京都地方裁判所 平成4年(ワ)1533号 判決 1994年7月19日
原告
秋山美津代こと趙在三
ほか一名
被告
吉村愛文
ほか一名
主文
一 被告らは連帯して原告趙に対し金一二九六万二〇五〇円及び内金一一八一万二〇五〇円に対する平成三年九月四日から、内金一一五万円に対する平成四年七月二四日からそれぞれ支払い済みまで年五%の割合による金員を支払え。
二 被告らは連帯して原告孫に対し金一一八八万二〇五〇円及び内金一〇八一万二〇五〇円に対する平成三年九月四日から、内金一〇七万円に対する平成六年五月二五日からそれぞれ支払い済みまで年五%の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は三分し、その二を原告らの、その余を被告らの負担とする。
五 この判決の第一、二項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一求める裁判
一五三三号事件
一 被告らは連帯して原告趙に対し金三八七六万九九四〇円及び内金三七二六万九九四〇円に対する平成三年九月四日から、内金一五〇万円に対する本訴状送達の日の翌日(平成四年七月二四日、遅い被告吉村に対する送達)からそれぞれ支払い済みまで年五%の割合による金員を支払え。
一一六二号事件
二 被告らは連帯して原告孫に対し金三〇七六万九九四〇円及び内金二九二六万九九四〇円に対する平成三年九月四日から、内金一五〇万円に対する本訴状送達の日の翌日(平成六年五月二五日)からそれぞれ支払い済みまで年五%の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
秋山順三こと孫順三(亡孫という。)が些細なことで立腹して被告吉村運転の大型貨物自動車(ダンプカー、被告吉村車という。)の運転席外側梯子にとりすがり、被告吉村はこれを知人である原告らが被告吉村に対して民法七〇九条により、被告吉村を雇用して業務に従事させ、被告吉村車の所有者である被告川極に対して自賠法三条及び民法七一五条によりそれぞれ責任があるとして損害を請求するものである。
第三争いのない事実
一 本件交通事故の発生
1 発生日時 平成三年九月四日午前五時四五分ころ
2 発生場所 京都市伏見区石田西ノ坪二番地先(外環状線)
3 事故態様 亡孫が被告吉村車の運転席外側梯子にとりすがり、被告吉村車が進行中に亡孫を転落死亡させた。
二 責任
被告川極が被告吉村を雇用していた。
三 相続
亡孫の、原告趙は母、原告孫は父として亡孫を、それぞれ相続した。
第四争点及びこれに対する判断
一 正当防衛・過失相殺の主張
被告らの主張
被告らは、亡孫が被告吉村の運転する被告吉村車にしがみつき、被告吉村に危害を加えるような態度であつたので、被告吉村がこれを免れるため、被告吉村車を発車させたものであり、正当防衛として不法行為の責任を負わない。かりに、不法行為の責任を負うとしても、亡孫の過失は大きく過失相殺されるべきである。
判断
証拠(甲二、一四、一六、一七、一八、二一、二二、二五、二六、二七、二九、三〇、三一ないし三九、四一ないし四八)によれば、次の事実を認めることができる。
1 被告吉村は、事故直前の午前五時三五分ころ、被告吉村車を運転して京都市伏見区向島西堤町本町通を東進し、国道二四号線と交差する観月橋南詰交差点手前で、対向の趙誠在運転、亡孫ら同乗の普通乗用自動車(趙車という。)と遭遇し、趙車に道を譲ってもらい、離合したが、亡孫らは、被告吉村が礼の挨拶をしなかったものと考え、出発した被告吉村車を追跡し、一旦外環状線桃山交差点付近で追いつき、趙誠在が降りて被告吉村の運転席に近づき、「降りてこい」といつたところ、赤信号であるのに、被告吉村が亡孫の剣幕に怖くなり、発車してその場から逃れようとした。
2 そして、亡孫らは、午前五時四四分ころ、宇治市六地蔵奈良町二二番地の一株式会社トヨペツトステーシヨン山科サラトガ前付近で再び被告吉村車に追いつき、趙車を被告吉村車の前に斜めに停車させた。趙らは腹をたて、「おおきにと一言くらい言えや。」、「ちよつと降りてこい。」などと言い、被告吉村車の運転席のドア及び窓ガラスを叩いたり、蹴ったりして開けさせようとした。その時、趙は被告吉村車の運転席外側後方の梯子にとりすがつていたが、亡孫は被告吉村車の右前サイドミラー支柱あたりにしがみついていた。
3 さらに、被告吉村は危害を加えられるかもしれないと怖くなり、被告吉村車を発進させた。このため、趙は梯子から飛び降りたが、替わつて亡孫はそのまま被告吉村車の右前あたりにしがみついていた。間もなく、被告吉村は、亡孫が運転席外側後方の梯子にとりすがつているのを認めたが、停車することなく、なお、恐怖の余り、時速四〇ないし五〇キロメートルに加速して約二〇〇メートル走行し、そのため伏見区石田西ノ坪二番地先(外環状線)で亡孫を転落させ、脳挫滅によつて死亡させたものである。
以上の事実を認めることができる。
そうすると、亡孫らは被告吉村の運転する被告吉村車を追跡し、これを止めて、なお被告吉村を詰問する態度にでたものであり、亡孫側は人数において優り、被告吉村が身の危険を感じて逃走を図ったことも理解できる。しかし、被告吉村が逃走をする途中において亡孫が梯子にぶら下がつているのに気付いた段階では、相手が亡孫一人であることを認識しているのであるから、身の危険を感じた急迫不正の侵害は遠のいたものとみるのが相当である。然るに、なお速度を速め走行するのは、客観的にみて、もはや正当行為とは見られない。ただ、亡孫は執拗に被告吉村車を追跡したうえ、運転席外側後方の梯子にとりすがつたという事情があるものの、一方、被告吉村の過失も大きいと見られ、亡孫の過失及び被告吉村の過失をそれぞれ五〇%と認めるのが相当である。しかし、被告吉村が逃走をする途中において亡孫が梯子にぶら下がつているのに気付いた段階では、相手が亡孫一人であることを認識しているのであるから、身の危険を感じた急迫不正の侵害は遠のいたものとみるべきであるから、被告らの正当防衛の主張は採用し難い。
二 責任
したがつて、被告吉村に民法七〇九条による責任がある。また、被告川極には民法七一五条及び自賠法三条の責任がある(甲三九、四一)。
三 損害
1 亡孫の逸失利益(四九九八万二六八四円請求、前年の給料二五三万六〇〇〇円及びアルバイト一〇九万八一〇〇円の合計三六三万四一〇〇円
計算式 3634100×0.6×22.923=49982684 円未満切捨て)
亡孫は、昭和四一年一二月二二日生まれ(二四歳)の男子で、本件事故当時、自動車の販売の仕事をしていたが、その傍ら兄の音楽スタヂオで臨時的に配送及び運搬の仕事をもしていたというのであるけれども、自動車の販売の仕事で平成二年度に二五三万六〇〇〇円の収入があつたとして納税申告をしている(甲七、四九、証人秋山杏一)。しかし、証拠(甲五一ないし六九)によつても、亡孫が兄の音楽スタヂオで得た収入の納税申告をしているわけでもなく、その収入は確実なものとも見られない。亡孫が兄の音楽スタヂオで収入を得ていたものとするわけにはいかない。そうすると、亡孫が自動車の販売の仕事をして得た前年の給料二五三万六〇〇〇円を基礎にして計算するのが相当であり、亡孫の逸失利益は二二二四万八二〇一円(円未満切捨て)となる。
可動年数 四三年
ライプニツツ係数 四三年 一七、五四五九
生活費 五〇%控除
2536000×17.5459×0.5=22248201.2
2 亡孫の慰謝料(二二〇〇万円請求) 二〇〇〇万円
3 原告趙の慰謝料(一〇〇〇万円請求) 二〇〇万円
4 葬儀費(一一九万二一六九円請求) 一〇〇万円
四 過失相殺による減額(二〇%と主張)
三の1、2及び4の合計四三二四万八二〇一円を右過失割合に従い減ずると、二一六二万四一〇〇円(円未満切捨て)となる。3を右過失割合に従い減ずると、一〇〇万円となる。
五 相続の結果
原告らは、右二一六二万四一〇〇円の二分の一である一〇八一万二〇五〇円を相続した。
原告趙 一一八一万二〇五〇円
原告孫 一〇八一万二〇五〇円
六 弁護士費用(各一五〇万円請求) 原告趙 一一五万円
原告孫 一〇七万円
(裁判官 小北陽三)