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京都地方裁判所 平成24年(ワ)3675号 判決 2014年7月01日

①事件原告兼②事件原告

①事件被告

Y1

②事件被告

有限会社Y2

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、二二二万二〇八二円及び平成一九年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して、二四三八万一四七三円及び平成一九年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号機による交通整理の行われている交差点において、同交差点を東から西に向かい直進走行した被告会社所有、被告Y1運転にかかる四輪自動車と、同交差点を西から南に向かい右折進行した原告運転にかかる原動機付自転車が衝突した事故(後記本件事故)につき、原告が、被告らに対し、被告Y1につき民法七〇九条及び自賠法三条、被告会社につき民法七一五条及び自賠法三条に基づき、損害賠償並びにこれに対する本件事故日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

一  前提事実(以下の事実は、当事者間に争いがないか、あるいは末尾掲記の証拠等により容易に認定できる。)

(1)  本件事故(甲一、二、乙三)

発生日時 平成一九年一一月一一日 午後一〇時一〇分ころ

発生場所 京都市伏見区向島二ノ丸町一五一番地八一先交差点

(以下「本件交差点」という。)

関係車両(1) 事業用普通乗用自動車(ナンバー<省略>)

運転者 被告Y1

所有者 被告会社

(以下「被告車」という。)

関係車両(2) 自家用原動機付自転車(ナンバー<省略>)

運転者 原告

(以下「原告車」という。)

態様 本件交差点を東から西に向かい直進走行した被告車と、同交差点を西から南に向かい右折進行した原告車が衝突した。

(2)  責任原因

被告Y1には、被告車を運転して本件交差点に進入するにあたり、前方を注視して進行すべき過失がありながら、これを怠った過失があり、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、原告が本件事故によって負った損害を賠償する責任がある(弁論の全趣旨)。

被告会社は、被告車の所有者であり、本件事故当時、被告Y1の使用者であったから、民法七一五条及び自賠法三条に基づき、原告が本件事故によって負った損害を賠償する責任がある。

(3)  原告の傷害

原告は、本件事故により、右大腿骨骨頭脱臼骨折の傷害を負い、医療法人a会b病院にて、平成一九年一一月一二日から同年一二月三〇日まで入院、平成二〇年一月七日から平成二一年一月二八日まで通院(実通院日数一一一日)治療を受け、同日、症状固定との診断を受けた(甲四の一、甲五)。

原告は、自賠責保険に対する後遺障害事前認定の結果、平成二二年三月三日付けで、右下肢の疼痛・しびれ感につき局部に頑固な神経症状を残すものとして自賠責施行令別表第二第一二級(以下、等級のみで記す。)、右股関節の機能障害につき一二級、併合一一級の認定を受けた(甲一三)。

二  争点

(1)  本件事故態様及び過失相殺の有無・程度

(2)  原告の損害

三  争点に対する当事者の主張

(1)  争点(1)(本件事故態様及び過失相殺の有無・程度)について

(原告の主張)

ア 事故態様

原告は、配送先に向かうべく、本件交差点を西から南に右折して進行する予定で、時速三五kmで原告車を走行させていた。

原告は、本件交差点の手前約五〇m(別紙一のア地点)で、右折の方向指示器を点灯させ、右後方の安全を確認しながら道路中央寄りに進路変更を開始した。このとき、原告は対面信号(同file_5.jpg二)が青色であることを確認している。

原告は、同イ地点で進路変更を終えた後、同ウ地点付近で、同file_6.jpg二が青色から黄色に変わるのを確認した。また、原告は、その際に、遠くで対向車線を進行してくる被告車の前照灯を発見した。

原告は、同ウ地点を過ぎたあたりで、ここで急ブレーキをかけても本件交差点を右折するときには同file_7.jpg二が黄色から赤色になり、本件交差点内で停止する状態となって走行車両の通行妨害になると判断し、時速二〇kmに減速して本件交差点に進入した。

このように、原告は、同file_8.jpg二が黄色で本件交差点に進入し、同エ地点でハンドルを右に切って右折を開始したところ、同オ地点で対向車線を進行してくる被告車を発見し、危険を感じ、ハンドルを左に切って衝突を回避しようとしたが間に合わず、同カ地点で原告車右側前部に被告車右前部が衝突した。

イ 過失割合

上記のような事故態様によれば、原告に過失はなく、本件事故は、被告が、赤色信号を無視して本件交差点に進入した上、対面信号ではなく歩行者用信号を確認しようと脇見運転をしたため、対向車線で黄色信号にしたがって右折を開始していた原告車を見過ごしたまま進行したことにより発生したものであって、被告の全面的な過失によるものである。

(被告の主張)

ア 本件事故態様

被告は、本件交差点を東から西に直進しようと、時速約四〇kmで被告車を走行させていた。

被告は、別紙二の①地点で対面信号(同file_9.jpg二)が青色であることを確認し、同②地点で歩行者用信号(同file_10.jpg一)を見ると、青色から青色点滅になるところであったが、同③地点でも同file_11.jpg二は青色であった。

被告は、同③地点のとき、同ア地点で右折の方向指示器を点灯させた原告車を発見した。

被告が原告車を発見した直後、原告車は、右折を開始したかのように進路を右に向け、別紙二の太矢印の進路をたどった。

このため、被告は、原告車が、被告車の通過を待たず、被告車の前を通り過ぎて右折しようとしているものと思ったが、その後、原告は、進路を直進に戻し、まっすぐ東へ向けて走行し始めた。

このとき、被告車は同④地点であり、前方からまっすぐ向かってくる原告車を見て驚き、危険を感じ、ブレーキを掛け、ハンドルを左にきったが間に合わず、衝突した。

イ 過失割合

上記のような事故態様によれば、原告には少なくとも七割の過失がある。

(2)  争点(2)(原告の損害)について

(原告の主張)

ア 治療関係費 三〇〇万七六〇八円

本件事故後、平成二四年八月八日までに要した治療費

イ 入院付添看護費 三一万八五〇〇円

本件事故による傷害により、入院翌日からベッドに牽引され、右足に免荷重をはめており、身体の自由がきかず、入院期間四九日間を通じて、食事・排泄の世話、リハビリの手伝いにそれぞれ付添看護を要し、実際に原告の両親が原告の付添看護にあたった。

(計算式)

六五〇〇円×四九日=三一万八五〇〇円

ウ 通院付添看護費 五万九四〇〇円

原告は、退院後、平成二〇年二月末日までの一八日間の通院について、松葉杖を必要としており、自宅と病院との間を安全に行き来するためには、原告の両親のいずれかの介助が必要であった。

(計算式)

三三〇〇円×一八日=五万九四〇〇円

エ 入院雑費 七万三五〇〇円

(計算式)

一五〇〇円×四九日=七万三五〇〇円

オ 通院交通費 一三万六六二〇円

カ 将来の手術費 三八八万八〇〇〇円

原告には、本件事故による後遺障害につき、大腿骨骨頭壊死が生じる可能性が残存しており、将来的に人工関節置換術が必要になることもあり得る。

人工関節置換術を受けた場合、二一日間の入院期間を要し、その手術費に上記金額を要する見込みである。

キ 将来の入院付添看護費 一三万六五〇〇円

将来の手術のための入院期間二一日間を通じて、原告の両親のいずれかの付添看護を要する。

(計算式)

六五〇〇円×二一日=一三万六五〇〇円

ク 将来の入院雑費 三万一五〇〇円

(計算式)

一五〇〇円×二一日=三万一五〇〇円

ケ 文書料 五〇五〇円

コ 休業損害 二〇一万五四〇五円

原告は、本件事故当時、たこ焼き店でアルバイトとして稼働し、日額四五二九円の給与を得ていたが、本件事故の翌日である平成一九年一一月一二日の入院から症状固定日である平成二一年一月二八日まで、休業を余儀なくされた。

(計算式)

四五二九円×四四五日=二〇一万五四〇五円

サ 逸失利益 一二六九万四一〇六円

原告は、本件事故により一一級に相当する後遺障害を負い、労働能力の二〇%を喪失した。

原告は、症状固定時二九歳であり、労働能力喪失期間は三八年である。

原告は、短大卒であることから、基礎収入は、賃金センサス平成二二年女性短大卒全年齢平均の三七六万二八〇〇円によるべきである。

(計算式)

376万2800円×20%×16.8679=1269万4106円

シ 傷害慰謝料 三五〇万〇〇〇〇円

本件事故による原告の総治療期間は、症状固定日まで約一年二月、うち入院期間が四九日、通院実日数が一一一日である。この間、二度の手術を受け、右足に免荷重を装着され、ベッドに牽引された状態で、床ずれ、排便、食事に悩まされたほか、退院後も松葉杖での通院や日常生活には苦労があった。

また、入院期間としては、本来三か月程度が必要であったところ、家庭の都合で退院を早めてもらったにすぎない。

さらに、症状固定後も、原告は、症状悪化を防ぐための保存的治療を受けなければならない状態にある。

加えて、本件事故による衝撃、恐怖、苦痛は大きく、被告は原告に対し積極的な救助を行わなかった。

これらの事情に照らせば、傷害慰謝料が三五〇万円を下ることはない。

ス 後遺障害慰謝料 五五〇万〇〇〇〇円

原告は、本件事故による後遺障害により、日常生活の動作に支障をきたしており、従前のような仕事に就けないほか、家事には相当の制約が加わっており、趣味であったハイキング、登山、サイクリング等ができなくなった。

また、再脱臼の不安も常にあり、骨頭壊死の発生を防ぐための定期的な通院や検査、投薬などの処置や経過観察が必要である一方で、骨頭壊死が生じて人工関節置換術が必要となる危険及び不安も抱えている。

これらの事情に照らせば、後遺障害慰謝料は五五〇万円を下らない。

セ 損害の填補 ▲七四二万八四三二円

原告は、自賠責から三五五万円、労災から治療関係費等として三八七万八四三二円の支払を受けた。

ソ 弁護士費用 一五八万二二〇八円

タ 合計 二五五一万九九六五円

前記アないしスの合計からセを控除した残額に、ソを加えたもの。

ただし、原告の請求額は、このうち二四三八万一四七三円である。

(被告の主張)

ア 妥当な治療期間

原告の術後の治療は理学療法程度となっており、症状も自然経過を超えるものとはなっていない。股関節脱臼骨折は経過中に骨頭壊死を生じる可能性があるため、その経過観察期間を考慮しても、受傷後一、二年程度が妥当な治療期間である。

イ 休業相当期間

原告については、骨片は摘出されており、初期経過からも股関節自体の安定性には問題がない。骨頭壊死などの合併症を防ぐための安静期間としても、二か月の免荷後の安静は不要である。

したがって、一〇〇%の休業期間としては長く見ても数か月から半年程度が相当である。

ウ 将来の手術の必要性

受傷後四年の時点のMRIで骨頭壊死の所見は見られておらず、数年程度の予後で考えると人工関節などの手術を要する可能性は非常に低いと考えられる。

現時点で将来の手術の必要性を蓋然性をもって認めることができない以上、手術の必要を前提とする損害は認められない。

仮に、認められるとしても、健康保険で対処され、高額医療の対象となり、標準的な年収の場合、八万円程度が認められるにすぎないというべきである。

エ 後遺障害等級

股関節の機能障害が一二級に該当するとしても、右下肢の痺れについては、腰椎MRIで神経圧迫所見はなく、梨状筋症候群が疑われブロック注射が行われたものの効果がなかったことからすれば、一四級にこそなれ、一二級は認められない。

原告の後遺障害等級としては併合一二級にとどまるというべきである。

オ 既払金

原告は、被告側の任意保険会社から一八万七四六〇円の支払いを受けている。

また、原告は、労災から、診療費として二九一万三五一二円、療養費用として一四万〇六二〇円、休業補償給付として五九万六九四〇円、障害補償給付として二二万七三六〇円の支給を受けている。

カ この他、原告の主張する損害額は、すべて否認する。

第三争点に対する判断

一  争点(1)(本件事故態様及び過失相殺の有無・程度)について

(1)  前記前提事実及び掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。

被告は、客を降ろし終わり、c駅にあるタクシー待機場所に戻ろうと、被告車で、国道二四号線を北上し、向島緯一〇五号線との交差点(以下「手前の交差点」という。)を青信号で左折し、向島緯一〇五号線を西進して、本件交差点に至った(被告)。

手前の交差点の出口から本件交差点の入口までの距離は約一八〇m、本件交差点の中央までの距離は約一九〇mであり、被告車の速度は時速約四〇kmであった(甲一五の一、乙九、被告)。

被告は、本件交差点を直進する予定であったところ、別紙二の①地点で対面信号(同file_12.jpg二)が青色であることを認め、同②地点で歩行者用信号(同file_13.jpg一)が青色から青色点滅に変わったのを認めつつ、被告車を西進させ、停止線手前の同③地点に至った(甲二、乙九、被告)。

手前の交差点から本件交差点までの見通しは良く、被告は、手前の交差点を左折して間もなく、対向車両のあることを認識したが、同③地点に至り、同ア地点で右折の方向指示器を点灯させて進行中の原告車を明確に認識した(甲二、乙九、被告)

被告は、原告車を認め、やや速度を落としつつも、対面信号が青色であることを確認し、被告車を同③地点から本件交差点に進入させたところ、同④地点で、原告車が右折を開始して同イ地点に出てくるのを認め、危険を感じ、急ブレーキを掛け、ハンドルを左に切るも間に合わず、同file_14.jpg地点で被告車の右前側部と原告車の右前部が衝突した(甲二、乙九、被告)。

衝突後、被告車は同⑥地点に停止し、原告車は同ウ地点に転倒し、原告は原告車から投げ出され、路上に転倒した(甲二、一一)。

(2)  このように、本件事故は、原被告がともに青信号で本件交差点に進入し、本件交差点を直進した被告車と、本件交差点を右折しようとした原告車が衝突したものと認められる。

上記認定は、京都府公安委員会に対する調査嘱託の結果により認められる本件交差点の信号周期にも合致する。

すなわち、別紙二の②地点で歩行者用信号(同file_15.jpg一)が青色から青色点滅に変わり、被告車が時速四〇kmで走行すれば、一五・八m先の同③地点まで約一・四秒、三一m先の同④地点まで約二・八秒、四二・三m先の同⑤地点まで約三・八秒を要するが、歩行者用信号が青色から青色点滅に変わってからでも、対面信号(同file_16.jpg二)が青色から黄色に変わるまでには六秒あるから、被告車は青色信号で本件交差点に進入したことになる。

これに対し、原告は、手前の交差点を左折した時点で本件交差点の対面信号が青色であり、被告車が時速四〇kmで走行すれば、被告車が青色信号で本件交差点に進入することは不可能であると主張する。

しかし、被告が手前の交差点を左折した時点で本件交差点の対面信号が既に青色であったことを認めるに足る証拠はない。また、仮にそうであっても、手前の交差点から本件交差点の入口までは約一八〇mであり、時速四〇kmで走行すれば一六・二秒を要するが、対面信号の青色灯火時間は一七秒であるから、被告車は青色信号で本件交差点に進入できた計算になる。

(3)  上記認定に対し、原告は、別紙一のウ地点付近で対面信号(同file_17.jpg二)が青色から黄色に変わるのを確認し、時速二〇kmで、黄色信号のまま本件交差点に進入し、右折を開始した後に赤色信号に変わった旨主張し、対面信号が青色から黄色に変わるのを確認したのは同ウ地点より二mほど手前付近であった旨供述する。

しかし、かかる主張及び供述は、実況見分時に対面信号を確認した地点を同イ地点と指示説明していたところ(乙三)に反し、京都府公安委員会に対する調査嘱託により本件交差点の信号周期が明らかになって以降のものであって、にわかに信用できない。

そして、同イ地点で対面信号が青色から黄色に変わり、原告車が時速二〇kmで走行すれば、約四〇・三m先の本件交差点の入口(同キ地点付近)まで約七・二秒を要し、対面信号の黄色灯火時間は三秒であるから、原告車は既に赤色信号に変わった状態で本件交差点に進入した計算となり、黄色信号で本件交差点に進入したとの原告の主張と合致しない。

また、仮に、同ウ地点より二mほど手前で対面信号が青色から黄色に変わったとして、原告車が時速二〇kmで走行すれば、一一・三m先の本件交差点の入口(同キ地点付近)まで二秒を要し、対面信号の黄色灯火時間は三秒であるから、黄色信号で本件交差点に進入できる一方で、一六・五m先の同エ地点で右折を開始する地点まで二・九七秒を要し、右折とほぼ同時に対面信号が黄色から赤色に変わる計算となり、右折を開始した後に赤色信号に変わったとの原告の主張と合致しない。

したがって、前記認定に反する原告の主張は採用できない。

(4)  前記認定にかかる事故態様にかんがみ、原告と被告の過失について検討する。

被告には、本件交差点を直進するにあたり、本件交差点に入る手前で、対向車線に右折の方向指示器を点灯させて進行してくる原告車の存在を認識したのであるから、原告車が被告車の通過を待たずに右折を開始する可能性のあることを予見し、原告車の動向に注意を払うとともに、適切な速度で進行すべきでありながら、これを怠り、漫然と本件交差点を進行した過失が認められる。

他方、原告には、本件交差点を右折するにあたり、前記事故態様によれば、本件交差点に入る手前で、対向車線を走行する被告車の存在を認識し得たはずであるから、本件交差点において直進しようとする被告車の進行を妨害してはならないのに(道交法三七条)、これを怠り、漫然と右折を開始した過失が認められ、かかる過失は直進車優先の原則に反するものとして、被告の過失に比して重いと言わざるを得ない。

なお、原告は、被告には対面信号ではなく歩行者用信号を確認しようと脇見運転をした過失もあると主張するが、証拠(甲二、一六、乙九、被告)によれば、対面信号と歩行者用信号を同時に視界に入れて走行することは可能であり、被告も歩行者用信号により対面信号の変化を予想しながら走行していたものと認められ、このような被告の走行態度をもって脇見運転とは評価できない。

以上によれば、本件事故について原告と被告の過失割合は、原告七〇、被告三〇とみるのが相当である。

二  争点(2)(原告の損害)について

(1)  治療関係費 二九〇万五三三六円

証拠(乙二:八五、九一ないし一二一頁)によれば、本件事故後、症状固定日である平成二一年一月二八日までに要した治療費は二九〇万五三三六円(一点一二円計算)と認められる。

被告は、受傷後一、二年程度が妥当な治療期間であると主張し、証拠(乙六の一)中にはこれに沿う部分があるが、原告については、受傷後一年二か月余りで症状固定と診断されており、被告の主張によっても、上記症状固定日までの治療は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

なお、証拠(甲四の一・二、乙二、六の一)によれば、今後、大腿骨骨頭壊死や変形性股関節症が生じ、人工関節手術が必要になる可能性があり、定期的に通院して診察及び検査を受ける必要のあること、原告は現に症状固定後も定期的に通院して診察及び検査を受けていることが認められるものの、症状固定後の治療費については、後遺障害慰謝料の中で考慮するのが相当である。

(2)  入院付添看護費 三一万八五〇〇円

前記前提事実及び証拠(甲一二、乙一、原告)によれば、原告は、本件事故による傷害により、平成一九年一一月一二日から同年一二月三〇日まで四九日間の入院を余儀なくされたこと、その間、二度の手術を受け、術後はベッド上での介達牽引を要し、その後も松葉杖で歩行できるようになるまでリハビリを要したこと、そして、この間、食事や排泄等の身の回りの世話や、移動時の介助やリハビリの手伝い等に付添看護を要し、両親が少なくとも二日に一度は来て、付添看護にあたっていたことが認められる。

このような入院中の原告の状態にかんがみれば、入院付添看護の必要性が認められ、その費用は、入院期間を通じて一日六五〇〇円と認めるのが相当である。

(計算式)

六五〇〇円×四九日=三一万八五〇〇円

(3)  通院付添看護費 五万六一〇〇円

証拠(甲一一、乙二、原告)によれば、原告は、退院後も両松葉杖を必要とし、平成二〇年一月一六日から部分荷重歩行が可能となり、同月二八日より全荷重歩行が可能となって片松葉杖となったものの、同年二月二七日まで松葉杖を必要としたことが認められ、この間の同年一月七日から同年二月二七日までの一七日間の通院時には、母親による付添が必要であったことが認められる。

このような通院時の原告の状態にかんがみれば、通院付添看護の必要性が認められ、その費用は、上記一七日間の通院につき一日三三〇〇円と認めるのが相当である。

(計算式)

三三〇〇円×一七日=五万六一〇〇円

(4)  入院雑費 七万三五〇〇円

前記認定にかかる入院期間四九日を通じて、一日一五〇〇円の入院雑費を認める。

(計算式)

一五〇〇円×四九日=七万三五〇〇円

(5)  通院交通費 一三万六六二〇円

証拠(乙五)により、通院交通費として一三万六六二〇円を要したものと認める。

(6)  将来の手術費 〇円

先に認定したとおり、本件事故による後遺障害として、原告に大腿骨骨頭壊死や変形性股関節症が生じ、人工関節手術が必要になる可能性のあることが認められ、証拠(甲八)によれば、上記手術には約三週間の入院期間と、一〇割全額負担として、手術料を含む入院費用として約二三〇万円、入院前・術前検査として約五万円、食事療養費として約三万八〇〇〇円を要することが見込まれる。

もっとも、現時点で上記手術の蓋然性は具体化していないこと、将来上記手術を行う場合には健康保険で対処される可能性も高いことからすれば、現時点で損害が具体化しているとは言い難く、上記手術の可能性やその費用については、後遺障害慰謝料の中で考慮するのが相当であり、これとは別に将来の手術費を認めることはできない。

(7)  将来の入院付添看護費 〇円

将来の手術費についてと同様、後遺障害慰謝料の中で考慮するのが相当であり、これとは別に将来の入院付添看護費を認めることはできない。

(8)  将来の入院雑費 〇円

将来の手術費についてと同様、後遺障害慰謝料の中で考慮するのが相当であり、これとは別に将来の入院雑費を認めることはできない。

(9)  文書料 一万〇三〇〇円

証拠(乙四、五)によれば、本件事故と相当因果関係のある文書料は一万〇三〇〇円と認められる。

(10)  休業損害 二〇一万〇八七六円

証拠(乙二、原告)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、たこ焼き屋でアルバイトとして稼働し、日額四五二九円(平成一九年一〇月二日から同月三〇日までの日額平均)の給与を得ていたこと、仕事内容は調理・接客・配達にわたり、専ら立ち仕事であったこと、原告は本件事故による受傷により、本件事故の翌日である平成一九年一一月一二日の入院から症状置定日である平成二一年一月二八日までの四四四日間、休業を余儀なくされたことが認められる。

これに対し、被告は、骨片は摘出されており、股関節自体の安定性には問題がなく、骨頭壊死などの合併症を防ぐための安静期間としても二か月の免荷後の安静は不要であり、一〇〇%の休業期間としては長くても半年程度が相当であると主張し、証拠(乙六の一)中にはこれに沿う部分がある。

しかし、証拠(乙二、原告)によれば、原告は、仕事への復帰を目指し、リハビリに励むも、右下肢のしびれや疼痛が持続し、立ち仕事を専らとする上記仕事への復帰は困難であったことが認められ、上記被告の主張は採用できない。

以上によれば、休業損害は、下記計算式のとおりとなる。

(計算式)

四五二九円×四四四日=二〇一万〇八七六円

(11)  逸失利益 一二七三万五二六四円

ア 証拠(甲四の一・二、甲五、一三、乙一、二)によれば、原告は、本件事故による右大腿骨骨頭脱臼骨折に伴い、右股関節の可動域(屈曲九〇度、伸展〇度、外転三〇度、内転一〇度、内旋一〇度、外旋一〇度)が、健側の可動域(屈曲一二五度、伸展一五度、外転四五度、内転二〇度、内旋四五度、外旋四五度)の四分の三以下に制限されていること、また、原告は、本件事故後、一貫して右足の疼痛、しびれ感を訴えており、これは上記右大腿骨骨頭脱臼骨折に伴う右坐骨神経損傷による症状と捉えられることが認められる。

このような原告の右股関節の機能障害は、一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すものとして、一二級に該当し、右下肢の感覚障害は、局部に頑固な神経症状を残すものとして、一二級に該当し、両者を併合した結果、併合一一級に該当するものと認められる。

これに対し、被告は、右下肢のしびれにつき、腰椎MRIで神経圧迫所見なく、ブロック注射の効果もなかったことから、他覚所見のない神経症状として一四級にとどまると主張し、証拠(乙六の一)中にはこれに沿う部分がある。

しかし、証拠(乙二:三頁、二〇頁、二二頁)によれば、右梨状筋ブロックで痛みの改善が得られた場面もあること、右腓骨の神経伝達速度が低下していること、薬を中止すると右坐骨神経痛が悪化すること、坐骨神経剥離術が検討されていること、これらをもとに右坐骨神経損傷が疑われていることが認められ、上記被告の主張は採用できない。

イ 以上により、原告は、本件事故により併合一一級に相当する後遺障害を負い、労働能力の二〇%を喪失したものと認められる。

また、証拠(甲一)によれば、原告は、昭和五四年○月○日生まれの女性であることが認められ、平成二一年一月二八日の症状固定時二九歳であるから、労働能力喪失期間は三八年と認められ、これに対応するライプニッツ係数は一六・八六七九である。

さらに、証拠(甲一九)によれば、原告は短大卒であることが認められ、前記のとおり症状固定時二九歳と若年であることから、基礎収入は、症状固定時である平成二一年度の賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・女性労働者の短大卒・全年齢平均賃金三七七万五〇〇〇円によるべきである。

以上によれば、逸失利益は、下記計算式のとおりとなる。

(計算式)

377万5000円×20%×16.8679=1273万5264円(1円未満切り捨て、以下同じ。)

(12)  傷害慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

前記前提事実のとおり、本件事故により、原告は、症状固定まで一年二か月余りを要する傷害を負い、入院期間は四九日間、通院期間は一二か月と二〇日余り、実通院日数は一一一日を要したことが認められる。

そして、この間、二度の手術を受け、術後はベッド上での介達牽引により、食事や排泄等に介助を要し、その後も松葉杖で歩行できるようになるまでリハビリを余儀なくされ、日常生活に不便を強いられたことは、先に認定したとおりである。

これらの事情にかんがみれば、傷害慰謝料としては、二〇〇万円が相当である。

(13)  後遺障害慰謝料 五二〇万〇〇〇〇円

前記認定のとおり、原告には併合一一級に相当する後遺障害があり、証拠(甲一一、一二、原告)によれば、上記後遺障害により、階段の上り下り、長時間の歩行、同じ姿勢の維持等、日常生活にも支障があり、趣味であったハイキングや登山ができなくなったことが認められる。

また、前記認定のとおり、将来的に大腿骨骨頭壊死や変形性股関節症が生じ、人工関節手術が必要になる可能性があり、定期的に通院して診察及び検査を受ける必要があるほか、仮に手術が必要となった場合には相応の費用を要するところ、原告は、このような不安を抱えての生活を余儀なくされていることが認められる。

これらの事情にかんがみれば、後遺障害慰謝料としては、五二〇万円が相当である。

(14)  過失相殺

争点(1)で認定したとおり、七〇%の過失相殺が相当であるところ、前記(1)ないし(13)で認定した損害額に上記過失相殺を行った残額は、別紙損害一覧表の「過失相殺後の残額」欄記載のとおりとなる。

(15)  損害の填補後残額 二〇二万二〇八二円

ア 証拠(乙五)によれば、原告は、労災給付を受けており、その内訳は、診療費として二九一万三五一二円、療養の費用として一四万〇六二〇円、休業補償給付として五九万六九四〇円、障害補償給付として二二万七三六〇円であることが認められる。

イ 証拠(甲七、乙四)によれば、原告は、自賠責から三五五万円、被告側の任意保険会社から一八万七四六〇円の支払を受けていることが認められる。

ウ 上記労災給付のうち、診療費及び療養の費用にかかる三〇五万四一三二円は前記(1)ないし(9)の損害に填補し、休業補償給付及び障害補償給付にかかる八二万四三〇〇円は前記(10)及び(11)の損害に填補するのが相当である。

こうして労災給付を填補した残額は、別紙損害一覧表の「労災給付控除後の残額」欄記載のとおりとなり、その小計は、同欄の「小計」欄記載のとおりとなる。

この小計から、自賠責及び被告側の任意保険会社からの支払にかかる三七三万七四六〇円を控除した残額は、別紙損害一覧表の「既払金控除後残額」欄記載のとおりとなる。

(16)  弁護士費用 二〇万〇〇〇〇円

本件事案の概要、本件審理の経過、原告の請求認容額等にかんがみれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、二〇万円と認めるのが相当である。

(17)  合計 二二二万二〇八二円

以上によれば、本件事故により原告が被告に請求できる損害額は、前記損害の填補後残額に前記弁護士費用を加えた二二二万二〇八二円となる。

三  まとめ

よって、主文のとおり判断する。なお、仮執行免脱宣言は相当でないから、これを付さない。

(裁判官 上田賀代)

別紙一・二・損害一覧表<省略>

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