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京都地方裁判所 平成23年(ワ)1733号 判決 2013年9月27日

第一事件原告・第二事件被告

X(以下「原告」という。)

同訴訟代理人弁護士

安富巌

和田義之

第一事件被告・第二事件原告

一般社団法人Y学会(以下「被告」という。)

同代表者代表理事

同訴訟代理人弁護士

加藤英範

湖海信成

西村友彦

主文

一  原告が被告の正会員の地位にあること及び循環器専門医資格を有することを確認する。

二  原告の第一事件のその余の訴えを却下する。

三  被告の第二事件請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一事件・第二事件とも、被告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(1)  第一事件

ア 被告が原告に対してした別紙一記載の処分が無効であることを確認する。

イ 主文一項と同旨

(2)  第二事件

ア 原告は、被告に対し、五八四万五九一五円並びにうち一三三万七三二〇円に対する平成一九年八月三一日から、うち一万五九五九円に対する同年九月二八日から、うち一〇〇万九九二〇円に対する同年一〇月三一日から、うち一万三五一五円に対する同年一一月一六日から、うち一〇三万一三四〇円に対する平成二〇年三月一二日から、うち一万八〇七二円に対する同年四月一六日から、うち一一七万六六〇〇円に対する同年一〇月三一日から、うち八二九五円に対する同年一一月二八日から、うち一二二万〇四四〇円に対する平成二一年三月一六日から及びうち一万四四五四円に対する同年四月一七日から、各支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。

イ 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(1)  第一事件

原告の請求をいずれも棄却する。

(被告の本案前の答弁(第八回弁論準備手続調書)は、被告の平成二四年一二月一〇日付け準備書面(8)で撤回された。)

(2)  第二事件

主文第三項と同旨

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件第一事件は、被告の正会員の地位にあり、循環器専門医の認定を受けていた原告が、被告から、平成二三年四月一八日付けで、原告が被告の旅費支給内規七条ただし書(平成二二年三月改定前・以下「旧内規七条ただし書」という。)に違反する行為をしたことを理由として、別紙一記載の除名及び再入会資格の剥奪(五年間)並びに循環器専門医資格の剥奪及び受験資格の剥奪(五年間)の各処分(以下「本件各処分」という。)を受けたことにつき、本件各処分は無効であると主張し、その確認を求めるとともに、原告が被告の正会員の地位にあること及び循環器専門医資格を有することの確認を求めた事案である。

本件第二事件は、被告が、原告の旅費申請行為は、被告の旧内規七条ただし書によれば被告には支払義務のない旅費を、支払義務があるもののように装って申請し、被告から旅費相当額を詐取した詐欺行為に当たると主張して、民法七〇九条に基づき、原告に対し、損害賠償金(被告支出の旅費相当額)及びこれに対する損害発生の日(旅費支出の日)からの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  前提事実(証拠を付さない事実は、当事者間に争いがない。

(1)  当事者等

ア 原告は、循環器学を専門とする医師であり、昭和五四年a大学医学部で医学博士号を取得し、その後、同大学大学院医学研究科循環器内科学准教授、米国b大学客員教授を経て、平成二二年からc大学客員教授の地位にある。昭和五〇年四月一日に被告の正会員となり、平成二年四月、被告からY学会専門医の認定を受け、平成一六年四月から、被告のd委員会委員となり、平成一八年四月からは、被告のd委員会幹事の職に就いていた。

また、原告は、平成一九年一月から四年間、e連合(以下「e連合」という。)の事務局長(Secretary)を務めた。

イ 被告は、循環器学に関する学理及びその応用の研究についての発表及び連絡並びに知識の交換、情報の提供等を行うことにより、循環器学に関する研究の進歩向上を図り、もって学術の発展に寄与することを目的とした社団法人である(なお、本件訴訟係属後、一般社団法人となった。)。

ウ e連合は、世界各国の循環器学会を中心とした医学会及び世界諸地域の心臓財団からなる二〇〇以上の組織で構成されている国際組織(非政府組織)であり、世界保健機構と協力し、循環器疾患の予防、研究、啓蒙活動を目的とする団体である。e連合は二年に一度、各国においてf学会(以下「f学会」という。)を開催している。

エ 被告は、平成二六年度のf学会を日本に招致するべく、平成一七年一〇月一四日、f学会招致準備委員会を組織し、原告をその委員長に指名した。f学会招致準備委員会は、委員長(原告)のほか、被告理事長、d委員会委員長、学術委員会委員長、財務委員会委員長で構成された。f学会招致準備委員会は、平成二一年一月二三日、平成二〇年度第三回理事会で、f学会招致委員会に昇格した。

被告は、平成二二年三月四日、e連合に対し、f学会招致を撤回する旨を通知した。

オ なお、アメリカ心臓協会(以下「AHA」という。)、アメリカ心臓病学会(以下「ACC」という。)及びヨーロッパ心臓病学会(以下「ESC」という。)等の世界規模の大きな学会、学術集会が開催される際には、世界中から多数の循環器専門医が集まることから、それに合わせて、他の学会や会合が開催されることが一般的である。

(2)  被告の処分規程の定め

被告は、定款第一二条(除名)及び循環器専門医制度規則第九条(処分)の詳細を定めた処分規程をおいているところ、その内容は、以下のとおりである(なお、社団法人g委員会については、本判決中では、「g委員会」と略称する。)。

「第二条(委員会の設置)

定款第三六条に基づき、本会に社団法人g委員会(以下「本委員会」という)を置く。

第四条(委員会)

本委員会は、当該申し立てにつき、事実を調査を行い、その結果として処分の可否並びに処分の種類の決定を行う。

二  当該申し立ての調査においては、被申立人の事情聴取を行わなければならない。(省略)

三ないし九(省略)

第五条(委員会の招集)

何人も、本委員会委員長に下記各号に該当すると思料するときは、本委員会委員長に申し立てをすることができる。

(1)  会員がこの法人の名誉を著しく傷つけ、又はこの法人の目的に違反する行為があったとき、並びにこの法人の会員としての義務に違反したとき

(2)(3)(省略)

二  第一項の申し立てがあった場合、委員長は速やかに委員会を招集し、調査を開始しなければならない。

三  (省略)

第九条(会員資格に関する処分)

理事会は、第五条第一項の各号に定める内容に該当する事由が認められたときは、次のいずれかの処分を科すものとする。ただし(3)(4)の処分については評議員会の承認を必要とする。また、当事者が循環器専門医資格認定試験の受験者又は循環器専門医であるときは、本条に併せて第一〇条又は第一一条のいずれかの処分を科すものとする。

(1)  戒告

(2)  本学会学術集会および地方会での発表、本学会評議員の選挙権・被選挙権の停止(一~五年間)

(3)  除名且つ再入会資格の剥奪(一~五年間)

(4)  永久除名

第一一条(循環器専門医資格に関する処分)

理事会は、本学会機関誌において、機関誌の投稿規程に違反したものについては、下記の処分を科すものとする。また、当事者が本学会会員であるときは本条に併せて第九条の処分を科し、さらに循環器専門医資格認定試験の受験者又は循環器専門医であるときは、第一〇条または第一一条の処分を科すものとする。

(1)  循環器専門医資格の停止(一~五年間)

資格停止期間中は、更新単位の取得を認めない。

(2)  循環器専門医資格の剥奪且つ受験資格の剥奪(一~五年間)

(3)  循環器専門医資格の永久剥奪」

(3) 被告における旅費支給に関する内規

ア 旧内規七条ただし書の創設

被告においては、d委員会の活動が活発化し、それに伴って海外派遣旅費の支給が増大したため、有効・適切な法人財政の運営の観点から、平成一九年三月一四日の平成一八年度第四回理事会において、旅費支給内規を改定し、第七条の創設を決定した。その内容及び改定時の趣旨説明は以下のとおりである。

(ア) 旧内規七条の内容

「d委員会から委員及びそれに準ずる者を海外派遣する場合、国際線航空運賃はノーマルビジネスクラス料金を学会が負担し、宿泊費は実費を支給する。…(省略)…但し、AHA/ACC/ESC程度の国際学会で以下の条件のいずれかに合致する場合は、いずれの費用も学会は負担しない。

1)当該学術集会で座長に指名されている

2)当該学術集会で演題発表がある(教室員等の発表サポートも含む)

3)当該学術集会で企業等が企画した座談会等で謝礼(旅費)が支給される

なお、上記条件については、派遣者本人が申告するものとする。」

(イ) 旧内規七条創設に当たっての説明等

a 平成一八年度第三回理事会

(a) d委員会委員長であるB(以下「B委員長」という。)は、平成一九年一月二六日、被告の平成一八年度第三回理事会において、「さまざまな活動で委員あるいはY学会の会員が海外に出張していただいておりまして、その都度出張旅費を負担していただいているのですが、例えばAHAとかACCとかESCとか、ご自分で座長を依頼されているとか、あるいは発表があるとか、あるいはメーカー主催の座談会に出られる、そういった予定のある方が向こうで何かのY学会の公務にかかわるという場合に、旅費を出すべきかどうかということが若干議論になっております。全くほかに用事がなくて、このY学会の公務のためだけに行かれる方に旅費を出すことは問題ないと思いますが、それ以外の場合にどうしたらいいか。少し、これからd委員会でももう少し議論をしていきたいというふうに思っております」と発言した。

(b) これを受けて、C理事長が「なかなか経費がずっとなりまして、それから、これからいろんなことを招致あるいはいろいろお付き合いが増えてきますとY学会から何か行ったときに、同時にまた何かをやると、その学会には参加するけれどもY学会に絡んだ仕事もすると、こういう機会はこれから増えてくるだろうと思うのですが、予算が許せばいろいろ補助をするに越したことはないかと思うのですけれども、どこまでが個人の参加の領域と学会からの参加と、なかなか難しい問題かなと思いますけれども」などと発言して、d委員会から具体的な提案をしてもらいたいとした。

b 平成一八年度第四回理事会

(a) B委員長は、平成一九年三月一四日、被告の平成一八年度第四回理事会においては、「AHAとかACCとかESC程度の国際学会の場合、各先生方は既にそれに参加されることが決まっている場合もあるので、そういう場合には旅費を支給する必要はないんじゃないかというご意見もございました。そこで、一応その下に、いずれかに合致する場合は学会は費用を負担しないということに決めさせていただきたいと思います。その下に1、2、3とございまして、このAHA、ACC、ESCに限ってですが、既に座長に指名されている、それから二番目としてはその学会で教室員あるいはご本人の演題発表があって、ついていく用事が既にあると、三番目としては企業等が企画した座談会等で謝礼が支給される、そういう方の場合はこのいちばん最後に派遣者本人が申告するものとするということになっておりますが、そういうものに該当しないとご本人が考えられた場合にはY学会に対して旅費の支給を申請していただきたいということでございます。例えば、今回AHAとJCSのジョイント・シンポジウムがこの一一月に開かれますけれども、そこで講師にお願いした先生方がこれに該当しなければ、Y学会の方に請求していただければ支給させていただくというような形になっております。たまたま私は委員長でこの座長をさせていただくのですが、残念ながら教室員の発表がございますので、該当しないということになります。」などと発言した(以下「B発言」という。)。

(b) 続けて、議長であるC理事長が、「この規定でほとんどは、こういう大きな学会では該当しないということではないかと思いますけれども、どうしても何もなくてわざわざ行くということの場合には学会の方から支給をしますという規定、そういうぐらいの理解でよろしいでしょうか。」などと発言した(以下「C発言」という。)

イ 旧内規七条の改定

被告の旧内規七条は、本件各処分の対象とされている原告の出張後の平成二二年三月、次のとおり改定された。

「委員会から委員及びそれに準ずる者を学会の代表として海外派遣する場合、原則としてAHA/ACC/APSC/ESC/f学会について学会は派遣関連費用を負担しない。ただし、事前に理事会の承認もしくは理事の過半数から電子メール等で同意を得た場合にのみ、派遣関連費用の負担を認める。」

(4)  原告のe連合理事会(Board Meet-ing)及びe連合臨床心臓病理事会(Sci-entific Council)の出張旅費(年四回開催)に関する合意(以下「本件合意」という。)

ア 平成一九年一月二六日、被告の平成一八年度第三回理事会において、B委員長から、原告がe連合事務局長としてe連合理事会(Board Meeting)及びe連合臨床心臓病理事会(Scientific Council)に出席するための出張旅費(年四回開催)について、一回はe連合の負担、二回は被告の負担、残り一回は日本心臓財団が負担するということで、日本心臓財団と被告との間で基本的に合意した(本件合意)との報告があり、承認された。

イ 被告における平成一九年度事業計画に伴う概算請求書(平成一八年一一月一〇日付け)には、「e連合理事会への派遣費用(X先生)」と記載されている。

また、被告における平成二〇年度事業計画に伴う概算要求書(平成一九年一一月二日付け)には、「e連合理事会及びf学会プログラム委員会への派遣費用 ビジネス航空運賃・宿泊費×各二回分」と記載されている。

(5)  原告の会議出席と被告の旅費支出

ア 原告は、平成一九年七月二七日、被告に対し、同年九月三日開催のf学会プログラム委員会Meeting(以下「会議①」という。)へ出席するための旅費支給を申請し、被告は、同年八月三一日、合同会社トラベルラボパートナーズ(以下「本件旅行社」という。)に対し、航空運賃及び宿泊費一三三万七三二〇円を支払った。また、原告は、同年九月二一日、被告に対し、会議①に関する現地交通費一万五九五九円を請求し、同月二八日、被告から、同額を受領した。

会議①は、ESC二〇〇七の開催期間中に行われたところ、原告はESC二〇〇七で演題発表をした(以下「演題発表①」という。)。

イ 原告は、平成一九年一〇月一一日、被告に対し、同年一一月四日開催のe連合臨床心臓病理事会(以下「会議②―一」という。)へ出席するための旅費支給の申請をし(被告は、会議②―一のみならず、AHA―JCSジョイント(以下「会議②―二」という。)の旅費支給も申請したと主張しており、この点については、当事者間に争いがある。)、被告は、同年一〇月三一日、本件旅行社に対し、航空運賃及び宿泊費用一〇〇万九九二〇円を支払った。また、原告は、同年一一月九日、被告に対し、会議②に関する現地交通費一万三五一五円を請求し、同月一六日、被告から、同額を受領した。

会議②は、AHA Scientific Sessionsの期間中に行われた。訴外D(以下「D」という。)は、AHA Scientific Sessionsで演題発表をしたが(以下「演題発表②(D)」という。)、当該演題にかかる研究に、原告は共同研究者として名を連ねていた。

ウ 原告は、平成二〇年三月一〇日、被告に対し、同月三一日開催のf学会プログラム委員会(以下「会議③」という。)へ出席するための旅費支給の申請をし、被告は、同月一二日、本件旅行社に対し、航空運賃及び宿泊費一〇三万一三四〇円を支払った。また、原告は、同年四月八日、被告に対し、会議③に関する現地交通費一万八〇七二円を請求し、同月一六日、同額を受領した。

会議③は、ACC Scientific Sessionsの期間中に行われており、原告は、ACC Scientific Sessionsで演題発表をした(以下「演題発表③」という。)。

エ 原告は、平成二〇年一〇月一七日、被告に対し、同年一一月一〇日開催のf学会 Member's Meeting(以下「会議④」という。)へ出席するための旅費支給を申請し、被告は、同年一〇月三一日、本件旅行社に対し、航空運賃及び宿泊費一一七万六六〇〇円を支払った。また、原告は、同年一一月一四日、被告に対し、会議④に関する現地交通費八二九五円を請求し、同月二八日同額を受領した。

会議④は、AHA Scientific Sessionsの期間中に行われており、原告は、AHA Scientific Sessions中のAHAと被告のジョイントセッションにおいて、演題発表をした(以下「演題発表④」という。)。

オ 原告は、平成二一年三月二日、被告に対し、同月三〇日開催のJoint Session of the JCS and ACC(以下「会議⑤」という。)へ出席するための旅費支給を申請し、被告は、同年一六日、本件旅行社に対し、航空運賃及び宿泊費一二二万〇四四〇円を支払った。また、原告は、同年四月三日、被告に対し、会議⑤に関する現地交通費一万四四五四円を請求し、同月一七日、同額を受領した。

原告は、会議⑤で演題発表した(以下「演題発表⑤」という。)。

(6)  本件処分

ア 平成二二年一〇月二二日、平成二二年度第二回理事会において、原告の活動内容を調査するための調査委員会が発足され、調査委員会は、平成二三年二月一七日、その調査結果をまとめた報告書を理事長に提出した。

イ g委員会は、平成二三年二月二五日、会議①ないし⑤の原告による旧内規七条ただし書「違反行為」は、被告の会員の負う規程等の遵守義務に違反し、ひいては、被告法人の目的の達成を阻害するものであって、処分規程五条一項一号に該当するところ、処分の種類としては、原告が旧内規七条の創設作業に直接関与して、創設の経過、内容及び趣旨について知悉していたにもかかわらず、本件会議②―一・二、④及び⑤については、未だ不合理な弁解に終始して上記違反の事実を否認していること、旧内規七条ただし書「違反行為」は、三年間に五回も繰り返されており、金額も、一回一〇〇万円以上、総額五八四万五九一五円に及ぶこと、被告は公益活動を目的とする法人であることから、被告の支出金銭は、その使途・手続において極めて厳格な意味において適正であることが求められていること、他方、原告はf学会プログラム委員としての業務自体は一応行っていたこと、原告が会議①③の二件二四〇万二六九一円については非を認め二〇〇万円の弁済を申し出ていることを勘案すれば、処分の種類としては、処分規程九条三号を適用して、除名かつ再入会資格の剥奪(五年間)を科すのが相当であるとの決定をした。

ウ 被告理事会は、平成二三年四月九日、本件各処分を承認した。

エ 被告評議委員会は、平成二三年四月一七日、本件各処分を承認した。

被告は、同月一八日、原告に対し、本件各処分を通知した。

オ 本件各処分の通知書の内容は、次のとおりである。

(ア) 処分理由

原告は、次のaないしeの行為をした。これらの行為は、旧内規七条ただし書に合致することから、同ただし書違反である。

a 被告は、平成一九年九月三日開催の会議①に出席し、被告に対し、会議①の旅費として、合計一三五万三二七九円を負担させた。

会議①は、ESC二〇〇七期間中に行われており、原告は、d委員会幹事の職にあり、ESC二〇〇七において演題発表①をした。

b 原告は、平成一九年一一月四日開催の会議②―一及び会議②―二に出席し、被告に対し、会議②―一・二の旅費として、合計一〇二万三四三五円を負担させた。

会議②―一・二は、AHA Scientific Sessionsの期間中に行われており、原告は、d委員会幹事の職にあり、AHA Scientific Sessionsにおいて演題発表②(D)をした(教室員等の発表サポートも含む)。

c 原告は、平成二〇年三月三一日開催の会議③に出席し、被告に対し、会議③の旅費として、合計一〇四万九四一二円を負担させた。

会議③は、ACC Scientific Sessionsの期間中に行われており、原告は、d委員会幹事の職にあり、ACC Scientific Sessionsにおいて演題発表③をした。

d 原告は、平成二〇年一一月一〇日開催の会議④に出席し、被告に対し、会議④の旅費として、合計一一八万四八九五円を負担させた。

会議④は、AHA Scientific Sessionsの期間中に行われており、原告は、d委員会幹事の職にあり、AHA Scientific Sessionsにおいて演題発表④をした。

e 原告は、平成二一年三月三〇日開催の会議⑤に出席し、被告に対し、会議⑤の旅費として、合計一二三万四八九四円を負担させた。

会議⑤は、ACCと被告のジョイントセッションであり、原告は、d委員会幹事の職にあり、この会議⑤において演題発表⑤をした。

(イ) 処分内容

a 会員資格に関する処分

除名かつ再入会資格の剥奪(五年間)

定款一二条一号二号、処分規程九条三号

b 循環器専門医資格に関する処分

循環器専門医資格の剥奪かつ受験資格の剥奪(五年間)

Y学会認定循環器専門医制度規則八条二号、処分規程一一条二号

カ 被告は、e連合本部に対して、「原告が旅費の不正取得により被告を追放になった」旨を通知した。

三  争点

(1)  第一事件

本件各処分は有効か(争点(1))

(2)  第二事件

原告の旅費申請行為が詐欺行為に当たるか(争点(2))

四  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(本件各処分の有効性)について

【被告の主張】

ア 原告は、旧内規七条の創設を決定した理事会に出席していたのであるから、会議①ないし⑤出席のための旅費を被告に請求することが同条ただし書違反になることを熟知していた。それにもかかわらず、当該会議出席のための旅費を受給したことは、被告会員の納めた会費を不正に受給する行為ひいては被告会員全員への背信行為として、処分規定五条一項一号の「法人の目的に違反する行為があったとき」又は「この法人の会員としての義務に違反したとき」に該当する。

旧内規七条に関する被告の意見は、別紙二「旧内規七条の解釈上の相違点」の〔被告の主張〕欄記載のとおりであり、これによると、別紙三「旧内規七条ただし書違反の有無」の〔被告の主張〕欄記載のとおり、会議①ないし⑤出席のための旅費の受給が旧内規七条ただし書二号に反することは明らかである。

イ 被告は任意加入団体であり、被告から除名されても、被告認定の専門医資格を剥奪されても、医師としての資格は失わず、原告の権利利益が害されることはない。

そうすると、本件各処分の当否は、被告内部の自主的、自律的解決に委ねられてもよいのであって、少なくとも、被告には、会員に対して、いかなる処分をするかについて広範な裁量が認められるというべきである。

裁量を逸脱しない以上は、処分は有効であるところ、原告の被告における立場の重要さ、原告が行った行為が直接被告の経済的基盤を脅かすものであること、原告が交付を受けた旅費を返還していないことなどに鑑みると、本件各処分が被告の裁量を逸脱したものとはいえない。

被告は、循環器病に関する研究の推進、治療及び予防に努めるだけでなく、それらに関する新しい情報を一般臨床医に伝達し、これらを通じて社会全体の幸福に寄与することを設立理念とした国内有数の学術団体であり、会員数は二万六〇〇〇人を超え、その大多数が医師及び医学研究者から構成され、全員の倫理性や規範意識は極めて高い。したがって、被告の役職に就く者は、被告会員との関係から、高い倫理性が求められ、被告に対して誠実に行動することが要請される。定款で二年以上の会費滞納が資格喪失と定められていた趣旨は、会費の支払は、会員として最も基礎的な義務の履行であり、これを怠ることは、最も重大な被告への背信行為であると考えられるからである。原告の行為は、二万六〇〇〇人の会員が支払った会費によって賄われる出張旅費等を本来支出すべきでない場合に請求したというもので、会費が規程に則り適正に支出されているはずであるという被告会員の信頼を裏切り、かつ、私利私欲に傾くことなく、透明性を確保し、誠実に行動するという義務を怠る、被告に対する重大な背信行為である。その背信性は論文盗用等に比して軽いものではあり得ない。

ウ 調査委員会は、多数回にわたり綿密な調査を行った上で、g委員会においても事実確認を行い、いずれの手続においても、弁護士を付けた原告に対し、十分な弁解の機会を与えた。なお、平成二三年四月一七日の評議員会は、臨時のものではない。定例会議であったが、東日本大震災のために後れて開催されたにすぎない。

【原告の主張】

ア 原告が会議①ないし⑤出席のための旅費を受給したことは、別紙二「旧内規七条の解釈上の相違点」の〔原告の主張〕欄及び別紙三「旧内規七条ただし書違反の有無」の〔原告の反論〕欄記載のとおり、旧内規七条ただし書に反しない。

イ また、本件各処分は、その処分理由となる原告の行為を、被告に旅費を「負担させた」行為としているが、実際の旅費申請行為というのは、原告が、被告事務局に対し、当該会議出張の日程を伝え、被告事務局が、本件旅行社に航空券や宿泊を手配して、請求書を受け取り、これに対する支払が被告内部で稟議・決裁された上で、被告事務局から本件旅行社に振り込まれる。原告は、現地で支払った移動費(一万円前後)のみを、後日、領収書とともに、被告事務局に請求し、これに対する支払が被告内部の決裁を経て、原告に支給されるというものである。原告は、日程を被告事務局に伝えているし、会議④⑤については、被告から依頼された演題発表であり、被告が把握していたことも明らかである。

しかも、原告は、前記アのとおり、旧内規七条違反であるとは認識していなかったし、少なくとも、旧内規七条の趣旨は、不明確そのもので、理事会等における趣旨説明は、むしろ、原告主張の解釈を導く内容であって、原告が旧内規七条に違反しないと理解したことには何らの落ち度もない。

そうすると、「故意による不正請求行為」など存在しないことが明らかである。

ウ さらに、g委員会では、原告が日本人として初めてe連合の事務局長となり、被告がその旅費負担を対外的に合意していることも正確に取り上げられず、旅費申請手続自体がどのように行われるかも把握されないまま、本件各処分が決定された。

エ 本件各処分は、被告のそれまでの処分例に照らしても、明らかに不均衡である。被告における除名処分(一例のみ)は、論文の盗用という医師としての信用性を決定的に損なう重要な非違行為を故意に行ったものである。診療報酬不正請求、銃砲刀剣類所持といった行為に対しても、会員資格一年停止(二例)にすぎない。これらに比べて、原告に対しての除名(かつ五年間の再入会資格剥奪)は何らの相当性も正当性も見いだせない。

オ 本件各処分は、平成二三年四月一七日の臨時評議員会において承認されているが、出席者九四名中、賛成は三八名にすぎず、反対が四二名、棄権が一四名である。可決は事前に徴集されていた「全議案(一五件)に賛成する委任状」一四二通により決せられたものであるが、その招集通知は、臨時評議員会の一週間前にされたものであった。

また、評議員会における本件各処分の理由や原告の言い分についての説明は、極めて不公正なものであった。それでも、出席者からは、本件各処分や旧内規七条の解釈をめぐって、異論がでていたのである。

(2)  争点(2)(詐欺行為の存否)について

【被告の主張】

原告は、旧内規七条の創設作業に直接関与し、その創設の経過、内容及び趣旨について熟知していたから、会議①ないし⑤出席のための旅費を支給することが旧内規七条ただし書に反することを当然認識していた。それにもかかわらず、原告は、旧内規七条ただし書の条件に合致することを被告に秘して、会議①ないし⑤出席のための旅費を被告に請求し受給したのであるから、被告から旅費を詐取したといえる。

【原告の主張】

前記(1)〔原告の主張〕のとおり、会議①ないし⑤出席のための旅費受給は旧内規七条ただし書に違反しない。

仮に、会議①ないし⑤出席のための旅費が、旧内規七条ただし書の解釈によって、本来支給されるべきではなかったとしても、原告にはそのような認識がなかったのであるから、原告が被告を欺いて旅費を騙し取るといった行為は存在しない。

第三当裁判所の判断

一  第一事件について

(1)  法律上の争訟性について

第一事件請求について法律上の争訟性を争うのか、被告の態度は、二転三転して不明確であるが、まず、この点につき判断する。

自律的規範を有する団体の内部における法律上の紛争については、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる場合には、原則として、当該団体内部の自治的、自律的な解決に委ねられるのを相当とし、法律上の争訟に当たらないものとして、裁判所の司法審査権が及ばないものであるが、当該紛争が、当該団体の単なる内部的紛争にとどまらず、その当事者の一般市民法秩序に係る権利利益を侵害するような場合には、法律上の争訟に当たり、裁判所の司法審査が及ぶと解される。

これを本件各処分についてみるに、前記第二の二(前提事実)及び弁論の全趣旨によれば、現代医療の現場では高度な専門性が要請されるが、公的な専門医資格制度がないわが国の現状においては、各学会が設ける専門医制度が医療レベルの向上と専門医の育成に大きな役割を果たしており、社会的にもそのように評価されていること、被告の会員でなければ循環器専門医の資格も喪失すると定められていること(被告循環器専門医制度規則九条)、被告は、世界的な心臓病学会であるe連合本部に対し、本件各処分を通知していることが認められ、これらの事実によれば、原告を被告から除名し、循環器専門医資格を剥奪する本件各処分は、被告の内部的な規律問題にとどまるものではなく、原告の一般市民法秩序における権利利益に影響を与えるものというべきである。

したがって、本件各処分の有効性は司法判断の対象となるというべきである。

(2)  争点(1)(本件各処分の有効性)について

ア 前記第二の二(前提事実)によれば、本件各処分は、原告が本件①ないし⑤会議に出席するための旅費を受領したことを、旧内規七条ただし書「違反行為」であるとし、その違反行為は、被告の会員の負う規程等の遵守義務に違反し、ひいては、被告法人の目的の達成を阻害するものであって、処分規程五条一項一号に該当すると判断して下されたものであり、その処分の種類として、除名という厳しい処分が選択された情状としては、原告が旧内規七条の創設作業に直接関与して、創設の経過、内容及び趣旨について知悉していたにもかかわらず、本件会議②、④及び⑤については、未だ不合理な弁解に終始して上記違反の事実を否認していること、旧内規七条ただし書「違反行為」は、三年間に五回も繰り返されており、金額も、一回一〇〇万円以上、総額五八四万五九一五円に及ぶことが挙げられていることが認められる。

イ しかしながら、前記第二の二(前提事実)と証拠<省略>によれば、原告は、海外出張の際には、被告事務局に対し、出席する会議の日程等を伝え、これを受けた被告事務局が、航空チケット及び宿泊先の予約を旅行社に依頼し、旅行社に対して代金を支払っていたところ、旧内規七条が創設された平成一九年三月一四日以降も、その手続に変わりはなく、原告は、会議①ないし⑤にそれぞれ先立って、被告事務局に対し、会議①ないし⑤の予定を伝え、これを受けた被告事務局が、本件旅行社に旅行プランを依頼し、その費用(航空代金及び宿泊代金)を請求させ、決裁を経て、本件旅行社に対する支払をしたこと、その際、被告事務局からは、旧内規七条の創設により、同条ただし書が適用されるため旅費の支給は困難になったといった指摘はなかったこと、少なくとも、会議⑤は、被告とACCのジョイントであり、同会議では、被告の指名により、原告が演題発表⑤をすることになっており、もとより、被告もそのことを承知していたことが認められ、これらの事実によれば、本件各処分で問題とされている「違反行為」というのは、被告事務局の関与なしには成立しないものであって、原告の行為は申請行為とは評価し得るとしても、「違反行為」という評価は不適切である(この点につき被告は、旧内規七条が「なお、上記条件については、派遣者本人が申告するものとする。」と規定し、被告においては、会員各人の高い倫理性が求められていることを主張するが、これらを最大限に考慮しても、前判示の事実経過によれば、原告の申請行為を、一人原告の責任を問えるような「違反行為」と評価することはできない。)。そして、その「違反行為」が三年の間、五回にわたり、金額が高額に及ぶことが情状として指摘されているが、金額等は、被告事務局が本件旅行社に依頼して決定し、決裁を経て支払われたものであり、三年、五回に及んだことは、むしろ、その間、被告事務局においては、何ら問題とはならず、支払決裁が繰り返された結果によるものと言える。

そして、被告は、原告が旧内規七条の創設作業に直接関与して、創設の経過、内容及び趣旨について熟知していたとするが、前記第二の二(前提事実)によれば、旧内規七条の規定の表現自体が一義的ではなく、また、少なくとも、被告事務局自体がその決裁に当たって、会議⑤において原告が演題発表⑤を行うことを承知していても、それが旧内規七条ただし書に反すると判断し得ないものであったことが認められることからすると、原告が被告事務局に会議予定を伝えて、旅費支給を申請するに当たって、本来、旅費が支給されないことを熟知しながら、あえて、そのような申請をしたなどという評価は不当というほかない。

ウ さらに、本件各処分においては、原告がe連合事務局長の旅費は、本件合意に基づくものであり、旧内規七条のただし書の適用はないと主張していることをもって、不合理な弁解に終始しているとして断罪している。しかしながら、前記第二の二(前提事実)によれば、本件合意によって、被告は、対外的に、e連合事務局長の旅費の一部を被告が分担することを合意したのであり、原告は個人の資格をもって、e連合事務局長の地位にあるのであるから、客観的には、原告の上記主張は極めて合理的なものであって、むしろ、原告がe連合事務局長の地位にあると同時に被告の会員であることをたてにとって、本件合意はあっても、原告は被告の会員であるから旧内規七条ただし書の適用によって、被告は旅費を負担しない場合があるとする被告の主張の方が肯首し難いものである。そうすると、少なくとも、原告の上記主張をもって、「特別扱い」を求める「不合理」な「こじつけ」という被告による評価が誤りであることは明らかと言うべきである。

エ 以上によれば、本件各処分は、その前提とする事実評価を誤り、本件合意と旧内規七条の関係について不相当な判断に基づくものということとなる。そうすると、本件各処分は、その理由の重要部分において前提を欠くこととなるのが明らかであるから、その余の点を判断するまでもなく、本件各処分は無効と言わざるを得ないものである。

なお、原告は、第三回口頭弁論期日において、被告第九準備書面記載の各主張について、時機に遅れた攻撃防御方法である旨主張し、却下を求めるが、当該書面には、訴訟完結を遅延させるような新たな攻撃防御方法が記載されているとは認められないから、上記申出は対象を欠くものとして理由がない。

(3)  以上のとおり、本件各処分が無効である以上、原告は被告の正会員の地位にあり、かつ循環器専門医資格を有していることになるから、原告の第一事件請求のうち、上記地位及び資格の確認を求める部分は理由がある。

しかし、本件各処分の無効確認を求める部分は、過去の法律関係の有効性の確認を求めるものであり、その存否を確定することが、紛争の直接かつ抜本的な解決のため適切かつ必要と認められる場合には、確認の利益があるといえるものの、上記のとおり原告の現在の地位及び資格の確認とは別に、過去の法律関係である本件各処分の無効確認を求めることが、紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要であることをうかがわせる事情は何ら見い出せない。

したがって、原告の第一事件の訴えのうち、本件各処分の無効確認を求める部分は、確認の利益を欠き、不適法なものとして却下を免れない。

二  第二事件(争点(2))について

被告は、原告が旧内規七条ただし書に違反することを被告に秘して、旅費申請し、被告から、会議①ないし⑤出席のための旅費を詐取したと主張するが、前判示の事実からすると、被告主張の詐取行為が認められないことは明らかである。

よって、被告の第二事件請求は、その余を判断するまでもなく、理由がない。

三  結論

以上によれば、原告の第一事件請求のうち、本件各処分の無効確認を求める部分は不適法なものとして却下し、その余は理由があるから認容し、被告の第二事件請求は、理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 比嘉一美 裁判官 上田賀代 島田理恵)

別紙一 処分の表示

平成二三年四月一七日、被告において承認され、同月一八日、原告に通知された下記処分。

(1) 会員資格に関する処分について

除名且つ再入会資格の剥奪(五年間)(定款一二条一号二号、処分規定九条三号)

(2) 循環器専門医資格に関する処分について

循環器専門医資格の剥奪且つ受験資格の剥奪(五年間)(Y学会認定循環器専門医制度規則八条二号、処分規定一一条二号)

別紙二 旧内規七条の解釈上の相違点

一 旧内規七条は、d委員会からの海外派遣の場合にのみ適用されるか(相違点(1))。

【被告の主張】

被告には、旅費支給内規の外には旅費等を支給する根拠となる規程は存在しないことから、会員が公務のため出張する際に被告から旅費等を支給する場合には、その名目等の如何を問わず、全て同規程が適用される。

本件合意は対外的な問題にすぎず、本件合意によって、旧内規七条の適用を除外することまで確認されたわけではない。

【原告の主張】

(1) 旧内規七条は、明文通り、d委員会からの海外派遣に関する規程である。f学会招致準備委員会からの海外派遣には適用されない。

(2) 旧内規七条は、少なくとも、被告からの海外派遣の場合の規程であり、本件合意(e連合事務局長の旅費負担)に基づく旅費支給には適用されない。

二 旧内規七条ただし書二号の「当該学術集会で演題発表がある(教室員等の発表サポートも含む)」に、被告から依頼された講演発表も含まれるか(相違点(2))。

【被告の主張】

AHA/ACC/ESC等の各学会、学術集会は、世界的な最高レベルの学会、学術集会であり、世界中の循環器専門医が自身の学問的発展のために参加するものであるところ、そこでの演題発表は、個人の名誉であり、利益であるから、そのような場合には、被告は旅費を支給しないこととしたのが、旧内規七条ただし書二号の趣旨である。また、依頼といっても、その経緯はさまざまであり(自薦もあり得る。)、最終的に指名の形をとったからといって、旧内規七条ただし書の除外事由とするのは妥当ではない。

したがって、演題発表が被告からの依頼であっても、旧内規七条ただし書二号に該当する。

【原告の主張】

旧内規七条ただし書二号の「演題発表」は、被告から依頼を受けた演題発表は含まれず、あくまで、「私用での演題発表」を意味する。

三 旧内規七条ただし書二号の「当該学術集会で演題発表がある(教室員等の発表サポートも含む)」には、演題発表の共同研究者になることも含むか(相違点(3))。

【被告の主張】

AHA/ACC/ESC等の各学会、学術集会は、世界的な最高レベルの学会、学術集会であり、世界中の循環器専門医が自身の学問的発展のために参加するものであるところ、そこでの演題発表は、個人の名誉であり、利益であるから、そのような場合には、被告は旅費を支給しないこととしたのが、旧内規七条ただし書二号の趣旨である。

したがって、演題発表のレポートに共同研究者として明記されている場合にも、旧内規七条ただし書二号に該当する。

【原告の主張】

ただし書は、被告の主張によっても、「公務に重ねて、私的に出席する用事がある」場合を除外する趣旨であるというのであるから、「発表サポート」は、少なくとも、「当該演題発表に立ち会い、発表の援助をしたこと」が必要である。

四 旧内規七条ただし書二号の「当該学術集会で演題発表がある(教室員等の発表サポートも含む)」は、被告からの派遣が決まった後に、依頼された演題発表も含むか(相違点(4))。

【被告の主張】

演題発表がされた場合は、事情の如何を問わず、旧内規七条ただし書二号が適用される。B発言は、例示的に説明したにすぎない。

【原告の主張】

B発言によれば、ただし書は、被告からの出張が決まる前に、既に座長に指名されていたり、演題発表が決まっている場合には旅費を支給しないことを定めたものである。

別紙三 旧内規七条ただし書違反の有無

一 会議①

【被告の主張】

旧内規七条は、被告から派遣される全ての場合に適用されるし(解釈上の相違点(1))、f学会招致準備委員会は、平成二一年一月二三日以前は、d委員会内の小委員会であったから、旧内規七条が適用されるところ、原告は、会議①の出張中、ESC二〇〇七において演題発表①をしたのであるから、同ただし書二号に該当し、旅費請求は許されない。

【原告の反論】

(1) 会議①は、f学会招致準備委員会からの派遣であるから(解釈上の相違点(1))、旧内規七条の適用はない。

(2) 平成一九年一月二六日、被告の平成一八年第三回理事会において、原告が会議①③にf学会招致準備委員会委員長として出席することが承認された。その後、平成一九年三月二七日に、会議①の際に同時に開催されるESC二〇〇七において、原告が演題発表①を行うことが決まった。

被告から派遣が決まった時点では、演題発表は決まっていなかったのであるから(解釈上の相違点(4))、旧内規七条ただし書二号の適用はない。

二 会議②

【被告の主張】

旧内規七条は、被告から派遣される全ての場合に適用されるから(解釈上の相違点(1))、旧内規七条が適用されるところ、原告は、会議②―一・二の出張中、AHA Scientific Sessionsにおける演題発表②(D)のレポートの共同研究者として名前を連ねていたのであるから(解釈上の相違点(3))、同ただし書二号に該当し、旅費請求は許されない。

【原告の反論】

(1) 本件合意に基づく旅費支給であるから(解釈上の相違点(1))、旧内規七条ただし書は問題とならない。

(3) 原告は、演題発表②(D)の際、その場にもいなかったのであり、何らの発表サポートをしていない。単に、演題発表にかかる研究に共同研究者として名前を連ねていただけであるから(解釈上の相違点(3))、旧内規七条ただし書二号の適用はない。

三 会議③

【被告の主張】

旧内規七条は、被告から派遣される全ての場合に適用されるし(解釈上の相違点(1))、f学会招致準備委員会は、平成二一年一月二三日以前は、d委員会内の小委員会であったから、旧内規七条が適用されるところ、原告は、会議③の出張中、ACC Scientific Sessionsにおいて演題発表③をしたのであるから、同ただし書二号に該当し、旅費請求は許されない。

【原告の反論】

(1) 会議①は、f学会招致準備委員会からの派遣であるから(解釈上の相違点(1))、旧内規七条の適用はない。

(2) 平成一九年一月二六日、被告の平成一八年第三回理事会において、原告が会議①とともに会議③に、f学会招致準備委員会委員長として出席することが承認されたが、会議③の日程が決まったのは、平成一九年七月九日であり、原告が会議③の際に同時に開催されるACC Scientific Ses-sionsで演題発表をすることが決まったのは、同年八月三一日である。

被告から派遣が決まった時点では、演題発表は決まっていなかったのであるから(解釈上の相違点(4))、旧七条ただし書二号の適用されない。

四 会議④

【被告の主張】

原告は、会議④の出張中、AHA Scien-tific Sessionsにおいて演題発表④をしたのであるから、旧内規七条ただし書二号に該当し、旅費請求は許されない。

【原告の反論】

(1) 本件合意に基づく旅費支給であるから(解釈上の相違点(1))、旧内規七条ただし書違反の問題とはならない。

(2) 演題発表④は、被告からの依頼によるものであるから(解釈上の相違点(2))、旧内規七条ただし書二号の適用はない。

五 会議⑤

【被告の主張】

原告は、会議⑤において、演題発表⑤をしたのであるから、旧内規七条ただし書二号に該当し、旅費請求は許されない。

【原告の反論】

(1) 演題発表⑤は、被告からの依頼によるものであるから(解釈上の相違点(2))、旧内規七条ただし書二号の適用はない。依頼に当たっては、被告事務局から、「渡航費用を当会から支給させて頂きます。」とのメールも受領している。

(2) 原告は、会議⑤出席のための出張の際に、e連合理事会(Board Meeting)にも出席しており、本件合意による旅費請求をすることもできたことから、その意味でも、旧内規七条ただし書違反とはならない。

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