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京都地方裁判所 平成5年(行ウ)18号 判決 1999年10月15日

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一請求

被告が平成四年三月一二日付けでした原告の昭和六三年分、平成元年分及び平成二年分の所得税の各更正(ただし、昭和六三年分については異議決定により取り消された部分を除く。)のうち、所得金額が昭和六三年分は九七万二九二五円、平成元年分は一一五万三二一九円、平成二年分は二三三万七九五七円を超える部分及びこれに対する過少申告加算税の各賦課決定をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、被告のした昭和六三年分ないし平成二年分(以下「本件各年分」という。)の各所得税の更正(以下「本件各更正」という。また、本件各更正及び本件各決定を併せて「本件各処分」という。)に、調査手続上の違法及び所得金額を過大に認定した違法があると主張して、確定申告額を超える部分及びこれに対する過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各決定」という。)の取消を求める抗告訴訟である。

二  争いのない事実

1  原告は、「和田貴金属宝飾店」の屋号で宝石貴金属製品の卸売業を営む白色申告者である。

2  原告が本件各年分の所得税についてした確定申告、これに対して被告がした本件各更正及び本件各決定、被告がした異議決定並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別表1「課税の経緯」記載のとおりである。

三  争点

1  調査手続の適法性

(一) 原告の主張

被告は、調査を尽くさずに、一方的に反面調査を行ったものであるから、調査手続は違法である。

(二) 被告の主張

被告の職員(以下「職員」という。)は、原告に対して、多数回にわたり調査に協力してくれるよう要請したのに、原告が協力せず、原告から帳簿書類等の提示が得られなかったことから、やむを得ず反面調査を開始し、推計課税をしたものであって、本件調査の過程に違法な点はない。

2  推計の必要性

(一) 被告の主張

(1) 推計課税は、納税者が帳簿書類その他の資料を備え付けていない、あるいは、帳簿書類等を備え付けているがその記載内容が不正確で信用し難い、または、税務署長の行う調査に非協力的であるなどの理由から収入・支出の状況を明らかにする直接資料が入手できないために、その所得金額を実額で把握することができない場合に認められるものである。

(2) 原告は、本件各年分の確定申告書に、所得金額しか記載せず、その内訳明細書(収支内訳書等)の提出もしなかったことから、被告は、原告の本件各年分の申告所得金額が適正か否かを確認するため、税務調査をした。

職員は、平成二年八月二九日から平成四年三月一〇日までの間、一二回にわたり、連絡せんを交付し(投函を含む)、電話も含めて一〇回原告と接触したほか、原告の父である和田賢司(以下「賢司」という。)、原告の妻及び従業員に対しても面談するなどして、調査の目的等を十分に伝えるとともに、調査への協力を要請した。

原告は、このような職員の調査に対し、別訴で取消を求めていた昭和五九年分ないし昭和六一年分の所得税に対する更正処分(以下「先行処分」という。)が誤っていたことを認める旨文書で回答するよう求めたり、昭和六一年期末の在庫につき原告が主張するとおりの金額を認めるよう求めたり、さらには、調査に関係のない第三者の立会いを認めるよう要求し、これらの要求が容れられない限り応じられないとの態度に終始し、職員の調査に協力しなかった。

(3) したがって、原告が被告の調査に正当な理由なく協力せず、収入・支出の状況を明らかにする帳簿書類等を提示しなかったため、被告は、原告の所得金額を実額で把握することができず、推計により所得金額を算定する必要性があった。

(二) 原告の主張

職員は、原告の事業所を訪問しておらず、原告は連絡せんを受け取っていない。また、調査当日、原告は、納税額の算出の補助をした民主商工会関係者らを同席させ、本件各年分に関する資料を準備して調査に臨んだにもかかわらず、職員は具体的な質問をせず、資料にも目を通さずに調査を打ち切ったのであって、原告から調査を拒否した事実はない。さらに、原告は、職員に対し、調査に当たっては資料を準備するので不必要な反面調査をしないよう申し入れていたのに、職員は原告の連絡を待たずに反面調査を開始した。

したがって、原告が被告の税務調査に協力しなかったとはいえないから、推計の必要性はなかった。

3  推計の合理性

(一) 被告の主張

被告がした原告の本件各年分の事業所得金額の推計には、次のとおり合理性がある。

(1) 同業者の抽出基準

大阪国税局長は、原告の納税地を所轄する中京税務署を含む京都市、大阪市及び神戸市に所在する三一の税務署長に対し、所得税の確定申告書を提出している者で、本件各年分を通じて次の<1>ないし<7>の条件に全て該当する者を抽出したうえ報告するよう通達した。

<1> 青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること。

<2> 宝石貴金属製品の卸売業を営んでいること。ただし、消費税法施行前の昭和六三年一月一日から平成元年三月三一日までの間は、旧物品税法三五条の二第一項に規定する販売業者証明書の交付を受けて宝石貴金属製品の卸売業(物品税法に定める課税物品表の第一種物品のうち番号一《貴石及び半貴石並びに貴石製品、半貴石製品及び貴石又は半貴石を用いた製品》又は三《貴金属製品及び金又は白金を用いた製品並びに貴金属をめっきし、又は張った製品》あるいはそのいずれも取り扱う業者)を営んでいること。

<3> 右<2>以外の業種目を兼業していないこと。

<4> 事業所が大阪市内、京都市内及び神戸市内のいずれかにあること。

<5> 年間を通じて事業を継続して営んでいること。

<6> 売上金額が、六〇〇〇万円以上、四億一〇〇〇万円未満であること。

<7> 対象年分の所得税について、不服申立て又は訴訟が係属中でないこと。

(2) 同業者の選定件数及び同業者率の内容

右通達により抽出された同業者は一三名であり、その売上金額、算出所得金額(売上金額から必要経費《特別経費である建物の減価償却費、給料賃金、利子割引料、地代家賃、貸倒金、税理士報酬、減価償却資産の除却損等を除く。》を控除した金額。)、算出所得率(算出所得金額の売上金額に対する割合)、算出所得率の平均値(以下「平均算出所得率」という。)は、それぞれ別表2「同業者算出所得率一覧表(主位的主張)」(以下「別表2」という。)記載のとおりである。

(3) 同業者の抽出過程

右(1)の抽出基準により抽出した同業者は、業種、業態、事業場所及び事業規模等において原告と類似性を有しており、しかも青色申告者であるから、売上金額等の数値の正確性も十分に担保されている。また、その抽出過程は、大阪国税局長の発した通達に基づき各税務署長が機械的に抽出したものであるから、抽出に当たって恣意の介入する余地は存しない。しかも、抽出された同業者数は、本件各年分において、それぞれ一三名と多数であることから、各同業者の個別性を十分に平均化するに足るものである。

したがって、被告が右(1)により算出された類似同業者の各平均算出所得率を用いて原告の本件各年分の事業所得金額を推計したことには合理性がある。

(二) 原告の主張

被告主張の推計方法は、次の点で合理性を欠くものである。

(1) 被告が本件推計に当たり抽出した同業者には、著しい所得率の偏差、格差があり、同業者として原告と類似性のない同業者が混在しており、かかる同業者の平均所得率を用いて推計を行うことには、何ら合理性がない。

(2) 被告は、青色申告書を対象とするものであるから、同業者と原告との間の類似性やその金額の正確性について十分に担保されていると主張するが、同業者の青色申告書も同業者と原告の類似性を直接基礎づける資料も一切提出しておらず、その立証責任を尽くしていない。

4  本件各処分の適法性

(一) 被告の主張(主位的主張)

(1) 売上金額

被告が把握し得た原告の本件各年分における売上金額は、別表3「総所得金額の計算書(主位的主張)」(以下「別表3」という。)<1>欄記載のとおり、昭和六三年分は一億二七九九万二五六六円、平成元年分は一億七四九二万五〇七〇円、平成二年分は二億〇一四三万九三二三円であり、その金額の明細は、別表4「売上金額明細表(被告主張分)」(以下「別表4」という。)記載のとおりである。

(2) 算出所得金額

原告の本件各年分における算出所得金額は、別表3の<3>欄記載のとおり、昭和六三年分は一三四五万二〇一八円、平成元年分は一八五五万九五四九円、平成二年分は二二三三万九六二〇円である。これらの金額は、いずれも同表<1>欄の各売上金額に、前記のとおり算出した別表2の<3>欄記載の同業者の当該各年分の平均算出所得率をそれぞれ乗じて算出した。

(3) 特別経費(給料賃金)

原告が、平成二年分において、給与及び賞与として従業員である江本謙次(以下「江本」という。)に対して支払った額は、別表3の<4>欄記載のとおり、三五三万円である(争いがない。)。

(4) 本件各年分の総所得金額

原告の本件各年分の総所得金額は、別表3の<5>欄記載のとおり、次の金額となる(平成二年分については、事業所得金額に、争いのない給与所得金額七〇万円を加えたもの。)。

昭和六三年分 一三四五万二〇一八円

平成元年分 一八五五万九五四九円

平成二年分 一九五〇万九六二〇円

したがって、右額は本件各更正にかかる所得金額を上回るから、本件各処分はいずれも適法である。

(二) 被告の主張(予備的主張)

原告が主張する売上金額を基に算定した本件各年分の総所得金額は、別表5「総所得金額の計算書(予備的主張)」記載のとおり、昭和六三年分は一七〇〇万五七二二円、平成元年分は二一〇〇万六一四六円、平成二年分は二三二四万〇九三七円である。

したがって、右額は本件各更正にかかる所得金額を上回るから、本件各処分はいずれも適法である。

その算定方法は、売上金額を除いては右(一)主位的主張と同様である。

ただし、同業者については、原告主張の売上金額の〇・五倍以上二倍以内の範囲に属する別表6「同業者算出所得率一覧表(予備的主張)」記載の一二件を用いた。

(三) 原告の主張(実額主張)

(1) 原告の本件各年分の売上金額及びその他の収入は、別表7「原告の事業所得の金額」(以下「別表7」という。)の<1>ないし<3>欄記載のとおり、昭和六三年分は一億六四四五四〇五円、平成元年分は一億九九六七万八一九九円、平成二年分は二億四〇四二万一四九五円であり、その明細は、別表8「売上金額明細表(原告主張分)」(以下「別表8」という。)記載のとおりである。

(2) 原告の本件各年分の売上原価及び必要経費は、別表7記載のとおりであり、次の金額である。

<1> 売上原価

原告の本件各年分の売上原価は、同表<4>ないし<8>欄記載のとおり、昭和六三年分は一億三三一八万三八五九円、平成元年分は一億六四五一万一一六五円、平成二年分は一億九九七三万一〇二〇円であり、仕入金額(<5>)の明細は、別表9「仕入金額明細表」記載のとおりである。

<2> 必要経費

原告の本件各年分の必要経費は、別表7の「必要経費」欄記載のとおり、昭和六三年分は三〇一六万一〇〇〇円、平成元年分は三三九三万六二四八円、平成二年分は三八七六万〇八九三円であり、平成元年分および平成二年分の外注工賃の明細は、別表10「外注加工費明細」記載のとおりである。

(3) 原告の本件各年分の事業所得金額は、別表7の<11>欄記載のとおりであり、次の金額となる。

昭和六三年分 一一二万〇五四六円

平成元年分 一二三万〇七八六円

平成二年分 一九二万九五八二円

第三争点に対する判断

一  争点1(調査手続の適法性)について

1  前記当事者間に争いのない事実、証拠(乙二の2ないし4、三ないし一四、証人近藤正春、同篠塚孝之の各証言、原告本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認定することができる。原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分はにわかに信用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(一) 原告は、京都市中京区蛸薬師通麸屋町東入ル蛸屋町一五三番地(以下「事業所」という。)において、「和田貴金属宝飾店」の屋号で宝石貴金属製品の卸売業を営み、その所得税については中京税務署に白色申告している者である。

賢司は、右事業所と同一場所で、「和田貴金属店」の名称で金地金の販売業を営んでいる。

(二) 中京税務署の田口統括官は、原告が提出した本件各年分の確定申告書には所得金額欄に数額しか記載されておらず、その内訳明細書も提出されなかったことから、右申告所得金額が適正なものであるか否かを調査する必要があると認め、近藤正春調査官(以下「近藤」という。)に調査を命じた。

(三) 近藤は、平成二年八月二九日、同年九月三日、同年一〇月一八日に、原告の確定申告書記載の住所地(京都市中京区御池通大宮西入門前町一六五番地(以下「住所地」という。)に臨場したが、いずれの場合も原告は不在であったため、原告の名前の記載のある郵便受に、至急連絡を乞う旨の連絡せんを投函した。

近藤は、同月二二日、事業所に臨場したが、同所にも不在であったため、賢司に、至急連絡を乞う旨原告に伝えるよう依頼した。

(四) 近藤は、同月二六日、不在中に原告から連絡があったため、折り返し事業所に架電したところ、賢司が、原告からの伝言として、<1>ガレージなら調査を受ける場所がある、<2>調査日は同年一一月五日、<3>立会人が数人いる旨伝えた。近藤は、賢司に対して、<1>調査日は同年一一月五日、場所はガレージでよいので、時間を連絡してほしい。<2>調査に関係のない第三者を呼ばなようにしてほしい旨を原告に伝えるよう依頼し、賢司はこれを了承した。

(五) 同年一一月一日、原告から電話があったので、近藤が平成元年分以前の所得税の調査を行う旨告げたうえ、住所地の郵便受けに投函した連絡せんを見てもらったかと尋ねたところ、原告は、連絡せんを見ていない、同月五日は都合が悪いので、スケジュールを調整して同日中に電話連絡すると返答した。

原告と近藤は、同月五日、事業所での調査の日を同月一九日とすることに合意し、その際、近藤は、原告に対し、第三者を呼ばないよう要請した。

(六) 同月一九日午後三時ころ、近藤が事業所に臨場すると、その場に原告と賢司の他に、中京民主商工会の事務局員ら三名の第三者がいた。近藤は第三者の退席を求めたが、原告らは、調査に協力する前提として先行処分について被告の更正が誤っていることを文書で回答することなどを要求し、これが受け入れられなければ調査に協力できないと主張したため、近藤は、午後四時三〇分ころ、事業所を辞去した。

(七) 近藤は、同年一二月一七日、事業所に臨場し、原告に対し、調査に協力するよう求めたが、原告は、同月一九日に要求した回答がなされることが先であると主張してこれに応じず、さらには耳元で大声を出すなどして調査に協力しなかったので、事業所を辞去した。

(八) 近藤は、平成三年一月一六日、事業所に臨場したところ、原告は不在であったため、賢司に対し、調査への協力及び帳簿書類の提示を要請する旨の連絡せんを原告に手渡すよう依頼した。

原告は、同月二一日、近藤に対し、電話で、先行処分の問題が解決するまでは調査に協力しない旨返答した。

(九) 近藤は、同年二月二六日、事業所に臨場し、原告に対し、確定申告時期は調査ができないので、同年四月以降に引き続き調査を行う旨伝えた。

近藤は、同年四月二二日、事業所に臨場し、原告に対し、平成二年分以前の所得税の調査を行うが、帳簿の提示等の調査への協力がなければ、取引先の反面調査を行う旨告げた。これに対し、原告は、「連休明けに立会人を入れた上で会おう。また連絡する。」と申し出たので、近藤はこれを承諾した。

(一〇) しかし、同年五月七日までに原告から連絡がなかったため、同日、近藤は、原告の取引先に対する反面調査を開始した。

(一一) 原告に対する調査の担当は、同年七月、近藤から篠塚孝之調査官(以下「篠塚」という。)に交替した。篠塚は、同年八月七日に事業所に臨場したが、原告は不在であった。そこで、篠塚は、<1>調査担当者が替わったこと、<2>所得税調査に加えて消費税調査も併せて行うこと、<3>調査日時を決めるため、明日電話連絡してほしい旨を記載した連絡せんを賢司に交付しようとしたが、賢司から、原告の住所地の郵便受に入れてほしいとの申出があったため、これに従うことにして、原告にその旨を伝えるよう賢司に依頼し、了承を得た。篠塚は、同日、原告の住所地に臨場してドアをノックしたが応答がなかったため、郵便受に右連絡せんを投函した。

(一二) 篠塚は、原告から連絡がなかったため、同月九日に再度事業所に臨場したが、原告は不在であったので、従業員に、同月二八日に住所地へ伺いたいので、昭和六二年分以降の帳簿等を用意しておいてほしい旨記載した連絡せんを原告に渡すよう依頼した。

篠塚は、同月二六日、原告から、同月二八日は出張のため都合が悪い、二九日には居る旨の電話があったとの伝言を受けて、事業所に架電したところ、原告は不在であったため、賢司に対し、同月二九日に住所地に伺う、都合が悪ければ電話連絡してほしい旨を原告に伝言してくれるよう依頼し、賢司はこれを了承した。

(一三) 篠塚は、同月二九日、住所地に臨場したが原告は不在で、事業所にも架電したが同所にもいなかった。篠塚が賢司に対し、臨場希望日時を原告に伝えたかどうか尋ねたところ、賢司は伝えたと返答した。篠塚は、賢司に対し、郵便受に連絡せんを投函しておくので原告に伝えるよう依頼した後、税務署の方で引き続き調査を進めるが、また伺う旨記載した連絡せんを住所地の郵便受に投函した。

(一四) 篠塚は、同年一一月二二日、事業所に臨場したところ、原告は同所に居たが、賢司を介して「これから出掛けるところなのでまたにしてほしい。二、三日のうちにこちらから連絡する。」旨述べ、篠塚と会わなかった。

(一五) その後、原告から連絡がなかったことから、篠塚は、同月二八日、事業所に臨場したが、原告も賢司も不在であったため、従業員に対し、第三者の立会いなしで帳簿等を見せてもらえるなら明日電話してほしい旨記載した連絡せんを原告に手渡すよう依頼して事業所を辞去した。

その後も原告から何の連絡もなかったので、篠塚は、同年一二月一一日、事業所に架電したところ、原告は不在であったため、賢司に対し、明日電話連絡してほしい旨の原告への伝言を依頼し、賢司はこれを了承した。

しかし、原告から連絡はなく、篠塚が、同月一三日に事業所に臨場した際も原告は不在であった。その際、篠塚が賢司に先日の伝言を原告に伝えたかどうかを確認したところ、賢司は伝えた旨答えた。

(一六) 篠塚は、平成四年二月一〇日、事業所に臨場したが、原告は不在であったため、賢司に対し、同月一三日に住所地へ伺いたいので、帳簿等を用意しておいてもらいたい旨記載した連絡せんを原告に手渡すよう依頼し、賢司の了承を得た。

(一七) 篠塚は、同月一三日、住所地に臨場したが、原告は不在であったため、事業所に電話して、賢司に対し、連絡せんを原告に渡してもらったかを確認したところ、賢司は一二日に渡したと述べた。その際、篠塚は、賢司に対し、調査に協力してもらえないようなので、今後の対応について税務署の方で検討する旨記載された連絡せんを住所地の郵便受に投函しておくので、原告にそのことを伝言してほしいと依頼し、賢司の了承を得た。

(一八) 篠塚は、同年三月三日、事業所に臨場したが、原告は不在であった。

篠塚が賢司に連絡せんを原告に交付するよう依頼しようとすると、賢司は原告の住所地の郵便受に投函すればよいと述べ、今までの連絡せんも、郵便受に投函したものはすべて原告に渡っていると説明した。

篠塚は、同所に居合わせた原告の妻に対し、同月五日に調査結果について話がしたいので住所地に伺う旨記載した連絡せんを原告に渡すよう依頼し、同女の了承を得た。

(一九) 篠塚は、同月五日、住所地に臨場したが、原告は不在であったため、事業所に架電すると、原告の妻が、原告は事業所にも不在である、連絡せんは原告に渡したと、賢司が、原告は香港へ行っており、同月九日まで戻らないと返答した。

そこで、篠塚は、事業所に臨場して、賢司及び原告の妻と面談し、賢司に対し、<1>調査結果を話したいので同月一一日までに税務署に来てほしい、<2>来署しない場合には、税務署の方で課税処理することになる旨記載された連絡せんを原告に渡すよう依頼し、その了承を得た。

(二〇) 原告は、同月一〇日、篠塚に対し、電話で、「民商の人と一緒に会いたい」と申し出た。これに対し、篠塚は、第三者の立会いは認められないこと、同月一一日までに税務署へ来てほしいこと、来署しない場合には税務署の方で課税処理することを告げた。

(二一) 原告は、同月一一日までに中京税務署を訪れなかったし、連絡もしなかった。そこで、被告は、同月一二日付で本件各処分をした。

そして、篠塚は、同日、山本総務係長とともに事業所に赴き、本件各処分の通知書を交付しようとしたところ、原告は受領を拒否したので、右通知書を差し置いた。

2  原告は、被告は調査を尽くすことなく、一方的に反面調査を行ったものであるから、調査手続は違法であると主張する。

しかしながら、所得税法二三四条による税務調査における質問検査の範囲・程度・時期・場所、調査の理由の開示の有無・程度、事前通知の有無等の実施の細目については法律上特段の定めがないから、これらについては、質問検査の必要があり、かつこれと相手方の私的利益との較量において社会通念上相当な程度に止まると認められる限り、権限を有する税務職員の合理的な裁量に委ねられているものと解されるところ、右1認定の事実によれば、原告は、近藤及び後任の篠塚からの連絡せんや電話による調査への協力依頼に対し誠実な対応をしないで不在を繰り返したこと、調査が行われた日には、調査に協力する前提として先行処分についての被告の更正が誤りであることを文書で回答するよう要求するなどして帳簿書類等の提示に応じず、調査に非協力的な態度をとり続けたことから、近藤及び篠塚は、原告に対する質問調査によってはその所得金額を確認することができないと判断し、やむを得ず反面調査を実施したものであることが認められるから、本件調査は社会通念上相当な程度に止まるものというべきであり、所論の違法があるものとは認め難い。

なお、原告は、近藤及び篠原が郵便受けに投函した連絡せんを受取っていない旨弁解するが(原告本人尋問の結果)、右1認定の事実に照らしにわかに信用し難い。

したがって、本件調査手続に違法はない。

二  争点2(推計の必要性)について

前記一に説示したとおり、原告は、調査に対して非協力的な態度をとり続け、帳簿書類等の提示に応じなかったものであり、右のような原告の非協力的な態度からすれば、その協力の下にその所得金額を実額で把握することは困難であり、独自の調査(反面調査)による推計の方法によって原告の本件各年分の所得金額を算出したことは相当であり、推計の必要性があったものというべきである。

三  争点3(推計の合理性)について

1  証拠(乙一五、一六の1ないし31、証人竹本寛の証言)並びに弁論の全趣旨によれば、前記第二の三3(一)(1)(同業者の抽出基準)、同(2)(同業者の選定件数及び同業者率の内容)の事実及び同業者の抽出にあたり、通達に定められた基準に該当する者は、全て機械的、正確に選び出されており、恣意が介入する余地はなかった事実が認められる。

右認定の事実によれば、被告の設定した比準同業者の抽出基準は、業種、業態の同一性、事業所の近接性、売上金額の近似性等からして、同業者の類似性を判別する要件としては一般的合理性を有しているし、右抽出基準に該当するものは全てが機械的、正確に抽出されている。また、比準同業者は、いずれも青色申告者であり、しかも、経営状態が異常な者や更正等に対して不服申立をしている者を除外しているから、売上金額等の正確性がかなりの程度担保されているものということができるし、さらにはその抽出件数も本件各年分とも一三件で、十分普遍性を有しているものと認められるから、本件各年分の同業者平均算出所得率の算出方法は合理性を有するものということができる。

2(一)  これに対し、原告は、被告抽出の同業者の算出所得率には著しい偏差があるから、これを単純に平均して所得率を算出して推計を行うことには合理性がないと主張する。

しかしながら、本件のような同業者平均所得率による推計の方法(いわゆる平均値による推計)の場合には、その特質からして、業種、業態、事業所の近接性、売上金額の近似性等といった基本的要因において同業者の抽出が合理的であれば、同業者間に通常存在する程度の所得率の差異は、その計算の過程において捨象されるものと考えてよいから、その差異が平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度に顕著でない限り推計の合理性を是認してよいと解することができる。そして、本件においては、被告が抽出した同業者の所得率は、四・九一パーセントから一九・一三パーセントの間に分布しており、いずれも平均算出所得率から上下一〇ポイントの範囲内にあり、業者間に通常存在する程度の所得率の差異の範囲内ということができるから、推計を不合理ならしめる程度の偏差・格差とは認め難い。

したがって、原告の右主張は理由がない。

(二)  また、原告は、同業者の青色申告書や同業者と原告の類似性を直接基礎づける資料が提出されていないことを理由に推計の合理性がない旨主張するが、右1に説示したとおり、被告の設定した比準同業者の抽出基準は合理的なものであり、右基準に該当するものはすべてが機械的、正確に抽出されたものと認められるから、その主張にかかる資料が提出されないからといって、そのことを理由に同業者平均算出所得率を用いた推計の方法が合理性を欠くものということはできない。

したがって、原告の右主張は理由がない。

四  争点4(本件各処分の適法性)について

1  本件各年分の推計による所得金額について

(一) 売上金額

被告は、原告の本件各年分の売上金額及びその明細は別表4記載のとおりと主張しているところ、原告は、別表8記載の範囲においてこれを認めているから、原告の本件各年分の売上金額は、別表11「売上金額明細表(認定分)」(以下「別表11」という。)記載のとおり、昭和六三年分は一億二六七〇万六六五六円、平成元年分は一億七三二五万三一四三円、平成二年分は二億〇〇〇三万四九九五円をそれぞれ下らないものということができる。

なお、別表4記載の売上金額のうち、別表11記載の売上金額を超える部分については、これを認めるに足りる証拠はない。

(二) 算出所得金額

右売上金額に、別表2記載の各平均算出所得率をそれぞれ乗じて本件各年分の算出所得金額を算出すると、昭和六三年分は一三三一万六八六九円、平成元年分は一八三八万二一五八円、平成二年分は二二一八万三八八〇円となる。

(三) 特別経費

原告が、平成二年分において、江本に対して支払った給与及び賞与が、三五三万円であることは当事者間に争いがない。

(四) 所得金額

したがって、原告の本件各年度分の推計による事業所得金額は、昭和六三年分は一三三一万六八六九円、平成元年分は一八三八万二一五八円、平成二年分は一八六五万三八八〇円となる。また、平成二年分の給与所得金額が七〇万円であることは当事者間に争いがないから、原告の本件各年分の推計による総所得金額は、昭和六三年分は一三三一万六八六九円、平成元年分は一八三八万二一五八円、平成二年分は一九三五万三八八〇円となる。

右総所得金額は、本件各更正にかかる所得金額を上回るから、本件各更正及び右所得金額を基に賦課された本件各決定は、原告において、これが真実の課税標準額及び税額と異なることを主張立証(実額反証)しない限り適法ということになる。

2  実額反証について

(一) 推計課税がなされた場合には、課税庁が反面調査等によって把握し得る売上金額の範囲には自ずと限界があり、実際には納税者の売上金額には相当の捕捉漏れがあることも十分予測され、課税庁の主張する売上金額は、推計の合理性を基礎づける事実として、あくまでもその額を下らない売上金額があったというものにすぎないから、実際の売上金額に合致するとは限らない。したがって、納税者が売上金額及び必要経費が実額であることを立証しない限り、真実の所得額が推計による所得額よりも過少であることを立証したことにはならないというべきである。右のように解しても、被告に推計課税の方法を採らせたのは、前記のような原告の調査への非協力によるものであるうえ、課税標準である所得を算定する要素である売上金額及び必要経費は、納税者である原告の支配領域内で起こる事柄であって、それらの具体的内容は、原告の最もよく知るところであり、この点についての主張・立証は容易であると考えられるから、原告に加重な負担を課するものということはできない。

(二) ところで、原告は、売上に関して売掛帳等の会計帳簿を作成していないとして、売上金額を立証する証拠として、納品書(甲一ないし七八、以下「本件納品書」という。)と預金通帳(甲二六三一)を提出している。

しかし、証拠(甲一ないし七八、五〇一、五〇二、乙二一、二三ないし二五、原告本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認定することができる。

(1) 本件納品書は、一冊五〇組綴りの冊子であり、一組は、上から順に原告の控え、請求書添付用、先方納品書用の三枚から構成されている。

本件納品書は、商品の販売がなされると、そのうちの一組に取引内容を記載し、取引先に先方納品書用を交付し、締日毎に作成する請求書に請求書添付用を添付し、原告の控え用のものが手元に残ることになっている。

本件納品書には、原告が店舗外に持出して使用していたもの、従業員が店舗外に持出して使用していたもの、店舗内で使用されていたもの及び得意先専用のものの四種類が存在する。

(2) 前記のとおり、原告は宝石貴金属の卸販売業を、賢司は金地金の販売業を同じ場所で営んでいるところ、同じ取引先が存在したし、また、原告は、宝石貴金属製品以外に、賢司が取り扱っている金地金を販売することもあった。更に、原告と賢司は、それぞれ異なる納品書及び領収書を使用していたが、時には他方の納品書及び領収書を使用することがあり、必ずしも厳格な区別はなされていなかった。

(3) 本件納品書のうち、五〇枚揃っているのは甲七四のみであり、その他はいずれも欠落部分がある。

また、本件納品書の中には、いったん冊子から切り離された後、貼りつけられたものが相当数存在する。甲二二にはホッチキスで留められた納品書が含まれており、一冊が六八枚になっている。

(4) 原告は、松健工業株式会社及び橋本朋子に対して売上(いずれも昭和六三年分)があったのに、納品書を作成していない。

右認定の事実によれば、本件納品書にはその一部が欠落していたり、貼りつけられたものが存在するなどの不自然な点が見受けられるし、また、松健工業株式会社及び橋本朋子以外にも納品書を作成しない現金による売上が存在することが十分想定されるから、本件納品書及び預金通帳をもって、全ての売上金額を立証するに足りる客観的な資料と認めることはできないし、他に、売上金額の立証のため取引の実態を正確に記帳したと認められる現金出納帳等の会計帳簿等の資料を提出していないから(原告は、売上を本件納品書のみで管理しており、売掛帳等の会計帳簿を作成していないと供述するが、原告のような規模の事業を営むものがこれらの帳簿を作成していないというのは甚だ不自然で奇異の感を免れない。)、原告本人の供述のみから売上金額の全額について立証がなされたものと認めることはできない。

なお、原告は、本件納品書の一部欠落等は、これを整理する際に切り離したり、書き損じたり、委託販売を行った後に売買が不成立になった場合に破棄したために生じたと弁解(原告本人尋問の結果)するが、これを裏付ける帳簿等は存在しないこと、本件納品書の中には欠落が多数枚にわたるものがあるが、原告主張の事由からはこれを説明し難いこと、委託販売の事実を裏付ける書証は存しないこと、後に冊子に貼りつけられた納品書が存在することについての合理的説明がなされていないことに照らして、信用することはできない。

(三) まとめ

以上のとおり、原告による売上金額(実額)の立証は不十分であり、原告の実額反証の主張は、既にこの点において失当であるから、原告による実額反証によって、前記推計を覆すことはできないことは明らかである。

第四結論

以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一一年五月二六日)

(裁判長裁判官 大谷正治 裁判官 山本和人 裁判官 平井三貴子)

当事者目録

京都市中京区御池通大宮西入門前町一六五番地

原告 和田淳司

右訴訟代理人弁護士 高山利夫

同 小川達雄

同 籠橋隆明

同 吉田隆行

同 村松いづみ

同 佐藤克昭

同 竹下義樹

同 小笠原伸児

京都市中京区柳馬場二条下ル等持寺町一五

被告 中京税務署長 鎌田豊

右指定代理人 草野功一

同 長田義博

同 田中伸一

同 丸谷淳一

同 木本正行

同 前田全朗

同 浅野由佳

別表1

課税の経緯

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別表2

同業者算出所得率一覧表(昭和63年分) (主位的主張)

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同業者算出所得率一覧表(平成元年分) (主位的主張)

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同業者算出所得率一覧表(平成2年分) (主位的主張)

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別表3

総所得金額の計算書(主的主張)

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別表4 売上金額明細表(被告主張分)

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別表5

総所得金額の計算書(予備的主張)

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別表6

同業者算出所得率一覧表(昭和63年分) (予備的主張)

<省略>

同業者算出所得率一覧表(平成元年分) (予備的主張)

<省略>

同業者算出所得率一覧表(平成2年分) (予備的主張)

<省略>

別表7

原告の事業所得の金額

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別表8 売上金額明細表(原告主張分) A-1

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売上金額明細表(原告主張分) A-2

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売上金額明細表(原告主張分) A-3

<省略>

売上金額明細表(原告主張分) A-4

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売上金額明細表(諸口)(原告主張分) A-5

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別表9 仕入金額明細表 B-1

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仕入金額明細表 B-2

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仕入金額明細表(諸口) B-3

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別表10 外注加工費明細 C-1

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別表11 売上金額明細表(認定分)

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