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京都地方裁判所 平成26年(ワ)118号 判決 2015年2月09日

原告

被告

Y1 他1名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、二三〇万二〇五〇円、及び、これに対する平成二三年一二月四日から支払済みまで年五%の割合による金員、を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、五分し、その四を原告の、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決の一項は、仮に執行することができる。但し、被告Y1が一一五万一〇二五円の担保を供する時は、その仮執行を免れることができる。被告Y2株式会社が一一五万一〇二五円の担保を供する時は、その仮執行を免れることができる。

事実

第一請求の趣旨

被告らは、原告に対し、連帯して、一一〇〇万円、及び、これに対する平成二三年一二月四日から支払済みまで年五%の割合による金員、を支払え。

第二争いのない事実

一  原告(昭和一二年○月○日生)が乗客として同乗し、一般乗用旅客運送事業等を目的とする被告Y2株式会社が保有し、その被用者である被告Y1が運転する普通乗用自動車が、平成二三年一二月四日午後一時四五分頃、鹿児島市南栄一丁目一一番一号で、急制動した(以下「本件事故」という。)。

二(1)  原告は、a整形外科に、頚椎捻挫の傷病名で、平成二三年一二月四日(実一日)、通院し、b医院に、左眼球打撲・左顔面打撲の傷病名で、同年一二月五~九日(実三日)、通院し、c診療所に、左手部打撲傷・頚椎捻挫・左肩部痛・右肩部痛の傷病名で、同年一二月六日~平成二四年一一月一三日(実一〇五日)、通院した。

(2)  原告は、平成二四年一一月一三日、自覚症状(頚部痛・両肩部痛、寒くなると疼痛悪化する、疼痛の為・以前の半分程度しか働けない)、他覚症状および検査結果(手指尖部のしびれ有、スパーリングテスト陰性、ジャクソンテスト陰性、頚椎の運動痛有、握力右二〇kg左二〇kg)、頚椎部運動障害(前屈三〇度・後屈一〇度・右回旋三〇度・左回旋三〇度)を遺して症状固定したと診断された。

第三当事者の主張の要旨

一  原告

(1)ア  原告は、(有)dの代表取締役であったところ、本件事故により、e社に外注をして七八万三八四〇円を負担した(甲八)。

イ  原告の後遺障害は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(自賠法施行令別表二 一二級一三号)に該当する。

ウ  原告の疼痛は、症状固定後も、f整形外科医院(甲七)に通院したり、マッサージ店に行ったり、ロキソニンを服用したりしなければならないほど重く、精神的苦痛は大きかった。

(2)  よって、原告は、本件事故について、被告Y1に対し民法七〇九条に基づき、被告Y2株式会社に対し民法四一五条・自動車損害賠償保障法三条又は民法七一五条に基づき、次の損害の一部の連帯賠償を求める(附帯請求は、不法行為の日から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払請求である。)。

ア 治療費 87万7178円(争いがない)

イ 眼鏡代 5万2260円(争いがない)

ウ 休業損害 78万3840円(前記(1)ア)

エ 通院慰籍料 150万0000円(前記第2―2(1))

オ 逸失利益

565万4264円(=523万0200円/年〔賃金センサス平成22年産業計・企業規模計・男・学歴計・全年齢〕×14%〔前記(1)イ〕×7.722〔10年間に対応するライプニッツ係数〕)

カ 後遺障害慰籍料 310万0000円(前記(2)イウ)

キ 損益相殺 ▲195万0000円(争いがない)

ク 弁護士費用 100万0000円

二  被告ら

(1)  (有)dの外注は、本件事故前からあり、売上は、本件事故前から減少し続けていた(甲九~一一、乙一~五)。したがって、e社に外注をしたことは、本件事故との因果関係がない。

(2)ア  原告の役員報酬一〇二万円/年は、本件事故後、減少がない(甲九~一一、乙一~五)。

仮に逸失利益が発生したとしても、基礎収入は、せいぜい一〇二万円/年である。

イ  原告の後遺障害は、他覚所見から障害の存在が医学的に証明できるものではなく、「局部に神経症状を残すもの」(自賠法施行令別表二 一四級九号)に該当するものと判断された(甲六)。したがって、労働能力喪失率は、せいぜい五%である。

ウ  原告の後遺障害は他覚所見がない神経症状であるから、労働能力喪失期間は、せいぜい三年間である。

理由

第一損害

一  当裁判所の判断

(1)  治療費(争いがない) 八七万七一七八円

(2)  眼鏡代(争いがない) 五万二二六〇円

(3)  休業損害 三〇万一八〇八円

確かに、原告が代表取締役を務める(有)dの売上及び税引前純利益は、本件事故(平成二三年一二月四日)まで数年間減少傾向が続いていたし、外注も、本件事故前から行われていた(後記二(1)イエオ)。また、e社への外注は、早くとも本件事故の三か月後(平成二四年三月)になって行われたもので、原告の症状の急性期である本件事故直後からではないことも考慮すれば、本件事故前から行われていたg社への外注を、経済的理由で代替したものと認められる(後記二(1)イ)。したがって、e社への外注が原告の休業損害という原告の主張は、採用できない。

しかし、本件事故後は、本件事故前と比較して、(有)dの売上減少率(五%→一四%)が増大し、外注の減少傾向(三八%→一九五%)及び給料の減少傾向(八〇%→一一九%)が増加に転じた(後記二(1)エ)。原告の主訴も考慮すれば(後記二(3))、現実の減収はなくても、原告の努力・忍耐によるものと認め、本件事故による休業損害の発生は認められる。

そして、(有)dの業種・役員数(二名)・従業員数(三名)と役員報酬額(各一〇二万円/年)・給料手当額(合計一二二万七〇〇〇円~一五三万円/年)を考慮すれば(後記二(1)アウエ)、原告の役員報酬一〇二万円/年を全て労働の対価として基礎収入と認め、本件事故の日を除く実通院日数の休業損害を認める。

102万円/年÷365日×(3日+105日)≒30万1808円

(4)  通院慰籍料 一五〇万〇〇〇〇円

通院期間(後記二(3)ア)を考慮した。

(5)  逸失利益 二二万〇八〇四円

ア 原告の自覚症状は、本件事故後ほぼ一貫しており、詐病とは認められない(後記二(3))。

しかし、画像検査で異常所見は示されず、痛みの誘発テストであるスパーリングテスト・ジャクソンテストさえ陰性であった(後記二(3)イ(ア)(イ)(ウ)、(4)ア)。

また、原告の頚椎部運動障害は、頚椎の運動痛によるものと認められ(後記二(4)ア)、器質的原因によるものとは認められない。

したがって、原告の後遺障害は、「局部に神経症状を残すもの」(自賠法施行令別表二 一四級九号)に該当するものと評価し、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(同一二級一三号)に該当するものとは評価しない。

イ そして、原告の年齢(症状固定当時七五歳)・職業(クリーニング業)等も考慮すれば、基礎収入一〇二万円/年について、労働能力を五%、平均余命一一・五七年(平成二四年簡易生命表〔男〕)の二分の一(一年未満切捨)である五年間、喪失したと認める。

102万円/年×5%×4.3295(5年間に相当するライプニッツ係数)≒22万0804円

(6)  後遺障害慰籍料 一一〇万〇〇〇〇円

後遺障害の程度(前記(5)ア)を考慮した。

(7)  損益相殺(争いがない) ▲一九五万〇〇〇〇円

(8)  被告らに負担させる原告の弁護士費用 二〇万〇〇〇〇円

本件事案の性質・認容額等を考慮した。

(9)  まとめ

87万7178円+5万2260円+30万1808円+150万円+22万0804円+110万円-195万円+20万円=230万2050円

二  前記一の判断のために証拠等により認定した事実

(1)ア  (有)dは、クリーニング業を事業内容とし、役員は原告(昭和一二年○月○日生)及び原告の妻であり、従業員はパートタイマー三名であった(甲一二、原告本人)。

イ  (有)dは、下記の通り、注文過多の時、g社及びe社に外注をした外、取り扱うことができない着物・絨毯・革製品等の外注をした。なお、単価は、e社が、g社より、安かった(甲八、原告本人)。

<表1 省略>

(ア) 平成二一年三月~平成二二年二月 g社七二万九九六八円外一三社

(イ) 平成二二年三月~平成二三年二月 g社七六万二三八四円外一六社

(ウ) 平成二三年二月~平成二四年二月 一〇社

(エ) 平成二四年三月~平成二五年二月 e社七八万三八四〇円外一一社

ウ  原告及び原告の妻の役員報酬は各一〇二万円/年であった(甲九~一〇、乙四~五)。

エ  (有)dの売上額・外注費・従業員の合計給料額は、前頁の通りであった(単位は千円。但し千円未満切捨〔甲一一、乙一~三〕)。

オ  (有)dの税引前純利益は、下記の通りであった(甲九~一〇、乙四~五)。

(ア) 平成二〇年三月~平成二一年二月 八〇万五五二八円

(イ) 平成二一年三月~平成二二年二月 ▲一七万三二六九円

(ウ) 平成二二年三月~平成二三年二月 五万一一四一円

(エ) 平成二三年三月~平成二四年二月 ▲四六六九円

(オ) 平成二四年三月~平成二五年二月 ▲一九一万一三四五円

(2)  原告は、平成二三年一二月四日(当時七四歳)、急制動のため、前の座席に左肩・左顔面部を打撲する本件事故に遭った(甲一二、乙七p三、八p四、原告本人)。

(3)ア  原告は、a整形外科に、頚椎捻挫の傷病名で、平成二三年一二月四日(実一日)、通院し、b医院に、左眼球打撲・左顔面打撲の傷病名で、同年一二月五~九日(実三日)、通院し、c診療所に、左手部打撲傷・頚椎捻挫・左肩部痛・右肩部痛の傷病名で、同年一二月六日~平成二四年一一月一三日(実一〇五日)、通院した(甲二~四、乙六~八〔枝番含〕)。

イ(ア)  平成二三年一二月四日、X線検査で、特に骨傷は認められなかった(乙六、七p三)。

(イ) 同年一二月六日、MRI検査で、脊椎症性変化による椎間孔や脊柱管の狭窄、明らかな骨折なしとの診断を受けた(乙七p一九四)。

(ウ) 同年一二月六日、スパーリシグテスト陰性、ジャクソンテスト陰性、一〇秒テスト右二五回左一五回、握力右三六kg左一五・五kgであった(乙七p三)。

(エ) 同年一二月二〇日、箸の使用可能・書字可能・手指のしびれなしであった(乙七p一二)。

(オ) 平成二四年一月一〇日、一〇秒テスト右二八回左三〇回、握力右二五kg左三一kgであった(乙七p一五)。

(カ) 同年一月三〇日、右手の手尖部のしびれを訴えた(乙七p三〇)。

(キ) 同年二月二八日、雪が降って疼痛悪化した等と訴えた(乙七p四八)。

(ク) 同年五月八日、暖かくなり多少疼痛は軽減した(乙七p八八)。

(ケ) 同年六月五日、クーラーで疼痛がある等と訴えた(乙七p一〇六)。

(コ) 同年六月一九日、痛みが逆戻りしたようである等と訴えた(乙七p一一四)。

(サ) 同年七月一七日、ミラーを見る際に疼痛等と訴えた(乙七p一三二)。

(シ) 同年八月二八日、アイロンをかける(五分程度)・仕事が困難等と訴えた(乙七p一五二)。

(4)ア  原告は、平成二四年一一月一三日(当時七五歳)、自覚症状(頚部痛・両肩部痛、寒くなると疼痛悪化する、疼痛の為・以前の半分程度しか働けない)、他覚症状および検査結果(手指尖部のしびれ有、スパーリングテスト陰性、ジャクソンテスト陰性、頚椎の運動痛有、握力右二〇kg左二〇kg)、頚椎部運動障害(前屈三〇度・後屈一〇度・右回旋三〇度・左回旋三〇度)を遺して症状固定したと診断された(甲五)。

イ  原告の後遺障害は、事前認定において、「局部に神経症状を残すもの」(自賠法施行令別表二 一四級九号)に該当するものと判断された(甲六)。

第二結論

原告の請求は一部認容し、民事訴訟法六四条本文、二五九条一・三項を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 永野公規)

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