京都地方裁判所 平成26年(ワ)1847号 判決 2015年6月15日
原告
X1 他2名
被告
Y
主文
一 被告は、原告X1に対し、四〇九一万五九四一円及びこれに対する平成二四年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2及び原告X3に対し、それぞれ二三二〇万八五一五円及びこれらに対する平成二四年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを四分し、その二を被告の負担とし、その一を原告X1の負担とし、その余を原告X2及び原告X3の負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告X1(以下「原告X1」という。)に対し、八四三六万〇九九八円及びこれに対する平成二四年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2(以下「原告X2」という。)及び原告X3(以下「原告X3」という。)に対し、それぞれ四二七三万〇五〇〇円及びこれに対する平成二四年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)が夜間走行中、車道上で訴外亡A(以下「亡A」という。)と衝突し、亡Aが死亡した事故(以下「本件事故」という。)につき、亡Aの相続人である原告X1(妻)、原告X2(長女)及び原告X3(二女)が、被告に対し、民法七〇九条に基づき、本件事故によって亡A及び原告らが被った損害賠償金(原告X1は八四三六万〇九九八円、原告X2及び原告X3は各四二七三万〇五〇〇円)とこれに対する不法行為の日(本件事故の日)である平成二四年一〇月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等(証拠掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 本件事故の内容
ア 日時 平成二四年一〇月四日午前〇時五九分ころ
イ 場所 京都府向日市森本町天神森四番地
ウ 被告車両 普通乗用自動車〔ナンバー<省略>〕
運転者:被告
エ 事故態様 東西道路(府道伏見向日線・以下「本件道路」という。)を東進してきた被告車両と本件道路車道上の亡Aとが衝突した。
(2) 被告の責任
被告には、自動車運転者としての注意義務を怠って本件事故を惹起した過失があるから(その内容及び程度については、後記二(1)のとおり、当事者間に争いがある。)、民法七〇九条に基づき、本件事故によって亡A及びその相続人に発生した損害を賠償すべき義務を負う。
(3) 亡Aの死亡及び原告らの相続
亡Aは、本件事故により脳挫傷の傷害を負い、本件事故(平成二四年一〇月四日午前〇時五九分ころ)直後、a病院に搬送されたが、平成二四年一〇月八日午後三時〇〇分ころ死亡した(甲八、乙一七)。
原告X1は亡Aの妻であり、原告X2及び原告X3は亡Aの子である(甲二ないし六)。
(4) 原告X1の受領金
ア 原告X1は、平成二四年一一月二九日、亡Aの勤務先であったb薬品株式会社(以下「b薬品」という。)から、弔慰金二〇〇〇万円を受領した(損益相殺の対象となるか否かについては、後記二(3)のとおり、当事者間に争いがある。)。
イ 原告X1は、平成二五年一月から平成二七年二月までに、合計四三五万一〇八九円の遺族厚生年金を受領した。
二 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 過失相殺について
【被告の主張】
ア 亡Aは、本件事故当時、相当酩酊しており、歩車道の区分のある道路の車道上を徘徊する状態であった。このような状態で夜間車道上に佇立あるいは歩行している歩行者は通常予測し得るものではなく、亡Aを発見して衝突を回避することは極めて困難であった。
イ 被告車両は時速四五ないしは五〇kmで走行しており、その速度超過は時速五ないしは一〇km程度にすぎない。また、制限速度を遵守し、時速四〇kmで走行していたとしても、衝突回避が困難であったことに変わりはない。
被告は前照灯をロービームにしていたが、これは、本件道路では時々対向車が通ることを考えてのことであり、ハイビームが基本であることは運転者にさほど周知徹底もされていないことに鑑みても、この点を大きな過失と評価することはできない。
ウ 以上によれば、本件事故は、歩車道の区別のある道路の車道上を同一方向へ進行する歩行者と四輪車との事故であり(基本的な過失割合は、歩行者:四輪車=三〇:七〇)、夜間であること(+五)、亡Aのふらふら歩き(+一〇)を勘案し、更に、酩酊状態を斟酌すると、亡Aの過失割合は五〇%を下らない。
なお、このように亡Aの過失が大きいため、死亡事故にもかかわらず、被告は略式起訴に止まった。
【原告らの主張】
ア 本件道路は、片側一車線の道路で、被告車両が走行していた東行車線の幅員は三mであった。最高速度は時速四〇kmに制限されており、通行量も人通りも少なかった。
また、本件事故現場付近は暗く、前照灯をハイビームにしていれば、約三三m手前(衝突回避が可能な地点)から、容易に人を発見することができた。もっとも、ロービームの場合でも、見えにくいものの、注意をすれば発見可能であった。
イ 前記アの状況下で、被告は、前照灯をロービームとして時速五〇kmで被告車両を東進させ、前方約五・九mの直近になって初めて、本件道路上を右から左へ横断していた亡Aを発見し、急制動の措置を講じたものの、間に合わず、同人に被告車両を衝突させた。
ウ 以上によれば、本件事故は、横断歩行者と四輪車との事故であり(基本的な過失割合は、歩行者:四輪車=二〇:八〇)、夜間の事故であることを考慮しても、被告には、制限速度違反、前照灯をロービームにした上での前方注視違反の点において著しい過失があるから、亡Aの過失割合は一五%を上まわらない。
(2) 亡A及び原告らの損害額
【原告らの主張】
ア 亡Aの損害額
(ア) 治療費 一五万五九九九円
(イ) 入院雑費 七五〇〇円
一五〇〇円×五日=七五〇〇円
(ウ) 入院付添費 三万二五〇〇円
亡Aの容態急変に対応するため、原告X1らが付き添う必要があった。
六五〇〇円×五日=三万二五〇〇円
(エ) 付添人交通費 二万三三四〇円
(オ) 文書作成料 四万五八七〇円
(カ) 入院慰謝料 八万八三三三円
亡Aは、平成二四年一〇月四日に受傷してa病院に救急搬送されて入院し、同病院で一〇月八日に死亡した。
入院慰謝料としては、八万八三三三円(=五三万円×五日/三〇日)が相当である。
(キ) 葬儀費用 三三〇万一一三〇円
亡Aは、生前、製薬会社にMR(医薬情報担当者)として勤務しており(課長代理の役職にあった。)、取引先の病院の院長等との付き合いも多かった。また、原告X3が通う小学校の父親会の会長、地域の体育復興会の役員をしていたため、地域住民との付き合いも多かった。
このように交際が広く、多数の参列者が見込まれたために、手厚い葬儀を行わざるを得なかった。
現実の支出額等を考慮して高額な葬儀費用を損害として認めた裁判例も存在する。
(ク) 仏壇・仏具購入費用 五一万〇〇〇〇円
(ケ) 墓地使用料 六〇万〇〇〇〇円
(コ) 死亡逸失利益 一億一六五五万七三二六円
亡Aは、本件事故当時、b薬品に勤務しており、前年の収入は、一二〇六万七二〇〇円であり、定年(六〇歳)までには、更に昇給する可能性があった。また、既に課長代理の役職にあったことから、定年後も希望すれば再雇用(基本給月額二〇万円)される可能性が高かった。
亡Aは、原告ら三名を扶養していたので、生活費控除率は三〇%とみるのが相当である。
また、本件事故当時、亡Aは四三歳であったから、就労可能年数は二四年(対応するライプニッツ係数は一三・七九八六)である。
そうすると、亡Aの死亡逸失利益は、以下のとおり、一億一六五五万七三二六円になる。
1206万7200円×(1-0.3)×13.7986≒1億1655万7326円
(サ) 死亡慰謝料 二八〇〇万〇〇〇〇円
亡Aは、本件事故当日まで身体に特段の不調はなく健康で、一家の支柱として、妻及び二人の子ら(原告ら)との家庭生活を楽しんでいた。また、仕事でも重要な仕事を任され、充実した社会生活を営んでいた。それにもかかわらず、突然、理不尽に生命を奪われた亡Aの無念は筆舌に尽くしがたい。
このような事情に鑑みれば、亡Aの精神的苦痛を慰籍するために相当な金額が二八〇〇万円を下ることはない。
イ 原告X1の損害額
(ア) 固有の慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円
原告X1は、最愛の夫である亡Aを失い、胸が張り裂けそうな思いをしている。その悲嘆の大きさは筆舌に尽くし難いものがある。
また、原告X1は、女手一つで原告X2及び原告X3を養育していかなければならなくなり、将来の不安が大きく、睡眠薬がなければ寝ることもできない状況に陥っている。精神的ダメージの大きい原告X2及び原告X3に寄り添うためには就職することも困難である。
したがって、原告X1固有の慰謝料として二〇〇万円が認容されるべきである。
(イ) 弁護士費用 七七〇万〇〇〇〇円
ウ 原告X2及び原告X3の各損害額
(ア) 固有の慰謝料 各一五〇万〇〇〇〇円
原告X2及び原告X3は本件事故当時小学生であり、幼い二人は唯一無二の父親を奪われ、その悲嘆の大きさは筆舌に尽くし難いものがある。
したがって、原告X2及び原告X3の固有の慰謝料として各一五〇万円が認容されるべきである。
(イ) 弁護士費用 各三九〇万〇〇〇〇円
【被告の反論】
ア 葬儀費用について
本件事故と相当因果関係を有する葬儀費用は、一五〇万円にとどまるというべきである。
イ 仏壇・仏具購入費用について
仏壇・仏具購入費用は、原則として葬儀関係費に含むものとして考えられており、特段の事情がない限り、葬儀費用とは別途に、仏壇・仏具購入費用の請求が認められる余地はない。
ウ 墓地使用料について
墓地使用料は、原則として葬儀関係費に含むものとして考えられており、特段の事情がない限り、葬儀費用とは別途に、墓地使用料の請求が認められる余地はない。
エ 死亡逸失利益について
(ア) 六〇歳(定年)までの基礎収入額について
亡Aの本件事故当時の年収のうち、①TES手当(医薬営業本部の営業職担当者のうち、労働時間のみなし制の適用を希望した者に対し、職務等級に応じて支給される手当)及び②昼食補助費(給食施設のない事業所の勤務者に対し、給食の代わりに支給される補助費等)は、定年まで継続的に支給されるとは限らないこと、③持株会補助金(会社の株式購入資金の補助金)は賃金とはその性質を異にすることから、いずれも基礎収入額から控除されるべきである。
(イ) 六一歳から六七歳までの基礎収入額について
亡Aの就労可能年数のうち六一歳から六七歳までの七年間については、基礎収入を月額二〇万円(年収二四〇万円)として死亡逸失利益を算定すべきである。
オ 原告ら固有の慰謝料について
亡Aの死亡慰謝料二八〇〇万円は、死亡慰謝料の総額であり、原告ら固有の分も含まれるものであって、亡Aの死亡慰謝料とは別に、原告ら固有の慰謝料請求が認められる余地はない。
(3) 損益相殺
【被告の主張】
ア 弔慰金
原告X1が、平成二四年一一月二九日、b薬品から受領した「特別弔慰金」二〇〇〇万円は、極めて高額な金額であり、社会儀礼としての相当額をはるかに逸脱した金額であるから、損害の填補に充てるために交付された損害賠償と考えるのが相当であり、損益相殺の対象となるというべきである。
イ 遺族厚生年金
原告X1が、平成二五年一月から同二七年二月までに受領した合計四三五万一〇八九円の遺族厚生年金は、損益相殺の対象となる。
【原告らの反論】
弔慰金は、会社から、死亡した被用者を弔うとともに、その遺族を慰謝するために支払われるものであり、損害の填補を目的としているとは言えず、損益相殺の対象とはならない。
また、b薬品は、被告に対し、弔慰金相当額を請求するものでもなく、弔慰金の支払はb薬品の負担によってなされるものであって、損益相殺の対象とはならない。
第三当裁判所の判断
一 過失相殺(争点(1))について
(1) 事故態様
前記第二の一(争いのない事実等)と証拠(甲一、乙一ないし二二)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件道路は、片側一車線(東行車線幅員約三m、西行車線幅員約二・八m)の府道伏見向日線(京都市内と向日市内を繋ぐ道路)であり、本件事故現場付近では、別紙図面記載のとおり、南側には歩道(幅員約一・七m)が敷設され、北側には断続的に歩道柵が設置されていた。最高制限速度は時速四〇kmに規制されていた。本件事故現場付近は、深夜の交通量は車両及び人ともに少なかった。また、夜間は、街灯がなく暗く、別紙図面記載の<×>一地点から西へ約三三mの地点からの見通しは、被告車両と同車種のハイビームでは<×>一地点の人がはっきり見えるが、ロービームでは少し見えにくい状況であった。
イ 被告は、平成二四年一〇月四日午前〇時五九分ころ、帰宅するため、被告車両を運転し、時速約四五ないし五〇kmで本件道路を東進した。前照灯はロービームにしていた。
被告車両の前後に車両はなく、対向車も本件事故直前にはなく、被告は、進路遠方の信号機に目が行っていたところ、別紙図面記載の③地点(同<×>一地点まで約五・九m)で、初めて同<×>一地点の亡Aに気付いて驚き、急制動の措置を講じるとともに、右へ転把するも間に合わず、同<×>一地点で、亡Aの身体の左後部に被告車両の前部左側を衝突させ、更に、同<×>二地点(同<×>一地点から東へ約一三・二m)で、転倒した亡Aの頭部に被告車両左前輪を接触させ、亡Aは同<ア>地点(同<×>二地点から東へ約一一・四m)に仰向けに転倒し、被告車両は同⑥地点に停止した。
ウ 亡A(昭和四三年○月○日生)は、平成二四年一〇月三日、勤務先の飲み会に参加し、午後七時三〇分ころから午後一一時三〇分ころまで、三店舗で飲酒をしており、終了時には、支払の際に財布を落とし、千鳥足で歩くなど、相当酔っている状態であった。その後、同月四日午前〇時二四分ころ、西大路四条付近からタクシーに乗車し、自宅から直線距離にして約一・一km離れた京都府向日市寺戸町東ノ段三〇番地一三先(本件事故現場からは約七〇m西)で降車した。亡Aは、相当酔っている状態で、タクシー代金の支払に五分くらいかかり、降車した後、一旦、ふらふらと歩いて西へ向かった後、再び東へ向かって本件事故現場へ至った。
(2) 過失割合
ア 前記(1)の認定事実によれば、本件事故現場付近は暗く、前照灯がロービームでは、前方の見通しが悪いのであるから、被告には、①本件道路の制限速度を遵守するのみならず、適宜安全な速度に減速して前方左右を注視するか、②制限速度を遵守し、前照灯をハイビームにして前方左右を注視するかして、進路の安全を確認すべき注意義務があったにもかかわらず、これらを怠り、前照灯はロービームのまま、漫然と時速四五ないし五〇kmのまま進行した過失により、本件道路車道上の亡Aに、前方約五・九mに至るまで気付かずに亡Aに被告車両を衝突させた過失がある。
他方、前記(1)の認定事実によれば、亡Aには、歩車道の区分がある本件道路で、夜間、酩酊状態で車道を徘徊していた過失がある。
以上のような、自動車を運転する被告の過失と歩行者である亡Aの過失の各内容・程度を比較衡量すると、本件において亡A及び原告らの損害につき、三五%の過失相殺をするのが相当である。
イ この点、被告は、前照灯をハイビームとしていなかった点につき、他の車両等と行き違う場合や他の車両等の直後を進行する場合において、他の車両等の交通を妨げるおそれがあるときには前照灯を消し、あるいはその光度を下げる(すなわち、ロービームにする)法的義務があるところ(道路交通法五二条二項)、本件事故現場では時々対向車が走行していたことも考えて前照灯をロービームにしていたと主張するが、前記(1)に認定のとおり、本件道路は交通量の少ない道路であり、現に、本件事故直前には前後車両も対向車両も存在しなかったのであるから、被告の上記主張は採用できず、前記ア判示の限度で、被告の過失と評価すべきである。
二 原告らの損害について
(1) 亡Aの損害
ア 損害額(争点(2))
(ア) 治療費 一五万五九九九円
前記第二の一(争いのない事実等)(3)と証拠(甲七、八)によれば、亡Aの治療費として一五万五九九九円が損害と認められる。
(イ) 入院雑費 七五〇〇円
前記第二の一(争いのない事実等)(3)によれば、入院雑費としての損害は、次のとおり、七五〇〇円と認められる。
一五〇〇円×五日=七五〇〇円
(ウ) 入院付添費及び付添人交通費 三万〇〇〇〇円
原告らは、入院付添費用三万二五〇〇円及び付添人交通費二万三三四〇円(甲九ないし一四)を請求するところ、前記第二の一(争いのない事実等)(3)によれば、入院付添費及び付添人交通費の合計額として三万円と認めるのが相当である。
(エ) 文書費 四万五八七〇円
前記認定事実と証拠(甲一八ないし二一)によれば、文書費として四万五八七〇円の損害が認められる。
(オ) 入院慰謝料 一〇万〇〇〇〇円
前記認定事実によれば、亡Aの五日間の入院慰謝料としては一〇万円が相当である。
(カ) 葬儀費用、仏壇・仏具購入費及び墓地使用料 一五〇万〇〇〇〇円
原告らは、亡Aの葬儀費用、仏壇・仏具購入費及び墓地使用料として合計四四一万一一三〇円を主張し、証拠(甲一五ないし一七)によれば、それらの支出が認められるが、このうち、一五〇万円を被告に負担させるべき相当額と認める。
(キ) 死亡逸失利益 九八〇五万九一八五円
a 前記認定事実と証拠(甲五、六、二二ないし二七)及び弁論の全趣旨によれば、亡A(死亡時四三歳一一月)は、平成八年、原告X1と婚姻し、平成一一年に原告X2、平成一六年に原告X3をもうけたこと、b薬品に勤務し、本件事故の前年である平成二三年の年収は一二〇六万七二〇〇円であり、今後も昇給の可能性が高いこと、b薬品の定年は六〇歳であるが、既に京都支店課長代理の役職にあった亡Aは希望すれば再雇用が可能であったことが認められる。
b 前記aの認定事実によれば、亡Aの死亡逸失利益については、六〇歳までの一六年間(対応するライプニッツ係数は一〇・八三八)は、基礎収入額を上記一二〇六万七二〇〇円、生活費控除率を三〇%とし、六一歳から六七歳までの七年間(対応するライプニッツ係数は、13.489-10.838=2.651)は、平成二四年の賃金センサス産業計・企業規模計・男性労働者・学歴計・六〇歳ないしは六四歳の平均賃金額である四〇九万二九〇〇円、生活費控除率を四〇%として算出するのが相当である。
なお、被告は、平成二三年の年収額からTES手当等を控除すべきと主張するが、他方で、前記aのとおり、今後の昇給も見込まれることからすると、六〇歳までの基礎収入額としては上記一二〇六万七二〇〇円とするのが相当である。
c そうすると、亡Aの死亡逸失利益は、次のとおり、九八〇五万九一八五円となる。
1206万7200円×(1-0.3)×10.838=9154万9019円
409万2900円×(1-0.4)×2.651=651万0166円
9154万9019円+651万0166円=9805万9185円
(ク) 死亡慰謝料 二四〇〇万〇〇〇〇円
本件事故の態様、家族関係、その他本件訴訟の審理に顕れた諸般の事情に鑑み、また、後記のとおり、原告ら固有の慰謝料を認定することを考慮すると、亡Aの死亡慰謝料としては二四〇〇万円が相当である。
イ 過失相殺
前記アの合計額は、一億二三八九万八五五四円となるところ、前記一(2)に判示のとおり、本件事故による損害については三五%の過失相殺をするのが相当であって、過失相殺後の金額は、八〇五三万四〇六〇円(1億2389万8554円×(1-0.35))となる。
(2) 原告X1の損害認容額
ア 損害額
(ア) 固有の慰謝料
以上に認定の全事実によれば、原告X1は、夫である亡Aの死亡によって、重大な精神的損害を受けたことが認められ、同原告固有の慰謝料として二〇〇万円を認めるのが相当である。
過失相殺後の金額は、一三〇万円(200万円×(1-0.35))となる。
(イ) 亡Aの損害の相続
前記第二の一(争いのない事実等)(3)のとおり、亡Aの相続人は、妻である原告X1、子である原告X2及び原告X3であることから、原告X1の相続分は一/二と認められ、同原告は、前記(1)イの損害額の一/二に当たる四〇二六万七〇三〇円の損害賠償請求権を相続した。
イ 損益相殺
(ア) 前記アの合計額は四一五六万七〇三〇円となるところ、前記第二の一(争いのない事実等)(4)イのとおり、原告X1が、本件弁論終結時までに、厚生年金四三五万一〇八九円を受領したことは当事者間に争いがなく、遺族厚生年金は、その趣旨からして、損益相殺の対象とすべきであり、かつ、労災保険法上の遺族補償年金(最高裁二七年三月四日大法廷判決・平成二四年(受)第一四七八号)同様、損害額元本に充当すべきであって、損益相殺後の金額は、三七二一万五九四一円(4156万7030円-435万1089円)となる。
(イ) この点、被告は、原告X1がb薬品から受領した特別弔慰金二〇〇〇万円(前記第二の一(争いのない事実等)(4)ア)も損益相殺の対象となると主張する。しかし、一般に、使用者が支払う弔慰金は、死亡した被用者を弔うとともに遺族の慰謝や生活援助を図る趣旨のものと解され、損害賠償義務者に対する求償規程の存在を窺わせる証拠もないことから、上記特別弔慰金を原告X1の損害額から控除することはできない。
ウ 弁護士費用
前記イの損害認容額、本件事案の難易、その他本件に顕れた一切の事情に鑑みれば、原告X1の弁護士費用中三七〇万円に、本件事故との相当因果関係を認める。
弁護士費用を加算した後の金額は、四〇九一万五九四一円(三七二一万五九四一円+三七〇万円)となる。
(3) 原告X2及び原告X3の各損害認容額
ア 固有の慰謝料
以上に認定の全事実によれば、原告X2及び原告X3は、父である亡Aと幼くして死別することになり、その精神的損害もまた甚大であることが認められ、同原告ら固有の慰謝料として各一五〇万円を認めるのが相当である。
過失相殺後の金額は、九七万五〇〇〇円(150万円×(1-0.35))となる。
イ 亡Aの損害の相続
前記第二の一(争いのない事実等)(3)のとおり、亡Aの相続人は、妻である原告X1、子である原告X2及び原告X3であることから、原告X2及び原告X3の相続分は各一/四と認められ、同原告らは、それぞれ、前記(1)イの損害額の一/四に当たる二〇一三万三五一五円の損害賠償請求権を相続した。
ウ 弁護士費用
前記ア・イの合計は二一一〇万八五一五円となるところ、同認容額、本件事案の難易、その他本件に顕れた一切の事情に鑑みれば、原告X2及び原告X3の弁護士費用中、各二一〇万円に、本件事故との相当因果関係を認める。
弁護士費用を加算した後の金額は、各二三二〇万八五一五円(二一一〇万八五一五円+二一〇万円)となる。
三 結論
よって、被告に対する民法七〇九条に基づく原告X1の請求は、損害金四〇九一万五九四一円及びこれに対する不法行為の日(本件事故の日)である平成二四年一〇月四日から支払済みまで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度で、同じく原告X2及び原告X3の各請求は、各損害金二三二〇万八五一五円及びこれに対する同じく平成二四年一〇月四日から支払済みまで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるから認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 比嘉一美)
(別紙) 交通事故現場見取図
<省略>