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京都地方裁判所 平成25年(ワ)1905号 判決 2014年6月27日

第一事件原告

X1 他2名

第二事件原告

X2

第一事件被告兼第二事件被告

主文

一  被告は、原告X1に対し、二一八九万五〇三八円及びこれに対する平成二二年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X3に対し、二一八九万五〇三七円及びこれに対する平成二二年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告X4に対し、二一八九万五〇三七円及びこれに対する平成二二年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告X2に対し、二〇〇万円及びこれに対する平成二二年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、第一事件、第二事件を通じ、これを一〇〇分し、その七一を被告の負担とし、その三を原告X2の負担とし、その余を原告X1、同X3及び同X4の各負担とする。

七  この判決は、第一項から第四項までに限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告X1に対し、二九九四万〇七二四円及びこれに対する平成二二年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X3に対し、二九九四万〇七二三円及びこれに対する平成二二年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告X4に対し、二九九四万〇七二三円及びこれに対する平成二二年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告X2に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成二二年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、A(以下「A」という。)が、原動機付自転車を運転中、後続する被告の運転する普通乗用自動車(後記「被告車」)に衝突され、被告車のボンネットに跳ね上げられ、路上に落下転倒し、死亡するに至った事故(後記「本件事故」)につき、Aの相続人である原告らが、被告に対し、民法七〇九条に基づき、遺産分割協議により各原告が相続したAの損害と各原告固有の損害及びこれらに対する本件事故日から民法所定の遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  前提事実(以下の事実は当事者間に争いがないか、掲記の証拠により容易に認定できる。)

(1)  本件事故の発生

日時 平成二二年六月一八日午後二時一二分ころ

場所 愛知県春日井市神屋町一二八七番地先路線上

加害車両 自家用普通乗用自動車(〔ナンバー<省略>〕)

同運転者 被告

(以下「被告車」という。)

被害車両 自家用原動機付自転車(〔ナンバー<省略>〕)

同運転者 A

(以下「A車」という。)

事故態様 被告は、被告車を運転し、上記場所を進行するに当たり、前方左右を注視し、進路の安全を確認しつつ進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、カーナビゲーションで時間を確かめることなどに気を取られて前方を注視せず進路の安全確認をしないまま漫然進行した過失により、進路前方を被告車と同一方向に進行中のA車に気付かないまま被告車前部をA車後部に衝突させて、同人を被告車のボンネットに跳ね上げた後、路上に落下転倒させ、よって同人に脳挫傷等の傷害を負わせ、九日間の入院加療の後、同月二六日午後零時五三分ころ、前記傷害により死亡するに至らしめた(甲九)。

(2)  責任原因

被告は、前記事故態様記載の過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、これによる損害を賠償する責任がある。

なお、被告に対しては、自動車運転過失致死の罪で、平成二三年七月一九日に禁固一年六月(執行猶予三年)の有罪判決が言い渡され、確定している(甲四)。

(3)  相続

Aの相続人は、妻である原告X2、子である原告X1、原告X3及び原告X4のみである(甲一の一ないし七)。

原告らは、本件事故によるAの被告に対する損害賠償請求権を、原告X3、同X1及び同X4が三分の一ずつ相続する旨の遺産分割協議を行い、一円未満の端数は原告X1が取得する旨を合意した(甲二、弁論の全趣旨)。

二  争点

原告らの損害

三  争点に対する当事者の主張

(1)  原告らの主張

ア Aの損害

(ア) 治療費 三二万一八七九円

(イ) 遺族の見舞等に要した交通費・宿泊等諸費用 三六万五九八九円

原告ら遺族が遠方から病院に駆けつけるために要した交通費や宿泊料

(ウ) 入院雑費 一万三五〇〇円

一日一五〇〇円×入院九日間=一万三五〇〇円

(エ) 付添看護費 一一万四〇〇〇円

原告X2

五日間(平成二二年六月一九日、同月二〇日、同月二四日、同月二五日、同月二六日)

原告X1

三日間(平成二二年六月一九日、同月二〇日、同月二六日)

原告X3

六日間(平成二二年六月一九日、同月二〇日、同月二一日、同月二二日、同月二五日、同月二六日)

原告X4

五日間(平成二二年六月一九日、同月二〇日、同月二一日、同月二二日、同月二六日)

一日六〇〇〇円×一九日=一一万四〇〇〇円

(オ) 戸籍謄本・事故証明書取得費用等 一万一五七〇円

(カ) 部屋明渡し費用 二万八〇〇〇円

Aは名古屋に単身居住していたので、死亡に伴って明渡し費用が発生した。

(キ) 入通院慰謝料 二一万〇〇〇〇円

受傷内容と平成二二年六月一八日から同月二六日までの九日間の入院日数に相当する慰謝料

(ク) 死亡慰謝料 二八〇〇万〇〇〇〇円

被告は、本件事故の態様について、当初、出会い頭事故と明らかに虚偽の事実を述べたり、実際には時速八〇キロメートルで走行していたにもかかわらず、制限速度以内で走行していたと虚偽の主張を続けたり、刑事判決後は事故現場に花を供えることはなく、墓参りにも来ないなど遺族に対する誠意ある対応を怠っており、このような被告の悪質な態度は慰謝料増額事由として考慮されるべきである。

(ケ) 葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円

(コ) 逸失利益 四五九二万九六五二円

a 年金収入以外 二九六七万九二六五円

(a) 基礎収入 五九五万五一〇〇円

Aは、長年裁判所書記官をつとめた経験があるだけでなく、a大学b学博士前期課程を修了し、かつ大学等で土木の専門知識等数多くの専門知識・資格を習得しており、本件事故当時も履歴書を用意して専門知識を活かした就職活動を行っていたから、賃金センサス平成二二年第一巻第一表・企業規模計・男性・大学・大学院卒・六二歳に相当する収入を得られた可能性は優に認められる。

(b) 就労可能年数

一一年(ライプニツツ係数八・三〇六四)

(c) 生活費控除 四〇%

(d) 計算式

595万5100円×(1-0.4)×8.3064=2967万9265円(1円未満切捨て、以下同じ。)

b 年金収入部分 一六二五万〇三八七円

(a) 死亡時の平成二二年六月一八日から平成二三年六月までの一年間

基礎収入

一七三万二六〇〇円(共済年金)+三万八九〇〇円(厚生年金)=一七七万一五〇〇円

生活費控除 五〇%

期間 一年(ライプニツツ係数〇・九五二三)

計算式

177万1500円×(1-0.5)×0.9523=84万3499円

(b) 六四歳になる平成二三年七月から平成二四年六月までの一年間

基礎収入

二五五万七三〇〇円(共済年金)+三万八九〇〇円(厚生年金)=二五九万六二〇〇円

生活費控除 五〇%

期間

1.8594(本件事故から平成24年6月までの2年に対応するライプニッツ係数)-0.9523(本件事故から平成23年7月までの1年に対応するライプニッツ係数)=0.9071

計算式

259万6200円×(1-0.5)×0.9071=117万7506円

(c) 六五歳になる平成二四年七月から平均余命八四歳までの一九年間

基礎収入

176万5200円(共済年金)+3万8900円(厚生年金)+79万2100円(国民年金)=259万6200円

生活費控除 五〇%

期間

12.8211(本件事故から平均余命まで21年に対応するライプニッツ係数)-1.8594(本件事故から平成24年7月までの2年に対応するライプニッツ係数)=10.9617

計算式

259万6200円×(1-0.5)×10.9617=1422万9382円

(サ) 小計 七六四九万四五九〇円

前記(ア)ないし(コ)の小計

(シ) 弁護士費用 七六四万九四五九円

前記(サ)の一〇%相当

(ス) 小計 八四一四万四〇四九円

前記(サ)と(シ)の小計

(セ) 既払い 三二万一八七九円

(ソ) 合計 八三八二万二一七〇円

前記(ス)から(セ)を控除した残額

イ 原告X1の損害

(ア) 相続分 二七九四万〇七二四円

前記ア(ソ)の三分の一に、一円未満の端数を加えた金額

(イ) 固有の慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

(ウ) 合計 二九九四万〇七二四円

ウ 原告X3及び原告X4の損害

(ア) 相続分 各二七九四万〇七二三円

前記ア(ソ)の三分の一(一円未満切り捨て)

(イ) 固有の慰謝料 各二〇〇万〇〇〇円

(ウ) 合計 各二九九四万〇七二三円

エ 原告X2の損害

固有の慰謝料

(2)  被告の主張

ア Aの損害について

(ア) 治療費は認める。

(イ) 遺族の見舞等に要した交通費・宿泊等諸費用は不知

(ウ) 入院雑費は認める。

(エ) 付添看護費は争う。看護の必要性にかんがみれば、一日一人まで、日額六〇〇〇円として、入院期間九日間分の五万四〇〇〇円を超えない。

(オ) 戸籍謄本・事故証明書取得費用等は認める。

(カ) 部屋明渡し費用は不知

(キ) 入通院慰謝料は争う。

(ク) 死亡慰謝料は争う。

Aは本件事故当時年金受給者であり、子三名はいずれも成人して独立しており、妻も本件事故当時六七歳で独自に年金を受給していたと窺われ、一家の支柱には当たらず、死亡慰謝料は二〇〇〇万円を超えない。

なお、被告は、衝突の状態を見ていなかったことと、警察官の誘導とにより、出会い頭の事故だったのだろうとの推定を、推定であることを示して供述したにすぎない。また、被告は、時速約六〇キロメートルで走行していた。さらに、被告に対する刑事判決は本件事故後一年余りの平成二三年七月一九日であり、原告らが主張する刑事判決後の事実は、仮に事実であると仮定しても、著しく不誠実な態度とまではいえない。

(ケ) 葬儀費用は認める。

(コ) 逸失利益は争う。

a 年金収入以外について

Aの年齢に照らし、民間企業への就職の可能性は皆無であり、現在のオーバードクター、ポスト不足の社会状況からすれば学者として俸給を得て大学に残ることも極めて困難であって、就労の蓋然性はなく、年金以外の収入について逸失利益は認められない。

b 年金収入部分について

各年金支給額は不知、逸失利益算定のための控除率、係数等の計算式については認める。

c 退職年金の受給者が不法行為によって死亡した場合に、相続人のうちに退職年金の受給者の死亡を原因として、遺族年金の受給権を取得した者があるときは、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で損害額からこれを控除すべきところ、本件においては、原告X2が、平成二二年一〇月以降、二か月に一度(偶数月)、遺族厚生年金六三〇円、遺族共済年金三万一三八五円の支給を受けているから、口頭弁論終結時までに原告X2に支払われた上記遺族年金を控除すべきである。

なお、本件では、遺産分割協議の結果、原告X2が本件損害賠償債権を取得しないこととされたのであるから、同人がAの損害賠償債権を相続しないことは控除にあたり影響がない。

(サ) 弁護士費用は争う。

(シ) 既払いは認める。

イ 原告X1、原告X3及び原告X4の損害について

(ア) 相続分は前記アのとおり。

(イ) 固有の慰謝料は、各人一〇〇万円を超えない。

ウ 原告X2の損害について

固有の慰謝料は二〇〇万円を超えない。

第三争点に対する判断

一  Aの損害について

(1)  治療費 三二万一八七九円

当事者間に争いがない。

(2)  遺族の見舞等に要した交通費・宿泊等諸費用 三六万五九八九円

証拠(甲六、原告X1)によれば、原告らは、本件事故の知らせを受けAの見舞、通夜、葬儀等のために、上記金額の交通費・宿泊費等諸費用を要したことが認められ、これは、本件事故によるAの受傷の内容及び程度、Aと原告らの関係、経路及び金額の合理性等にかんがみ、本件事故と相当因果関係のある損害ということができる。

(3)  入院雑費 一万三五〇〇円

当事者間に争いがない。

(4)  付添看護費 五万四〇〇〇円

証拠(甲九)によれば、本件事故後のAの容態は、JCS二〇〇、瞳孔不同、対光反射消失と予断を許さない状態にあり、左急性硬膜下血腫を伴う脳挫傷により緊急開頭血腫除去術を要したことが認められ、近親者による付添看護の必要性を認めることができるものの、求められる付添看護の内容及び程度にかんがみれば、入院九日間を通じて、一日につき一人、日額六〇〇〇円を限度として、本件事故との相当因果関係を認めるのが相当である。

したがって、付添看護費は、五万四〇〇〇円(六〇〇〇円×九日)となる。

(5)  戸籍謄本・事故証明書取得費用等 一万一五七〇円

当事者間に争いがない。

(6)  部屋明渡し費用 二万八〇〇〇円

証拠(甲八、原告X1)及び弁論の全趣旨によれば、Aは名古屋に単身居住しており、死亡に伴い不要品の処分及び部屋の明渡しを要し、その費用に上記金額を要したことが認められ、これは本件事故と相当因果関係のある損害ということができる。

(7)  入通院慰謝料 一九万〇〇〇〇円

本件事故によるAの受傷内容、程度及び入院期間にかんがみれば、入通院慰謝料としては、上記金額が相当である。

(8)  死亡慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

前記前提事実及び証拠(甲四、一三、一六、一八、原告X1、原告X3)によれば、被告は、カーナビゲーションで時間を確かめることなどに気を取られ、前方不注視の状態で、進路前方を被告車と同一方向に進行中のAに気付かず、ブレーキを講じることもないまま、被告車前部をA車後部に衝突させていること、この際、被告車の速度が制限速度を超えていた可能性も否定できないこと、本件事故後の被告の原告らに対する言動には、事故態様の詳細が判明していなかった等の事情があるにせよ、自己保身的で不誠実と受け取られる側面があったことは否めないことが認められる。

他方、証拠(甲一の一ないし七、甲三、八、原告X1)によれば、Aは、本件事故当時六二歳で、名古屋に単身居住する年金受給者であり、妻は本件事故当時六七歳で、独自に年金を受給していたものと窺われ、子三名はいずれも成人して独立していることが認められる。

このような本件事故の態様、本件事故後の被告の対応、Aの年齢、生活及び扶養状況等、本件記録から窺える一切の事情を考慮すれば、本件事故によるAの死亡慰謝料は上記のとおりと認めるのが相当である。

(9)  葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円

当事者間に争いがない。

(10)  逸失利益 三五四八万二〇五三円

ア 年金収入以外 一九二三万一六六六円

(ア) 基礎収入

証拠(甲一〇、一九、二〇、原告X1)によれば、Aは、裁判所職員として勤めながら大学を卒業し、四一年間にわたり裁判所職員として勤めたこと、このうち約二〇年間は書記官として勤務したこと、退職後、大学院に入学し、b学を修め、大学院卒業後、就職活動を行っていた矢先に、本件事故に遭ったことが認められる。

このようなAの経歴及び就労意欲にかんがみれば、Aには就労の蓋然性が認められる。

他方、証拠(原告X1)によれば、Aは大学院在学中から就職活動を行っていたものの、大学院卒業後約二か月が経過した本件事故時点で、具体的な就職の目途はたっていなかったことが認められ、本件事故当時のAの年齢や、後述のとおりAには年金収入もあったこと等を併せ考慮すれば、Aが得られた蓋然性のある収入額は、平成二二年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計・男性・六〇~六四歳の四一五万一〇〇〇円と認めるのが相当である。

(イ) 就労可能年数

本件事故当時六二歳であったAの就労可能年数は、平均余命二一年の二分の一に相当する一〇年とみるのが相当であり、これに対応するライプニッツ係数は、七・七二一七である。

(ウ) 生活費控除

前記収入額及び後記年金収入額にかんがみ、生活費控除は四〇%とみるのが相当である。

(エ) 計算式

415万1000円×(1-0.4)×7.7217=1923万1666円

イ 年金収入部分 一六二五万〇三八七円

(ア) 死亡時の平成二二年六月一八日から平成二三年六月までの一年間

証拠(甲一一の一・二)によれば、上記期間の年金収入は、共済年金一七三万二六〇〇円と厚生年金三万八九〇〇円の合計一七七万一五〇〇円と認められ、生活費控除率及びライプニッツ係数等の計算式については当事者間に争いがない。これによれば、上記期間の逸失利益は、下記計算式のとおりとなる。

(計算式)

177万1500円×(1-0.5)×0.9523=84万3499円

(イ) 六四歳になる平成二三年七月から平成二四年六月までの一年間

証拠(甲一一の一・三)によれば、上記期間の年金収入は、共済年金二五五万七三〇〇円と厚生年金三万八九〇〇円の合計二五九万六二〇〇円と認められ、生活費控除率及びライプニッツ係数等の計算式については当事者間に争いがない。これによれば、上記期間の逸失利益は、下記計算式のとおりとなる。

(計算式)

259万6200円×(1-0.5)×0.9071=117万7506円

(ウ) 六五歳になる平成二四年七月から平均余命八四歳までの一九年間

証拠(甲一一の一・三)によれば、上記期間の年金収入は、共済年金二五五万七三〇〇円と厚生年金三万八九〇〇円の合計二五九万六二〇〇円と認められ、生活費控除率及びライプニッツ係数等の計算式については当事者間に争いがない。これによれば、上記期間の逸失利益は、下記計算式のとおりとなる。

(計算式)

259万6200円×(1-0.5)×10.9617=1422万9382円

ウ 被告は、Aの年金収入部分の逸失利益から、口頭弁論終結時までに確定した原告X2の遺族年金受給額を控除すべきであると主張する。

しかし、遺族年金の受給権者は、法律上、受給資格がある遺族のうちの所定の順位にある者と定められており、死亡した国家公務員の妻と子がその遺族である場合、受給権者は死亡した者の収入により生計を維持していた妻のみと定められているから(国家公務員共済組合法四三条一項、二条一項三号)、遺族の加害者に対する損害賠償債権額の算定にあたって、遺族年金給付相当額は、妻の損害賠償債権からだけ控除すべきであり、子の損害賠償債権額から控除することはできないものといわなければならない。なぜなら、受給権者でない遺族が事実上受給権者から上記給付の利益を享受することがあっても、それは法律上保障された利益ではなく、受給権者でない遺族の損害賠償債権額から上記享受利益を控除することはできないからである(最高裁昭和五〇年一〇月二四日第二小法廷判決・民集二九巻九号一三七九頁参照)。

本件において、証拠(甲一二の一・二)によれば、Aの死亡を原因として、原告X2が、平成二二年一〇月以降、二か月に一度(偶数月)、遺族厚生年金六三〇円、遺族共済年金三万一三八五円の支給を受けていることが認められるものの、これをAの損害賠償債権額から控除することは、受給権者でない原告X1、同X3及び同X4の損害賠償債権額から控除することに他ならず、許されない。

また、前記前提事実記載のとおり、本件においては、遺産分割協議の結果、原告X2が本件損害賠償債権を取得しないこととされているため、結局、原告X2の受給分を控除することはできないこととなるが、この点は、原告X1、同X3及び同X4の固有の慰謝料の算定にあたり考慮することで公平を図るのが相当である。

(11)  小計 五七九六万六九九一円

前記(1)ないし(10)の小計

(12)  弁護士費用 五七九万〇〇〇〇円

本件事件の難易、本件審理の経過及び認容額等にかんがみれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は上記のとおりと認めるのが相当である。

(13)  小計 六三七五万六九九一円

前記(11)と(12)の小計

(14)  既払い 三二万一八七九円

当事者間に争いがない。

(15)  合計 六三四三万五一一二円

前記(13)から(14)を控除した残額

二  原告X1の損害

(1)  相続分 二一一四万五〇三八円

前記一(15)の三分の一に、一円未満の端数を加えた金額

(2)  固有の慰謝料 七五万〇〇〇〇円

前記前提事実及び証拠(甲一三、一七、原告X1)によれば、原告X1は、Aの子であり、既に成人し独立していること、Aは単身居住していたが、Aとは折に触れて連絡を取り合っていたこと、本件事故により突然Aを失った上、本件事故後の被告の態度に誠意のなさを感じていることが認められる。

このほか本件に現れた一切の事情に、前記相続分には本来控除されるべき原告X2受給にかかる遺族年金分が含まれていることも併せ考慮すれば、本件事故による原告X1の固有の慰謝料は、上記金額と認めるのが相当である。

(3)  合計 二一八九万五〇三八円

前記(1)と(2)の合計

三  原告X3及び原告X4の損害

(1)  相続分 各二一一四万五〇三七円

前記一(15)の三分の一(一円未満切り捨て)

(2)  固有の慰謝料 各七五万〇〇〇〇円

前記前提事実及び証拠(甲一五、一六、一八、原告X3)によれば、原告X3及び同X4は、いずれもAの子であり、既に成人し独立して所帯を持っていること、Aは単身居住していたが、それぞれAとは折に触れて連絡を取り合っていたこと、本件事故により突然Aを失った上、本件事故後の被告の態度に誠意のなさを感じていることが認められる。

このほか本件に現れた一切の事情に、前記相続分には本来控除されるべき原告X2受給にかかる遺族年金分が含まれていることも併せ考慮すれば、本件事故による原告X3及び原告X4の固有の慰謝料は、上記金額と認めるのが相当である。

(3)  合計 各二一八九万五〇三七円

前記(1)と(2)の合計

四  原告X2の損害

固有の慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

前記前提事実及び証拠(甲一三、原告X1)によれば、原告X2はAの妻であり、本件事故によりAを突然失った上、本件事故後の被告の態度に誠意のなさを感じていることが認められ、このほか本件に現れた一切の事情を併せ考慮すれば、本件事故による原告X2の固有の慰謝料は、上記金額と認めるのが相当である。

五  結語

よって、主文のとおり判断する。

(裁判官 上田賀代)

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