京都地方裁判所 平成23年(ワ)3874号 判決 2012年4月11日
原告
東京海上日動火災保険株式会社
被告
Y
主文
一 被告は、原告に対し、六九七五万三三五四円及びこれに対する平成二三年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二〇分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
四 この判決の一項は、仮に執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
一 被告は、原告に対し、七三八四万八八五八円及びこれに対する平成二三年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 仮執行宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
(1) A(以下「A」という。)は、平成一九年四月二〇日、原告との間で、人身傷害補償保険を含む次の内容の自動車保険契約を締結した(以下「本件保険契約」という。)。
保険期間 平成一九年四月二五日ないし平成二〇年四月二五日
被保険者 A
保険金額 七〇〇〇万円(ただし、自動車損害賠償保障法施行令別表第一の二級一号の後遺障害が残存し、介護を要する場合は二倍)
(2) 平成一九年九月三日午前一時三九分ころ、京都府久世郡<以下省略>先において、被告は、血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム以上のアルコールを身体に保有した状態で、最高速度を毎時六〇キロメートルに規制された道路を時速約九〇キロメートルの速度でAが同乗する普通自動車(以下「被告車」という。)を運転し、先行する二輪車を追い越そうと右にハンドルを切った際、被告車の制御を失って中央分離帯に乗り上げ、被告車を横転させて反対車線上に被告車を進出させ、その際の衝撃でAは車外に放り出された(以下、この交通事故を「本件事故」という。)。
(3) 本件事故は、被告が道路標識により指定された最高速度を時速約三〇キロメートル超過した過失、酒気帯び運転等の禁止に違反した過失及び被告の安全運転義務違反により発生した。
(4) Aは、本件事故により、急性脳腫脹、脳挫傷、頭蓋骨・頭蓋底骨折、髄液漏、尿崩症の傷害を負い、平成一九年九月三日から平成二一年九月五日までの間、医療機関に少なくとも三二八日間入院し、二四七日通院した。
Aの傷害は、平成二一年九月五日、症状固定し、自賠責調査事務所において、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」として、自動車損害賠償保障法施行令別表第一の二級一号の認定を受けた。
(5) Aは、本件事故により、次の損害(合計一億〇二六一万〇一五四円)を被った。
① 治療費 三七九万七五七八円
内訳 医療法人徳洲会宇治徳洲会病院 八五万一三三一円
医療法人社団行陵会大原記念病院 一四五万五九四〇円
京都府立心身障害者福祉センター 六二万五七三〇円
医療法人さくら会大阪南脳神経外科医院 三〇万四三九〇円
医療法人三軒医院 九二三〇円
大阪府立障がい者自立センター 四三万四七九七円
独立行政法人国立病院機構大阪南医療センター 一一万六一六〇円
② 入院雑費 一日一一〇〇円、三二八日分三六万〇八〇〇円
③ 通院通所交通費 七万六二九〇円
医療法人さくら会大阪南脳神経外科医院(Aの自宅との距離片道約一二キロメートル)及び大阪府立障がい者自立センター(同約二九キロメートル)への自動車及び公共交通機関を使用した通院通所交通費である。
④ 休業損害 六三五万六四四〇円
ア Aは、本件事故当時二二歳でとび職に従事し、株式会社aの専属外注として稼働していた。
イ 本件保険契約に含まれる人身傷害補償契約に適用される保険約款(以下「本件保険約款」という。)に基づき、基礎収入を月額二五万九八〇〇円(日額八六六〇円)とし、症状固定日までの休業日数七三四日の休業損害を算定すると、上記額となる。
⑤ 入通院慰謝料 二〇四万二六七〇円
本件保険約款に基づき算定した額である。
⑥ 逸失利益 八七四六万三三〇一円
本件保険約款に基づき、基礎収入を四九八万四八〇〇円、労働能力喪失期間を六七歳までの四三年間、労働能力喪失率を一〇〇パーセントとし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して算出した額である。
⑦ 後遺障害慰謝料 一五〇〇万円
本件保険約款によると、後遺障害慰謝料は上記のとおりとなる。
⑧ 家屋改造費 二三万五七一四円
自宅トイレの改修費用及び手摺り取付け費用である。
⑨ 将来介護費 一七七五万三二八〇円
本件保険約款に基づき、月額八万円、平均余命五三・三三年とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して算出した額である。
⑩ 合計 一億三三〇八万六〇七三円
(6) 原告は、Aに対し、本件保険契約に基づき、本訴提起前、人身傷害補償保険金一億〇二六一万〇一五四円を支払った。上記保険金額は、損害合計一億三三〇八万六〇七三円に臨時費用九四万四〇八一円を加算し、自賠責保険被害者請求分三〇〇〇万及び被告からの既払額一四二万円を控除した残額である。
よって、原告は、被告に対し、保険代位(平成二〇年法律第五七号による改正前の商法六六二条一項)に基づき、民法七〇九条による損害賠償請求として、Aの損害合計一億三三〇八万六〇七三円からAの過失分二割を控除した残額から、自賠責保険金三一二〇万円(被害者請求分三〇〇〇万円と原告が求償した傷害部分一二〇万円の合計)及び既払額一四二万円を差し引いた七三八四万八八五八円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二三年一二月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
すべて否認する。
理由
一 甲三号証によれば、請求原因(1)の事実が認められる。
二 甲一号証、二号証の三・六・七・一二・一三・一六・一七及び弁論の全趣旨によれば、請求原因(2)の事実、及び本件事故は、被告が指定された最高速度を時速約三〇キロメートル超過する時速約九〇キロメートルの高速で走行し、かつ、ハンドルの適切な操作をなすべき安全運転義務に違反して不用意にハンドルを右に転把した過失により発生したことが認められる。したがって、被告は、民法七〇九条に基づき、Aが本件事故により被った損害の賠償義務を負う。
三 甲四号証の一ないし二九号証の各一、三〇号証の一ないし三、三七号証の一・二によれば、請求原因(4)の事実が認められる。
四 請求原因(5)について判断する。
(1) 治療費
甲四号証の二ないし四、五ないし二九号証の各二、三〇号証の一ないし四、三一号証の一・二、三二号証の一ないし一一、三三号証の一ないし四、によれば、請求原因(5)、①の事実が認められる(治療費には診断書等の文書料を含む。)。
(2) 入院雑費
入院期間三二八日間につき、一日当たり一五〇〇円、計四九万二〇〇〇円の入院雑費を認める。
(3) 通院通所交通費
甲三五号証の一・二及び弁論の全趣旨によれば、医療法人さくら会大阪南脳神経外科医院及び大阪府立障がい者自立センターへの自動車及び公共交通機関を使用した通院通所交通費として、計七万六二九〇円を要したことが認められる(ガソリン代は一キロメートル当たり一五円とする。)。
(4) 休業損害
甲三六号証、四〇、四一号証及び弁論の全趣旨によれば、Aは、昭和六〇年○月○日生まれ(本件事故当時二二歳)で、同事故当時、個人で建築業(とび職)を営み、株式会社aの専属下請けとして稼働していたこと、同事故前の経費控除後の実収入は、月額二七万円程度であり、休業による損害は、少なくとも月額二五万九八〇〇円、日額八六六〇円を下回らないことが認められる。
基礎収入を一日当たり八六六〇円とし、本件事故の日である平成一九年九月三日から症状固定日である平成二一年九月五日までの七三四日間の休業損害を計算すると、六三五万六四四〇円となる。
(5) 入通院慰謝料
Aの傷害の程度、入通院状況等に照らし、相当な入通院慰謝料を四二〇万円と認める。
(6) 逸失利益
前記三認定事実によれば、Aは、本件事故により症状固定時(二四歳)から六七歳までの四三年間、労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認められる。平成一九年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・男・全年齢平均年収五五四万七二〇〇円を基礎収入とし、本件事故における逸失利益の現価を算定すると、八八二八万一四六九円となる。
5,547,200×(17.774-1.8594)≒88,281,469
(7) 後遺障害慰謝料
後遺障害の内容・程度等に照らし、相当な後遺障害慰謝料を二四〇〇万円と認める。
(8) 家屋改造費
甲三八、三九号証によると、本件事故によるAの負傷及び後遺障害のためAの居住する家屋の改造(トイレ改造、手摺り設置等)が必要となり、その費用として二三万五七一四円を要することが認められる。
(9) 将来介護費
甲三七号証の一・二等によって認められる後遺障害の具体的内容を考慮し、将来の介護費用として、一日当たり五〇〇〇円を要するものと認める。症状固定時から五五年間(平成一九年簡易生命表・平均余命五五・七九歳)の介護費用の本件事故時における現価を算定すると、三〇八四万四五〇七円となる。
5,000×365×(18.7605-1.8594)≒30,844,507
(10) 損害合計 一億五八二八万三九九八円
五 請求原因(6)について判断する。
(1) 好意・無償同乗減額等
Aは、被告とともに飲酒した上、被告車に同乗し(シートベルト不着用)、自宅に送られる途中本件事故に遭ったこと(甲二の一二・一六・一七)、本件事故の発生には被告の飲酒の影響があると考えられることからすると、Aが支払義務を負うべき損害額につき、二割の減額をするのが相当である。
一億五八二八万三九九八円に二割の減額をすると、一億二六六二万七一九八円となる(Aの過失割合に対応する損害は三一六五万六八〇〇円)。
(2) 損害填補
弁論の全趣旨によると、原告による本件保険契約に基づく人身傷害補償保険金の支払前に、Aに対し、自賠責保険金三〇〇〇万円及び被告からの弁済金一四二万円が支払われたことが認められる。
一億二六六二万七一九八円からこれら支払額を控除すると、九五二〇万七一九八円となる。
(3) 甲三号証によると、原告は、Aに対し、本件保険契約中の人身傷害補償保険契約に基づき、平成二三年一月一八日、人身傷害補償保険金一億〇二六一万〇一五四円を支払ったことが認められる。
上記保険金のうち三一六五万六八〇〇円はAの過失割合に対応する損害に充てられ、原告は、Aの被告に対する九五二〇万七一九八円の損害賠償請求権の一部である七〇九五万三三五四円(102,610,1541-31,656,800)の損害賠償請求権を保険代位(平成二〇年法律第五七号による改正前の商法六六二条一項)により取得したものと解するのが相当である。
弁論の全趣旨によれば、原告は、上記保険金支払後、自賠責保険に対する求償により一二〇万円の支払を受けたことが認められるから、原告の有する損害賠償請求権は、六九七五万三三五四円となる。
六 結論
以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、六九七五万三三五四円及びこれに対する保険代位の後の日であり、訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成二三年一二月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤明)