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京都地方裁判所 平成25年(ワ)3463号 判決 2015年10月28日

原告

被告

Y1 他1名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、一六一万七四五四円のうち一四七万七四五四円に対する平成二一年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇〇分し、その一五を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して、一〇三一万三〇〇七円及びうち九三七万三〇〇七円に対する平成二一年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、歩行中、後ろから走行してきた被告Y2(以下「被告Y2」という)の運転、被告Y1(以下「被告Y1」という。)の所有にかかる普通乗用自動車(後記「被告車」)の左ドアミラーが原告の右上腕部等に衝突する事故(後記「本件事故」)に遭い、受傷したとして、被告らに対し、被告Y2については民法七〇九条、被告Y1については自賠法三条にそれぞれ基づき、原告が被った損害の賠償及びうち弁護士費用を除いた損害について本件事故日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求めた事案である。

一  前提事実(以下の事実は当事者間に争いがないか、掲記の証拠により容易に認定できる。)

(1)  本件事故の発生(甲一)

日時 平成二一年四月一〇日午後四時二五分ころ

場所 京都市伏見区深草直違橋三丁目四〇七番地一

関係者(1) 自家用普通乗用自動車(ナンバー<省略>)

同運転者 被告Y2

同所有者 被告Y1

(以下「被告車」という。)

(2)  歩行者 原告

事故態様 原告の後方から走行してきた被告車が原告の横を通り過ぎる際、原告の右上腕部に被告車の左ドアミラーが接触した(なお、事故態様の詳細については、後述のとおり争いがある。)。

(2)  責任原因(弁論の全趣旨)

被告Y2には、被告車を走行中、左側の安全確認を怠った過失があり、民法七〇九条に基づく責任があり、被告Y1は、被告車の運行供用者として、自賠法三条に基づく責任があり、被告らは連帯して本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

二  争点

(1)  症状固定日

(2)  素因減額

(3)  原告の損害

三  争点に対する当事者の主張

(1)  争点(1)(症状固定日)について

(原告の主張)

原告は、歩行中、後ろから走行してきた被告車に、右足の靴を踏まれ、その後被告車が通り過ぎる際、バックミラーが原告の右上腕部に衝突し、その際、反動で大きく身体が右回りに捻った状態となり、その後、右半身が前方に大きく押し出されたことにより負傷した。

上記受傷につき、原告は、本件事故後、a病院、b病院、c病院、d整骨院、e整骨院、fクリニックなどで通院治療を受けた。

原告は、平成二三年四月二一日、a病院脳神経外科において、脊椎捻挫、右肘打撲、右肩関節捻挫につき症状固定との診断を受け、同年五月二三日、同病院整形外科において、右肩、右肘打撲につき症状固定との診断を受けた。

したがって、症状固定時期は、早くとも平成二三年五月二三日である。

(被告らの主張)

原告は、本件事故態様について、医師に対し、「道路を歩行中に後から走行してきた被告車のタイヤで靴(右側)を踏まれた。その後、被告車が通り過ぎる際、バックミラーに右上腕がぶつかった。靴を踏まれただけで右足は踏まれていない。」と説明していた上、客観的にも、「右上腕にやや腫脹を認めるが軽度」、「右上腕に軽度の発赤を認めるのみ」との軽微な所見しか認められておらず、本件事故は軽微な事故であった。

そして、原告の治療経過をみると、e整骨院のカルテには、平成二一年六月三〇日「症状変化なし」、同年七月二一日「以前よりしびれ症改善」とあり、a病院のカルテには、同年一一月五日「本件事故により頚椎の痛みが出るようになった」「その後はずっと痛いが整体に行っていたら少しずつ良くなり、梅雨がすぎたら腰の痛みは軽快、しかし頚部疼痛が残っている」との記載がある。

したがって、本件事故による原告の症状固定時期は、本件事故から六か月が経過した平成二一年一〇月九日とすべきである。

(2)  争点(2)(素因減額)について

(被告らの主張)

原告には、平成一〇年ころから頚部痛等の症状があり、平成一七年には頚椎、平成一九年には腰椎の手術を受けるほどであって、原告には本件事故以前から、頚椎、腰椎ヘルニア等の既往症があった。

また、原告は、平成一七年ころから、全般性不安障害との精神的要因が指摘されており、原告の不安定な精神的要素が本件事故による治療の遷延化に深く寄与している。

そして、本件事故による外力の程度は、右上腕部に軽微な発赤が見られる程度の軽微なものであり、これに比して原告の主張する損害は均衡を逸しており、原告の頚椎、腰部の既往症、さらには精神的要素が、本件事故による原告の症状に影響を及ぼした蓋然性は高く、五〇%の素因減額が相当である。

(原告の主張)

原告が頚椎の手術を受けたのは平成一七年七月二七日のことであり、腰部の手術を受けたのは平成一九年一二月二八日のことであるところ、いずれも術後の経過は良好で、明らかな神経症状もなく、平成二〇年八月二一日には終診となっている。その後、本件事故に至るまで原告が頚椎あるいは腰椎に関して通院をした事実はない。

また、全般性不安障害については、頚椎の手術当日のことであり、原告が不安を抱くことはむしろ自然であり、原告に、損害を増大させるような精神的要素などない。むしろ、被告らが、本件事故について何ら謝罪の態度を示しておらず、一方的に治療費の支払を止めるなどしたことが、原告の精神状態に悪影響を与えているとさえいえる。

さらに、本件事故が軽微といえないことは、現在まで原告が肩の痛み等を訴えていることからも明らかである。

仮に、原告に何らかの素因が認められるとしても、本件事故が軽微とはいえない上、被告らの事故後の対応は、救護義務を果たすことなくその場を立ち去り、警察の立入が困難な小学校内に逃げ込むという悪質なものであることを考慮すれば、多く見積もっても一〇%程度の減額にとどまるべきである。

(3)  争点(3)(原告の損害)について

(原告の主張)

ア 治療費 二四五万九八五〇円

イ 通院交通費 一六万六三三〇円

平成二二年七月三一日までの一四万〇八一〇円に別紙一の通院交通費を加えたもの。

ウ 通院慰謝料 二〇九万〇〇〇〇円

通院期間七七四日、実通院日数三二八日

エ 休業損害 七三三万五一九八円

ただし、主婦業として、平成二二年賃金センサスにより日額九四七七円の七七四日分として。

オ 文書料 一万一六〇五円

別紙二のとおり。

カ 小計 一二〇六万二九八三円

キ 既払金 二六八万九九七六円

ク 既払金控除後残額 九三七万三〇〇七円

ケ 弁護士費用 九四万〇〇〇〇円

コ 合計 一〇三一万三〇〇七円

(被告らの主張)

ア 治療費、通院交通費について

本件事故による原告の症状固定時期は平成二一年一〇月九日であるから、それ以後の治療費及び通院交通費については本件事故との相当因果関係が認められない。

イ 通院慰謝料について

平成二一年一〇月九日までの通院慰謝料が算出されるべきである。また、原告の症状は、いわゆる他覚的所見のない主訴のみであることを考慮して算出されるべきである。

ウ 休業損害について

本件事故による原告の症状固定時期は平成二一年一〇月九日であり、原告の休業損害に関する請求は過大である。

また、原告は、本件事故以前から生活保護を受給し、本件事故による通院中も生活保護を受給していたのであるから、原告に休業損害は発生していない。

エ 文書料について

争う。

オ 素因減額

前記のとおり素因減額を行うべきである。

カ 既払金について

認める。

キ 弁護士費用について

争う。

第三争点に対する判断

一  争点(1)(症状固定日)について

(1)  掲記の証拠によれば、原告の症状経過は、以下のとおりであることが認められる。

ア 本件事故前

(ア) 原告は、平成一七年五月六日、後頚部痛を訴え、a病院脳神経外科を受診し、変形性頚椎症との診断を受けた。画像検査の結果、第三ないし第六頚椎間に前方圧排像を認め、同年七月二七日、頚椎椎弓形成術が行われた。(乙一の一:二、八、一六、二九頁、乙一の三:七頁)

また、原告は、同日、全般性不安障害との診断を受けた(乙一の二:二頁)。

(イ) 原告は、a病院脳神経外科にて上記手術後の経過観察通院中、腰部痛を訴え、平成一八年一月二〇日、画像検査の結果、第三ないし第五腰椎間に脊柱管狭窄を認め、腰部脊柱管狭窄症との診断を受け、平成一九年一二月二八日、腰椎椎弓切除術を受けた。術前、原告は、先の頚椎椎弓形成術により一旦は軽快した頚部痛の再燃も訴えていたが、術後、頚部痛及び腰部痛ともに軽快し、平成二〇年八月二一日をもって一旦通院を終了した(乙一の二:三、六、一二ないし一七頁、乙一の三:二、九ないし一八頁)。

なお、平成二〇年四月二四日のMRI検査の結果、上記手術後も、原告には第五腰椎、第一仙椎間に椎間板ヘルニアは残っており、軽度脊柱管狭窄が認められた(乙一の三:四一頁)。

イ 本件事故

平成二一年四月一〇日、原告は、道路を歩行中に後ろから走行してきた被告車のタイヤに右の靴を踏まれ、幸い足は踏まれていなかったものの、その後、被告車が通り過ぎる際、被告車の左ドアミラーに右上腕をぶつけられ、振り返った際に頚及び右半身を捻る事故(本件事故)に遭った(甲七、乙一の三:四四頁、乙二:一九頁、原告本人)。

ウ 本件事故後

(ア) 原告は、本件事故後、g医療センター整形外科の救急外来を受診し本件事故を申告した。診察の結果、右上腕に軽度の腫脹と発赤を認め、右母指(母指球)に軽度の痛みと感覚の低下があるも、自動運動には異常なく、骨折や神経障害を示唆する所見はなかった。(乙二:一九ないし二〇頁)

(イ) 原告は、平成二一年四月一一日、h整形外科を受診し、本件事故を申告し、右半身の痛み、頚部痛、腰痛、右母指のしびれと頭痛を訴えるも、各種神経学的テストの結果は異常なく、レントゲン検査でも異常はなかった。その後、同月一七日まで通院し、各種神経学的テストを受けるも、異常はなかった。(乙四:七ないし一三頁)。

(ウ) 原告は、平成二一年四月一一日、h整形外科からの紹介でi病院を受診し、頭痛を訴え、頭部CTを受けるも、明らかな異常所見は認められなかった(乙三:三、四、一一頁)。

(エ) 原告は、平成二一年四月一六日、j病院を受診し、本件事故後、痛くて動けていないと述べるとともに、下腹部痛を訴え、便秘症と診断された。なお、本件事故との因果関係については不明とされている。(乙五)

(オ) 原告は、平成二一年四月二一日、a病院を受診し、本件事故により右腕、右足を打撲したとして、右半身のしびれを訴えるも、レントゲン及びCT検査の結果、頚椎に異常はなく、右上腕に腫脹があるも、肩関節及び肘関節の可動域に制限はなかった(乙一の三:四八、一〇八頁)。

同年一一月五日、原告は、本件事故後、頚椎の痛みが出るようになったが、整体に行っていたら少しずつ良くなった、梅雨が過ぎたら腰の痛みは軽快したが、頚部の疼痛が残っている旨訴え、医師は、頚部の張りの強さについて、自律神経障害を疑い、筋弛緩を促すため薬物療法を指示した(乙一の三:四九頁)。

同年一一月二六日、原告は、薬は効くがあとが痛くなると訴えるも、レントゲン上は変化なく、医師は心療内科の受診を強くすすめた(乙一の三:五〇頁)。

同年一二月一日、原告は、まだ症状がつづくとして、両肩から両手のしびれを訴えるも、医師は、整形外科にかかわる症状はないと思う旨回答した(乙一の三:一〇九頁)。

平成二二年一月一四日、頚椎について、平成一八年三月一七日のMRIと比較した結果、椎間板ヘルニア及び脊髄の輝度に変化は見られなかった(乙一の三:四二、五〇頁)。

同年二月二五日、腰椎について、術後のMRIと比較した結果、やはり変化は見られなかった(乙一の三:四三、五一頁)。

同年三月二五日、原告は低髄圧症候群を疑うも、医師は、頭部MRIの結果も踏まえ、低髄圧症候群の可能性は非常に低く、精神的なものが症状に影響しているとの意見を述べた(乙一の三:四四、五一頁)。

(カ) 原告は、a病院への通院と並行して、平成二一年四月二二日から、d整骨院に通い、頚部から腰部にかけての筋緊張や疼痛、右肩部の挙上制限、腰部の運動制限、右腕の違和感やしびれ等を訴え、平成二二年五月一日まで、理学療法及び運動療法等を受けた(甲四)。

(キ) 原告は、平成二二年五月七日から、e整骨院に通い、頚部、背部、腰部痛等を訴え、理学療法及び運動療法等を受け、同年六月三〇日には症状に変化なく、同年七月二九日にはしびれが改善し、同年七月三一日をもって治療が中止された(甲五、乙七)。

(ク) 原告は、平成二二年六月四日、c病院を受診し、うつ病性障害、慢性疼痛との診断を受けた。同病院の医師からは、「右肩を中心とした痛み持続しているが、交通事故当初から比べると少しずつ愁訴が改善してきている。症状から頚椎以外に器質的異常の存在する可能性は全く考えられず、また頚椎はa病院での画像評価で問題ないため、画像による検索はこれ以上無意味であり、痛みの治療としては神経ブロックは適応とならず認知行動療法を基本として日常生活でのリハビリと補助的薬物療法をしていくのが望ましい」との説明が行われたが、原告は上記説明をすべて受け入れず、診療契約が結べなかった。(乙八:一、一一頁)

(ケ) 原告は、平成二三年四月二一日、a病院脳神経外科において、脊椎捻挫、右肘打撲、右肩関節捻挫につき症状固定と診断された(甲二)。

同年四月二六日、原告は、右肩関節の疼痛を訴えるも、MRI検査の結果、腱板断裂はなく、同年五月二三日、a病院整形外科において、右肩、右肘打撲につき症状固定と診断された(甲六、乙一の三:一四、一一五頁)。

(コ) 原告は、平成二五年一月三日、k病院を受診し、自律神経失調症、めまい、不眠症、末梢神経障害性疼痛、頚性頭痛、頚椎症と診断された。同病院の医師は、原告の訴訟代理人弁護士からの質問に対し、原告の症状について、洋裁の仕事をされており、椎弓形成術の既往があることから、今回の症状は軽度の外傷を契機に悪化、遷延しているものと考えられ、外傷のみが原因であるとは言い難い経過である旨回答している(甲三の一ないし五、乙九)。

(2)  上記症状経過に鑑みれば、原告は、本件事故により右上腕部(肘部)打撲、右肩関節捻挫、頚椎捻挫等を受傷し、本件事故後から頚部や右肩の痛み等があったものの、遅くともe整骨院での治療が終了した平成二二年七月三一日には、それ以上の改善が見られない状態となり、症状固定に至ったものとみるべきである。

これに対し、原告は、a病院で症状固定との診断がなされた平成二三年五月二三日をもって症状固定とみるべきであると主張する。しかし、証拠(乙一の三:五一ないし五二、一〇九ないし一一四頁)によれば、原告は、平成二二年五月二〇日から平成二三年四月二一日までa病院脳神経外科を受診しておらず、平成二一年一二月一日から平成二三年四月二六日まで同病院整形外科を受診していないことが認められ、症状固定日にかかる同病院の診断は、同病院を受診していない間の原告の症状経過を踏まえることなく、最終受診日を症状固定日とするものであって、直ちには採用できない。そして、本件全証拠によっても、平成二二年七月三一日以降、治療によって原告の症状に改善が見られたとは認められず、上記原告の主張は採用できない。

他方、被告らは、本件事故から六か月が経過した平成二一年一〇月九日をもって症状固定とみるべきであると主張する。しかし、証拠(甲五、乙七)を対照すれば、被告らがその根拠とするe整骨院のカルテの記載は、いずれも平成二二年のものと認められ、被告らの主張は前提を欠く。また、証拠(甲四、乙七)によれば、平成二一年一〇月九日以降も、理学療法及び運動療法による症状の改善がなお認められ、上記被告らの主張は採用できない。

二  争点(2)(素因減額)について

前記一(1)で認定したとおり、原告には、頚椎椎弓形成術を要するほどの変形性頚椎症と、腰椎椎弓切除術を要するほどの腰部脊柱管狭窄症の既往があり、術後、脊柱管腔は保たれているものの、第五腰椎から第一仙骨間の椎間板ヘルニアは残っており、軽度脊柱管狭窄がある。

また、前記一(1)で認定したとおり、原告には、全般性不安障害の既往があり、本件事故後も、心療内科の受診を強くすすめられ、精神的なものが症状に影響しているとの意見が述べられ、うつ病性障害との診断を受けている。

そして、前記一(1)で認定した本件事故態様に鑑みれば、本件事故によって原告が受けた外力は軽微なものと解され、現に、原告が本件事故によって負った器質的損傷は、右上腕部の軽度の腫脹と発赤のみであり、原告が本件事故後に訴える頚部や右肩の痛み等については、これを裏付ける他覚的所見がない。

このような本件事故による外力の程度と受傷内容に鑑みれば、症状固定までに一年三か月余りを要した治療経過には、原告の前記既往症及び精神的素因が相当程度影響しているものと考えられ、損害の公平な分担の見地から、民法七二二条二項を類推適用し、一〇%の素因減額を行うのが相当である。

三  争点(3)(原告の損害)について

(1)  治療費 二三七万〇九九〇円

掲記載の証拠によれば、前記認定にかかる症状固定日(平成二二年七月三一日)までの治療費は、別紙三のとおりと認められる。

(2)  通院交通費 一四万〇八一〇円

弁論の全趣旨によれば、被告らは、前記認定にかかる症状固定日(平成二二年七月三一日)までの通院にかかる交通費を支払済みであり、その金額は原告主張どおりと認められる。

(3)  通院慰謝料 一二二万五〇〇〇円

本件事故による原告の受傷内容と程度、前記認定にかかる症状固定日(平成二二年七月三一日)までの通院期間と実通院日数(別紙三のとおり)等に鑑みれば、通院慰謝料としては上記金額が相当である。

(4)  休業損害 八九万三六七八円

証拠(甲一、乙一の二:四六頁、乙九:二頁、原告本人)によれば、本件事故当時、原告は、五〇歳で、高校一年生の息子と二人暮らしであったこと、原告は、平成九年ころから生活保護を受給する傍ら、洋裁の仕事等を行っていたが、既往症の手術等のため仕事ができないこともあったこと、本件事故の二か月ほど前にも、泌尿器科での手術が予定されていたため仕事を辞めており、その後、手術が不要となったものの、本件事故当時は求職中で無職であり、生活保護を受給していたことが認められる。

このような原告の生活状況に、前記認定にかかる本件事故による原告の受傷内容と程度、これが原告の主婦業に及ぼす影響等を併せ考慮すれば、原告の休業損害は、本件事故日(平成二一年四月一〇日)から前記認定にかかる症状固定日(平成二二年七月三一日)までの約一五・五月間を通じて、賃金センサス平成二二年第一巻第一表・産業計・企業規模計・女性・学歴計・全年齢平均の三四五万九四〇〇円の二〇%程度と認めるのが相当である(一円未満切り捨て、以下同じ。)。

(計算式)

345万9400円×20%×15.5月÷12月=89万3678円

(5)  文書料 〇円

原告の請求する文書料は、いずれも前記認定にかかる症状固定日(平成二二年七月三一日)以降のものであるから、本件事故との相当因果関係が認められない。

(6)  小計(前記(1)ないし(5)の小計) 四六三万〇四七八円

(7)  素因減額 一〇%

(8)  素因減額後残額 四一六万七四三〇円

(計算式)

463万0478円×(100-10)%=416万7430円

(9)  既払金 二六八万九九七六円

当事者間に争いがない。

(10)  既払金控除後残額(前記(8)-(9)) 一四七万七四五四円

(11)  弁護士費用 一四万〇〇〇〇円

本件事案の難易、審理の経過、認容額等に鑑みれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、上記金額が相当である。

(12)  合計(前記(10)+(11)) 一六一万七四五四円

三  結語

よって、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言は相当でないから、これを付さない。

(裁判官 上田賀代)

別紙一~三<省略>

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