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京都地方裁判所 平成25年(ワ)715号 判決 2014年12月04日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  株式会社aと被告Y1信用金庫との間の別紙1債権譲渡目録記載の債権譲渡契約を原告X1につき803万5793円の限度で、原告X2につき690万3874円の限度で、原告X3につき969万7766円の限度で、原告らと被告Y1信用金庫との間で取り消す。

2  ((1)と(2)は択一的)

(1)  株式会社aと株式会社bとの間の別紙2自動車目録記載自動車番号1ないし4の売買契約及び被告株式会社Y2との間の同目録記載自動車番号5ないし9の売買契約を、原告らと被告株式会社Y2との間で取り消す。

(2)  株式会社aと被告株式会社Y2との間の同目録記載自動車番号1ないし9の売買契約を、原告らと被告Y2社との間で取り消す。

3  ((1)が主位的、(2)が予備的)

(1)  被告Y1信用金庫と被告株式会社Y2は連帯して、原告X1に対して803万5793円、原告X2に対して690万3874円、原告X3に対して969万7766円及びこれらに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被告Y1信用金庫と被告株式会社Y2はそれぞれ、原告X1に対して803万5793円、原告X2に対して690万3874円、原告X3に対して969万7766円及びこれらに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等

株式会社a(以下「a社」という。)に雇用されていた原告ら(以下、各原告を呼称する場合は、原告らの氏に応じ、「原告X1」のようにいう。)は、平成22年9月以降の未払賃金及び同年8月分までの未払時間外手当の支払等を求め、a社を被告として、訴えを提起し、勝訴判決を受けた。

原告らは、a社が、①平成22年10月頃、被告Y1信用金庫(以下「被告Y1社」という。)に対して売掛債権を譲渡担保に供した(以下「本件債権譲渡担保」という。)、②平成24年5月、株式会社b(以下「b社」という。)に対して別紙自動車目録記載自動車番号1ないし4の自動車4台(以下、同目録の番号に応じ、「本件自動車1」のようにいう。)を売却し(以下「本件自動車売買1」という。)、その後、これらの自動車が、同年6月26日、被告株式会社Y2(以下「被告Y2社」という。)に転売された、③同日、被告Y2社に対して本件自動車5ないし9の自動車5台(以下、本件自動車1ないし4と併せて総称する場合は「本件各自動車」という。)を売却した(以下「本件自動車売買2」といい、本件自動車売買1と併せて総称する場合は「本件各自動車売買」という。)として、これらが詐害行為に当たるとして、これらの取消しを求めた(なお、本件自動車売買1については、登録事項等証明書の記載上は、上記のとおり、a社からb社、被告Y2社へと順次移転されているのに対し、実際の売買契約では、a社から被告Y2社への直接移転された形となっている。そこで、原告らは、本件自動車売買1については、登録事項等証明書の記載に基づく場合又は実際の売買契約書に基づく場合のいずれかを択一的に取り消す旨の請求をしている。)。

また、原告らは、被告らに対し、現物返還が困難であるとして、価格賠償及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで各年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(主位的には不真正連帯債務であることを前提にした請求を、予備的には不真正連帯債務でないことを前提にした請求をしている。)。

1  前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除いて、当事者間に争いがない。)

(1)  当事者等

ア a社は、一般貨物自動車運送事業、倉庫業等を目的とする株式会社であったが、平成24年11月1日、事実上倒産し、株主総会の決議により解散した(乙20、26など)。

イ 原告X1は平成18年8月、原告X2は平成21年4月、原告X3は平成20年9月、それぞれトラック運転手としてa社に採用された。

(2)  原告らのa社に対する債権(被保全債権)

原告らは、a社を被告として、雇用契約上の地位の確認、未払賃金の支払及び未払時間外手当の支払を求めて、京都地方裁判所に訴えを提起した(平成23年(ワ)第1277号)。

京都地方裁判所は、平成25年2月1日、①原告らが雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、②原告らの被告に対する平成22年9月分以降の賃金(以下、同賃金に係る債権を「本件未払賃金請求権」という。)支払及び③同年8月末日までの時間外手当(以下、同手当に係る債権を「本件未払時間外手当請求権」といい、本件未払賃金請求権と併せて「本件賃金債権」という。)の支払を命ずる判決をし、同判決は同月21日に確定した(甲2。以下「前訴判決」という。)。

前訴判決に先行する原告らに係る賃金仮払いの仮処分申立事件等の決定及び和解に基づきa社から原告らに対して支払がされるとともに、労働者健康保険福祉機構から原告らに立替払がされたため、前訴判決に基づく原告らのa社に対する債権の額は、原告X1につき803万5793円、原告X2につき690万3874円、原告X3につき969万7766円となった。

(3)  a社と被告Y1社との間における本件債権譲渡担保

a社と被告Y1社との間においては、別紙1債権譲渡目録記載のとおりの本件債権譲渡担保が平成22年9月30日に締結された旨の契約書及び登記が存する(甲3の1ないし8、乙1。以下、本件債権譲渡担保に係る契約を「本件債権譲渡担保契約」という。)。

なお、実際の契約締結日については争いがある。

(4)  a社と被告Y2社との間における本件各自動車売買等

ア a社と被告Y2社との間では、本件各自動車外1台の合計10台(以下「本件各自動車等」という。)を3000万円でa社から被告Y2社に移転する旨の平成24年6月22日付けの自動車売買契約書が存する(丙3)。

他方、登録事項等証明書においては、本件自動車1ないし4については、平成24年5月8日に、a社又はリース会社から株式会社b(以下「b社」という。)に対して移転された旨の登録がされた後に、同年6月26日に、b社から被告Y2社に移転された旨の登録がされている。また、本件自動車5ないし9については、同日、a社又はリース会社から被告Y2社に移転された旨の登録がされている(甲8の1ないし9)。

イ a社と被告Y2社は、平成24年6月26日、被告Y2社が本件各自動車をa社に期間1年間ないし3年間で賃借する旨の契約をした(丙4、18)。

2  主要な争点

(1)  被保全債権である本件賃金債権が詐害行為の前に発生していたか【被告Y1社の関係】

(2)  本件債権譲渡担保及び本件各自動車売買の詐害性の有無【被告Y1社及び被告Y2社の関係】

(3)  受益者又は転得者である被告らは、本件債権譲渡担保及び本件各自動車売買が債権者を害するものであることにつき善意であったか【被告Y1社及び被告Y2社の関係】

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(被保全債権である本件賃金債権が詐害行為の前に発生していたか)について【被告Y1社の関係】

(原告の主張)

ア 本件債権譲渡担保は、その登記において、いずれも登記原因日付を平成22年9月30日とされているが、それに係る合意は同年10月6日にされたものである。実際には、原告X2が、同年10月5日、原告らの解雇と原告らが加入したc労働組合がa社との間で争議に入ったことを記載したビラ(甲4)を被告Y1社本店に持参したことを受けて、被告Y1社が、本件債権譲渡担保の登記時刻である同月7日8時30分の前日に、急きょ、登記原因日付を遡らせてなされたものである。

被告Y2社が、本件各自動車の売買を持ちかけられたと主張するb社の代表取締役でもあったA公認会計士(以下「A公認会計士」という。)は、被告Y1社が、a社の経営改善のために派遣していた人物であり、同人を通じて、被告Y1社はa社の経営の内情と労使紛争を熟知していた。したがって、同月27日までa社の労使紛争に関して認識がなかったかのようにいう被告Y1社の主張は事実ではない。

イ 本件の被保全債権のうち本件未払時間外手当請求権が、全て同月6日以前に発生していたことは明らかである。

本件の被保全債権のうち本件未払賃金請求権は、厳密には、同月6日以前に全債権が発生していたとはいえないが、その基礎となる法律関係が存する場合には債権発生の蓋然性があるとして取消権を認めるべきである。

また、将来の売掛金債権につき支払停止等を停止条件とする債権譲渡契約が締結された場合の債権譲渡契約の詐害行為性の客観的要件の成否は、契約締結時ではなく、債権が特定した時とすべきである。本件でも、将来の売掛金債権の包括的な譲渡担保契約の事案であり、譲渡担保の実行された債権が具体的に特定した時点をもって詐害行為の成否を判断すべきとすれば、それまでに発生している未払賃金債権については被保全債権とされるべきである。

加えて、本件債権譲渡担保契約においては、通常の営業時は売掛金を事業遂行に使用し、取立委任解除時に回収を図る方法がとられているが、被告Y1社による取立委任の解除をもって、被告Y1社による現実の債権回収が行われるということであれば、被保全債権の対象を画する時期は、被告Y1社による取立委任の解除時点とすべきであるとも解される。

そして、本件では、その発生の蓋然性があるのを見越して、あらかじめ財産を処分して強制執行を免れる行為がされたものであるから、後に発生した本件未払賃金請求権を被保全債権とする取消権の行使が認められるというべきである。

(被告Y1社の主張)

ア 本件債権譲渡担保は、a社の公租公課支払のための平成22年9月30日の融資を行うに当たっての融資条件として、同日担保設定をしたものである。

すなわち、平成22年当時、a社は、既存取引先からの売上減少、新規取引先開拓が思うように進まず、従前から取り組んできた経営改善が進まないことから、同年9月には再生支援協議会を利用して融資条件の変更を得ることで会社経営の再建を図ることを希望した。しかし、a社には、このとき、本税だけで約2000万円の公租公課の未納があった(乙10)。再生支援協議会における協議を行うには、資金繰りの目処があることが必要であるところ、公租公課の未納は大きな障害となり、また、加算税・延滞税がかさみ滞納処分による差押えの可能性もあるため、貸出金融機関は協議の上、a社が事業を継続するための緊急の支援として、融資によりa社の税金の滞納を早急に解消し、返済終了時点で再生支援協議会に諮るものとした。この税金滞納のための融資は最大債権者である被告Y1社が行うこととなったが、事業資金以外の融資(事業収益からの返済が望めず、返済原資が明確でない)は通常行わないことから、最優先での返済を条件とし、その返済期間中は他の債権の返済が後回しになるという特殊なものであった。そのため、被告Y1社は融資を行うに当たり、延滞金のかさむ本税を解消できる2000万円のみを融資額とし、また、当該融資により、当時既に存在していた2億円以上あった未保全債権額がさらに増加する上、従前の融資の返済が後回しになり、貸し倒れの危険が高まることから、従前の担保に加え新たにa社の売掛債権を譲渡担保として取得することになったものである。上記2000万円の融資及び本件債権譲渡担保の契約は、平成22年9月30日に行われた。

イ 本件未払賃金請求権は平成22年9月末日以降のものであり、本件債権譲渡担保契約以降に発生したものであるから、詐害行為取消権の被保全債権とはなり得ない。

また、包括的債権譲渡担保設定契約の詐害行為性が訴訟で争われる場合に、その基準時点は、譲渡担保設定契約時であり、実行時ではない。

ウ 原告X2が平成22年10月5日に被告Y1社を訪れたことはない。原告X2が被告Y1社本店にビラを持参したのは、同月27日である(乙11、12)。したがって、原告X2がビラを持参したことにより、被告Y1社が債権譲渡登記の原因日付を遡らせることはあり得ない。

エ 原告らは、A公認会計士につき、被告Y1社がa社の経営改善のために派遣していた人物であるとし、かつ、同人を通じて、被告Y1社はa社の経営の内情と労使紛争を熟知していたとするが、そのような事実はない。A公認会計士は、被告Y1社とは雇用あるいは委任関係にはなく、a社から委任を受けた者であり、被告Y1社に同社の承諾なく「経営の内情」なるものを報告したり、被告Y1社のために動いたりする立場でもないし、実際にそのようなことがなされた事実もない。

(2)  争点(2)(本件債権譲渡担保及び本件各自動車売買の詐害性の有無)について【被告Y1社及び被告Y2社の関係】

(原告の主張)

ア 本件債権譲渡担保について

一部の債権者に対する担保供与行為は、一般的に詐害行為に当たる。担保供与行為が合理的な限度を超えない場合には、例外的に詐害行為に当たらない場合もあるが、本件では2000万円の新規借入れのために将来10年間にわたる主要な全取引先に係る全売掛債権を包括的に譲渡担保に供したというのであって、到底合理的な限度を超えないとはいえない。

担保設定契約書によれば、被告Y1社が「通常の事業遂行に必要な範囲を超えると合理的に」認めた場合、あるいは取立委任の解除が必要であると判断した場合、譲渡された売掛債権はそれ以後、全て被告Y1社への債務弁済に充当されることになる。それが、債権譲渡担保方法として一般的であるとしても、そのことは詐害性を否定するものではない。被告Y1社の恣意によって、「10年分の債権の回収」も可能とする契約は、合理的な範囲を超えたものといわざるを得ない。

イ 本件各自動車売買について

不動産の売却については、それが相当な価格によるものであっても詐害行為が成立するとされている。本件各自動車は不動産ではないが、自動車については、登記制度に物件変動が公示されるのと同様に、登録制度によって物件変動が公示される。また、価格の面においても、本件各自動車は不動産に匹敵するものである。本件各自動車の売却は、把握しやすい財産から隠匿されやすい財産に転化したものとして、不動産の売却と同視できるというべきである。本件自動車1ないし4につき、いったんa社からb社に所有名義が移転されているなどの不審点がある点も、詐害性の判断に当たり考慮されるべきである。

さらに、被告Y2社の主張によっても、相当価格が3270万円であるのに、これを3000万円で売却したのであれば、やはり相当な価格による売却とはいえない。

被告Y2社は、実質的には、被告Y2社が重要な取引先であったa社の資金繰りを助け、その再建を図る目的の下、a社が本件各自動車を被告Y2社に対して担保の供する代わりに、融資を得て事業の継続・再建を図ったものであると主張するが、a社と被告Y2社が共同して、a社の事業停止と新会社設立に向けて車の所有権移転を図ったのであり(丙1)、a社の事業の継続、再建を図るものではないことは明らかである。

被告Y2社は、本件においては、被告Y2社が本件自動車を購入して代金3000万円をa社に支払い、同時に、被告Y2社から本件自動車をa社にリースする形式をとっている旨主張するところ、そうであれば、詐害行為に該当するか否かは、売買契約とリース契約を一体にとらえて評価すべきである。被告Y2社が提出する証拠によれば、本件各自動車についての被告Y2社から第三者への転売時期は平成24年10月から平成25年1月にかけてである。被告Y2社は、上記転売の結果530万2172円もの赤字が生じたと主張するが、この赤字の原因は、a社が営業を停止したため、わずか4ないし6か月の賃貸借期間で第三者に転売しなければならなかったからである。被告Y2社が提出した丙18のとおりの賃貸料であるとすれば、あと6か月賃貸借が継続されれば転売益が発生することとなり、売却後1年を待たずして、以後毎月100万円前後の賃料による利益がa社から被告Y2社にもたらされることとなる。本件各自動車の売買代金だけでなく、売買契約と一体になった賃貸借契約に基づいて支払われる賃料を、転売により被告Y2社が得る益をも想定して評価すれば、これは被告Y2社に大きな利益をもたらすものであって、a社との間で、その財産権を目的とする債権者を害する法律行為があったというべきである。

(被告Y1社の主張)

ア 本件債権譲渡担保は、a社の公租公課支払のための平成22年9月30日の融資を行うに当たっての融資条件として、担保設定をしたものであり、何ら詐害性は存しない。

イ 本件債権譲渡担保の設定は、既に従前の融資について担保不足が生じている中で、2000万円の公租公課未納金支払のための融資を行った際に行われたものであり、同融資金は実際に未納公租公課支払に充てられている。また、既存の債権(2億円以上が担保評価を超えていた)についても、新規融資の返済を先行させるため貸し倒れの危険が強まり、これを担保する目的もあった。営業の継続のために必要な行為であるから詐害行為には当たらないというべきところ、本件は優先債権弁済のための、まさに営業の継続のために必要な行為であるから、詐害行為には当たらない。

ウ また、担保設定の範囲について、本件債権譲渡担保契約においては、債務者兼担保設定者であるa社は、信用金庫が取立委任を解除した場合を除いては、信用金庫からの委任を受けて、譲渡担保債権を第三債務者から取り立てることができ、さらに回収金は被告Y1社が債務者の通常の事業遂行に必要な範囲を超えると合理的に認めた場合以外は会社の通常の業務のための運転資金として使用することができる。上記のような、通常の営業時は売掛金を事業遂行に使用し取立委任解除時に回収を図る方法は、債権譲渡担保として一般的な方法である。すなわち、集合債権譲渡担保契約において、その担保価値は「10年分」の債権ではなく、実際に10年分の債権が回収できるわけではない。金融機関は、取立委任解除時に存在する未回収の売掛金の担保価値を把握しているにすぎない。本件債権譲渡担保は2000万円の新規融資額及び既存の債権額に比して合理的な範囲を超えるようなものではない。実際の回収上も、債権譲渡担保は、取立委任解除時、すなわち主に企業が継続的営業を行わなくなってから、取引当事者ではない金融機関が債権の回収を図るものであり、企業の協力も実際には見込めず、また既に債務者企業が回収済みである、譲渡禁止特約がある等の債権自体の瑕疵が存在する、売掛先も資力がないなどの理由で回収は困難である(なお、本件債権譲渡担保の現在までの総回収額は344万6985円である。)。

(被告Y2社の主張)

ア(ア) 本件各自動車売買は、相当価格で処分されたものであり、詐害性はない。

すなわち、破産法は、相当の対価を得てした不動産の処分に限って、厳格な要件の下に否認権行使を認めているが、それは、詐害行為取消権にもそのまま妥当するというべきである。そして、破産法ですら否認権行使が認められていない動産の相当価格での処分は、詐害行為取消権の対象にもなり得ないというべきである。本件各自動車を市場において購入する場合の価格は3270万円程度であるところ(丙1の2)、被告Y2社は、市場価格と極めて近似した3000万円という価格でa社から本件各自動車を購入している(丙3)。

被告Y2社が本件各自動車をa社から購入した際の価格は、インターネット上の中古販売価格と比較しても、相場よりむしろ高いものである(丙7)。さらに、被告Y2社がa社から本件各自動車を購入した価格は、被告Y2社が本件各自動車を転売する際の査定結果(丙5、8)の約2倍となっている。

したがって、本件各自動車売買は、動産の相当価格による処分に該当し、およそ詐害性を有しない。

(イ) 本件各自動車は、いうまでもなく不動産ではないから、その相当対価での売買ないし担保提供行為を、不動産の相当対価での売買ないし担保提供行為と同視することはできない。また、原告らは、本件各自動車の価格が不動産に匹敵することをもって、詐害行為取消権の行使に当たって不動産と同視すべきと主張するが、無価値同然の不動産もあれば、貴金属等極めて高価な動産も無限に存在する以上、動産の価格を理由に、詐害行為取消権の行使に当たって、本件各自動車の売買ないし担保設定行為を不動産のそれと同視することはできない。

イ 本件は、後の(3)の被告Y2社の主張に述べるように、実質的には、被告Y2社が重要な取引先であったa社の資金繰りを助け、その再建を図る目的の下、a社が本件各自動車を被告Y2社に対して担保の供する代わりに、融資を得て事業の継続・再建を図ったものである。

これまでの裁判例においても、債務者が倒産を防ぎ、事業を継続し、事業再建のために融資を受けて行った担保設定行為について、担保提供行為として合理的な範囲内である場合には詐害行為性が否定されている。

上記アのとおり、本件各自動車の購入価格が市場価格と比較して相当であったこと、それどころか、被告Y2社が本件各自動車を転売した結果、被告Y2社の売却損益は530万2172円の赤字になっていて、被告Y2社には全く利益をもたらすものではなかったことからすると、本件各自動車売買は、担保提供行為として合理的な限度を超えるものではないことは明らかであって、到底詐害行為と評価されるものではない。

ウ(ア) 原告は、a社と被告Y2社が共同して、a社の事業停止と新会社設立に向けて車の所有権移転を図ったのであり、a社の事業の継続、再建を図るものではないなどと主張するが、被告Y2社は、近畿近辺の運送事業の一部を、かねてからa社に委託するなど同社と取引があったところ、平成24年5月頃、a社の代表者から運送事業の譲渡を打診され、自身の物流組織があれば好ましいと考えていたことから、前向きにその話を聞いていたが、結局、同年8月頃にa社が清算する方向であるとの情報に接したため、実現には至らなかったものである。他方、a社は、何よりもトラック売却代金として被告Y2社から融資を受けることを求められ、被告Y2社は、特に購入の必要はなかったものの、a社が倒産すると、たちまち被告Y2社の関西における配送が滞り、大変な業務上の支障が生じるおそれがあったことから、その申出に応じたものである。

(イ) 原告は、本件自動車1ないし4につき、いったんa社からb社に所有名義が移転されているなどの不審点がある点も、詐害性の判断に当たり考慮されるべきであると主張するが、被告Y2社は、売買契約当時、本件各自動車の全てをa社から購入し、同社に売却代金を支払うものと認識していた。

(ウ) 原告は、本件各自動車売買が賃貸借契約と一体として原告らを害していると主張するが、原告らが本件訴訟で取消しの対象としているのはあくまで売買契約であり、その後の賃貸借契約と一体的にみて評価することはできない。また、賃貸借契約に関しても、売買代金相当額が数年にかけて回収されるだけで(しかも、各車両ごとに賃貸期間が異なっており、3年でようやく3000万円を回収できるような契約となっていた。)、被告Y2社においてなんらの利得目的ではないことが明らかである。のみならず、仮に一体的に評価するのであれば、賃貸者契約における賃料はa社側で定められたものであることをも勘案すれば、本件各自動車売買は賃貸借契約と併せて、まさにa社の資金繰りを助けるために実施したものであり、被告Y2社において何らかの利得を得るために実施したものではない。

(3)  争点(3)(受益者又は転得者である被告らは、本件債権譲渡担保及び本件自動車売買が債権者を害するものであることにつき善意であったか)について

(被告Y1社の主張)

被告Y1社は、平成22年9月30日当時、原告らの被保全債権の存在を知らなかった。

また、本件債権譲渡担保契約当時、a社は破産が懸念されるような危機的状況にはなく、被告Y1社は本件債権譲渡担保が他の債権者を害するとの認識はなかった。

そもそも、債務超過時であっても、企業の存続のため必要な行為は、担保設定行為を含め詐害行為には該当しないとされており、本件はこれに該当する。もちろん、被告Y1社には、他の債権者を特に害する認識もなかった。

(被告Y2社の主張)

ア 被告Y2社は、平成24年5月末頃、b社の代表取締役でもあったA公認会計士を通じて、本件各自動車売買の話を持ちかけられた。その内容は、a社の再建のために、本件各自動車売買を検討してほしいというものであった。具体的には、被告Y2社が本件各自動車を購入して代金をa社に支払い、同時に被告Y2社から本件各自動車をa社にリースすることで、a社の資金繰りを助け、再建を図るというスキームであった。被告Y2社は、従前からa社と取引をしており、被告Y2社の京阪地域の顧客への配送は、これまで専ら京都府久世郡<以下省略>にあるa社の配送センターを通じて行われていた。被告Y2社は、a社に代わる京阪地域における配送業者を見つけることもできなかったため、事業遂行上極めて重要な取引先であったa社の再建に手を貸すこととしたものである。

その後、平成24年6月8日、Aから、被告Y2社がa社から本件各自動車を購入する際の売買代金及び購入後のa社に対するリース料についての具体的な提案がメールでされた(丙1の1・2)。Aが被告Y2社に送ったメールの添付資料である丙1の2をみると、「a社における簿価での買取という方法もありますが、金融機関側から詐害行為として否認される事になります。」との記載があり、それを受けて、Aから市場価格である「3270万円」を提示されていることが分かる。すなわち、Aは、被告Y2社に対し、a社における簿価では詐害行為となってしまうが、市場価格である「3270万円」程度であれば、詐害行為として否認される心配がない旨明確に伝えており、被告Y2社はかかるAの提案を受けて、市場価格で購入する旨の判断をした。以上から、被告Y2社においては、Aからのメールによりa社における簿価ではなく、市場価格である「3270万円」程度であれば詐害行為に当たらないと認識していた。被告Y2社は、そのような認識の下、実際に本件各自動車と併せて合計10台を合計3000万円で購入したものである(丙3)。

したがって、被告Y2社が本件各自動車売買の詐害性について善意であったことは明らかである。

イ 被告Y2社は、本件各自動車を購入後、最終的には第三者(株式会社lなど)に転売しているが、被告Y2社の購入総額が3000万円であるであるのに対し、第三者に転売した後の被告Y2社の売却損益は530万2172円の赤字となっている。このことは、本件各自動車の売買が被告Y2社にとって不当な利益をもたらすものではなく、まさにa社の資金繰りを助け、再建を図る目的であったことの証左であり、当初から転売目的で買い受けたものでないことはいうまでもない。なお、被告Y2社が、本件各自動車を第三者に転売した理由は、a社の再建がかなわず、被告Y2社において本件各自動車を保有し続ける理由がなくなったが、a社に売却することもできなかったことにあり、やむを得ず第三者に売却したものである。

(原告の主張)

ア 被告Y1社について

被告Y1社は、原告らの債権の存在を知らなかった旨主張するが、詐害行為の成立には、債務者がその一般の債権者を害することを知って法律行為をしたことを要するが、かならずしも特定の債権者を害することを意図し、又は意欲してこれをしたことを要しない(最高裁昭和32年(オ)第362号第三小法廷判決同35年4月26日・民集14巻6号1046頁)というべきであり、被告Y1社は、a社が「このとき、本税だけで約2000万円の公租公課の未納があった」ことを認識し、a社の無資力について認識していた。被告Y1社が主張するような「倒産が懸念されるような危機的状況」の認識などは必要ではないし、特定の債権の存否についての認識も必要ではない。「本税だけで約2000万円の公租公課の未納があった」という本件債権譲渡担保の契約時における認識だけで、無資力の認識としては十分である。被告Y1社が、未払賃金債権の存在を認識していたかどうかは、詐害行為取消権の成否には全く関わらない。

イ 被告Y2社について

被告Y2社は、丙1のメールをもって、同被告の善意をいう。しかしながら、A公認会計士は、被告Y1社からa社に派遣されたものであって、その行動は、被告Y1社の意を体したものであったが、上記文面を読む限り、原告ら若しくは原告らの所属するc労働組合を嫌悪したa社と被告らが、原告らを企業外に排除した上、労働債権の支払を免れるために、a社を偽装閉鎖・倒産させ、実際にはa社を承継する新会社を被告Y2社とa社の関係者によって岡山において設立して、被告Y1社がその債権の回収を図ろうとしたものと考えるのが合理的である。しがって、被告Y2社がa社の債権者を害することを知らなかったとはいえない。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(被保全債権である未払賃金債権が詐害行為の前に発生していたか)について【被告Y1社の関係】

(1)  本件債権譲渡担保が行われた時期について

ア 本件においては、a社と被告Y1社との間で交わされた譲渡担保設定契約証書(乙1)が存するところ、これによれば、本件債権譲渡担保契約が締結されたのは平成22年9月30日であることが明らかであり、他に同認定を覆すに足りる的確な証拠は存しない。

イ この点、原告らは、本件債権譲渡担保は、その登記において、いずれも登記原因日付を平成22年9月30日とされているが、それに係る合意は同年10月6日にされたものであるとし、実際には、原告X2が、同月5日、原告らの解雇と原告らが加入したc労働組合がa社との間で争議に入ったことを記載したビラ(甲4)を被告Y1社本店に持参したことを受けて、被告Y1社が、本件譲渡担保の登記時刻である同月7日8時30分の前日に、急きょ、登記原因日付を遡らせてなされたものである旨を主張する。

しかしながら、原告らの立証の全てを前提にしても、上記主張に係る事実を認めることは困難であり、同主張は採用し難いといわざるを得ない。

(2)  被保全債権が本件債権譲渡担保の前に発生したといえるかについて

ア 本件において、原告らが被保全債権であると主張するものは、本件未払賃金請求権及び本件未払時間外手当請求権である。

イ 本件未払時間外手当請求権については、前記第2・1の前提となる事実(2)に述べたように、本件債権譲渡担保契約が締結された平成22年9月30日以前である同年8月末日までに生じたものであるから、本件の詐害行為取消権の被保全債権になると認めるのが相当である。

ウ(ア) 本件未払賃金請求権については、平成22年9月末日以降分に発生するものであるから、少なくとも同年10月末日分以降のものは、本件債権譲渡担保契約の締結以後に具体的に発生することとなる。

ところで、被保全債権は詐害行為以前に発生することを要するとされているところ、これは、詐害行為取消権が債務者の一般財産を引き当てとした債権者の債権を保全することを目的とした制度であるからである。そうすると、被保全債権がいまだ具体的に発生していない場合であっても、債権発生の基礎となる法律関係が既に存在し、債権の発生がかなりの蓋然性をもって予測される場合においては、債権者において債務者の財産を引き当てとすることについて合理的な期待を抱いているということができ、当該被保全債権は詐害行為以前に発生したものと認めるのが相当である(なお、最高裁昭和43年(オ)第1215号同46年9月21日第三小法廷判決・民集25巻6号823頁参照)。

本件においては、原告らは、本件未払賃金請求権発生の基礎となる法律関係であるa社との雇用契約が本件債権譲渡担保契約以前から存在していたと主張しているところ、本件債権譲渡担保の契約時(平成22年9月30日)には、原告らとa社との間には、そもそも上記雇用契約関係の有無について争いがあり、また、その存続についても鋭い対立関係が存していたことや(甲2)、原告らの申し立てた賃金の仮払いの仮処分の決定等もいまだされていなかったことがうかがわれること(弁論の全趣旨)に加え、労務の提供に対する対価としての賃金に係る債権は労務の提供があって初めて生じるものであり、労務の提供の有無は労使双方に係る将来の不確定な事情(使用者側の倒産や労働者側の病気などの事情)によっても左右され得るものであることをも考慮すると、少なくとも本件未払賃金債権の発生がかなりの蓋然性をもって予測される場合であったとは認め難いものというべきである。

また、この点に関する原告らのその余の主張はいずれについても、採用し難い。

そうすると、本件未払賃金請求権については、本件の詐害行為取消権の被保全債権にはならないものというべきである。

(3)  以上の検討によれば、本件未払賃金請求権は本件の詐害行為取消権の被保全債権にはならないが、少なくとも本件未払時間外手当請求権はその被保全債権になるというべきである。

そこで、以下においては、その余の争点についての検討を進めていくこととする。

2  争点(2)(本件債権譲渡担保及び本件各自動車売買の詐害性の有無)について【被告Y1社及び被告Y2社の関係】

(1)  被告Y1社に関して

ア 前記1に述べたほか、前記第2・1の前提となる事実に加え、証拠(本文中に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 被告Y1社の融資先であったa社は、平成22年当時、既存取引先からの売上げが減少し、新規取引先の開拓も思うように進まなかったことから、同年9月、被告Y1社に対し、再生支援協議会を利用して融資条件の変更をするよう申し出た(乙26、証人B)。

当時、a社には、本税2005万円程度、加算税及び延滞税316万円程度の公租公課の滞納があり(乙10)、滞納処分による差押えを受ける可能性があるなど、企業の再生に必要な資金繰りの目処が立たず、再生支援協議会を利用することができない状況にあった。

そこで、被告Y1社を含めたa社の貸出金融機関は、協議の上、緊急の支援策として、a社の公租公課の滞納を早急に解消するべく融資をすることとした。

(イ) 当時最大債権者であった被告Y1社がa社に対する融資を実行することになったが、被告Y1社のa社に対する既存融資額は担保評価額を2億円以上上回っていた上(乙28)、当該融資は、事業資金と異なり、滞納税金の支払に充てられるもので、もともと延滞している債権の支払のために充てられるものでもあって、貸し倒れのリスクが高いものであった。

そこで、被告Y1社は、融資額を上記滞納公租公課の本税分に絞るとともに、既存融資への返済は後回しとし、当該融資を最優先かつ短期間で回収するべく、本件債権譲渡担保を新たに徴求することとなった。

(ウ) 被告Y1社は、平成22年9月30日、a社に対する2000万円の融資を実行するべく、金銭消費貸借契約を締結し(乙2)、同日、a社の売掛金債権に担保を設定する旨の本件債権譲渡担保契約を締結した(乙1)。

本件債権譲渡担保契約においては、①a社は、被告Y1社に対し被担保債務を担保するため、(a)a社が契約締結日現在において有し及び今後10年間に取得することとなる別紙債権譲渡目録に記載の債務者に対して取得する運送料債権全て、(b)a社が契約締結日以降今後10年間に取得することとなる貨物の運搬及び一時保管に関して、a社の全ての取引先に対する運送料債権全てを被告Y1社に譲渡するものとし(乙1の14条1項)、②a社は、被告Y1社からの委任を受けて、譲渡担保に係る債権を第三債務者から取り立てることができるものとされ(同18条1項)、回収金は、被告Y1社がa社に通常の事業遂行に必要な範囲を超えると合理的に認めた場合以外は、a社の通常の業務のための運転資金として使用することができるものとされていたが(同条3項)、③被告Y1社において必要と判断された場合には、上記取立委任を解除し、被告Y1社において直接に譲渡担保債権を回収の上、a社の譲渡担保債務の弁済に充当されても異議がない旨が定められていた(同19条1項)。

(エ) a社は、平成22年9月30日から同年10月4日にかけて、滞納していた公租公課を支払った(乙4ないし9)。

(オ) 前記(ウ)の2000万円の融資については、平成23年8月31日に完済されたものの、この間、a社は新たな公租公課の未納を発生させていた。

そこで、被告Y1社は、a社が経営再建に必要な会計管理ができていないとして、財務の専門家であり会社の再建をも手がけていたA公認会計士をa社に紹介した。

(カ) 平成22年10月に入り、被告Y1社の本店に「c労働組合a社分会」のビラが配布され(乙11、12)、被告Y1社はその頃a社に労使紛争があることを知るに至った(乙26)。

(キ) a社は、平成24年11月1日、事実上倒産するに至った(乙20、26)。

イ(ア) 上記アに述べたように、本件債権譲渡担保は、一部の債権者である被告Y1社への担保の提供であると認められるから、それにより他の債権者の共同担保を減少させる結果となり、原則として詐害行為に該当するものである。

しかしながら、このような場合であっても、上記担保の提供が、債務者の営業継続のために合理的限度を超えず、かつ他に適切な更生の道がなかったものと認められる場合には、詐害行為にはならないものと解される(最高裁昭和43年(オ)第275号同44年12月19日判決・民集23巻12号2518頁)。

(イ)a そこで、本件についてみると、a社は、既存取引先からの売上げが減少し、新規取引先の開拓も思うように進まなかった現状を踏まえて、再生支援協議会を利用して融資条件の変更をするよう被告Y1社に申し出たものであるが、当時、a社には、本税2000万円を超える公租公課の滞納があり(乙10)、滞納処分による差押えを受ける可能性があるなど、企業の再生に必要な資金繰りの目処が立たず、再生支援協議会を利用することができなかったという状況下にあったものである。本件においては、そのような状況を踏まえ、被告Y1社を含めたa社の貸出金融機関による協議に基づき、緊急の支援策として、a社の公租公課の滞納を早急に解消するべく2000万円の融資を実行することとされ、その担保のために、本件債権譲渡担保契約が締結されるに至ったものである。

そうすると、本件債権譲渡担保は、a社の営業継続のために必要なものであり、再生支援協議会の支援が得られない状況の下で、滞納処分による差押えが実行されるとたちまちa社の経営が立ち行かなくなる可能性があったことに照らすと、他に適切な更生の道がなかったものであると認められる。

b そして、本件債権譲渡担保においては、上記の状況の下において、滞納税金の本税分2000万円を限度として貸付けがされ、担保が設定されているにとどまっている。

また、本件譲渡担保においては、a社の将来10年間にわたる運送料債権が担保に供されているものの、a社は、被告Y1社からの委任を受けて、譲渡担保に係る債権を第三債務者から取り立てることができるものとされていて、回収金は、被告Y1社がa社に通常の事業遂行に必要な範囲を超えると合理的に認めた場合以外は、a社の通常の業務のための運転資金として使用することができるものとされていたものであることに照らせば、a社の営業継続のために合理的限度を超えない範囲内でされたものと認めることができる(その意味で、この点に関する原告らの主張には理由がない。)。

c したがって、本件債権譲渡担保は、詐害行為にはならないものというべきである。

(2)  被告Y2社に関して

ア 前記第2・1の前提となる事実に加え、証拠(本文中に掲記するほか、丙19及び証人C)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 被告Y2社は、もやしの販売を主たる事業とする株式会社であり、西日本を拠点としてもやしを製造するd株式会社(以下「d社」という。)の親会社であり、d社の製品を買い上げて卸売りをしている。

(イ) 被告Y2社は、従前よりa社と取引があり、被告Y2社の京阪地域の顧客への配送は、a社の京都府久世郡<以下省略>にある配送センターを通じて行われていた。

(ウ) 被告Y2社は、平成24年5月頃、a社の代表者から、A公認会計士を通じて、運送事業の譲渡を打診された(丙1の1、12)。被告Y2社は、自身の物流組織があれば好ましいと考えていたこともあり、前向きにその話を聞いていた。

上記事業譲渡の話と併せて、a社側は、平成24年5月末頃、被告Y2社に対して、本件各自動車等の買取りを依頼した。同年6月8日に、A公認会計士から被告Y2社に送信されたメール(丙1の1・2)によれば、同月19日までに国税当局との面談があり、一定の返済ができない場合には、売掛債権の差押えの危険性があり、本件各自動車の売却代金で社会保険及び税金の滞納処分による差押えを回避する必要がある旨、同月22日までにトラックの売却を完了させたい旨が記載されていた。また、上記メールには、本件各自動車の買取代金として3270万円を希望する旨、同額は市場で同じ車両を購入する場合の金額であるとして、その根拠として、各車両の同年式の車両金額を示すリンク先が示され、さらには、「a社における簿価での買取という方法もありますが、金融機関側から詐害行為として否認される事になります。」とも記載されていた。加えて、上記メールには、本件各自動車の賃貸借につき、合計月額100万円を賃借料として支払う旨も記載されていた。

(エ) 被告Y2社は、本件各自動車を購入する差し迫った必要性はなかったが、a社が倒産してしまうと、被告Y2社の関西における配送が滞り、業務上の支障が生じるおそれがあったことから、その申出に応じることとした。

本件各自動車売買の具体的なスキームとしては、被告Y2社が本件各自動車等を購入して代金をa社に支払い、同時に、被告Y2社から本件各自動車等をa社にリースするというものであった。

(オ) 平成24年6月22日、本件各自動車売買に係る契約が締結され、a社は、被告Y2社に対し、3000万円で本件各自動車等の合計10台を売り渡した(丙3、13、14)。

本件各自動車については、同年6月26日、被告Y2社に対して所有権移転登録がされた。本件自動車1ないし4については、b社から被告Y2社へ所有権移転した旨の登録がされている。

(カ) これと併せて、被告Y2社は、上記(エ)のスキームに基づき、平成24年6月26日、a社に対し、本件各自動車等の合計10台を賃貸することになった。

自動車ごとの賃貸期間は一律ではなく、初度登録年月に応じて1年間ないし3年間と設定され、それに応じて月額の賃料が設定され、賃貸期間の終了とともに、被告Y2社が売買代金3000万円を回収できるようになっていた(丙4、18)。

(キ) 前記(ウ)で持ち上がっていたa社の事業譲渡の話は、a社が本件各自動車等の売却代金を滞納税金等の支払に充てていなかったことが判明したことや、a社側が会社の不動産を仮差押えされるなどし、経営状態が悪化していたことを被告Y2社側に告げていなかったことで、信頼関係が悪化した結果、立ち消えとなった。

結局、a社の再建が図れなくなったため、被告Y2社において本件各自動車等を保有する必要性がなくなり、被告Y2社は平成24年10月30日から平成25年1月22日にかけて、本件各自動車を第三者へ合計価額1469万5238円で転売した(丙9ないし11、15ないし17、19)。転売の際に、転売先の一つの親会社である株式会社lが出した査定では、本件各自動車9台につき1550万円とされていた(丙5。e株式会社の見積りでも、本件各自動車等合計10台の平成24年10月現在の価格につき、1440万円とされているものもある[丙8]。)。

結局、被告Y2社の本件各自動車等の売却差損は538万7655円(本件各自動車のみでは530万2172円)であった(丙2)。

イ 上記アの認定を踏まえ、検討する。

(ア) 被告Y2社は、本件各自動車売買は、相当対価での売却であり、詐害行為に該当しないと主張する。

この点、前記アに述べたように、本件各自動車等の売買代金は3000万円であったところ、その価格は、a社側がインターネット上の市場価格をベースにして提示してきた3270万円を若干下回るにとどまっているものであったこと、本件各自動車売買に当たり、簿価での買取が詐害行為として否認されることを踏まえて、買取価格が検討されていたこと、被告Y2社の買取価格は、当時のインターネット上の価格(丙7)よりも高いものか(しかも、インターネット上に掲載されている車両よりも走行距離が長いにもかかわらず、高い価格となっているものもある。)、インターネット上の掲載車両よりも低い価格であっても、走行距離が掲載車両よりも長いためにそのように設定されたものであると考えられるものであること(丙7)、本件各自動車売買からわずか4か月ないし7か月後に本件各自動車が転売された際の本件各自動車の査定価格は、1440万円ないし1550万円程度であり、本件各自動車の売買価格はその2倍程度に及んでいることなどからすれば、相当対価での売却であると認めることができ、他に同認定を覆すに足りる証拠は存しない。

(イ)a もっとも、本件各自動車は、a社にとって営業の枢要をなす重要な動産であると考えられるところ、その売買は、相当対価での売却であっても、これを費消されやすい現金に変えるものとして、原則として詐害行為になるというべきであり(動産売買に関するものとして、大判明治36年2月13日民録9輯170頁参照)、その売買代金が優先権を有する債権者への弁済に充てられたときや、有用な物の購入資金とされ、かつ、その物が現存するときに限り、詐害行為性を否定されるべきである(最判昭和41年5月27日民集20巻5号1004頁、大判大正7年9月26日民録24輯1730頁参照)。

これに対し、被告Y2社は、破産法の否認権に係る議論を援用して、動産の相当対価での売却はそもそも詐害行為になる余地がない旨を主張するものであるが、総債権者のために破産者の一般財産の保全を目的とする否認権の制度と、特定の債権者の特定の債権の保全のために債務者の一般財産の保全を目的とする詐害行為取消権の制度とは、その制度の趣旨、目的を異にする以上、同列には解し難いといわざるを得ない。

b そこで検討するに、本件各自動車売買においては、その売買代金をa社の税金及び社会保険料の滞納部分の支払いに充て、税務署及び社会保険庁からの差押えを回避することが目的とされていたのであり、その目的自体の正当性は否定し難いものであるが、実際には、右売却代金は税金等の支払には充てられなかったというのであるから(前記ア(キ))、「その売買代金が優先権を有する債権者への弁済に充てられたとき」には該当せず(有用な者の購入資金とされ、かつ、その物が現存するときに該当すると認めるべき証拠ないし事情も存しない。)、その詐害性を否定することはできない。

(ウ) したがって、本件各自動車売買は、客観的には詐害行為に該当するものといわざるを得ないというべきである。

3  争点(3)(受益者又は転得者である被告らは、本件債権譲渡担保及び本件各自動車売買が債権者を害するものであることにつき善意であったか)について【被告Y1社及び被告Y2社の関係について】

(1)  前記2(2)に検討したように、被告Y2社については、本件各自動車売買が客観的に詐害行為に当たるものといわざるを得ないので、次に、被告Y2社において、本件自動車売買が債権者である原告らを害することについて善意であったか否かについて検討する(なお、被告Y1社については、前記2(1)に述べたように、本件債権譲渡担保が客観的に詐害行為になるものとは認められないから、検討しない。)。

(2)ア  前記2(2)アに述べたように、本件においては、①本件各自動車売買は、もやしの販売を主たる事業とする被告Y2社が、従前より被告Y2社の商品の京阪地域の顧客への配送を担当していたa社の依頼を受けて、a社の税金及び社会保険料の滞納部分の支払に充て、税務署及び社会保険庁からの差押えを回避するためにされたものであること、②その具体的なスキームとしては、被告Y2社が本件各自動車外1台を購入して代金をa社に支払い、同時に、被告Y2社から本件各自動車外1台をa社にリースするというものであって、引き続いて、a社が本件各自動車等を業務のために利用するというものであり、本件各自動車売買により、被告Y2社が直接的に利益を得るという関係にはなく、a社の倒産を回避して、被告Y2社の関西における配送手段を確保しようとすることが主要な目的であったこと、③実際にも、被告Y2社は、本件自動車売買の後のリースで、1年間ないし3年間の賃貸期間内に、売却代金分を回収するものとされ、売買差益を得ることは企図されていなかったことといった事情が存する。

上記の事情に加え、被告Y2社は、本件各自動車売買の当時、原告らがa社に対して労働債権を有していたことを認識していた形跡はうかがわれないこと(証人C)を併せて考慮すると、本件においては、被告Y2社は、本件各自動車売買が債権者を害するものであることにつき善意であったと認めるのが相当であり、他に同認定を覆すに足りる証拠はない。

イ  この点、原告らは、本件各自動車売買に先立って交わされたメール(丙1の1・2)の文面からは、原告ら若しくは原告らの所属するc労働組合を嫌悪したa社と被告らが、原告らを企業外に排除した上、労働債権の支払を免れるために、a社を偽装閉鎖・倒産させ、実際にはa社を承継する新会社を被告Y2社とa社の関係者によって岡山において設立して、被告Y1社がその債権の回収を図ろうとしたものと考えるのが合理的であり、被告Y2社がa社の債権者を害することを知らなかったとはいえないなどと主張する。

しかしながら、丙1の1・2のメールには、トラックの買取りに関しては、トラックの売却代金で、社会保険及び税金の差押え回避の対策を行う必要があることが記載されるとともに、a社の事業停止(事業譲渡と新会社への設立)に向けてのタイムスケジュールを作成した旨、労働問題に詳しい者からは、今回のスキームで問題がない旨の確認がとれていることが記載されているのみであり、同記載からは、原告らの主張するような事情は格別うかがわれず、その主張は採用し難いものといわざるを得ない。

(3)  上記(2)によれば、被告Y2社による本件各自動車売買については、詐害行為の主観的要件を満たさないから、結局において、詐害行為は成立しないというべきである。

4  結論

以上の次第で、その余の点を検討するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないことに帰する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 石村智)

(別紙1)債権譲渡目録

1 譲渡人(原債権者) 株式会社a

2 譲受人 Y1信用金庫

3 契約の内容 譲渡担保契約

4 債務者で特定された譲渡債権

(1) 債権の種類 運送料債権

(2) 債権の発生年月日(始期~終期)

平成22年8月31日~平成32年9月30日

(3) 債務者

ア 広島県安芸郡<以下省略>

株式会社f

イ 京都市<以下省略>

g株式会社

ウ 広島県福山市<以下省略>

株式会社h

エ 京都市<以下省略>

i株式会社

オ 滋賀県近江八幡市<以下省略>

j株式会社

カ 奈良県生駒市<以下省略>

株式会社k

キ 大分県竹田市<以下省略>

d株式会社

5 債権の発生原因で特定された譲渡債権

(1) 債権の種類 運送料債権

(2) 債権の発生年月日(始期~終期)

平成22年8月31日~平成32年9月30日

(3) 債権の発生原因 貨物の運搬及び一時保管に係る運送代金

(別紙2)自動車目録<以下省略>

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