大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成23年(ワ)3247号 判決 2012年10月24日

原告

X1他2名

被告

Y1他1名

主文

一  被告らは、連帯して、原告X1及び原告X2に対し、それぞれ一六六五万八七八九円及びこれに対する平成二二年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して、原告X3に対し、一一〇万円及びこれに対する平成二二年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告らの連帯負担、その一を原告らの連帯負担とする。

五  この判決の第一項及び第二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、連帯して、原告X1及び原告X2に対し、それぞれ三五五八万五四七〇円及び内金三二三五万四二八円に対する平成二二年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して、原告X3に対し、二七五万円及び内金二五〇万円に対する平成二二年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  仮執行宣言

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、後記の交通事故に関し、同交通事故により死亡したA(以下「被害者」という。)の父である原告X1(以下「原告X1」という。)、被害者の母である原告X2(以下「原告X2」という。)及び被害者の弟である原告X3(以下「原告X3」という。)が本件事故は被告Y1(以下「被告Y1」という。)の過失によるものであるとして、被告Y1に対しては、民法七〇九条に基づき、被告Y1の使用者であり、被告Y1が上記交通事故の際に運転していた車両の運行供用者である被告Y2有限会社(以下「被告会社」という。)に対しては、民法七一五条及び自賠法三条本文により、本件事故により被害者が被った損害に関し、原告X1及び原告X2はこの損害賠償請求権を相続したとすると共に、原告ら自身がそれぞれ親族固有の損害を被ったとして、損害賠償金及びその内金に対する本件事故発生日の翌日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める事案である。

二  前提となる事実

次の事実は、当事者間に争いがなく、もしくは、証拠または弁論の全趣旨により容易に認められる。

(1)  本件事故

発生日時 平成二二年六月二七日午後三時五八分ころ

発生場所 京都府宇治市明星町三丁目六番地の一九六先概ね東西に通じる市道明星線(以下「東西道路」という。)と概ね南北に通じる市道明星町二一号線(以下「南北道路」という。)との交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)内(なお、本件交差点付近の道路状況等については別紙交通事故現場見取図(乙一〇添付のもの、以下「見取図」という。)記載のとおりである。)

事故の内容 被告Y1が被告会社保有の普通乗用車(以下「被告車」という。)を運転し、東西道路を西行して本件交差点に差し掛かったおり、南北道路を幼児用自転車に乗って北行して、本件交差点に進入した被害者と交差点内で衝突した。

事故結果 被害者は脳挫傷の傷害を負い、同日、死亡が確認された。

(甲一、二、一一、乙三)

(2)  当事者等

被告会社は、本件事故当時、被告Y1の使用者であり、被告車の運行供用者でもあり、被告Y1は被告会社の業務の執行中に本件事故を起こした。(争いがない。)

原告X1は被害者の父、原告X2は被害者の母、原告X3は被害者の弟である。原告X1と原告X2の他に被害者の相続人はいない。(甲三)

(3)  被告らの責任原因

被告Y1は、本件事故発生につき、交通整理の行われていない本件交差点に進入するに際して、指定最高速度の時速三〇kmを遵守するとともに、交差道路から進行してくる自転車等の有無及び安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、交差道路から進行してくる自転車等の有無及び安全の確認不十分なまま時速約五〇kmの速度で本件交差点に進入した過失により、被告車を被害者運転の自転車に衝突させ、被害者を死亡させた。

被告会社は、本件事故につき、民法七一五条及び自賠法三条本文により、被害者の死亡に関し原告らに対する損害賠償責任を負う。

(4)  損益相殺

原告X1及び原告X2は、被害者の本件事故による死亡に関する損害について自賠責保険金として合計二七〇三万三八二〇円を受領し、これを等分に取得した。

三  争点及び争点に関する当事者の主張の概要

本件の争点は、(1)過失相殺及び(2)損害の額であり、各争点に関する当事者の主張の概要は以下のとおりである。

(1)  過失相殺について

(被告ら)

ア 事実関係について

本件交差点は、東西道路に交差点を貫通する中央線が設置されており、東西道路が優先道路である。

被害者は、自転車に乗って南北道路を北進して本件交差点に進入し、本件事故に遭遇したが、被告Y1が見取図②地点において、見取図<ア>地点の被害者を発見した際は、被害者との距離は八・四mであった。衝突地点は見取図<×>地点であり、被害者は自転車に乗って道路右側を走行して本件交差点に進入した。

被害者は当時五歳であり、被害者の父親である原告X1は、本件事故当時、被害者の後ろを追随していた。原告X1は、被害者の少し後ろから歩いていたところ、下り坂をどんどん下っていく被害者を見て、あわてて、ブレーキをかけるように命じたが及ばず本件事故発生に至った。南北道路は本件交差点に向けて急な下り坂(勾配は一〇/一〇〇)になっている。

イ 過失割合について

本件交差点に向けて下り坂の道路を子どもに自転車に乗らせて、その少し後ろを歩くというのは、交通安全に関する指導・監督義務違反である。

また、被害者の乗っていた自転車は補助輪がなく、五歳の子どもに道路、しかも、下り坂を乗って進行させるには危険なものである。また、被害者にはサドル高が高すぎることからも危険であった。

被告車が走行していた東西道路が優先道路であり、被害者は自転車に乗って道路右側を走行していた。

以上によれば、被害者側の過失として、四五%の過失相殺がされるべきである(別冊判例タイムズ一六号【一九七】参照)。

被害者が年少であり、民法七二二条二項の本人の責任を問えないとしても、原告X1の監督義務違反から、被害者側の過失として、少なくとも二割の過失相殺がなされるべきである。

(原告ら)

ア 事実関係について

東西道路が優先道路であるとする点は争う。

被告Y1の被害者を発見した際の位置関係については争う。

原告X1は、本件事故発生の際に、坂道を下っていった被害者を「A、ブレーキ。A、ブレーキ。」と声をかけながら走って追いかけたのであり、後ろから歩いていたのではない。

原告X1は被害者が遊んでいるところを見守っていたが、一瞬目を離し、見守りを欠いてしまったに止まる。

被害者が交差点に先入していた。

事故現場の本件交差点は、幼児、児童、老人等が頻繁に通行する住宅街の道路であった。

イ 過失割合について

過失相殺率四五%は強く争う。

被告Y1の制限速度を時速約二〇km超過、考え事ないしよそ見で前方安全確認を欠いた著しい過失、被害者先入等の事情によると、本件事故を招いた過失のほとんどは被告Y1にある。

(2)  損害の額について

(原告ら)

ア 被害者本人分

(ア) 逸失利益 三二七八万三三三七円

平成二〇年賃金センサス男女計の年収額四八六万六〇〇円を基礎収入とし、当時五歳であるので中間利息控除はライプニッツ係数九・六三五三を用い、生活費控除率は三割として計算するのが相当であり、上記金額となる。

(イ) 慰謝料 三〇〇〇万円

イ 原告ら固有の損害分

(ア) 原告X1及び原告X2の財産的損害

a 医療費 八万七四三〇円(甲五)

b 遺体検案書等の文書代 五九〇〇円

c 葬儀・仏事関係費 二四九万七〇〇八円(甲六の一、一〇、一一)

d 一周忌までの寺院への支払 三九万五〇〇〇円

e 仏壇購入費 一九万四〇〇〇円(甲八、九)

f 墓地購入費 一〇六万七〇〇〇円

g 墓地管理費三年間分 二万一二七五円

h 墓碑建立 一三四万二〇〇〇円(甲七の五)

i 各種諸費用出費額 一二三万二七八円

以上の合計について原告X1と原告X2で各二分の一を負担した。

(イ) 慰謝料

原告X1及び原告X2 各一〇〇〇万円

原告X3 二五〇万円

ウ 弁護士費用

原告らにつきそれぞれ請求額の各一割

(被告ら)

ア 被害者本人分

(ア) 逸失利益

争う。

基礎収入は女子の賃金センサスによるべきである。

(イ) 慰謝料

金額を争う。高額すぎる。

イ 原告ら固有の損害分

(ア) 原告X1及び原告X2の財産的損害

a 医療費

不知。

b 遺体検案書等の文書代

不知。

c 葬儀・仏事関係費等

裏付け証拠なし。高額すぎる。

(イ) 慰謝料

金額を争う。高額すぎる。

ウ 弁護士費用

争う。

第三当裁判所の判断

一  過失相殺について

(1)  事実関係

関係証拠(甲一、二、一一から一四まで、乙二から一一まで、一三)によると以下の事実が認められる。

本件事故は、平成二二年六月二七日午後三時五八分ころ、

京都府宇治市明星町三丁目六番地の一九六先の交通整理の行われていない本件交差点において、発生した。東西道路は片側一車線ずつで、車道幅員は、東行車線が四・〇m、西行車線が四・一mであり、南側に一・六m幅の、北側に一・九m幅の歩道が設けられており、東から西に向かい五/一〇〇の下り勾配がある。南北道路は、車道幅員は四・五m、東側に一・一mの路側帯が設けられており、南から北に向かい一〇/一〇〇の下り勾配がある。東西道路の本件交差点の東側からと南北道路の本件交差点の南側からとの相互の見通しは、その間に建物の塀等があって悪い。交通規制は、東西道路に速度指定時速三〇km、駐車禁止があり、南北道路には規制はない。東西道路には破線のセンターラインが引かれており、これは本件交差点にも貫通しており、本件交差点において、東西道路が優先道路である。

被告Y1は、被告車を運転し、東西道路を東から西に向けて進行し、本件交差点に差し掛かり、本件交差点を直進しようとしていたが、制限速度が時速三〇kmのところ、この速度規制を看過し、時速四〇km規制程度かと思いながら、時速五〇km程度で進行して、本件交差点直前に至り、前方八・四mに幼児用自転車に乗って、左方道路から本件交差点に進入してきた被害者を発見し、急制動の措置及び右転把の措置をとったが、制動効果も十分生じないまま被告車左前部が幼児用自転車前部と衝突し、被害者は、幼児用自転車もろとも転倒したのち、被告車の下部に巻き込まれ、引きずられた。被告車は、衝突地点の一八・九m西側で停止しかかったが反対車線に出かかっていたのでハンドルを左に切ってしばらく進行した後、交差点の約五〇m西側に停止した。被害者については、脳挫傷により間もなく死亡の確認がされた。被害者は当時五歳であり、幼児用自転車に乗って南北道路を北上し、南北道路の車線の中央付近を走行していたが、下り坂を進行していて、保護者である原告X1からブレーキを掛けるように言われ、ブレーキを掛けながらふらつくなどし、道路右側を進行して本件交差点に進入し、その直後に被告車と衝突した。

(2)  過失割合の判断

ア 事故類型及び基本的過失割合

本件事故は、交通整理の行われていない交差点における優先道路を走行する自動車と非優先道路から交差点に進入した幼児用自転車に乗った幼児との出合い頭衝突であり、被害者の乗っていた幼児用自転車は、道路交通法二条三項により歩行者とみなされ、軽車両として扱われるべきではないので、本件事故の事故類型は、交通整理の行われていない優先道路と非優先道路との交差点における優先道路を走行してきた自動車と非優先道路から交差点に進入した歩行者との事故類型と捉えられ、基本的な過失割合は、自動車八〇対歩行者二〇と解される(判例タイムズ別冊一六号【三四】a参照)。

イ 修正要素など

被害者については、歩行者とみなされるので、道路右側通行を修正要素とする余地はない。

修正要素としては、被害者側に有利に、被害者は幼児であること(-一〇)、被告Y1に制限速度を約二〇km超過した上、ぼんやりと考えごとをして前方注意を著しく欠いた(乙一一)重過失があること(-二〇)が認められる。

被害者が本件事故当時乗っていた幼児用自転車が被害者の年齢体格に適合せず明らかに危険であったと認めるに足りる証拠はない。

被告らは、原告X1の監督義務違反を独立の過失相殺の原因たる過失として主張するが、上記のとおり、被害者側にも優先道路との交差点に進入するに際しての通常の注意義務違反があることを前提に過失割合を検討しており、これに保護者の監督義務違反を重ねて考慮すべき必要性・相当性を基礎付ける特段の事情は認められない。

以上によれば、被害者側過失割合は、差し引き「-一〇」となり、仮に、被告Y1の過失が重過失(-二〇)ではなく、著しい過失(-一〇)に止まるとしても、差し引き「〇」となり、本件においては、過失相殺を認めないのが相当である。

二  損害について

(1)  被害者逸失利益 二五七五万八〇六九円

平成二〇年賃金センサス男女計の年収四八六万六〇〇円を基礎収入とし、被害者は死亡当時五歳で、一八歳から六七歳まで就労可能で、ライプニッツ係数は九・六三五二とし、生活費控除率は基礎収入との均衡を考慮して四五%として、計算するのが相当であり、上記金額となる。

486万600円×0.55×9.6352=2575万8069円

(2)  慰謝料

被害者本人分 二四〇〇万円

父母分(原告X1及び原告X2) 各三〇〇万円

弟分(原告X3) 一〇〇万円

(3)  医療費 八万七四三〇円(甲五)

(4)  死体検案書等の文書料 五九〇〇円(甲六の一二)

(5)  葬儀ないし墓碑建立費用等 一五〇万円

(6)  小計及び原告らの内部での割り振り

上記(1)から(5)までの小計 五八三五万一三九九円

原告X3 一〇〇万円

原告X1及び原告X2 各二八六七万五六九九円

(7)  損益相殺 二七〇三万三八二〇円(自賠責保険金)

上記原告X1分及び原告X2分から二分の一ずつを控除

2867万5699円-1351万6910円=1515万8789円

(8)  弁護士費用

原告X1及び原告X2 各一五〇万円

原告X3 一〇万円

及び遅延損害金を考慮した調整及び端数処理

(9)  合計

原告X1及び原告X2 各一六六五万八七八九円

原告X3 一一〇万円

三  結論

以上によれば、原告らの請求は主文において認容した限度で理由があり、その余は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 栁本つとむ)

交通事故現場見取図

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例