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京都地方裁判所 平成27年(わ)920号 判決 2017年3月24日

被告人

被告人

主文

被告人両名をそれぞれ懲役2年6月及び罰金250万円に処する。

被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは,金1万円をそれぞれ1日に換算した期間,その被告人を労役場に留置する。

被告人両名に対し,この裁判が確定した日から4年間,それぞれその懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

【罪となるべき事実】

被告人Aは,大阪市a区bc丁目d番e号に本店を置き,インターネット・ホームページの企画,立案,制作並びにインターネットでのサーバの設置及びその管理業務等を目的とし,アメリカ合衆国所在のC社(代表者D)と共にインターネットサイト「E」を管理・運営するF社の実質的相談役,被告人BはF社の代表取締役であるが,被告人両名は,

第1前記D及びGらと共謀の上,平成25年6月19日午後10時15分頃,被告人らがF社従業員らをしてC社と共に管理するE内の投稿サイト「E動画アダルト」のサーバコンピュータに,前記Gが大阪市f区gh丁目i番j号kl同人方からインターネットに接続した携帯電話機を使用して送信した男女の性器を露骨に撮影したわいせつな動画データを記録・保存させるなどし,インターネットを利用する不特定多数の者が前記わいせつな動画を閲覧することができる状態を設定し,同月28日ないし平成26年12月8日,前記動画データにアクセスしてきた不特定の者に対してこれを閲覧再生させ,もってわいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列した。

第2前記D,Eに事業者としてエージェント登録していたH及びパフォーマー登録していたIと共謀の上,平成25年12月25日午後1時50分頃から同日午後2時8分頃までの間,京都市m区n町o番地pq同女方において,同女がウェブカメラで露骨に撮影した同女の性器の映像を,E内の配信サイト「Eライブアダルト」の映像配信システムを利用して,同市r区s町t番地uv階等へ電気通信回線を通じて無修正で即時配信し,不特定の視聴者らに観覧させ,もって公然とわいせつな行為をした。

第3前記D及び前同様にエージェント登録していたJらと共謀の上,平成26年6月3日午後10時6分頃から同日午後10時39分頃までの間,大阪市a区wx丁目y番z号a1a2同人方において,同人らがウェブカメラで露骨に撮影した同人らの性器や性交場面等の映像を,前記「Eライブアダルト」の映像配信システムを利用して,前記uv階等へ電気通信回線を通じて無修正で即時配信し,不特定の視聴者らに観覧させ,もって公然とわいせつな行為をした。

【事実認定の補足説明】

1  弁護人らは,いずれの犯行についても,被告人らは無修正わいせつ動画の投稿・配信に関与しておらず実行行為を行っていないし,無修正わいせつ動画の投稿者・配信者と共謀したこともないから,被告人らには実行共同正犯も共謀共同正犯も成立しないと主張しているので,以下検討する。

2  被告人らの地位及びEの概要等

(1)  Dは,被告人Aの兄であり,C社の代表者の地位にある。

被告人Aは,平成20年1月にF社の代表取締役に就任し,平成21年8月以降はF社の実質的相談役の地位にある。

被告人Bは,平成20年1月にF社の取締役に就任し,平成21年8月以降はF社の代表取締役の地位にある。

(2)  C社は,平成11年7月頃に設立されたアメリカ合衆国所在の会社であり,インターネットサイトであるEを管理・運営しているところ,平成19年11月以降にはE内の投稿サイト「E動画」のサービスを,平成22年8月以降にはE内の配信サイト「Eライブ」のサービスをそれぞれ提供している。

3  E動画やEライブ等の仕組み

(1)  E動画では,インターネットを通じて,C社が契約するサーバに動画データを投稿することができる。投稿された動画データは,無料会員用や有料会員用などの用途に合わせて変換された後,C社が管理する配信サーバへ送られるところ,不特定多数の視聴者は,そのサーバにアクセスすることで,その動画の内容を視聴できるが,日本で視聴する場合には,アメリカ合衆国にある配信サーバから長距離通信をせざるを得ず,視聴までに時間がかかるため,有料会員については,動画データを日本にあるキャッシュサーバに一時的に保存し,そこから配信することで通信の高速化が図られている。

E動画において有料会員になると,無料会員では視聴できない動画についても視聴でき,1日当たりの視聴制限が無制限となり,高画質に変換された動画データの配信を受けられ,キャッシュサーバを利用した通信の高速化が図られるなどの特典があり,視聴者に有料会員登録を促す措置が講じられている。

また,E動画では,視聴者が投稿動画を介して新規に有料会員登録をした場合には,投稿者は登録料の一定割合に相当するポイントを報酬として受け取ることができ,それを現金化できるなどの仕組み(動画アフィリエイト制度)や,投稿された動画を視聴者に評価させる仕組み(動画評価システム)など,投稿者により多くの動画を配信するよう促す措置が講じられている。

(2)  E動画では,平成26年11月現在で,Eライブを除くアップロード動画数は約170万件(一般動画約90万件,アダルト動画約80万件)を超えている。多数の者がこれらの動画にアクセスしているが(平成25年9月時点で月間アクセス数は9500万件以上である。),その大半が日本からのアクセスとなっている。

E動画の総売上は増加傾向にあり,平成25年12月時点でのE動画の総売上は約4億2588万円,同粗利は約4億0569万円であり,当時の粗利合計約4億8891万円の相当程度を占めている。

(3)  E動画アダルトへの投稿動画には,男女の性器等を露骨に表した無修正わいせつ動画が含まれており,E動画アダルトのサイト上には,「注目ワード」内に「無修正」(無修正わいせつ動画の意味)とのキーワードが表示されたり,「おすすめ動画」内には無修正わいせつ動画のサムネイルが多数表示されている。また,E動画アダルトにおいて「無修正」で検索したところ,動画タイトルやタグに「無修正」「無」(いずれも無修正わいせつ動画の意味)を含む動画が4万9417件も表示されている。さらに,F社従業員がE動画アダルトへの投稿動画を無作為に抽出した100件のうち,33件が無修正わいせつ動画であった旨の報告書もある。

さらに,C社では,E動画等の配信者が,その動画等を「コンテンツマーケット」という場で販売することもできるサービスを提供しており,それによりC社は決済手数料を得ているところ,平成27年9月時点のE動画のサイト上で,コンテンツマーケットにアップロードされたE動画(一般)のサンプル数が約560件であったのに対し,E動画アダルトのサンプル数は約10万件であった。そして,平成27年7月時点のE動画アダルトのサイト上で,EコンテンツマーケットにもアップロードされたE動画アダルトのサンプルのうち,動画のサムネイルや冒頭5秒間の映像で無修正わいせつ動画であると判断できるものや動画タイトル等に「無修正」「無」が含まれているものは,再生した動画の約2割程度もあった。

これらの事情からすれば,E動画アダルトには本件各犯行以前から相当数の無修正わいせつ動画が投稿されていたと認められる。

(4)  次に,Eライブについてみると,Eライブでは,ウェブカメラ等で撮影した動画データを,生中継で,インターネットを通じてC社管理のサーバ等に配信することができ,不特定多数の視聴者が,当該サーバにアクセスすることで,その動画データをリアルタイムで視聴できる仕組みになっている。

Eライブでは,無料配信形態と有料配信形態とがあり,視聴者が視聴料を支払って有料配信形態の動画を視聴した場合には,その動画の配信者は,視聴料の一定割合に相当するポイントを報酬として受け取ることができ,それを現金化できるなどの仕組み,Eライブの出演者(パフォーマー)を管理する会社又は個人(エージェント)が,出演者等を管理して,需要に応じた視聴料を設定することができ,それにより多くの視聴料を獲得できれば,その視聴料の一定割合に相当するポイントを報酬として受け取ることができる仕組み,Eライブの画面上に売上上位者の名前や金額を表示する仕組み,及び,配信された動画に視聴者のコメントを表示するチャット機能など,配信者により多くの動画を配信するよう促す措置が講じられている。

(5)  Eライブには,「一般」と「アダルト」があるが,平成26年8月頃の1日当たりの配信数は,全体で6000から7000件程度であり,そのうちEライブアダルトは4000件程度であった。

Eライブの全体取引高は増加傾向にあり,平成25年12月時点での全体取引高(2億2162万円)に対し,エージェント取引高は1億4903万円,Eの利益は4508万円であり,HやJのように多額の利益を得ているエージェントは相当数いて,Eの利益に結びついていると認められる。

(6)  Eライブアダルトで配信された動画には,男女の性器等を露骨に表した無修正わいせつ動画が含まれており,Eライブアダルトのサイトには,無修正わいせつ動画が配信されていることが容易にわかるサムネイルが多数あり,平成23年頃から利用者から無修正わいせつ動画が配信されていることに対する苦情が数多く寄せられている。また,判示第2及び第3の犯行で動画を配信したHやJは,本件までにも多数の無修正わいせつ動画を配信しており,Hについては平成25年1月頃から平成26年6月頃までの間に合計約1285万円を超える利益を得て,C社には約550万円の利益が入り,Jは平成26年1月頃から同年6月頃までの間に合計約3037万円を超える利益を得て,C社には約530万円の利益が入る計算となる。

これらの事情からすれば,Eライブアダルトについても本件各犯行以前から相当数の無修正わいせつ動画が配信されており,Eライブの取引高に寄与していたと推認できる。

4  F社の業務内容とEとの関係

F社におけるEに関する業務について検討すると,F社は,平成24年12月にC社との間で業務委託契約を締結しているものの,平成18年6月頃の,F社の前身である有限会社Fの時代から,Eの商標登録を保有している上,F社従業員が仕事で使うメールアドレスのドメインは,平成25年4月30日頃まで「(E社の社名).us」や「(E社の社名)co.jp」を使用し,取引先に対してもC社の従業員を名乗るよう指示され,F社従業員がC社の代表者であるDを「社長」と呼び,C社への入社に応募してきた者に対し,C社の従業員として対応していた等の事情がうかがえる。

本件が問題となる平成25年から平成26年にかけても,F社はE関連のWebサービスを事業の核とし,Eのブログ・無料ホームページ・動画・ライブのシステム開発,サーバの保守・管理,ユーザーサポート,その他広告枠の販売業務を行っていたことが認められる。

F社のサポートチームにおいては,E動画について,児童ポルノ・獣姦コンテンツは管理画面を用いて削除するなどしていた。さらに,捜査機関からC社宛てに,Eに投稿された無修正わいせつ動画の投稿者等に関する照会があったことに対しても,F社の従業員がこれを受け付け,E事務局を名乗ってこれに回答するほか,F社の従業員が被告人Bの指示により,弁護士や捜査機関からのE事務局宛のメールや照会を扱い,対応することもあった。

加えて,F社従業員が,E利用者が取得したポイントの換金業務を行うとともに,Eの運営による売上げ等を集計し,月次報告書等にまとめるなどしていた。

以上のことからすれば,Eの業務の大半は,F社で行っていたものであり,F社は,C社と共にE動画やEライブを含むEの業務全般を管理・運営していたと考えるのが相当である。

5  D及び被告人らがEに関する業務内容を把握していたこと

DはC社の代表者であり,被告人Aは,F社の上位に位置する株式会社Kの代表取締役であるとともに,F社に実質的相談役として出社し,Eのデザインやサイトのユーザー側の使い勝手についてのアドバイスをしていた。被告人Bは,F社の代表取締役である。

そして,被告人Aは,平成20年まで勤務していたF社従業員に対外的にはC社従業員を名乗るよう指示し,当時の従業員は,被告人らだけでなく,Dにも業務内容を直接報告しており,平成21年にDと被告人AがEライブやチャットなど新機能の開発を打ち出して指示し,平成23年にかけてもD及び被告人AがF社従業員らにEライブの不具合を修正するよう指示するほか,視聴制限数の変更,サーバの変更などEの管理・運営に関わる重要事項等の業務についてF社従業員らから逐一報告を受け,助言・承認するなどしていた。また,Dと被告人らは,平成24年1月,E動画アップロードページの警告文から「無修正ポルノ」を削除する内容についての報告を受けており,実際,警告文から削除されている。そして,Eライブアダルトの動画投稿者「L」に関する公然わいせつでの照会依頼を受けたF社従業員が,弁護士に質問した内容を被告人Bにも送信し,これを被告人Aにも転送するなどして周知しているし,前記「L」の逮捕を受け,平成24年2月,Dや被告人らの間で,無修正わいせつ動画の投稿者・配信者の情報を今後も捜査機関に回答するか否かや,「放送画面に法律守りましょうって位は出した方がよさそう」などと警告文を表示するか否かなどEの運営に関わる事項を協議していたこと,平成25年にもF社従業員からD及び被告人らに対して警察からの捜査関係事項照会依頼についての報告が続いていたことなどを踏まえれば,D及び被告人らは,F社従業員らを介してEの業務全般を管理・運営していたと認められる(なお,被告人Aは,平成24年6月に株式会社Kの代表取締役に就任しているが,これは,F社とC社が実質的に同一であると裁判所に認定されないよう,F社からDの弟である被告人Aの名前を排除するために行われたものにすぎないし,株式会社Kの代表取締役となった後もEの業務全般について報告を受けるなどしていたのであるから,上記認定のとおり,F社従業員らを介してEの業務全般を管理・運営していたと認められる。)。

6  被告人らの方針により,E動画アダルト及びEライブアダルトが無修正わいせつ動画の投稿・配信を許容し,これを利用する仕組みとなったこと

E動画アダルトは,被告人AとDの方針で設けられ,利用規約についても被告人Aの指示で作成・手直しがされた。Eライブ開発時にも同様にアダルトカテゴリが設けられ,Dの方針で,ユーザーが稼げる仕組みを強調し,ブログ・動画に続く収益の柱に据えるように開発され,従量課金制度等が導入された。また,Dの指示で,売上上位者のランキングを表示させ,ライブ配信により収益が得られることを配信者に動機付ける仕組みを作り,これらの過程は被告人らへ報告されていた。そして,売上上位者の名前や金額等のランキング,配信者数等は月次ミーティングでD及び被告人らにも報告されており,Eライブの売上の90パーセント以上をアダルトカテゴリが占めるようになった。また,動画,ライブ,ブログなどの内訳を示した総売上・粗利・決済種別等についてC社の売上は被告人Bに報告されていたし,D及び被告人らは,判示第2及び第3のHやJのように無修正わいせつ動画を繰り返し配信していたエージェントも含め,多額の利益を上げていたエージェントを「優良エージェント」「セックス配信中心」などと称して把握していた。

そして,被告人Bは,平成21年8月,メールで弁護士に対し,Eでは「アメリカの法律で問題がない動画の表示を許可しております。その中には無修正のアダルト動画があります。」として,無修正わいせつ動画の投稿を「許可」している旨記載した上,F社は無修正わいせつ画像を見るための課金は行っていないが,法的に問題がないか質問したのに対し,弁護士から,わいせつ図画公然陳列罪の幇助が成立する可能性を指摘され,このメールを,Dや被告人Aにも送信している。平成21年12月,F社従業員が,D及び被告人Aに対し,「方針のとおり無修正動画も基本的には放置し」て削除せず,児童ポルノ・獣姦・グロテスク(死体写真等),ひどい暴力のコンテンツのみ,多数の通報があった場合ブログやHPと同様の基準で凍結する,ユーザーアカウントを削除するという処置は行わない,との「方針」を記載したメールを送信している。平成23年7月,前記「L」につき,公然わいせつで捜査照会があったことを受け,F社従業員が,弁護士に対して,アダルト映像配信の対象を会員ユーザーに限定すれば公然わいせつに当たらなくなるのか等を質問したが,弁護士から公然わいせつ罪が成立する可能性があると指摘された旨の記載があるメールを,被告人らは受信している。さらに,平成24年7月,米国法に関する相談をした弁護士から,「Eが掲載を許可しているコンテンツは,ポルノ要素を含むものがあるので(児童ポルノに限らず),猥褻なコンテンツであると判断され,刑事上違法と評価を受ける危険性がある」「刑事訴追される可能性を低減させる方法としては,ポルノ要素が含まれると判断する動画に関しては,その閲覧を有料会員に限定するといった方法が考えられる」等の指摘を受けたのに,Dが被告人Bや被告人Aに対し「こんなこと全部やってたらサイト自体終了するねぇ」などとのメールを送信している。これらのことからすれば,D及び被告人らは,E動画やEライブにおいて,無修正わいせつ動画が相当数配信されていることを当然に認識しながらも,これを許容する方針をとっていたといえる。

そして,上記のとおり複数の弁護士から国内において刑事責任を負う可能性を何度も指摘されたにもかかわらず,被告人らは,①平成24年1月,E動画のアップロード画面の警告文から「無修正ポルノ」の文言を削除し,その後,前記「L」の逮捕を受け,平成24年2月,被告人らの間で,警告文を表示するか否かなどEの運営に関わる事項を協議したものの,②他の動画投稿サイトでは削除等がされている無修正わいせつ動画を放置し,無修正わいせつ動画を監視する担当者すら置かず,③Eライブの利用規約には「アダルトコンテンツ以外で,性器の露出及び性器の露出を強制する行為」は禁止されているが,Eライブアダルトでそのような規制はなく,利用者からの「Eは無修正で配信できると聞いていた」「無修正で配信しても日本の法律や警察には捕まらないでしょうか」といった問合せに対する対応マニュアルにも「無修正の配信内容であってもアダルトカテゴリで配信している限り,弊社では現状ペナルティは取っておりません」などと記載し,無修正わいせつ動画の配信を許容する方針を変更することなく,徹底していたといえる。

そうすると,D及び被告人らは,E動画アダルトやEライブアダルトにおいて相当数の無修正わいせつ動画が配信されることを認識した上で,C社やサーバが米国にあるとの理由から許容し,それらを利用してサイト利用者や有料会員を維持・増加させようとして,E動画アダルトやEライブアダルトを管理・運営していたと認められる。そして,このことは,平成26年9月に警察と関わりのあるインターネットホットラインセンターより無修正の画像の削除要請を受けたF社取締役のMが「無修正の画像を消したという前例をつくって,Eは国内法に従ったという前例は絶対に作りたく有りません」「Eとしては違法性があるとは思えないので対応はしない」とのメールを送信していることや,F社の平成26年の取組み資料の中に,「メーカーが無修正動画を合法的に流せる仕掛けをメーカーに自発的に用意させ」る旨の記載があることからも裏付けられている。

7  D及び被告人らと本件の各投稿者及び配信者との間で黙示の意思連絡及び相互利用補充関係があったこと

(1)  判示第1の動画投稿者のGは,無料会員となって以降,「愛・飢え男」のページに約30件,「愛・飢え男②」に約20件,「愛・飢え女③」に約60件もの無修正わいせつ動画を投稿しており,「愛・飢え女③」のページ上で閲覧可能な投稿動画数は平成25年6月28日時点で49件,平成26年12月8日時点で61件であり,判示第1の投稿動画の再生数は9954回であった。

そして,Gは,過去に何度も投稿した動画が削除されることはなく,視聴者の反応を楽しむ,自己の行為を自慢したいなどの欲求を満たすために,無修正わいせつ動画の投稿を行い,またGの相手役の女性も動画が投稿されると公開され誰でも見ることができるものとして本件の行為に及んでいると認められる。

投稿動画の中には,再生数が1万回を超えるものも多く,無料会員が投稿した動画であっても,有料会員専用の高画質動画データと無料会員及び非会員用の画質の粗いデータに変換してサーバに管理され,非会員については1日当たりの視聴回数制限がかけられ,会員登録の画面に切り替わり,同画面では有料会員が優遇されており,案内画面が表示されるなど,有料会員登録を促す仕組みとなっており,前記認定のE動画の売上に結びついていたと考えられる。

(2)  判示第2の動画配信者のHは,Eライブアダルトにおいて,視聴者がコンスタントに入り稼ぎやすいこと,無料視聴か有料視聴か,その料金設定をエージェント等が設定できることなどを理由にエージェント登録し,パフォーマー登録していたIとの間で報酬の割合を決めた上,利益獲得のため互いに共謀の上,有料設定で,無修正わいせつ動画を繰り返し配信した。そして前記のとおり,Hは平成25年1月頃から平成26年6月頃までの間に合計約1285万円を超える利益を得て,この間C社は約550万円の利益を得ていた。

(3)  判示第3の動画配信者のJについても,他のサイトでは縛りがある無修正わいせつ動画を配信しているEライブアダルトの存在を知り,Jがエージェント登録し,利益獲得のためパフォーマーと互いに共謀の上,,有料設定をして,パフォーマーと性交等する無修正わいせつ動画を配信し,前記のとおり,Jは平成26年1月頃から同年6月頃までの間に合計約3037万円を超える利益を得て,この間C社は約530万円の利益を得ていたと認められる。

(4)  このように,E動画アダルトやEライブアダルトにおいては,これらの仕組みに動機づけられて,他のサイトで削除された動画も含め,無修正わいせつ動画が許容されるものとして相当数投稿・配信されており,Gも同様に動機づけられてE動画アダルトへ無修正わいせつ動画の投稿に及び,さらにEライブアダルトではエージェント登録により高額な利益を上げる仕組みであることに動機づけられて,H及びI並びにJらもEライブアダルトへ無修正わいせつ動画の配信に及んだものと認められる。

そして,D及び被告人らはEが不特定多数の者により,無修正わいせつ動画が相当の割合で投稿・配信されることを認識し,許容するだけでなく,これを利用して利益を上げる目的でE動画アダルト,Eライブアダルトを管理・運営していたのであり,各投稿者及び配信者の具体的な投稿・配信行為を認識しなくても,概括的にこれを認識・認容していたといえる。

そうすると,D及び被告人らと,G,H及びI並びにJらとの間には,無修正わいせつ動画の投稿・配信の各行為の時点で,それぞれわいせつ電磁的記録記録媒体陳列ないし公然わいせつを共同して行う旨の黙示の意思連絡及び相互利用補充関係があったものと認めるのが相当である。

8  なお,本件では,判示第1の犯行につき,被告人らがDとともにE動画アダルトのサーバを管理・運営し,動画をサーバに記憶・保存させた行為がわいせつ電磁的記録記録媒体の実行行為の一部に該当するか否かも争われているが,仮にこれが実行行為に該当しないとしても,被告人らがサーバを管理・運営しなければ,投稿された無修正わいせつ動画を不特定多数の者が閲覧できる状態に置くことはできないから,被告人らがサーバを管理・運営した行為は,Gらによる実行行為の不可欠の前提を成すものであり,被告人らは正犯者といえる程度に重要な役割を果たしたといえるので,少なくとも共謀共同正犯が成立すると認められる。

9  よって,いずれの犯行についても,被告人らには少なくとも共謀共同正犯が成立すると認められる。

10  弁護人の主張に対する判断

(1)  これに対し,弁護人らは,被告人らは,Gが判示第1の無修正わいせつ動画を投稿した事実も,H及びIが判示第2の無修正わいせつ動画を配信した事実も,Jらが判示第3の無修正わいせつ動画を配信した事実も,いずれも具体的に認識していなかった上,そもそもG,H及びI並びにJらの存在すら具体的に認識していなかったのであるから,個別の犯罪について特定された共謀者との間で共謀があったとはいえず,共謀共同正犯は成立しないと主張する。

しかしながら,被告人らがG,H及びI並びにJらの無修正わいせつ動画の投稿・配信行為を具体的に認識しておらず,また,同人らの存在を具体的に認識していなかったとしても,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列ないし公然わいせつを共同して行う旨の黙示の意思連絡及び相互利用補充関係があったことは上記のとおりであり,必ずしも具体的な投稿者・配信者や個別具体的な実行行為まで認識することを要するものではないから,弁護人の当該主張は採用できない。

(2)  また,弁護人は,本件各犯行により経済的利益があったとしても,その利益は動画の投稿者・配信者やC社に帰属するものであり,F社には帰属しないから,被告人らは本件各犯行により何らの利益を得ておらず,共同正犯は成立しないとも主張する。

しかし,仮にEの売上げが直接的にはC社に帰属し,F社の利益とは連動しておらず,業務委託契約に基づく額が支払われていたとしても,そこから利益を得ていることは明らかであるし,F社の業務の大半はEに関連するものであるため,Eの業務が維持・拡大することは,F社の実質的相談役ないし代表取締役である被告人らにとっても重要であり,被告人らが本件各犯行において利益を得ていないとは到底いえない。

そうすると,被告人らが本件各犯行において果たした役割等に鑑みても,共同正犯の成立を否定する根拠とはならないから,弁護人の当該主張は採用できない。

11  弁護人の違法収集証拠の主張について

弁護人らは,検察官請求証拠のうちメール等の電磁的記録に関する証拠には,その収集過程に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,将来における違法な捜査の抑制の見地からも相当でないから,違法収集証拠として証拠排除されるべきであるとも主張している。

しかしながら,平成29年1月20日付け決定書で詳述するとおり,本件各関係証拠によれば,弁護人が証拠排除を求める証拠(その範囲は同決定書の別紙記載のとおり)は,いずれも,適法に発付された捜索差押許可状に基づいて差し押さえたパソコン等の解析結果や,F社の役員や従業員らの任意の承諾に基づきリモートアクセスしてメールサーバ等からメール等の電磁的記録をダウンロードして収集したもの,任意の承諾に基づき電磁的記録をダウンロードしたパソコン自体の提出を受けて収集したもの,任意の承諾を得て管理画面等を表示するなどしてその画面上の表示を検証許可状に基づき検証して写真撮影したものであって,その収集過程に令状主義の精神を没却するような重大な違法は認められない。

また,弁護人は,サーバ設置国の主権を侵害し,かつ,サーバ管理者の権利・利益を侵害する重大な違法があるなどとも主張するが,同決定書のとおり,本件の事実関係においては,サーバ設置国の主権を侵害する重大な違法があるとも,サーバ管理者の権利・利益を侵害する重大な違法があるとも認められない。

その他の弁護人の主張を踏まえても,違法収集証拠として証拠排除する理由はないから,いずれの証拠についても証拠排除しない。

【法令の適用】

被告人両名の判示第1の所為はいずれも刑法60条,175条1項前段に,判示第2及び第3の各所為はいずれも同法60条,174条にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示第1の罪については懲役刑及び罰金刑を,判示第2及び第3の各罪についてはいずれも懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重をし,その刑期及び所定金額の範囲内で被告人両名をいずれも懲役2年6月及び罰金250万円に処し,被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間その被告人を労役場に留置することとし,被告人両名に対し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間それぞれその懲役刑の執行を猶予することとし,訴訟費用については,刑訴法181条1項本文,182条により被告人両名に連帯して負担させることとする。

【量刑の理由】

本件は,インターネット上の投稿サイトや配信サイト等をC社と共に管理・運営するF社の実質的相談役ないし代表取締役を務める被告人らが,C社の代表者と共に,①投稿者らと共謀して,被告人らがC社と共に管理するサーバコンピュータに,投稿者が送信した無修正わいせつ動画のデータを記録・保存させるなどし,インターネット利用者が無修正わいせつ動画を閲覧できる状態を設定したわいせつ電磁的記録記録媒体陳列1件(判示第1),及び,②各配信者らと共謀して,各配信者らが配信サイトの映像配信システムを利用して無修正わいせつ動画を即時配信し,不特定の視聴者らに観覧させた公然わいせつ2件(判示第2及び第3)からなる事案である。

わいせつ電磁的記録記録媒体陳列1件において無修正わいせつ動画が投稿されたインターネットサイト(E動画アダルト)や,公然わいせつ2件において無修正わいせつ動画が配信されたインターネットサイト(Eライブアダルト)には,相当数の無修正わいせつ動画を含む投稿・配信がされており,本件各犯行時にも多数の者が閲覧・観覧していたと認められるところ,被告人らは,共犯者らと共謀して,このように多数の者が閲覧・観覧するインターネット上の投稿サイトや配信サイトに性交等の場面を撮影した無修正わいせつ動画を投稿・配信し,これらを社会に拡散させたのであり,本件各犯行により我が国の健全な性的秩序を害した程度は大きいというほかない。被告人らは,F社の実質的相談役ないし代表取締役として,その従業員らを指揮・監督し,投稿サイトや配信サイトを管理・運営してきたところ,これらの投稿サイトや配信サイトにおいて無修正わいせつ動画が相当数投稿・配信されていることを認識しながら,これに対する措置を講じることなく許容し,むしろサイト利用者を増加させ,一部は増収の手段として無修正わいせつ動画を利用し,本件各犯行に及んだのであるから,その動機に酌量の余地はない。また,本件各犯行は,投稿サイトや配信サイトを不可欠の前提とするものであり,それを管理・運営していたF社の実質的相談役ないし代表取締役である被告人らが果たした役割は大きいというほかなく,強い非難に値する。

そうすると,被告人らの刑事責任は重いというべきであるし,この種事犯が経済的に引き合わないことを実感させる必要がある。

もっとも,被告人らには前科前歴がないことなど,被告人らのために酌むべき事情も認められるので,被告人らに対しては,主文の懲役刑及び罰金刑を科した上,その懲役刑についてはその執行を猶予し,社会内で更生する機会を与えるのが相当であると判断した。

(求刑 被告人両名につきそれぞれ懲役2年6月及び罰金250万円)

京都地方裁判所第3刑事部

(裁判長裁判官 中川綾子 裁判官 御山真理子 裁判官 和田崇寛)

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