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京都地方裁判所 平成3年(行ウ)10号 判決 1995年3月24日

京都市東山区大仏南門通大和大路東入東瓦町六八一番地

原告

東山企業組合

右代表者

代表理事 堤晴一

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市東山区馬町通東大路西入ル新シ町

被告

東山税務署長 稲積芳彦

右指定代理人

小野木等

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、昭和六一年五月八日付けでした原告の昭和五八年三月期ないし昭和六〇年三月期(以下「本件各事業年度」という。)分の各法人税更正処分のうち、別紙「課税の経緯」の右各事業年度分の確定申告欄記載の所得金額を超える部分及び重加算税、過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各処分」という。但し、昭和五八年三月及び昭和五九年三月期については、裁判により一部取り消された後のもの。以下、同じ。)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文一項と同旨。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、中小企業等協同組合法三条四号所定の企業組合であり、本件各処分当時、被告から青色申告を承認されていた。

2  本件各処分の経緯等

原告の本件各事業年度分の法人税の確定申告、更正処分及び重加算税、過少申告加算税の賦課決定、異議申立て、異議決定、審査請求、裁決の経緯は、別紙「課税の経緯」の記載のとおりである。

3  本件各処分の違法事由

本件各処分は、以下に述べるとおり違法であり、取り消されるべきである。

(一) 被告は、昭和六一年五月七日付けで原告に対し、昭和五八年三月期以降の青色申告の承認を取り消す旨の処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)をした。しかし、右取消処分は、違法であることが明らかであるから、右取消処分を前提としてなされた本件各処分は、更正通知書に更正の理由附記を欠き、法人税法一三〇条二項に反し、違法である。

(二) 原告の本件各事業年度分の所得金額は、別紙「課税の経緯」の各事業年度分の確定申告欄記載のとおり次の金額となる。

<1> 昭和五八年三月期 四〇一五万一六一九円

<2> 昭和五九年三月期 三九九七万六四五三円

<3> 昭和六〇年三月期 四一八八万六一八九円

そうすると、本件各処分のうち右<1>ないし<3>は各金額を超える部分は、原告の所得金額を過大に認定した違法がある。

4  よって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載のとおり、本件各処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

本件青色申告承認取消処分については、原告から京都地方裁判所にその取消請求訴訟(昭和六三年(行ウ)第二号事件)が提起されていたが、平成六年一一月七日、同裁判所において同処分を取り消す旨の判決の言渡しがあり、右判決が確定したため、被告は、同月二八日付けで、本件各処分をいずれも取り消した。

したがって、本件各処分の取消しを求める原告の訴えは、訴えの利益がなく、いずれも却下を免れない。

三  請求原因に対する認否

請求原因1、同2は認める。同3(一)のうち、被告が昭和六一年五月七日付けで本件青色申告承認取消処分をしたことは認めるが、その余の部分は争う。同3(二)は争う。

四  抗弁(本件各処分の適法性)

1  更正の理由附記について

被告は、昭和六一年五月七日付けで本件青色申告承認取消処分をしたのであるから、原告は、いわゆる白色申告者であり、青色申告書以外のいわゆる白色申告書に係る更正処分に関し、その理由を附記すべき旨を定めた法令の規定は存在しないから、本件各処分の更正通知書に更正の理由が附記されていなくとも、何ら違法ではなく、適法である。

2  所得金額の計算根拠について

原告の本件各事業年度の所得金額は、別表1「所得金額の内訳」に記載のとおり次の金額となる。

<1> 昭和五八年三月期 一億三三二九万五二七五円

<2> 昭和五九年三月期 八六八一万五四〇六円

<3> 昭和六〇年三月期 一億〇五四七万六三三七円

(一) 昭和五八年三月期

当期の所得金額は、一億三三二九万五二七五円であるが、内訳は以下のとおりである。

(1) 売上計上漏れ(別表1の項目番号3)

原告は、収益及び費用の計算について、原告の本部事務所(以下「本部」という。)において各事業所の責任者から、それぞれ報告を受けて各勘定科目別に集計している。

ところで、原告の事業所の一つである松見研磨材事業所(以下「松見事業所」という。)において、売上代金として入金した金額のうち、別表2の1「松見事業所に係る売上計算漏れの内訳」に記載の合計金額三八〇三万七一七円は、松見事業所から本部に対して松見事務所の売上げとして報告されておらず、売上計上漏れとなっている。

また、原告は本件に係る審査請求において、右松見事業所に係る売上計上漏れの金額とは別に六七三万九一〇六円の売上計上漏れがあることを自認している。

したがって、右合計額四四七六万九八二三円を原告の所得金額に加算したものである。

(2) 仕入架空計上(別表1の項目番号4)

イ 松見事業所において、仕入代金を現金で支払ったもの(以下「現金仕入」という。)のうち、別表3の1「仕入架空計上の内訳」のAに記載の合計金額五六一万九三七三円は、領収証等の証拠書類がなく、仕入代金の支払事実が認められず、損金の額に算入することはできない。

ロ 松見事業所において、現金仕入のうち別表3の1「仕入架空計上の内訳」のBに記載の合計金額二〇二三万一四二〇円は、その支払先がいずれも存在せず、仕入の事実が認められないので損金の額に算入することはできない。

ハ 本部が、仕入代金決済のために、松見事業所の仕入先である昭和電工株式会社あてに振り出した額面一〇〇万円の約束手形二通計二〇〇万円は、同社に交付せず、京都中央信用金庫東五条支店の松見良進名義の普通預金口座で取り立てられており、右約束手形の振り出しは、仕入代金の決済を仮装したものであって、当該金額は損金の額に算入することはできない。

ニ 松見事業所において、取引先である中外商工株式会社に支払ったとする仕入金額のうち二六一万五〇〇〇円は、支払の事実がなく、損金の額に算入することはできない。

ホ したがって、右イないしニの合計額三〇四六万五七九三円を原告の所得金額に加算したものである。

(3) 雑収入除外(別表1の項目番号5)

松見事業所において、取引先の昭和電工株式会社から商品の運賃相当額五八八万三九九〇円を受領したが、本部に雑収入として報告しておらず、計上漏れとなっているので、当該金額を原告の所得金額に加算したものである。

(4) 減価償却超過額(別表1の項目番号6)

原告は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)四五条の二(昭和六〇年法律七号改正前のもの。)の規定を適用して、二〇二万四〇五〇円を特別償却に基づく機械等の減価償却費として損金の額に計上しているが、原告の法人税の青色申告書は、被告のした本件青色申告承認取消処分によって、白色申告書となったのであるから、青色の確定申告書の提出を要件とする同条の適用は認められず、特別償却に基づく減価償却費の額は損金の額に算入できない。

したがって、減価償却超過額二〇二万四〇五〇円を原告の所得金額に加算したものである。

(5) 価格変動準備金積立限度超過額(別表1の項目番号7)

原告は、措置法(昭和六一年法律一三号改正前のもの。)五三条の規定を適用して、価格変動準備金の積立額一〇〇〇万円を当期の損金の額に算入しているが、前記(4)同様、同条の適用は青色申告書の提出が要件となっていることから、当該金額を損金の額に算入することはできない。

したがって、価格変動準備金積立限度超過額一〇〇〇万円を原告の所得金額に加算したものである。

(二) 昭和五九年三月期

当期の所得金額は八六八一万五四〇六円であるが、内訳は以下のとおりである。

(1) 売上計上漏れ(別表1の項目番号3)

前記のとおり、松見事業所から本部に報告されていなかった別表2の2「松見事業所に係る売上計上漏れの内訳」に記載の合計金額七二三万五五七九円及び審査請求における原告の売上計上漏れ自認額一一〇二万七五八六円の合計額一八二六万三一六五円を原告の所得金額に加算したものである。

(2) 仕入架空計上(別表1の項目番号4)

前記のとおり、現金仕入のうち、別表3の2「仕入架空計上の内訳」のAに記載の合計金額七三六万〇八三〇円及び別表3の2「仕入架空計上の内訳」のBの記載の合計金額二〇八〇万四一四〇円は、いずれも損金の額に算入することはできない。

したがって、右合計金額二八一六万四九七〇円を原告の所得金額に加算したものである。

(3) 雑収入除外(別表1の項目番号5)

前記のとおり、本部に報告されていなかった雑収入除外の額七二四万五四九〇円を原告の所得金額に加算したものである。

(4) 減価償却超過額(別表1の項目番号6)

前記のとおり、当該機械等の減価償却において、白色申告書には当該規定の適用は認められず、減価償却超過額二三六万七〇〇〇円を原告の所得金額に加算したものである。

(5) 価格変動準備金積立限度超過額(別表1の項目番号7)

前記のとおり、白色申告書には当該規定の適用は認められず、価格変動準備金積立限度超過額一〇〇〇万円を原告の所得金額に加算したものである。

(6) 価格変動準備金積立限度超過額(別表1の項目番号9)

昭和五八年三月期に価格変動準備金を損金の額に算入できないこととなった結果、原告が当期の益金の額に算入した価額変動準備金の戻入額は益金の額に算入されない。

したがって、右戻入額一〇〇〇万円を原告の所得金額から減算したものである。

(7) 未納事業税(別表1の項目番号10)

昭和五八年三月期の更正処分により増加する事業税九〇五万三一六〇円を当期の損金の額に算入し、原告の所得金額から減算したものである。

(8) 寄付金超過額(別表1の項目番号11)

原告は、法人税法三七条、法人税法施行令七三条一項一号の規定により、寄付金の損金不算入額を一四万八五一二円として所得金額に加算して申告しているが、本件の更正処分により寄付金の損金不算入額は生じないこととなる。

したがって、寄付金超過額一四万八五一二円を原告の所得金額から減算したものである。

(三) 昭和六〇年三月期

当期の所得金額は一億〇五四七万六三三七円であるが、内訳は、以下のとりである。

(1) 売上計上漏れ(別表1の項目番号3)

前記のとおり、松見事業所から本部に報告されていなかった別表2の3「松見事業所に係る売上計上漏れの内訳」に記載の合計金額三二三万五三三五円及び審査請求における原告の売上計上漏れ自認額九五〇万円円の合計額一二七四万五三〇八円を原告の所得金額に加算したものである。

(2) 仕入架空計上(別表1の項目番号4)

前記のとおり、現金仕入のうち別表3の3「仕入架空計上の内訳」のAに記載の合計金額一一三三万九三二〇円及び別表3の3「仕入架空計上の内訳」のBに記載の合計金額三四三八万八八五〇円は損金の額に算入することはできない。

また、本部が、松見事務所の仕入代金決済のために振り出したと認められる額面一〇〇万円の約束手形五通計五〇〇万円は、東京中央信用金庫東五条支店の松見多鶴子名義の普通預金口座で取り立てられており、当該約束手形の振り出しは、仕入代金の決済のためであるとは認められないので、当該金額を損金の額に算入することはできない。

したがって、右合計額五〇七二万八一七〇円を原告の所得金額に加算したものである。

(3) 雑収入除外(別表1の項目番号5)

前記のとおり、本部に報告されていなかった雑収入除外の額八六〇万二九九〇円を原告の所得金額に加算したものである。

(4) 減価償却超過額(別表1の項目番号6)

前記のとおり、当該機械等の減価償却において、白色申告書には当該規定の適用は認められず、減価償却超過額五八一万一〇〇〇円を原告の所得金額に加算したものである。

(5) 価格変動準備金積立限度超過額(別表1の項目番号9)

前記のとおり、昭和五九年三月期に価格変動準備金を損金の額に算入できないこととなった結果、原告が当期の益金の額に算入した価格変動準備金の戻入額についても、益金の額に算入されない。

したがって、右戻入額一〇〇〇万円を原告の所得金額から減算したものである。

(6) 未納事業税(別表1の項目番号10)

前記のとおり、昭和五九年三月期の更正処分により増加する事業税四二九万七三二〇円を当期の損金の額に算入し、原告の所得金額から減算したものである。

(四) 原告の本件各事業年度の所得金額は、右で述べたとおりであり、それぞれ更正処分の額を上回ることとなるから、この範囲内でなされた本件の更正処分は、いずれも適法である。

3  重加算税の賦課決定処分について

原告は、本件各事業年度に係る確定申告に際し真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、前記2(一)ないし(三)の各(1)ないし(3)(但し、審査請求における売上計上漏れの原告の自認額を除く。)で述べた部分を除いた所得金額で確定申告書を提出しており、これらの原告の行為は、国税通則法六八条一項(昭和五八年三月期については昭和五九年法律五号改正前のもの、昭和五九年三月期及び昭和六〇年三月期については昭和六二年法律九六号改正前のもの。)に規定する「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」という要件に該当する。

なお、原告の本件各事業年度の重加算税の賦課決定の対象となるべき所得金額(以下「重加算税所得金額」という。)は、昭和五八年三月期は七四三八万〇五〇〇円、昭和五九年三月期は四二六四万六〇三九円、昭和六〇年三月期は六二五六万六四九五円である。

また、本件各事業年度の重加算税の額は、国税通則法六八条一項及び同法施行令二八条一項の規定に基づき、右重加算税対象所得金額に対応する法人税額に一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した額であり、昭和五八年三月期は九三五万七〇〇〇円、昭和五九年三月期は四四八万五〇〇〇円、昭和六〇年三月期は八二四万七〇〇〇円である。

そうすると、本件各事業年度の重加算税の額は、それぞれ、更正処分時において賦課決定した重加算税の額(異議決定額を含む。)と同額または上回る額となる。

したがって、原告の本件各事業年度の重加算税の賦課決定処分は適法である。

五  抗弁の認否

抗弁事実は全て争う。

理由

一  被告の本案前の主張の当否について

争いがない事実、当裁判所に顕著な事実によれば、原告は、中小企業等協同組合法三条四号所定の企業組合であり、本件各事業年度の法人税の確定申告当時、被告から青色申告を承認されていた。その後、被告は、原告に対し、昭和六一年五月七日付けで昭和五八年三月期以降の本件青色申告承認取消処分をした。しかし、原告は、右取消処分を不服としてその取消しを求める訴えを当裁判所に提起し(昭和六三年(行ウ)第二号事件)、当裁判所は、平成六年一一月七日、右取消処分を取り消す旨の判決を言渡し、右判決は、被告の控訴がなく確定するに至った。被告は、同月二八日付けで、本件各処分をいずれも取り消した。このように認められる。

してみると、本件各処分は、既に被告によって自発的に取り消されているのであるから、その取消しを求める原告の訴えは、その利益を欠き、却下を免れないというべきである。

二  訴訟費用の負担者について

しかし、右のとおり、本件青色申告承認取消処分は、当裁判所の判決で取り消され、右判決は確定しているのであるから、右取消処分を前提としてなされた本件各処分は、更正通知書に更正の理由附記を欠く点で、違法であり、右判決の確定により必然的に取消しにならざるを得ない状況にあった。

してみると、原告の本件取消請求はもともとは理由があり、これが認容されれば、訴訟費用は当然被告負担となるはずであったのに、被告が本件各処分を自発的に取り消したため、原告は、訴え却下の判決を受けざるを得なくなったものといえる。

したがって、本件訴えの提起は、原告の「権利ノ伸長……ニ必要ナリシ行為」(民訴法九〇条)といえ、これにより原告に生じた訴訟費用は、被告の負担とするのが相当である。

三  結論

以上のとおり、本件訴えは、訴えの利益を欠き、却下を免れないが、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民訴法九〇条を適用して、被告の負担とし、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 難波雄太郎 裁判官 河村浩)

別紙 課税の経緯

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別表1 所得金額の内訳

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別表2の1 松見事業所に係る売上計上漏れの内訳(昭和58年3月期分)

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別表2の2 松見事業所に係る売上計上漏れの内訳(昭和59年3月期分)

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別表2の3 松見事業所に係る売上計上漏れの内訳(昭和60年3月期分)

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別表3の1 仕入架空計上の内訳(昭和58年3月期)

<省略>

<省略>

別表3の2 仕入架空計上の内訳(昭和59年3月期)

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別表3の3 仕入架空計上の内訳(昭和60年3月期)

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