記各証拠により自賠責保険後遺障害等級一四級に該当する後遺障害が残存した事実が認められ、そして、一四級程度(標準的労働能力喪失率は五%)の後遺障害では、抽象的な労働能力の喪失は疑いなくとも、それが直ちに相応な減収に繋がるか否かは諸般の事情によるものであり、実際に減収が生じていないことから後遺障害の実在が疑われることはなく、また、減収がないことは、後遺障害にも関わらず被害者が努力により補っているものと推認され、後遺障害逸失利益を否定すべきではない。
595万960円×0.05×2.7232=81万282円
(5) 後遺障害慰謝料 一一〇万円(一四級)
(6) 小計 六一九万二二四一円
(7) 過失相殺
×0.9=557万3016円
(8) 損益相殺
-195万円=362万3016円
(9) 弁護士費用 三六万円
(10) 合計(認容額) 三九八万三〇一六円
四 結論
よって、原告の請求は、被告らに対し、連帯して、三九八万三〇一六円及びこれに対する本件事故のあった日である平成一八年四月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、理由があり、その余は理由がない。
以上の次第で、主文のとおり判決する。
(裁判官 栁本つとむ)