京都地方裁判所 平成23年(ワ)1394号 判決 2012年5月09日
原告
X1他2名
被告
Y
主文
一 被告は、原告X1に対し、二一三五万六八八五円及びこれに対する平成二〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2に対し、三五五万九四八〇円及びこれに対する平成二〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告X3に対し、三五五万九四八〇円及びこれに対する平成二〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの連帯負担、その一を被告の負担とする。
六 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告X1に対し、金五二四〇万七六〇〇円及びうち金四五六五万七六〇〇円に対する平成二〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2に対し、金八七三万四六〇〇円及びうち金七六〇万九六〇〇円に対する平成二〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告X3に対し、金八七三万四六〇〇円及びうち金七六〇万九六〇〇円に対する平成二〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 仮執行宣言
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、後記交通事故により訴外A(以下「A」という。)が死亡したことによる損害の賠償及び民法所定の遅延損害金支払いをAの権利義務を相続により承継した原告らが被告に対して請求する事案である。
二 前提となる事実
次の事実は、当事者間に争いがなく、または、後記関係証拠もしくは弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 本件事故の発生及びAの死亡
下記の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生し、Aは間もなく死亡した。
記
ア 発生日時 平成二〇年一二月二七日午前四時五分ころ
イ 発生場所 滋賀県大津市仰木町六四二六番三地先国道一六一号(湖西道路)上
ウ 当事者及び関係車両
(ア) A(当時四七歳)運転の普通貨物自動車(トヨタハイエース、以下「A車」という。)
(イ) 被告運転の普通乗用車(日産エルグランド、以下「被告車」という。)
(ウ) B(以下「B」という。)運転の普通乗用車(メルセデスベンツGクラス、以下「B車」という。)
(エ) C(以下「C」という。)運転の大型貨物自動車(いすゞギガ、以下「C車」という。)
(オ) 氏名不詳の未成年者運転の普通乗用車(スズキワゴンR、以下「ワゴンR」という。)
エ 事故現場の道路状況等
本件事故現場付近の道路状況は、別紙交通事故発生現場見取図(乙二の一部)のとおりであり、湖西道路は、ほぼ南北に通じ、南側の京都方面に向かって非常に緩やかな右カーブで高架となっており、片側一車線、車線幅員は各三・四m、幅〇・五mの中央線(二本の黄色実線)が引かれ、車線の外側にはそれぞれ白線の外側線が引かれ、その外側には幅〇・五m、高さ〇・八mのコンクリート製欄干が設置されている。
交通規制は、最高速度が時速六〇キロ、追越しのための右側部分はみ出し禁止とされている。
本件事故発生時、湖西道路の路面は凍結していた。
オ 事故態様
A車が湖西道路を南行して本件事故現場に差し掛かり、本件事故現場直前で、凍結した路面でスリップし、側壁に衝突して停止し、Aは、降車した。
停止したA車に、後続車両である被告車、B車が順次衝突し、B車が衝突した衝撃で前方に押し出されたA車は、対向車線で停止していたC車に衝突した。その後に、後続車のワゴンRもA車に衝突した。
事故現場の本件道路は高架となっていたところ、Aは、A車から降車した後、路面から約一九m下方の高架下の地表に落下した。
Aは、午前六時ころa病院に救急搬入されたが、既に心肺停止状態であり、間もなく死亡が確認された。Aの死因となった傷害は肺挫傷である。
上記ウ及びエの事実につき(甲一、一二、乙一から六まで、C証人)
(2) 被告の過失
被告が被告車をA車に衝突させたことについては、前方注視義務違反等の過失がある。
(3) Aの相続
Aの相続人はその父であるDとその母である原告X1(以下「原告X1」という。)の二名であり、各二分の一の割合で、Aの死亡時に有していた権利を相続により承継した。Dは、平成二一年八月二〇日に死亡し、その相続人は、妻である原告X1、長女原告X2(以下「原告X2」という。)及び三男原告X3(以下「原告X3」という。)の三名であり、法定相続分は、原告X1が二分の一、原告X2及び原告X3が各四分の一ずつである。この結果、Aが死亡時に有していた権利は、原告三名に、原告X1が四分の三、原告X2及び原告X3が各八分の一ずつの割合で承継された。
(4) 損害のてん補
原告らは、被告の加入する自賠責保険の保険金として、平成二三年一二月二八日、三〇〇〇万六八〇〇円を受領した。
三 争点及び争点に関する当事者の主張の概要
本件の争点は、(一)被告車がA車に衝突したこととAの死亡との間の因果関係の有無(争点一)、(二)Aの死亡による損害について被告とBとの間に民法七一九条一項後段の共同不法行為が成立するかどうか(争点二)、(三)民法七一九条一項後段の共同不法行為成立による因果関係の推定を覆す反証が認められるかどうか(争点三)、(四)過失相殺(争点四)、(五)損害額(争点五)であり、各争点に関する当事者の主張の概要は以下のとおりである。
(1) 争点一について
(原告ら)
Aは、湖西道路を京都方面に向かって進行中、路面が凍結していたためスリップし、A車を側壁に衝突させ停車し、降車していたところ、後続の被告車がA車に衝突し、その衝撃でAは高架下に転落し、両側鎖骨骨折及び肋骨骨折等の傷害を負い、肺挫傷のため間もなく死亡した。
(被告)
被告車がA車に衝突した衝撃でAが高架下へ落下したとの事実は否認する。
本件事故は多重衝突事故であり、事故直後の実況見分等の捜査記録によると、Aが高架下に落下して倒れていた地点は、被告車がA車に衝突した地点からも、ワゴンRがA車に衝突した地点からも離れており、B車がA車に衝突した地点がもっとも近いのであり、B車がA車に衝突した際にA車の直近の車外にあったAが、その衝突の衝撃により高架下へと転落したと見るのがもっとも素直で、かつ、合理的である。少なくとも、被告車によるA車への衝突によってその衝撃で車外にあったAが原告車に衝突して高架下に落下したと決めつけて認定することは、経験則に反しており、合理性を有さない。
よって、被告の過失行為によるA車への衝突とAの死亡との間に因果関係は認められない。
(2) 争点二について
(原告ら)
原告の主張する事故態様により被告車のA車への衝突による衝撃を受けてA車の付近の車外にいたAが高架下に転落して死亡したという事実関係が証拠上確定できないとしても、被告主張のB車のA車への衝突に際しての衝撃によりAが高架下に転落したとの事実も立証されていないのであって、結局、被告とBの共同不法行為(民法七一九条一項後段)が成立し、被告はBと連帯してAの死亡による損害について賠償すべき責任がある。
(被告)
民法七一九条一項後段は、加害者不明の共同不法行為の場合の規定であり、これを本件に適用するためには、Aの死亡という損害が被告とBのどちらの行為によって発生したのか不明であるということ以前に、前提として、Aの高架下への転落について、被告とBとの行為において共同不法行為が成立している必要がある。判例実務は、民法七一九条の解釈について、一貫して「客観的共同説」即ち各自の行為が客観的に関連共同していることを要し、それをもって足りるとしている。本件事故の場合、被告車とB車とがそれぞれ別個にA車に衝突しているのであり、しかも、その間には、二〇秒ないし三〇秒程度の時間の間隔があった(C証人)のであるし、さらに、被告の運転行為とBの運転行為が共同して一個の事故を発生させたものでも、第一事故が第二事故を誘発したという関係もないのであるから、客観的関連共同の事実を認めることはできない。よって、本件において民法七一九条一項後段の適用はあり得ない。
(3) 争点三について
(被告)
本件事故は多重衝突事故であり、事故直後の実況見分等の捜査記録によると、Aが高架下に落下して倒れていた地点は、被告車がA車に衝突した地点からも、ワゴンRがA車に衝突した地点からも離れており、B車がA車に衝突した地点がもっとも近いのであり、B車がA車に衝突した際にA車の直近の車外にあったAが、その衝突の衝撃により高架下へと転落したと見るのがもっとも素直で、かつ、合理的である。
したがって、被告車のA車への衝突とB車のA車への衝突との間に民法七一九条一項後段の共同不法行為が成立するとしても、それによる因果関係の推定は、証拠上B車の衝突によりAが高架下に転落して死亡したことが認められることから覆され、被告はAの死亡による損害について賠償すべき責任を負わない。
(原告ら)
否認し争う。
Aの高架下への転落は関係証拠によれば、被告車のA車への衝突による衝撃により発生したと認められ、少なくとも、被告車の衝突の際の衝撃によるものか、それともB車の衝突によるものか不明である。
(4) 争点四について
(被告)
Aには、本件事故発生について、自招事故により車線の前面を塞いで停止し、非常点滅灯の灯火などによる後続車への警告処置をすることなく停止していた過失があり、追突事故の修正要素となる、視認不良(一〇%)、駐停車禁止場所(一〇%)、非常点滅灯等の不灯火等(一〇~二〇%)、駐停車方法不適切(一〇~二〇%)、重過失(二〇%)があり、少なくとも七〇%の過失相殺がされるべきである。
(原告ら)
視認不良については、Aの自損事故にいち早く気付き対向車線上で停車してパッシングライトにより危険を警告していたCの行動を考慮すると、被告は、これを見落としたか、これに気付いて制動措置をとっても間に合わないほど高速で走行していたものと考えられるのであり、修正要素とすべきではない。
また、駐車禁止場所や駐停車方法の不適切については、A車は自損事故による車両の損傷により走行車線から車体を移動させることが出来なくなっていたから、加算要素とするのは相当ではない。
(5) 争点五について
(原告ら)
ア 逸失利益 五九二四万九九二五円
Aは、生前、鍵の製造修理の自営業を営んでおり、平成一八年及び平成一九年の年収額の平均は、六七九万二〇六八円であったので、これを基礎収入とし、死亡時四七歳であったから就労可能年数は二〇年(ライプニッツ係数一二・四六二)、生活費控除は三〇%として計算して、上記金額が相当である。
イ 慰謝料 三〇〇〇万円
ウ 葬儀費用 一五七万七四二〇円
エ レッカー代 五万六二五五円
オ 弁護士費用 九〇〇万円
(被告)
損害を基礎付ける事実については不知、各項目の損害額については争う。
逸失利益については、生活費控除は五〇%とすべきである。
第三当裁判所の判断
一 民法七一九条一項後段の共同不法行為の成否(争点二)
(1) 民法七一九条一項後段の共同不法行為の性質など
民法七一九条一項後段の共同不法行為に関する規定は、被害者救済のために、政策的に、複数の共同行為者のうちの誰が損害を発生させたかは不明であるが、特定の共同行為者の行為のいずれかにより損害が発生したことは明らかな場合に、それぞれの行為者の行為と損害発生との間に因果関係の存在を法律上推定する性質の規定と解するのが相当であり、したがって、共同不法行為を主張する側においては、複数の行為者の行為のいずれかにより結果が発生したことを証明する必要があり、かつ、それで足り、相手方においては、自らの行為により損害が発生していないことを反証すれば、誰の行為により損害が発生したのかを特定できなくても、自分の責任を免れることができると解される。そして、民法七一九条一項後段に関するこの解釈に整合させて、原告ら及び被告の主張を整理した。
(2) 本件における要件の充足
ア 事実関係
関係証拠(甲一二、乙一から六まで、C証人)によると、以下の事実が認められる。
(ア) Aは、本件道路から約一九m下方の高架下地表に転落し、地面に激突した際に受けた傷害により死亡した蓋然性がある。
(イ) また、高架下の地表でAが倒れていた地点は、その傷害の重篤さからみて、ほぼ落下した地点であり、ほとんど動いていないと考えられる。
(ウ) 被告車の衝突により、車線の進行方向から見てほぼ横向きになっていたA車が約六mないし約七m南側に半回転スピンしながら移動してまたほぼ横向きになって停止したが、Aが落下した地点は、その停止したA車の北側側面の東側に位置している(乙二、三)。
(エ) そして、その直後にB車がA車に衝突して、A車はスピンしながらさらに南方へ約五m程移動して停止したが、この停止地点は、Aが落下していた地点よりも約五mは南に離れた地点である(乙二)。
(オ) そして、ワゴンRは、その後にA車に衝突しているのであるから、ワゴンRの衝突による衝撃でAが高架下に転落したことは考えられない。
(カ) また、本件道路の高架は、高さ〇・八mのコンクリート製欄干が設けられていたのであるから、容易に転落はしないと考えられる。
(キ) 以上によると、Aの高架下への転落の原因は、ほぼ被告車の衝突かB車の衝突に絞られるというべきで、他に原因は考えにくい。
イ 上記の事実を総合すると、被告の被告車を運転して前方不注意等の過失によりA車に衝突した行為とBのB車を運転して同様の過失により被告に続いてA車に衝突した行為とは、民法七一九条一項後段の共同不法行為の要件を充足しているというべきである。
二 被告側の反証の成否(争点三)について
関係証拠により認められる上記の事実関係からすると、B車の前部がA車に衝突した際の衝突部位が横向きになったA車の側面中央部ではなく、進行方向右側(車体の右前部分)と偏った部分に当たっており、これによりA車はスピンしているので、Aがその付近にいたならば、どちらの方向に飛ばされことも考えられるので、それにより高架下にAが転落し、発見された地点に倒れた可能性を否定はできないものの、衝突の際のA車の移動の位置及び方向との整合性を考慮すると、被告車が衝突した際のA車の移動に伴ってAが高架下に落下した可能性は非常に有力であり、少なくとも、B車の衝突による可能性より、被告車の衝突によりAが高架下に落下した可能性の方が相対的にはかなり高いと考えられる。
以上によれば、被告には反証による免責は認められない。
三 過失相殺(争点四)について
(1) 事故類型と基本的過失割合
本件は、一般道における停止車両と後続車両との間の衝突事故であるので、類型的に、主たる過失は、前方注意義務違反、車間距離保持義務違反、速度超過などの後続車側の過失であると解され、基本的過失割合は、後続車一〇対停止車〇である。
(2) 修正要素
本件において問題となりうる修正要素は、視認不良、停止車側の駐停車禁止場所、非常点滅灯等の不灯火等、駐車方法不適切、著しい過失ないし重過失、退避不能、後続車側の速度違反、著しい過失ないし重過失である。以下順に検討する。
ア 視認不良
本件事故発生時は、夜間で、本件事故現場に十分明るい街灯はなかったのであり、後続車において、先行車の停止及び接近が視認しにくく、先行停止車両との衝突の危険回避が特に難しい状況があったと認められるのであり、視認不良により一〇%の修正を行うのが相当である。なお、対向車線に停止してパッシングライトで注意喚起、警告をしていたC車の存在及びCの行為は、夜間で街灯も十分でないことによる視認困難な状況そのものを大きく改善するものではないので、視認不良による修正の必要性を左右しない。
イ 駐停車禁止場所
修正要素としての駐停車禁止場所は、禁止の法的規制に形式的に反するか否かという観点のみならず、実質的にも、カーブの途中、曲がり角付近、坂道ないしトンネル内など特に見通しが悪く、駐停止車両の発見が困難な場合に修正の原因とすべきものであると解されるところ、本件事故現場の道路は、関係証拠(乙二)によるとA車及び被告車の進行方向から見て右カーブであり、また、上り坂にもなっていたが、いずれも僅かであり、見通しを特に困難にする状況は、上記の夜間で街灯のないことによる暗さを除いてはなく、駐停車禁止場所における停止による修正をすべき事情は認められない。
ウ 非常点滅灯等の不灯火等及び駐車方法不適切について
非常点滅灯等の不灯火等及び駐車方法の不適切については、後続車両における発見と回避を困難とするという客観的な側面と先行車の義務違反の主観的な義務違反の側面とを総合的に考慮して、修正要素とすべき事情があるかどうかを判断すべきである。
本件においては、A車は非常点滅灯等の点灯をしないばかりか、ほぼ横向きの状態で停止したため、ブレーキランプも後続車からは見えない状態となっていたこと、また、横向きに停止して車線の車両通行可能な部分のほぼ全面を塞いだという不適切な停止状態により、後続車においては、発見及び回避が困難になっていた事情が認められる。ただし、横向きに停止していたという事実は、反面、前方に事故車両などがある緊急事態を強く想起させるものであることから、上記の発見及び回避の困難性は、減殺され、非常点滅灯等の不灯火等及び駐車方法の不適切によりいずれも大きめの割合で修正すべき典型的な場合、例えば、ブレーキランプなどの点灯が全くない状態で車線のほぼ中央に進行方向に向かう体勢で停止しているような場合(停止車両であることに後続車両が気付くことが大変難しい)などと比べれば、相対的には修正の割合は加減されるべきである。
以上の考慮から、本件においては、非常点滅灯の不点灯等及び停車方法の不適切により、各一〇%、合計二〇%の修正を行うのが相当である。
エ Aの著しい過失ないし重過失
自招のスリップ事故により突然横向きで停止したことは、著しい過失として、一〇%の修正をすべきである。なお、路面が凍結していたことや緩やかではあるがカーブがあったことなどを考慮すると、重過失というべき大きな注意義務違反がAにあったと認めることはできない。
オ 停止車両の退避不能
A車は、凍結した路面上でスリップし側壁に衝突して横向きに停止したのであり、直ちに退避することが不可能ないし著しく困難であったと認められるので、一〇%有利に修正すべきである。
カ 後続車側の速度違反
被告車の本件事故の際の走行速度は証拠上必ずしも明らかではなく、大きな規制速度の超過があったと認めることはできない。
キ 後続車側の著しい過失ないし重過失
関係証拠(乙七)によれば、被告は、実況見分でCDプレーヤーに脇見をしたことを指示説明しており、また、衝突状況が前方に、自招、自損事故により横向きに停止したA車(白色のハイエース)があった上、対向車線上にC車が停止してパッシングライトにより注意喚起、警告を行っていたのに、停止が遅れ、A車の側面に衝突して、その衝撃によりA車を前方に約六m押し出すというものであったことから、発見及び回避措置の遅れ及びその不注意の程度は著しいというべきであり、これらを総合すると、被告に本件事故発生について著しい過失があったとして、一〇%の修正を行うのが相当である。
(3) まとめ
以上をまとめると、A車(原告側)に不利な修正が、視認不良(一〇%)、非常点滅灯等の不灯火等及び停車方法不適切(合計二〇%)、Aの著しい過失(一〇%)の合計四〇%であり、有利な修正が、退避不能(一〇%)、被告の著しい過失(一〇%)の合計二〇%であり、結論として、二〇%の割合で過失相殺を認めるのが相当である。
四 損害額(争点五)について
以下、損害項目毎に端数については、一円未満切り捨てとする。
(1) 逸失利益 四二三二万二〇五四円
Aは死亡時四七歳であり、自営業で確定申告をしており、平成一八年度の確定申告書上の所得(青色申告特別控除前)が六九九万七九九三円(甲一六)、平成一九年度の同金額が六五八万六一四三円(甲一七)であり、この二年分の申告上の所得額等には、さほど大きな変動はなく、この程度の収入が安定的に得られていたと認められるので、この平均値である六七九万二〇六八円を基礎収入とし、就労可能年数は二〇年(ライプニッツ係数一二・四六二二)とし、証拠上、老父母を扶養していた事実も認められるものの、父母には年金収入もあり、Aの扶養家族といえる実情までは認められないことなどから、生活費控除率は五〇%とする。
679万2068円×0.5×12.4622=4232万2054円
(2) 慰謝料 二六〇〇万円
(3) 葬儀費用 一五〇万円
(4) レッカー代 五万六二五五円(甲一五)
(5) 小計 六九八七万八三〇九円
(6) 過失相殺
×0.8=5590万2647円
(7) 損害のてん補 -三〇〇〇万六八〇〇円
原告らは、自賠責保険金として、三〇〇〇万六八〇〇円を受領しており、これは上記の清算された損害額のうち人身損害分(物損であるレッカー代に対応する部分を除いた)に充当される(特定の損害項目に関する損害額に充当されるものではない。)。
控除後の損害金額 二五八九万五八四七円
(8) 弁護士費用 二五八万円
(9) 合計 二八四七万五八四七円
(10) 相続割合による各原告の取得額
原告X1 ×4分の3=2135万6885円
原告X2及び原告X3 ×8分の1=355万9480円
五 結論
以上の次第で、その余の点について検討するまでもなく、本件請求は、被告に対して、原告X1は、二一三五万六八八五円、原告X2及び原告X3は、各三五五万九四八〇円、並びにこれらに対する平成二〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を求める限度で理由があり、その余には理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 栁本つとむ)
<別紙省略>