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京都地方裁判所 平成25年(ワ)560号 判決 2013年12月17日

反訴原告

反訴被告

Y1株式会社 他1名

主文

一  反訴被告らは、反訴原告に対し、連帯して、一四九三万二五七五円、及び、これに対する平成二三年七月三日から支払済みまで年五%の割合による金員、を支払え。

二  反訴原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、五分し、その二を反訴原告の、その余を反訴被告らの負担とする。

四  この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

反訴被告らは、反訴原告に対し、連帯して、二六一九万七五〇〇円、及び、これに対する平成二三年七月三日から支払済みまで年五%の割合による金員、を支払え。

第二概要

一  争いがない事実

一般区域貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社である反訴被告Y1(株)の従業員である反訴被告Y2が運転する事業用大型貨物自動車は、反訴原告が運転する自家用普通乗用自動車(以下「反訴原告車」という。)に、平成二三年七月三日午前一時三八分頃、京都市山科区東野北井ノ上町一一番地一〇で、追突した(以下「本件事故」という。)。

反訴原告車にあった反訴原告所有のAが制作した別表一の美術品一四点(以下「本件美術品」という。)は、本件事故により損傷した。

二  反訴原告の主張の要旨

(1)  反訴原告は、美術品の販売価格を、(縦+横)×倍率a×係数P×係数Qで算出して、付している(乙一一)。

倍率a:作家・制作時期等による定数(本件美術品一は三一九三〇、本件美術品二は二八七三〇、本件美術品三~九・一四は二六九六〇、本件美術品一〇~一二は二二〇五〇、本件美術品一三は三二〇〇〇)

係数P:大きな作品が安くなりすぎることを解決するための係数(縦+横が五〇cmまでは一、五〇cm毎に〇・〇七五を加算し、最大一・四五)

係数Q:大きな作品が安くなりすぎることを解決するための係数([縦+横]×〇・〇〇一+〇・六五。但し、最大一)

なお、別表二(2)の価格は、上記の通り算出した販売価格(但し、倍率aは、符合一が一三〇七三、符合二が一一七六〇、符合三・四が二五〇〇〇)に、箱黄色袋送料(二七九〇~二万七五〇〇円)、クレジット手数料五%、消費税五%を加算した上、値引きをした。

(2)  したがって、反訴原告は、本件美術品の本件事故当時の経済的価値である反訴原告が付した販売価格(別表一「反訴原告主張」欄)の通り、損害を被った。

よって、反訴原告は、本件事故について、反訴被告らに対し、不法行為に基づき、上記損害の連帯賠償を求める(附帯請求は、これに対する不法行為の日から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支払請求である。)。

三  反訴被告らの主張の要旨

(1)  反訴原告が付した販売価格は、倍率aが恣意であるから、信用できないし、損害保険を付さず、段ボール箱に入れていたから、高価ではなかった。

本件美術品は商品であるから、反訴原告が付した販売価格は損害ではなく、仕入価格が損害である。しかし、反訴原告は、これを開示しない。

本件美術品二~一二・一四は、制作者のサインがないから、未完成であるし、本件美術品二~九・一四は、下絵である。

したがって、本件美術品の本件事故当時の経済的価値は、株式会社aの評価(甲二)に基づき、せいぜい、別表一「反訴被告ら主張」欄の通りである。

(2)  反訴原告は、本件美術品を、木箱等ではなく、段ボール箱に入れていたため、損害の発生を容易にさせた。

したがって、反訴原告の過失は、少なくとも一割あった。

理由

第一概要

本件は、追突事故によって反訴原告車で搬送されていた本件美術品が損傷したことについて、所有者が、加害者とその使用者に対し、損害の連帯賠償を請求したものである。

主たる争点は、本件美術品の時価である。

本件美術品は、現代アートで、制作者のエージェントである反訴原告が、制作者から仕入れ、本件事故直後、販売することを予定していた。その先の流通量は少ない。

当裁判所は、他の取引の比較等から、サインがないため未完成という反訴被告の主張を採用せず、反訴原告が付した販売価格の相当性を認め、デッドストックの要素及び相手方との合意(いわゆる値引)の要素で減価して、反訴原告の損害を、上記販売価格の六〇%と認めた。

また、反訴原告の搬送方法を、損害拡大防止義務違反と評価して、五%の過失相殺を認めた。

よって、反訴原告の請求は、一部認容し、民事訴訟法六四条本文、同法二五九条一項を適用して、主文の通り判決した。

第二本件美術品の本件事故当時の経済的価値(時価)

一  証拠(各認定事実末尾括弧内記載)によれば、以下の事実が認められる。

(1)ア  反訴原告は、株式会社bの代表取締役を務め、○○を主宰する画商である(弁論の全趣旨)。

反訴原告は、Aの日本におけるエージェントであった(甲二、乙二、一〇)。

イ  A(昭和一九年生)は、

ウ  Aは、作品証明書をもって、美術品の制作者の特定を行っていた(乙一―三、二)。

エ  株式会社bは、平成二二年一月一六日に別表二(1)の通り(乙一五)、平成二四年九月一四日に別表二(2)の通り(乙九)、Aの美術品の売買を成立させた。

Aの美術品は、平成二五年五月二五日、別表二(3)の通り、オークションで、売買が成立した(乙一三~一四〔枝番含〕)。

(2)  反訴原告は、平成二三年一〇月二一日~一一月一三日に開催されるAの個展で(乙一〇)、反訴原告が所有する本件美術品を販売する予定であったところ、事前に、特定の顧客に対し、本件美術品の購入を勧める目的で、本件美術品を搬送していた際、本件事故(平成二三年七月三日)にあった(甲二)。

反訴原告は、本件事故当時、反訴原告車内で、本件美術品を、段ボール箱に入れ、Bが制作した美術品を入れた木箱の横に立てかけていた(甲二)。

(3)  株式会社aは、本件美術品について、美術品という物流的要素及びコンディションを検証して、「仕入価格」又は「販売によって得られる利益等を含まない」「総製造原価額」からデッドストックの要素を考慮した「時価額」として、以下の通り、評価した(甲二)。

ア 本件美術品一:一五〇~二一〇万円

ある海外のオークションにおいて約七五万円で落札されたAの美術品(二〇cm×三〇cm。アクリル、キャンバス。黒・黄色・青等を用いた多色で六~七月がモチーフ)と比較して、デザイン感や制作年が新しく人気度が高いことから、販売価格三四六万五〇〇〇円(税込)を否定しない。

イ 本件美術品一三:一五~二五万円

海外において約二一万円で販売されたAの美術品(七〇cm×一一八cm。モノクロエッチング)と比較して、販売価格三六万七五〇〇円(税込)を否定しない。

ウ 本件美術品二~一二・一四:各一〇~二〇万円

サインが無く制作者の特定ができないものの、制作者が想定されるから、販売用作品に至らない参考作品として位置づけ得る。

二  当裁判所の判断

(1)  反訴原告が付した販売価格の相当性について

確かに、反訴原告が付した販売価格の算出式は、大きさ以外の要素である倍率aが、不規則に端数であることや、同じ制作年と素材にもかかわらず異なるものがあること(本件美術品二と本件美術品九)が指摘できる。

しかし、売買が成立したAの美術品の価格と比較すれば(上記一(1)エ)、反訴原告が付した販売価格は、相当である。また、株式会社aも、未完成と評価したものを除いて(本件美術品一・一三)、反訴原告が付した販売価格の相当性を否定しない(上記一(3)アイ)。もちろん、この販売価格で売買が成立する蓋然性を認めたわけではない。

なお、Aは、作品証明書をもって、作家の特定を行っており(上記一(1)ウ)、Aの美術品は、サインがなくても、取引されている(上記一(1)エ別表二(3))。また、Aは生存し、反訴原告はAのエージェントとして(上記一(1)ア)、サインが重要であれば、同人から容易に得ることができる。そして、本件美術品二~一二・一四は、本件事故当時、制作されて五年が経過していた上に(別表一)、本件事故は、反訴原告が特定の顧客に本件美術品の購入を勧める目的で搬送中に発生し、約三か月後に開催される個展で販売される予定もあった(上記一(2))。したがって、本件美術品二~一二・一四を、本件事故当時、未完成と評価できない。

(2)  減価要素について

ところで、本件美術品は、本件事故当時、売買が成立していない商品であった。よって、本件美術品の本件事故当時の経済的価値として、反訴原告が付した販売価格を損害と認めることは、反訴原告に未確定の販売利益を取得させることになり、相当ではない。他方、反訴原告は、本件美術品の制作者であるAのエージェントであり(上記一(1)ア)、流通の最上流にいた。よって、反訴原告の仕入価格を損害と認めることは、経費を考慮せず、特殊な価格に損害を限定することになり、相当ではない。

したがって、本件美術品の本件事故当時の経済的価値は、反訴原告が付した販売価格から、デッドストックの要素及び相手方との合意(いわゆる値引)の要素を控除したものと認める。

そして、本件美術品は一四点と比較的多数であること、反訴原告は、一〇%以上も値引きをして売買を成立させたこともあること(上記一(1)エ別表二(2)符合一・二)も考慮して、デッドストックの要素及び相手方との合意(いわゆる値引)の要素を▲四〇%と認める。

なお、株式会社aの評価は、「仕入価格」又は「販売によって得られる利益等を含まない」「総製造原価額」から、更にデッドストックの要素等を考慮するから(上記一(3))、相当ではない。他方、反訴原告は、本件美術品について、本件事故当時が販売に最適として、流通に供しようとしたことが認められること、将来の諸経費の増加の可能性、中間利息控除等を考慮すれば、美術品は古ければ値段が上がることが多いという観点をもって、デッドストックの要素等を小さく評価することはできない。

(3)  まとめ

以上の通り、反訴原告の損害である本件美術品の経済的価値は、販売価格二六一九万七五〇〇円からデッドストックの要素等四〇%を控除した一五七一万八五〇〇円と認める。

第三過失相殺

座席ベルトや乗車用ヘルメットの装着義務違反(道路交通法七一条の三、七一条の四)が、人的損害を拡大した場合、被害者(側)の過失として、賠償の額を考慮できる。これは、物的損害において、損害拡大防止義務違反がある場合も同様である。

本件美術品は、段ボール箱に入れられ、本件事故の衝撃により、反訴原告車内で木箱と接触し、損傷した(第二-一(2))。

このような搬送方法は、反訴原告の損害拡大防止義務違反と評価できる。したがって、追突事故である本件事故の態様等も考慮して、反訴原告の過失を▲五%と認める。

(裁判官 永野公規)

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