京都地方裁判所 平成24年(ワ)3413号 判決 2014年3月11日
原告
X1<他1名>
上記両名訴訟代理人弁護士
上野操
同
髙木秀治
同
上野達
被告
京都市
上記代表者京都市長
A
上記訴訟代理人弁護士
南部孝男
被告
京都府
上記代表者京都府知事
B
上記訴訟代理人弁護士
置田文夫
上記指定代理人
西村文則<他4名>
主文
一 被告らは、原告X1に対し、連帯して、一四八五万七九二七円及びこれに対する平成二四年七月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告X2に対し、連帯して、一四八五万七九二七円及びこれに対する平成二四年七月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、主文一項及び二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(1) 被告らは、連帯して、原告らそれぞれに対し、四〇七〇万九二四八円ずつ及びこれらに対する平成二四年七月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(3) 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
(3) 仮執行免脱宣言
第二当事者の主張
【請求原因】
一 当事者等
(1) 原告X1(以下「原告X1」という。)は昭和四八年○月○日生まれの男性であり、原告X2(以下「原告X2」という。)は昭和三五年○月○日生まれの女性である。原告らは平成一二年一二月二三日に婚姻し、平成一八年○月○日に一人娘であるC(以下「C」という。)をもうけた。
(2) Cは、平成二四年七月三〇日当時、京都市立a小学校(以下「a小学校」という。)に通学する一年○組の児童であった。
その当時、a小学校の校長はD(以下「D校長」という。)、教頭はE(以下「E教頭」という。)であった。また、F(以下「F」という。)は養護教員、G(以下「G」という。)は五年△組の担任教員、H(以下「H」という。)は育成学級(発達障害や身体に障害を抱える児童などが在籍する学級)の担任教員、I(以下「I」という。)は三年□組の担任教員、J(以下「J」という。)は一年◎組の担任教員であった。
(3) 被告京都市は、a小学校を設置管理する地方公共団体であり、上記七名の教員は、いずれも被告京都市の公務員である。
(4) 被告京都府は、上記七名の教員の給与等を負担する地方公共団体である。
二 事故の発生
a小学校では、平成二四年の夏休み中、学校内のプール(以下「本件プール」という。)でプール学習を行っていた。Cは、平成二四年七月三〇日、午後一時から二時までの予定で行われていたプール学習(以下「本件プール学習」という。)に参加したが、本件プール学習中の同日午後一時四五分頃、本件プール内で溺れ(以下「本件事故」という。)、翌七月三一日午後五時一八分頃、京都第二赤十字病院において死亡が確認された。
三 本件プール及び本件プール学習の概要
(1) 本件プールの形状と水深
本件プールは、a小学校の敷地の南端に位置し、東西方向に二五メートルのコースを六本有している。プールの合計面積は三〇〇平方メートルである。プールサイド南側の中央部分にはベンチが設置されており、通常はそこに救急セット等が置かれている。
本件プールの底には排水のための傾斜が付いている。南東から西に約五メートル入った位置が一番低く(水深が深く)、西辺が最も高い(水深が浅い。)。低学年向けの授業の際は、通常、最深部で約九〇センチメートル、最浅部で約六〇センチメートルの水深となるよう水が入れられる。ところが、本件事故当時はそれよりも水嵩があり、本件プールは、最深部で約一一〇センチメートル、最浅部でも約七八センチメートルの水深があった。
(2) 注水に関する伝達
本件プールには、六年生の水泳記録会の練習のため、平成二四年七月二三日、同月二六日及び同月二七日にそれぞれ注水が行われたが、このことは本件プール学習を担当していたG、H及びI(以下、この三人を「担当三教員」という。)には伝達されなかった。
(3) 夏季プール学習の概要等
a小学校の夏季プール学習は、午前の部と午後の部とに分かれ、それぞれ三人の教員が指導及び監督を担当するというものであった。
a小学校では、夏季プール学習で行う活動の内容、三人の担当教員の監視体制及びプールの水位について具体的な取り決めを行っておらず、担当教員の判断に任されていた。
(4) 本件事故当日の予定
本件事故当日の夏季プール学習は、午前一一時から正午まで(午前の部)が高学年の児童(四年生ないし六年生)を、午後一時から午後二時まで(午後の部)が低学年の児童(一年生ないし三年生)を対象としたものであった。
(5) 本件プール学習の参加児童
本件プール学習の参加児童は、Cを含めて合計六九人であり、その内訳は、一年生が二五人、二年生が一九人、三年生が二二人、育成学級の児童が三人であった。
a小学校では、水泳指導に配慮を要する児童は「要配慮児童」として、要配慮児童の中でもとりわけ身体的な理由(てんかん症状等)で注意を要する児童は「要注意児童」として、それぞれ養護教員が担当教員に通知していたが、上記の六九人の児童のうち、要配慮児童は四名であり、そのうち要注意児童は二名であった。
(6) Cの身長と水泳能力等
Cは、本件事故当時、身長は一一三・五センチメートルであり、泳ぐ能力は、プールの流れに乗って動いたり、足の届く場所で息を止めて水中に沈んだりすることはできたが、水に浮かんで息継ぎをしたり、泳法に従って泳いだりすることはできないという程度であった。
(7) 水位の確認
Iは、本件プール学習開始時、本件プールの水位が通常よりも高いかもしれないと思っていたし、Hも、準備体操時、児童らのあごが水面から出る位置を見て、いつもより水深が深いと感じ、一年生の児童ら数人に対し、本件プール西側から一五メートルの地点よりも東側に行かないように指示をした。しかし、両教員とも、それ以外には何ら措置を講じなかった。
四 本件事故発生時の状況
(1) 本件プール学習は、午後一時に始まり、準備運動や鬼ごっこが行われた後、休憩時間なしに引き続き午後一時四〇分頃自由遊泳となった。担当三教員は、本件プール内に大型ロングビート板四枚、中型ロングビート板二枚、円形ビート板一〇枚を均等に浮かせて、参加児童六九名が一度に自由に泳ぐ自由遊泳を開始した。
(2) Iは、本件プール南側のベンチにいたところ、Cが「遊ぼう」と声をかけてきたので、本件プールに入り、入ってすぐのところ(南側のベンチの前辺り)でCを持ち上げたり、水につけたりして遊んでいたところ、他の児童らが集まってきたので、Cを置いて、他の児童らとともに追いかけっこを始めた。
その間、Cは、知り合いの児童と手をつないで遊んでいたが、別の児童が遊んでいたビート板が二人に当たり、つないでいた手が離れてしまった。その後、知り合いの児童は、Cが水中に沈んでいるのを発見して、担当三教員の一人に報告した。Cは、午後一時四〇分から四五分の間に溺れたのである。
Iは、Cと離れた後、児童らと何回か追いかけたり追いかけられたりを繰り返し、本件プールの中央北側に行ったところ、Cが溺れているのを発見した。Iは、他の児童らと追いかけっこをしている間、Cの様子を確認していなかった。
(3) Hは、本件プールに入り、育成学級の一年生の児童らをビート板の上に乗せ、引っ張ったり、波を起こしたりしながら本件プール内を動いていたが、自由遊泳が始まってからCの様子を見てはいなかった。
(4) Gは、プールサイド西側の水道からホースを引いてプールサイド北西角あたりに行き、落ちていたゴミを流し始めていたところ、児童らが「水をかけて」と言ってきたので、児童らに水をかけながらプールサイドの西側を往復していたが、自由遊泳が始まってからCの様子を見てはいなかった。
(5) Jは、本件プール学習の担当ではなかったものの、児童らの様子を見るためにプールサイド出入口付近に来ていた。しかし、Jも、自由遊泳が始まってからCの様子を見てはいなかった。
五 本件事故発生後の状況
(1) Iは、Cが溺れているのに気付いた後、直ちにCを北側のプールサイドに引き上げ、心臓マッサージを開始した。G及びJが事態を察知し、JがHを呼び、H及びGがCのもとに駆けつけた。
(2) Hが、Iと救命措置を交代し、心臓マッサージと人工呼吸を開始したところ、Cの身体に反応があり、口や鼻から米粒等の嘔吐物が吐き出された。
Hは、心臓マッサージと人工呼吸をしている際に、「心臓が動いた」という声が聞こえたように思い、実際に心臓が動いていることを自ら確認することなく、心臓マッサージをやめて、人工呼吸のみを続けた。
(3) Jは、AEDを取りに行くため、まず職員室に行ってAEDを求め、その後、E教頭とともに体育館横の消防倉庫外壁に設置されているAEDを取りに行った。
E教頭は、AEDを取り出した後、職員室にいたKにAEDを手渡して、本件プールに持って行かせた。
(4) Iは、Hに救命措置を交代した後、職員室に向かい、午後一時五二分、一一九番通報を行った。
(5) Fは、Iが職員室に来たことで本件事故の発生を知り、保健室にCの保健調査票等の書類と救急バッグを取りに行った後、職員室に戻り、職員室にいた教職員に対し、緊急連絡票のコピーとCの書類を一緒にしておくよう指示し、その後、本件プールに向かった。
Fが本件プールに到着した際、HがCに人工呼吸を行っていたが、Fは、Cの呼吸がないことを確認して、心臓マッサージを開始した。その後、Fは、AEDがCの横にあることに気付き、Cをプールサイド出入口付近まで移動するよう指示し、AEDパッドを装着したが、AEDの解析結果は、「(電気ショックは)必要ありません」というものであったので、心臓マッサージを再開した。
(6) Fが二回目のAED解析を行おうとしたところ、警察官がa小学校に到着したので、警察官に救命措置を引き継いだ。
救急隊は、午後一時五八分頃、a小学校に到着し、午後二時一二分頃、京都第二赤十字病院にCを搬送するためa小学校を出発した。
(7) Cは、京都第二赤十字病院に搬送された後、一時的に心拍が回復したが、その後、再び心拍が停止した。結局、Cは、溺れてから一度も意識を回復することがないまま、本件事故翌日の平成二四年七月三一日午後五時一八分頃、医師により死亡が確認された。
六 被告京都市の国家賠償法二条一項に基づく責任
本件プールは国家賠償法二条一項の公の営造物に該当するところ、以下のとおり、本件事故当時、本件プールの管理には通常有すべき安全性を欠く瑕疵があった。
(1) 水深の不適切さ
本件事故当時、本件プールの水深は、最も深い場所で一一〇センチメートル、最も浅い場所で七八センチメートルであり、低学年の体育の授業のときよりも全体的に約二〇センチメートル深い状態になっていたが、この水深は、Cを含む低学年の児童が、本件プールの授業で初めて体験する深さであり、最も深い場所は、泳げないCの身長と同程度の深さだったのであるから、低学年の児童を対象とするプール学習の水深としては明らかに不適切なものであった。
(2) コースロープの不設置
夏季プール学習では、Cを含む泳げない小学校低学年の児童が多数参加していたのであるから、本件プールを設置管理するにあたっては、泳げない児童が誤って深い場所に行かないよう、例えば境界水面にコースロープを張り渡すなどの危険防止措置を講じておくべきことは当然の要請である。しかし、本件プールには、本件事故当時、泳げない児童が深い場所に行くことを防止するための危険防止措置が何ら講じられていなかった。
(3) したがって、本件プールは、小学校低学年の児童を遊泳させる施設として通常有すべき安全性を欠く状態であったから、その管理に瑕疵があったというべきであり、本件プールの管理者である被告京都市は、国家賠償法二条一項に基づき、本件事故によって生じた損害を賠償する責任を負う。
七 被告京都市の国家賠償法一条一項に基づく責任
D校長、E教頭、F、G、H、I及びJには、その職務を行うについて、次の(1)ないし(5)の過失があった。
(1) プール水深の事前確認・情報共有義務違反(担当三教員の過失)
小学校低学年のプール学習を指導する教員は、身長が低く、泳げない児童の安全を守るため、事前にプールの水深を確認したり、水深の情報を担当教員間で共有するなどの配慮を行うべき注意義務を当然に負う。
ところが、担当三教員は、本件プールの水深について事前に情報の引継ぎや確認作業などをせず、漫然と本件プール学習に臨み、また、I及びHは、本件事故当時、それぞれ本件プールの水深がいつもより深いことに気が付いたにもかかわらず、担当教員間で十分に協議して安全管理に関する情報を共有しなかったのであり、上記の注意義務を怠った。
(2) プールの水深調整義務違反(担当三教員の過失)
小学校低学年のプール学習を指導する教員は、普段よりもプールの水深が深いなどの危険な状態が判明すれば、直ちにプール学習を中止して、プールの水を抜く、泳げない児童が深い場所に行くのを防ぐためにコースロープを張り、あるいは泳げない児童はプールの深い方に行かないことを周知徹底させるなどした上、プールの水深を調整して危険な状態をなくすよう配慮すべき義務を負う。
しかし、担当三教員は、本件プール学習を指導するにあたり、適当な水位となるように調整するという意識がなかったのであり、I及びHは、それぞれ、本件プールの水深が普段より深いことに気が付いたにもかかわらず、適切な水深に調整する義務を怠った。
(3) 監視義務違反(担当三教員の過失)
本件プール学習の参加者は未熟な低学年の児童であり、Cを含む多くの泳げない児童もいた。また、本件事故が発生した自由遊泳は、遊びの要素が多く、秩序維持が困難な上、本件プールには大型ロングビート板(長さ二〇四センチメートル、幅一〇〇センチメートル、厚さ六・五センチメートル)四枚等の多数のビート板が浮かべられており、児童の監視はより困難な状態であった。これらの事情からすれば、担当三教員は、事前に十分な監視体制を協議・検討して、担当教員の指導・監督が行き届くよう、一度に本件プールに入る人数を制限したり、専任の監視係を設けて責任分担を明確にしたりするなど万全の監視体制を構築し、参加児童全体を常時注意深く見守る注意義務を負っていたものというべきである。
それにもかかわらず、担当三教員は、事前に監視体制を協議検討することなく漫然と本件プール学習に臨み、自由遊泳のときは、I及びHは本件プールに入って一部の児童の相手をし、Gはプールサイドにおいてホースの水でゴミを流したり、一部の児童に水をかけたりしており、いずれも、参加児童全体を監視しておらず、担当三教員は、上記監視義務を怠った。
(4) 救護上の過失
心肺停止状態の者に対する救護活動をするときは、AEDを用意する者、心臓マッサージ等の救命措置をする者、一一九番通報する者など、明確な役割分担を行い、速やかにそれらを実行に移すべきである。
しかし、担当三教員は、本件事故の発生後、そのような役割分担をしなかったことから、現場はいたずらに混乱し、その分AEDの使用や一一九番通報が遅れた(担当三教員の過失)。
AEDを取りに行ったのは、たまたま現場に居合わせたJであったが、Jは、AEDが体育館横の消防倉庫外壁に設置されていたにもかかわらず、まず職員室に向かい、その後、E教頭とともに体育館横の消防倉庫までAEDを取りに行ったのであり、その分だけ時間を無駄にした。
J及びE教頭は、緊急事態が発生したことを認識しながら、自ら一一九番通報することなく、他の教員に対して一一九番通報を指示することもなかった。
Hは、KがAEDを本件プールに持ち運んだ後も、心臓マッサージと人工呼吸を行っている最中に「心臓が動いた」という声が聞こえたように思ったため、実際に心臓が動いていることを自ら確認することなく、以降、心臓マッサージをやめ、AEDも使用しなかった。
Fは、遅れて本件プールに到着し、Cの心臓マッサージを行っていたところ、横にAEDが置いてあることに気付き、AEDを使用したが、その際、不要な場所の移動を指示しており、その分だけAEDの使用を遅れさせた。
したがって、担当三教員、J、E教頭及びFには救護上の過失があったというべきである。
(5) 指導監督義務違反(D校長及びE教頭の過失)
D校長及びE教頭には、管理職として、プール学習を実施するにあたり、事前にその担当三教員をして、プールの水深が適正かどうか、参加児童全員を一度にプールに入れた場合に十分な監視ができるかどうか、適切な救護活動ができるかどうか及び担当三教員の情報共有や連携保持の方法などについて十分に協議検討させ、仮にプールの水深が深いといった危険が判明すれば、直ちにプール学習を中止して、プールの水深を調整するなど適切な措置を講ずるよう担当三教員を指導監督すべき注意義務があったというべきである。
それにもかかわらず、監視体制についてはa小学校の水泳指導実施要項(以下「本件要項」という。)において「9.要注意児童について 必ず一人つき、三人体制で行う」と定められていただけであり、本件プール学習についても、活動内容や監視体制は担当三教員の判断に委ねられていたのであり、D校長及びE教頭は、上記の指導監督義務を怠った。
八 本件事故によって生じた損害
(1) 葬儀費用
原告らは、Cの葬儀費用として、四〇〇万円を支出した。
(2) 逸失利益
Cはわずか六歳五か月で死亡したのであるが、近時の女性の社会進出状況に鑑みれば、児童の逸失利益を男女別に算定すべき必然性は低いので、本件事故によるCの逸失利益は、男女を合計した平均賃金を基礎として算定すべきである。
Cは、本件事故に遭わなければ、就労可能な一八歳から六七歳までの四九年間にわたり、毎年、少なくとも平成二三年賃金構造基本統計調査―賃金センサス―第一巻第一表の男女学歴計の平均年収四七〇万九三〇〇円に相当する収入を得られたはずであるが、これを失った。
上記逸失利益からCの生活費(収入の三割相当)を控除し、ライプニッツ係数(一〇・六二二九)を用いて中間利息を控除し、上記逸失利益の死亡時の額を計算すれば、三五〇一万八四九六円となる。
(3) Cの慰藉料
Cは、小学校に入学して三か月というわずかな期間しか学校生活を体験することができず、希望に満ちた人生のほとんどを失った無念は筆舌に尽くしがたいものであり、Cの慰藉料としては二五〇〇万円が相当というべきである。
(4) 原告ら固有の慰藉料
原告らは、婚姻してから五年間もの苦しい不妊治療を経て、原告X2が四五歳という高齢に達してから、自然な妊娠に恵まれ、一人娘のCを授かり、宝物としてCを育てていた。そのCを失った原告らの苦痛は甚大であり、その苦痛を慰藉するための慰藉料は原告らそれぞれにつき五〇〇万円が相当である。
(5) Cの死亡による原告らの相続
本件事故によってCに生じた損害は、逸失利益と慰藉料を合計して六〇〇一万八四九六円となる。原告らはCの両親であって、Cの死亡により、その損害賠償債権をそれぞれ二分の一の割合で(三〇〇〇万九二四八円ずつ)相続した。
したがって、これに葬儀費用及び固有の慰藉料を加算した原告らの損害は、各三七〇〇万九二四八円となる。
(6) 弁護士費用
弁護士費用は、原告らそれぞれにつき、上記損害額約一割の各三七〇万円が相当である。
(7) 以上を合計すると、原告らの損害額合計はそれぞれ四〇七〇万九二四八円である。
九 まとめ
よって、原告らは、被告京都市に対しては国家賠償法一条一項又は二条一項に基づき、被告京都府に対しては同法三条に基づき、それぞれ、前記八の損害及びこれに対する本件事故当日(平成二四年七月三〇日)から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
【請求原因に対する被告らの認否】
一 請求原因一ないし三の事実は認める。
二 同四のうち、自由遊泳前に休憩時間がなかったとする点、本件事故の発生時刻が午後一時四〇分ないし四五分頃であるとの点は否認し、本件事故直前にCと知り合いの児童とが手をつないでいたがビート板が二人に当たって手が離れてしまったという点は知らず、その余の事実は認める。
本件プール学習においては、午後一時四〇分頃から午後一時四五分頃まで休憩時間がとられていた。したがって、Cが溺れたのは、休憩時間が終了した午後一時四五分頃より後のことである。
三 同五の事実は認める。
四 同六の主張は争う。
本件事故当時の本件プールの水深には重大な課題があるが、本件プールの管理に瑕疵があったとまではいえない。危険防止措置を講じなかった点についても同様である。
五 同七の主張は争う。
水深に関する情報管理や教員の監視体制のあり方には重大な課題があるが、これらが、プール水深の事前確認・情報共有義務、プールの水深調整義務又は監視義務に反するものとして違法であるとまではいえない。また、各教員は、当時の状況においてできる限りの対応をしたのであって、救護措置に関する過失はないというべきである。
六 同八は争う。
葬儀費用については、損害額として認められるのは、通常一三〇万円から一七〇万円程度である。
逸失利益について原告らは、男女計の賃金を用いて算定する一方で、生活費控除率を女性の場合の「〇・三」としており、一貫していない。
【被告らの抗弁(損益相殺)】
原告らは、本件事故を理由に、独立行政法人日本スポーツ振興センターから死亡見舞金として二八〇〇万円を受領したから、原告らの損害から同額が損益相殺されるべきである。
【抗弁に対する認否】
争う。
理由
第一事実経過について
請求原因一ないし三の事実、同四のうち休憩時間、本件事故発生時刻及び本件事故直前のCの状況を除く事実、同五の事実はいずれも当事者間に争いがなく、これら争いのない事実に、証拠<省略>によれば、次の事実が認められる。
一 本件プール、AED等の位置関係
(1) 本件プールは、a小学校の敷地の南端に位置しており、敷地北辺と西辺に沿って建築された「へ」の字形に立つ校舎及び体育館とは離れている。また、校舎の南端は渡り廊下を隔てて体育館と繋がっている。本件プールの西側出入口から校舎内の職員室までの距離は約五五メートルである。
(2) a小学校には、体育館の中にa小学校が設置したAEDがあり、また、体育館の西横にある消防倉庫の外壁にも消防分団が設置したAEDがある。消防倉庫外壁のAEDについては、常時施錠されており、暗証番号を入力するか、または鍵を差し込むことによって解錠できたが、鍵は消防分団が管理していたためにa小学校内にはなかった。a小学校の教職員で暗証番号を知っていたのは、D校長とE教頭だけであった。消防倉庫外壁のAEDから職員室までの距離は約二六メートル、本件プールまでの距離は約五二メートルである。
二 a小学校におけるプール学習の概要
(1) a小学校における平成二四年度のプール授業は、平成二四年六月一八日に体育の授業として開始された。
同年七月一七日には、夏休み前の最後のプール授業が行われ、その後、夏休みに入った同月二三日から同月三〇日(本件事故日)にかけては、自由参加の夏季プール学習が行われたほか、高学年の児童のうち二五メートルを泳げない者を対象とした「b教室」や、同月三〇日に京都市右京区所在のc施設で開催予定であった六年生の水泳記録会のための練習(以下「水泳記録会練習」という。)が行われた。
同年の夏休み中の本件プールの使用状況とそれぞれの参加児童数は次の表のとおりである。
(2) a小学校では、平成二四年五月一七日、プール学習の開始に先んじて、水泳指導の活動内容や指導体制に関して本件要項が作成されたが、そこでは監視体制について何ら規定されておらず、「9.要注意児童について 必ず一人つき、三人体制で行う」との記載があっただけであった。また、夏季プール学習については活動内容も定められておらず、単に「三人体制で当番する。割り当ては別途」という記載があるだけであった。
日付
b教室
(10時~11時)
午前の部
(11時~正午)
午後の部
(13時~14時)
午後の部終了後
(14時~15時)
内容
7月23日(月)
13人
低学年105人
高学年61人
水泳記録会練習
7月24日(火)
13人
低学年105人
高学年59人
なし
7月25日(水)
11人
低学年109人
高学年60人
水泳記録会練習
7月26日(木)
8人
低学年103人
高学年48人
水泳記録会練習
7月27日(金)
参加者なし
低学年56人
高学年67人
水泳記録会練習
7月28日(土)
なし
なし
なし
なし
7月29日(日)
なし
なし
なし
なし
7月30日(月)
参加者なし
高学年33人
低学年69人
―
(3) a小学校では、平成二四年六月二一日、職員会議において「要配慮児童」及び「要注意児童」が周知されたが、これらの「要配慮児童」及び「要注意児童」は、基本的に、保護者から水泳指導について配慮や注意を求める申出があった児童を振り分けたものにすぎず、そのような申出のなかったCは、「要配慮児童」にも「要注意児童」にも含まれていなかった。
(4) a小学校では、本件要項以外に、夏季プール学習の内容や監視体制について共通の指針が示されたことはない。
(5) a小学校では、通常のプール授業において毎年検定を行っており、教員らは、これを通じて個々の児童の泳力を把握していた。
三 a小学校における水深の管理
(1) a小学校では、低学年の授業の際には、本件プールの壁面に塗布されたコース分けの紺色のペイントラインと水位との位置関係を目視して、最深部が約九〇センチメートル、最浅部で約六〇センチメートルとなるように水深が設定されるのが通常であった。ただし、水深について明確なルールや基準が設けられていたわけではなく、本件要項にも水深に関する記載はなかった。また、プール学習を担当した教員は、「学校プール指導・管理日誌」を用いて連絡を行っていたが、ここでも水深はチェック項目として挙げられていなかった。
(2) Jは、平成二四年の通常のプール授業の際、受け持ちの児童が溺れかけたと保護者から連絡を受けたため、自らの判断で授業の際は水位を下げる措置をとったことがあった。他方で、教員の中には、何回か独断でプールの水位を上げた者もいたが、水位を上げたことについて他の教員に連絡をしたことはなかった。
I、Gほか複数の教員は、プールの水位を勝手に変更してはいけないと思っていたため、実際に変更したことはなかった。
四 本件プールへの注水
本件プールには、少なくとも、平成二四年七月二三日、二六日及び二七日の三回にわたって、水泳記録会練習で六年生の児童に飛び込みの練習をさせるため、午後の部が終わった時点で注水が行われた。同月二七日の最後の注水では、その一回だけで一〇センチメートルほど水位が上昇した。他方で、排水は一度も行われなかった。
その結果、本件事故当日の本件プールは、全体的に通常より約二〇センチメートル水深が深く、最深部で約一一〇センチメートル、最浅部でも約七八センチメートルの水深があった。
五 本件事故発生までの事実経過
(1) 本件プール学習開始前
担当三教員は、いずれも、本件プール学習が実際に始まるまで、水位を増減させたことはなく、また、平成二四年七月二七日に最後の注水が行われたことも知らされていなかった。
担当三教員は、この日の夏季プール学習について、全体指示を誰が出すかといった事前打ち合わせは行ったものの、児童をどのように監視するかについては事前に定めず、それぞれの判断に任せることとした。
なお、この日、本件プールには、コースロープは張られていなかった。
(2) 午後一時頃から午後一時一〇分頃まで
児童らは、水中での準備運動を行った。
この間、Iは、プールサイドにおいて、拡声器を用いて児童らに指示を出していたが、三人くらいの一年生の児童が、水深の浅い本件プール北側のへり沿いに固まっていたのを見つけ、前の週の活動時よりも水位が高いのかもしれないと思い、本件プールに入って児童らを介助していたHに対し、「水位はどうですか」と声をかけた。この声はHには聞こえなかったが、H自身も、本件プールの西側から一五メートル付近(水深約一〇二センチメートル)で児童らのあごが水面から出ていたのを見て、普段よりも水深が深いのではないかと感じ、付近にいた一年生の児童数人に対し、本件プール西側から一五メートルより東側には行かないように指示を行った。しかし、担当三教員が、本件プール学習中に一年生児童が本件プールの深い場所に行かないよう児童全体への指示や何らかの措置(ロープを張るとか、プール内のある位置に教員が立ち続けて監視する等)をとったわけではなく、後述(4)、(5)及び(7)の際は、一年生児童も深い場所を使ってプール学習を続けていた。
(3) 午後一時一〇分頃から午後一時二〇分頃まで
児童らは、二人一組になり、特定の姿勢で潜る練習を行った。
この間、Iは引き続きプールサイドで指示を出しており、Hは本件プールに入って育成学級の児童らをみていた。Gは、本件プールの塩素濃度を測っていた。この練習の際、一年生は本件プール西側の水深が最も浅くなる場所に集まって練習していたため、担当三教員は、水深に問題があるとは感じなかった。
Cは、隣に座っていた二年生の女子児童と組み、上記練習を行った。
(4) 午後一時二〇分頃から午後一時三〇分頃まで
全参加児童がプールサイドに沿って同じ方向に動き、プールに流れを作る遊び(「せんたくき」と呼ばれる。)を行った。
この間、Iはプールサイドにおいて、拡声器を用いて全体の指示を行っており、H及びGは、本件プールに入って児童らと一緒に動いていた。この際、Cを含む一年生の児童も、水深の深い本件プール東側まで動いて流れを作っていた。
(5) 午後一時三〇分頃から午後一時四〇分頃まで
児童四人が「おに」となって、本件プール内で他の児童を追いかける遊び(鬼ごっこ)を行った。この遊びは、「おに」に触られた児童から順次プールサイドに上がっていき、「おに」に触られていない児童が二、三人になるまで続けられた。
この間、担当三教員は、それぞれプールサイドに上がり、児童らの様子を見ていた。
(6) 午後一時四〇分頃から午後一時四五分頃まで
全ての児童がプールサイドに上がり、休憩時間をとった。
この間、担当三教員は、いずれも本件プールに入り、大型ロングビート板四枚、中型ロングビート板二枚、円形ビート板一〇枚を浮かべて、均等になるように調整した後、再びプールサイドに上がった。
これらのビート板は、児童らに遊具代わりに使わせる目的で浮かべられたものであり、大型ロングビート板は長さ二〇四センチメートル、幅一〇〇センチメートル、厚さ六・五センチメートル、中型ロングビート板は長さ一九四センチメートル、幅四六センチメートル、厚さ一・八センチメートル、円形ビート板は直径九八センチメートル、厚さ六・五センチメートルのものであり、水面上でビート板が占める合計面積は約一七・五平方メートルであった。これは本件プール全体の面積(約三〇〇平方メートル)の五・八パーセントを占めている。
(7) 午後一時四五分頃
児童らが一斉に本件プールに入り、自由遊泳が開始された。
自由遊泳の開始とともに、Hは、本件プールに入って一年生の育成学級の男子児童の介助を始めた。Gは、プールサイド南側中央部分のベンチから児童らを監視していたが、すぐにIと交代し、プールサイド北西角に落ちていたゴミをホースで放水して流し、その後、児童らに水をかけながらプールサイドの西側を一往復した。ほどなくしてJも本件プールを訪れ、出入口付近である北西辺りのプールサイドから、児童らの様子を見ていた。
Iは、プールサイド南側のベンチにいたところ、Cに本件プールの中から「遊ぼう」と声をかけられたため、本件プールに入り、本件プール南側中央部分においてCを持ち上げたり、水につけたりしてあげた。すると、周辺にいた他の児童が集まってきたため、Iは、それらの児童とも同様に持ち上げたり、水につけたりしてあげた。その後、Iは、自分の受け持ちである三年生の児童らが近付いてきて、児童らが行っていた追いかけっこに加わるよう誘われたため、Cらがいる本件プール南側中央を離れ、三年生の児童らの追いかけっこに加わった。
その後、Iは、三年生の児童らと追いかけたり追いかけられたりといった遊びを三回又は四回ほど繰り返し、本件プール南東から北方向へ向かって進んでいたところ、Iの位置から一・五メートルほど離れた本件プール中央北側で、顔を下にし、うつ伏せになって水中にCが浮遊しているのを見つけた。異常を察したIは、すぐにCを北側のプールサイドに引き上げた。Cが浮いていた場所の水深は約一〇〇センチメートルであった。
なお、Cが溺れる様子を見ていた者は、教員の中にも児童の中にもいない。
六 本件事故発生後の救護活動等
(1) プールサイドに引き上げられたCは、意識や自発呼吸がなく、心臓も停止していた。
Iは、とっさに左手で心臓マッサージを開始し、本件プール内にいたHを呼んだ。この声はHには届かなかったが、G及びJが異常を察知し、JがHの名を叫んだため、HもCのもとに駆けつけた。
(2) Hが間もなくIに代わって心臓マッサージと人工呼吸を行うと、Cの体に反応があり、口と鼻から大量の米粒等が嘔吐された。Hは、これらの嘔吐物を指でかき出そうとしたが、口の中にはまだ大量の嘔吐物が詰まっていた。このとき、Hは、誰かが「心臓が動いた」と言ったように聞こえたため、気道確保に集中すべく、その後は嘔吐物をかき出しながら人工呼吸を繰り返した。
(3) Jは、事態を把握すると、すぐに職員室に向かい、AEDを求めた。職員室にいたE教頭は、Jとともに、直ちに体育館横の消防倉庫外壁に設置されていたAEDを取りに向かったが、この際、職員室にいた他の教員に対して一一九番通報を指示するといったことはしなかった。
Jは、E教頭と消防倉庫外壁に向かったものの、E教頭がAEDを取り出し終わるのを待たず、先に本件プールに戻った。E教頭は、消防倉庫外壁のAEDを取り出した後、いったん職員室に戻り、そこにいた教員のK(以下「K」という。)にAEDを本件プールに持っていくよう指示し、その後自らも本件プールに向かった。
(4) Gは、Hが人工呼吸のためにCの口から嘔吐物をかき出しているのを見て、プールサイド南側のベンチに向かい、そこにあった救急セットからマウスピースを持ってきてHに渡した。それ以降、Hは、マウスピースを用いて人工呼吸を実施したが、Cの胸が動いているようには見えなかった。
(5) Iは、Hに心臓マッサージを引き継いだ後、Jの後を追って職員室へと向かった。Iは、JがAEDを取りに行ったのか、一一九番通報をしに行ったのかが分からなかったが、Jが体育館横に向かって走り出したのを見てAEDを取りに行こうとしているものと考え、自分は一一九番通報をすべく職員室に向かった。
Iが職員室に入り、一一九番通報をしたかどうかその場の教員らに尋ねると、職員室内の教員らは事態をよく飲み込めていなかったため、Iは、Cがプールで溺れた旨説明し、自ら受話器をとって一一九番通報を行った。この時点で、時刻は午後一時五二分であった。
Iに事態を説明され、職員室内にいた数名の教員は、本件プールへと向かったが、同じく職員室内にいたFは、対応するための人数は足りているものと思い、直接本件プールへと向かうのではなく、保健室に寄り、救急搬送の際に必要となる保健調査票等の書類と救急バッグを持ち出し、職員室に残った職員に対し、緊急連絡票のコピーとCの書類を一緒にしておくよう指示をしてから、自らも本件プールに向かった。
(6) Fが本件プールに到着すると、Hが人工呼吸を続けていたが、Cは、口から嘔吐物が見えており、呼吸もしていなかった。Fが到着するまでの間、Hやその場にいた他の教員らは、Cの気道を確保することに意識を奪われ、既にKが持ってきていたAEDを使用していなかった。
Fは、Cに呼吸がないことを確認すると、自らもCの左側に膝をついて心臓マッサージを行ったが、AEDがCの横に置いてあることに気が付き、AEDによる除細動(電気ショック)を試みるためにCをプールサイドの北西角に移動させて水着をはだけさせ、タオルで胸を拭いてAEDのパッドを装着したが、解析結果は「(電気ショックは)必要ありません」というものであった。そのため、Fは、心臓マッサージを再開することとした。
(7) Fが心臓マッサージを再開した後、警察官が本件プールに臨場したため、Fは警察官に心臓マッサージを引き継いだ。この時点で、時刻は午後一時五七分であった。
Fは、警察官から「溺れてから何分ぐらい経っているか」と尋ねられ、これに対して「一〇分…いや、一〇分は経っていないと思う」と答えた。
(8) 午後一時五八分頃、救急車がa小学校に到着し、救急隊員と警察官とが交替でCの救命措置にあたったが、Cの心拍は戻らなかった。
その後、Cの受け入れ先が京都第二赤十字病院に決まり、午後二時一二分頃、Cを乗せた救急車がa小学校を出発した。
Cは、京都第二赤十字病院に搬送された後、心拍こそ一時的に回復したものの、自発呼吸や意識は一度も回復しないまま、平成二四年七月三一日午後五時一八分頃、医師により死亡が確認された。
第二休憩時間の有無及び本件事故発生時刻について
一 上記認定に対し、原告らは、本件プール学習において、午後一時四〇分から午後一時四五分の間に休憩時間がなかったと主張する。
確かに、証拠<省略>によれば、本件プール学習に参加した児童のうち一部が「休憩はなかった。ずっと入りっぱなしだった」と話した事実が認められるが、そのことのみをもって、直ちに休憩時間がなかったと認定することは困難である
二 まず、学校側が教員からの聴き取り調査の結果作成した平成二四年八月一七日付け報告書には、本件プール学習では午後一時四〇分から四五分まで五分間休憩がとられた旨の記載がある。
また、HやGが作成した記録には、休憩をとったという直接的な記載はないものの、鬼ごっこが終了した時点でいったん児童を全員プールサイドに上げた旨の記載はある。鬼ごっこ終了時には大部分の児童がプールサイドに上がっており、鬼ごっこと自由遊泳の間に休憩時間をとることは自然なことのように思われるし、一時間のプール学習中、一度も休憩時間がとられず児童が全員プールに入りっぱなしであったという状況はむしろ不自然なことのように思われる。
三 休憩時間に関する限り、学校側や教員が作成した証拠を無視した事実認定が適切とは考え難く、本件プール学習においては、上記認定のとおり、午後一時四〇分頃から午後一時四五分頃までの間、児童をプールサイドで休ませるための時間がとられていたと認定するのが相当であって、Cが溺れたのは、自由遊泳が始まった午後一時四五分頃より後ということになる。
第三本件事故の発生状況について
一 前記認定事実に照らせば、Iが水中に浮遊するCを見つけてプールサイドに引き上げた時点で、既にCには自発呼吸はなく、心臓も停止していたものと認められる。
二 Cが溺れる様子を見た者は誰もいないが、証拠<省略>によれば、a小学校の教員は、本件事故の翌日(七月三一日)及び翌々日(八月一日)に、手分けして本件プール学習に参加した児童の家庭を訪問し、児童から事情を聴取したこと、そのうちCと知り合いの児童は、本件事故の翌々日、訪問してきた教員に対し、「Cはプールの深いところに足がつかないかもしれないから、つかないところは助けてあげようと手をつないでいたが、ビート板が当たったため、つないでいた手が離れてしまった。その後、沈んでいたCを見つけ、名前を知らない先生(I以外の教員)に知らせた」と話したことが認められる。
Iは、児童からCの異常を告げられて溺れたCを見つけたというわけではないので、この児童のいう「名前を知らない先生に知らせた」というのは、その先生に遠くの方から声をかけた(その先生が気付かなかった)というだけのことかもしれず、いずれにせよ、その意味は不明である。
しかし、背の低いCのため「手をつないでいたが、ビート板が当たったため、つないでいた手が離れた」という部分は、その意味がはっきりしているし、子供が二日前の出来事を思い出せる範囲で思い出して言葉にしたものと受け取って差支えがないと思われる。
三 そうすると、前記認定の事実関係と上記児童の話を総合すれば、本件事故の発生状況は次のとおりであったと推認するのが相当である。
(1) Cは、身長が一一三・五センチメートルしかなく、その泳力はプールの流れに乗って動いたり、足の届く場所で息を止めて水中に沈んだりすることはできたが、水に浮かんで息継ぎをしたり、泳法に従って泳いだりすることはできないという程度であった。
(2) Cは、自由遊泳開始後、自分よりも背の高い知り合いの児童と手をつないでおり、その児童は、Cが息ができない位深い場所に足を踏み入れたときはCを助けてあげようと思っていた。
(3) その後、ビート板がCとその児童に当たり、二人の手が離れた。その位置の水深は一〇〇センチメートル程度であり、Cは、つま先で底を蹴れば、自ら顔を上げて呼吸が可能であった。
(4) ところが、Cは、ビート板の下にもぐり込んでしまい、その児童はCを見つけることができなかったし、Cは、ビート板が邪魔をして、水から顔を上げて呼吸をすることができなかった。
(5) Cは、間もなく、水を気道に吸い込んで自発呼吸を止め、続いて心停止状態に陥った。
第四被告らの国家賠償法に基づく責任について
一 国家賠償法一条一項にいう「公権力の行使」には、公立小学校における教員の教育活動も含まれる(最高裁判所昭和六二年二月六日第二小法廷判決・民集一五〇号七五頁参照)。
本件事故は、夏季プール学習中に生じたものであるが、夏季プール学習は、a小学校の児童を対象とし、水泳指導の一環として、担当三教員の指導、監督の下で行われた教育活動であるから、ここでの指導監督は国家賠償法一条一項にいう「公権力の行使」に該当する。
そして、前記第一に認定の事実、第三に認定の事故発生状況に照らせば、本件事故は、自由遊泳時間中の児童の動静を監視すべき注意義務を怠った担当三教員の過失によって引き起こされたということができるから、被告京都市は国家賠償法一条に基づき、被告京都府は同法三条に基づき、後記第五に認定の損害を賠償する責任を負う。
以下、過失に関して敷衍して説示を行う。
二 証拠<省略>によれば、平成二四年度における京都市立小学校に在籍する低学年の児童の平均身長と肩の高さは、次の表のとおりであったと認められる。
小学一年生
小学二年生
小学三年生
男子
女子
男子
女子
男子
女子
平均身長
一一六・五
一一五・四
一二二・四
一二一・四
一二八・三
一二七・三
肩の高さ
九一
九一
九七
九六
一〇三
一〇二
(単位はセンチメートル)
三 上記のとおりの小学一ないし三年生の体の大きさと本件プール学習時の最大水深(一一〇センチメートル)及び最小水深(七八メートル)からみて、本件プール学習時、本件プールは、西側三分の一程度の範囲を除き、小学一年生の大半の児童にとって呼吸のしづらい状況にあったということができる。
a小学校では、低学年児童のプール学習の際は、児童の体の大きさを考えて、本件プールの水深を最深部で約九〇センチメートル(最浅部で約六〇センチメートル)とするのが通常であったというのも、その程度の水深であれば、全ての児童がプールに立って顔を水面から出せるからであろうと思われる。
四 最深部水深が一一〇センチメートルの本件プールというのは、大半の小学一年生にとって、プールの半分以上が肩より深いという状況であるが、このようなプールで小学一年生の水泳指導を行うことそれ自体が違法であるというのは、もちろん行き過ぎである。
そのような場合でも、踏み台を敷き詰めて一部のコースを浅くし、その範囲をコースロープで区切って児童が外に出ないよう注意喚起をすれば、低学年児童に対しても安全な水泳指導が可能となる。そういう工夫は、多くのスイミングスクールや公設のプールでしばしば行われていることである。
a小学校には水深を浅くするための踏み台がなかったのかもしれないが、そうだとしても、本件プール西側三分の一程度の範囲は小学一年生にとっても危険ではなかったのであるから(小学一年生の潜る練習はその範囲で行われたものと思われる。)、小学一年生の児童がその範囲から出ないような工夫をすれば良く、例えば、工夫してコースロープを区切りに用いたり、常時一人の教員が境界標識代わりにプールに立って区切りから出る児童を見張るなどし、かつ、西側三分の一の範囲から出ないよう小学一年生に周知徹底すれば良かったのである。
特に、自由遊泳となると、小学一年生から三年生まで六九名の児童が入り乱れて本件プールのあらゆる場所に足を踏み入れることになるから、上記のような区分措置をとる必要性が高かったと思われる。
しかし、本件プール学習の自由遊泳の際は、小学一年生の遊泳範囲を限定する措置がとられることなく、六九名の児童が本件プール全域に入り乱れる状況の下、自由遊泳が開始されたのである。
五 最深部水深が一一〇センチメートルの状況で、上記のような区分措置もとられないまま、六九名の児童を自由遊泳させるというのであれば、ここで最も重要となるのは、担当三教員全員が、それぞれ異なる角度から本件プール全体を見渡せる位置を取り、すべての児童の動静に満遍なく気を配り、動きに異変のある児童を見落とすことがないよう監視することである。
低学年児童が立っても顔を水面から出せないプールは、児童の生命に及ぼす危険度が高いから、要求される監視義務も相応に厳しいものになるのは当然であろうと思われる。
六 ところが、担当三教員は、上記のような監視義務を尽くしていない。
まず、巨大なビート板を一六枚も本件プールに浮かべているが、このようなビート板は、下部に潜り込む児童を監視者の視野から隠すもので、非常に危険である。担当三教員は、自ら監視が困難な状況を作出したといわなければならない。
次に、担当三教員は、二人が本件プールに入って特定の児童と遊んでおり、一人が水道につないだホースでプールサイドを掃除したり本件プール内の児童に水をかけており、三人とも本件プール内の動静監視をしていないのである。
担当三教員の上記のような監視状況は、やはり、油断に満ちたものであったといわなければならない。本件では、担当三教員の監視義務の懈怠は明らかである。
もし、巨大なビート板で監視困難な状況を作出せず、かつ、担当三教員の三名ともが本件プール内の動静注視を怠っていなければ、本件事故が発生することはなかったものと認めて差支えがないから、被告らは、国家賠償法に基づく賠償責任を負うのである。
七 救護上の過失について
(1) AEDについて
Cの心停止の原因は、呼吸停止に伴って心臓への酸素供給が途絶えたことであろうと考えられる。つまり、Cの心停止は、自発呼吸はあるが心室細動のため心拍が停止した状態ではない。したがって、Cの心停止に対し、AEDは有効な救命手段ではなかったのであり、この点は、本件事故直後に使用されたAEDが「必要ありません」と表示したことからも明らかなことと思われる。
したがって、AEDに関するa小学校の教員の対応に関して過失を論じることは困難である。
(2) 心肺蘇生法(CPR)等について
a小学校の教員らによる心肺蘇生法についてみると、教員らの人工呼吸と心臓マッサージでは心肺が蘇生しなかったし、救急隊が到着してからも同様である。人工呼吸で肺に空気が到達しているかどうかは胸郭の動きから分かるであろうが、Cの胸郭が人工呼吸で動いていたことをうかがわせる証拠は見当たらない。むしろ、証拠<省略>には、胸が「動いているようには見えなかった」というGの供述が記録されているのであって、Cがプールサイドに引き上げられた後の経過に照らせば、教員らの心肺蘇生法は功を奏していないと考えられる。その理由として、嘔吐物による気道閉塞への対応が良くなかったのではないかとの疑いがある。
甲第六号証(独立行政法人日本スポーツ振興センター作成の学校教員向け「学校における水泳事故防止必携・新訂二版」)一一一頁以下には、人工呼吸の方法が記載されているが、嘔吐物にどう対応するのかが詳しく記載されているわけではない。この書籍には、気道の異物に関して「気道の異物を除去するハイムリック法(胸部圧迫法)は行わない」(一一二頁)、嘔吐物に関して「溺水者の口を横に向けて口の内容物が流れ出やすくする。吸引装置があれば口腔内の吸引を十分に行う」(一一五頁)という簡単な記載があるだけで、嘔吐物による気道閉塞に対し、教員らがどのような行動をとるべきかが明確にされていない。甲第六号証以外には、人工呼吸に関する知見を知るための証拠は見当たらない。結局、嘔吐物がある場合に、どのような方法で気道を確保するのかという点、そして、その方法をとることがプールサイドの教員に咄嗟に要求されることなのかという点に関し、本件の証拠又は経験則から有用な知見を見出すことができなかった。
嘔吐物による気道閉塞への対応を除けば、教員らによる心肺蘇生法や一一九番通報は、出来る限りのことを、特に遅れることなく行ったように見える。
以上のとおりであるから、a小学校の教員らについて、救護上の過失を論じることは困難である。
八 学校管理者の過失について
本件事故の直接的な原因は担当三教員の監視義務懈怠であるが、前記認定事実から容易にうかがえるとおり、本件事故当時のa小学校では、もともと、水泳指導を安全に行うための心構えや情報が教員全員の間で共有されていなかったのであり、どの教員でも担当三教員と同様の油断に陥る危険があったと思われる。その意味では、水泳指導を安全に行うための学校管理者側の教員に対する指導体制に問題があったということもできる。
しかし、国家賠償法上の地方公共団体の賠償義務を考える上では、担当三教員の監視義務懈怠を認定すれば足りるのであるから、それ以上に、学校管理者の教員に対する指導体制の在り方にまで立ち入る形で、水深をどのように管理すべきであるとか、巨大なビート板はどのように使用すべきであるとか、水泳指導を安全に行うための方策について論じることは、裁判を行う上で必要とはいえない。したがって、a小学校の学校管理者の過失を論じることは差し控えるのが相当と思料される。
第五損害について
一 損害認定に関連する認定事実
証拠<省略>によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告らは、平成六年ころ交際を開始した。その当時、原告X2は、東京の会社に勤務しており、原告X1は、鍼灸師の専門学校に通っていた。
原告らは、長い交際を経て平成一二年一二月に婚姻した。原告X2は、婚姻当時既に四〇歳であり、婚姻後間もなく自然に懐妊したが、妊娠初期の段階で流産した。原告X2は、どうしても夫婦の間に子供が欲しかったので、自分の年齢も考え、不妊治療を始めた。
(2) 原告X2は、その後四年以上の期間、体外受精を二〇回も受け、その都度、排卵誘発剤を投与され、卵を取り出されるという肉体的な痛みを味わったが、一度も懐妊することがなかった。そのため、原告X2は、期待しては挫折するということを繰り返して精神的にも苦悩を続けた。
(3) 原告X2は、平成一六年六月、京都での仕事の誘いがあったので、京都市に転居した。原告X1は、東京都内で鍼灸院を開業していたので、月一回、鍼灸院を閉めて数日間京都に滞在するという生活をするようになった。
(4) 原告X2は、京都に転居した後、驚いたことに自然にCを懐妊し、平成一八年○月○日にCを分娩した。
原告らは、Cが自然に生まれてきたことを奇跡のように感じており、Cのことを、文字通り宝物と思って大切に育てていた。原告X1は、Cが、少し大きくなると、鍼灸院を月半分くらいは閉め、毎月二週間ほども京都で過ごしていた。Cは、原告らの愛情を受けて心身とも健康に育っていた。
(5) ところで、原告らは、本件事故後、精神的に取り乱した状態にありながらも、取り敢えずは急いでCの葬儀の段取りをしなければならない状況に置かれた。原告らは、どこの葬儀業者に頼んで良いのかも分からなかったので、京都府下鴨警察署の警察官から紹介された葬儀業者にCの葬儀を依頼した。
(6) Cの葬儀は、仏式によらない献花方式で、会場や祭壇もごく普通のものであり、全体として、ごく質素なものであった。ところが、その葬儀業者からは四〇〇万円以上の葬儀費用の請求があった。
原告らは、業者の請求額が余りにも高いので困惑し値下げ交渉したが、四〇〇万円までしか値下げをしてもらえなかった。原告らは、仕方なく四〇〇万円もの葬儀費用を支払った。
(7) 原告X1は、本件事故後は毎月二週間も京都に滞在することがなくなったものの、毎月、何日か京都に滞在し、原告X2との夫婦としての協力扶助関係を続けている。
原告X2は、京都に転居後、臨床心理士の資格を取るためにd大学で勉強しながら病院で非常勤の仕事をしており、平成二六年四月以降、e病院にて、正式に、臨床心理士として就職することになっている。
(8) 被告京都市は、京都市立の学校又は保育所の生徒・児童・乳幼児が被災した場合に備え、独立行政法人日本スポーツ振興センターとの間で災害共済給付契約を締結していた。
同契約約款二条は、生徒・児童・乳幼児の被災に関して被告京都市が損害賠償責任を負う場合、同独立行政法人が災害共済給付を行った限度で、被告京都市が損害賠償責任を免れる旨の条項(免責特約)である。
同独立行政法人は、平成二四年一二月一七日、本件事故を原因として、原告らに災害共済給付金二八〇〇万円を支払った。
二 Cに生じた損害 四七〇一万五八五四円
(1) 逸失利益
証拠<省略>によれば、平成二三年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・男女計の全年齢平均賃金(年額)は四七〇万九三〇〇円であることが認められる。
Cは、健康な児童であったから、本件事故に遭わなければ、一八歳から六七歳までの四九年間にわたり、毎年、上記平均賃金相当の年収を得ることができたものと推認するのが妥当である。
そこで、Cが本件事故によって失った上記四九年分の年収から、C自身の生活費として年収の四割を控除し、さらに、ライプニッツ係数(六〇年間のライプニッツ係数から一一年間のライプニッツ係数を控除した一〇・六二二九)を用いて中間利息を控除し、Cの逸失利益の死亡時の額を計算すれば、三〇〇一万五八五四円となる。
(2) Cの慰藉料
人の生涯の大部分を失い、わずか六歳五か月で人生を終えたCの無念を慰藉するための慰藉料の額については、これを一七〇〇万円と認定するのが相当である。
(3) 原告らは、Cの被告らに対する損害賠償債権を二分の一ずつ相続した(原告ら各二三五〇万七九二七円)。
三 原告ら固有の慰藉料 六〇〇万円
(原告ら各三〇〇万円)
Cは、原告X2が四五歳、原告X1が三二歳のときに授かった子供であり、原告らの生き甲斐の全てと言っても良い存在であったであろうから、本件事故が原告らに及ぼした衝撃は凄まじいものであったと思われる。その衝撃が原告らにもたらした苦痛を慰藉するための、原告らに固有の慰藉料については、これを各三〇〇万円と認定するのが相当である。
四 原告らに生じた葬儀費用の負担 二〇〇万円
(原告ら各一〇〇万円)
原告らが支払った葬儀費用は、その内容に照らすと一般的な金額よりも相当高額なものと認められる一方、原告らは、ことさらに高額な葬儀を行ったわけではなく、警察官から紹介を受けた業者の請求に応じた金額を支払ったにすぎないことなどをも考慮すると、上記費用のうち二〇〇万円(原告ら各一〇〇万円)をもって賠償義務のある損害(本件事故と相当因果関係のある損害)と認めるのが相当である。
五 損益相殺 ▲二八〇〇万円
(原告ら各▲一四〇〇万円)
独立行政法人日本スポーツ振興センター法三一条は、免責特約が付された災害共済給付契約に基づく給付がされた場合、学校設置者は、給付の限度で損害賠償責任を免れる旨を定めているから、上記認定の二八〇〇万円の限度で、原告らの被告らに対する損害賠償債権は消滅する。
六 弁護士費用 二七〇万円
(原告ら各一三五万円)
弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事故による損害の賠償を求めるため、原告ら訴訟代理人弁護士に有償で訴訟委任し、本件訴訟の提起及び追行をした事実が認められるところ、本件事故と因果関係に立つ弁護士費用の額は二七〇万円(原告らそれぞれにつき各一三五万円)と認めるのが相当である。
七 合計
上記二ないし六の損害及び損益相殺を加算減算すると、原告らの被告らに対する損害賠償債権の残額は、一四八五万七九二七円ずつとなる。
第六結論
よって、本件請求は主文一項及び二項の限度で理由があるからその限度で認容し、その余は失当であるから棄却することとして、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行宣言につき同法二五九条を適用し、仮執行免脱宣言は相当でないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 橋詰均 裁判官 川淵健司 合田顕宏)