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京都地方裁判所 平成29年(ワ)933号 判決 2017年12月27日

主文

被告人を懲役2年に処する。

この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予し,その猶予の期間中,被告人を保護観察に付する。

理由

【罪となるべき事実】

第1被告人は,平成29年8月4日午前零時56分頃,普通乗用自動車を運転し,京都市a区b町c番地d付近道路の最高速度が時速50kmに指定された片側2車線道路の第2車両通行帯を南から北に向かいA(当時20歳)がB(当時18歳)を同乗させて時速約40kmで運転する普通自動二輪車の後方に追従して同速度で進行中,その速度が遅いのに自車に進路を譲らないことに腹を立て,A運転車両の通行を妨害する目的で,時速約48kmに加速してその左側方に進出した上,重大な交通の危険を生じさせる速度である前記速度のままハンドルを右に切り,走行中の同車の直前に進入したことにより,同車の左側部に自車右側後部を衝突させて,A及びBをA運転車両もろとも路上に転倒させ,よって,Aに加療約18日間を要する左膝挫創等の傷害を,Bに加療約64日間を要する四肢擦過傷等の傷害をそれぞれ負わせた。

第2前記日時・場所において,前記普通乗用車を運転中,前記のとおり,A及びBに傷害を負わせる交通事故を起こし,もって自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに,直ちに車両の運転を停止して,Aらを救護する等必要な措置を講じず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。

(量刑の理由)

1 被告人の危険運転行為は,いわゆる妨害運転の類型に該当し,特定の相手方に危険性を及ぼす点に特徴を有するが,危険運転行為の各類型につき,法は等しい法定刑を定めている上,それぞれに様々な態様及び結果の事案が生じているから,ある類型が他の類型より一律に重い又は軽いとはいえず,その評価は個別の事情に照らし行うべきものである。これを本件についてみると,危険運転行為の態様は,四輪車等に比して安定性に欠ける2人乗りのオートバイの前方に,衝突するほどの至近距離で割り込もうとするものである。そうすると,その際の速度が,重大な交通の危険を生じさせる速度の中でとりわけ高速度であるとまではいえないことを考慮に入れても,本来的に危険性の高い行為である。弁護人は,免許取得後1年に満たない初心者運転期間中の男性被害者が2人乗りをしていたことを考慮すべきである旨主張するが,そうであったとしても,衝突の回避が不可能ないし困難な状況を作出したのは被告人であるから,採用できない。他方で,現場付近を走行中に本件犯行を目撃したタクシー運転手は,ほとんど車は走行していなかったと供述し,同タクシーの前後を撮影するドライブレコーダーの画像等に照らしても交通量は少なかったと認められる上,現場は平坦な交差点内であり,他車との衝突等のより重大な結果につながりかねない事態は,様々な偶然が作用するとはいえ,生じなかったことも認められる。

経緯をみると,前記タクシー運転手の供述やそのドライブレコーダー画像等の関係証拠によれば,オートバイは,交通量の少ない片側二車線の直線道路において,指定最高速度を下回る速度で第2通行帯を走行していたところ,被告人はその後方に接近し,追い越しを開始するまでの約120mにわたりクラクションを立て続けに鳴らし,その間にオートバイ前方の第1通行帯を走行していた前記タクシー運転手は加速して車間を開けたという推移が認められるが,かかる状況において,被告人が,遅いオートバイが進路を譲らないと腹を立てて判示危険運転行為に出たというのは,あまりに短絡的である。

かかる犯行は,被害者に多大な恐怖を与えるものである上,女性被害者は加療約64日間を要する四肢擦過傷等の,男性被害者は加療約18日間を要する左膝挫創等の各傷害を負わされており,その被害は到底軽視できず,被害者らの処罰感情は厳しい。

さらに,被告人は,犯行後にいったんは様子を見に現場に戻ったもののそのまま逃走しており,無責任な態度を示している上,運転前に飲酒をしていた事情も認められるのであって,交通法規を軽視する態度は顕著というほかない。

以上の犯情に照らすと,本件犯行は,危険運転致傷罪を中心とする同種事案の中でとりわけ重いとまではいえないが,軽いとは到底いえない。

2 このような位置づけを前提に,被告人が故意を含む事実関係と責任を認めるに至っていること,自動車保険による損害賠償の可能性があること,前科がないことなどの一般情状を検討に加え,同種事案の量刑傾向や,本件に類似する性質を有する故意の危険な行為によって被害者を負傷させる傷害罪の事例の量刑の在り方等を考慮した上で,刑の執行は猶予するが,事案の性質と被告人の独善的で危険な運転態度,飲酒後の被告人が運転する車両に漫然と同乗するなどしていた被告人の妻による監督約束に直ちに多くは期待できないことなども考慮して,長期にわたり保護観察に付し,強く自戒させる必要があると判断した。

(求刑 懲役2年)

(検察官古田昂一郎出席)

京都地方裁判所第1刑事部

(裁判官 片多康)

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