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京都地方裁判所 平成23年(ワ)1274号 判決 2012年10月24日

原告

X株式会社

被告

滋賀県

主文

一  被告は、原告に対し、六七万五九〇九円及びこれに対する平成二三年一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一四〇万五二四四円及びこれに対する平成二三年一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告の従業員が運転するタンクローリーが、被告が管理する国道を走行して対向車と離合する際に左に寄ったところ、除雪作業によって道路と側溝との識別ができないような状態にしていた等の道路の設置又は管理上の瑕疵のために、車道部分と側溝の区別ができずに側溝に進出して脱輪する事故に遭ったとして、被告に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)二条一項に基づき原告所有の上記車両損害等の損害賠償及びこれに対する事故日より後の日である平成二三年一月二八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等(末尾に証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。特に断らない限り、証拠番号には枝番を含む。)

(1)  当事者

原告は、肩書地を本店として貨物自動車運送事業、高圧ガスの運送事業等を目的とする株式会社である。

被告は、後記の本件事故現場付近の国道を管理しており、高島土木事務所に除雪作業を所管させている。

(2)  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

ア 発生日時 平成二三年一月二七日午後二時四五分ころ

イ 発生場所 滋賀県高島市今津町保坂国道三〇三号線(以下「本件道路」という。)の小浜方面行き車線(以下「小浜行車線」という。)上のa株式会社から小浜方面へ約三km、保坂交差点から今津方面へ約一kmの地点(以下「本件事故現場」という。)

ウ 事故車両及び事故態様

原告の従業員であるA(以下「A」という。)が運転する原告所有の一〇トンタンクローリー(車幅二・四九m、以下「原告車」という。)が、小浜行車線の左側にある無蓋の側溝に左前輪タイヤ一本及び後輪タイヤ五本を脱輪させ、自力で脱出不能となった。(弁論の全趣旨、原告車の車幅につき乙五)

二  争点及びこれに対する当事者の主張

(1)  事故態様及び国賠法二条一項の「瑕疵」の有無

(原告の主張)

ア Aが原告車を運転して本件道路の小浜行車線を走行し、本件事故現場に差し掛かったところ、対向車線である今津方面行き車線(以下「今津行車線」という。)上に、斜めにはみ出る形で被告の除雪作業車数台が停車していた。原告車の対向車は、上記作業車を避けるため、センターラインを超えて膨らんで走行し、原告車の進行を妨げるような形となったことから、Aは円滑な離合をするために路肩に寄ろうとした。ところが、本件事故発生直前に、被告の除雪車が小浜行車線の側溝の上部分も除雪して本件道路と見分けがつかない状態にしていたために、Aは無蓋側溝の存在を認識することができないまま、本件道路の左側一杯に寄ったため、原告車の左側前輪タイヤ一本及び後輪タイヤ五本が側溝にはまり、自力で脱出不能となった。

イ 本件道路の片側車線の幅員は二・八mと狭く、その外側に無蓋側溝があり、車幅のある車両が少しでも左に寄ると、道路端ぎりぎりを走行することになるところ、原告車の車幅は二・四九mであったから、まさに脱輪の危険のある道路であった。そして、本件事故現場の手前までは無蓋側溝が盛土で埋まり、大型車両が通行可能な状況であり、路肩を利用する車両からすれば、進行中に突如として無蓋側溝となるため、脱輪事故の可能性が極めて高かった。それにもかかわらず、被告は、無蓋側溝の上を除雪し、側溝を路肩部分及び道路部分と平らに均したのと同じ結果をもたらし、積雪・降雪による視認状況の悪い当時の天候の下で、運転者をして、無蓋側溝部分の存在を認識することを著しく困難にした。電柱は、小浜行車線に面した側溝のさらに外側に位置しており、これを目安として道路と側溝の位置を判断することはできず、かえって、電柱を目安として道路と側溝を見分ける運転者の脱輪事故を誘発する危険性を有していた。これらの脱輪事故は、本件事故の前後に頻発しており、事故の発生を十分に予測しうる状況にあった。

以上の事情に照らせば、本件道路は、本件事故当時、通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態であり、設置又は管理に瑕疵があったことは明らかである。

(被告の主張)

ア 被告の除雪作業車は、本件道路の車線にはみ出して停車した事実はなく、原告の主張する態様での事故の発生は認められない。また、仮に、原告主張の態様を前提としたとしても、Aは、減速走行しており、対向車を認識した時点で少なくとも四〇mもの距離があったのであるから、その場で停止するか、車線を逸脱することなくさらに減速すれば、対向車との離合は優に可能であった。

イ 国賠法二条一項の「設置又は管理に瑕疵」の判断に際しては、道路について絶対的な安全性を要求することは不可能であるから、道路が通常有すべき安全性とは、運転者の常識的秩序ある利用方法を期待した相対的安全性の具備をもって足りるというべきである。

被告とすれば、本件道路の常時交通確保のためには、路肩に堆積した雪堤を排雪し、必要幅員を確保するとの「拡幅除雪」の方法しか採り得ず、そのような除雪方法を講ずれば道路管理者としては十分であり、あとは運転者の慎重な運転操作に期待するほかない。

ところが、Aは、上記のとおり、車線を逸脱することなく離合できるにもかかわらず、安易に車線を逸脱して脱輪事故を惹起しており、過失は極めて重大である。また、滋賀県道路交通法施行細則一一四条(1)により、積雪時にタイヤチェーン等を取り付けて滑り止めの措置を講ずることが義務づけられているのに、Aはこれを怠って走行しており、スリップの危険性が高く、実際に原告車がスリップして脱輪に至った可能性は十分に考えられる。本件事故現場の手前にある路肩外側の盛土部分には、原告車のものと思われるタイヤ痕があり、側溝の側にある電柱は明らかに原告車に接触する形で傾いており、原告車は、側溝にはまる前から本車線だけでなく路肩をも逸脱していたことが推認される。このような原告車の運転態様は危険であり、仮に、被告が側溝部分の上を除雪していなかったとしても、原告車は、盛土部分からそのままの勢いで側溝にはまって脱輪した可能性が高い。

以上によれば、運転者であるAは慎重な運転操作を欠いていたために本件事故が生じたものであって、本件道路に設置又は管理の瑕疵は認められない。

(2)  原告に生じた損害額

(原告の主張)

本件事故により、原告に以下の合計一四〇万五二四四円の損害が発生した。

ア 原告車の吊り上げ・引き出し作業費 二六万七一〇五円

イ 原告車の修理費 三七万二〇八九円

ウ 原告車の漏洩点検費 四万五一五〇円

エ 休車損害 二二万〇九〇〇円

オ 弁護士費用 五〇万円

(被告の主張)

否認する。

第三当裁判所の判断

一  事故態様及び国賠法二条一項の「瑕疵」の有無(争点(1))について

(1)  前記の争いのない事実等、証拠(甲一ないし四〇、乙一ないし二六、(なお、書証番号には枝番号も含む。)、証人A(以下「証人A」という。)、証人B(以下「証人B」という。)、証人C(以下「証人C」という。)、証人D(以下「証人D」という。))及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 事故現場の状況

本件道路は、滋賀県今津市方面から福井県小浜市方面を結ぶ国道で、平成二二年度の一日平均交通量が七六九九台、全通行車両のうち大型車の占める割合は約四三%であり、滋賀県から福井県に繋がる主要な道路であった。(乙一一、弁論の全趣旨)

本件事故現場は、山間部を走る本件道路の小浜行車線上にあり、本件事故現場付近において、小浜行車線は、車道本線幅約二・八m、路肩約〇・四mを有し、さらにその外側に幅約〇・五m、最深部約〇・六八mの側溝が設けられている。その外側には、電柱が設置され、さらに外側が緩やかな斜面となって木が植わっている。その対向車線の今津行車線は、車道本線幅約二・七五m、路肩約〇・七五mを有し、外側に幅約〇・四mの側溝が設けられている。(乙一)

本件道路の側溝は、上記のように小浜行車線及び今津行車線の両側に設けられているが、側溝に蓋が設けられている有蓋側溝、蓋のない開口部を有する無蓋側溝、盛土により側溝が埋め立てられている側溝(以下「盛土側溝」ともいう。)が一定区間ごとに規則性なく混在している。本件事故現場付近においては、同現場を境として、小浜方面行車線の今津方面寄り九〇mほどは、盛土側溝となっているが、その手前は無蓋側溝であり、本件事故現場付近から小浜方面に向けてさらに無蓋側溝が続いている。(乙一二)

本件事故現場から今津方面に向けて約四・九五畑の地点には、道路情報板が設けられ、本件事故当時、電光表示により「除雪作業中、片側通行規制有」との表示がなされていた。(乙四の二)

イ 本件事故前後の天候及び除雪作業について

上記のとおり、本件道路が交通の要となっていることから、被告における道路除雪計画における除雪区分では、本件道路は「第一種」に区分され、原則として二車線以上の幅員を確保して常時交通を確保することとされていた。(乙三)

本件事故の前日である平成二三年一月二六日午前四時二一分に風雪注意報、同日午前一一時五三分に大雪風雪注意報が出され、同日午後四時から翌二七日午前八時までの間に、二〇cmもの降雪があり、積雪は一mを超え、この冬一番の降雪、積雪を記録していた。気象予測では、その後もさらなる降雪、積雪が予測されていた。(乙二の一)

被告は、同月二六日の夜間に除雪ドーザで本件道路上に降り積もった雪を路肩に寄せる通常の除雪作業を行った。そして、連続して行われた除雪作業により、路肩の雪が大きく道路に迫りだし、道路の必要幅員の確保が困難となり、交通の支障となりうることから、路肩の雪堤を排除して、その後の除雪作業に備える拡幅除雪を行う必要があり、翌二七日の日中に、除雪ドーザ及びロータリー除雪車を用いて、拡幅除雪を行うこととなった。具体的には、除雪ドーザが道の端にある雪を道路中央へかき集め、ロータリー除雪車がこれを掻き出し回転させて路外へ飛ばすという方法が採られた。この拡幅除雪により、路肩の雪堤の雪が排除され、側溝上の雪も道路と同様に除雪されることになった。作業は、本件道路を一定区間に区切って片側一車線ずつ行われ、作業中は両車線ともに当該区間を通行止めにしていた。作業に当たっては、除雪ドーザ及びロータリー除雪車の前後にパトロール車を一台ずつ配置して、通行規制に当たらせていた。

本件事故当日の午前中に本件道路の小浜行車線の拡幅除雪が完了し、午後から今津行車線の拡幅除雪作業が行われた。(乙一六)

本件道路の側溝上を拡幅除雪の方法により除雪し、その後積雪した場合には、道路部分と側溝部分の判別は困難な状況となる。

ウ 本件事故について

Aは、平成二三年一月二七日午後二時四五分ころ、本件道路の小浜方面行車線を走行し、本件事故現場付近に差し掛かった。上記のとおり、小浜行車線の拡幅除雪は、同日の午前中に終了しており、路肩を示す白線やセンターラインは雪で埋まり、側溝の上にも積雪が残り、側溝と道路との識別をするのは著しく困難な状態となっていた。

本件事故現場の小浜方面寄りには、除雪作業をいったん中断あるいは終了した後である除雪ドーザ、ロータリー除雪車及びパトロールカーが今津方面行車線沿道の店舗駐車場付近にいて、本件道路に車体の一部が進出してたため、今津行車線を走行する大型車が通行しにくい状態となっていた。そのため、原告車の対向車である大型貨物車は、センターライン付近寄りに進路を取って本件道路を走行して来ており、Aは対向してくる同車両を約四〇m前方に認めた。そこで、Aは、徐行した上で、安全に離合するために小浜行車線の左端の路肩を走行しようと、小浜行車線の左側に進行したところ、側溝と道路の区別がつかなかったことから側溝上に進出してしまい、側溝に前輪タイヤ一本と後輪タイヤ五本を脱輪させた。

エ その他の事故及び危険防止策について

(ア) 同日午後三時三〇分ころ、本件事故現場付近の本件道路の今津行車線で、離合の際に路肩を利用しようとしたトレーラーと大型トラックが田に転落して脱輪するという事故が発生した。このときの報告書には、必要以上に道を拡幅したことが原因である旨が記載されていた。(甲二一、証人C一七頁)

(イ) 平成二四年二月二日にも、本件道路の今津行車線上で大型貨物自動車による脱輪事故が二件発生している。(甲三三、三四)

(ウ) 本件事故現場からほど近い滋賀県内の国道三六七号線の路肩の外側に側溝が設けられており、その側溝には無蓋の部分と有蓋の部分があるが、無蓋部分の横には、被告によりスノーポール兼用のデリネーターが設置されていて、道路と無蓋側溝部分が明らかとなるようにされている。(甲三七、三八、証人C)

(2)  以上を前提として判断する。

被告は、本件道路の管理者であるから、公の営造物である本件道路の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国賠法二条一項に基づき、その損害を賠償すべき責任を負う。そして、国賠法二条一項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性の高い状態をいうところ、その判断には、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきである。

これを本件について見るに、本件道路の小浜行車線は、本車線幅が約二八m、路肩が約〇・四mとなっているところ、走行車両のうち約四三%が大型車両であることから、離合の際に相当に両車両が接近することが予想されること、拡幅除雪をした場合には、無蓋側溝部分についても道路と同じ高さに均して除雪することになるため、側溝と道路との識別は著しく困難となること、通常の道路を走行する場合でも左側走行義務があることから走行位置を左寄りにして走行することになるところ、本件道路は、山間部で勾配を有しているから、大型貨物自動車や特殊自動車がセンターライン付近で離合する場合には、スリップ等による接触の危険性が高く、両車が左端寄りに走行して離合する傾向があること、上記のとおり、本件事故現場付近で同様の脱輪事故が複数件発生していたことなどからすれば、被告において、拡幅除雪後には、本件道路と側溝との識別が困難になるため、側溝への脱輪事故が発生することが容易に予測できたものといえる。そして、上記に認定した無蓋の側溝の大きさや深さからすれば、車両が脱輪をした場合には、車両が傾いたり横転したりして損傷し、自力での脱出が不可能となり、場合によっては大きな人身事故につながるなど、その危険性は相当に大きいものであった。しかるに、本件事故当日には、降雪による視認状況が悪く、その後降雪が予測されていたから、さらなる積雪により、本件道路と側溝との識別がますます困難となることが予測できていたのであるから、道路情報表示板等により、道路外側に無蓋側溝があり、端に寄ると危険があることについて、注意喚起のための標示をするなど、本件道路の運転者に対して適切な注意喚起がなされるべきであるのに、何らの措置が採られなかったのであるから、本件道路は、通常有すべき安全性を欠いていたものというべきであり、道路管理上の瑕疵に該当すると認めるのが相当である。

なお、原告は、側溝の上まで拡幅除雪をしたことが管理上の瑕疵に当たる旨主張するが、前記のとおり、道路を除雪した後には路肩に雪堤ができるのであるから、さらなる降雪、積雪が予測されている場合には、今後の除雪のために道路端又は側溝の雪堤を排除する必要があり、この除雪方法は本件道路において二車線を確保するとの要請とともに、本件道路に雪堤が進出することによって安全な道路通行に支障が生じないようにするものとして合理性を有するものである。また、運搬排雪についても、実際に路肩や側溝の雪をダンプカーで運搬して雪堆積場に運ぶというのは実際的でなく非合理的であり、拡幅除雪を行ったことや、運搬排雪を行わなかったことが直ちに道路管理上の瑕疵に当たるということもできない。また、原告は、無蓋の側溝を放置した点や、蓋の開閉を行わなかった点をも問題とするが、無蓋の側溝である点は、山間部における路面排水という側溝設置の目的からすれば合理性があるというべきであるし、積雪が予想される際に被告が蓋を閉めて回るというのは非現実的であり、そのような合理的でない手段を被告が講じなかったことをもって直ちに「瑕疵」に当たるということもできない。

(3)  これに対し、被告は、上記の事故態様について、被告の作業車が本件道路に進出していた事実はなかった旨主張し、これに沿う証人Dの証言がある。しかし、被告の作業車が駐車していたという沿道店舗は廃業しており、駐車場部分は新たに除雪をしてから進入しなければならないところ、除雪ドーザの車長七・八七m、車幅三・七一m、ロータリー除雪車の車長七・六m、車幅二・二m、パトロール車の車長四・六五m、車幅一・六九mであるから(乙七ないし九)、これらの作業車が占める面積は相当に大きく、本件事故日と撮影時期が異なるものの、写真(甲一二、一五ないし一九)から窺われる沿道店舗の駐車スペースの状況に照らすと、同スペースに三台全てが収まっていたといえるかどうかは疑問が残る。また、証人Dは、一時的に次の除雪場所について打合せをするために上記路外駐車場スペースに駐車した旨の証言をするが、そのためだけにわざわざ広範囲にわたる路外駐車場の除雪をして停車させたとは考え難く、証人Dの上記証言部分はにわかに措信し難い。また、証人Aは、対向大型貨物自動車が、上記作業車が道を阻んでいたためにセンターライン位置と思われる位置を超えて進行してきた旨証言しているところ、この内容は、Aが原告車を小浜行車線の左側端まで寄せた経緯としては自然で合理的であり、上記の作業車のうち一部が本件道路に一定程度進出していたとの点については信用することができる。以上を踏まえると、被告の上記主張は採用することはできない。なお、仮に、被告の作業車が本件道路に出ていなかったとしても、対向進行してくる大型貨物自動車がセンターライン寄りに進路を取ってきた場合には、本件事故当日の降雪や積雪の状況からすれば、できるだけ左に寄せて接触を回避しようとすることが不合理とはいえないことから、瑕疵についての上記判断を左右しない。

また、被告は、Bが撮影したという甲三六の四枚目の写真は、当日撮影されたものかも不明であって事実認定の基礎にすることはできない旨主張するところ、確かに、証人Bの証言によるも甲三六の四枚目の写真を撮影した時間と場所が判然としないが、証人Dが本件事故前後の現場の状況は、甲三六の写真と同様であった旨証言していることからして、概ねこのような状況であったと認められ、本件事故当日の気象状況や、道路の端を示す目安とされることの多い電柱の位置が側溝よりも外側に位置していたことなどを考慮すれば、上記のとおり、道路と無蓋側溝の識別が困難であったと認められる。この点、証人Cは、電柱の存在から側溝と本件道路を区別することができると証言するが、電柱は無蓋側溝の外側に位置しており、これを道路と側溝とを識別する目安とすることができないことは明らかであり、同人においても、他に合理的な識別方法を指摘できておらず、道路と側溝の識別が容易であったということはできない。

また、被告は、原告がタイヤチェーンをしていなかったことから、スリップして側溝に脱輪したものであり、本件事故の原因は、Aの安全運転への配慮に欠けた、通常予想されない危険な運転行為によって発生したものであるから、道路管理上の瑕疵はないと主張する。しかし、本件全証拠によっても被告がスリップしたことを認めるに足りる事情は認められない。本件道路は、余裕をもって離合できるだけの道路幅員を備えておらず、特に、本件道路において事故当時、センターラインも積雪で見えない状態であったのだから、対向する大型車と離合するに当たり、対向車がセンターラインを超えたり、スリップしたりする可能性も考慮に入れて、できる限り左側端に寄ろうとするのは、通常予想される交通方法を逸脱した異常なものということはできない。さらに、被告は、原告車が本件事故現場のすぐ側にある電柱に衝突していることから、Aが本件道路のみならず、路肩をも逸脱して走行してきたことが推認され、車線を逸脱走行した危険性の高い運転であった旨主張する。しかし、仮にそのような事故態様であれば、原告車の前部が上記電柱に衝突しているものと思われるのに、原告車の前部にそれと窺われる損傷が見当たらないこと、被告が電柱が傾いたと指摘する点についても、写真(甲一一の④、一二ないし一五)によれば、反射板が斜めに傾いて取り付けられていることが認められ、被告指摘の写真は、夜間に撮影された写真の中で反射板の存在により電柱が傾いたように見えるにすぎないこと、原告車の左前輪タイヤ一本、左後輪タイヤ五本が側溝に脱輪したのは、左前輪の脱輪により車体が大きく左に傾いた結果、原告車の左後部が電柱に当たった可能性があることから、上記主張は採用できない。また、仮に原告車が路肩を越えて盛土側溝部分を進行していたとしても、本件では路肩、本線、車道外を識別するのが困難であったことによるものであり、これをもって事故の発生が通常予想される交通方法を逸脱したことに起因するとして、被告の管理上の責任を否定することはできない。

(4)  もっとも、道路の利用者の側においても、常識的秩序ある利用を行うべきであり、本件事故当日の気象状況に照らせば、原告車がタイヤチェーンを装着することなく走行していたことは相当に危険であったといえる。雪道で大型車同士が離合するに当たり、スリップの可能性を考慮に入れていずれか一方が停止していれば、本件事故を避けることができたものと解されるところ、Aは、雪道でいったん停止してしまうとタイヤが空転してしまうおそれがあったことから、そのまま進行しつつ離合したというのであり(証人A・一二頁)、タイヤチェーンを装着せず、停止しないで離合しようとしたことが本件事故の一端をなしたものと解される。そして、本件において、上記のとおり、離合の際の接触を避ける方法として、道路の左端に寄ったことが運転者の常識的秩序ある利用方法を逸脱した異常なものとは解されないものの、上記に認定した事故態様からすれば、本件の対向車と離合するのに必ずしも道の左側一杯まで寄る必要はなく、山間部の道路に無蓋の側溝があり得ることを考慮に入れて安全を確認しながら慎重に寄るべきであったといえるから、これらの点をAの過失として斟酌すべきであり、原告の損害から一割の過失相殺をするのが相当である。

二  原告に生じた損害額(争点(2))について

(1)  証拠(甲一ないし九)及び弁論の全趣旨から、下記損害について本件事故と相当因果関係ある損害と認められる。

ア 原告車の吊り上げ・引き出し作業費 二六万七一〇五円

イ 原告車の修理費 三七万二〇八九円

ウ 原告車の漏洩点検費 四万五一五〇円

エ 上記小計 六八万四三四四円

オ 上記一(4)の過失相殺後の損害額は六一万五九〇九円(一円未満切り捨て)となる。

(2)  休車損害について

原告車は、営業中に本件事故に遭ったものであり、営業車であると認められるが、遊休車の不存在についての立証がなく、また、原告に係る売上げ及び変動経費について、これを認めるに足りる証拠はなく、休車損害の発生を認めるに足りない。

(3)  弁護士費用

本件の事案の内容及び認容額に照らし、六万円を相当な損害と認める。

(4)  上記の合計は、六七万五九〇九円となる。

第四結論

よって、原告の被告に対する請求は、六七万五九〇九円及びこれに対する平成二三年一月二八日から支払済みまで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 中武由紀)

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