京都地方裁判所 平成23年(ワ)1557号 判決 2012年8月29日
原告
X
被告
Y他1名
主文
一 被告らは、原告に対し、各自二七三万六七七六円及び内金二四八万六七七六円に対する平成二二年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その七を原告の、その余を被告らの連帯負担とする。
四 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、各自九六〇万〇〇〇三円及び内金八七三万〇〇〇三円に対する平成二二年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告の運転する普通貨物自動車に被告Yが運転する大型貨物自動車が追突した交通事故につき、原告が、被告Yに対して民法七〇九条に基づき、被告Yの使用者である被告会社に対し民法七一五条一項に基づき、上記車両に積載していた古美術品等の商品、私物等の外、車両損害を含むその他の損害合計一一七三万〇〇〇三円から損害のてん補金三〇〇万円を控除した残額八七三万〇〇〇三円及び弁護士費用八七万円の合計九六〇万〇〇〇三円並びに弁護士費用を除く損害額八七三万〇〇〇三円に対する事故日である平成二二年一〇月八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等(末尾に証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。特に断らない限り、証拠番号には枝番を含む。)
(1) 当事者
原告は、「a店」の屋号で古美術品等をオークションなどで仕入れ、露店等で販売することを業とする者である。
被告会社は、運送会社であり、被告Yはその従業員である。
(2) 本件事故の発生
ア 発生日時 平成二二年一〇月八日午前〇時一〇分ころ
イ 発生場所 石川県小松市日末町地内北陸自動車道下り線一四四・四KP(以下「本件事故現場」という。)
ウ 事故態様 原告が運転する普通貨物自動車(以下「原告車」という。)に被告Yが運転する大型貨物自動車(以下「被告車」という。)が後方から追突。
(3) 被告らの責任原因
被告Yは、前方不注視の過失により本件事故を惹起したのであるから、民法七〇九条に基づく責任を負い、被告会社は、被告Yが業務中に惹起した本件事故につき民法七一五条一項に基づく責任を負う。
(4) 損害のてん補
原告は、被告らから三〇五万七七五〇円の支払を受けた。(乙三ないし七)
二 争点
(1) 原告所有の商品損害
(原告の主張)
ア 原告は、原告所有の古美術品等を富山県高岡市にあるオークション会場で販売するため、原告車に別表一の物品(以下「本件各物品」といい、それぞれ別表一の番号に対応して「本件物品一」、「本件物品二」というように呼称する。)を原告車に積載し、北陸自動車道下り線(以下「本件道路」という。)を走行している際、後方から大型貨物自動車である被告車に追突された。本件各物品は実際に損傷しており、一部の傷がある場合でも、商品としての価値はないから、全損と見積もられるべきである。これらの損害は、仕入値ではなく、仕入値+仕入経費+利益の合計額である売値と見るべきである。
イ 仕入額は、別表一の「原告主張仕入額」欄記載のとおりである。仕入経費は、商品を探す費用、交通費及び労務費等であり、仕入値の一五%に相当する。また、利益については、原告はこれまで長年にわたり古美術商を営み、仕入値の五%に相当する利益を出してきたから、上記仕入額の五%相当の利益が見込まれ、同額も損害に含まれる。
ウ 以上により、原告の被った損害は、別表一の「原告主張仕入額」に当該仕入額の一五%相当を加算した仕入経費及び仕入額の五%相当額の利益を加算した金額となり、具体的には、仕入額五一三万五〇〇〇円、仕入経費七七万〇二五〇円、利益二五万六七五〇円の合計六一六万二〇〇〇円となる。(なお、原告は、当初、仕入額五四一万五〇〇〇円、仕入経費八一万二二五〇円(仕入値の一五%相当額)、利益二七万〇七五〇円(仕入値の五%相当額)の合計六四九万八〇〇〇円と主張していたところ、後に仕入額を上記額に訂正していることから、原告主張としては上記のとおりとなるものと解される。)
(被告らの主張)
ア 本件物品六四については、本件事故による損害であることを確認できておらず、損害の発生自体を否認する。また、本件物品五三については、事故後に被告ら加入の保険会社(以下「本件保険会社」という。)からの依頼により、b株式会社(以下「本件調査会社」という。)が検証を行った上で「損傷なし」との判断をしており、損害の発生が認められない。
イ 仕入経費については、その詳細も不明であり、本件事故と因果関係ある損害とはいえない。また、商品売却による利益は、商品を売却できて初めて現実化するのであり、売却の予定や買手も確定していない段階では、利益相当額を損害と見ることはできない。さらに、仕入経費及び利益については、原告が古美術商であるという特殊事情によって生じる特別損害であり、被告Yに予見可能性がない以上、賠償範囲に含まれない。
ウ 本件各物品の損害の評価については、本件調査会社が実際に被害品を見て確認をしており、乙二の査定積算書(以下「本件査定書」という。)記載の損害の限りで、損害の発生が認められるというべきである。本件各物品の評価額は、別表一の「評価額(被告ら主張)」欄記載のとおりであり、本件各物品の破損状況・修理の可否は、同表「破損状況・修理可否(被告ら主張)」欄記載のとおりである。そして、損傷の程度については、「全損・分損(被告ら主張)」欄記載のとおりであり、その損傷の程度に応じ、「損害率(被告ら主張)」記載の損害率がそれぞれ定まり、これを「評価額(被告ら主張)」欄記載の本件各物品の時価に乗じ、「被告ら主張査定額」欄記載の金額が定まるのであり、これが損害額となる。本件査定書は、事故後に損害評価につき相当の実績のある作成者が、実際に被害品を確認して作成したもので、相応の信用性がある。
原告は、本件各物品の全てが全損に当たると主張するが、修理可能な損傷を受けるにとどまっているものや、修理不可能であってもなお価値を残しているものがある。これらについては、賠償すべき額は、修理額ないし減価額にとどまるというべきである。
(2) 委託販売商品に関する損害
(原告の主張)
原告車には、c店が原告に対して販売を委託していた別表二記載の各物品(以下、これらを合わせて「本件各委託商品」といい、同表の番号に対応して、それぞれ「本件委託商品一」、「本件委託商品二」というように呼称する。)が積載されていたところ、本件事故により、これらが損傷した。原告は、平成二四年四月一〇日、これら商品の損傷につき、c店が被告に対して有する損害賠償請求権をd店から譲り受けた。
原告とc店との間で、別表二の「原告主張金額」欄記載の金額を販売予定価格とし、そのうち八割をc店に渡し、残額を原告の手数料とするとの合意が成立していたことから、c店の被った本件各委託商品に係る損害は、原告に支払うべき委託販売手数料(上記販売予定価格の二割相当額分)を除いた販売予定価格の八割相当額である。そして、委託販売手数料については、原告の得べかりし利益となるから、上記販売予定価格の二割相当部分については、原告の固有の損害となる。
以上から、原告には、別表二の「原告主張金額」欄の末尾合計三二三万円の損害賠償請求権がある。
(被告らの主張)
ア 本件各委託商品が損傷したことは認めるが、損害額については争う。
イ 本件各委託商品の評価額及び損害の査定額等は、別表二の「評価額(被告ら主張)」、「被告ら主張査定額」欄記載のとおりであり、全損・分損等についての考え方は、前記に述べたのと同様である。
ウ 原告は、委託販売手数料相当額について、原告の固有の損害であると主張するが、当初、本件各委託商品分について固有の損害であると主張していたのを、その全額についてc店から損害賠償請求権の譲渡を受けた旨の主張に変更し、さらに、二割相当の委託販売手数料部分を原告固有の損害であると変更するに至っており、委託販売手数料が原告固有の損害となる旨の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。また、債権譲渡通知書によれば、原告は三二三万円全額についてc店から債権譲渡を受けた形となっており、原告自身が本件各委託商品について自己固有の損害はないと認識していなければとらない行動をとっているから、債権譲渡を行った自らの行動と矛盾し、このような主張は認められない。
エ 加えて、上記委託販売手数料相当額の利益は、特別損害であり、かつ、被告らには予測しえないものであるから、本件事故と相当因果関係ある損害とは認められない。また、委託販売手数料は、販売できた場合にその代金から委託主に設定金額の八割を支払い、余剰が出た場合に原告が利得できるにすぎないものであるから、確定的に発生するものではなく、相当因果関係ある損害と認められない。
(3) 原告の私物損害
(原告の主張)
原告は、原告車に別表三記載の動産(以下「本件各私物」といい、同表の番号に対応して、それぞれ「本件私物一」、「本件私物二」というように呼称する。)を積載していたところ、本件事故によりこれらが破損又は紛失した。その損害額は、同表の「原告主張金額」欄記載のとおりであり、末尾合計二三万〇八〇〇円の損害が発生した。
(被告らの主張)
別表三の「被告ら認定額」欄記載の損害の発生は認める。
本件私物六ないし八については、損害の発生自体が確認できておらず、否認する。また、全損の場合の損害額については、購入価格に減価償却を施した時価額にとどまる。原告の私物損害に関するその余の被告らの主張は、同表記載のとおりである。
(4) その他の損害
(原告の主張)
原告が主張する上記商品以外の損害については、別表四「原告の主張」欄記載のとおりである。
(被告らの主張)
別表四の「争いのない損害額」欄記載の損害については認め、その余は争う。被告らの主張は、別表四「被告らの主張」欄記載のとおりである。
第三当裁判所の判断
一 前提となる事実経過について
前記争いのない事実等、証拠(甲二、三、八ないし一〇、一九、二〇、二二ないし二五、三三、四四、五一、六三、六五、六六、六八、七一、七五、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告は、昭和四七年ころから古美術商を営んできたところ、主にオークションで商品を仕入れ、露店又はオークションで販売している。
(2) 原告は、平成二二年一〇月八日午前〇時ころ、富山県高岡市にあるオークション会場で古美術品を販売するため、原告車に古美術品等を積載して本件事故現場付近の本件道路を進行していた。被告Yは、原告車の約八〇・五m後方を被告車(全長一一・九二m、重量二・三t)を運転して進行していたが、お菓子に気を取られて脇見をしたため、車間距離が約一四・五mとなるまで原告車に迫っていることに気づかず、その時点で危険を感じてブレーキをかけたものの、間にあわず約五七・五m進行して原告車の右後部に衝突した。原告車は約二〇二・七m進んで、原告車の左前部をガードレールに衝突させて停止した。原告車の損傷は相当にひどく、窓枠は曲損し、窓ガラスはほぼ全て割れており、特に左前部の損傷はひどく、全壊の状態であり、後部も後部ドアがめくりあがるような形で変形していた。
(3) 原告は、近くの病院へ緊急搬送されたが、同日午前三時ころ、原告が販売のアルバイトに使用しているA(以下「A」という。)が、自車(以下「A車」という。)を運転して原告を病院まで迎えに行き、ともに本件事故現場まで行き、明らかに壊れた物品を小松インターチェンジ出口手前のスペースまで運んだ後、売却可能な商品をA車に積載して、高岡のオークション会場まで運んだ。原告は、体中が痛んだことから、Aが原告に代わり、午後八時まで商いを行った。原告は、被害品の確認を同日に行うよう本件保険会社の担当者(以下、単に「保険会社担当者」という。)に申し入れたが、同日は都合がつかず、その後は休日であったため、同月一二日に確認を行うこととなった。
(4) 同月一二日、原告、保険会社担当者、本件調査会社の担当者が小松インターチェンジ付近に集まり、午前一〇時から午後四時半にかけて被害品の確認が行われた。この際、AとB(以下「B」という。。)が原告の補助として立ち会った。被害品は、原告車から一つずつ物品を取り出されて敷物の上に置かれ、原告がこれらの一つ一つについて上記担当者らにどのような損傷があるかや仕入額等について口頭で説明を行った上で、原告車、一部を除く本件各物品、本件各委託商品、本件各私物などの写真撮影が行われた。そのうち、高額な商品の一部については、本件調査会社の担当者がこれを持ち帰って評価することとした。当日の被害品確認後、B及びAは、数時間の間、被害品の整理を手伝った。上記の被害品確認において確認未了となった物品については、本件調査会社の担当者が同月二一日に確認をし、同日、追加の写真撮影が行われた。
(5) 原告は、同月一五日、同月一七日及び同月二二日付けで損傷物品明細書(甲四四)を作成した。
(6) 原告は、以前に原告車を購入した静岡県所在のe社に対し、買換えのための中古車の見積書作成を依頼していたところ、同月二三日ころ、走行距離一五万km、一〇年落ちの車両で、車両本体価格八四万円、付属品、附帯手続費用を含めて一一二万二五九〇円という本件買換車両の見積書の交付を受けた。原告は、同年一二月七日、上記e社まで本件買換車両を取りに行った。さらに、同月三〇日、運転席と後部座席の間の間仕切りをこれに設置し、平成二三年一月一九日にETCのセットを完了し、本件買換車両の設備が整った。
二 原告所有の商品損害(争点(1))について
(1) 損害の発生について
ア まず、本件物品六四について、被告らは被害品の確認ができておらず、損害の発生自体が認められないと主張しているので、当該物品の積載の事実及び損傷の発生の有無につき検討する。
原告が作成した平成二二年一〇月一七日付け損傷物品明細書No.六(甲四四)において、本件物品六三が同月一二日の被害品確認分の最後に「七二)清朝ふた付染付ツボ」「ぶちわれ」、購入価額欄に「二万円」と記載され、その下部の「一〇/一二日 以後」欄に、「七二)染付ツボ中国染付ふた、ぶちわれ」「大キズ、ブタぶちわれ」、購入価額欄に「三万」と記載され、いずれについても同年九月二一日に東寺で購入した旨が記載されている。また、甲六の資料三には、同年九月二一日の東寺の露店で清朝染付壺を各二万円で二個購入した旨の記載がなされている。これらの事実に照らすと、原告が損傷物品明細書に記載したのは、同一物に関するものでなく、別個の二つの壺に関するものであったと推測することができる。そして、前記認定事実のとおり、被害品の確認は、平成二二年一〇月一二日中には終了せず、確認未了分については後日の確認が行われたものであるところ、本件物品六三が同月二一日の写真撮影の最初に挙げられており(甲一九、一八丁目)、同月一二日の調査と同月二一日の調査のちょうど過渡期に調査がなされたものであることからすると、清朝の染付壺は原告車に実際に二個積載されていたが、本件査定書作成の際に、同一の品であると混同され、本件査定書にそのうちの一つが計上されなかった可能性を否定することができない。そして、上記の損傷物品明細書は、事故後、さほど間を置かない間に作成されたものであり、原告がそれほど金額の高くない本件物品六四のみについて、虚偽の被害申告をしたとは考え難いことを考慮すれば、本件物品六四は、原告車に積載されており、本件事故により損傷を受けたものであると認められる(もっとも、その購入価格を三万円とする部分については、甲六資料三に照らし、原告の認識の誤りであると考えられ、上記資料記載の二万円であると認める。)。
イ 次に、本件物品五三については、原告車に積載されていたことは争いがないものの、本件査定書において「破損状況・修理可否」欄に「特になし」とされ、「備考欄」に「状態悪い」とされ、本件事故による損害が生じたか否かにつき、当事者間に争いがあるため、この点につき検討する。
本件物品五三の扉風は、原告車のルーフキァリアに積まれていたものであるところ(甲一九、一四丁)、上記に認定した事故態様からは、原告車に相当の衝撃があり、ルーフキャリアに積載されていたものが、道路上へ放出されたことが容易に推測でき、屏風の枠が外れるなどしていることからすれば、本件事故により相当の損傷が生じたものと認められる。しかしながら、上記のとおり、本件査定書は、本件調査会社担当者が、一つ一つの被害品について原告の説明を聞いた上で作成されていたものであり、その査定書に「状態悪い」との記載がなされて損傷がないとの評価がなされたことに照らすと、その損傷状況から、商品の損傷が本件事故以前から状態が悪く、損害がないとの判断を行ったものと考えられる。そして、証拠(甲五五、五六、原告本人)によれば、本件物品五三は、二〇年前ころに購入したものであること(甲四四、五五)、原告車には、販売予定でない価格の低い商品も多く積載されていたこと(原告本人)、本件物品五三は、本件事故後、廃棄せずに保管しているにもかかわらず、これを鑑定した形跡はなく、原告の依頼によって本件査定書に対する意見を述べた有限会社fの代表取締役C(以下「C」という。)でさえ、本件物品五三の欄に何らのコメントを残していないことに照らすと、本件物品五三について、本件事故に起因して何らかの価値下落を生じるなどの損害が発生したと認めるに足りない。
(2) 本件各物品の損害算定及び評価額について
原告は、別表一「原告主張仕入額」欄記載の仕入額は相当な価格であり、これに利益と経費を計上したものが本件各物品の損害に当たると主張する。
しかしながら、原告は、長年にわたり古美術商を営んできた事実は認められるものの、この六年間は経費と利益が差し引き〇となるために確定申告もしていないというのであり(原告本人)、平成四年分と平成六年分の消費税確定申告書(甲二六、二七)を除いて確定申告書の提出はない。そして、原告の販売方法はオークションあるいは露店での販売であり、仕入価額を下回る場合であっても販売する場合もあること(甲五三)、原告車には、販売するための商品のほか、販売しない商品も積載されていたこと、販売率が明らかにされておらず、利益と仕入れに関する適切な資料の提供がないこと、本件各物品の販売により原告が利益を得たことについての蓋然性の立証が十分になされたとはいえず、利益相当額の損害の発生を認めるに足りない(なお、被害品の一部につき、転売の具体的な予定があった旨の原告主張があるが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。)。また、経費についても、本件各物品に係る具体的な経費についての主張あるいはそれを推測するに十分な客観的資料の提出がなく、本件各物品に係る経費分の損害を認めるに足りない。そこで、本件各物品と同等のものを調達する場合の当該物品の価額相当額を本件の損害額と見るほかない。
次に、本件各物品自体の評価額について見るに、まず、別表一「争いのない損害額」欄記載の各損害については、その評価額及び全損であることにつき、当事者間に争いがなく、同額が損害となる。
そこで、それ以外の評価額について争いがあるものについて、物品の価値を算定することになるが、これらは古美術品あるいは中古品であり、客観的価値を把握するのは相当に困難であるところ、その評価を裏付ける適切な証拠はない。本件査定書において、評価額が記載されているものの、本件査定書の評価が古美術品の専門家によってなされたとの裏付けを欠いており、直ちにこれを信用することはできない。そうすると、個々の物品の評価ではなく、ある程度概括的な評価とならざるを得ない。具体的には、原告の仕入額につき、別表一の「仕入額に関する証拠」欄の証拠による裏付けのあるものについては、近年の収支の状況は明らかでないとはいえ、原告が長年にわたり古美術商を営んでいること、本件調査会社による評価額と原告主張の仕入額が大幅にずれていないものも複数存在することなどを考慮し、原告の仕入額の七割相当額の評価を有するものと認める。一方、原告の仕入額に裏付けのないものについては、原告作成の損傷物品明細書(甲四四)においても購入時期や購入先について記憶が暖昧であり、仕入額に関する信用性は低く、また、当該商品が売却できずに残った可能性も否定できないことに照らすと、「評価額(被告ら主張)」欄記載の評価額をもって、当該物品の評価額と認めるほかない。
これに対し、原告は、オークションで仕入れたものであるから、仕入価額を評価額と認めるべき旨主張するが、原告は、オークションにおいて最高値を付けたことから落札できたものであるから、当該物品の評価額がそれを下回る可能性も十分に考えられるのであり、当該仕入額をもって評価額と見ることはできない。原告の知人による意見書又は陳述書が複数提出されているが、肩書、経歴のほか、査定の前提条件等も明らかでなく、その理由も十分に付されていないものであり、これをもってしても、仕入額が評価額であると認めるに足りない。
(3) 全損と分損の別について
全損と分損の別について、争いがないものは、別表一「全損・分損の別」欄に網掛けを施したものであり、その余は争いがある。
証拠(甲一九、四三ないし四五)によれば、本件物品九は、壺の口上部の損傷が激しく、口部分の損傷は致命傷となることは容易に推測できるところであるから、社会通念上、全損の状態になったものと認められる。その余の本件各物品について、外観上、明らかな物理的全損といえるものはなく、経済的に全損であると認めるに足りる的確な証拠はない。この点、原告は、傷が付けば全て商品としては価値がなく、全ての商品につき全損と評価されるべきと主張するが、Cの陳述書(甲四三)によるも、同書の六①ないし④、一九、二四については、全損となる旨の記載はなく、価格下落を前提とする記載となっており、骨董としての価値が相当下落するとしても、当該商品と損傷の程度によっては残価値が〇とならないものがあると考えられることから、原告の上記主張は採用できない。
そうすると、分損である場合の価値下落の程度を評価する必要があるが、修理の可否や修理をした場合の価値下落の程度、修理をしない場合の時価等について、これらを認定するに足りるだけの的確な証拠がない。この点、原告は、甲四三、四五などの知人の意見を求めているが、保管している現物を確認して査定を求めたものではなく、鑑定の条件も明らかとなっておらず、どの程度の減価となるかについての具体的な額は明らかとされていない。一方、本件査定書を見るに、甲一九の写真から窺われる損傷の存在や程度に照らし、損害率が低きに過ぎると思われるものも複数存在する上、被告らが意見を求めたという複数の骨董店については、その名称や肩書も明らかにされておらず、その信用性の裏付けを欠くことから、被告ら主張の損害率をそのまま用いるには躊躇を覚える。これらの物品について損傷が生じたことは疑いがなく、古美術品については、実用品と異なり、小さな傷でも大きな減価となる場合があり、ごく一部の損傷であるからといって、被告ら主張のように一割や二割の減価にとどまらないものがあると解されることからすれば、控えめに見て、平均して損害率として〇・六を下回らないものと認めるのが相当である。もっとも、本件物品一、二五及び三四については、箱のみの損傷にとどまっていることから、その損害率を〇・三と見るのが相当である。
(4) 以上から、争いがある損害部分について、「認定評価額」欄記載の評価額に「認定損害率」欄記載の係数を乗じた「認定損害額」欄記載の金額が損害額となり、その総額は二四九万九八〇〇円となる。これに、上記に記載した「争いのない損害額」欄記載の合計額二八万七〇〇〇円を加算し、二七八万六八〇〇円が損害額となる。
三 委託販売商品に関する損害(争点(2))について
(1) 本件各委託商品の評価額について
証拠(甲八、原告本人)によれば、本件各委託商品は、原告がc店から販売を委託されて預かったものであるところ、販売後、別表二の「原告主張金額」欄の八割部分についてはc店に渡し、その残額が原告の手数料となるという約定がなされていたと認められる。本件各委託商品については、預り商品であって原告が仕入れたものでなく、仕入金額の裏付けを欠くものの、原告が長年にわたり古美術商を営んできたものであること、原告が委託販売手数料を目的として、委託販売を引き受けているものと考えられること、本件委託商品一ないし四については、名のある作者によるものであることが窺われ(甲四五、乙二)、本件査定書においても高額の評価がなされていることなどを考慮すると、原告による価額の裏付けが十分でないことを考慮しても、少なくとも本件各委託商品のうち、評価額に争いのない本件委託商品六及び七を除き、「原告主張金額」欄記載金額の七割程度の価値を有するものと認められ、これを評価額と認める。
(2) 全損及び分損の別、損害額について
全損か否かにつき争いがある本件委託商品一、三ないし五につき、これらが全損となると認めるに足りる的確な証拠の提出はなく、損傷の程度から全損が明らかとまではいえない。この点につき、本件各委託商品のうち、本件委託商品一、三及び四については、名のある作者の製作によるものであり、キズがあれば商品としては成り立たない旨の意見書(甲四五)があるものの、残価値が〇になるということまでを述べるものではないものと解され、分損と見るほかない。もっとも、名のある作者の製作によるものについては、美術品としての価値が重く見られているものであるから、相当に価値が下落するものと推測でき、本件委託商品一、三及び四については、その八〇%が損害に当たると考える。また、本件委託商品五について、修理不能であると認めるに足りる証拠はなく、前記と同様、六〇%の分損と認める。
(3) 以上から、別表二の「認定損害額」欄のとおり、本件各委託商品の損傷に係る損害総額は、一八五万六六〇〇円と認められる。そして、c店の被告らに対する損害賠償請求権については、平成二四年四月一〇日、原告に対して譲渡され、被告らにこの旨の通知をした事実が認められるから(甲七六)、原告に同額の請求権が認められる。もっとも、原告販売委託手数料については、「原告主張金額」欄記載の八割以上の金額で販売できた場合に初めて得ることができる利益であり、本件委託商品六及び七については、上記のとおり、販売予定価格が評価額となることから、そのうち、二割相当である二〇〇〇円が原告固有の損害と認められる。一方、本件委託商品一ないし五について、これが得られたことについての高度の蓋然性がある旨の的確な証拠はなく、これを認めるに足りない。なお、被告らは、上記手数料利得の主張について、時機に後れた攻撃防御方法として却下すべき旨主張するが、当該主張提出時点において、前提となる事実関係は既に訴訟資料に現れており、当該主張により訴訟の完結を遅延させるとはいえないから、上記主張は採用できない。
よって、原告は、被告らに対し、本件各委託商品に関し、一八五万六六〇〇円の請求権を有することとなる。
四 原告の私物損害(争点(3))について(別表三の四、五番カーナビを除く)
(1) 損害の発生について
被告らは、本件私物六ないし八に係る損害の発生について、被害品未確認であるとして、これを否定する。しかしながら、原告が、平成二二年一〇月二二日付けで作成した損傷物品明細書(甲四四)には、これらについての記載がある。そして、前記一に認定したとおり、原告車は後方から追突を受け、その後相当の距離を進行してガードレールに衝突して停止するに至っているのであり、原告車の窓枠は曲損し、ガラスの殆どは割れていた状況からすれば、その間に窓から転落して紛失した可能性は十分に認められる。前記のとおり、被害品が複数あり、古美術の数が相当に多かったことからすれば、原告の全ての被害品について写真撮影がなされたかどうかについては疑問がある。また、本件私物八のパイプ椅子について原告自身が撮影した写真も存在し、その一部につき裏付けがある(甲五一)。そして、前記と同様、被害品として高額でないこれらの物品につき、原告があえて虚偽の申告をするとも考え難いことをも考え合わせると、本件事故当時、原告車に積載されていたこれらの物品が、本件私物六及び七については紛失し、本件私物八については損傷したものと認められる。
(2) 損害額について
別表三の「認定理由」欄記載の理由により、本件私物四及び五を除く本件各私物について、「認定額」欄の末尾記載のとおりの損害額を認めるのが相当であり、総額五万三八〇〇円となる。
五 その他の損害(争点(4))について
(1) 新車購入費用(別表四の一)及びカーナビ費用(別表三の四及び五)について
本件事故により、原告車が全損となったことは争いがないところ、被告らが賠償すべきは、原告車の本件事故時の時価相当額及び諸手続費用と認めるのが相当である。そして、被告らは、乙一のとおり、平成九年ないし一一年を初年度登録とする原告車と同様のハイエースバンに関するインターネットによる平均市場価格を求め、ここから原告車の走行距離三五万kmを考慮した一二万円の減価をした四一万一〇〇〇円が車両時価となると主張し、これに別表三の本件私物四及び五のカーナビの価格一一万五〇〇〇円を加算すると、合わせて五二万六〇〇〇円ということになるという。これに対し、原告の調査によれば、原告車と同様のカーナビ付きハイエースバンの車両価格が八八万円のものが二台存在することが認められるところ、この二台はいずれも走行距離が約一二万ないし一五万kmであるから、乙一の走行距離による減価表を参照すると、控えめに見ても、上記と同様の一二万円の減価を要すると考えられるから、六六万円となる。以上を考慮して、原告車の車両時価額を上記の車両価格五二万六〇〇〇円と六六万円の平均値とすると、五九万三〇〇〇円となる。そして、原告車には、ルーフキャリア、ETC設備が取り付けられていたことから、これらの修理費用、取付費用である九万四〇〇〇円(争いがない)を加算した金額である六八万七〇〇〇円を原告車の車両時価額と見るのが相当である。これに、証拠(甲四)及び弁論の全趣旨から相当因果関係の認められる手続諸費用である登録手続手数料四万五〇〇〇円、自動車取得税三八〇〇円及び廃車費用八六三〇円を加算すると七四万四四三〇円となる。
(2) その余の損害について
別表四記載の費目について、「認定理由」欄記載の理由により、「認定損害額」欄記載の損害の発生が認められる。
(3) 上記(1)及び(2)の損害額は、合計八四万七三二六円となる。
六 損害額合計
そうすると、原告に生じた損害合計は、原告所有の商品損害として、二七八万六八〇〇円、本件各委託商品に係る損害として、一八五万六六〇〇円、原告の私物損害(別表三の四・五のカーナビ除く。)として五万三八〇〇円、その他の損害(別表三の四・五のカーナビ含む。)として八四万七三二六円の合計五五四万四五二六円となる。ここから、前記争いのない事実等(4)の損害のてん補金三〇五万七七五〇円を控除した残額二四八万六七七六円に、本件の事案及び認容額から相当と認められる弁護士費用額である二五万円を加算した二七三万六七七六円が損害総額となる。
第四結論
よって、原告の被告らに対する請求は、各自二七三万六七七六円及び内金二四八万六七七六円に対する平成二二年一〇月八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 中武由紀)
別表<省略>