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京都地方裁判所 平成22年(ワ)891号 判決 2011年7月01日

原告

被告

主文

一  被告は、原告に対し、二一二万四六一三円及びこれに対する平成一七年一二月一三日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担、その一を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、二二〇〇万円及びこれに対する二〇〇五(平成一七)年一二月一三日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、原告が、後記の交通事故により被った人身損害につき、被告に対して、自賠法三条本文、民法七〇九条に基づく損害賠償金及びこれに対する遅延損害金として、上記第一記載の支払を求める事案である。

一  前提となる事実

次の事実は、当事者間に争いがなく、もしくは、後掲の関係証拠または弁論の全趣旨により容易に認めることができる。

(1)  本件事故

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した(争いのない事実及び甲一)。

ア 発生日時 平成一七年一二月一三日午前七時三八分ころ

イ 発生場所 京都府相楽郡木津町大字相楽小字清水一番地先路上

ウ 事故当時者及び事故態様

被告運転の普通乗用車(以下「被告車」という。)が国道一六三号線を歩行横断中の原告に衝突した。

(2)  責任原因

本件事故により原告に生じた人身損害について、被告は、本件事故発生につき前方不注意等の過失があり、民法七〇九条により、また、被告車の保有者として自賠法三条本文により、賠償すべき責任を原告に対して負う。

(3)  原告の本件事故による負傷と治療経過など

原告は、本件事故により負傷し、本件事故後下記のとおり入通院加療を受けた。

ア a病院(以下「a病院」という。)(乙二)

平成一七年一二月一三日から平成一八年一月五日まで(入院治療二四日間)

診断傷病名:右大腿骨顆上骨折、右恥坐骨骨折、頭部打撲傷、左恥坐骨骨折、ストレス侵襲、左橈骨遠位端骨折等

退院後、b病院(以下「b病院」という。)へ転院

平成一八年三月二二日から同年六月二一日まで通院

イ b病院(乙三)

平成一八年一月五日から同年三月一五日まで(入院治療六九日)

診断傷病名:右大腿骨顆上骨折、骨盤骨折、頭部外傷、左橈骨遠位端骨折、硬膜下血腫等

ウ c病院(以下「c病院」という。)(甲三、乙四)

平成一八年四月二一日から平成二〇年二月二日まで通院(実治療日数二六五日、ただし、症状固定診断を受けた日までの分)

診断傷病名:右大腿骨骨折、左橈骨骨折、骨盤骨折

(4)  症状固定診断及び自賠責保険後遺障害等級認定など

平成二〇年二月二日、原告は、c病院において、症状固定診断を受けた。(甲三)

平成二一年七月一四日ころ、原告は、被告加入自賠責保険会社から、自賠責保険後遺障害等級認定につき併合八級(既存障害等級一〇級一一号)とする認定があったという通知を受けた。(甲四)

(5)  本件事故後の転落事故による負傷と治療

原告は、平成一九年七月五日、自宅の階段から転落し、右脛骨高原骨折の傷害を負い、a病院に同日から同年八月四日まで入院し、その後、同病院で通院加療した。

(6)  損益相殺

一二五九万五七五五円

内訳 被告加入任意保険会社からの支払い九三七万五七五五円

自賠責保険金 三一九万円

二  争点及び争点に関する当事者の主張の概要

本件の争点は、(1)過失相殺(争点一)及び(2)損害額(争点二)であり、争点に関する当事者の主張の概要は下記のとおりである。

(1)  過失相殺(争点一)について

(被告)

ア 本件事故現場の道路は幅員も広く交通量も多い幹線道路であり、歩行横断者には重い左右確認義務が課されると解されるところ、原告はこれを怠った。

イ 原告は、その年齢及び既存障害を考慮すると、迂回して信号機のある交差点(東側一四一・六m)ないし地下道(西側約七三・八m)を利用して横断すべきであったのに、これをしなかった。被告は、しばしば本件事故現場を通行してきたが、本件事故現場で国道一六三号線を横断する歩行者を見たことがなく、周辺住民が通常横断しているということはない。

ウ 被告は、朝日で視界が悪かった。

エ 以上の事情を考慮すると、三五%の過失相殺をすべきである(別冊判例タイムズ一六全訂四版【三四a】参照)。

(原告)

ア 原告は、横断しようとした国道一六三号線に走行車両がないことを確認し、側道(町道木津山田川線)から国道に進入しようとして、停止線付近で停止している被告車も確認した上、横断を開始している。

イ 地下道は痴漢や強盗が出るなどして物騒であり、信号機のある交差点は遠すぎる。付近住民は、本件事故現場で国道一六三号線を歩行横断しており、この場所を歩行横断すること自体過失ではない。

ウ 被告が、事故時に、朝日で視界が悪かったということは、実況見分時にも述べられておらず、信用できない。

エ 被告は、合流する国道の左後方からの車両のみを注視し、前方不注視で発進し、本件事故現場交差点内に進入したため、原告に直前に至るまで気付かなかったものである。

オ 以上の事情によれば、原告に過失相殺を行うべき程の過失は認められない。

(2)  損害額(争点二)について

(原告)

ア 治療費 三七六万七〇九五円

b病院 一八万三一二〇円

c病院 三四九万四七二五円

a病院 八万九二五〇円

原告の症状固定時期は、二〇〇八(平成二〇)年二月二日である。二〇〇七(平成一九)年七月五日に原告は階段からの転落事故で骨折しているが、その転落事故も、本件事故により右足が一・五cm短縮した、かつ、右下腿に頑固なしびれが残存したことによるのであって、本件事故と相当因果関係がある。

イ 入院雑費 一三万六五〇〇円

一日一五〇〇円、九一日分

ウ 付添看護費用 一〇九万五六三二円

エ 家屋改修費 七五九万三六五〇円

オ 交通費 六二万四七二六円

カ 休業損害 七〇〇万四四〇〇円

原告は、学習塾を経営する長男と同居し、長男の食事の支度を全部するなどしていた。

主婦、全年齢女子平均賃金三五〇万二二〇〇円、二年分

キ 傷害慰謝料 三〇〇万円

三か月入院、二二か月半通院、症状固定後もリハビリ継続

ク 後遺障害慰謝料 九〇〇万円(八級)

事故前において、主婦業及びシニア大学などで活発に行動しており、既存障害を控除すべきではない。

後遺障害の内容は、右下肢の頑固なしびれ、骨盤変形癒合、下肢短縮である。少なくとも併合八級である。

原告は、本件事故以前に右大腿骨人工骨頭置換術をしているが、それによる現実の行動能力の喪失は、本件事故以前にほとんどなくなっていた。それは、原告が主婦業、シニア大学理事、海外旅行、舞踏や旅行を含む趣味の活動などを活発に行っていたことから明らかである。

本件事故前は、自転車や徒歩で行動することが多かったが、本件事故後は、それが困難になり、タクシー利用が多くなった。本件事故前はできた正座ができなくなった。

ケ 後遺障害逸失利益 五六〇万一〇六八円

350万2200円×7.108×0.5×0.45=224万427円、固定時80歳)

コ 一部部請求及び弁護士費用

上記アからケまでの小計から損益相殺額を控除した残額のうち、一部請求で二〇〇〇万円を請求し、弁護士費用として、二〇〇万円を請求する。したがって、請求額は二二〇〇万円となる。

(被告)

ア 治療費 三一一万二六五円

原告主張の治療費が各病医院に対し被告加入任意保険会社から支払われたことは認める。

しかし、原告の本件事故による負傷に関しては、遅くとも平成一九年七月五日以前に症状固定の状態に至っており、同日階段からの転落事故により負傷しており、本件事故と相当因果関係の認められる治療費は、同日以前のものに限られる。

同日までの治療費は、a病院分八万九七二〇円(乙七の一、二)、b病院分一八万三一二〇円(乙八の一から三まで)、c病院分二八三万七四二五円(乙九の一から一五まで)の合計三一一万二六五円である。

イ 入院雑費 不知

ウ 付添看護費用

不知。算定根拠不明。

エ 家屋改修費 九三万八一七九円の限度でのみ認める。

オ 交通費 不知

カ 休業損害 七一万八二五円

b病院の記録には○○市で独り暮らしとの記載も多数あり、同居者のいる家事従事者であったかどうか判然としない。仮に長男と同居の家事従事者としても、休業期間は、受傷内容、治療経過、症状等からすると本件事故後六か月間が相当であり、基礎収入は、受傷当時七八歳と高齢であり、家にほとんどいない長男に関する家事であるので、女性・年齢別の賃金センサスの五割程度である一四二万一六五〇円が相当であり、以上により計算すると、七一万八二五円である。

キ 傷害慰謝料 一七〇万円

症状固定時までの入通院期間は、入院三か月と二日間、通院一五か月と九日間である。

ク 後遺障害慰謝料 一〇〇万円

骨盤骨の変形が裸体になってもわかる程度に生じていたとは認められない。したがって、原告の後遺障害は、既存障害の股関節機能障害の一〇級一一号に本件事故による膝関節の機能障害(一二級七号)を加重して、九級となる。なお、原告が主張する下肢短縮は、本件事故によるものではなく、既存障害の人工骨頭置換術に伴うものである。

後遺障害慰謝料については、九級相当額の六〇〇万円から一〇級相当額の五〇〇万円を差し引いて、一〇〇万円程度とすべきである。

ケ 後遺障害逸失利益 四七万五二六四円

基礎収入は、平成一九年の年代別(六五歳以上)の賃金センサスにより二七四万四四〇〇円の二分の一の一三七万二二〇〇円とし、労働能力喪失期間は五年間とし、そのライプニッツ係数四・三二九四で中間利息を控除し、労働能力喪失率は、九級相当の喪失率三五%から一〇級相当の喪失率二七%を差し引いて、八%とすべきである。または、一二級相当の一四%とすべきである。八%で計算すると、137万2200円×4.3294×0.08=47万5264円であり、八%で計算すると、八三万一七一二円である。

コ 一部請求及び弁護士費用

否認ないし争う。

第三当裁判所の判断

一  争点一について

(1)  事実関係

関係証拠によると、以下の事実が認められる。

本件事故は、h一七年一二月一三日午前七時三八分ころ、京都府相楽郡木津町内の交差点内において、被告(当時五四歳)運転の普通乗用車が歩行中の原告(当時七八歳)に衝突したというものである。

本件事故現場は、ほぼ東西に向かう国道一六三号線(以下「国道」という。)に西北西から幅員四・五mの町道木津山田川線(以下「町道一」という。)が鋭角で合流し、そのほぼ合流地点に、幅員二・六mの無名の木津町道(以下「町道二」という。)が北西方向から合流し、さらに、その南側にほぼ南から幅員不明(ただし、上記町道一及び町道二よりも広い)の歌姫街道が上記国道に接続する変形五差路交差点(以下「本件交差点」という。)である。国道は、本件交差点の西側では五車線で幅員一五・九m、東側では四車線に減少している。町道一及び町道二から国道への合流地点の手前にはそれぞれ停止線が引かれ、一時停止標識が設置されている。国道の本件交差点付近において、国道の歩行者横断禁止の規制はない。国道は中央線が通っている優先道路である。この交差点に信号機は設置されていない。(甲二、甲五の二、ただし、甲二の略図の町道二の角度は誤記である。)

原告は、歌姫街道から本件交差点を北に向かって国道を歩行横断し、国道と町道二との合流部分(国道の東行き第一車線上)に差し掛かった地点で、町道一から一時停止した上、本件交差点に進入してきた被告運転の乗用車に衝突された。被告は、一時停止した地点では、国道を歩行横断中の原告を発見しておらず、発進し、衝突地点の六・二m手前で原告を発見し、急停止の措置をとったが間に合わず衝突した。(甲二、甲五の三)

(2)  過失相殺についての判断

上記(1)の事実を前提とすると、本件事故は明確な優先関係がない交差点(原告が歩行進行してきた歌姫街道と被告が進行してきた町道一との関係では優劣関係はない)における歩行者と四輪車の出合い頭衝突事故類型に属するものであり、基本的な過失割合は四輪車八五:歩行者一五と解され、修正要素として認められるのは、歩行者が高齢者であることによる修正(五%)のみである。(別冊判例タイムズ一六号全訂四版【三六】参照)

被告にも、原告にも、この事故類型において想定される前方注意安全確認義務違反を明らかに超過するような特段著しい過失というべき点は見当たらない。

なお、被告は、原告が本件交差点を歩行横断したことについて不適切であり、特に危険な行為であるように主張するが、上記(1)で認定した道路状況によると、歩行横断は禁止されておらず、また、被告は、幹線道路である国道を横断することの危険性を強調するのであるが、被告車は国道を走行してきたものではなく、原告が進行してきた道路と優劣関係のない道路から本件交差点に進入していた車両であり(交差点内であるから未だ国道を走行する車両とは評価されない)、原告の国道横断の危険性は、本件事故発生とは無関係というべきであって、いずれにしても被告の上記主張は根拠がない。また、被告は、本件事故時に朝日で視界が遮られたと主張するが、朝日でまぶしくて安全確認をしにくかったからという理由で、自動車運転者の前方安全確認義務が軽減される理由はない。

よって、過失相殺を認め、過失相殺割合は、一割とするのが相当である。

二  争点二について

(1)  治療費 三七六万七〇九五円

平成一九年七月五日の転落事故による負傷そのものに対する治療費は、それ以前の治療状況、転落事故による負傷状況、その後の治療内容を考慮すると、本件事故との相当因果関係を認めることは困難であるが、この転落事故以前に本件事故による負傷が症状固定の状況に既にあったとするに足りる証拠はなく、甲三により、平成二〇年二月二日に症状固定に至ったと認める。同日までのa病院、b病院及びc病院の治療費の合計額が三七六万七〇九五円であることは当事者間に争いがない。したがって、症状固定までの治療費として、三七六万七〇九五円を認める。

(2)  入院雑費 一三万六五〇〇円(91日×1500円)

a病院及びb病院入院分

(3)  付添看護費 四〇万六七四〇円

Aへの支払い分は、三七万七四〇円を認める。(甲二三の一)B付添介護分は、b病院入院中の外出時付添三日及び通院分(平成一八年三月一五日以降同年五月一四日までの通院日は、c病院へ合計一二日間(乙九の一、二)、a病院へは、七日間(乙一七の二)である。ところで、c病院は原告宅のすぐ近所であり通院に付添が必要とは考えられない。a病院についても比較的近所であり、通院付添の必要性が否定されないとしても、一回の通院付添に要する時間は短時間である。よって、b病院入院中の外出時の付添については、一回五〇〇〇円、a病院通院の付添は一回三〇〇〇円を認める。通院期間中の通院以外の外出について、付添費の必要性・相当性を認めるに足りる証拠はない。

5000円×3+3000円×7=3万6000円

以上合計四〇万六七四〇円

(4)  家屋改修費 二〇〇万円

原告が当初主張していた金額四六四万円分の家屋改修の内容は、一般的な高齢で足腰の筋力などが衰えた人の負担を減らすようなバリアフリー化工事であり、症状固定時において、必要相当な改修工事と認められる。ただし、本件事故以前の段階で既に、原告の年齢、脚部に既存障害があったことを考慮すると、本件事故前の時点で、その種のバリアフリー工事をする必要は相当程度生じていたと考えられる。原告がその後増額主張した二九五万三六五〇円分の工事は、その内容及び原告の生活状況に照らし、必要相当なものとは認められない。

家屋改修工事費用として、本件事故と相当因果が認められるのは、既存障害を含めた障害と本件事故による障害の内容程度を勘案して、上記四六四万円の四割程度と考えられ、二〇〇万円が相当である。

(5)  通院交通費 一万四〇〇円

b病院退院(平成一八年三月一五日)後、平成一九年七月五日以前の通院については、本件証拠によって確認できる通院日は、a病院に、平成一八年三月二二日から同年六月二一日までの間に合計八日間(乙七の二)、c病院に、平成一八年四月から平成一九年六月までに合計二〇九日間である(乙九の一から一五まで)。

ところで、c病院は、○○市▲▲所在であり、原告の住所地同市△△は、地図によると、その隣接町名であり、タクシーによる通院が必要とは認められない。

a病院は、タクシー通院の相当性が認められ、片道六五〇円・往復一三〇〇円、八日分として、一万四〇〇円を認める。

(6)  休業損害 一三九万六三九五円

休業期間は、本件事故発生時(平成一七年一二月一三日)から平成一八年四月一五日ころまでの約四か月間(一二〇日間)を全休扱い、その後、同年一二月末までの約八か月半(二五五日間)を半休扱いとする。

基礎収入は、原告は、成人の息子一人と自分の家事をシニア大学の趣味等の活動の傍ら行っていた家事従事者であるという前提で、平成一八年の賃金センサスによる女性全年齢平均の平均賃金(三四三万二五〇〇円)の六割相当額(二〇五万九五〇〇円)とするのが相当である。

205万9500円÷356=5642円

5642円×(120日+255日÷2)=139万6395円

(7)  傷害慰謝料 二六〇万円

二六〇万円(入院三か月、通院約一年三か月相当)

(8)  後遺障害慰謝料 四〇〇万円

原告に認められる本件事故による後遺障害は、①右膝関節の機能障害(一二級相当)、②骨盤骨の変形障害(一二級相当)である。(甲三、四)

原告は、本件事故による後遺障害として、右下腿のしびれや痛みなどの神経症状(一二級相当の頑固な神経症状)及び下肢短縮が生じたとするが、いずれも証拠上認められない。また、被告は、骨盤骨の変形障害について、診療記録中に骨盤の癒合に関する記述に変形を示す記述が見当たらないこと、原告には角度は不明であるが脊柱の側弯が認められ、これと混同して誤って骨盤変形の診断がされたと考えられるなどのことから否定するが、骨盤の癒合に関するカルテの記述は癒合の進行状態を記したものに過ぎず、極端な変形であればともかく変形の有無について記述したものではなく、また、脊柱の角度不明の側弯と誤認したというのは憶測の域をでるものではなく、いずれも根拠が薄弱であり、甲四の認定の信悪性を覆すものではない。

ところで、既存障害が現存し、自賠責保険後遺障害等級認定において、既存障害を含む加重障害と認定された場合、各等級に相当する数値の差し引きにより、労働能力喪失率及び後遺障害慰謝料額を定めるのが一般的な手法とされるが、複数の後遺障害の併合による等級格上げについては、必ずしも合理的な結果を導かないこともあるとされており、差し引き計算の手法の他、既存障害を考慮せずに、本件事故による後遺障害だけで後遺障害の程度(等級)を検討し、それに対応した労働能力喪失率ないし後遺障害慰謝料額を試算し、いずれか大きな方を採用するのが合理的であると考えられる。

本件においては、本件事故の結果の後遺障害として、上記のとおり自賠責後遺障害等級認定上一二級とすべき独立の後遺障害が二つあり、これを通常の自賠責後遺障害等級認定上の扱いで評価すると、併合一一級となる。一一級の標準的な慰謝料額は四〇〇万円と解され、労働能力喪失率は、二〇%とするのが相当である。これは、既存障害との加重障害で八級とした上で、既存障害一〇級分を差し引いた数値(三〇〇万円、一八%)よりいずれも上回っている。よって、既存障害を考慮せず、本件事故による後遺障害のみに基づいて、後遺障害慰謝料額及び労働能力喪失率を定めるのが相当である。

したがって、後遺障害慰謝料は、四〇〇万円が相当である。

(9)  逸失利益 一七八万三二七九円

基礎収入は上記六で算出した年収二〇五万九五〇〇円とする。

平成一九年七月五日の転落事故により生じた負傷の治療は本件事故による負傷の治療とは認められないこと、その以前に、本件事故による負傷について、治療継続の必要性は否定されないにしても、症状の変動は乏しくなっていることなどから、後遺障害逸失利益算定の関係での実質的症状固定時期は、平成一九年六月末ころとするのが相当である。その時点で、原告は八〇歳であり、就労可能年数は五年(ライプニッツ係数は四・三二九四)である。

労働能力喪失率は、上記(8)で認定したとおり二〇%とする。

205万9500円×0.2×4.3294=178万3279円

(10)  上記(1)から(9)までの小計 一六一〇万四〇九円

(11)  過失相殺

×0.9=1449万368円

(12)  損害のてん補

-1256万5755円(争いなし)=192万4613円

(13)  弁護士費用

二〇万円

(14)  合計

二一二万四六一三円

三  結論

以上によれば、本件請求は、二一二万四六一三円及びこれに対する平成一七年一二月一三日以降支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないので、訴訟費用の負担については、概ね請求額中の認容部分の割合に応じて主文のとおり定めて、主文のとおり判決する。

(裁判官 栁本つとむ)

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