大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成25年(ワ)1365号 判決 2014年1月23日

京都市<以下省略>

原告

同訴訟代理人弁護士

加藤進一郎

壽彩子

東京都<以下省略>

被告

株式会社大雄

埼玉県<以下省略>

被告

Y1

東京都<以下省略>

被告

Y2

上記被告ら3名訴訟代理人弁護士

清水正明

住居所不明

(元就業先

東京都中央区<以下省略>)

被告

Y3

住居所不明

(元就業先

東京都中央区<以下省略>)

被告

Y4

主文

1  被告らは,原告に対し,連帯して253万2000円及びこれに対する平成23年10月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  この判決第1項は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文第1項と同じ。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,原告が,被告株式会社大雄(以下「被告会社」という。)の勧誘を受け,被告会社に合計230万2000円を支払って株式に関する取引をしたところ(本件取引),こうした取引は,(1) 被告会社が金融商品取引法の登録を受けていないにもかかわらず株式売買又はその取次ぎをしたものであって強行法規及び公序良俗に反し無効であるところ,これにより被告会社が原告の前記支払額を法律上の原因なく取得したほか,原告には弁護士費用相当額(23万円)の損害を生じたと主張し,また,(2) 株式売買を仮装しその購入資金名目で原告から金銭を騙し取ったものであって不法行為を構成するもので,これにより原告には前記支払額及び弁護士費用相当額(同)の損害を生じたと主張して,①被告会社に対しては,不当利得返還請求(前記支払額)及び不法行為に基づく損害賠償(弁護士費用分)として又は不法行為に基づく損害賠償(前記支払額分及び弁護士費用分)として,②本件当時の被告会社の代表取締役である被告Y1及び取締役である被告Y3,被告Y2並びに本件取引当初に取締役であった被告Y4に対しては(以下,それぞれを「被告Y1」,「被告Y3」,「被告Y2」,「被告Y4」という。),不法行為又は会社法429条1項に基づく損害賠償(前記支払額分及び弁護士費用分)として,被告らに対し,連帯して,前記損害等の合計額である252万2000円及びこれに対する被告の利得又は不法行為の終了した日である本件取引の最終取引日である平成23年10月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

被告会社,被告Y1及び被告Y2は,本件当時,被告会社が金融商品取引法29条に基づく登録を受けていなかったことは認めるものの,原告に確認しつつ株式売買をしたところ損失を生じたなどと主張し,本件取引が無効であり,また,不法行為を構成することはないとして,原告の請求を争う。

また,被告Y3及び被告Y4は,それぞれ,公示送達による呼び出しを受けたものの,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しない。

2  前提となる事実(それぞれ記載した証拠等により容易に認めることができる。)

(1)  原告は,昭和47年生まれの男性である。[弁論の全趣旨]

(2)  被告会社は,株式情報誌の出版,有価証券に関する投資顧問業,経営コンサルタント業などを目的として,昭和54年に設立された会社である。

[甲1の1。なお,被告会社,被告Y1及び被告Y2との関係では争いがない。]

(3)  被告Y1は,遅くとも平成18年10月5日以降,現在まで,被告会社の代表取締役の地位にある。

被告Y3は,遅くとも平成18年10月5日以降,現在まで,被告会社の取締役の地位にある。

被告Y2は,平成21年4月8日以降,現在まで,被告会社の取締役の地位にある。

被告Y4は,遅くとも平成18年10月5日から平成20年5月31日に退任するまで被告会社の取締役であった。

[甲1の1・2。なお,被告会社,被告Y1及び被告Y2との関係では争いがない。]

(4)  原告は,平成18年10月ころに被告会社から勧誘を受けて,同月17日以降,原告が被告会社の指示に従ってその代金を被告会社に支払って被告会社の推奨する株式を購入し,これを被告会社が運用することを内容とする取引をするようになった。また,平成19年5月15日以降は,同月25日付けで取り交わされた「取引約定書」(甲2)に従い,原告が被告会社からの融資を得て株式取引を行うものの,原告が購入した株式をその担保として被告会社に預託し,原告が融資金に対する約定の利息を支払うことを内容とする取引をするようになった。原告と被告会社との間の各取引の内容は,別紙取引一覧表に記載したとおりである(以上の原告と被告会社との取引をまとめて「本件取引」という。)。

[甲2,弁論の全趣旨。なお,被告会社,被告Y1及び被告Y2との関係では争いがない。]

(5)  被告会社は,本件取引の当時,金融商品取引法29条の登録を受けていなかった。

[弁論の全趣旨。なお,被告会社,被告Y1及び被告Y2との関係では争いがない。]

3  争点及び当事者の主張

(1)  本件取引が強行法規に反するもので無効であるか。

(原告の主張)

被告会社は,金融商品取引業の登録をしていないのであるから,本件取引において株式の売買等を行ったことは,旧証券取引法28条及び金融商品取引法29条,2条8項1号・2号に反する行為であって,罰則の対象ともなる(旧証券取引法198条11号,金融商品取引法197条の2第10の4号)。これらの規定は,無登録業者による株式の売買や取次を一切認めない趣旨に基づくもので,強行法規であるから,これに反した本件取引は無効である。したがって,被告会社は,本件取引において原告が支払った230万2000円を法律上の原因なく利得していることになるから,原告に対しその返還義務を負う。

(被告会社,被告Y1,被告Y2の主張)

被告会社が,本件取引当時,金融商品取引法の登録を受けていなかったことは認める。ただし,以前には,証券取引の登録を得ていた。本件取引が強行法規に反するもので無効であるとの主張は争う。

(2)  本件取引が違法なもので不法行為を構成するか。

(原告の主張)

前述のとおり,被告会社は,金融商品取引法の登録を受けておらず証券取引をすることができなかったのであるから,本件取引は,あたかも株式売買をするかのような外観を装いながら,現実には証券取引をしない,いわゆるノミ行為であったと認められる。被告会社が証券会社に取引口座を有していたとは認められないことや,実際に株式買い付けをした形跡が見当たらないことも,これを裏付けるものといえる。

また,本件取引のうち平成19年5月25日付けの「取引約定書」に基づく取引は,被告会社から原告への融資取引,すなわち消費貸借契約に基づく取引であるかのようであるが,同契約成立の要件である被告会社から原告への金銭交付の事実は全くない。

これらによれば,本件取引は,全体として仮装であったと認めるのが相当であり,被告会社は,原告に対し,実際には現実の売買をしないノミ行為であるにもかかわらずこれを秘し,あたかも株式売買をする又はしたように装って原告を欺き,融資金金利や株式取引の損金などの名目で原告に合計230万2000円を支出させて被告会社に交付させたと認めることができるのであって,違法な詐欺に当たり不法行為を構成するものと認めることができる。

(被告会社,被告Y1,被告Y2の主張)

原告は,被告会社を通じて,平成18年10月から株式の現物取引をするようになり,平成19年5月からは融資取引をするようになった(本件取引)。被告会社は,それなりの計算で株式取引をしており,本件取引においても,当初は大きな損失を生じることはなかったが,日本風力開発株式の取引でかなりの損失を生じることとなった。また,本件取引は,平成19年8月31日までは被告会社の従業員であったAが,それ以降は被告Y2が,それぞれ担当したが,取引に当たっては原告に確認をしており,被告Y2が独断で取引をしたことはない。

これらによれば,本件取引が違法なもので不法行為を構成するとは認められない。

第3判断

1  本件取引について

証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,前記前提となる事実でみたとおり,原告は,被告会社との契約に基づき,平成18年10月17日から平成23年10月18日までの間に,別紙取引一覧に記載したとおり,被告会社に代金を支払ってその推奨する株式を購入してその「運用」を被告会社に委ね,あるいは,被告会社からの融資を得て株式取引を行うものの,原告が購入した株式をその担保として被告会社に預託し,原告が融資金に対する約定の利息を支払うことを内容とする取引(本件取引)をしたものと認めることができる。

2  争点(1)(本件取引が無効か)について

前記前提となる事実でみたとおり,被告会社は,金融商品取引法の登録を受けていないことを認めることができる。そうすると,本件取引について被告会社がした株式売買又はその取次ぎは,金融商品取引法の規定に反するものであって(29条,2条8項1号・2号),同法の定める罰則の対象となる行為(197条の2第10の4号)と認められる。

しかし,金融商品取引法は,金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め,金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により,有価証券の発行及び金融証券等の取引等を公正にするなどして,国民経済の健全な発展及び投資家の保護に資することを目的として制定されたものであるから(1条),同法の定める業者規制又はその行為規制は,もっぱら金融商品に関する経済・取引秩序を維持することを目的とする取締法規であると認められ,これらに違反した私法上の取引の効力までも当然に無効とする趣旨であるとまでは認められない。

原告は,金融商品取引法や旧証券取引法の規定を挙げ,これらが無登録業者による株式売買やその取次ぎを認めない強行法規であることを理由として,本件取引にかかる契約が無効であると主張するが,前記のとおりであって,これに反する私法上の取引の効力を一般に否定するものであるとまでは認められない。この点に関する原告の主張は採用できない。

以上によれば,本件取引が強行法規に反するもので無効であるとまでは認められない。

3  争点(2)(本件取引が違法なもので不法行為を構成するか)について

(1)  前記1で認定したところによれば,本件取引は,原告が,原告の出捐した資金を使って,被告会社又はその従業員である担当者が推奨する株式を被告会社の取次ぎ等により売買し,購入した株式の「運用」を被告会社に委託する取引(平成19年5月15日までの取引),あるいは,原告が購入する株式を担保として被告会社の融資を得て,原告がその約定の金利を支払うとともに,この資金を使って,前記のように被告会社の推奨する株式を売買する取引(同日以降の取引)であったものと認めることができる。

(2)  しかし,先にみたとおり,被告会社は金融商品取引業の登録を受けていなかったから,証券取引所において被告会社が株式取引をすることができなかったと認められる。また,被告会社が証券会社に取引口座を有していたことを認めるに足りる証拠は見当たらない。これらによれば,本件取引につき,被告会社が別紙取引一覧表に記載した内容の株式売買を実際したと認めることはできない。なお,被告会社の提出する本件取引に関する記録(乙1)についても,記載された株式取引が実際にされたことを客観的に裏付ける証拠が見当たらないことは同様であり,これが現実の株式取引があったことを裏付けるものとは認められない。そうすると,被告会社が実際に本件取引の対象となった株式を取得したとは認められないから,被告会社が原告に本件取引そのものや本件取引を構成する個別の取引を勧誘するに当たっては,この点につき虚偽の説明をしたものと認めることができるし,現実の株式取引をしたものと認めることはできない。

また,本件取引のうち平成19年5月15日以降の取引は,被告会社の原告への融資,すなわち金銭消費貸借契約を内容するものであると認められるところ,本件取引にかかる融資金が被告会社から原告に交付されたことはうかがわれない。そうすると,有効な金銭消費貸借契約の成立があったと認めることはできない。

そして,原告は,被告会社のこうした説明に基づき,現実の株式の取引がされ,また,金銭消費貸借契約が成立したものと信じて,被告会社から推奨を受けるなどした株式の取引を申し込み,または,融資が得られると考えて,本件取引の代金や金利分として被告会社に送金したものと認めることができる。これによれば,本件取引は,その勧誘及び取引全体が詐欺であったといえ,違法なものであって,原告に対する不法行為を構成するものと認められる。

(3)  そして,本件取引が被告会社の業務としてされたことは明らかであるから,被告会社は,原告に対し,不法行為責任に基づく損害賠償責任を免れない。

また,被告Y1は,前提となる事実でみたとおり,被告会社の代表取締役であって,同社の業務執行として本件取引をしていたと認められるから民法709条に基づき,また,取締役の職務執行上の注意義務に違反して被告会社の不法行為を発生させたと認められるから会社法429条1項に基づき,原告に対する損害賠償責任を免れない。

さらに,被告Y3,被告Y2及び被告Y4は,それぞれ,本件取引の期間中に,被告会社の取締役であったから,それぞれが取締役の職務執行上の注意義務に違反して被告会社の不法行為を生じさせたと認められるから,会社法429条1項に基づき,原告に対する損害賠償責任を免れない(なお,被告Y2の取締役就任は本件取引開始後であり,被告Y4の取締役退任は本件取引の終了前であると認められるが,前記注意義務は,取締役就任前に既に開始されている違法な取引を中止させ又は取締役在任中に開始された違法な取引を解消して損害の拡大を防ぐべき義務をも含むものと解するのが相当であるから,前記被告ら両名についても,原告に生じた損害の全部を賠償すべき責任を負うことになる。)。

(4)  原告は,本件取引により,別紙取引一覧表の「入金金額」欄に記載した金銭の出捐をしたと認められるから,同額の損害(合計230万2000円)を受けたものと認めることができる。

また,原告は,被告らに対する損害賠償請求のために,本件の訴訟代理人に委任して本件訴訟を提起することを余儀なくされたものと認められるところ,被告らの前記不法行為と相当因果関係にある原告の弁護士費用負担額は,23万円と認めるのが相当である。

したがって,被告らは,連帯して,本件取引により原告に生じた前記損害の合計額である253万2000円を賠償すべき義務を負う。

4  以上のとおりであって,被告らは,原告に対し,連帯して253万2000円及びこれに対する前記不法行為が終了した日で本件取引の最終日である平成23年10月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

第4結論

よって,原告の請求は理由があるから認容し,主文のとおり判決する。

(裁判官 井川真志)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例