京都地方裁判所 平成27年(む)1634号 決定 2015年7月17日
主文
本件準抗告を棄却する。
理由
第1申立ての趣旨及び理由
本件準抗告の趣旨及び理由は,申立人代理人米倉裕樹ら作成の準抗告申立書に記載されたとおりであるから,これを引用する。
第2当裁判所の判断
1 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1) 申立人は,平成27年3月25日付けで,A(以下「A」という。)に対する損害賠償請求訴訟を提起するための準備として,Aに係る公然わいせつ等被告事件の確定訴訟記録の保管検察官である京都地方検察庁検察官に対し,同保管記録(以下「本件保管記録」という。)の閲覧及び謄写を請求した。
(2) 京都地方検察庁検察官は,平成27年4月17日付けで,「検察庁の事務に支障がある。」ことを理由として,申立人からの閲覧請求を許可しない処分をした。
2 申立人は,刑事確定訴訟記録法4条1項ただし書,刑訴法53条1項ただし書に規定された「検察庁の事務に支障のあるとき」とは,収監とか罰金の徴収を遂行するために当該訴訟記録を使用しているなど,閲覧によって事務遂行上に支障が生ずる場合などに限られ,恣意的に解釈の範囲を広げることは許されないと主張する。
しかし,適正な刑事司法実現の要請からすると,関連事件の捜査や公判の維持に支障が生じるおそれがある場合においても,裁判記録の公開の利益の方が優先されるべきとは考えられないから,「検察庁の事務に支障のあるとき」には,保管記録を裁判の執行や証拠品の処分等検察庁の他の事務手続のために使用している場合のほか,当該保管記録を請求者に閲覧させることによって,その保管記録に係る事件と関連する他の事件の捜査や公判に不当な影響を及ぼすおそれがある場合も含まれるものと解するのが相当である。
そして,一件記録及び当審における事実取調べの結果によれば,本件保管記録はAに係る公然わいせつ等被告事件の訴訟記録であるが,申立人である株式会社aの代表取締役B及び同相談役Cは,上記公然わいせつ事件におけるAの共同正犯として,現在捜査中の被疑者であって,捜査機関においては,申立人である株式会社aが,Aがわいせつな映像を配信していたインターネットサイトの実質的運営者とみて,捜査を継続していることが認められる。本件保管記録は,Aによる公然わいせつ罪の実行行為,犯行に至る経緯等に関する証拠(Aの供述調書や配信された映像の実況見分調書等)等であり,これらが,上記B及びCについての公然わいせつ罪の成否(共謀の成否,故意の有無等)に関する証拠にもなることは明らかであるから,本件記録を閲覧させれば,申立人の意図は別として,罪証隠滅行為が容易になり,今後の捜査に困難が生じるおそれが十分にあると認められる。
したがって,現在,本件保管記録を申立人に閲覧させることは,関連事件の捜査に不当な影響を及ぼすおそれがあり,申立人の本件保管記録の閲覧請求権が制限されることもやむを得ないと認められる。検察官が本件保管記録について閲覧を不許可とした処分は正当である。
また,申立人は,確定記録の閲覧を制限した刑事確定訴訟記録法4条1項ただし書,刑訴法53条1項ただし書の規定や,これらの規定に基づく上記処分が,憲法21条,82条に違反する疑いがある旨縷々主張するが,独自の見解に基づく主張であって採用できない。
3 なお,検察官の上記処分は,申立人による本件保管記録の閲覧請求のみを不許可とするものであり,一件記録によっても,検察官が,本件保管記録の謄写請求を不許可とする旨の処分をしたことはうかがわれないが,上記2で説示したとおり,申立人による閲覧請求の不許可処分が正当である以上,謄写を制限することも正当というべきであって,検察官が,申立人に対し,本件保管記録の謄写を認めていない点にも何ら違法はない。
4 よって,本件準抗告には理由がないからこれを棄却することとし,刑訴法432条,426条1項により主文のとおり決定する。