大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成24年(ワ)3329号 判決 2014年5月20日

原告

被告

主文

一  被告は、原告に対し、一七五三万七〇六五円、及び、これに対する平成二三年五月二日から支払済みまで年五%の割合による金員、を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを八分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が一七五三万七〇六五円の担保を供する時は、その仮執行を免れることができる。

事実

第一請求の趣旨

被告は、原告に対し、二二〇〇万円、及び、これに対する平成二三年五月二日から支払済みまで年五%の割合による金員、を支払え。

第二争いがない事実

被告が運転する普通乗用自動車(〔ナンバー<省略>〕。以下「被告四輪」という。)は、平成二三年五月二日午後九時四〇分頃、京都市伏見区竹田久保町二一番地一で、原告が運転する普通自動二輪車(〔ナンバー<省略>〕。以下「原告単車」という。)に、出合頭衝突した(以下「本件事故」という。)。

第三当事者の主張の要旨

一  原告

(1)  原告は、被告に対し、本件事故について、不法行為に基づき、次の損害の一部二〇〇〇万円及び弁護士費用二〇〇万円の賠償を求める(附帯請求は、二二〇〇万円に対する不法行為の日から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支払請求である。)。

ア 治療費(後記(2)イ)

(ア) 平成二四年五月三〇日まで 一九五万二八八七円(甲一二)

(イ) a病院 八万五六九〇円(甲一四、一六)

(ウ) b調剤薬局 一万二八七〇円(甲二二)

(エ) c医院 三万三四四〇円(甲一七)

(オ) d薬局 一万五一一〇円(甲二一)

イ 装具代 六万七四一四円(甲一二)

ウ 入院雑費 六万六〇〇〇円

(=1500円/日×[40日+4日〔後記(2)イ〕])

エ 通院交通費 二三万三三七〇円(甲一二)

オ 休業損害 八一二万五〇〇〇円

(≒32万5000円/月〔後記(2)ア〕×27月〔後記(2)イ〕)

カ 入通院慰籍料 二六〇万〇〇〇〇円(後記(2)イ)

キ 将来治療費 一四万五六六〇円

(≒[3万3440円〔前記ア(エ)〕+1万5110円〔前記ア(オ)〕]÷4月〔後記(2)イ〕×12月)

ク 逸失利益 二七四六万七二一一円

(≒386万1000円/年〔後記(2)ア〕×100%×0.9523〔1年間に対応するライプニッツ係数〕+386万1000円/年〔後記(2)ア〕×45%〔後記(2)ウ〕×[14.6430〔27年間に対応するライプニッツ係数〕-0.9523〔1年間に対応するライプニッツ係数〕])

ケ 後遺障害慰籍料 八三〇万〇〇〇〇円(後記(2)ウ)

コ 損益相殺 ▲三八二万五一二四円(争いがない)

(2)  原告(昭和四七年○月○日生)は、

ア e店で、調理師として平成一六年一〇月一九日から勤務し、平成二二年に合計三八六万一〇〇〇円、平成二三年二月~四月に平均三二万五〇〇〇円/月の支給を受けていたところ(甲一三、二六、二七、三一、三三)、

イ 本件事故(平成二三年五月二日)により、

a病院に、全身打撲・頸椎捻挫・右膝関節血腫の傷病名で、平成二三年五月二日~四日(実三日)、通院し、同年五月五日~六月一三日、入院し、同年六月一五日~九月三日(実一九日)、通院し、同年九月一四日~一七日、入院し、同年九月二一日~平成二四年五月三〇日(実二〇日)、通院して(甲三、乙六、七)、f整形外科医院に、頚椎捻挫・腰椎々間板ヘルニア(外傷性)・右膝挫傷及び皮下出血・左手関節挫傷・右膝関節拘縮の傷病名で、平成二三年八月二二日~九月一二日(実一七日。内一日はa病院通院日)・九月二二日~平成二四年五月二九日(実一二二日。内五日はa病院通院日)、通院して(甲四、乙四、五)、

a病院に、平成二四年六月一三日~平成二五年七月一八日、通院し(甲一四、一六、乙六、七)、b調剤薬局で調剤を受けて(甲二二)、c医院に、平成二五年四月四日~平成二五年七月三一日、通院し(甲一七、一八、乙一一)、d薬局で調剤を受けて(甲二一)、

ウ 平成二五年七月三一日、症状固定し、

右膝につき、「特殊な性状の疼痛」が慢性化し、腰につきヘルニアが認められた痛みとしびれがあり、仮に器質的損傷がなくても非器質性精神障害として、併せて「通常の労務に服することはできるが、疼痛により時には労務に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」(労働者災害補償保険法施行規則別表二 九級七の二)に該当する障害と、左頚~肩~上肢につき、ヘルニア・腱板損傷が認められる痛みとしびれがあり、仮に器質的損傷がなくても非器質性精神障害として、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(自賠法施行令別表二 一二級一三号)に該当する障害を遺し、

更に少なくとも一年間、c医院の治療(d薬局での調剤を含む)が必要となった。

(3)  本件事故は、路外から公道上に出てきた被告四輪と公道上を直進する原告単車との事故であり、車道幅員一五m(片側二車線)の国道という幹線道路で、被告四輪が徐行しなかったこと、右折しようとした被告四輪が左方を注視して右方(原告単車側)を注視しなかったこと(甲二)から、原告に過失はない。

二  被告

(1)  原告は、被告が契約していた保険会社に対し、妻に記載させた休業損害証明書を交付したり、そこに、e店での採用日を、主張と異なる平成二三年二月一日と記載したりしていたから(乙一、二)、原告の基礎収入の主張は信用できない。

(2)  X線検査・CT検査で骨傷がなく、MRI検査で靱帯損傷がなく(乙六)、複合性局所疼痛症候群(以下「CRPS」という。)ではなかった(乙一〇)ので、休業相当期間は、受傷日である平成二三年五月二日から一回目の退院直後の通院日である同年六月一五日までの四四日間、及び、右膝関節の鏡視下滑膜切除術のための入院日である同年九月一四日から三〇日間である(乙八)。

(3)  原告は、平成二四年五月三〇日、症状固定と診断され(甲五)、

右膝関節痛等につき「局部に神経症状を遺すもの」(自賠法施行令別表二 一四級九号)に、後頚部から左肩痛につき「局部に神経症状を遺すもの」(同一四級九号)に、それぞれ該当し、全身性の発汗多量、睡眠障害、両手指の左側優位の異常感覚、両下腿の浮腫軽度、非特異的な悪寒に似たような震え、頚椎部運動障害、右膝関節機能障害、左肩関節機能障害、左上肢の痛みとしびれ、腰痛につき、自賠法施行令上の後遺障害に該当しないと判断された(甲七、二〇)。

なお、原告の非器質性精神障害は、医療不信・賠償問題・妻との別居等が原因であったから、本件事故との因果関係がなく、仮にあっても被害者の素因を考慮するべきである。

(4)  被告四輪に進路を譲っていた停止四輪があったこと、被告四輪がそろそろと頭を出してきていたことから(甲二)、原告に三〇%の過失がある。

理由

第一概要

本件は、幹線道路で原告単車直進・被告四輪路外車の交通事故について、原告単車の運転者であった原告が、被告四輪の運転者であった被告に対し、不法行為に基づき、損害の賠償を一部請求し、不法行為時からの遅延損害金を附帯請求した事案である。

主たる争点は、①公的証明がない基礎収入額、②CRPSが疑われた後遺障害の程度、③過失割合であった。

当裁判所は、①原告が調理師であったこと等から、賃金センサスにも鑑みて、証明力を認めた給与支払明細書に基づき、基礎収入を認定した(六三九頁~)。

また、②右膝等の疼痛につき、客観的かつ厳格な要件が設定されている自賠法施行令上はCRPSと認められないものの、日本版CRPS判定指標は充たす旨の専門的知見もあったこと等から、同令別表二 一二級一三号相当と認め、左上肢等のしびれ等につき、本件事故直後から一貫して強く訴えていた症状であり、受傷機転もあったこと等から、同令別表二 一二級一三号相当と認めた。なお、症状固定日は、後遺障害診断書の通り、本件事故から約一年後と認め、症状が多発的であったから、労働能力喪失期間を就労可能年数と認めた(六四一頁~)。

そして、③擦過痕等から、原告単車の徐行・被告四輪の徐行なしを認めず、走行車線で被告四輪に進路を譲っていた停止車両の存在からは、追越車線の直進車である原告単車の著しい過失を認めず、五%の過失相殺をした(六四七頁~)。

そこで、原告の請求を一部認容し、民事訴訟法六四条本文、二五九条一・三項を適用して、主文の通り判決した。

第二基礎収入

一  当裁判所の判断

e店名義・原告宛の給与支払明細書は、毎月分作成されていること(後記二(2)ア)、e店が現存すること(顕著な事実)、原告がe店名義の記名印を偽造したと認める証拠はないことから信用できる。

そして、原告が生業(飲食業)の有資格者(調理師等)で(後記二(1)ア~ウ)、平均賃金三八六万六一〇〇円/年(賃金センサス平成二三年・M七六飲食店・企業規模計・男・中学卒・三五~三九歳)も考慮すれば、原告の本件事故当時の基礎収入を、二八万二〇〇〇円/月(≒1万2000円/日×平均23.5日/月〔後記2(2)ア〕)と認める。

なお、源泉徴収等がなかったこと(後記二(2)ア)を考慮すれば、第三者に交付されるべき休業損害証明書及び給料台帳の採用日が本件事故の三か月前であったことは(後記二(2)イ、エ)、勤務先の意思に基づく作為であったという原告の主張に合理性が認められるし、e店の協力が得られなかったことに原告の帰責性は認められない。

二  前記一の判断のために証拠等により認定した事実

(1)ア  原告(昭和四七年○月○日生)は、平成三年三月一日、調理師法による調理師の免許を取得した(甲二六)。

イ  原告は、平成五年一一月一一日、フグ処理等に関する指導要綱八条によるフグ処理者養成講習会の全ての過程を受講した(甲二七)。

ウ  原告は、平成九年三月二一日~平成一六年一月二六日、京都市及びその周辺で、調理師として、断続的に勤務していた(甲二八~三二、三四~三六)。

エ  原告は、平成一三年七月一日~平成一四年四月二一日、(株)gのh店で料理長として勤務し、平成一四年三月分として、二六日勤務し、給与四四万円・交通費一万九六九〇円の支給を受けた(甲三〇、三二、三四、三五)。

(2)ア  e店ことA(京都市<以下省略>電話番号<省略>)が、原告に対し、平成一六年一〇月一九日から平成二三年四月三〇日に一月当たり二〇~二七日勤務し、基本給一万二〇〇〇円/日・交通費一〇〇〇円/日を支給し、健康保険料・厚生年金・所得税等何も控除されなかった旨の毎月分の給料支払明細書がある(甲一三、三三)。

これによれば、原告は、平成二二年に合計三八六万一〇〇〇円、平成二三年二月~四月に平均三二万五〇〇〇円/月の支給を受けたことになる(甲一三)。

イ  原告が、平成二三年二月に二四日、三月に二五日、四月に二六日、五月に一日に勤務した旨の一冊の給料台帳がある(乙三、被告本人p一八~一九・二五~二六)。

これによれば、平成二三年二月~四月に平均三二万五〇〇〇円/月の支給を受けたことになる(乙三)。

ウ  原告は、平成二三年五月二日、本件事故に遭った(争いがない)。

エ  原告は、本件事故により平成二三年五月三日~九月三〇日に合計一三三日休業した旨の二通の休業損害証明書を、妻に記載させて、被告が契約していた保険会社に対し、交付した(乙一、二、原告本人p一七~一八・二二~二五)。

これには、採用日が平成二三年二月一日と記載され、e店の記名印が押されている(乙一、二)。

第三後遺障害の程度・症状固定日・被害者の素因

一  当裁判所の判断

(1)  後遺障害の程度

ア 右膝等

確かに、原告が訴える疼痛(表皮を含む)につき、神経の損傷を認める証拠がないから、カウザルギーとは認められず(後記二(4)イ(ウ))、RSDの三要件(後記二(4)イ(イ))全てを満たさないから(後記二(1)~(3))、客観的かつ厳格な要件が設定されている自賠法施行令上の後遺障害であるCRPSとは認められない。

しかし、これは、原告が本件事故直後から一貫して強く訴えていた症状であり(後記二(1)ア(イ)・イ(イ)・ウ(イ)・カ(イ)・キ)、日本版CRPS判定指標は満たす旨の専門的知見、術後痛・慢性疼痛とも診断されたことを考慮すれば、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(自賠法施行令第二 一二級一三号)に該当する後遺障害と認める。

イ 左頚~肩~上肢等

確かに、原告が訴えるしびれ等につき、原因となり得る神経の損傷等が認められない(後記二(1)ウ(イ))。

しかし、これは、嘔気と共に、本件事故直後から一貫して強く訴えていた症状であり(後記二(1)ア(イ)・イ(イ)・ウ(イ)・キ)、平成二三年一〇月頃になって出現したもの(参考:甲二〇p四)ではないこと、原告が単車で衝突により少なくとも五m移動した本件事故態様(後記第五―二(5)・(6))や左肩に腱板損傷の疑いがあったこと(後記二(1)ウ(イ))から認められる受傷機転、ブロック・トリガーポイントまで処方されたこと(後記二(3)ア(イ)・ウ(イ)・エ(ア))から認められる症状の程度を考慮すれば、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(自賠法施行令別表二 一二級一三号)に該当する後遺障害と認める。

ウ 腰等

確かに、原告は、本件事故直後から全身痛を訴え(後記二(1)ア(イ)・イ(イ)ウ(イ))、一回目の入院後のMRI検査とはいえ、ヘルニアが認められた(後記二(1)ウ(イ))。

しかし、本件事故の寄与さえ明らかではないとの専門的知見があり(後記二(3)ウ(ウ))、本件事故直後から約一年間入通院したa病院で腰の症状を障害と診られなかったこと(後記二(2)ア)を考慮すれば、本件事故との因果関係がある後遺障害とは認められない。

(2)  症状固定日

確かに、c医院は、平成二五年四月四日~七月三一日に、原告の症状がやや改善傾向にあると回答した(後記二(3)エ(イ))。

しかし、c医院は、同年一〇月二〇日には症状が不安定と回答し(後記二(3)エ(イ))、a病院でも、原告は、平成二三年九月二一日~平成二四年五月三〇日、疼痛の増強と軽減を訴えていたこと(後記二(1)カ(イ))を考慮すれば、傷害と後遺障害を区分するため法的に治療の効果が以後期待できない治療相当期間の終期として、症状固定日は、本件事故の約一年後である平成二四年五月三〇日(後記二(2)ア)と認める。

(3)  被害者の素因

確かに、原告は、平成二五年四月より後に鬱病とも診断され(後記二(3)エ(ア))、その心因的素因による、疼痛等の増悪、前記(1)で認定した後遺障害(いわゆる併合一一級)相当の労働能力喪失率以上の労働能力喪失が認められる。

他方、a病院の一回目の入院中、リハビリに消極的であったり、入院の継続を希望したりする態度を認める証拠はなく、同後遺障害が素因により易発化・難治化したと認められないばかりか、同後遺障害が心因的素因の原因とも評価し得る(後記二(1)キ)。

したがって、前記(2)で認定した症状固定日までの治療費等、前記(1)で認定した後遺障害の程度を認める限度で、被害者の素因による減額を認めない。

二  前記一の判断のために証拠等により認定した事実

(1)ア(ア) 原告(昭和四七年○月○日生)は、本件事故(平成二三年五月二日)により、a病院に救急搬送され、全身打撲・頸椎捻挫・右膝関節血腫の傷病名で、平成二三年五月二日~四日(実三日)、通院した(甲三、乙六、七)。

(イ)  同年五月二日、X線検査、胸腹部CT検査、頭部CT検査、膝CT検査で、明らかな骨折はなく、突然の回転性めまい・嘔吐、膝に擦過傷と巨大な皮下血腫が認められたが、松葉杖で帰宅した(乙六p三~五)。

同年五月三日、全身痛・吐き気を訴え、膝血腫は増悪した(乙六p六)。

イ(ア) 原告は、a病院に、平成二三年五月五日、入院し、六月一三日、松葉杖で退院した(甲三、乙六、七)。

(イ)  同年五月五日、全身痛の外、左肩~手指・右肩から末梢・両下肢のしびれを訴えた(乙六p八~一五)。

同年五月五日、頚椎MRI検査で、脊髄損傷なし・脊柱管狭窄わずか、C二/三・三/四の後方成分に高輝度変化軽度との所見が認められ、頚椎カラーを処方された(乙六p九~一〇・一二)。

同年五月二一日、大腿骨遠位部周辺が特に腫張著明で、触れると疼痛を訴えた(乙六p三四)。

同年五月二二日、右膝関節可動域制限が遷延し、持続的関節他動訓練器(CPM)を始めることになった(乙六p三六)。

同年五月三〇日、廃用症候群として歩行訓練を始めることになった(乙六p四七)。

同年六月八日から、末梢性神経障害性疼痛に効能があるリリカカプセルを処方されるようになった(乙六p六〇)。

同年六月一一日、右下肢痛、腹臥位になると全体に出現するしびれ、頚部から左前腕・指先にかけてのしびれを訴えた(乙六p六五)。

ウ(ア) 原告は、a病院に、平成二三年六月一五日~八月一七日(実一七日)、通院した(甲三、乙六、七)。

(イ)  同年六月一五日、めまいを訴え、同年六月二二日、退院直後から嘔気・めまい・たちくらみがあると訴えた(乙六p八四・八五)。

同年六月二三日、右膝関節可動域につき、自重によって踵と臀部がつくようになった(乙六p八六)。

同年七月六日、右側優位の腰痛、右膝の前面の表面が痛い・異常感覚もありズボンが履けない、頭痛、めまい、起床時の左肩関節のしびれと訴えた(乙六p八七)。

同年七月七日、上肢神経伝達速度検査で、有意な低下なしとの所見が示された(乙六p八七・九〇)。

同年七月一一日、肩関節MRI検査で、腱板損傷疑いの所見が示された(乙六p八八・八九)。

同年七月二〇日、左肩痛、右側頚部痛、右膝関節の知覚異常、腹臥位で誘発される両足の膝関節より遠位のしびれ、嘔気を訴えた(乙六p八九)。

同年七月二五日、腰椎MRI検査で、両側坐骨神経痛疑い、L五/S一の椎間板後方突出・両側椎間孔狭小化の所見が示された(乙六p九〇・九二)。

同年七月二八日、リハビリが終了した(乙六p九一)。

同年八月一七日、一〇kg程度太った、よく汗をかくようになっていると訴えた(乙六p九二)。

エ 原告は、近医でのリハビリを希望して、紹介されたf整形外科医院に、頚椎捻挫・腰椎々間板ヘルニア(外傷性)・右膝挫傷及び皮下出血・左手関節挫傷・右膝関節拘縮の傷病名で、平成二三年八月二二日~九月一二日(実一七日)に通院した(甲四、乙四、五、六p九三・七p一一)。

オ(ア) a病院に、同年八月三一日~九月三日(実二日。内一日はf整形外科医院通院日)、通院した(甲三、乙六、七)。

(イ)  同年八月三一日、右膝関節MRI検査で、外側半月板の前核に水平断裂の疑い・前十字靭帯やや薄層化の所見が示された(乙六p九四)。

(ウ)  原告は、a病院に、平成二三年九月一四日~一七日、入院した(甲三、乙六、七)。

(エ)  同年九月一五日、右膝関節の鏡視下滑膜切除術で、靭帯に特記すべき異常所見を認めず、わずかな半月板損傷・大腿骨側で軟骨の一部損傷が認められた(乙六p一〇二)。

カ(ア) 原告は、a病院に、平成二三年九月二一日~平成二四年五月二九日(実二〇日)、通院した(甲三、乙六、七)。

また、f整形外科医院に、平成二三年九月二二日~平成二四年五月三〇日(実一二二日。内五日はa病院通院日)、通院して(甲四、乙四、五)、

(イ)  平成二三年一〇月五日、右膝関節周囲の皮膚が痛覚過敏で毛布もかけられないと訴え、CRPSの可能性が指摘された(乙六p一一二)。

同年一二月一四日、右膝装具を処方された(乙六p一一六~一一七)。

平成二三年九月二一日~平成二四年五月三〇日、疼痛の増強と軽減を訴えた(乙六p一一二~一二六)。

キ 原告は、平成二四年五月一日から、日記を書き始め、嘔吐・めまい・右膝と左腕の痛み等の症状、妻との別居や医療不信に関する心情の外、原付で走っていてもふらふらして道を間違う、飼い猫が居なかったらもう生きていないだろう等と記載した(甲二四)。

(2)ア 原告は、平成二四年五月三〇日、右膝関節痛・左肩関節痛・全身性の発汗多量・睡眠障害・両手指の左側優位の異常感覚・両下腿の浮腫軽度・非特異的な悪寒に似たような震えの自覚症状、頚椎部運動障害(前屈五〇度後屈四〇度右屈五〇度左屈四五度右回旋五〇度、左回旋五五度)、膝関節機能障害(屈曲他動右一四五度左一五五度)、肩関節機能障害(屈曲他動一六五度左一六〇度、伸展他動右八〇度左六五度)を遺して症状固定したと診断された(甲五)。

イ 損害保険料率算出機構は、右膝関節痛につき「局部に神経症状を遺すもの」(自賠法施行令別表二 一四級九号)に、左肩関節痛につき「局部に神経症状を遺すもの」(同一四級九号)に、それぞれ該当し、全身性の発汗多量・睡眠障害・両手指の左側優位の異常感覚・両下腿の浮腫軽度・非特異的な悪寒に似たような震え・頚椎部運動障害・右膝関節機能障害・左肩関節機能障害・左上肢の痛みとしびれ・腰痛につき、自賠責保険における後遺障害に該当しないと判断した(甲七、二〇)。

(3)ア(ア) 原告は、a病院に、平成二四年六月一三日~九月二六日(実一一日)、通院した(甲一四、一七、乙六、七)。

(イ)  同年九月一九日、物が持てない、出汁巻きも作れず、桂剥きもできない、二時間で制限、夜間のアルバイトを探していると訴えた(乙六p一三一)。

同年九月二四日、a病院麻酔科で、膝と肩の痛み・右下肢の知覚鈍麻と異痛を訴え、腰部硬膜外ブロックを処方された(乙六p一三二~一三三)。

イ 原告は、紹介されたi病院ペインクリニックに、平成二四年九月二七日(実一日)、右下肢難治性疼痛の病名で、通院し、右膝・腰部・左肩・左手首の疼痛、時折頭痛等を訴え、術後痛の可能性が否定できない、CRPSの診断に合致しないとの所見を示された(乙一〇p二・一四・一五)。

ウ(ア) 原告は、a病院に、平成二四年一〇月三日~平成二五年七月一八日、通院し(甲一四、一七、乙六、七)、b調剤薬局で調剤を受けた(甲二二)。

(イ)  平成二四年一〇月三〇日、神経根ブロックを処方されるようになった(乙六p一三五~一三八)。

(ウ)  a病院は、平成二四年九月一九日、右膝内部の疼痛につき、大腿骨内果関節面一部の軟骨損傷と自覚症状には乖離があり原因の特定困難・外傷そのものの障害のみに基づく痛みでない可能性がある、右膝表皮の痛覚過敏につき、臨床用CRPS判定指標Aの項目二~五とBの項目二~四(後記(4)ア)に該当するが複数の医師が診断するべき、左頚~肩~上肢のしびれ・発汗異常につき、腱板損傷は神経系とは区別されるため直接的に関連するものではない・頚部ヘルニアとの関連性は否定的、腰痛につき、椎間板ヘルニアとの関連性は低い・外傷起点がどの程度影響を及ぼしたか不明、下腿のしびれにつき、自覚症状の領域は椎間板ヘルニアが認められるS一神経領域にとどまっていない等と回答した(甲一〇、一一)。

エ(ア) 原告は、セカンドオピニオン目的で紹介を受けたc医院に、平成二五年四月四日~七月三一日、頚椎捻挫・頸肩腕症候群・頚椎椎間板ヘルニア・CRPS疑い・慢性疼痛・全身打撲・左膝関節打撲・皮下出血・不眠症・右膝関節炎・便秘症・左肘関節炎・偏頭痛・鬱病・逆流性食道炎・右変形性膝関節症・左手関節炎の傷病名で、通院し、神経ブロック・トリガーポイント注等を処方され(甲一七、一八、乙一一)、d薬局で調剤を受けた(甲二一)。

(イ)  c医院は、平成二五年七月二八日、原告の症状につき、全体的にはやや改善傾向にある、医者と患者との良好な関係が構築されつつあり、今後の加療にプラスになる、急性疼痛の治療方法では症状の改善がみられず、根深い医療不信を有していると思われ、医療施設を転々とし、慢性疼痛によくみられる状態が出現している等と回答した(甲三七、三八)。

c医院は、同年一〇月二〇日、疼痛が一進一退・症状が不安定である等、現状での就労は不能等と回答した(甲四〇~四二)。

(4)ア 厚生労働省CRPS研究班によって提唱された日本版CRPS判定指標は、以下の通りである(甲一一p七)。

A 病気のいずれかの時期に、以下の自覚症状のうち、臨床用は二項目以上、研究用は三項目以上、該当すること。ただし、それぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい。

一 皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化

二 関節可動域制限

三  持続性ないしは不釣合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み(患者が自発的に述べる)、知覚過敏

四  発汗の亢進ないしは低下

五  浮腫

B 診察時において、以下の他覚所見の項目を、臨床用は二項目以上、研究用は三項目以上、該当すること

一 皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化

二 関節可動域制限

三 アフロディニア(触刺激ないしは熱刺激による)ないしは痛覚過敏(ピンプリック)

四 発汗の亢進ないしは低下

五 浮腫

イ  厚生労働省労働基準局長平成一五年八月八日「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(基発第〇八〇八〇〇二号)は、別添一「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準」で、「特殊な性状の疼痛」として、以下の通り定める(顕著な事実)

(ア) カウザルギーについては、疼痛の部位、性状、疼痛発作の頻度、疼痛の強度と持続時間及び日内変動並びに疼痛の原因となる他覚的所見などにより、疼痛の労働能力に及ぼす影響を判断して次のごとく等級の認定を行うこと。

a 「軽易な労務以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるもの」は、第七級の三とする。

b 「通常の労務に服することはできるが、疼痛により時には労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第九級の七の二とする。

c 「通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの」は、第一二級の一二とする。

(イ) RSDについては、①関節拘縮、②骨の萎縮、③皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)という慢性期の主要な三つのいずれの症状も健側と比較して明らかに認められる場合に限り、カウザルギーと同様の基準により、それぞれ第七級の三、第九級の七の二、第一二級の一二に認定すること。

(ウ) 外傷後疼痛が治ゆ後も消退せず、疼痛の性質、強さなどについて病的な状態を呈することがある。この外傷後疼痛のうち特殊な型としては、末梢神経の不完全損傷によって生ずる灼熱痛(カウザルギー)があり、これは、血管運動性症状、発汗の異常、軟部組織の栄養状態の異常、骨の変化(ズデック萎縮)などを伴う強度の疼痛である。

また、これに類似して、例えば尺骨神経等の主要な末梢神経の損傷がなくても、微細な末梢神経の損傷が生じ、外傷部位に、同様の疼痛がおこることがある(RSDという。)が、その場合、エックス線写真等の資料により、上記の要件を確認することができる。

なお、障害等級認定時において、外傷後生じた疼痛が自然的経過によって消退すると認められるものは、障害補償の対象とはならない。

第四原告の損害

一  治療費(甲一二) 一九五万二八八七円

症状固定日である平成二四年五月三〇日までのもののみ認めた(前記第三―一(3))。

二  装具代(甲一二) 六万七四一四円

三  入院雑費 六万六〇〇〇円

1500円/日×[40日+4日〔前記第3―2(1)イ(ア)・オ(ウ)〕]=6万6000円

四  通院交通費(甲一二) 二三万三三七〇円

五  休業損害 二一九万九六〇〇円

原告が、本件事故により勤務先を辞職したと認められること(弁論の全趣旨)、症状固定日(前記第三―一(2))、後遺障害の程度(前記第三―一(1))を考慮すれば、基礎収入二八万二〇〇〇円/月(前記第二―一)につき、一三月、平均六〇%の休業損害を認める。

28万2000円/月×13月×60%=219万9600円

六  入通院慰籍料 二〇〇万〇〇〇〇円

入通院期間を考慮した(前記第三―一(2)・二(1))。

七  将来治療費

症状固定日である平成二四年五月三〇日からのものは認めない(前記第三―一(3))。

八  逸失利益 一〇〇八万三〇三四円

症状が多発的であること、後遺障害の程度(前記第三―一(1))を考慮して、基礎収入二八万二〇〇〇円/月(前記第二―一)につき、労働能力二〇%を、就労可能年数二八年間喪失したと認める。

28万2000円/月×12月×20%×14.8981(28年間に対応するライプニッツ係数)≒1008万3034円

九  後遺障害慰籍料 四二〇万〇〇〇〇円

後遺障害の程度(前記第三―一(1))を考慮した。

第五過失相殺 ▲五%

一  当裁判所の判断

(1)  本件事故は、路外から公道上に出てきた被告四輪と公道上を直進する原告単車との事故であったから(後記二(5)、(6))、被告四輪は、他の車両の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所から出るための右折をしてはならない注意義務(道路交通法二五条の二第一項)に反した過失がある。

しかも、本件事故の発生場所は、幹線道路であったから(後記二(1)ア、②イ)、通常の道路に比し、被告四輪は、直進車の動静により強く注意を払わないと危険であり、また、原告単車も、被告四輪との衝突を回避する余地がかなり制約される。

他方、原告も、原告単車のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び原告四輪等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない注意義務(道路交通法七〇条)に反した過失は否定できない。

したがって、原告の過失は五%と認める。

(2)ア  原告は、原告単車の徐行・被告四輪の徐行なしを主張する。

しかし、原告の主張(別図)によっても、被告四輪が発進した時の原告単車の地点は明らかではないが、被告四輪を発見してから衝突するまでの原告単車の移動距離file_4.jpg’~file_5.jpg’(参考七・七m〔別図ス1~ス2~サ1~サ2~file_6.jpg〕)と、被告四輪の移動距離①’~file_7.jpg’(参考八・一m〔別図①~②~③~④~⑤〕)に鑑みれば、有意な速度差は認められない。そもそも、運転者の発進直後の時速の認識は、信用し難い。また、一八〇度の方向に移動する物体が四五度の傾きで静止する壁に衝突すれば同物体のエネルギーだけで二七〇度の方向に移動するから、南進していた原告単車が被告四輪との衝突によって西進したからといって、そのエネルギーが全て被告四輪のものと認めることはできない。そして、擦過痕が新しかったこと(後記二(3)イ)、被告四輪の損傷箇所が下部にしかないこと(後記二(4)イ)から、原告単車が転倒して同擦過痕を印象し衝突したと認められる。したがって、原告の前記主張は採用できない。

なお、原告は、被告の左方の注視・右方(原告単車側)の不注視をもって、著しい過失を主張するが、このような被告四輪の不注視は、前記(1)の過失に含まれる。

イ  被告は、左折車(別図file_8.jpg)の存在を、被告に有利に主張する。

しかし、南行走行車線で東側路外の被告四輪に対し進路を譲っていた停止四輪があったことは、南行車線の直進車である原告単車に対し、路外車の存在を予測させるものにすぎず、このような原告単車の不注視は、前記(1)の過失に含まれる。むしろ、被告四輪は、改めて南行追越車線の直進車を確認するべきであった。したがって、被告の前記主張は採用できない。

二  前記一の判断のために証拠等により認定した事実

(1)ア  本件事故の発生場所は、南北に走る最高速度五〇km/hの規制がある車道幅員一五m(片側二車線)のアスファルト舗装された国道二四号であった(甲二p四・六)。

イ  国道二四号の東側には、幅員三・五mの歩道、東側路外には、j店及びその駐車場があった(甲二p六)。

(2)ア  本件事故は、平成二三年五月二日午後九時四〇分頃、発生し、天候は曇であった(甲一、二p四)。

イ  本件事故当時、路面は乾燥し、市街地で交通普通であった(甲二p四・九~一三)。

(3)ア  司法警察員は、平成二三年五月二日午後一〇時~一〇時三一分、本件事故の発生場所で、本件事故につき、被告を立会人として、実況見分をした(甲二p四)。

イ  別図サ1~サ2に、新しい擦過痕が印象されていた(甲二p四・六・一二~一四)。

ウ  別図ス1~ス2に、スリップ痕が印象されていた(甲二p四・六・一二~一三)。

(4)ア  原告単車は、前輪が曲損し、フロントフォーク左側に黄色塗色が付着し、右側面は擦過し、右ミラー・右指示器が折れ損した(甲二p四・二二~二七)。

イ  被告四輪は、右前バンパー下部が凹損・擦過し、黒色ゴム様のものが付着し、黄色の前部ナンバープレート右下が曲損した(甲二p四・一六~二一)。

(5)  原告は、原告単車が転倒することなく、直進ではなく右折してきた被告四輪を避けてゼブラゾーンに侵入し、別図file_9.jpg’で衝突して、原告と原告単車は飛ばされたと供述する(甲四三、原告本人p九~一二)。

(6)ア  被告は、別図の通り、指示説明をした(甲二p五・六)。

イ  被告は、平成二三年五月二日、司法警察員に対し、別図②で左方を確認し、別図③で視線を右方に戻したところ、被告四輪は約一〇~一五km/hであった、別図file_10.jpgで被告四輪の右前バンパーと原告単車の左前輪フォーク等がぶつかり、原告は別図file_11.jpgに原告単車と一緒に転倒したと供述した(甲二p三一~三二)。

ウ  被告は、平成二三年六月二三日、検察官に対し、別図③で、約五~一〇km/hであったと供述した(甲二p三四~三五)。

エ  被告は、原告及び原告単車が本件事故後あった地点が、別図file_12.jpgより東側の国道二四号北行東側車線の中央であったと供述する(乙九、被告本人p一~二・六・九)。

第六損益相殺(争いがない) ▲三八二万五一二四円

第七被告に負担させる原告の弁護士費用 一六〇万〇〇〇〇円

本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮した。

(裁判官 永野公規)

別図

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例