大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成26年(ワ)467号 判決 2015年3月19日

原告

被告

主文

一  被告は、原告に対し、二五二六万九一五八円及びこれに対する平成二四年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一億一〇〇〇万円及びこれに対する平成二四年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告(昭和三六年○月○日生・麻酔科医師)が、自転車(以下「原告車両」という。)を運転して、信号機による交通整理が行われている交差点の北詰の横断歩道を東から西へ走行中、同交差点を西から北へ左折進行してきた被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)と側面衝突し受傷した交通事故(以下「本件事故」という。)につき、被告に対し、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償金一億一〇〇〇万円(未払損害賠償金一億四七四二万八六二五円の一部である一億円及び弁護士費用一〇〇〇万円の合計)及びこれに対する不法行為の日(本件事故の日)である平成二四年八月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  本件事故の内容

ア 発生日時 平成二四年八月二日午後七時四五分ころ

イ 発生場所 京都市上京区河原町通今出川上る青龍町二五七番地

南北に通じる府道下鴨京都停車場線(河原町通)と東西に通じる府道銀閣寺宇多野線(今出川通)とが交差する、信号機による交通整理が行われている交差点(以下「本件交差点」という。)の北詰の横断歩道(以下「本件横断歩道」という。なお、その南側には、自転車横断帯(以下「本件自転車横断帯」という。)が隣接して敷設されている。)上の別紙図面記載の<×>地点(乙二、四)

ウ 原告車両 足踏式自転車

所有者:原告

運転者:原告

エ 被告車両 普通乗用自動車(〔ナンバー<省略>〕)

運転者:被告

オ 事故態様 原告は、原告車両を運転して、対面する青色信号機に従い本件横断歩道上を西進した。

他方、被告は、被告車両を運転して、本件交差点を、西から北へ左折しようとして、別紙図面記載の①地点付近で、被告車両を一時停止させた後、近づく原告車両を見落として、被告車両を時速約五ないし一〇キロメートルで発進させ、同②地点で、同<ア>地点の原告車両に気付き、急制動の措置を講じたものの、間に合わず、同<×>地点で、被告車両のバンパーを原告車両の前輪左側に衝突させた(乙二、三)。

原告は、上記衝突により、原告車両もろとも同<イ>地点に、転倒し、腰部を強打した(乙二、四)。

(2)  被告の責任原因

ア 被告は、一時停止後発進する際、本件横断歩道上を横断する原告車両の有無を十分確認してから進行すべき義務があるのに、同義務を怠った過失により、青色信号に従い本件横断歩道を横断中の原告車両に被告車両を衝突させ、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故によって原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

イ 被告は、被告車両の運行供用者として、自賠法三条に基づき、本件事故によって、原告に生じた人身損害を賠償する責任を負う。

(3)  原告の傷害、診療経過及び後遺障害(甲三、五)

ア 原告(昭和三六年○月○日生)は、本件事故により、第一腰椎破裂骨折の傷害を負い、救急搬送されたa病院で、平成二四年八月六日、脊椎固定術(第一二胸椎から第二腰椎まで後方固定。第一二胸椎・第一腰椎間と第一腰椎・第二腰椎間に骨移植)を受けたほか、次のとおり、入通院治療を受け、平成二五年八月一日に症状固定に至り、少なくとも、後遺障害等級一一級七号に該当する脊柱変形が後に遺った。

(ア) 平成二四年八月二日から平成二四年九月一五日まで入院(四五日間)

(イ) 平成二四年一〇月四日から平成二五年八月一日まで通院(実通院日数六日)

イ 前記アの治療関係費として二八九万五六五一円を要した。

(4)  原告の休業

ア 原告は、本件事故当時、次の(ア)ないし(ウ)の医療機関(以下「勤務先病院」という。)及び次の(エ)のb局で、麻酔科医師として稼働していた。

(ア) 医療法人社団c病院(以下「c病院」という。)

毎週火曜日、水曜日、金曜日

(イ) dクリニック 隔週の月曜日

(ウ) e病院 毎週木曜日

(エ) f市b局 毎週火曜日夜間、木曜日夜間

イ 原告は、本件事故当時、心肺蘇生法指導の講習を行う事業を経営し、毎週土曜日、日曜日、隔週の月曜日に講習会を開催していた。

ウ 原告は、本件事故による前記(3)アの傷害によって、少なくとも、次の日数、勤務先病院を欠勤した。

(ア) c病院

平成二四年八月に一三日間、同年九月に一二日間、同年一〇月に一四日間、同年一一月に六日間の合計四五日間

(イ) dクリニック

平成二四年八月に二日間、同年九月に二日間、同年一〇月に一日間、同年一一月に二日間、同年一二月に一日間の合計八日間

(ウ) e病院

平成二四年八月に四日間、同年九月に四日間、同年一〇月に四日間、同年一一月に五日間、同年一二月に四日間の合計二一日間

エ 前記ウの休業による原告の損害は六〇四万円を下らない。

(5)  既払金

被告は、原告に対し、合計一二二四万五六五一円を支払った。

二  争点及び争点に対する当事者の主張

(1)  過失相殺

【被告の主張】

原告には、本件交差点を横断するにあたり、本件自転車横断帯を走行すべき義務(道路交通法六三条の七第一項)があるのに、これを怠り、本件横断歩道を走行した過失がある。また、原告には、一時停止中の被告車両の動静に注意すべき注意義務があったのにこれを怠り、被告車両が原告車両の通過を待ってくれるものと軽信し、本件横断歩道上を漫然進行した過失がある。

したがって、原告の損害総額に対し、少なくとも一〇パーセントの過失相殺をすべきである。

【原告の主張】

原告車両は、当初、本件自転車横断帯を西進していたが、被告車両が別紙図面記載の①地点よりもやや同②地点に近い地点で一時停止したため、被告車両との距離を保つため、右(北)寄りに進路を変更して本件横断歩道上を走行せざるをえなくなったものである。

また、被告車両は本件横断歩道を西進する原告車両に全く気付いていなかった。

以上によれば、原告に過失相殺すべき過失は認められない。

(2)  原告の後遺障害の程度

【原告の主張】

原告には、前記一(3)の後遺障害等級一一級七号に該当する脊柱変形の外、次の障害が後に遺ったから、原告の後遺障害が二つ以上存在し、併合八級に該当する。

ア 原告は、本件事故の傷害により、骨盤骨の腸骨の欠損、変形が後に遺り、これは、後遺障害等級一二級五号(鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの)に該当する。

イ 原告は、本件事故の傷害により、長時間同じ姿勢にいると腰痛が出るという症状を後遺し、これは、高度な労働能力を要求される麻酔科医師として、後遺障害等級九級一〇号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)に該当する。

【被告の反論】

争う。

本件事故により原告に生じた後遺障害は、前記一(3)の後遺障害等級一一級七号に該当する脊柱変形のみである。

(3)  原告の損害

【原告の主張】

ア 治療費(当事者間に争いがない。) 二八九万五六五一円

イ 入院雑費 七万二〇〇〇円

(計算式)日額一六〇〇円×四五日=七万二〇〇〇円

ウ 休業損害 九一〇万五八二五円

(ア) 平成二四年一二月までの休業損害(当事者間に争いがない。)

前記第二の一(4)エのとおり、六〇四万円

(イ) 平成二五年二月以降、症状固定までのe病院の休業損害

原告は、本件事故の傷害により、e病院については、退職を余儀なくされ、三〇六万五八二五円の損害を被った。

(計算式)

147万1600円(本件事故前3か月間の支給額)÷12日(本件事故前3か月間の稼働日数)≒12万2633円12万2633円×25日(平成25年2~7月の稼働可能日数)=306万5825円

エ 逸失利益 一億三八〇〇万〇〇〇〇円

(ア) 基礎収入

a 原告は、本件事故当時、前記第二の一(4)ア及びイのとおり稼働しており、本件事故による逸失利益算定のための基礎収入は、年額約二二七六万一〇〇〇円を下らないというべきである。

(a) c病院 年額一一五二万〇〇〇〇円

(計算式)

月額96万円(甲7の2)×12月=1152万円

(b) dクリニック 年額一八五万七六〇〇円

(計算式)

月額15万4800円(本件事故前3か月平均〔甲9の2〕)×12月=185万7600円

(c) e病院 年額五八八万〇〇〇〇円

(計算式)

月額約49万円(本件事故前3か月平均〔甲10の2〕)×12月=588万円

(d) f市b局 年額四四万四〇〇〇円

(計算式)

月額約3万7000円(甲8)×12月=44万4000円

(e) 心肺蘇生法指導事業 年額三〇六万〇〇〇〇円

原告は、NPO法人日本g協会(以下「g協会」という。)と業務委託契約を締結し(甲二〇)、受講者に心肺蘇生法の指導・講義を行う事業を行っている。受講料は、g協会に納付され、原告は、g協会から指導料を受領している。

原告が直接指導できない場合には、代替講師を雇う必要があるとともに、原告による講義は休講することとなり、受講者減少に結び付く。

(計算式)

月額約25万5000円(甲11)×12月=306万円

b 基礎収入を算定するに当たり、税金を控除すべきとする被告の主張は争う。

(イ) 労働能力喪失率

a 前記(2)のとおり、原告は後遺障害等級併合八級の障害を負い、四五パーセントの労働能力を喪失した。

b 被告は、後記〔被告の反論〕のとおり、原告の労働能力喪失率が逓減すると主張する。しかし、原告は、本件事故により、脊椎固定術を受けており、固定された椎間の上下の椎間が過度に動くことにより、椎間板ヘルニアを起こしたり、固定具が周囲組織に損傷を与える可能性もあるのだから、原告の労働能力喪失率を制限すべきではない。

(ウ) 労働能力喪失期間

医師の稼働実態及び原告の本件事故前の良好な健康状態や精力的な稼働状況によれば、原告は、本件事故に遭わなければ、八〇歳を超えても就労可能であったことから、労働能力喪失期間は、少なくとも七五歳までの二三年間(対応するライプニッツ係数は、一三・四八九)とすべきである。

(エ) 中間利息控除の基準時を事故時とすべきであるとの被告の主張は、独自の主張であって、失当である。

(オ) 以上によれば、原告の逸失利益は、一億三八〇〇万円となる。

(計算式)

2276万1000円×0.45×13.489≒1億3800万円

オ 入通院慰謝料 一五〇万〇〇〇〇円

カ 後遺障害慰謝料 八〇〇万〇〇〇〇円

キ 原告車両損壊による損害 一〇万〇八〇〇円

本件事故により生じた自転車に対する恐怖心と家族の反対により、原告は自転車に乗れなくなった。そして、原告車両の購入価格は一〇万〇八〇〇円(税込〔甲一五、一六〕)であるから、原告車両損壊による損害は同額となる。

ク アないしキの小計 一億五九六七万四二七六円

ケ 既払金控除後 一億四七四二万八六二五円

(計算式)

1億5967万4276円-1224万5651円=1億4742万8625円

コ 弁護士費用 一〇〇〇万〇〇〇〇円

【被告の反論】

ア 休業損害について

原告は、本件事故の傷害によって、e病院の退職を余儀なくされたと主張するが、その経緯は、原告が、e病院に復職の目処を伝えていなかったため、同病院が原告の後任者を雇い入れた(あるいは医局がそのように人事した)ものにすぎない。そして、原告は、平成二五年一月には就労可能なまでに回復しており、原告主張の平成二五年二月から同年七月までの休業損害は発生しない。

イ 後遺症逸失利益について

(ア) 基礎収入

基礎収入算定にあたり、税金は控除すべきである。

(イ) 労働能力喪失率

a 原告には本件事故により脊柱変形の障害が後に遺ったが、労働能力への影響は腰背部痛によるものであり、その腰背部痛による労働能力の喪失も、馴化により消退するものである。現に、原告の所得は、平成二五年度には、本件事故前以上の水準に達している。したがって、労働能力喪失率は、当初二ないし三年間は一四パーセント、その後五ないし一〇年間は五パーセントと評価するべきである。

b 原告の心肺蘇生法指導事業においては、原告が欠勤しても、原告雇用の医師等が原告に代わって指導を行うところ、本件事故により原告が欠勤した平成二四年の同事業の収入は二二七六万円、外注費は三九四万円(収入に占める割合は一七・三パーセント)、平成二五年の同事業の収入は二六一三万円、外注費は四二七万円(収入に占める割合は一六・三パーセント)であるから、原告が本件事故により欠勤したことによる外注費の増加は、一パーセントにとどまる。

(ウ) 労働能力喪失期間

就労可能時期の終期は六七歳とすべきであり、現に就労の可能性の有無にかかわらず、特段の理由がない限り、これを延長すべきではない。

(エ) 中間利息控除の基準時

事故日から遅延損害金を付することとの均衡上、後遺障害逸失利益も事故時の原価とすべきである。

ウ 原告車両損壊による損害について

争う。

原告車両は、本件事故により前部に擦過損を生じたのみであるから、到底、全損とは評価できず、実際の修理費用相当額二三七〇円(甲一九)を超えて損害は生じていない。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)(過失相殺)について

(1)  前記第二の一(1)の当事者間に争いのない事実等によれば、被告には、前記第二の一(2)のとおり、一時停止後発進する際に、本件横断歩道上を走行する原告車両(足踏式自転車)の有無を十分確認してから進行すべき義務があるのに、同義務を怠った過失が認められる。

他方、原告にも、横断歩道上とはいえ、速度が歩行者よりも速いことを考慮すると、一時停止中の被告車両の動静に注意し、被告車両と衝突しないような速度と方法で原告車両を運転すべき義務(道路交通法七〇条参照)があるのに、同義務を怠った過失が認められる。

そして、以上のような原告と被告の過失内容・程度を比較衡量すると、原告と被告との過失割合は、原告五、被告九五と評価するのが相当である。

(2)  前記(1)の認定に対して被告及び原告は、それぞれ、異なる主張を行うが、次のとおり、いずれも採用できない。

ア まず、被告は、原告には、本件交差点を横断するにあたり、本件自転車横断帯を走行すべき義務(道路交通法六三条の七第一項)があったにもかかわらず、これを怠り、本件横断歩道を走行した過失があると主張する。

しかし、自転車横断帯の存在によって、四輪車に対しては自転車の横断の用に供される場所であることが表示されており、これに隣接して横断歩道が設置されている場合、自転車が、横断歩道のうち、自転車横断帯から一ないし二メートル程度離れた場所とそれ以外の場所のいずれを通行していたかによって、対四輪車との関係での自転車に対する規範的評価が大きくことなるとは言い難く、原告が、本件自転車横断帯でなく、隣接する本件横断歩道を走行していたことは、前記(1)の認定に影響しない。

イ 一方、原告は、被告が、本件横断歩道を西進する原告車両に全く気付いていなかったことから、被告の過失割合は加重され、原告には過失がないこととなると主張する。

しかし、前記第二の一(1)の当事者間に争いのない事実等によれば、被告は、再発進後の別紙図面記載の②地点においては、原告車両に気付いており、原告の主張は前提事実を欠くというべきであり、被告の同①地点での確認不十分については、前記(1)の過失割合において既に評価済みである。

二  争点(2)(原告の後遺障害の程度)について

(1)  前記第二の一(3)のとおり、原告が後遺障害等級一一級七号の脊柱変形の後遺障害を負ったことは当事者間に争いがなく、他に逸失利益及び後遺障害慰謝料を発生させる後遺障害として評価できるものは認められない。

(2)  前記(1)の認定に反する原告の主張は、次のとおり、いずれも認められない。

ア まず、原告は、骨盤骨の腸骨の欠損、変形を主張する。

しかし、原告は、平成二五年八月一日、腸骨骨移植部の欠損、変形なしと診断され(甲三)、その他、原告の腸骨の欠損、変形を認める証拠はないから、原告の前記主張は採用できない。

イ 次に、原告は、腰痛を主張する。

しかし、これは、脊柱変形が原因と認められるから、既に前記(1)の後遺障害一一級七号で評価されており、原告の前記主張は採用できない。

三  争点(3)(原告の損害)について

(1)  損害額

ア 治療費 二八九万五六五一円

前記第二の一(3)のとおり、原告の入通院治療関係費として二八九万五六五一円を要したことは当事者間に争いがない。

イ 入院雑費 六万七五〇〇円

前記第二の一(3)のとおり、原告が本件事故により、a病院に四五日間入院したことは当事者間に争いがなく、入院雑費は、日額一五〇〇円と認めるのが相当であるから、本件事故による入院雑費は六万七五〇〇円と認められる。

(計算式)

日額一五〇〇円×四五日=六万七五〇〇円

ウ 休業損害 八四九万二六六六円

(ア) 前記第二の一(4)エのとおり、原告の平成二四年中の休業損害として六〇四万円が発生したことは当事者間に争いがない。

(イ) これに加えて原告は、e病院の退職を余儀なくされたとして、平成二五年二月から同年七月までの同病院勤務による得べかりし利益の損害を請求している。

前記第二の一(4)の争いのない事実等と証拠(甲一〇、一三、一七、乙一一〔枝番号があるものは枝番号を含む。〕、原告本人)によれば、原告は、出身医局による人事で、平成二三年七月又は八月からは、c病院(麻酔科部長)、dクリニック、e病院に勤務したこと、当初、e病院における勤務は、第一、第三月曜日であったが、平成二四年四月からは、毎週木曜日(手術立会)の勤務となったこと、本件事故(平成二四年八月二日)による傷害により原告が休業したため、e病院の毎週木曜日(手術立会)の麻酔医師は、他の医師に交替し、原告が復職を申し出た時には復帰できなかったこと、原告は、平成二五年七月には、医局人事により、h病院に週四日(月、火、水、金)勤務となったことが認められ、これらの事実によれば、e病院における職を失ったことは、本件事故の傷害によるものであって、原告が次の医局人事(平成二五年七月)によって、週四日のh病院勤務となるまでの五か月(平成二五年二月から六月まで)については、e病院で得られたであろう給与相当額の損害が認められるというべきで、その金額は、次のとおり、二四五万二六六六円と認められる。

(計算式)

147万1600円(本件事故前3か月間の支給額÷3月×5月≒245万2666円

エ 後遺障害逸失利益 二〇六五万六三四〇円

(ア) 前記第一の二(4)の争いのない事実等、前記二の認定事実及び前記ウ認定事実と証拠(甲六ないし一〇、一三、一四、一七、二〇ないし二九、乙九ないし一一、〔枝番号があるものは枝番号を含む。〕、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

a 原告の後遺障害は、脊柱の変形であり、労働能力の喪失は、それ自体ではなく、腰痛等の神経症状によるものである。ただし、これは、器質的な原因があるから、馴化等により労働能力の回復が認められるものではない。

b 原告(昭和三六年○月○日生)は、昭和六一年に研修医となり、その後、麻酔科医師として稼働し、平成二三年七月又は八月からは、c病院(麻酔科部長)、dクリニック及びe病院に勤務するほか、f市b局の事後検証医としても稼働し、平成二五年七月からは、h病院麻酔科部長として稼働した。そして、原告は、平成二一年度は一三二七万九四四九円、平成二二年度は一三〇五万四七〇〇円、平成二三年度は一四三三万五一〇三円、平成二四年度は一二六六万三三五八円、平成二五年度は一四〇六万三二九二円の給与収入を得た。

また、原告は、平成一九年から心肺蘇生法指導事業を行い、平成二一年度は二四七万〇六〇五円、平成二二年度は三四三万四八一九円、平成二三年度は二六八万〇三六九円、平成二四年度は三〇〇万七九一二円、平成二五年度は五六二万八七七三円の事業所得を得た。

このように、原告には、本件事故による休業期間を除き、明らかな減収はないものの、原告の後遺障害は、脊椎の変形による腰痛等の神経症状であることから、麻酔医師としての労働能力に与える影響は否めず、現時点においては、原告の努力等によって、減収は生じていないとしても、将来的に不利益を被るおそれは否定できない。

c 原告が、麻酔科医師であるほか、心肺蘇生法事業を行っていることを考慮すれば、少なくとも七五歳まで稼働する蓋然性は高い。

(イ) 前記(ア)のような事実関係に照らすと、原告の後遺障害については、平成二三年の給与所得と事業所得の合計一七〇一万五四七二円(なお、被告は、基礎収入を算定するにあたり、所得税を控除すべきであると主張するが、控除するべきでないことは、最高裁昭和四五年七月二四日第二小法廷判決(民集二四巻七号一一七七頁)のとおりである。)を基礎収入として、症状固定(原告五二歳)から二三年間(対応するライプニッツ係数は一三・四八八六)にわたり、九パーセントの労働能力を喪失したとして、後遺障害逸失利益を認めるのが相当であって、その金額は、次のとおり、二〇六五万六二六〇円となる。

(計算式)

1701万5472円×0.09×13.4886≒2065万6340円

(ウ) この点、被告は、後遺障害逸失利益の原価計算の基準日は事故日とすべきと主張する。

しかし、後遺障害逸失利益が具体的に発生するのは症状固定時であることから、その損害賠償算定の基準日も症状固定日とするのが相当である。なるほど、不法行為時に損害賠償請求権が遅滞に陥ることとの不均衡はあるものの、本件の事故日から症状固定日までは約一二か月の経過があるが、遅延損害金は単利で計算されるのに対し、中間利息控除では複利で計算されることに鑑みると、事故時を基準に原価計算を行うことが必ずしも損害の公平な分担といえるかは疑問であるというべきである。

オ 入通院慰謝料 九三万〇〇〇〇円

前記第二の一(3)の原告の受傷内容、入院期間、通院期間及び頻度等を斟酌すると、入通院慰謝料としては九三万円が相当である。

カ 後遺障害慰謝料 四〇〇万〇〇〇〇円

前記二の原告の後遺障害の内容及び程度を斟酌すると、後遺障害慰謝料としては、四〇〇万円が相当である。

キ 原告車両損壊による損害 二万六〇六四円

証拠(甲一八、一九、乙二)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により、原告車両は、前輪擦過、ハンドル先端擦過、フレーム擦過の損傷などが発生し、その修理費用としては二万三六九四円を要すること、その見積もり費用として二三七〇円を要したことが認められる。

なお、証拠(甲一八、一九、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、二三七〇円(甲一九)は見積書代金として支払われたものであって、実際の修理費用額とは認められない。

(2)  過失相殺

前記(1)の合計額は、三七〇六万八二二一円となるところ、前記一に判示のとおり、原告の損害については、五パーセントの過失相殺をするのが相当であるから、相殺後の金額は、三五二一万四八〇九円(≒3706万8221円×(1-0.05)(1円未満切り捨て))となる。

(3)  損益相殺

前記第二の一(5)のとおり、被告が一二二四万五六五一円を支払ったことは当事者間に争いがないことから、これを損益相殺すると、原告の損害は、二二九六万九一五八円となる。

(4)  弁護士費用

前記損害認容額、本件事案の難易、その他本件に顕れた一切の事情に鑑みれば、原告の弁護士費用中、二三〇万円に本件交通事故との相当因果関係を認める。

弁護士費用を加算した後の損害額は二五二六万九一五八円となる。

四  結論

以上によれば、原告の被告に対する請求は、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、本件事故による損害賠償金二五二六万九一五八円及びこれに対する不法行為(本件事故)の日である平成二四年八月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さない。

(裁判官 比嘉一美 永野公規 島田理恵)

別紙 交通事故現場見取図

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例