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京都地方裁判所 平成26年(ワ)684号 判決 2015年5月25日

A事件原告・B事件被告

X1 他3名

A事件被告

Y1 他1名

B事件原告

全国共済農業協同組合連合会

主文

一  被告らは、原告X1に対し、連帯して、一三六〇万七八二五円及びこれに対する平成二四年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2に対し、連帯して、六三三万五二六〇円及びこれに対する平成二四年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告X3に対し、連帯して、六三一万七三五〇円及びこれに対する平成二四年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは、原告X4に対し、連帯して、六三三万四三八三円及びこれに対する平成二四年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告X1は、B事件原告に対し、一万三三〇〇円及びこれに対する平成二五年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  原告X2、原告X3及び原告X4は、B事件原告に対し、それぞれ四四三三円及びこれに対する平成二五年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

七  原告ら及びB事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

八  訴訟費用はこれを七五分し、その一をB事件原告の負担とし、その一二を原告X1の負担とし、その一二を原告X2、原告X3及び原告X4の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

九  この判決は、第一項ないし第六項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  A事件

(1)  被告らは、原告X1に対し、連帯して、二二五三万五八八五円及びこれに対する平成二四年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  被告らは、原告X2に対し、連帯して、八六六万五九五七円及びこれに対する平成二四年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(3)  被告らは、原告X3に対し、連帯して、八六四万六〇五七円及びこれに対する平成二四年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(4)  被告らは、原告X4に対し、連帯して、八六六万四九八三円及びこれに対する平成二四年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  B事件

(1)  原告X1は、B事件原告に対し、三万七六二五円及びこれに対する平成二五年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  原告X2は、B事件原告に対し、一万二五四二円及びこれに対する平成二五年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(3)  原告X3は、B事件原告に対し、一万二五四二円及びこれに対する平成二五年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(4)  原告X4は、B事件原告に対し、一万二五四一円及びこれに対する平成二五年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

平成二四年一一月二六日午後七時一七分ころ、府道和泉宮脇線(以下「本件道路」という。)を徒歩で横断中のA(以下「亡A」という。)が、走行してきた被告Y1運転の普通貨物自動車(以下「被告車両」という。)と衝突して翌日午前一〇時二五分ころ死亡するという交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

本件A事件は、亡Aの相続人(妻子)である原告らが、被告Y1に対しては、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。三条に基づき、被告Y1の使用者である被告会社に対しては、民法七一五条に基づき、損害賠償金(原告X1は二二五三万五八八五円、原告X2は八六六万五九五七円、原告X3は八六四万六〇五七円、原告X4は八六六万四九八三円)及びこれらに対する不法行為の日(本件事故の日)である平成二四年一一月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

本件B事件は、被告Y1との自動車共済契約に基づき、平成二五年一月八日、被告車両の修理費用等三〇万一〇〇〇円を支払って、保険法二五条一項に基づき、同被告の損害賠償請求権を取得した保険会社であるB事件原告が、民法七〇九条に基づき、亡A相続人である原告らに対し、上記金額から過失分(七五%)を相殺した後の損害金七万五二五〇円の各相続分(原告X1に対しては三万七六二五円、原告X2及び同X3に対しては各一万二五四二円、原告X4に対しては一万二五四一円)及びこれらに対する前記共済金支払の日の翌日である平成二五年一月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。)

(1)  本件事故の内容

ア 発生日時 平成二四年一一月二六日午後七時一七分ころ

イ 発生場所 京都府南丹市美山町島水ノ手一八番地の本件道路上

本件道路は、片側一車線の府道和泉宮脇線であり、最高制限速度は四〇km/hに規制されている。道路沿いには、民家等が並んでいる。本件事故発生場所の東側には公民館、西側には消防署がある。本件道路の東側には歩道が敷設され、西側には路側帯がある。

本件事故発生場所の三五・九m南と約二〇〇m北にそれぞれ横断歩道(信号機による交通整理は行われていない。)が存在する。

本件事故発生現場の見通しは良好であった(本件事故発生場所から三〇・三m北(時速五〇kmでの停止可能距離)の地点からも、本件道路の西側、本件道路の中央付近に立つ人影を十分認識可能であった。)。

本件事故当時、路面が濡れていた。

ウ 被告車両 普通貨物自動車(〔ナンバー<省略>〕)

運転者:被告Y1

エ 事故態様 本件道路を南進してきた被告車両が、本件道路を徒歩で西側から東側へ横断していた亡Aと衝突した。

(2)  被告らの責任

ア 被告Y1の過失責任

被告Y1は、被告車両を運転中、前方注視義務を怠って本件事故を惹起した過失があるから、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、本件事故によって亡Aに生じた損害の賠償責任を負担する。

イ 被告会社の使用者責任

被告Y1の使用者である被告会社は、本件事故により亡Aに生じた損害について、民法七一五条に基づく損害賠償責任を負担する。

(3)  亡Aの死亡

亡Aは、本件事故により脳挫傷の傷害を負い、B病院へ救急搬送されたが、本件事故翌日(平成二四年一一月二七日)午前一〇時二五分ころ、上記傷害によって死亡した。

(4)  原告らの相続

原告X1は、亡Aの妻であり、原告X2、原告X3及び原告X4は、亡Aの子らであり、亡Aの本件事故による損害賠償請求権を相続した。

(5)  損益相殺

ア B事件原告は、B病院に対し、亡Aの治療関係費三八万六六三〇円を支払った(弁論の全趣旨)。

イ 原告X1は、平成二六年八月一五日までに、少なくとも、次の遺族年金を受領した。

(ア) 日本私立学校振興・共済事業団の遺族共済年金 三二四万二五三四円

(イ) 遺族年金 二万二四五八円

(6)  B事件原告の代位請求権の取得

ア B事件原告は、平成二四年二月一六日、被告Y1との間で、次の内容の自動車共済契約を締結した(乙一)。

(ア) 被共済車両 被告車両

(イ) 共済期間 平成二四年二月一六日午前九時から

平成二五年二月一六日まで

イ B事件原告は、平成二五年一月八日、前記アの自動車共済契約に基づき、修理費二三万一〇〇〇円、代車費用七万円を支払った(乙四)。

二  争点及び争点に関する当事者の主張

(1)  過失相殺

【被告ら及びB事件原告の主張】

ア 本件事故は、信号機のない横断歩道の付近における横断中の歩行者と四輪車との事故であるから、その基本過失割合は、歩行者:四輪車=三〇:七〇であるところ、亡Aの過失割合は、夜間の事故であることから五%加算されるものの、亡Aは高齢者(八二歳)であったから一〇%減算され、亡A:被告Y1=二五:七五となる。

イ 被告車両の速度は五〇~六〇km/hで、六〇km/hを超えていなかった。

被告Y1が前方注視が十分でなかったことは、原告ら指摘のとおりであるが、「ぼーっと」というのは、公民館の灯りに注意を引かれたことを意味している。また、亡Aの服装が全身黒っぽいものであったことも、発見を送らせた一因である。したがって、被告Y1に加算修正すべき著しい過失はない。

【原告らの主張】

ア 亡Aは、本件事故発生現場の東側にある公民館の集会に参加するため、原告X1の運転する車両で、本件事故現場付近まで来たが、公民館の駐車スペースが満車であったため、向かい側の消防署の車庫前のスペースに車両を停止した。亡Aは、降車して、公民館に向かおうと、本件道路を横断中に本件事故に遭った。亡Aは足腰が弱っていたので、杖をついてゆっくりとした速度で横断していた。

イ 本件事故発生場所と南にある横断歩道までの距離は三五・九mあり、本件事故は、被告ら及びB事件原告が主張するような「横断歩道付近の事故」(横断歩道から二〇~三〇m以内の場所の事故)には該当せず、基本的過失割合は歩行者:四輪車=二〇:八〇である(夜間であること、亡Aが高齢者であることで、五%の±となる。)。

そして、被告Y1が、制限速度(四〇km/h)を二〇km/hも超過する六〇km/hで走行していたこと、前方左右の注視を怠って「ぼーっと」した状態で漫然と走行していたことによって、亡Aの発見が遅れ、かつ、発見後に衝突を回避できなかったことが本件事故の最大の原因であって(被告Y1がいずれかの義務を果たしていれば、亡Aは死亡せずにすんだものと考えられる。)、このような被告Y1の著しい過失に鑑みれば、本件における過失割合は、亡A:被告Y1=〇:一〇〇とすべきである。

(2)  亡A及び原告らの損害額

【原告らの主張】

ア 亡Aの損害

(ア) 死体検案料・文書料 三万九二〇〇円

(イ) 入院雑費 三〇〇〇円

一五〇〇円×二日=三〇〇〇円

(ウ) 入院慰謝料 三〇万〇〇〇〇円

亡Aの入院期間は二日であるが、死亡に至る入院であり、その慰謝料は入院日数のみから判断されるべきではない。

生死を彷徨った苦痛に対する慰謝料は、死亡による慰謝料とは別に、斟酌されなければならない。

(エ) 死亡逸失利益 一五九八万一一〇一円

a 亡Aは、本件事故以前から、年金(日本私立学校振興・共済事業団の退職共済年金及び老齢基礎年金・老齢厚生年金)を受領しており、死亡しなければ、年額三四六万五〇九八円を、平均余命まで七・四一/八年(対応するライプニッツ係数六・五八八六)にわたり、これを受領できたはずである。

b 亡Aは被扶養者である原告X1と、持ち家で同居していたことからすると、生活費控除利率は三〇%とするのが相当である。

なお、原告X1自身の本件事故当時の年金額は二四六万四四〇〇円であった。

c したがって、死亡逸失利益は、次のとおり、一五九八万一一〇一円である。

346万5098円×(1-0.3)×6.5886=1598万1101円

(オ) 死亡慰謝料 二三〇〇万〇〇〇〇円

被告Y1の過失によって、亡Aのかけがえのない生命が奪われ、原告らの生活は一変した。

しかるに、被告Y1は、本件事故後も、免停期間を除き、自動車の運転行為を行っていること、一周忌にも何の連絡もないことからすると、被告Y1には本件事故の重大性の認識もなく、反省もみられないばかりか、原告遺族を慮るという姿勢もない。

以上のような事情を考慮されるべきであり、慰謝料としては二三〇〇万円が相当である。

(カ) 葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円

(キ) 物損 一〇万五五〇〇円

別紙「物件損害目録」記載のとおり

イ 原告X1の損害

(ア) 固有の慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

a 原告ら遺族としては、本件事故後も被告Y1が運転を続けていることを知り、同被告が本件事故の重大性が分かっていないと感じ、衝撃を受けた。刑事裁判においても、被告Y1が自身の過ちを悔いたり反省したりしていないことを痛感し、怒りと悲しみを新たにした。その後の保険会社(B事件原告)に任せっきりの態度は、原告ら遺族の心情を更に傷つけるものであった。

b 亡Aは、近隣のダム建設の反対集会に出席するために公民館に向かっていた際に本件事故に遭った。原告X1もダム建設に反対していたが、本件事故で亡Aを失って、自宅を売却しようかと言い出すなど、元気がなくなり、その生活や体調は激変した。亡Aは原告X1にとって大きな精神的支柱であった。

(イ) 弁護士費用 二〇四万〇〇〇〇円

弁護士費用は、認容額のみならず、事案の難易その他諸般の事情を考慮して定められるものである。本件が死亡事案であることに照らせば、弁護士の果たす役割は大きく、弁護士費用相当損害金としては、各原告の請求金額通りに認容されるべきである。

ウ 原告X2の損害

(ア) 交通費等 六万四四九〇円

別紙「交通費等明細」の「原告X2、原告X2の娘B分」欄記載のとおり

(イ) 固有の慰謝料 一〇〇万〇〇〇〇円

前記イ(ア)aのとおり

(ウ) 弁護士費用 七八万〇〇〇〇円

前記イ(イ)のとおり

エ 原告X3の損害

(ア) 交通費等 四万四五九〇円

別紙「交通費等明細」の「原告X3、妻C分」柵記載のとおり

(イ) 固有の慰謝料 一〇〇万〇〇〇〇円

前記イ(ア)aのとおり

(ウ) 弁護士費用 七八万〇〇〇〇円

前記イ(イ)のとおり

オ 原告X4の損害

(ア) 交通費等 六万三五一六円

別紙「交通費等明細」の「原告X4、原告X4の妻D分」欄記載のとおり

(イ) 固有の慰謝料 一〇〇万〇〇〇〇円

a 前記イ(ア)aのとおり

b 末子であった原告X4は亡Aに可愛がられ、これから恩返しの親孝行をしようという矢先に亡Aを失った。その精神的衝撃は大きく、一事は睡眠も食事もとれない程であった。

(ウ) 弁護士費用 七八万〇〇〇〇円

前記イ(イ)のとおり

【被告らの反論】

ア 入院雑費について

集中治療室で救急治療中に死亡した場合、入院雑費は発生しない。

入院から死亡まで約一五時間であるから、仮に、入院雑費が発生するとしても、一日分である。

イ 入院慰謝料について

亡Aは本件事故から約一五時間で死亡しており、死亡慰謝料とは別に入院慰謝料を認めるべきではない。

ウ 死亡逸失利益について

(ア) 亡Aは、死亡当時八二・四歳であるから、その平均余命は七年(対応するライプニッツ係数五・七八六四)である。

(イ) 基礎収入額は全額年金であるから、生活費控除率は五〇%以上が妥当である。

エ 死亡慰謝料について

被告Y1が本件事故後も運転を続けていることは事実であるが、その生活上(通勤、通院)、自動車の運転は不可避であり、慰謝料増額理由とされるような悪質性はない。

オ 物損害について

時価額の算定にあたっては、購入価格から減価償却が必要である。合計で二万円程度が妥当である。

カ 弁護士費用について

原告らは、自賠責保険請求を行えば、容易にその支払を受けられたにもかかわらず(少なくとも二八三六万〇六二六円の保険金の支払をうけることができたはずである。)、これを行わずに本訴を提起した。

相当因果関係のある弁護士費用の認定にあたっては、認容損害額ではなく、その金額から上記自賠責保険金額を控除した残金を基準とすべきである。

(3)  損益相殺

【被告らの主張】

本件口頭弁論終結時まで(平成二七年二月の支給まで)に、原告X1が受領した遺族年金額は、次のとおりと推測される。

ア 遺族共済年金 四二一万六三四〇円

平成二六年六月から平成二七年二月までの隔月の支給額は三二万三〇五〇円と推定されるため

イ 遺族年金 二万九二一三円

平成二六年六月から平成二七年二月までの隔月の支給額は二二四一円と推定されるため

【原告らの反論】

ア 遺族共済年金について

平成二六年六月及び同年八月の支給額は各三二万〇七二二円であった。

イ 遺族年金について

平成二六年六月及び同年八月の支給額は各二二二五円であった。

(4)  被告車両の損害

【B事件原告の主張】

ア 修理費用 二三万一〇〇〇円

イ 代車費用 七万〇〇〇〇円

被告Y1は、平成二四年一二月三日午後七時から同月二三日午前一一時までの一九日一六時間代車を必要として、実際に利用した(走行距離は一六六三km)。代車はワゴンR(軽自動車)であった。

被告Y1は、被告車両の他にBMWを所有していたが、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ)を装着していなかったため、同車を使用できなかった。

【原告らの反論】

ア 修理費用について

経済的全損にあたらないことをB事件原告において、主張・立証すべきである。

イ 代車費用について

代車使用の必要性、期間の相当性、代車使用料金の相当性についての主張・立証がされていない。

BMWを所有していたのであれば、代車の必要性は認められない。仮に、必要があったとしても、修理に必要な期間はせいぜい一週間であり、ましてや、警察署に保管されていた期間の代車費用を原告ら遺族に負担させることの不当性は明白である。

第三当裁判所の判断

一  過失相殺(争点(1))について

(1)  事故態様

ア 前記第二の一(争いのない事実等)(1)(3)と証拠(甲四、五、二八ないし三三、三六、三七、四〇ないし四五、五三、乙二(枝番を含む。)、被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(ア) 本件道路は、南丹市の市街地を南北に走る片側一車線の幅員約六mの府道である。本件道路は、西側には、幅員約一・二mの路側帯があり、東側には縁石のある幅員約二・四mの歩道が敷設されている。本件道路の最高制限速度は時速四〇kmに規制されていた。

本件事故当時、本件事故発生場所の北方約三〇mの地点の本件道路西側に設置されていたa社○○支店の電飾看板は点灯していた。同看板の南側に隣接して消防団の消防ポンプ格納庫がある。また、本件事故発生現場の南東には、別紙図面記載のとおり公民館があり、本件事故当日は、同公民館で住民集会が開催されるため、蛍光灯が点灯していた。

本件事故当時、雨はほとんど上がっていたが、路面は濡れていた。

(イ) 被告Y1は、平成二四年一一月二六日午後七時一七分ころ、勤務先から自宅(b市)に帰るため、被告車両(ダイハツハイゼット・白色)を運転して本件道路を南進していた。被告Y1は、本件道路の速度制限を時速五〇kmと思い込んでおり、時速約五〇ないしは六〇kmで被告車両を走行させていた。本件道路の交通量は少なく、対向車両はなかったが、ヘッドライトはロービームとしていた。雨はほとんどあがっていたが、間欠ワイパーは動かしたままの状態であった。

別紙図面記載の①地点、同②地点付近から、前方の見通しを遮るものはなかったが、被告Y1は、前方左側の公民館の灯りに気を取られ(公民館であることを知らなかった被告Y1は、普段は暗いところに明かりがついていたので、何だろうと思って注意を向けた。)、同③地点になって初めて、同<ア>地点(同③地点から約二〇・二m南方)に南東へ向かって歩行している黒っぽい服装の亡Aを発見し、急制動の措置を講じるも、同<×>地点で、亡A左手に持った杖に被告車両(同④地点)の右前下部に取り付けられたナンバープレート、亡Aの左側面(左肘付近)に被告車両右前ボンネットが衝突し、亡Aの左側頭部がフロントガラス右側に衝突した。

亡Aは、衝突地点から約九・五m南の<イ>点まで跳ばされ転倒し、被告車両は、同⑤点に停止した。

(ウ) 亡A(昭和五年○月○日生)は前記日時ころ、原告X1運転の車両に同乗して、本件事故現場西側の消防ポンプ格納庫前まで来た。同所で降車し、公民館に向かって、本件道路を西側路側帯から南東に向かって横断中、前記のとおり、被告車両と衝突した。

(エ) 平成二五年一二月二一日午後五時五九分から午後六時四二分まで実施された実況見分において、本件事故発生場所から三〇・三m北(時速五〇kmでの停止可能距離)の地点からも、本件道路の西側、本件道路の中央付近に立つ人影を十分認識可能であった。

イ 前記ア(エ)認定の事実に対して被告Y1は、平成二五年一二月二一日実施の実況見分時は本件事故当日よりも明るかったと供述する。

しかし、証拠(甲四二、四四、被告Y1本人)によれば、視認可能性に関する実況見分は、厳密に本件事故時の状況を再現するために、繰り返し行われたところ、前記ア(エ)の実況見分は、季節、時間帯、路面の状況(路面が濡れてライトが反射する。)、公民館の照明点灯のいずれの点においても、本件事故時の再現性が高いというべきで、被告Y1の上記供述は、検察官面前調書(平成二六年一月二二日付け)とも矛盾し、採用できない。

ウ 他方、原告らは、前記ア認定の事実に対して、被告Y1が本件道路の制限速度を時速五〇kmと誤認していたことを根拠に被告車両の速度は時速六〇km以上であったと主張する。

しかし、別紙図面記載の③地点から同⑤地点までの距離が約二四・九mであること(甲三六)、被告車両のスリップ痕の長さが約一三・五mと約一二・九mであること(甲三〇)に照らしても、原告ら指摘の事実のみから、被告車両が時速六〇km以上で走行していたとは認定できない。

(2)  過失割合

ア 前記(1)の認定事実によれば、被告Y1には、自動車の運転手として、本件道路の制限速度を遵守し、前方左右を注視し、進路の安全を確認しつつ走行する注意義務があったにもかかわらず、これらを怠り、漫然と時速五〇ないしは六〇kmの速度で走行し、亡Aをその直前約二〇・二mになってようやく発見して、衝突を回避することができず、本件事故を惹起させた過失がある。

他方、前記(1)の認定事実によれば、亡Aとしても、本件道路を横断するに当たっては、本件道路を進行してくる車両の有無等、他の交通に注意して横断しなければならないところ、本件道路を進行してくる車両に注意を払わないまま、本件道路を横断しようとし、被告車両と衝突した過失がある。

以上のような、車両を運転する被告Y1の過失と高齢歩行者である亡Aの過失の各内容・程度を比較考慮し、とりわけ、原告らが指摘するように、公民館の照明等によって、横断者の存在を想定できたこと、また、本件道路を杖をついて横断中の亡Aは早くから(遠方から)発見可能であったと推認されることからすると、被告Y1の前方注意義務違反の程度は著しいというべきで、その他、夜間、雨上り状況下の事故であることも斟酌すると、被告Y1と亡Aの過失割合は、九〇:一〇と評価するのが相当である。

イ さらに、原告らは、前記指摘に加えて、ロービームであった点、間欠ワイパーを作動させていた点を問題とするが、それらの事実をもって、上記過失割合を更に加重する事実と評価することはできず、原告らの主張は採用できない。

二  A事件請求について

(1)  亡Aの損害額

ア 損害

(ア) 治療関係費 三八万六六三〇円

前記第二の一(争いのない事実等)(3)・(5)アによれば、亡Aの治療関係費として三八万六六三〇円を要したことが認められる。

(イ) 死体検案書・文書料 三万九二〇〇円

前記第二の一(争いのない事実等)(3)と証拠(甲五、六)によれば、亡Aの死体検案料及び検案書作成費用として三万九二〇〇円を要したことが認められ、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(ウ) 入院雑費・入院慰謝料 三万〇〇〇〇円

前記第二の一(争いのない事実等)(3)によれば、亡Aの入院雑費及び入院慰謝料として合計三万円と認めるのが相当である。

(エ) 死亡逸失利益 一〇〇二万五二二一円

a 前記第二の一(争いのない事実等)(3)と証拠(甲一ないし三、二三、二五ないし二七、四七ないし四九(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、亡A(昭和五年○月○日生)は、大学卒業後、高校教師として奉職したこと、昭和三七年四月、原告X1と婚姻し、原告X2、原告X3、原告X4をもうけ、本件事故当時、子供らはいずれも独立して研究者として活躍していたこと、亡Aは、定年後は、持ち家で原告X1と二人で年金生活を送っており、平成二三年の年金額は、日本私立学校振興・共済事業団の退職共済年金二六二万〇七六八円及び老齢基礎年金・老齢厚生年金八四万四三三〇円の合計三四六万五〇九八円であったこと、平成二四年の決定額は、日本私立学校振興・共済事業団の退職共済年金二六〇万九二〇〇円、老齢基礎年金・老齢厚生年金八四万〇六〇〇円であり、加えて、同年は、原告X1自身の年金額が二四六万四四〇〇円であったことが認められる。

b 前記aの事実によれば、亡Aの死亡逸失利益については、基礎収入額を三四六万五〇九八円とし、生活費控除率を五〇%とし、平均余命七年(対応するライプニッツ係数五・七八六四)にわたって算出するのが相当である。

そうすると、亡Aの死亡逸失利益は、次のとおり、一〇〇二万五二二一円となる。

346万5098円×(1-0.5)×5.7864=1002万5221円

(オ) 死亡慰謝料 二三〇〇万〇〇〇〇円

本件事故の態様、亡Aの家族関係、その他本件訴訟の審理に顕れた諸般の事情に鑑み、また、後記のとおり、原告ら固有の慰謝料を認定することを考慮すると、亡Aの死亡に対する慰謝料としては、二三〇〇万円が相当である。

(カ) 葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円

前記認定の事実と弁論の全趣旨によれば、亡Aの葬儀費用として一五〇万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(キ) 物損 三万〇〇〇〇円

前記一(1)の認定事実と証拠(甲二四の一・二)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故によって、亡Aの杖、靴、ジャンバー、ズボン及びメガネが破損したこと、その時価額としては購入価格の三〇%程度に当たる三万円と認めるのが相当であり、同金額を損害と認める。

イ 過失相殺

前記ア(ア)ないし(キ)の合計額は三五〇一万一〇五一円となるところ、前記一(2)に判示のとおり、本件事故による損害については一〇%の過失相殺をするのが相当であって、過失相殺後の損害額は、三一五〇万九九四五円(3501万1051円×(1-0.1))となる。

ウ 既払控除

前記第二の一(争いのない事実)(5)アのとおり、B事件原告は、治療関係費三八万六六三〇円を支払ったことが認められることから、これを損益相殺すると、残金は三一一二万三三一五円となる。

(2)  原告X1の請求認容額

ア 原告X1の固有の慰謝料 一二〇万〇〇〇〇円

以上に認定の全事実によれば、原告X1は、夫である亡Aの死亡により、多大な精神的損害を受けたことが認められるところ、同原告固有の慰謝料として、一二〇万円を認めるのが相当である。

イ 過失相殺

前記一(2)に判示のとおり、本件事故による損害については一〇%の過失相殺をするのが相当であって、過失相殺後の損害額は、一〇八万円(120万円×(1-0.1))となる。

ウ 亡Aの損害賠償請求権の相続

前記第二の一(争いのない事実)(4)の事実のとおり、亡Aの相続人は、妻である原告X1、子である原告X2、原告X3及び原告X4であることは当事者間に争いがないことから、原告X1は、前記(1)ウの損害額の二分の一に当たる一五五六万一六五八円の損害賠償請求権を相続した。

これを合計した金額は一六六四万一六五八円となる。

エ 損益相殺

前記第二の一(争いのない事実)(5)イと弁論の全趣旨によれば、弁論終結時(平成二七年二月まで)に支給された遺族共済年金は四二〇万四七〇〇円(平成二六年六月以降の隔月の支給額は三二万〇七二二円として計算)、遺族年金は二万九一三三円(平成二六年六月以降の隔月の支給額は二二二五円として計算)と認められる。

これらを損益相殺すると、残額は一二四〇万七八二五円(1664万1658円-(420万4700円+2万9133円)となる。

オ 弁護士費用

前記エの損害認容額、本件事案の難易、その他本件に顕れた一切の事情に鑑みれば、原告X1の弁護士費用中一二〇万円に、本件事故との相当因果関係を認める。これに反する被告らの主張は、本件については採用できない。

弁護士費用を加算した後の金額は、一三六〇万七八二五円となる。

(3)  原告X2の請求認容額

ア 原告X2の損害

(ア) 交通費等 六万四四九〇円

証拠(甲二、三、七ないし一〇(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、原告X2は、本件事故による亡Aの死亡により、別紙「交通費等明細」の「原告X2、原告X2の娘B分」欄記載の交通費を要したことが認められ、それらの交通費と本件事故との相当因果関係を肯首することができる。

(イ) 固有の慰謝料 六〇万〇〇〇〇円

以上に認定の全事実によれば、原告X2は、父である亡Aの死亡により、多大な精神的損害を受けたことが認められるところ、同原告固有の慰謝料として、六〇万円を認めるのが相当である。

イ 過失相殺

前記アの合計額は六六万四四九〇円となるところ、前記一(2)に判示のとおり、本件事故による損害については一〇%の過失相殺をするのが相当であって、過失相殺後の損害額は、五九万八〇四一円(66万4490円×(1-0.1))となる。

ウ 亡Aの損害賠償請求権の相続

前記第二の一(争いのない事実)(4)の事実のとおり、亡Aの相続人は、妻である原告X1、子である原告X2、原告X3及び原告X4であることは当事者間に争いがないことから、原告X2は、前記(1)ウの損害額の六分の一に当たる五一八万七二一九円の損害賠償請求権を相続した。

これを合計した金額は五七八万五二六〇円となる。

エ 弁護士費用

前記ウの損害認容額、本件事案の難易、その他本件に顕れた一切の事情に鑑みれば、原告X2の弁護士費用中五五万円に、本件事故との相当因果関係を認める。

弁護士費用を加算した後の金額は、六三三万五二六〇円となる。

(4)  原告X3の請求認容額

ア 原告X3の損害

(ア) 交通費等 四万四五九〇円

証拠(甲二、三、一一ないし一六(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、原告X3は、本件事故による亡Aの死亡により、別紙「交通費等明細」の「原告X3、妻C分」欄記載の交通費を要したことが認められ、それらの交通費と本件事故との相当因果関係を肯首することができる。

(イ) 固有の慰謝料 六〇万〇〇〇〇円

以上に認定の全事実によれば、原告X3は、父である亡Aの死亡により、多大な精神的損害を受けたことが認められるところ、同原告固有の慰謝料として、六〇万円を認めるのが相当である。

イ 過失相殺

前記アの合計額は六四万四五九〇円となるところ、前記一(2)に判示のとおり、本件事故による損害については一〇%の過失相殺をするのが相当であって、過失相殺後の損害額は、五八万〇一三一円(64万4590円×(1-0.1))となる。

ウ 亡Aの損害賠償請求権の相続

前記第二の一(争いのない事実)(4)の事実のとおり、亡Aの相続人は、妻である原告X1、子である原告X2、原告X3及び原告X4であることは当事者間に争いがないことから、原告X3は、前記(1)ウの損害額の六分の一に当たる五一八万七二一九円の損害賠償請求権を相続した。

これを合計した金額は五七六万七三五〇円となる。

エ 弁護士費用

前記ウの損害認容額、本件事案の難易、その他本件に顕れた一切の事情に鑑みれば、原告X3の弁護士費用中五五万円に、本件事故との相当因果関係を認める。

弁護士費用を加算した後の金額は、六三一万七三五〇円となる。

(5)  原告X4の請求認容額

ア 原告X4の損害

(ア) 交通費等 六万三五一六円

証拠(甲二、三、一七ないし二二(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、原告X4は、本件事故による亡Aの死亡により、別紙「交通費等明細」の「原告X4、原告X4の妻D分」欄記載の交通費を要したことが認められ、それらの交通費と本件事故との相当因果関係を肯首することができる。

(イ) 固有の慰謝料 六〇万〇〇〇〇円

以上に認定の全事実によれば、、原告X4は、父である亡Aの死亡により、多大な精神的損害を受けたことが認められるところ、同原告固有の慰謝料として、六〇万円を認めるのが相当である。

イ 過失相殺

前記アの合計額は六六万三五一六円となるところ、前記一(2)に判示のとおり、本件事故による損害については一〇%の過失相殺をするのが相当であって、過失相殺後の損害額は、五九万七一六四円(66万3516円×(1-0.1))となる。

ウ 亡Aの損害賠償請求権の相続

前記第二の一(争いのない事実)(4)の事実のとおり、亡Aの相続人は、妻である原告X1、子である原告X2、原告X3及び原告X4であることは当事者間に争いがないことから、原告X4は、前記(1)ウの損害額の六分の一に当たる五一八万七二一九円の損害賠償請求権を相続した。

これを合計した金額は五七八万四三八三円となる。

エ 弁護士費用

前記ウの損害認容額、本件事案の難易、その他本件に顕れた一切の事情に鑑みれば、原告X4の弁護士費用中五五万円に、本件事故との相当因果関係を認める。

弁護士費用を加算した後の金額は、六三三万四三八三円となる。

三  B事件請求について

(1)  被告車両の損害額(争点(4))

ア 修理費用 二三万一〇〇〇円

証拠(乙二)によれば、本件事故による被告車両の修理費用は二三万一〇〇〇円と認められる。

イ 代車費用 三万五〇〇〇円

証拠(乙三、被告Y1本人)によれば、被告Y1は通勤のためにスタットドレスタイヤを仕様した車両が必要であったため、平成二四年一二月三日から同月二三日までの二〇日間、代車を利用し、その費用として七万円を要したこと、このうち被告車両の修理に要した日数は一〇日程度で、当初の一〇日間は、被告車両が警察署に留め置かれていたことが認められ、これらの事実によれば、原告らが負担すべき損害額としては三万五〇〇〇円と認めるのが相当である。

(2)  過失相殺

前記(1)の合計額は、二六万六〇〇〇円となるところ、前記一(2)に判示のとおり、本件事故による損害については九〇%の過失相殺をするのが相当であって、過失相殺後の金額は、二万六六〇〇円(26万6000円×(1-0.9))となる。

(3)  亡Aの損害賠償債務の相続

前記第二の一(争いのない事実)(4)の事実のとおり、亡Aの相続人は、妻である原告X1、子である原告X2、原告X3及び原告X4であることは当事者間に争いがないことから、原告X1は、前記(2)の金額の二分の一に当たる一万三三〇〇円、原告X2、原告X3及び原告X4は、前記(2)の金額の各六分の一の各四四三三円の損害賠償債務を相続した。

四  結論

以上によれば、本件A事件については、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、原告X1の請求は、損害賠償金一三六〇万七八二五円及びこれに対する本件事故の日である平成二四年一一月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で、原告X2の請求は、損害賠償金六三三万五二六〇円及びこれに対する同じく上記日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で、原告X3の請求は、損害賠償金六三一万七三五〇円及びこれに対する同じく上記日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で、原告X4の請求は、損害賠償金六三三万四三八三円及びこれに対する同じく上記日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で、それぞれ理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、本件B事件については、民法七〇九条に基づき、B事件原告の請求は、原告X1については一万三三〇〇円、原告X2、原告X3及び原告X4については、各四四三三円及びこれらに対する保険金支払の日の翌日である平成二五年一月九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さない。

(裁判官 比嘉一美)

別紙 交通費等明細・交通事故現場見取図<省略>

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