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京都地方裁判所 平成23年(ワ)3327号 判決 2012年11月14日

原告

X1<他1名>

被告

主文

一  被告は、原告X1に対し、一九四七万三七一七円及びこれに対する平成二二年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、二一九二万四五一七円及びこれに対する平成二二年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの連帯負担とし、その三を被告の負担とする。

五  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告らに対し、それぞれ三四二六万一一七四円及びこれらに対する平成二二年四月七日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  仮執行宣言

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告X1(以下「原告X1」という。)の配偶者であり原告X2(以下「原告X2」という。)の父であるA(以下「被害者」という。)が後記交通事故により死亡したところ、被害者の権利を遺産分割協議により各二分の一の割合で相続した原告らが後記交通事故により被害者に生じた損害の賠償及び原告らの固有の慰謝料を後記事故の際の相手方車両の運転者であった被告に対して、民法七〇九条、自賠法三条本文に基づき請求する事案である。

二  前提となる事実

次の事実は、当事者間に争いがなく、もしくは、後記各証拠または弁論の全趣旨により容易に認められる。

(1)  本件事故(争いがない事実及び甲一、三、四から六まで)

ア 発生日時

平成二二年四月七日午後二時四四分ころ

イ 発生場所

京都府城陽市寺田中大小一二二番地先交差点

ウ 当事者、関係車両及び事故態様

本件事故発生現場は、ほぼ東西に通じる府道内里城陽線(以下「本件府道」という。)とこれにほぼ南から接続する城陽市道(以下「本件市道」という。)との交通整理の行われていない三差路交差点(以下「本件交差点」という。)であり、被告は原動機付自転車(以下「被告車」という。)を運転して本件府道の北側部分を東に向けて走行して本件交差点に差し掛かり、本件交差点の東側出口付近を自転車に乗って南から北に本件府道を横断中の被害者(当時七一歳)が進路前方にいることを直前で発見し、回避行動を取ったが間に合わず衝突した。なお、事故現場付近の道路状況は、別紙交通事故現場見取図(甲六の一〇枚目、以下「見取図」という。)記載のとおりである。

被害者は、同日午後七時四〇分、本件事故により負った脳挫傷が原因で死亡したことが確認された。

(以下「本件事故」という。)

(2)  責任原因

被告は、本件事故発生につき前方注意義務違反等の過失があり、また、被告車を運行の用に供していたものであり、本件事故により被害者等に生じた損害について被告は賠償すべき責任を負う。

(3)  相続

原告X1は、被害者の配偶者であり、原告X2は被害者の長男であり、Bが被害者の長女であり、被害者にはほかに相続人はいない(甲一七から二〇まで)。原告ら及びBは、被害者の遺産分割協議を行い本件事故に基づく被告に対する損害賠償請求権について原告ら二名により各二分の一ずつの割合で相続することと定めた(甲二五の一から四まで)。

(4)  既払金(争いがない)

ア 被告加入共済(JA共済)による治療費支払 一九万七一一八円

イ 被告加入共済による原告らに対する共済金支払い 一七〇万円

ウ 合計 一八九万七一一八円

三  争点及び争点に関する当事者の主張の概要

本件の争点は、(1)過失相殺(争点一)、(2)原告らが賠償をうけるべき損害の額(争点二)であり、各争点に関する当事者の主張の概要は以下のとおりである。

(1)  争点一について

(被告)

本件事故は、交通整理の行われていない三差路交差点において、狭路から右折した自転車と広路を直進した原動機付自転車との間の事故であり、基本的過失割合は被害者四〇:被告六〇と解される(別冊判例タイムズ第一六号【二二三】参照)。

被害者は、横断歩道を横断したのではなく、本件府道を北東方向に斜めに横切って右折したもので、衝突地点がたまたま横断歩道上であったにすぎない。

修正要素を考慮すると、被害者が高齢者であることにより、一〇%、被告が徐行していなかったことにより一〇%、それぞれ被害者側に有利に修正されるべきである。

以上から、二〇%の過失相殺が相当である。

(原告ら)

否認し争う。

被害者は、本件市道を北上して本件交差点に至り、本件交差点東側の横断歩道を渡るため、一旦東を向いて本件府道の南端沿いを横断歩道の南端まで進行した上、横断歩道を南から北に向かい横断していたところ、被告車が被害者運転の自転車に衝突した。

本件のような事故類型において、横断歩道を横断中の自転車が横断歩道を半分以上進行して左側接近してきた車両と衝突した場合、自転車側には停止して左方車両の通過を待つ義務はなく、左方車両は相当手前から自転車の横断を確認できるので、原則として自転車に過失相殺は適用されない(甲二二)。

本件において、被告は、本件交差点手前約三〇mの地点において本件交差点の南端付近にいた被害者運転の自転車を発見し、横断歩道を横断することを予測したにもかかわらず、被告は被害者運転の自転車が本件府道の南端を東に向けて進行していくものと軽信し、原告運転の自転車から視線を外した結果、本件事故が発生している(甲六、八、一〇)。

これに対して、被害者は、被告車が未だ約三〇m西側を走行していることを確認し、横断歩道を横断したのであり、被害者に何ら過失はない。

被告は、本件事故を被害者の右折中の事故と主張するが、関係証拠(甲四、七、八、二八、二九、三一)によると、被害者運転の自転車が横断歩道を北に向け横断中の事故であり、右折中でも斜め横断中でもない。

(2)  争点二について

(原告ら)

ア 治療費 一九万七一一八円

イ 入院雑費 一五〇〇円

ウ 死体検案料及び死体検案書料 合計四万円

エ 戸籍謄本代等 二二五〇円

オ 傷害慰謝料 二万円

カ 葬儀費用 二二二万五三二〇円

原告らが被害者の葬儀に際して支払った一七〇万四三二〇円のほか、被害者らが生前セレマに積み立てた五二万一〇〇〇円も葬儀費用として充てられているのでこれも算入して、合計二二二万五三二〇円が葬儀費用の実費となる(甲一一)。

なお、被告加入の任意保険共済から葬儀費用として一七〇万円の支払を受けている(甲一二)。

キ 逸失利益 三一七三万一三五九円

(ア) 就労分

被害者は、本件事故前、二種のアルバイトをして稼働していた(甲一三、一四)。

被害者は、長年会社に勤務し六五歳で定年退職となった後も七〇歳まで同社の嘱託社員として働き、六〇歳をすぎたころから勤務していた会社において定時で仕事が終わるようになり、夕方以降の時間が空いたため、原告X1とともにお茶摘み及び新聞集金のアルバイトをするようになっていた。お茶摘み分の給料は甲一四記載の金額が被害者分であるが金額が小さいため源泉徴収は行っていない。新聞の集金については、そのアルバイト給与は原告X1との二人分を合算で受けとっており、平成二一年度は合計四四万九四一〇円であった。

以上のとおり、被害者には就労意欲があり、本件事故時においても勤労していたことから、就労可能年齢まで就労していた蓋然性があるので、年代別平均賃金を基礎収入とした就労分の逸失利益を認めるべきである。

平成二一年度男性七〇歳以上の平均賃金により基礎収入を年収三八三万一七〇〇円とし、生活費控除率を三〇%とし、就労可能年数を七年(ライプニッツ係数五・七八六四)として計算すべきである。

383万1700円×0.7×5.7864=1552万224円

(イ) 年金分

被害者は、本件事故前、年額二三三万九六〇〇円の年金を受給していた(甲一五)。

生活費控除率を三〇%とし、年金受給可能期間を平均余命により一四年(ライプニッツ係数九・八九八六)として計算すべきである。

233万9600円×0.7×9.8986=1621万1135円

遺族年金は、支給が確定した額の限度で控除されるべきものにすぎないことは最高裁判例の示すところであり、被害者の平均余命まで一四年間分の遺族年金を控除すべきとする被告主張は失当である。

(ウ) 合計

1552万224円+1621万1135円=3173万1359円

ク 死亡慰謝料 三〇〇〇万円

被害者本人分 二四〇〇万円

原告ら固有慰謝料分 各三〇〇万円

被害者及び原告らの受けた精神的苦痛を慰謝するには、少なくとも上記金額が相当である。

なお、被告は、事故状況に関する供述を二転三転させるなど不誠実な態度を原告ら被害者遺族に示しており、この点も慰謝料額決定において考慮すべきである。

ケ 物損 一九一九円

被害者の運転していた自転車(全損)時価額

コ 弁護士費用 六二〇万円

弁護士費用算定の基礎とすべき認容相当額から自賠責保険金からの回収可能額を控除すべきだとする被告の主張は争う。

(被告)

ア 治療費

認める。

イ 入院雑費

争う。現実的に入院雑費が必要な状況はなかった。

ウ 死体検案料及び死体検案書料

認める。

エ 戸籍謄本代等

認める。

オ 傷害慰謝料

争う。死亡慰謝料に含めて考えれば足りる。

カ 葬儀費用

金額の相当性は争う。一五〇万円以内が相当である。

JA共済の一七〇万円支払の内訳は、葬儀費用一〇〇万円、慰謝料七〇万円であり、葬儀費用として一七〇万円ではない。この支払に費目拘束はなく、その性質は、あくまで損害全体についての内払である。

キ 逸失利益

事情は、不知。

お茶摘みのアルバイトによる被害者の実収入額は、証拠上判然としない。なお、お茶摘みは季節労働であり、通年の収入ではない。

新聞の集金についても、被害者の実収入額は証拠上不明である。

生活費控除率は、就労分については、五〇%ないし四〇%とすべきであり、年金分については、少なくとも五〇%とすべきである。

就労分については、事故前の就労による収入の実績について立証がなく、仮に収入があると認められるとしても、平均賃金が得られた蓋然性はなく、基礎収入は二〇万円ないし三〇万円に止まり、約五七万円ないし約八六万円程度である。

年金分に関しては、原告X1に被害者の死亡後、年額一〇二万九六〇〇円の遺族年金が支払われているので、この金額を被害者の年金額から生活費控除をした後の金額から差し引いた金額に年金受給可能年数のライプニッツ係数を乗じて算出するか、一〇二万九六〇〇円の一四年分の金額(中間利息はライプニッツ係数で控除)を差し引くべきである。

加給年金分の受給ができなかったのは平成二二年五月分から平成二三年一月分までの八か月分であり、その金額は、一七万四三三三円である。

生活費控除率を五〇%として試算すると、逸失利益の年金分は、加給年金分八万七一六六円と加給年金分以外の年金分九万三五四一円の合計一八万七〇七円に止まる。

ク 死亡慰謝料

争う。

近親者分を含めて、合計二〇〇〇万円程度が相当である。

慰謝料を特段増額すべき事情はない。

ケ 物損

認める。

コ 弁護士費用

争う。

弁護士費用を除く損害額から自賠責保険からの回収が可能な二八三四万三三五〇円を控除した残額を基礎として弁護士費用を算定すべきである。

第三当裁判所の判断

一  争点一について

(1)  事実関係

ア 事故現場の道路状況等

本件事故現場の道路状況等は、関係証拠(甲四)によると、以下のとおりである。

本件府道は、中央線の引かれていない双方向通行の道路であり、車道幅員が四・七mで、北側には幅一・四mの歩道があり、南側にも幅が変化するものの本件交差点付近においては、相応の幅員の歩道がある。市道は、歩車道の区別がなく、幅員が二・八mで、その西側に側溝のふた(幅〇・八m)がある。本件市道は、本件交差点入口で、その東側がやや斜めになって幅員がいくらか広くなって交差点に接している。本件交差点の見通しは、被告車の進行方向と被害者の進行方向との相互の間では不良である。それを補うためにカーブミラーが設置されている。本件交差点の東側出口に横断歩道が設置されている。本件府道の本件交差点手前には白線が引かれ、また、本件市道の本件交差点手前にも白線が引かれているが、一時停止の標識はない。

本件府道には最高速度を時速三〇kmとする速度規制がされていた。

本件事故発生時刻ころの天候はくもりで路面は乾燥していた。

イ 事故発生状況

関係証拠(甲四から九まで、二九、三一)を総合すると本件事故の発生状況については以下のとおりの事実が認められる。

被告は、被告車を運転して、時速約四〇kmで本件府道の北側(左側)部分を走行して本件交差点に差し掛かり、本件交差点の手前三〇m弱の地点(見取図①地点)において、本件交差点内の南側部分に自転車を運転して本件市道から本件交差点に入りつつある被害者を見取図<ア>地点に発見した。北東方向に進路を取ってゆっくりと走っている被害者を見て、被告は、被害者が府道を北に横断するのか、あるいは、府道の南側を東に進むのかと思ったが、被害者が進路を東に変えたので、府道の南側を東に進むものと考えて、見取図①地点から七・三m前方の見取図②地点からは、被害者の動向から視線を外して、進路前方に視線を移して進行していたところ、本件交差点入口の数m手前の地点(見取図③地点)において、進路前方八・八mの横断歩道上に北東方向に向けて、被害者運転の自転車が府道を横断していることに気付き、危険を感じて左側にバイクを倒すなどしたが、避けられず、転倒滑走中の被告車前部を被害者が運転していた自転車の左側面部後輪付近に衝突させて、被害者を自転車もろとも路上に転倒させた。

被害者は、自転車に乗ってゆっくりと進行し、見取図<ア>地点から東に進路を取り、横断歩道の南端からほぼ横断歩道を北に向かって進行し、その後、横断歩道の北端付近で進路を北東方向に変え(横断歩道の北端から間際に民家があるためと行く先が東の方向であったため、進路を変えたものと推認される。)、そのとき被告車に衝突された。

(2)  被告の過失と過失相殺

ア 事故類型及び基本的過失割合

本件事故は、上記認定事実によると、広路の直進道路に狭路が接続する三差路交差点における狭路から右折進行する自転車と広路を直進した単車との衝突事故類型に属すると解される。原告は、被害者は事故発生時において、右折中ではなく、横断歩道を本件府道と直角に横断していたのであるとする。検討するに、被害者が本件市道の中央部分から本件交差点に進入し、交差点南側部分で、おそらくできるだけ横断歩道に沿って進行しようとして、一度東に進路を向け、横断歩道の南端付近から本件府道を北に向けて横断し始めた事実が認められ、また、衝突直前においては、進路を北東方向に向けていたと認められるのであり、本件市道の中央部分から本件交差点に進入し停止することなく進行して本件府道の交差点東側出口に至ろうとしていたのであるから、結局のところ、本件交差点を右折進行中であったというべきである。

この事故類型の基本的過失割合は、十字路交差点の場合自転車四〇対単車六〇と解される(別冊判例タイムズ第一六号【二二三】)。本件においては、三差路交差点であり、しかも、被告車の進行方向から見てより見通しが悪い左側からの交差道路がない交差点であり、右側からの交差道路との安全確認をすれば足りる形態の交差点であるから、十字路交差点における広路直進車両の運転者と比較して安全確認は相当に容易というべきで、この点から一〇%の修正を行って、基本的過失割合を自転車三〇対単車七〇とするのが相当である。

イ 修正要素

修正要素としては、被害者が高齢者であったことから一〇%、また、被告が見通しの悪い交差点であり徐行すべきところ、制限速度の時速三〇kmを若干上回る時速四〇km程度で特段の減速をせず進行していたのであるから徐行なしで一〇%の修正をそれぞれすべきである。また、被害者の交差点への明らかな先入が認められ、これにより一〇%の修正がさらにされるべきである。また、被害者が自転車に乗ってゆっくり走行していて、本件府道を横断することも十分予想され、実際にその可能性を考えたにも関わらず、被害者ができるだけ横断歩道に沿って府道を横断しようと東向きに一度進路を変えたことから、そのまま東に進行して府道を横断はしないものと軽信して、被害者の動向から目を離し、横断歩道上を横断していた被害者に気付くのが遅れた点は著しい前方不注視の過失として、一〇%の修正原因となると解される。なお、被害者が横断歩道上を進行していた点は、この事故類型では独立の修正要素とはならないと解され、また、上記の著しい過失の認定・評価に当たって考慮しているので、この点を理由とする修正を重ねて行うのは相当ではない。

ウ まとめ

上記ア及びイによると、本件において過失相殺を行うことは相当ではない。

二  争点二について

(1)  治療費 一九万七一一八円(争いがない。)

(2)  入院雑費 一五〇〇円

一日分として上記金額が相当である。

(3)  死体検案料及び死体検案書料 合計四万円(争いがない。)

(4)  戸籍謄本代等 二二五〇円(争いがない。)

(5)  傷害慰謝料 二万円

事故当日一日分、重傷基準による。

(6)  葬儀費用 一五〇万円

上記金額を本件事故による被害者の死亡と相当因果関係が認められる葬儀費用相当額と認める。

なお、被告加入任意保険共済のJAから一七〇万円の支払があったが、これは本件事故による損害全体に対する内払の性質を持つものと認められ、法律上の費目拘束はもとよりなく、また、この支払に際して、特定の損害項目についての損害額を当事者間で確定する和解契約等の合意が成立したとも認められない。

(7)  逸失利益 一二〇〇万三三六六円

(ア) 就労分 一六二万一六四円

関係証拠(甲一三、一四、二三、二六の一及び二、二七)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

被害者は、本件事故前、お茶摘みのアルバイト及び新聞集金のアルバイトをしており、これらはいずれも原告X1と共に行っていたものである。お茶摘みの給与は、事故前年の五月ないし六月の被害者分が一七万二九〇三円(甲一四)であり、新聞配達の給与は原告X1と合わせて給付されていたもので、その金額は、平成二一年五月分から本件事故発生の前月である平成二二年三月分までの一一か月分の合計が三六万一〇九〇円(甲二七)であり、その一一分の一二は三九万三九一六円である。その二分の一に当たる一九万六九五八円が被害者分と考えられる。

17万2903円+19万6958円=36万9861円

基礎収入については、上記の事故直前の年間収入の実績推計額に諸般の事情を考慮して、年収四〇万円とするのが相当である。被害者が年代別平均賃金を就労可能期間において得ていた蓋然性は認められない。

生活費控除率については、三〇%とするのが相当である。

就労可能年数は、被害者は死亡時七一歳の男性であり、平成二一年簡易生命表により、平均余命は一四・三八年であり、七年(ライプニッツ係数五・七八六三)である。

40万円×0.7×5.7863=162万164円

(イ) 年金分 一〇三八万三二〇二円

関係証拠(甲一五)によると、被害者は、本件事故前、年額二三三万九六〇〇円の年金を受給していた。そのうち、加給年金額(年間二六万一五〇〇円)については、被害者の死亡により支給されなくなったのは、平成二二年五月分から平成二三年一月分までの九か月分であり、その金額は、26万1500円÷12×9=19万6124円である。加給年金額を除いた年金の年額は、233万9600円-26万1500円=207万8100円である。

生活費控除率は五〇%とするのが相当である。

年金受給可能期間は平均余命により一四年(ライプニッツ係数九・八九八六)とするのが相当である。

207万8100円×0.5×9.8986=1028万5140円+19万6124円×0.5=1038万3202円

なお、原告X1が支給されるようになった遺族年金は、支給が確定した額の限度で、逸失利益に相当する損害金額の範囲内で、同年金受給者が賠償を受けるべき損害額から損益相殺として控除されるべきものであり、後述の(11)損益相殺において、控除する。

(ウ) 合計

162万164円+1038万3202円=1200万3366円

(8)  死亡慰謝料 二八〇〇万円

被害者本人分 二四〇〇万円

原告ら固有慰謝料分 各二〇〇万円

被害者及び原告らの諸事情に照らし上記金額を相当とする。

なお、被害者には原告らのほかにもう一人民法七一一条により親族固有の慰謝料請求権を有すると目される被害者の子がいて、その慰謝料については弁論の全趣旨によると被告との間で未解決であることも考慮した。

なお、被告に、刑事事件及び本件訴訟において、やや責任逃れと取られてもやむを得ない供述、陳述がみられるものの、殊更に故意の虚偽供述で責任そのものを否定しているというまでの事実はなく、特段の慰謝料額増額事由とすべき不当な態度があるとまでは認められない。

(9)  物損 一九一九円

被害者の運転していた自転車(全損)時価相当額

(10)  小計と相続分の割付

ア 上記(1)から(9)までの小計 四一七六万六一五三円

イ 相続分の割付

各原告二分の一(それぞれ固有損害の慰謝料分の二〇〇万円を含む) 二〇八八万三〇七六円

(11)  損益相殺

ア 既払金

既払金の一八九万七一一八円については、原告らから等分に控除する。

2088万3076円-94万8559円=1993万4517円

イ 遺族年金

関係証拠(甲二四)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、被害者の死亡により、遺族年金を支給されるようになり、平成二三年六月時点で二か月分として一七万一六〇〇円(平成二三年六月支給分からの年額は一〇二万九六〇〇円)の遺族年金を受けており、その既支給分及び口頭弁論終結時点までの支給確定分は、平成二二年六月支給分から平成二四年八月支給分までの二年二か月分であり、102万9600円×2+17万1600円=223万800円と推認される。

この金額を逸失利益の範囲内で、原告X1が受けるべき損害額から控除すべきであり、全額控除が相当である。

1993万4517円-223万800円=1770万3717円

ウ 損益相殺後

原告X1 一七七〇万三七一七円

原告X2 一九九三万四五一七円

(12)  弁護士費用

原告X1 一七七万円

原告X2 一九九万円

(13)  損害等まとめ

原告X1については、1770万3717円+177万円=1947万3717円が、原告X2については1993万4517円+199万円=2192万4517円が認められるほか、これらに対する本件事故発生日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合に遅延損害金が認められる。

三  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 栁本つとむ)

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