京都地方裁判所 平成6年(わ)1258号 判決 1995年4月19日
本籍
京都府相楽郡木津町大字木津小字八色三三番地
住居
同郡加茂町大字大野小字北前田二七番地の一
会社役員
川井尚孝
昭和八年一二月一三日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官長崎正治出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一〇月及び罰金八〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、自己の所有していた京都府相楽郡木津町大字木津小字八色三三番、同三四番所在の土地等を丸石商株式会社に譲渡したことに関し、自己の所得税を免れようと企て、真実の買主が同会社であるのに、あたかも買が岡田勇及び岡田由美子であるかのように仮装するとともに売買価格を圧縮した虚偽の内容の売買契約書を作成するなどの方法により、右譲渡に係る所得の一部を秘匿した上、平成三年三月一四日、京都府宇治市大久保町井ノ六〇番地の三所在の所轄宇治税務署において、同税務署長に対し、被告人の平成二年分の実際の総所得金額が九一五万九〇〇〇円で、分離長期譲渡所得金額が一億八七九八万七八五二円であったにもかかわらず、同人の同年分の総所得金額が九一五万九〇〇〇円で、分離長期譲渡所得金額が五四五九万五六七六円で、これに対する所得税額が一一七七万五二〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四五一二万三二〇〇円との差額三三三四万八〇〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)(なお、括弧内の検番号は、記録中の証拠等関係カードに検察官請求分として記載されている証拠番号を示す。)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する各供述調書(二通、検22、23)
一 被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書(五通、検17ないし21)
一 石橋平和(検9)、薮下秋生(検10)及び岡田勇(検11)の検察官に対する供述調書の各謄本
一 川井敬孝(検12)、清水浄子(検13)、辻内宏和(検14)及び嶋田邦男(検15)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の証明書(検2)、脱税額計算書(検3)及び各査察官調査報告書(三通、検4、7、8)
一 不動産登記簿謄本(検5)
一 検察官事務官作成の電話聴取書(検6)
(法令の適用)
被告人の判示所為は所得税法二三八条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、その所定刑期及び同条二項による金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金八〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑は理由)
本件は、被告人が、自己の所有する不動産を売却するに際していわゆる圧縮取引などの不正の方法を用いて虚偽過少の申告を行い、所得税を免れたという事犯であるところ、被告人は、単に税金を安上がりにしたいという安易な考えから本件脱税行為に及んだものであり、本件犯行に及んだ動機に何ら酌量の余地のないものはもとより、本件の脱税手口は、売買形態において中間者をダミーとして介在させ、架空の売買代金による虚偽の売買契約書を作成して所得を隠匿したというものであり、本件犯行態様は誠に巧妙で悪質であり、これら脱税手段は他者が具体的に計画、遂行したものであったとはいえ、結局これら不正手段を用いて脱税行為に及んだ被告人はやはり厳しく非難されて然るべきである。そして、被告人は、本件犯行によって約一億三〇〇〇万円の所得を秘匿し、ほ脱に係る額が約三三三四万円に、ほ脱率も七三・九パーセントにも上がっており、国庫収入に多額の損害を与え、租税負担の均衡、公平を損なったものであって、その結果は重大といわなければならず、一般予防の見地からも厳しくその刑責が問われて然るべきである。
しかしながら、他方、被告人は、現在本件を深く反省、後悔し、その改悛の情も顕著であり、本件発覚後、修正申告手続を終え、本税のほか、延滞税、重加算税等を既に完納していること、被告人が今後二度と本件のような過ちを繰り返さない旨当公判廷において誓っていること、被告人には前科前歴は一切なく、本件を除いてはこれまでまじめに稼動し健全な社会生活を送ってきたものであること等被告人について酌むべき事情も認められ、これらの諸情状その他の諸般の事情を総合し、本件については、被告人に対し主文のとおり量刑した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 森浩史)