京都地方裁判所 平成25年(行ク)9号 決定 2014年3月28日
主文
本件を東京地方裁判所に移送する。
理由
第1申立ての趣旨
本件を盛岡地方裁判所に移送する。
第2事案の概要
1 本案事件の概要
本案事件は,相手方が,園部税務署長から,平成23年6月27日付けで,平成19年1月1日から同年12月31日まで,平成20年1月1日から同年12月31日まで及び平成21年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下,「平成19年度」などという。)分の法人税につき,法人税の決定及び無申告加算税賦課決定を,平成20年度及び平成21年度を各課税期間とする消費税及び地方消費税につき,消費税及び地方消費税の決定並びに無申告加算税賦課決定(以下,上記各決定をまとめて「本件各決定」という。)をそれぞれ受けたことから,その事業の収益事業該当性等を争って,本件各決定の全部又は一部の取消しを求めている事案である。
2 本件申立ての理由の要旨
⑴ 処分又は裁決があった後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは,当該他の行政庁が,行政事件訴訟法12条1項の「処分若しくは裁決をした行政庁」に当たる(同法11条1項括弧書き,12条1項)。
⑵ 本案事件の管轄は,申立人(被告)の普通裁判籍の所在地を管轄する東京地方裁判所の外,本件各決定の処分行政庁の所在地を管轄する裁判所にあるところ(行政事件訴訟法12条1項),本件各決定を行った行政庁は,本件各決定当時の相手方の納税地を管轄する園部税務署長であったが,その後,相手方が主たる事務所を京都府南丹市内から岩手県一関市内に移転したため,相手方に対し課税処分等を行う権限は,園部税務署長から,相手方の新たな納税地を管轄する一関税務署長に承継された(国税通則法30条,33条)。したがって,本件各決定については「処分若しくは裁決をした行政庁」(行政事件訴訟法12条1項)は,一関税務署長となり,その所在地を管轄する裁判所は,岩手県一関市を管轄する盛岡地方裁判所であるから,園部税務署長の所在地の裁判所である京都地方裁判所は,本案事件の管轄を有しない。
⑶ 以上のとおり,本案事件は,東京地方裁判所又は盛岡地方裁判所の管轄に属するから,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法16条1項により,そのいずれかに移送されるべきところ,相手方の主たる事務所の所在地が岩手県一関市であることや,本件各決定に際して作成されたすべての資料が一関税務署に保管されていることに照らせば,盛岡地方裁判所に移送されるべきである。
3 相手方の意見の要旨
⑴ 行政事件訴訟法11条1項括弧書きの「権限が他の行政庁に承継されたとき」とは,行政機構の改正,行政庁の統廃合のように,一般的,包括的な権限の承継がある場合に限定され,本件のように,相手方の主たる事務所の移転によって課税処分又は決定という個別的・具体的事項についての権限が園部税務署長から一関税務署長に移行する場合は,これに当たらない。
⑵ 行政事件訴訟法12条3項の「下級行政機関」は,当該処分等を行った行政庁の指揮監督下にある行政機関に限られず(最高平成15年3月14日第二小法廷決定・集民209号255頁参照),国家行政組織法により定められた各行政庁を頂点とする行政組織の系統の下での行政機関を総称するものと解されている。
本件各決定は,園部税務署が積極的に事案の調査を行い,本件各決定の成立に必要な資料を収集して行われた上で園部税務署長が最終的に決定したものであるから,園部税務署こそが,本件各決定に関し「事案の処理に当たった下級行政機関」(同項)に当たる。
また,本件各決定は,下京税務署の総合調査担当調査官による調査及び意見によって具体的に決定されたものであるから,下京税務署も,本件各決定関し「事案の処理に当たつた下級行政機関」(同項)に当たる。
したがって,本案事件は,園部税務署及び下京税務署の所在地の裁判所である京都地方裁判所の管轄に属するというべきであって,管轄違いを理由とする本件申立ては,理由がない。
⑶ 仮に,上記⑴及び⑵の主張が認められないとしても,①相手方の行う特定非営利活動の拠点は,滋賀県高島市<以下省略>所在の統括本部にあること,②相手方の訴訟代理人ら及び補佐人らの事務所は,いずれも大阪府内にあり,盛岡地方裁判所から遠いこと,③相手方の資力では,相手方の訴訟代理人ら及び補佐人らが大阪府内から盛岡地方裁判所に出頭するための交通費及び日当を支出することは困難であること,④申立人の普通裁判籍は東京都内にあり,本案事件が東京地方裁判所で審理されても申立人が訴訟活動を行うことは容易であること,以上の申立人と相手方の場所的,経済的負担を考慮すると,本案事件は,盛岡地方裁判所ではなく東京地方裁判所に移送されるべきである。
第3当裁判所の判断
1 申立人(被告)の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所は,東京地方裁判所であるから(行政事件訴訟法7条,民事訴訟法4条6項,国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律1条),本案事件は,東京地方裁判所の管轄に属する(行政事件訴訟法12条1項)。
2⑴ 一件記録によれば,相手方は,本件各決定がされた平成23年6月27日当時は,京都府南丹市<以下省略>に主たる事務所を置いていたが,同年12月15日,岩手県一関市<以下省略>に主たる事務所を移転したことが認められる。
⑵ 内国法人の法人税,消費税及び地方消費税の納税地は,主たる事務所の所在地であるから(法人税法16条,消費税法22条1項1号,地方税法72条の78第2項5号),上記⑴の主たる事務所の移転に伴い,内国法人である相手方の法人税,消費税及び地方消費税の納税地も移転し,相手方の納税地を所轄する税務署長は,京都府南丹市を所轄する園部税務署長から岩手県一関市を所轄する一関税務署長となり,本件各決定に係る法人税,消費税及び地方消費税について相手方に対し課税処分等を行う権限は,国税通則法30条及び33条により,園部税務署長から一関税務署長に承継されたというべきである。
⑶ [判示事項2]行政事件訴訟法11条1項は,「処分又は裁決をした行政庁」の意義につき,処分又は裁決をした行政庁の権限が処分又は裁決があった後に他の行政庁に承継されたときは,当該他の行政庁が「処分又は裁決をした行政庁」に当たる旨を規定している。同法12条1項は「処分若しくは裁決をした行政庁」の意義につき,別段の定義を定めておらず,同項の「処分若しくは裁決をした行政庁」は,同法11条1項の「処分又は裁決をした行政庁」と同義と解されるから,本件各決定については,上記⑵の権限承継後は,一関税務署長が「処分若しくは裁決をした行政庁」(同法12条1項)に当たると解するのが相当である。
⑷ [判示事項1]相手方は,行政事件訴訟法11条1項括弧書きの「権限が他の行政庁に承継されたとき」とは,行政機構の改正,行政庁の統廃合のように,一般的,包括的な権限の承継がある場合をいい,処分後に納税地の移動が生じた場合のように個別的な権限の移行が生じた場合は,これに含まれない旨を主張するが,同項括弧書きの「権限が他の行政庁に承継されたとき」の意義を上記のように限定的に解すべき合理的根拠があるとはいえず,上記主張は,採用することができない。
⑸ したがって,本案事件は,一関税務署長の所在地(岩手県一関市)の裁判所である盛岡地方裁判所の管轄に属し(行政事件訴訟法12条1項),園部税務署長の所在地の裁判所である当庁の管轄には属さないというべきである。
3⑴ 相手方は,園部税務署及び下京税務署が本件各決定に関し「事案の処理に当たつた下級行政機関」(行政事件訴訟法12条3項)に当たるから,本案事件は,園部税務署及び下京税務署の所在地を管轄する当庁の管轄に属する旨を主張する。
⑵ 処分を行った行政庁は,当然,事案の処理に当たった上で当該処分を行っているから,相手方の主張する解釈によれば,その権限が処分後に他の行政庁に承継された場合には,当該処分を実際に行った行政庁(以下「旧処分行政庁」という。)は,常に,当該処分に関し「事案の処理に当たつた下級行政機関」(行政事件訴訟法12条3項)に該当し,当該処分の取消訴訟は,常に旧処分行政庁の所在地の裁判所の管轄にも属することになる。
しかしながら,上記2⑶のとおり,行政事件訴訟法は,11条1項において,処分後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは,当該他の行政庁が「処分又は裁決をした行政庁」に当たる旨を規定し,12条1項においても,「処分若しくは裁決をした行政庁」の意義につき別段の規定を設けておらず,11条1項の定義を前提としていると解される上,処分後に権限の承継があった場合の当該処分の取消訴訟の管轄につき,権限承継後においても,旧処分行政庁の所在地の裁判所に管轄を認める旨の明文の規定を設けていない。
以上の行政事件訴訟法の規定の仕方に照らせば,同法は,処分後に処分行政庁の権限が他の行政庁に承継された場合における当該処分の取消訴訟の管轄につき,旧処分行政庁の所在地の裁判所にも管轄を認めるとの立法政策を採用しなかったものと解するのが相当である。また,旧処分行政庁が,権限の承継を受けた行政庁の「下級」行政機関に当たるとも解し難い。
したがって,園部税務署長ないし園部税務署が本件各決定に関し「事案の処理に当たつた下級行政機関」(行政事件訴訟法12条3項)に該当するとの相手方の主張は,採用することができない。
⑶ 相手方提出の疎明資料(平成23年1月8日付けの相手方作成の下京税務署総合調査担当者宛ての回答書)によれば,相手方が,下京税務署所属の総合調査担当者から,相手方の事業の収益事業該当性等について尋ねられ,同日付けでこれに回答したことが認められるが,上記事実のみでは,下京税務署が,本件各決定の事案の処理そのものに実質的に関与したとは認め難く,上記疎明資料以外には下京税務署の本件各決定への関与を示す疎明資料もない。したがって,下京税務署が本件各決定に関し「事案の処理に当たつた下級行政機関」に当たるとの相手方の主張も,採用することができない。
4 以上のとおり,本案事件は,当庁の管轄には属さず,東京地方裁判所及び盛岡地方裁判所の管轄に属するというべきである。
一件記録によれば,①本件各決定に際して作成された資料は,すべて一関税務署において保管されていることが認められるが,他方,一件記録によれば,②申立人の行う特定非営利活動の拠点は,主たる事務所を岩手県一関市内に移した後も,滋賀県高島市<以下省略>所在の統括本部にあること,③相手方の訴訟代理人弁護士らの事務所及び補佐人税理士(税理士法2条の2)らの事務所は,いずれも大阪府内にあること,④相手方の理事の住所は京都府内にあること,⑤相手方の従たる事務所9箇所のうち,東北地方に置かれているのは宮城県気仙沼市の1箇所のみであり,その余は,滋賀県に3箇所,京都市,大阪市,岡山県,香川県,福井県にそれぞれ1箇所置かれていることが一応認められる。
上記②ないし⑤の事実によれば,相手方は,主たる事務所を岩手県一関市に移転した後も,滋賀県高島市<以下省略>所在の統括本部を拠点として,西日本,取り分け,関西地方を中心に事業を展開しており,事業に関する証拠資料等や関係者も上記統括本部等関西地方に多く存在していると考えられる。
上記諸事情を踏まえ,当事者双方の出廷に伴う時間的,経済的負担の程度,証拠資料の所在等を勘案すると,本案事件は,東京地方裁判所に移送するのが相当である。
よって,主文のとおり決定する。
(裁判官 栂村明剛 武田美和子 高津戸拓也)