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京都地方裁判所 平成22年(行ウ)38号 判決 2012年6月20日

主文

1  原告1~6,原告9~18及び原告20~70による各訴えが,原告適格を欠く者による訴えとして不適法である旨の被告の本案前の主張は,理由がない。

2  本件各訴えのうち,原告7,原告8,原告19及び原告71の各訴えを,いずれも却下する。

3  主文第2項掲記の原告らに係る訴訟費用は,同原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

京都市長が平成22年5月14日付けで行った,A株式会社申請に係る別紙許可目録記載の公園施設設置許可処分を取り消す。

第2事案の概要

本件は,京都市長(以下「処分行政庁」という。)が,A株式会社(以下「A」という。)に対し,都市公園法5条2項に基づいて別紙許可目録記載の設置の場所(B公園。以下「本件公園」という。)に同目録記載の公園施設(水族館及び附属売店。以下,両者を併せて「本件水族館等」という。)の設置許可をしたことから,近隣住民や公園利用者である原告らが,上記許可は,都市公園法2条2項及び5条2項に違反すると主張して,その取消しを求める事案である。

1  法令等の定め

(1)  都市公園法2条2項は,都市公園の効用を全うするため当該都市公園に設けられる施設で,植物園,動物園,野外劇場その他の教養施設で政令で定めるもの(6号),売店,駐車場,便所その他の便益施設で政令で定めるもの(7号)を「公園施設」とし,都市公園法施行令(平成23年政令第363号による改正前のもの。以下,特に断らない限り,同改正前のものとする。)5条5項1号は,同法2条2項6号の政令で定める教養施設として水族館を,都市公園法施行令5条6項は,同法2条2項7号の政令で定める便益施設として売店をそれぞれ挙げている。

(2)  都市公園法2条の3は,都市公園の管理は,地方公共団体の設置に係る都市公園にあっては当該地方公共団体が行う旨規定する。

(3)  都市公園法5条1項は,2条の3の規定により都市公園を管理する者(以下「公園管理者」という。)以外の者は,都市公園に公園施設を設け,又は公園施設を管理しようとするときは,条例で定める事項を記載した申請書を公園管理者に提出してその許可を受けなければならないとし,5条2項は,公園管理者は,公園管理者以外の者が設ける公園施設が次のいずれかに該当する場合に限り1項の許可をすることができる旨規定する。

ア 当該公園管理者が自ら設け,又は管理することが不適当又は困難であると認められるもの

イ 当該公園管理者以外の者が設け,又は管理することが当該都市公園の機能の増進に資すると認められるもの

2  前提事実(争いのない事実並びに各項掲記の各書証及び弁論の全趣旨によって認められる事実)

(1)  原告らについて

原告らは, 別紙当事者目録記載の住所に居住し,本件公園を利用する者である(弁論の全趣旨)。

(2)  本件水族館等について

ア Aは,平成22年4月23日,処分行政庁に対し,本件水族館等の設置許可申請書を提出した(乙3。以下「本件申請」という。)。

イ 本件水族館等の事業計画の概要は,次のとおりである(甲2,乙3)。

(ア) 構造

鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)地上3階建

(イ) 数量

建築面積 5955.54㎡

延床面積 1万0981.58㎡(うち教養施設面積1万0748.78㎡,附属売店面積232.80㎡)

公園土地使用面積 1万3450.00㎡(竣工後8223.90㎡)

(ウ) 営業時間(予定)

通常期 午前9時30分~午後5時30分

繁忙期 午前9時~午後9時(ゴールデンウィーク,春休み,夏休み,土日休日等)

(エ) 開館日(予定)

年中無休(ただし,特定の休館日あり)

(オ) 展示内容

ウェルカムゾーン,海獣ゾーン,ペンギンゾーン,大水槽ゾーン,海洋プラザ,交流プラザ,イルカラグーン,山紫水明プラザ,せせらぎプラザにより展示ゾーンを構成

(3)  処分行政庁は,平成22年5月14日,Aに対し,本件申請を許可する旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。

(4)  原告らは,平成22年11月9日,本件訴訟を提起した。

3  争点及び当事者の主張

本件の争点は,原告らに本件処分の取消訴訟における原告適格が認められるか否かであり,この点に関する当事者の主張は,次のとおりである。

(1)  原告らの主張

以下の点から,本件公園を日常的に利用する周辺住民や,災害時に本件公園を避難場所として利用することが予定されている地域に居住する住民は,本件処分の取消しを求めるにつき,法律上の利益があるところ,原告らは,いずれも,本件公園を日常的に利用する周辺住民又は災害時に本件公園を避難場所として利用することが予定されている地域に居住する住民に当たるから,本件処分の取消しを求める原告適格を有する。

ア 本件処分の根拠となる法令の趣旨及び目的

本件処分の根拠法令は,都市公園法及び同法施行令であるところ,以下の諸点から,都市公園法及び同法施行令は,公園施設の設置許可の制度を通じて,都市公園の周辺住民の,生命,身体,財産の安全及び都市公園の日常的な利用等に関する人格的利益という,一般的公益に吸収困難な利益を,それが帰属する個々人の個別的利益として保護することを,その趣旨・目的としているといえる。

(ア) 都市公園法及び同法施行令の趣旨及び目的

a 都市公園の自由利用の原則

都市公園は,何人も他人の共同使用を妨げない限度で,その用法に従い,自由に使用することができるという,自由利用の原則があり,都市公園法及び同法施行令の解釈に当たっては,同原則が前提とされるべきである。

b 都市公園法5条2項により,公園施設の設置を許可する場合にも,上記都市公園の自由利用の原則に抵触しないことが求められており,同項は,周辺住民の都市公園を自由に利用する権利を保護していると解される。

c 都市公園法8条は,公園管理者が公園施設設置許可に都市公園の管理のため必要な範囲内で条件を付することができる旨定めるところ,同規定は,上記条件を付することを通じて,住民が健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないようにし,かかる被害を受けることなく都市公園を自由に利用できるようにする趣旨を含んでいると解される。

d 都市公園法11条4号は,公衆の都市公園の利用に著しい支障を及ぼすおそれのある行為で政令で定める行為を禁止し,40条1項はこれに違反した場合の罰則を定めているところ,これらの規定は,公園施設設置によって,住民が健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないようにし,かかる被害を受けることなく都市公園を自由に利用できるようにする趣旨を含んでいると解される。

e 都市公園法施行令2条1項は,地方公共団体が都市公園を設置する場合には,防火,避難等災害の防止に資するよう考慮する旨規定し,同規定は,都市公園周辺に居住する住民の災害時の安全という具体的利益を保護する趣旨と解されるところ,公園施設が都市公園の効用を全うするために設置されるものであることからすれば,同規定は,都市公園設置後の公園施設の設置に当たっても十分考慮されるべきである。

(イ) 本件処分の根拠となる法令の趣旨及び目的を考慮するに当たって参酌すべき関係法令

行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)9条2項は,処分の根拠法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものと定めるところ,本件処分との関係では,上記関係法令として,以下の法令の趣旨及び目的が参酌されるべきである。

a 都市計画法(平成23年法律第9号による改正前のもの。以下,特に断らない限り,同改正前のものとする。)

本件公園は,京都市の都市計画において定められた都市計画施設(都市計画法4条6項,11条1項2号)であり,都市計画法は都市の健全な発展と秩序ある整備を図り,もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的としている(1条)から,同法は本件処分の根拠法令と目的を共通にする法令に該当する。

b 環境基本法(平成23年法律第105号による改正前のもの。以下,特に断らない限り,同改正前のものとする。)

上記aのとおり,都市計画法は,本件処分の根拠法令と目的を共通にする関係法令に該当するところ,都市計画法の規定が,事業に伴う大気汚染,騒音等によって,事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もって健康で文化的な都市生活を確保し,良好な生活環境を保全することも,その趣旨及び目的とするものと解されることから,環境基本法は都市計画法と目的を共通にする関係法令といえ,本件処分の根拠法令と目的を共通にする関係法令に該当する。

c 京都市環境基本条例(平成9年条例第92号。甲8)

京都市環境基本条例は,京都市が,上記の環境基本法の規定を受けて,環境の保全に関し,同市の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定したものであるから,本件処分の根拠法令と目的を共通にする関係法令といえる。

d 災害対策基本法(平成22年法律第65号による改正前のもの。以下,特に断らない限り,同改正前のものとする。)

都市公園法施行令2条1項が,地方公共団体が都市公園を設置する場合において,防火,避難等災害の防止に資するよう考慮する旨規定しているから,国民の生命,身体及び財産を災害から保護するため,防災に関し,必要な体制を確立し,総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り,もって社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする災害対策基本法も,本件処分の根拠法令と目的を共通にする関係法令といえる。

(ウ) 関係法令の趣旨及び目的

本件処分の根拠法令と目的を共通にする関係法令(上記(イ))の趣旨及び目的は以下のとおりであり,本件処分の根拠法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,それらを参酌すべきである。

a 都市計画法の趣旨及び目的

都市計画法2条は,都市計画の基本理念として,健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきことを挙げ,13条1項11号は,都市計画の基準として,都市施設については良好な都市環境を保持するように定めることとしており,これらの各規定は,都市計画施設である都市公園を日常的に利用する住民の,健康又は生活環境に著しい被害を受けないという利益を保護する趣旨と解される。

b 環境基本法の趣旨及び目的

環境基本法1条は,同法の目的として,環境の保全について基本理念を定め,国,地方公共団体,事業者及び国民の責務を明らかにするとともに,環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより,環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって現在及び将来の国民の健康的で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを挙げ,16条1項は,政府が,大気の汚染や騒音等に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとし,同条4項は,政府は,公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより,上記の基準が確保されるように務めなければならない旨規定しており,これらは,上記基準に反する公園施設の設置に伴う大気汚染や騒音により,公園の周辺区域の住民が健康又は生活環境に著しい被害が及ばないようにする趣旨を含むと解される。

c 京都市環境基本条例の趣旨及び目的

京都市環境基本条例11条1項は,市長は,市民の健康を保護し,並びに快適な生活環境及び良好な自然環境を保全する上で,維持されることが望ましい基準を定めなければならないとし,これを受け,京都市環境保全基準(甲7)が,大気汚染や騒音等に係る環境保全の基準値を具体的に定めているところ,これらの規定は,公園施設が環境保全の基準値を充たすことを通じて,周辺住民の健康又は生活環境に著しい被害が及ばないようにする趣旨を含むと解される。

d 災害対策基本法の趣旨及び目的

災害対策基本法1条は,同法の目的として,国土並びに国民の生命,身体及び財産を災害から保護するため,防災に関し,国,地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し,総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り,もって社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを挙げ,42条1項は市町村の地域に係る市町村地域防災計画の作成を定め,同項を受け,京都府地域防災計画が広域避難地の基準を詳細に定め,京都市地域防災計画が市内の広域避難場所を指定しているところ,これらの規定は,公園を広域避難場所と指定することを通じて,その周辺住民の生命及び身体という重要な利益を災害から保護する趣旨を含んでいると解される。

イ 被侵害利益の内容及び性質

公園施設設置許可処分において考慮されるべき利益を検討する際には,それが根拠法令に反してされた場合に害されることになる利益の内容,性質,程度等を勘案すべきところ,以下の諸点から,違法な公園施設設置許可処分により周辺住民が被る不利益は大きい。

(ア) 公園施設設置許可処分が根拠法令に反してされると,都市公園の自由利用の権利が害される。

(イ) 公園施設設置許可処分が根拠法令に反してされると,災害時に周辺住民の生命,身体,財産の安全が害される。

(ウ) 水族館施設設置許可処分が根拠法令に反してされると,日常的には大量の自動車交通が集中することによる大気汚染やイルカショーなどの騒音等の被害が発生し,上記被害を日常的に反復・継続して受ける場合には,健康や生活環境に著しい被害をもたらす。

(2)  被告の主張

行訴法上,原告適格が認められるためには,処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有することが必要であるところ,以下のとおり,都市公園法等本件処分の根拠となる法令は,原告らの個別的利益を保護するものではなく,上記の法律上の利益を基礎付けるものではないから,原告らは本件処分の取消しを求める原告適格を有しない。

ア 都市公園法は,都市公園の健全な発達を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的としている(1条)ところ,都市公園は,人々のレクリエーションの空間となるほか,良好な都市景観の形成,都市環境の改善,都市の防災性の向上,生物多様性の確保,豊かな地域づくりに資する交流の空間などの機能を有しており,これらの機能がもたらす利益は,都市公園を利用する不特定多数者及び住民全体の利益というべきものであって,それは,性質上,一般的公益に属するものであるから,同法は,都市公園の健全な発達を通してこれらの機能を発揮させるという,一般的公益の実現をその目的としているということができる。

イ 都市公園法5条2項は,公園施設の設置許可の要件として,公園管理者の直営の不適当若しくは困難又は公園管理者以外の設置管理による都市公園の機能の増進を規定するところ,これらの要件が規定された趣旨は,上記アで述べた都市公園の機能及び公園施設自体の機能の増進という一般的公益の実現を図ることにあると解される。

ウ 都市公園法及び関係法令に,施設設置許可に際し周辺住民の意見を聴くなど周辺住民が許可手続に関与する旨の規定や,周辺の住宅や病院等特定の施設から一定の距離の範囲内には公園施設を設置してはならない旨のいわゆる位置基準の規定は一切存在しないことからも,周辺住民の個別的利益は保護されていないというべきである。

第3当裁判所の判断

1  取消訴訟の原告適格について

(1)  行訴法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

(2)  そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項)。

2  都市公園法5条2項に基づく公園施設設置許可処分の取消訴訟における公園利用者及び公園近隣居住者の原告適格

(1)ア  都市公園法5条1項は,公園管理者以外の者は,都市公園に公園施設を設け,又は公園施設を管理しようとするときは,条例(国の設置に係る都市公園にあっては国土交通省令)で定める事項を記載した申請書を公園管理者に提出してその許可を受けなければならないとし,同条2項は,公園管理者は,公園管理者以外の者が設ける公園施設が同項各号のいずれかに該当する場合に,同条1項の許可をすることができる旨規定する。

イ(ア)  「公園施設」について,都市公園法2条2項は,都市公園の効用を全うするため当該都市公園に設けられる施設で,植物園,動物園,野外劇場その他の教養施設で政令で定めるもの(6号),売店,駐車場,便所その他の便益施設で政令で定めるもの(7号)を挙げ,同法施行令5条5項1号は,同法2条2項6号の政令で定める教養施設として水族館を,同法施行令5条6項は,同法2条2項7号の政令で定める便益施設として売店をそれぞれ挙げている。

(イ) 都市公園法は,「都市公園の効用」について,特に定めを置いていないが,同法2条1項1号は,地方公共団体が設置する都市公園を,都市計画施設(都市計画法4条6項に規定する都市計画施設をいう。)である公園又は緑地で地方公共団体が設置するもの及び地方公共団体が同法4条2項に規定する都市計画区域内において設置する公園又は緑地で,その設置者である地方公共団体が当該公園又は緑地に設ける公園施設を含むものと定義しており,同法4条6項は,「都市計画施設」を都市計画(都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための土地利用,都市施設の整備及び市街地開発事業に関する計画で,同法第2章の規定に従い定められたもの。同法4条1項参照。)において定められた同法11条1項各号(なお,2号に「公園」が掲げられている。)に掲げる施設と定義している。

そして,同法53条1項は,都市計画施設の区域において建築物の建築をしようとする者は,国土交通省令の定めるところにより,都道府県知事等の許可を受けなければならないとしつつ,同項3号において,都市計画事業の施行として行う行為又はこれに準ずる行為として政令で定める行為についてはこの限りでないとし,同法施行令37条の2は,上記政令で定める行為は,国,都道府県若しくは市町村又は当該都市計画施設を管理することとなる者が当該都市施設に関する都市計画に適合して行うものと定めており,当該都市計画施設を管理する者が,都市計画施設の区域において,当該都市施設に関する都市計画に適合して行う建築物の建築については,同法53条1項の許可を要しないものとしている。これらの規定によれば,都市計画施設の区域内における建築物の建築を規制する同法及び同法施行令の規定は,当該建築物の建築が,当該都市施設に関する都市計画に適合して行われるべきことを要請していると解するのが相当である。

上記の各規定から,都市公園の効用は,都市計画施設としての効用,すなわち都市計画で定められた都市施設としての効用を含んでおり,公園施設として当該都市公園の区域内に建築物が建築される場合には,当該公園施設の建築は,都市計画施設としての都市公園の効用を全うするものでなければならず,当該都市公園に関する都市計画に適合するように行われることが必要と解される。

(ウ) また,都市公園法3条1項が,地方公共団体が都市公園を設置する場合においては,政令で定める都市公園の配置及び規模に関する技術的基準に適合するように行うものとし,これを受けた同法施行令2条1項が,地方公共団体が同項各号に掲げる都市公園を設置する場合においては,それぞれの特質に応じて当該市町村又は都道府県における都市公園の分布の均衡を図り,かつ,防火,避難等災害の防止に資するよう考慮するものとする旨定めていることから, 都市公園の効用には,防火,避難等災害の防止に資することが含まれていると解され,公園施設は,そのような都市公園の効用を全うするため当該都市公園に設けられるものであることが必要と解される。

(エ) 本件処分は,都市公園法5条2項に基づいてされているところ,上記(イ)のとおり,「公園施設」該当性に関連して,同項と目的を共通にする関係法令と解される都市計画法の各規定は,公園施設の建築が,当該都市公園に関する都市計画に適合するように行われることをその趣旨に含んでおり,また,都市公園法3条1項及び同法施行令2条1項は,公園施設が,当該市町村又は都道府県における防火,避難等災害の防止に資するという都市公園の効用を全うするものであることを,その趣旨に含んでいるということができる。

ウ  そして,当該都市公園において,都市公園の効用を全うするとはいえない施設について設置許可がされ,これにより都市計画で定められた防災機能や,防火,避難に関する一般的な機能が確保された都市公園の存続が阻害された場合,災害が発生した場合に生命又は身体に著しい被害を直接的に受けるのは,当該都市公園の周辺の一定範囲の地域に居住する住民に限られる。また,かかる被害を受けるおそれは,当該施設が,上記設置許可の期間中,当該都市公園内に存在する限り,継続的に生じるものである。このような,都市公園法5条2項に基づき,都市公園の効用を全うするとはいえない施設について設置許可処分がされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度に照らすと,同項に基づく設置許可処分において考慮すべき,当該都市公園の周辺の一定範囲の地域に居住する住民の上記利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものというべきである。

エ  以上のような都市公園法5条2項の関係法令の趣旨及び目的,同項の規定が「公園施設」の設置許可の制度を通じて保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すると,同項の規定は,公園管理者以外の者による公園施設の設置及び管理を規制することにより,都市公園の健全な発達を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的としつつ(同法1条),当該都市公園において,都市公園の効用を全うするとはいえない施設について設置許可がされ,これにより防火,避難等に関する機能が確保された都市公園の存続が阻害されることによって,災害が発生した場合に生命又は身体に著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対し,そのような被害を免れる利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。

そして,当該都市公園の周辺に居住する住民のうち,当該都市公園に都市公園の効用を全うするとはいえない施設が設置されることにより,地震や火災等の災害時に生命又は身体に著しい被害を受けるおそれのある者,すなわち,災害時に当該公園を避難場所として利用する蓋然性が客観的に高いと認められる者は,その利用により上記被害を免れる利益をもって,当該施設に係る同法5条2項の許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。

オ  被告の主張について

(ア) 被告は,①都市公園法5条2項の許可の要件として,公園管理者の直営の不適当若しくは困難又は公園管理者以外の設置管理による都市公園の機能の増進があり,②公園施設に関する法令上の基準として,公園施設として設けられる建築物の建築面積が都市公園の敷地面積に占める割合並びに公園施設の安全上及び衛生上必要な構造がある(同法4条)が,それらはいずれも都市公園の機能及び公園施設自体の機能の保持・増進を図るものにすぎず,同法が保護しようとしているのは,都市公園の機能の発揮による公共の福祉の増進という一般的公益であり,原告適格を基礎付けるに足りない旨主張する。

しかしながら,上記の要件及び基準は,飽くまでも,都市公園の効用を全うすると認められる「公園施設」について,その設置・管理の許可の要件・基準を定めたものであり,都市公園の効用を全うするとは認められないもの,すなわち「公園施設」と認められないものについては,上記の要件及び基準の適用を待つまでもなく,その設置・管理の許可をすることが許されないのであって,被告の指摘する上記要件及び基準に関する定めは,上記エに説示した原告適格を否定する根拠とはならないというべきである。

(イ) 被告は,都市公園法施行令2条1項の規定は,公園施設ではなく都市公園そのものの配置及び規模に関する基準を定めるものであり,公園施設設置許可の取消しを求める法律上の利益と関連を見出だし難いと主張する。

しかしながら,上記イ(ア)のとおり,公園施設は都市公園の効用を全うするため当該都市公園に設けられる施設であり,「公園施設」該当性を判断するに当たり,都市公園の効用は必ず考慮すべき要素といえるところ,上記イ(ウ)のとおり,同施行令2条1項は,地方公共団体が同項各号に掲げる都市公園を設置する場合において,防火,避難等災害の防止に資するよう考慮するものとする旨定めていることからすれば,同項は,都市公園の効用について規定する法令として,公園施設設置許可の根拠法令と関連性を有しているというべきである。

(ウ) 被告は,都市公園の設置の場面では,都市計画法と都市公園法の両者が適用される場合もあり,その目的を共通にすると解し得る余地があるものの,都市公園の管理について,都市計画法に何ら規定がないことからすれば,都市公園の管理の場面において,都市計画法と都市公園法が目的を共通にしているとは解し難いと主張する。

しかしながら,都市公園の管理の場面において,当該都市公園の効用を維持しなくてよいと解すべき理由はなく,当該都市公園が都市計画に定められた都市施設(都市計画施設)である場合には,上記イ(イ)において説示したとおり,当該都市公園の効用は,都市計画施設としての効用を含み,公園施設たる建築物を都市計画施設たる都市公園の区域内に建築するに当たっては,それが当該都市公園に関する都市計画に適合して行われることが求められていると解され,その限りにおいては目的を共通にしていると解し得るから,上記主張は採用できない。

(エ) 被告は,都市計画事業としての認可期間が経過し,都市計画事業としての整備が終了している都市公園については,都市計画法の趣旨が及ぶものではない旨主張するようである。

しかしながら,都市計画施設は都市計画事業により計画どおり完成した後も都市計画施設として存在し,これに対して都市計画施設としての目的に反する行為を排除する必要がある上,都市計画施設の設置が都市計画事業によるか否かにより都市計画法53条1項の適用の有無を異にするとは解し難いことなどから,都市計画施設の区域内においては,都市計画事業完了後においても同項の趣旨が及ぶと解され,上記主張は採用できない。

(オ) 被告は,公園施設設置許可に当たり,周辺住民の意見を聴くなど,その防災に関する利益を具体的に保護するための制度はなく,上記利益は一般的な利益にすぎない旨主張するが,上記のような意見聴取の手続が設けられていないとしても,災害時に当該公園を避難場所として利用する蓋然性が客観的に高いと認められる者が,その利用により,地震や火災等の災害時に生命又は身体に及ぶ著しい被害を免れる利益が法律上保護された利益に当たることが否定されるとまではいえないと解される。

(2)  本件の原告らの原告適格の有無

ア 証拠(甲10)によれば,京都府知事は,平成3年12月19日,都市計画法18条1項,21条1項に基づき,京都府都市計画地方審議会に対し付議した上,「京都都市計画(京都国際文化観光都市建設計画)公園の変更(知事決定)」と題する決定を行い,都市計画に本件公園を追加し,その理由において,同都市計画が,本件公園予定地周辺地域に都市公園を追加し,周辺地域住民の避難地としての防災機能を備えた公園として整備するものであるとしていたことが認められるが,証拠(甲11)によれば,災害対策基本法42条1項に基づき作成された京都市地域防災計画においては,広域避難場所として,別紙広域避難場所一覧表記載の広域避難場所を指定しているものの,当該広域避難場所に避難すべき住民は定められていないことが認められ,同計画から災害時に本件公園を避難場所として利用すべき原告を確定することは困難である。

もっとも,原告らの居住場所(住所)と本件公園(京都市α×番地1ほか)との位置関係により,本件公園が最も近い避難場所であると認められる場合には,そのような原告は,災害時に本件公園を避難場所として利用する蓋然性が客観的に高いといえるから,その位置関係を個別に検討するのが相当である。

イ 原告1~6,9~18,20~70について

証拠(甲11,28~38)及び弁論の全趣旨によれば,同原告らは,その住所が本件公園に近接した地区にあるか又は最寄りの広域避難場所(京都市における広域避難場所は別紙広域避難場所一覧表のとおりである。)が本件公園である(なお,各広域避難場所までの距離は直線距離で対比した。後記ウ,エにおいても同様である。)者であることが認められ,同原告らは,本件公園を避難場所として利用する蓋然性が客観的に高いと認められるから,上記(1)エの利益を自己の法律上の利益として,本件処分の取消しを求める原告適格を有するというべきである。

ウ 原告7について

同原告の住所は,京都市β×番地であるところ,証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば,上記住所の最寄りの広域避難場所は,C又はDであることが認められ,同原告は,本件公園を避難場所として利用する蓋然性が客観的に高いとは認められないから,上記(1)エの利益を自己の法律上の利益として,本件処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。

エ 原告8について

同原告の住所は,京都市γ×-5であるところ,証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば,上記住所の最寄りの広域避難場所は,E公園(F周域)であることが認められ,同原告は,本件公園を避難場所として利用する蓋然性が客観的に高いとは認められないから,上記(1)エの利益を自己の法律上の利益として,本件処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。

オ 原告19について

同原告の住所は,滋賀県彦根市δ×-1であり,同原告は,本件公園を避難場所として利用する蓋然性が客観的に高いとは認められないから,上記(1)エの利益を自己の法律上の利益として,本件処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。

カ 原告71について

同原告の住所は,京都市ε×-30であるところ,証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば,上記住所の最寄りの広域避難場所は,京都府警察自動車運転免許試験場であることが認められ,同原告は,本件公園を避難場所として利用する蓋然性が客観的に高いとは認められないから,上記(1)エの利益を自己の法律上の利益として,本件処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。

(3)  原告らのその余の主張について

ア 原告らは,本件公園を日常的に利用する周辺住民は本件処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するとし,その根拠として,本件処分の根拠となる法令の趣旨及び目的について上記第2の3(1)アのとおり主張し,被侵害利益の内容及び性質について上記第2の3(1)イのとおり主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができず,都市公園法5条2項が,本件公園を日常的に利用する周辺住民の利益を,一般的公益の中に吸収解消させるにとどまらず,個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできない。

(ア) 都市公園法及び同法施行令の趣旨及び目的について

a 原告らは,都市公園法は,何人も他人の共同使用を妨げない限度で,その用法に従い,自由に使用することができるという,都市公園の自由利用の原則を前提としているとし,同法8条,11条4号等は,住民が健康又は生活環境に係る著しい被害を受けることなく都市公園を自由に利用できるようにする趣旨を含んでいる旨主張する。

b しかしながら,都市公園法11条4号が,国の設置に係る都市公園における行為を禁止したものであることをおいても,都市公園は広く一般の利用に供されているものであり,一般国民,市民が都市公園を通常利用する利益は,当該公園の存在を前提として認められる反射的利益(都市公園管理者が当該都市公園を公共の用に供している限りにおいて自由に当該都市公園を利用することができる利益)にとどまるものであると解され,同法8条が公園管理者は同法5条2項の許可に都市公園の管理のために必要な範囲で条件を付することができるとし,同法11条4号が公衆の都市公園の利用に著しい支障を及ぼすおそれのある行為を禁止している趣旨は,公園の適正な管理を図ることによって広く公益を実現することにあり,そこで考慮されているのは,一般に都市公園を利用する国民ないし地域住民が共通してもつ抽象的,一般的な利益であるというべきであり,個々の利用者の利益は,同条が目指す公益の中に吸収解消され,公益の保護を通じてその結果として保護されるべきものと解され,都市公園法のその他の規定にも,住民が都市公園を自由に利用できる利益を個別的に保護する趣旨の定めを見出すことはできないから,都市公園法が,住民が健康又は生活環境に係る著しい被害を受けることなく都市公園を自由に利用できるようにする利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を有していると解することはできない。

c また,上記(1)イ(ウ)のとおり,都市公園法施行令は,都市計画施設である都市公園の設置の際に,防火,避難等災害の防止に資するよう配慮することをその趣旨に含んでいるということができるが,都市公園法及び同法施行令は,基本的には,都市公園の健全な発達及びこれによる公共の福祉の増進を目的とするものであり(同法1条),都市公園の設置及び管理に関する基準等を定める同法及び同法施行令の規定の内容に照らしても,上記以上に進んで,原告らの主張に係る,本件公園を日常的に利用する周辺住民の,健康又は生活環境に係る著しい被害を受けることなく都市公園を自由に利用できる利益を,一般的公益の中に吸収解消させるにとどまらず,個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできない。

(イ) 本件処分の根拠となる法令の趣旨及び目的を考慮するに当たって参酌すべき関係法令について

a 環境基本法について

原告らは,都市計画法が,本件処分の根拠法令と目的を共通にする関係法令に該当するところ,都市計画法の規定が,事業に伴う大気汚染,騒音等によって,事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もって健康で文化的な都市生活を確保し,良好な生活環境を保全することも,その趣旨及び目的とするものと解されることから,環境基本法は,都市計画法と目的を共通にする関係法令といえ,本件処分の根拠法令の趣旨及び目的を考慮するに当たって,環境基本法の趣旨及び目的を参酌すべきであると主張する。

都市計画法13条1項は,都市計画区域について定められる都市計画は,当該都市について公害防止計画が定められているときは,当該公害防止計画にも適合するように定めなければならない旨規定し,環境基本法は,上記公害防止計画の根拠法令となると解されるが,都市計画法13条1項の定めは,都市計画区域について定められる都市計画自体が環境基本法を根拠とする公害防止計画に適合することを求めているにすぎず,それとは異なり,既に決定された都市計画に定められた都市計画施設たる都市公園における公園施設の設置許可の場面で,直ちに公害防止計画やその根拠法令たる環境基本法に適合することを考慮すべきとする根拠を都市計画法に見出すことはできず,同設置許可についてまで環境基本法の趣旨を考慮すべきことが要請されていると解することは困難といわざるを得ないから,環境基本法を,本件処分の根拠となる法令の趣旨及び目的を考慮するに当たって参酌すべき関係法令に当たると解することはできない。

b 京都市環境基本条例について

原告らは,京都市環境基本条例は,京都市が,環境基本法の規定を受けて,環境の保全に関し,同市の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定したものであるから,本件処分の根拠法令と目的を共通にする関係法令といえる旨主張するが,上記aのとおり,環境基本法を,本件処分の根拠となる法令の趣旨及び目的を考慮するに当たって参酌すべき関係法令に当たると解することはできないから,原告らの上記主張は採用できない。

c 原告らは,京都市市民参加推進条例(平成15年条例第2号。以下「市民参加推進条例」という。乙9)9条2項が,市長等は,市政に関する基本的な計画の策定又は改廃,重要な制度の創設又は改廃その他の行為で別に定めるもの(京都市市民参加推進条例施行規則(平成15年規則第44号。乙10)4条1項各号に掲げる政策等)を行うときは,パブリック・コメント手続(政策等について,その目的,内容その他の事項を公表し,広く市民の意見を募集し,当該意見に対する同市の見解を公表し,当該意見を勘案して意思決定を行う手続をいう。)を行わなければならないと定めていることから,本件処分については,市民が関与する手続が条例上設けられており,この点からも,住民が公園施設設置により健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという利益が個別的利益としても保護されている旨主張するが,市民参加推進条例及び同条例施行規則の上記の定めは,市政に関する計画の策定又は改廃,制度の創設又は改廃,条例の制定又は改廃に係る案の策定等についての意見を募集するものであり,個別の行政処分について意見を募集するものではないから,これを本件処分の根拠となる法令の趣旨及び目的を考慮するに当たって参酌すべき関係法令に当たると解することはできず,原告らの上記主張は採用できない。

d 原告らは,京都市土地利用の調整に係るまちづくりに関する条例(平成12年条例第6号。乙11)8条1項が,開発事業(都市計画法4条12項に規定する開発行為,建築基準法2条13号に規定する建築(新築及び増築に限る。)及び同法87条1項の規定による建築物の用途の変更をいう。同条例2条2号)の構想(開発構想)について良好なまちづくりの推進を図る見地からの意見を有する者は,一定期間中に,市長に意見書を提出することができる旨規定していることから,本件処分については,市民が関与する手続が条例上設けられており,この点からも,住民が公園施設設置により健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという利益が個別的利益としても保護されている旨主張するようである。

しかしながら,同条例の上記各規定からは,都市計画法4条12項の開発行為の許可(同法29条1項),建築基準法2条13号の建築及び87条1項の建築物の用途の変更に対する確認(同法6条1項)について同条例の上記各規定を参酌する余地があるとはいい得るものの,上記各規定を公園施設設置処分たる本件処分の根拠となる法令の趣旨及び目的を考慮するに当たって参酌すべき関係法令に当たると解することはできず,原告らの上記主張は採用できない。

(ウ) 関係法令とりわけ都市計画法の趣旨及び目的について

原告らは,都市計画法2条は,都市計画の基本理念として,健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきことを挙げ,13条1項11号は,都市計画の基準として,都市施設については良好な都市環境を保持するように定めることとしており,これらの各規定は,都市計画施設である都市公園を日常的に利用する住民の,健康又は生活環境に著しい被害を受けないという利益を保護する趣旨と解される旨主張する。

しかしながら,同法2条や同法13条1項11号の定めは,その規定自体から,いずれも一般的な公益としての都市機能や都市環境等の保護という域を超えて個々の住民の個別具体的な環境上の利益の保全を目的とする趣旨を含むと解することはできず,都市計画法の他の規定を参酌しても,同法が,都市公園を日常的に利用する住民の,健康又は生活環境に著しい被害を受けないという利益を保護する趣旨を含んでいると解することはできない。

(エ) 被侵害利益の内容及び性質について

原告らは,違法な公園施設設置許可処分により,都市公園の自由利用の権利が害されるとともに,日常的には大量の自動車交通が集中することによる大気汚染やイルカショーなどの騒音等の被害が発生し,上記被害を日常的に反復・継続して受ける場合には,健康や生活環境に著しい被害をもたらすと主張する。

しかしながら,上記(ア)ないし(ウ)において検討したとおり,都市公園法5条2項及びこれと目的を共通にする関係法令が,都市公園の自由利用の権利や,住民の,健康又は生活環境に著しい被害を受けないという利益を,個別的利益として保護する趣旨を含んでいると解することはできないから,同項に反する公園施設設置許可処分により原告らの主張に係る上記権利・利益が侵害されると解することもできないというべきである。

イ なお,原告らは,都市計画法59条による都市計画事業の認可の取消訴訟に関して事業地の周辺住民の原告適格を認めた最高裁平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁が,都市計画事業の認可に関する同法の規定は,事業に伴う騒音,振動等によって事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止すること等も趣旨及び目的とするものと解されるなどとして,同法が,騒音,振動等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である旨判示していることを根拠として,同法と目的を共通にする関係法令である都市公園法が,公園の周辺住民及び公園を日常的に利用する住民に対して,公園施設設置によって健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益及び同被害を受けることなく都市公園を自由に利用するという具体的利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含んでいる旨主張する。

しかしながら,同判決において取消訴訟の対象とされた都市計画事業の認可と都市計画施設たる都市公園内における公園施設の設置許可とでは,事柄の性質上,根拠規定,処分の内容・性質及び周辺の地域に与える影響が本質的に異なる上,同判決においては,都市計画事業の認可に関しては,都市計画法59条等の規定のほか,公害防止計画の根拠法令である公害対策基本法等の規定の趣旨・目的をも参酌し,都市計画事業の認可において考慮されるべき利益の内容,性質等を考慮した上で,上記判示をしたものであるのに対し,都市公園法上の公園施設の設置許可に関しては,上記アにおいて検討したとおり,環境基本法や京都市環境基本条例を,処分の根拠法令の趣旨及び目的を考慮するに当たって参酌すべき関係法令に当たると解することはできないのであり,都市計画事業の認可と公園施設の設置許可とでは,参酌すべき関係法令も異にするというべきである。

このように,根拠規定,処分の内容・性質及び周辺の地域に与える影響並びに参酌すべき関係法令を異にする都市計画事業の認可に関する同判決の判示から,都市公園法が,公園の周辺住民及び公園を日常的に利用する住民に対して,公園施設設置によって健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益及び同被害を受けることなく都市公園を自由に利用するという具体的利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含んでいると解することはできないというべきである。

3  結論

以上によれば,原告らのうち,原告1~6,9~18及び20~70については,被告の本件処分の取消しを求める原告適格を有しない旨の主張に理由がないが,その余の原告ら(原告7,8,19及び71)は,原告適格を欠き,本件各訴えのうち,同原告らによる訴えは不適法であり却下を免れない。

よって,主文第1項のとおり中間判決するとともに,主文第2項及び第3項のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧華聡之 裁判官 梶山太郎 裁判官 高橋正典)

裁判官梶山太郎及び裁判官高橋正典は,転補につき署名押印できない。

裁判長裁判官 瀧華聡之

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