大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成24年(ワ)2711号 判決 2013年11月28日

原告

被告

Y1

主文

一  被告は、原告に対し、六七一四万六三〇三円及びこれに対する平成一八年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その七を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、九四三六万八〇九七円及びこれに対する平成一八年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、平成一八年一〇月二八日、センターラインをオーバーした被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)が、対向車線を走行していた原告運転の原動機付自転車(以下「原告車両」という。)に衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)につき、原告が、民法七〇九条に基づき、被告に対し、本件事故による損害賠償金九四三六万八〇九七円及びこれに対する不法行為の日(本件事故の日)である平成一八年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  本件事故の内容

ア 発生日時 平成一八年一〇月二八日午後二時四七分ころ

イ 発生場所 京都市左京区高野蓼原町一四番地一路上

ウ 原告車両 原動機付自転車〔ナンバー<省略>〕

運転者:原告

エ 被告車両 普通乗用自動車〔ナンバー<省略>〕

運転者:被告

オ 事故態様 南北道路の北行車線を北進していた被告車両がセンターラインをはみ出して、南行車線を走行していた原告車両に衝突した。

(2)  責任原因

本件事故は、被告の過失によって生じた。

(3)  原告の傷害

原告は、本件事故によって、顔面骨骨折、右大腿骨頸部骨折、右下腿開放骨折、左脛骨高原骨折、左上腕骨遠位粉砕骨折、脳挫傷、外傷性内頸動脈海綿静脈洞瘻、右眼球運動障害、複視、眼瞼内反症、右伝音難聴の各傷害を負った。

(4)  原告の診療経過

原告は、前記(3)の傷害のため、次のとおり、合計二七二日入院し、合計一三八日(重複あり)通院した(甲二ないし七、九、一〇・ただし、症状固定時期については、後記のとおり、争いがある。原告の主張によれば、後記ウ(ウ)のみが、症状固定後の入院であるが、被告の主張によれば、平成二〇年八月一九日以降が状固定後の入通院となる。)。

ア 整形外科

(ア) a病院(以下「a病院」という。)整形外科

a 平成一八年一〇月二八日から平成一九年三月三〇日まで入院 (一五四日間)

b 平成一九年三月三一日から平成二〇年四月五日まで通院 (実通院日数六日)

c 平成二〇年四月六日から同月一〇日まで入院 (五日間)

d 平成二〇年四月一一日から平成二一年八月一九日まで通院 (実通院日数一一日)

(イ) b病院(以下「b病院」という。)リハビリ科

a 平成一九年五月七日から同月二三日まで通院 (実通院日数九日)

b 平成一九年五月二四日から同年八月二日まで入院 (七一日間)

c 平成一九年九月一日から平成二〇年二月二九日まで通院 (実通院日数五九日)

イ 神経外科(c病院(以下「c病院」という。)脳神経外科)

(ア) 平成一九年四月二日通院(一日)

(イ) 平成一九年四月一一日から同月一五日まで入院 (五日間)

(ウ) 平成一九年四月二三日から同年五月三日まで入院 (一一日間)

(エ) 平成一九年五月二一日から平成二一年九月七日まで通院 (実通院日数七日)

ウ 形成外科(c病院形成外科)

(ア) 平成一九年八月一四日から同年九月一日まで入院 (一九日間)

(イ) 平成一九年一〇月一九日から平成二一年九月七日まで通院 (実通院日数二二日)

(ウ) 平成二二年九月二八日から同年一〇月四日まで入院 (七日間)

エ 眼科(c病院眼科)

平成一九年六月一一日から平成二一年九月二五日まで通院 (実通院日数二二日)

オ 耳鼻科(a病院耳鼻咽喉科)

平成二一年六月四日通院 (一日)

(5)  自賠責事前認定(甲八)

原告の後遺障害は、自賠責事前認定手続において、①右顔面の瘢痕七級一二号「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」、②視野障害九級三号「両眼に半盲症を残すもの」及び複視一三級二号「正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの」の八級相当、③脳外傷に由来する認知障害等(左半身知覚障害、左片麻痺、右頬部のひきつれ、しびれ、感覚鈍麻、両膝・両下腿の鈍麻等を含め。)九級一〇号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」、④左上腕骨遠位粉砕骨折に由来する左肘関節及び右前腕の可動域制限(左肘疼痛を含め。)一〇級一〇号「一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」、⑤右大腿骨頚部骨折による人工関節のそう入置換に由来する右股関節の可動域制限一〇級一一号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」と認定され、上記①ないし⑤の障害を併合した結果、併合五級と判断された。

(6)  既払金

ア Y2共済協同組合(以下「被告共済」という。)は、治療関係費一九八一万八一一六円、休業損害六六一万一八九五円、その他内払金三〇万円の合計二六七三万〇〇一一円を支払った。

イ 原告は、平成二一年二月から平成二二年一月までの間に、公立学校共済組合から、傷病手当金合計二四八万〇八五〇円を受領した(甲二〇)。

ウ 原告は、平成二二年四月から平成二五年六月一五日までの間に、公立学校共済組合から、障害共済年金(公務外)三五七万八八六七円を受領した。(なお、健康保険金は、後記二(2)〔原告の主張〕キのとおり。)

二  争点及び争点に対する当事者の主張

(1)  症状固定時期

【原告の主張】

原告の各科の主治医は、それぞれ、次のとおり症状固定の診断をした。

被告が指摘する右下眼瞼睫毛内反手術は、平成一九年九月一日の時点で想定されていたが、他の手術の術後変化が落ち着いてから手術をする必要があるとの医師からのアドバイスで、平成二一年一〇月に実施されたものである。

ア 整形外科(a病院整形外科) 平成二一年八月一九日

イ 神経外科(c病院脳神経外科) 平成二一年九月七日

ウ 形成外科(c病院形成外科) 平成二一年一〇月二三日

エ 眼科(c病院眼科) 平成二一年九月二五日

オ 耳鼻科(a病院耳鼻咽喉科) 平成二一年六月四日

【被告の反論】

次のとおり、原告の本件事故による傷害は全て、遅くとも、平成二〇年八月一八日には症状固定に至っていた。

ア 整形外科(a病院整形外科)

原告は、平成一八年一〇月二八日、a病院整形外科に入院し、骨接合術及び創外固定術の手術を受けるなどし、平成二〇年四月七日に骨内異物除去術(抜釘術)を受けている。その後、治療を継続しているものの、同年五月二一日の通院においては、次回の通院を約一年後とすることとされて、後は経過観察となっている。したがって、整形外科における治療は、遅くとも同日時点において、症状固定に至ったものである。

イ 神経外科(c病院脳神経外科)

原告は、平成一九年四月一一日、c病院に入院し、同月二六日にCCF塞栓手術を受け、同年五月三日退院している。その後の通院は、同月二一日、同年六月一一日、同年八月一三日、平成二〇年二月四日、同年八月一八日で、同日のカルテには、「一年後 follow up」と記載されている。したがって、その後の通院点は経過観察であり、神経外科における治療は、遅くとも、同日時点で症状固定に至った。

ウ 形成外科(c病院形成外科)

原告は、平成一九年八月一四日、c病院形成外科に入院し、同月一五日に陳旧性顔面骨折の手術を受け、同年九月一日に退院した。その後通院を継続したが、平成二〇年七月二二日のカルテには、「症状かわらず」との記載があり、同年八月二二日の欄には、「心療内科」と記載されており、同年七月二二日以降は経過観察であったといえる。したがって、形成外科における治療も同日時点で症状固定に至っていた。

エ 眼科(c病院眼科)

脳挫傷に起因する右側四分の一半盲、右眼窩底骨折に起因する複視については、眼下における治療によって改善するものではなく、右下眼瞼睫毛内反手術は、平成一九年九月一日にc病院形成外科を退院した後、平成二〇年四月六日にa病院整形外科に入院するまでの間に優に行う事ができたと考えられる。したがって、眼科における治療は、平成二〇年四月六日よりも以前に症状固定していたと考えられる。

オ 耳鼻科(a病院耳鼻咽喉科)

a病院の耳鼻咽喉科の診察は、平成二一年六月四日のみであり、実質的な治療は行われていない。仮に治療を要するのであれば、前記の平成二〇年四月六日のa病院整形外科入院までの間に受診できたと考えられる。したがって、耳鼻科における治療も、平成二〇年四月六日よりも以前に症状固定していたと考えられる。

(2)  原告の損害

【原告の主張】

ア 治療関係費 一九八一万八一一六円

なお、原告がリハビリ入院したのは、b病院医師から、その方がリハビリ効果が上がるとの勧めを受けたことによる。また、付添人なしの通院も困難な状態であった(リハビリの目標項目に「タクシー通院ができるようになりたい」と挙げられている。)

イ 付添費 一八五万五〇〇〇円

7000円×265日=185万5000円

ウ 入院雑費 四二万四〇〇〇円

1600円×265日

エ 通院交通費 六万三三八六円

(ア) a病院

880円×18日=1万5840円

(イ) c病院

880円×51日=4万4880円

(ウ) b病院

140円×2.8km/10km×68日=2666円

オ 休業損害 一一七九万〇四六四円

別紙一の「休業損害算定表」のとおりである。

カ 入通院慰謝料 四四〇万〇〇〇〇円

原告は、本件事故によって重大な傷害を負い、入通院期間を通じて多大な苦痛を受けたのであり、通院日数にかかわりなく、症状固定までの期間が考慮されるべきである。

キ 症状固定後の治療費 一一万八五〇〇円

平成二二年九月二八日から同年一〇月四日までの入院(七日間)治療関係費は三九万五〇〇〇円であるところ、健康保険で、二七万六五〇〇円が填補された。

39万5000円-27万6500円=11万8500円

ク 自宅改造費 九〇万〇〇〇〇円

原告は、股関節の可動域制限等によって、生活全般を椅子に座る生活に切り替えることを余儀なくされ、各所の改装が必要不可欠となった。

タイル張りの浴室にある浴槽を取り替えるには、全体にユニットバスにする方が安価で済むため、「タイル解体」「天井解体」が必要であったものである。

ケ 後遺障害逸失利益 五八一四万九七二四円

(ア) 原告は、公立中学校で国語の教員をしていた。高度な学問知識を前提とした平易な教授法、成長期にある生徒と向き合う身体的な力、思春期であり多感な生徒と接する力など多面的な能力を必要とする。

原告は一度は復職したものの、脳機能障害の結果、知的な作業を要する授業を十分に行うことができなかった。また、身体的な機能低下によって、生徒達を十分に授業、指導することができなかった。さらに、原告の外貌は、多感な生徒達のからかいの的となり得る。実際、生徒達は、原告の授業、指導を十分に聞き入れなかった。原告は、これら複合的な要因により、京都市教委から退職を勧告され、結局退職せざるを得なかった。復帰の意欲はあったが、復帰できなかったのである。

五〇代半ばで、多様な後遺障害を負った原告が新たな仕事を探すのも不可能に近く、原告の労働能力喪失率は端的に一〇〇%である。

(イ) 原告は京都市の教員であり、退職までの賃金額は正確に予想することができる。また、定年後も六五歳まで再雇用され、その後も六七歳までは図書館司書などとして勤務することができた。

(ウ) よって、後遺障害逸失利益は、別紙二の「後遺障害逸失利益算定表(六五歳までは労働能力喪失率一〇〇%で計算)」のとおりとなる。

コ 後遺障害慰謝料 一五〇〇万〇〇〇〇円

サ 弁護士費用 八五七万八九一八円

【被告の反論】

ア 治療関係費について

(ア) 原告が一九八一万八一一六円の治療関係費を要したことは認めるが、このうち、平成二〇年八月一九日以降の治療費は症状固定後のものであって、損害とは認められない。

(イ) 平成一九年五月二四日当時、原告は、通院に支障をきたしたり、通院によって傷病が悪化するおそれのある状態ではなかった。したがって、同日から同年八月二日まで、b病院リハビリ科に入院(七一日間)する必要性はなく、通院によるリハビリで足りたものであるから、入院のための治療費は損害とは認められない。

イ 付添看護費について

付添看護費が認められるのは、医師の指示があった場合又は付添看護の必要性がある場合に限られ、本件において、付添看護が必要であった期間は、平成一八年一〇月二八日から同年一一月二〇日までの二四日間である(甲二)。そして、付添費用の日額は六〇〇〇円が相当である。

また、b病院リハビリ科入院中の看護記録には、原告の夫による付添の記載はほとんどない。

ウ 入院雑費について

(ア) 入院雑費の日額は一五〇〇円が相当である。

(イ) b病院リハビリ科の入院(七一日間)については、入院の必要性が認められないことは、前記のとおりである。

エ 通院交通費について

平成二〇年八月一九日以降の治療費は症状固定後のものであって、認められない。

オ 休業損害について

(ア) 休業の必要性を争う。平成二〇年八月一九日以降の休業損害は症状固定後のものであって、認められない。

(イ) 基礎収入額に通勤費を含めることは争う。

カ 入通院慰謝料について

(ア) 入通院慰謝料の対象期間は平成二〇年八月一八日までである。

(イ) b病院リハビリ科の入院(七一日間)については、前記のとおり、その必要性が認められないことから、慰謝料算定に当たって、斟酌すべきではない。

(ウ) 通院期間は長期に亘るが、実通院日数は少ないことから、これを基準として慰謝料を算定すべきである。

キ 症状固定後の治療費について

必要性を争う。

ク 自宅改造費について

必要性、相当性を争う。

見積書によれば、「壁のタイル解体撤去」「天井の解体撤去」など、一見して原告の後遺障害とは無関係と考えられる内容が含まれている。

ケ 後遺障害逸失利益について

(ア) 後遺障害逸失利益は、基礎収入額に労働能力喪失率を乗じて算出すべきである。

外貌醜状による労働能力の喪失は、せいぜい三〇%である。その他の身体的機能障害は八級相当であるから、原告の労働能力喪失率は高くても四五%である。

(イ) 原告が再任用されたか否かは明らかではない。ましてや、六六歳になって、図書館司書として勤務できたとは限らない。

(ウ) 原告が原告主張の退職金を受領できたとは限らない。仮に、平成二八年四月の退職金と平成二二年四月に実際に受領した退職金の差額を後遺障害逸失利益とするのであれば、前者を現価に引き直した上で、計算すべきである。

また、原告の退職金予定額は、現時点の制度では、原告の主張額よりも減額している。

コ 後遺障害慰謝料について

(ア) 原告の後遺障害は、併合して五級にすぎず、慰謝料額は、五級相当額とすべきではない。

原告の後遺障害は、大きく、外貌醜状とその他の機能障害に分けられるところ、外貌醜状は身体的機能を左右するものではないから、機能障害と併合して後遺障害等級を算出すべきではない。したがって、後遺障害慰謝料は七級相当として算定されるべきである。

(イ) 後記(3)〔被告の主張〕の被告主張の損益相殺が認められない場合には、慰謝料の判断において、原告が将来にわたって障害共済年金を受領することを考慮すべきである。

(3)  損益相殺

【被告の主張】

前記一(6)に加えて、原告が未受領の障害共済年金(平成二五年度の残り七一万二七三四円、平成二六年度以降二六年間にわたり年額一〇六万九一〇〇円)を損益相殺することを主張する。

原告の障害年金は公立学校共済組合から支給されることなどからして、その不確実性を問題とする余地はなく、遺族年金に関する最高裁平成五年三月二四日大法廷判決(民集四七巻四号三〇三九頁)の射程は及ばない。口頭弁論終結後に支給される障害共済年金を損益相殺の対象外とするならば、原告が同年金を受領する毎に原告は二重の利得が生じることとなり、被告は不当利得返還請求を行うこととなる。

【原告の反論】

争う。

第三当裁判所の判断

一  原告の診療経過等

前記第二の一(争いのない事実等)と証拠(甲一ないし一〇、二七、二八乙一ないし一二)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  原告(昭和三〇年○月○日生)は、本件事故によって、顔面骨骨折、右大腿骨頸部骨折、右下腿開放骨折、左脛骨高原骨折、左上腕骨遠位粉砕骨折、脳挫傷、外傷性内頸動脈海綿静脈洞瘻、右眼球運動障害、複視、眼瞼内反症、右伝音難聴の各傷害を負った。

(2)ア  原告は、本件事故当日(平成一八年一〇月二八日)、a病院に救急搬送され、同病院整形外科に平成一九年三月三〇日まで入院し(一五四日間)、平成一八年一〇月二八日には観血的骨接合術、創外固定術、同年一一月一三日にも三箇所の観血的骨接合術、同月二九日には右大腿骨人工骨頭置換術、骨内異物除去術、平成一九年一月二二日には左上腕骨変形矯正骨切術、自家骨移植術を受けた。平成一八年一一月二〇日までは付添看護を要した。

イ  原告は、平成一九年四月二日、c病院脳神経外科を受診し、同月一一日から同月一五日まで及び同月二三日から五月三日までは、同科に入院し、左内頚動脈海綿静脈洞瘻塞栓術を受けた。

ウ  原告は、平成一九年五月七日から同月二三日までの間に九回、b病院リハビリ科に通院し、同月九日には、a病院整形外科、同月二一日、c病院脳神経外科を受診した。

同月二四日から同年八月二日まではb病院リハビリ科に入院し、日常生活全般を通じた訓練を受け、ADLの改善、耐久性の向上が認められた。入院中の同年六月一一日はc病院の脳神経外科及び眼科を、同年七月一八日にはa病院整形外科を受診した。

エ  原告は、さらに、平成一九年八月一三日にはc病院脳神経外科を受診し、同月一四日から九月一日までは同病院形成外科に入院し、矯正術を受けた。

オ  原告は、平成一九年九月三日から平成二〇年二月二九日までの間に五九回(九月中一〇回、一〇月中一四回、一一月中一三回、一二月九回、一月中八回、二月中五回)、b病院に通院した。この間(平成二〇年三月末まで)、a病院整形外科に四回、c病院の脳神経外科に一回、同形成外科に五回、同眼科に三回通院した。

カ  そして、原告は、平成二〇年四月六日から同月一〇日まで(五日間)、a病院整形外科に入院し、骨内異物の除去術を受けた。

キ  上記の退院後、原告は、a病院整形外科には、同年四月に四回、五月に一回、九月に一回、一一月に一回、平成二一年二月、五月、七月、八日に各一回通院し、c病院脳神経外科には、平成二〇年八月、平成二一年八月、九月に各一回、同形成外科及び眼科には、同年四月二五日から平成二一年九月まで、ほぼ毎月一回(同日に両方の科を受診)、通院した。また、平成二一年六月四日にはa病院耳鼻咽喉科を受診した。

(3)  a病院整形外科医師は、平成二一年八月一九日、c病院脳神経外科医師は、同年九月七日、同病院形成外科医師は、同年一〇月二三日、同眼科医師は、同年九月二五日に原告の各科の症状は固定したと診断したが、固定時、原告には、①後遺障害等級七級一二号に当たる右顔面の療痕が残存し、②同八級相当の視覚障害、③同九級一〇号に当たる脳外傷に由来する認知障害等、④同一〇級一〇号に当たる左上腕骨遠位粉砕骨折に由来する左肘関節及び右前腕の可動域制限、⑤同一〇級一一号に当たる右大腿骨頚部骨折による人工関節のそう入置換に由来する右股関節の可動域制限が残存し、これらは併合五級と評価される。

(4)  原告は、平成二二年九月二八日から同年一〇月四日まで、c病院形成外科に入院し、同年九月二九日、顔面骨内異物(挿入物)の除去術を受けた。

二  争点(1)(症状固定時期)について

前記一の認定事実によれば、本件事故による原告の傷害は多発的かつ重篤な内容であり、各科において手術が繰り返され、それぞれに術後観察が必要であり、症状固定までの期間が長期に及ぶことは当然であって、原告の各傷害の症状固定日は、各科主治医の前記診断日のとおりと認められる。

なお、被告は、前記入院のうち、b病院リハビリ科の入院の必要性を争うが、前記認定事実と証拠(甲二七)及び弁論の全趣旨によれば、同科はリハビリ専門施設であり、訓練室に止まらず、日常生活を通じた訓練を実施するもので、その成果も認められることから、その必要性を否定する被告の主張は採用できない。

三  争点(2)(原告の損害)について

(1)  治療関係費 一九八一万八一一六円

原告は、治療関係費として、被告共済の支払額に当たる一九八一万八一一六円を請求しているところ、前記認定の事実と証拠(甲一九)及び弁論の全趣旨によれば、被告共済は、原告の治療関係費として一九八一万八一一六円を支払ったことが認められ、これを治療関係費としての損害と認める。

なお、被告は、症状固定時期及びb病院の入院の必要性を争うが、前記二に判示のとおり、上記治療費については全部、本件事故との相当因果関係が認められる。

(2)  付添介護費 八六万七〇〇〇円

前記認定事実と証拠(甲二二、二五)及び弁論の全趣旨によれば、平成一八年一〇月二八日から同年一一月二〇日までの間(二四日間)については、医師による要付添の診断書が発行されていること、その後の入院についても、原告の夫(A)が連日、原告に付き添って、洗濯物を持ち帰るなどしたことが認められ、これらの事実によれば、上記二四日間については日額六〇〇〇円の付添介護費を認め、それ以外の入院期間については、日額三〇〇〇円の付添費を認めるのが相当であって、付添介護費は、次のとおり、八六万七〇〇〇円となる。

6000円×24日+3000円×241日=86万7000円

(3)  入院雑費 三九万七五〇〇円

前記認定の事実によれば、原告は、本件事故による傷害の治療のため、a病院、b病院及びc病院に合計二六五日(前記認定の症状固定まで)間入院し、かつ、いずれも、その各入院治療の必要性が認められるところ、入院雑費は日額一五〇〇円と認めるのが相当であるから、次のとおり、三九万七五〇〇円を入院雑費としての損害と認める。

1500円×265日=39万7500円

(4)  通院交通費 四万六六六六円

原告は、自宅からa病院及びc病院までのバス往復代金はそれぞれ八八〇円、b病院までの往復ガソリン代は一四〇円×二・八km/一〇kmであるとして、これに各病院の実通院日数を乗じた六万三三八六円を請求しているところ、前記認定の事実と証拠(甲四ないし七)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり、合計四万六六六六円を通院交通費としての損害と認める。

a病院 880円×18日=1万5840円

c病院 880円×32日=2万8160円

(同病院の各科の実通院日数の合計は五二日であるところ、うち重複は、原告主張の一日にとどらず、二〇日に及ぶ。)

b病院 140円×2.8km/10km×68日=2666円

(5)  休業損害 一一五一万二二〇四円

前記認定の事実と証拠(甲一六、二二、乙六)及び弁論の全趣旨によれば、原告は京都市立中学校の教員であったところ、前記症状固定までの間、復職不能であったことが認められ、この間の休業損害としては、原告主張の「減額のない給与年額」八七〇万二八二〇円(別紙一参照)から、通勤手当一〇万〇八〇〇円(月額八四〇〇円×一二月)を差し引いた金額である八六〇万二〇二〇円の二年分(原告請求の平成一九年一一月ないし平成二一年一〇月・別紙一参照)から、同期間中の支給額合計五六九万一八三六円を控除した一一五一万二二〇四円と認めるのが相当である。

860万2020円×2年-569万1836円=1151万2204円

(6)  入通院慰謝料 四二〇万〇〇〇〇円

前記認定の原告の受傷内容及び療養経過を斟酌すると、入通院慰謝料としては四二〇万円が相当である。

(7)  症状固定後の治療費 一一万八五〇〇円

前記認定事実と証拠(甲九、一〇、乙一二)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成二二年九月二八日から同年一〇月四日まで入院し、顔面骨内異物(挿入物)の除去術を受けたこと、その治療関係費は三九万五〇〇〇円であったところ、このうち二七万六五〇〇円は健康保険で支払われたことが認められ、上記入院治療は、症状固定後のものではあるものの、その必要性が認められることから、次のとおり、一一万八五〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

39万5000円-27万6500円=11万8500円

(8)  自宅改造費 八〇万〇〇〇〇円

前記認定の事実と証拠(甲一一ないし一五、二二、二五、二六、二九)によれば、原告は、人工関節のそう入置換術を受け、股関節の可動域制限等によって、浴室等の改装が必要となり、平成一九年三月三〇日の退院に間に合わせて、工事を施工したこと、その費用として九〇万円を支払ったことが認められる。そうすると、原告以外の家族の利便性の向上及び新旧差益を考慮して、上記金額の約九割に当たる八〇万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(9)  後遺障害逸失利益 四二四八万八七七九円

前記認定事実と証拠(甲一七、二二)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、京都市立中学校で国語の教員をしていたが、本件事故の前記後遺障害によって、現場に復帰することは困難で、平成二二年三月末で退職したこと、五四歳からの再就職の困難さから、原告は、別紙二の「後遺障害逸失利益算定表(六五歳までは労働能力喪失率一〇〇%で計算)」のとおり、五八一四万九七二四円の後遺障害逸失利益を請求している。

しかしながら、原告の後遺障害の程度は前記認定のとおりで、その労働能力はゼロとは評価できず、他の職に就くことも不可能とは認められず、それらによる収入を得ることも考えられることからすると、原告の後遺障害逸失利益としては、基礎収入額に労働能力喪失率を乗じて算定するのが相当であって、基礎収入額については、症状固定した平成二一年一〇月二三日(原告五四歳)から六〇歳定年までの六年間(対応するライプニッツ係数は五・〇七六)については、前記(5)の八六〇万二〇二〇円、その後の就労可能年数の八年間(対応するライプニッツ係数は9.899-5.076)については、原告主張の四五〇万円(同金額は、大卒女子の年齢別センサスの金額と比べ高額に過ぎるとは言えない。)とし、労働能力喪失率については、原告の前記後遺障害の内容及び程度(なお、顔面醜状については、直接は労働能力喪失に繋がるとは認められない。)と、他方、退職に至った上記経緯を斟酌すると、六五%程度として算出するのが相当である。

そうすると、後遺障害逸失利益は、次のとおり、四二四八万八七七九円となる。

860万2020円×0.65×5.076=2838万1504円

450万円×0.65×(9.899-5.076)=1410万7275円

2838万1504円+1410万7275円=4248万8779円

(10)  後遺障害慰謝料 一四四〇万〇〇〇〇円

前記認定の原告の後遺障害の内容及び程度を斟酌すると、後遺障害慰謝料は一四四〇万円が相当である。

四  争点(3)(損益相殺)について

(1)  前記第二の一(争いのない事実等)(6)のとおり、被告共済からの支払二六七三万〇〇一一円、公立学校共済組合から傷病手当金合計二四八万〇八五〇円及び障害共済年金三五七万八八六七円の合計三二七八万九七二八円については、前記金額から、控除することにつき、当事者間に争いがない。

(2)  被告は、前記(1)に加えて、原告が未受領の障害共済年金(平成二五年度の残り七一万二七三四円、平成二六年度以降二六年間にわたり年額一〇六万九一〇〇円)を損益相殺することを主張するが、弁論の全趣旨によれば、既に支給決定がなされていると推認される七一万二七三四円の限度でのみ理由がある。

(3)  そうすると、前記三の(1)ないし(10)の合計額は九四六四万八七六五円となるところ、これから前記(1)及び(2)の合計三三五〇万二四六二円(三二七八万九七二八円+七一万二七三四円)を控除すると、原告の損害は六一一四万六三〇三円となる。

五  弁護士費用

前記認容額、本件事案の難易、その他本件に顕れた一切の事情によれば、原告の弁護士費用中六〇〇万円を被告に負担させるのが相当である。

弁護士費用を加算した後の損害額は六七一四万六三〇三円となる。

六  結論

以上によれば、原告の請求は、民法七〇九条に基づき、被告に対し、本件事故による損害賠償金六七一四万六三〇三円及びこれに対する不法行為の日(本件事故の日)である平成一八年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 比嘉一美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例