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京都地方裁判所 平成6年(ワ)1445号 判決 1998年2月20日

京都市<以下省略>

原告

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

加藤英範

國弘正樹

東京都中央区<以下省略>

被告

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

吉川哲朗

主文

一  被告は、原告に対し、六二三万八三五六円及びこれに対する平成六年六月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一三分し、その一二を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一原告の請求

被告は、原告に対し、八五一六万二九九七円及びこれに対する平成六年六月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、不動産賃貸、繊維製品の購入、加工、販売等を業とする株式会社である。

2(一)  原告は、平成元年六月ころ、被告京都支店従業員C(以下「C」という。)及びD(以下「D」という。)主任との間で、被告が原告の計算で一任勘定取引を行い、被告が原告に対し年一五パーセントの利回りを保証する旨の契約(以下「本件利回り保証契約」という。)をした。

(二)  原告は、本件利回り保証契約に基づき、平成元年六月一二日に一億円を、同年七月一四日に五〇〇〇万円を、同年九月一四日一一〇〇万円を、同年一二月四日に一二五〇万円(以上、合計一億七三五〇万円)を預託した。

(三)  従って、被告は、原告に対し、本件利回り保証契約に基づき、右預託金の元金及びこれに対する年一五パーセントの割合による利息の返還義務を負う。

3(一)  証券会社は、顧客の利益に優先して自己の利益を追求してはならないとともに、顧客の投資資金の性格や委託の趣旨に反する態様での取引をしてはならない旨の忠実義務又は善良なる管理者の注意義務(以下「善管注意義務」という。)を負っている。

被告は、平成元年六月ころ原告との間で一任勘定取引の約定をしたものであるが、以下のとおり、手数料稼ぎを目的とする過当取引、取引手仕舞を断念させる断定的判断の提供による勧誘及び利益相反行為にあたるワラント取引を行うことにより、忠実義務又は善管注意義務に違反したから、債務不履行又は不法行為に基づき、原告が本件証券取引によって被った損害を賠償すべき責任を負う。

(二)  ①証券会社が顧客の口座を支配していたこと、②証券会社が右口座の目的と性質に照らして過度な取引を行わせたこと、③証券会社が詐欺の目的で又は顧客の利益を無視して行動したことの三要件を充足するときは、過当取引として、忠実義務又は善管注意義務に違反し、債務不履行又は不法行為を構成するというべきである。

被告は、以下のとおり、手数料稼ぎを目的として、過当取引を行った。

(1) 原告は、平成元年六月七日から平成四年七月六日までに被告との間で行った別表No1ないし11記載の各証券取引(以下「本件証券取引」という。)により、合計二億一三六三万五九九二円の損失を被った。

原告代表者は、C及びDの勧誘で、原告と被告間の一任勘定取引に応じ、本件証券取引において、投資決定そのものをCに依存していたから、被告は、原告の取引口座を支配していた。

すなわち、本件証券取引全体を通じて、原告代表者が指示した数回を除き、Cの裁量により、証券の種類、銘柄の選定、価格、売買の別等の決定がされて、取引が実行されており、その取引結果につき事後的に売買報告書が原告に送付されるだけであった。

(2) 原告の当初投資資金一億五〇〇〇万円で、三年間の本件証券取引の取引総額は四四億六〇〇〇万円余りに及び、投資金の一年間の回転率は約九・九倍に相当する。

また、一銘柄当たりの平均投資期間は四三・八日であり、このうち、当日又は翌日の取引が二八件(一〇・六パーセント)、七日以内の投資期間の取引が六四件(二四・二パーセント)、三〇日以内の投資期間の取引が七二件(二七・二パーセント)、九〇日以内の投資期間の取引が五八件(二二パーセント)ある。

被告が本件証券取引により得た手数料は、五三八七万二三七四円であり、ワラント取引による損失を除く損失総額約一億九〇〇〇万円に占める右手数料の割合は、二七パーセントを超える。

このように、投資資金の回転率、投資期間、手数料額及び損失総額に占める手数料の割合をみれば、本件証券取引の過当性は明らかである。

(3) 被告は、わずか三年間余りの本件証券取引において五三八七万二三七四円の手数料収入を得ており、この一事をもってしても、本件証券取引が被告の手数料稼ぎを目的として行われたことは明らかである。

また、被告は、原告と被告間の一任勘定取引約定の下において、原告の利益のために銘柄又は売却時期の選択をしたのではなく、営業政策に従ってその選択をしたため、結果的に、最高値で買い付け、急落した時点で売却し、原告の損失を拡大させた。その取引例(いずれも株式の信用取引)は、次のとおりである。

ア 東映株

別表No7記載のとおり、平成元年九月二九日に一株一九〇〇円で一万株を買い付け、平成二年三月九日に一株一七〇〇円で、同月二七日に一株一三七〇円で各五〇〇〇株を売却し、合計四五九万六八四一円の損失を出した。

東映株は、平成元年五月から同年八月まで一株一二〇〇円台にあったものが、同年九月に一株一八〇〇円台まで値上がりした後、最高値で購入し、直後に値を下げたまま売却時期を失い、信用取引の決済期日間近の暴落した時期に売却している。

イ オムロン株

別表No8記載のとおり、平成二年六月二九日に一株二九四〇円で五〇〇〇株を、同年七月四日に一株二九〇〇円で一万二〇〇〇株を買い付けた後、同月一七日に一株二九七〇円で四〇〇〇株を、同月一八日に一株三〇四〇円で八〇〇〇株を売却し、右売却により合計六九万〇〇八四円の利益を上げたが、同日新たに一株三〇一〇円で八〇〇〇株を買い付け、その後、同年八月二三日に一株二〇六〇円又は二〇七〇円で五〇〇〇株を売却し、四八〇万二八五八円の損失を出した後、残余の八〇〇〇株を現引きし、平成三年二月一九日にこれを一株二〇一〇円で売却し、八三九万二七六九円の損失を出した。

オムロン株は、最高値で一度売却しながら、売却の日と同日に買い付けた八〇〇〇株がしこり株となって損失を拡大した。

ウ 奥村組株

別表No8記載のとおり、平成二年七月一七日に一株二〇五〇円で一万株を買い付け、同年九月二六日に一株一二一〇円でこれを売却し、九〇四万七五八〇円の損失を出した。

奥村組株は、公共投資関連株と囃されて、同年五月ころ一株一六〇〇円台から反騰し、同年七月に最高値を付けたところで買い付け、以後急落したところで売却している。

エ 東急株

別表No8記載のとおり、平成三年二月二五日に一株一八〇〇円で三万株を買い付け、同年五月二九日に一株一三七〇円でこれを売却し、一四九〇万九四二六円の損失を出した。

右買付けの当日、被告が二〇〇万株を買い付けたことが話題となり、被告を中心に東急グループの株価引き上げが目立ったが、東急株は、この日をピークに急落した。

オ 日立製作所株

別表No9記載(ただし、「日立」と表記)のとおり、平成三年三月五日に一株一二九〇円で五万株を、同月二六日に一株一二四〇円で二万株を買い付け後、同年四月一六日に一株一二四〇円で二万株を、同年六月一八日に一株一一〇〇円で二万五〇〇〇株を、同月二六日に一株一一〇〇円で二万五〇〇〇株を売却し、合計一二七六万二六〇三円の損失を出した。

日立製作所株は、平成二年一二月の一株一一〇〇円台から反騰した時期において、最高値で買い付け後、株価が下落して回復することなく処分した。

カ 日本信販株

別表No9記載のとおり、平成三年五月二九日に一株一一一〇円で六万株を、同年六月四日に一株一一二〇円で一万株を買い付けた後、同二六日に一株一〇八〇円で三万株を、同年七月二日に一株一〇三〇円で三〇〇〇株を、一株一〇一〇円で二万株を、同月三日に一株九八〇円ないし九八五円で七〇〇〇株を、同年八月九日に一株一〇五〇円又は一〇六〇円で一万株を売却し、合計六七三万四六三二円の損失を出した。

日本信販株は、同年二月の一株八〇〇円台から反騰した時期において、最高値で買い付け、しかも、七万株もの買いを集中し、少しの値下がりで売却し、損失を大きくしている。

キ アラビア石油株

平成三年一〇月一四日に一株六七二〇円で二〇〇株を、一株六七三〇円で四八〇〇株を買い付けた後(別表No10の記載は、その一部)、一六〇〇株については現引きし、残余の株式を、平成四年一月一七日、同年三月一一日、一七日ないし一九日に、一株五〇二〇円ないし五三〇〇円で売却し、合計八七八万七八八〇円の損失を出した。

被告京都支店営業課所属のE(以下「E」という。)課長は、原告代表者に対して右アラビア石油株の買付けを勧誘した際、「絶対確実に値上がりする。」との断定的判断を提供した。

(三)  被告京都支店は、東急株の推奨一斉販売によって平成三年一〇月一五日から四〇日間の業務停止処分を受けた。

原告代表者は、同月一四日、被告京都支店を訪れ、C及びその上司であるE課長に対し、当時の原告のすべての建玉を処分し、取引口座を清算するよう申し入れた。

これに対し、E課長は、「年末年始には必ず高くなるから今処分するのはやめときなさい。」などと言って、原告代表者の申入れを拒否し、原告の建玉の処分をさせず、右(二)(3)キのとおり、断定的判断の提供によるアラビア石油株の買付けを勧誘した。

その結果、原告は、本件証券取引を継続し、右(二)(1)のとおり、合計二億一三六三万五九九二円の損失を被った。

(四)(1)  ワラントは、新株引受権付社債のうち、分離された新株引受権証券部分であり、一定の権利行使期間内に、一定の権利行使価格で、新株引受権付社債発行会社の一定の数量の新株式を買い取ることのできる権利を表章した証券である。

ワラントは、株価が権利行使価格を上回ると、その価値が飛躍的に増大するが、他方、株価が権利行使価格を下回り、権利行使期間内に権利行使価格を上回る見込みがない場合には、紙屑同然となるハイリスク・ハイリターンの商品である。

しかも、外貨建てワラントは、日本国内に株式市場のような取引市場がなく、証券会社と顧客との相対売買で行われ、価格の形成過程が一般投資家にとって極めて不透明であるという特質を持つ。

(2) 被告は、原告の計算において、別表No11記載のとおり、平成元年九月二六日、外貨建てワラントである日信販ワラント(以下「本件ワラント」という。)一〇〇ワラントを代金三五三一万八二五〇円で買い付け、そのうち、五〇ワラントを、平成二年一月二三日に代金一〇〇〇万七三八八円で売却した後、同年五月一六日、いわゆる難平買いとして、五〇ワラントを代金六五一万九五〇〇円で買い付けた。

被告は、同年一〇月三〇日、原告の計算において、本件ワラント一〇〇ワラントを六三万八五七九円で売却した。

原告は、本件ワラント取引により、合計三一一九万一七八三円の損失を被った。

その間、原告は、同年七月二七日ころ、ワラントを放置しておけば無価値になる旨の同日付け日経新聞の記事を読み、本件ワラントを長期間保有していることに不安を覚え、Cに経過を問い質し、無価値になる前に処分するよう申し入れたが、Cは、「任せて欲しい。損をせずにケリをつけてみせる。」などとの応答に終始し、右申入れに応じなかった。

(3) ワラント取引は証券会社と顧客との相対売買であり、被告が原告との間の一任勘定取引約定の下に本件ワラント取引を行うことは、それ自体利益相反行為に当たるから許されず、また、被告は、本件ワラントの処分時期に関する判断を誤ってこれを長期間保有し、かつ、その値動きに関する判断を大きく誤って難平買いをして、原告の損失を拡大した。

4  仮に原告と被告間の本件利回り保証契約及び一任勘定取引約定が認められないとしても、証券会社の従業員がワラントの勧誘を行う場合には、顧客に対し、ワラントの特質及び危険性等を十分に説明すべき義務がある。

原告は、別表No11記載のとおり、平成元年六月八日にアマダソノイケワラント一〇〇ワラントを買い付け、被告とのワラント取引を開始した。

Cは、原告代表者に対して右ワラント取引を勧誘した際、ワラントの特質及び危険性等について何ら説明をせず、事後的にワラント取引説明書(甲五)を送付しただけであり、その後、本件ワラント取引を勧誘した際にも何ら説明をしなかった。

したがって、Cがした本件ワラント取引の勧誘には、説明義務違反の違法があるから、被告は、債務不履行又は不法行為に基づき、原告が本件ワラント取引により被った損失三一一九万一七八三円(右3(四)(2))に相当する損害を賠償すべき責任を負う。

5  よって、原告は、被告に対し、第一次的には、本件利回り保証契約に基づく元利金の返還請求として、第二次的には、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求として、預託金の元利金の内金又は損害の内金として、八五一六万二九九七円(本件証券取引の手数料と本件ワラント取引による損失の合計額にほぼ相当するもの)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年六月一四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実は否認する。

(二)  同(二)のうち、原告が原告主張のとおりの金員(合計一億七三五〇万円)を被告に預託したことは認め、その余の事実は否認する。

右金員は、いずれも証券取引の決済資金であって、原告が被告に対して資金運用を委ねる趣旨で預託されたものではない。

(三)  同(三)は争う。

3(一)  同3(一)のうち、原告と被告が一任勘定取引の約定をしたことは否認し、その余は争う。

(二)  同(二)のうち、原告が被告との間で本件証券取引を行ったこと、原告が本件証券取引により合計二億一三六三万五九九二円の損失を被ったこと、被告が本件証券取引により五三八七万二三七四円の手数料収入を得たことは認めるが、被告京都支店のE課長が原告代表者に対してアラビア石油株の買付けを勧誘した際に断定的判断を提供したことは否認し、その余は争う。

(三)  同三のうち被告京都支店が平成三年一〇月一五日から四〇日間の業務停止処分を受けたこと、原告代表者が同月一四日被告京都支店を訪れたことは認め、その余の事実は否認する。

(四)(1)  同(四)(1)のうち、外貨建てワラントの取引が証券会社と顧客との相対売買であることは認め、その余は争う。

(2) 同(2)のうち、原告が平成元年九月二六日に本件ワラント一〇〇ワラントを代金三五三一万八二五〇円で買い付けたこと、原告が平成二年一月二三日に本件ワラント五〇ワラントを代金一〇〇〇万七三八八円で売却したこと、原告が同年五月一六日に本件ワラント五〇ワラントを代金六五一万九五六〇円で買い付けたこと、原告が同年一〇月三〇日に本件ワラント一〇〇ワラントを代金六三万八五七九円で売却したこと、原告が本件ワラント取引により合計三一一九万一七八三円の損失を被ったことは認め、その余の事実は否認する。

4  同4のうち、原告が別表No11記載のとおり平成元年六月八日にアマダソノイケワラント一〇〇ワラントを買い付け、被告とのワラント取引を開始したことは認め、その余は争う。

三  被告の主張

1  本件利回り保証契約の主張(請求原因2)に対して

(一) Cは、平成元年五月ころ、原告代表者から、相談したいことがあるので来て欲しい旨の電話を受け、原告の事務所を訪問した。

原告代表者は、その際、「知り合いが特金(特定金銭信託)で二〇パーセントの利益が出たと聞いた。原告にも一億円の資金があるので、同じ特金形式で二〇パーセント程度で運用できないか。」と申し入れた。これに対し、Cは、「利回り保証はできない。」と断った上で、一億円の運用につき、「上司と相談して後日訪問します。」と答えるにとどまった。

後日、Cとその上司であるD主任が原告代表者を訪れ、Dは、「二〇パーセントの利回りの保証はできません。ただし、野村証券と野村総研の情報でより良い運用ができると思う。ご信頼していただけるなら、被告を通じてその資金運用を図ってください。」と話したところ、原告代表者は、考えておくと言って、即答しなかった。

原告代表者は、同月末ころ、Cに対し、一億円を同年六月一二日に被告京都支店に入金することを決めた旨電話で連絡した。

このように原告は、一億円を証券取引の決済資金として入金したものであり、その後の追加投資も、原告に運用を委託したものではなく、証券取引等の決済資金として入金した。

このことは、本件証券取引開始後、一年経過した以降、原告が被告に対し本件利回り保証契約に沿った清算を要求したことがないことからも明らかである。

したがって、原告主張の本件利回り保証契約は成立していない。

(二) 本件証券取引においては、銘柄や売却時期等の選択について被告の担当者が原告代表者に助言したり、勧誘することが多かったが、他方で、原告代表者は、利回り保証取引を持ちかけるなどその投資態度は非常に積極的であり、本人尋問の際における「難平買い」、「提灯持ち」等の発言に見られるように投資知識及び投資経験ともに豊富であり、個々の取引の投資判断は最終的にはすべて原告代表者が行っていた。

また、Cは、原告代表者から、Cが勧めていない特定の銘柄の買付注文を受けたこともあれば、Cが勧めた銘柄につき資金不足を理由に断られたこともあった。

このように原告と被告間には一任勘定取引約定も成立していない。

2  本件証券取引の忠実義務違反又は善管注意義務違反による債務不履行又は不法行為の主張(請求原因3)に対して

(一) 原告と被告間に一任勘定取引約定が成立していないことは、右1(二)のとおりであり、右一任勘定取引約定を前提とする、原告の過当取引及び利益相反行為の主張は理由がない。

(二) 本件証券取引においては、原告の投資する資金が多額であったことや、原告が株式の信用取引も行っていたことからすると、本件証券取引の量は決して異常なものでも過剰なものでもない。また、被告の担当者が原告との本件証券取引に際して、原告の利益を無視して被告の手数料徴収の利益を優先させたことは一切ない。

もっとも、被告の担当者が勧めた銘柄の株価が予想外に急落し、原告に損失が生じた事実はあるが、これは結果論であって、このことから直ちに被告の忠実義務違反又は善管注意義務違反であるということはできない。

(三) 原告代表者は、平成三年一〇月一四日午前九時ころ、被告京都支店に来店し、E課長に対し、同月一五日から四〇日間被告が営業停止になるため、年末にかけてこのままずるずると株価が下がるのではないかと不安を述べ、もしそうであれば、建玉をすべて決済したほうがいいのではないかと相談を持ち掛けた。

これに対し、E課長は、年末にかけて相場全体が盛り返すのではないかと見通しを述べ、ただ、すべての銘柄が上がるというのではなく、銘柄によって上げ下げがある、かなり格差が出てるのではないかとの話をする中で、原告が当時信用取引の買建てをしていた昭和シェル株とオリンパス株を売却して、アラビア石油株を買うことなどを勧め、原告代表者の了解を得てその取引をした。

Eは、右アラビア石油株の勧誘に際し、原告代表者に対し、断定的判断の提供をしていない。

3  本件ワラント取引の勧誘の際の説明義務違反による債務不履行又は不法行為の主張(請求原因4)に対して

(一) Cは、平成元年六月六日、原告代表者に対し、業種別インデックスファンドと、アマダソノイケ、三越、ニチレイの各ワラントの買付けを電話で勧めたが、ワラントがわかりにくいとのことでなかなか了解してもらえなかったため、直ちに原告代表者を訪問し、ワラント取引説明書を提示しながら、ワラントとは新株引受権のことで、一定の価格で株式を購入できる権利であること、権利の売買であるがゆえに価格変動が大きく、株式に比べ、ハイリスク・ハイリターンであること、権利行使期限が到来すると権利が消滅して無価値となることなどを説明した。

原告代表者は、その際、「ワラントというものはやはり、短期で勝負しないかんな。」などと言った。

その後、原告代表者は、「私は、貴社から受領したワラント取引に関する説明書の内容を確認し、私の判断と責任においてワラント取引を行います。」と記載されたワラント取引に関する確認書(乙七八)に原告の記名押印をして、これを被告に郵送した。

(二) 右のとおり、Cは、原告代表者に対し、本件ワラント取引の勧誘をする前に、ワラントの内容、仕組み、リスク等につき既に十分な説明をしている。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張はいずれも争う。

2(一)  原告は、銀行融資により調達した一億円を被告に預託することを決意したのは、被告との間で本件利回り保証契約を締結したからであり、そうでなければ一億円もの金員を預託するはずがない。

(二)  原告と被告は、別表No1記載のとおり、平成元年一月の取引開始から半年間で、わずかに三銘柄の外国株式の投資信託の売買しかしていないのに、同年六月七日以降、短期間での売買の繰り返しが始まっている上、その中でも、同月八日のアマダソノイケワラントの取引は、原告代表者のゴルフのためCが原告代表者と連絡がとれない時間帯に行われており、このことからも本件証券取引が原告に対する事前の連絡がないまま、Cの裁量により行われた一任勘定取引であることは明らかである。

(三)  原告代表者は、Cからワラント取引説明書(甲五)の交付を受けて、ワラントの説明を受けたことはない。

原告の手元にある右説明書は、アマダソノイケワラント等の取引に係る売買報告書とともに郵送されたものである。

このことは、郵送の際に三つ折りにしたことにより生じた右説明書の三つ折りの線とその末尾に綴じ込まれ切り取る書式となっていたワラント取引に関する確認書(乙七八)の三つ折りの線とが一致することからも明らかである。

理由

一1  原告が不動産賃貸、繊維製品の購入、加工、販売等を業とする株式会社であること、原告が平成元年六月一二日に一億円を、同年七月一四日に五〇〇〇万円を、同年九月一四日に一一〇〇万円を、同年一二月四日に一二五〇万円を被告に預託したこと、原告が被告との間で本件証券取引を行ったこと、原告が本件証券取引により合計二億一三六三万五九九二円の損失を被ったこと、被告が本件証券取引により五三八七万二三七四円の手数料収入を得たこと、被告京都支店が平成三年一〇月一五日から四〇日間の業務停止処分を受けたこと、原告が平成元年九月二六日に本件ワラント一〇〇ワラントを代金三五三一万八二五〇円で買い付けたこと、原告が平成二年一月二三日に本件ワラント五〇ワラントを代金一〇〇〇万七三八八円で売却したこと、原告が同年五月一六日に本件ワラント五〇ワラントを代金六五一万九五〇〇円で買い付けたこと、原告が同年一〇月三〇日に本件ワラント一〇〇ワラントを代金六三万八五七九円で被告に売却したこと、原告が本件ワラント取引により合計三一一九万一七八三円の損失を被ったことは、当事者間に争いがない。

2  右1の争いのない事実と証拠(甲五、乙一ないし八六、証人C、証人D、証人E、原告代表者(ただし、後期措信できない部分を除く。))及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)(1)  原告は、不動産の賃貸、繊維製品の購入、加工、販売等を業とする株式会社であり、原告代表者は、大正一一年生まれの男性である。

C(昭和四〇年○月○日生)は、昭和六三年四月、被告に入社し、京都支店営業課の配属となった。

(2) Cは、昭和六三年秋ころから、原告をしばしば訪れ、原告代表者に証券取引の勧誘をするようになった。

原告は、Cの勧誘で、平成元年一月二〇日、別表No1のとおり、アセアンファンド及びタイプライムファンドを買い付け、被告との本件証券取引を開始した。

その後、原告は、同年四月五日、Cを通じて、外国投資信託であるワールドハイグロスを買い付け、同月一二日に、これを売却した。

(3) 原告代表者は、本件証券取引を開始する約一二年前に、日興証券株式会社で株式の現物取引をした経験があった。

原告代表者は、株式の信用取引及びワラント取引の経験はなかったが、信用取引の仕組みは理解し、「難平買い」、「提灯持ち」、「月足」等の用語にも通じ、証券投資に関する相当の知識を有していた。

(二)(1)  原告代表者は、平成元年五月ころ、取引先の銀行(株式会社第一勧業銀行西陣支店)に対し、証券取引投資資金として一億円の融資の申込みをし、その内諾を得た。

(2) 原告代表者は、平成元年五月中旬ころ、原告事務所にCを呼び寄せ、Cに対し、原告代表者の知り合いの呉服問屋の社長室に札束の入ったダンボール箱が運ばれるのを見たことがあり、その時の社長の説明では、被告と取引をして一億円を預けて一年で二〇パーセントか、二五パーセントの利回りで利益を上げてくれたと言っていた、原告も被告に一億円位預けるから、少なくとも二〇パーセントの利回りで回してくれることはできないかなどと言って、利回り保証による証券投資の話を持ち掛けた。

これに対し、Cは、上司と相談してみると言って、即答を避けた。

その二、三日後、Cとその上司であるD主任は、原告事務所を訪れ、原告代表者と面会した。

原告代表者は、その席上、Dに対し、一億円位を二〇パーセントの利回りで回して欲しいと言ったが、Dは、利回り保証は法律で禁止されているので、できないなどと言って、これを断った。

更に、原告代表者は、二〇パーセントがきついのであれば、一五パーセントではどうかと提案した。

これに対し、Dは、利回り保証はできないが、被告の投資情報部や野村総合研究所から、他の証券会社と比べると早く大量の情報が入ってくるので、そういった情報を参考に投資したらよい成果が出る、信頼していただけるのであれば、被告に投資されてはどうかと答えた。

原告代表者は、考えておくと言い、その場では、それ以上の話は進展しなかった。

(3) その約一週間後の平成元年五月末ころ、Cは、原告代表者から、融資の決定があったので、一億円を投資することを決めた旨電話で連絡を受けた。

(三)(1)  Cは、平成元年六月六日ころ、原告の事務所を訪れ、原告代表者に対し、業種別インデックスファンド、アマダソノイケ、三越及びニチレイの各ワラントの四銘柄を勧めた。

Cは、その際、原告代表者に対し、ワラント取引説明書(甲五)を提示しながら、ワラントは、新株引受権のことで、ある決められた一定の価格で株式を購入できる権利であり、その権利の売買がワラント取引である、権利の売買であるがゆえに価格の変動性というのは非常に高い、株式に比べたらハイリスク・ハイリターンである、権利行使期日が来ると権利が消滅してゼロになるなどの説明をした。

Cは、右説明書を原告代表者に交付し、右説明書の末尾に綴じ込まれ切り取る書式となっていた、「私は貴社から受領したワラント取引に関する説明書の内容を確認し、私の判断と責任においてワラント取引を行います。」と記載のあるワラント取引に関する確認書に押印して返送するよう求めた。

原告代表者は、同月一三日ころ、右確認書に原告の記名押印をして被告に返送した。

(これに対し、原告代表者の供述中には、ワラント取引説明書は、取引報告書とともに、郵送されてきたもので、Cからワラントについて何の説明もなかった旨の供述部分がある。しかし、原告の事務所(原告の肩書住所)と被告京都支店(京都市<以下省略>)とは比較的近接した場所にあることからすると、Cが原告事務所に出向くことは容易であったこと、Cにとって、一億円もの証券投資をする原告は重要な顧客であったことに照らすと、Cが原告代表者に対するワラントの説明を意図的に省略したり、わざわざ右説明書を郵送するものとは考えがたいというべきであるから、原告代表者の右供述部分は措信することはできない。なお、右説明書及び確認書にいずれも三つ折りの線が入っていることは窺われるが、右確認書の方の三つ折りの線は原告代表者が被告あてに送付する際に生じた可能性があり、右説明書の方の三つ折りの線は原告代表者が右説明書を受領した後に生じた可能性もないとはいえないから、右説明書及び確認書の双方に三つ折りの線があるからといって、直ちに右説明書が郵送されたとまでは認められない。)

(2) 右説明書の二頁には、ワラントは、「一定期間(行使期間)内に一定価格(行使価格)で一定量(一ワラント当たりの払込額÷行使価格)の新株式を購入(引受け)できる権利を有する証券」であるとの記載があり、三頁には、「外貨建てワラントと為替リスク」に関する説明がされているほか、「ことば」欄の「行使期間とは」の項には「新株式を購入(引受け)できる期間のことで発行時にきめられています。この期間中にワラントを行使しないと、ワラントの経済的価値はなくなります。」との記載があり、権利行使期間に関する説明がされている。また、八頁には、「ハイリスク、ハイリターンのワラント投資」との見出しのもとに「このようにワラントが株式の数倍の速さで動くということがワラントの最大の特徴です。値上がりも値下がりも株式の数倍の速さで動くことになるからです。値上がりすればハイリターン、値下がりすればハイリスクになることになります。」との記載がある。

(3) 原告は、同月七日に業種別インデックスファンドを、同月八日にアマダソノイケのワラント一〇〇ワラントを、同月九日に三越及びニチレイのワラントを買い付けた。

このうち、アマダソノイケのワラント一〇〇ワラントは、買い付けた当日に売却し、二〇六万三八七八円の利益を上げた。

(四)(1)  原告は、平成元年六月一二日、一億円を被告に振込送金し、更に、同年七月一四日に五〇〇〇万円を、同年九月一四日に一一〇〇万円を、同年一二月四日に一二五〇万円を被告に預託した。

原告が預託した右一億円は、主として同年六月二〇日に買い付けた公社債投信であるセレクションの買付代金に、右五〇〇〇万円は、主として同年七月一一日に買い付けた井関農機株の買付代金に、右一一〇〇万円は同年九月一三日に買い付けた株式の投資信託であるローゼンバーグジャパンの買付代金に、右一二五〇万円は同年一一月二九日に買い付けた三菱商事の転換社債の買付代金に充てられた。

その間の同年九月二五日に、原告は、信用取引口座を開設し、同月二六日から、被告を通じて、株式の信用取引を開始した。

(2) 原告は、別表No1ないし11のとおり、平成元年六月七日から平成四年八月六日まで、被告との間で本件証券取引を行い、その結果、合計一億四三二九万〇七〇一円の損失が生じた。

Cは、本件証券取引に際し、原告代表者を訪問し、又は原告代表者が被告京都支店に来店した際に、勧誘したり、注文を受けることもあったが、電話を利用して連絡をとることが多かった。

原告代表者は、本件証券取引に際し、銘柄の選定、数量、価格、売買の時期等につき、Cのアドバイスを受けてはいたものの、最終的には自らの判断で決定し、その指示をしていた。

また、日本特殊陶業(別表No7、ただし、「日本特殊陶」と表記)、日本甜菜製糖及び帝人製機(別表No9、ただし、「帝人機」と表記)の三銘柄のように、Cから推奨を受けることなく、原告代表者が自ら銘柄及び株数を指定して、買い付けた銘柄もあった。

(3) 原告代表者は、被告から送付される、取引報告書並びに金銭残高、証券残高及び信用取引等残高に関する月次報告書(月二回)に目を通して、本件証券取引の状況を把握し、また、月次報告書の記載内容に相違ない旨の回答書(乙一三ないし七七)に記名押印して被告に返送していた。

また、原告代表者は、右(1)のとおり、合計一億七三五〇万円を投資したほか、Cから、信用取引の委託保証金が不足してくると、追証を求められたり、信用取引の損金の支払を求められて、その都度、これに応じていた。

(五)  原告は、平成元年九月二六日、Cの勧誘に応じて、外貨建てワラントである日信販ワラント(本件ワラント)一〇〇ワラントを、被告から代金三五三一万八二五〇円で買い付けた。

その後、原告代表者は、本件ワラント以外の他のワラントは、別表No11のとおり、買付け後、一日か、二日かあるいは一週間位で処分していたので、本件ワラントを売った方がいいのではないかと何度かCに相談したが、Cから、本件ワラントは値下がりしているが回復する旨の見通しを聞いて、これを保有していたが、その後、Cと相談した結果、平成二年一月二三日、Cから半分売却するよう勧められ、五〇ワラントを代金一〇〇〇万七三八八円で売却した。

原告は、同年五月一六日、Cの勧誘で、いわゆる難平買いとして、値下がりしていた本件ワラント五〇ワラントを代金六五一万九五〇〇円で買い付けた。

しかし、その後も、本件ワラントは値上がりすることがなかったので、原告代表者は、Cに売却するよう指示し、同年一〇月三〇日に残余の一〇〇ワラントを売却し、結果的に、原告は、本件ワラント取引により、合計三一一九万一七八三円の損失を被った。

(六)(1)  Eは、平成二年一二月一日付けで被告京都支店(当時は課長代理、その後平成三年六月に課長に昇進)に赴任した後、平成三年一月上旬ころ、Cとともに、あいさつのため原告代表者を訪問した。

Eは、同月下旬ころ、原告代表者に対し、東京エレクトロン株の買付けを勧め、原告は、別表No8のとおり、同月二八日に二万株を買い付け、同年二月一四日にこれを売却し、六六三万〇八四九円の利益を得た。

Eは、同年四月ころ、大きな評価損があったり、又は多額の手数料をもらっている顧客を訪問するよう被告本社の管理部門から指示を受け、Cとともに、そのころ、原告代表者を訪問した。

Eは、同年六月、原告代表者に対し、東急株及びフジクラ株の信用取引による売付けを勧め、原告は、別表No9のとおり、同月二七日、各二万株の売付注文をした(ただし、別表No9では、「フジクラ」を「藤倉線」と表記している。)。

原告代表者は、同年七月初めころ、Cを通じて反対売買をして手仕舞いをしたいと言ったので、Eはもう少し持っておいた方がいいと助言したが、原告代表者は、同月三日、自らの判断で反対売買をし、東急株について六五万九八三四円の差益を生じたが、フジクラ株については三六万四七三二円の損失となった。

その後、Eは、同年八月、原告代表者に対し、北野建設株の信用取引を勧め、原告代表者は、これに応じた。

(2) 被告京都支店は、平成三年一〇月初旬ころ、東急株の一斉推奨販売で同月一五日から四〇日間の営業停止処分を受けた。

原告代表者は、営業停止となる前日の同月一四日午前九時ころ、被告京都支店に来店した。原告代表者は、Eに対し、営業停止期間中にできる取引を尋ねた。Eは、原告代表者に対し、証券取引の勧誘と買付けはできないが、売付けはできる旨説明した。

その際、原告代表者は、営業停止期間中に手持ち銘柄の値下がりの懸念があったことから、原告の信用取引について、「もうやめた方がいいんじゃないか。」と言って、信用取引の建玉を処分する旨の申入れをした。これに対し、Eは、「今売らない方がいいんじゃないんですか」、「一部の銘柄を売却して、値幅の取れそうな銘柄を買われたらどうでしょう。」、「アラビア石油が値上がりすると思うので、アラビア石油に乗り換えたほうがよろしい。」などと言った。

原告代表者は、来店した一時間半のうちに、Eの勧誘に応じ、原告が信用取引で買建てしていたオリンパス、昭和シェル株及び戸田建設株を売却して、アラビア石油株(五〇〇〇株)及びトピー工業株(二万株)の買付けをした。

Eは、右勧誘の際、株価の変動チャートを示した。

Eがアラビア石油株を推奨した材料は、アラビア石油株が高値の半分まで下がっていたこと、過去のチャートから比較的年末に上がる傾向があったこと、信用取引の売り残りがそこそこあったので、二か月程度持っていたら買戻しが入りやすいと考えたことなどであった。

また、原告が買建てしていたトピー工業株がかなり下がっていたので、Eは、難平買いを勧めたところ、これを承諾したので、戸田建設株を売却して、トピー工業株を買い付けた。

なお、原告代表者が被告京都支店を訪れた際、原告代表者が被告京都支店の従業員に対し、利回り保証に関する話をすることは一切なかった。

(3) その後、アラビア石油株は値上がりせず、原告は、別表No10のとおり、平成四年三月にこれを売却した。

(七)(1)  Cは、平成四年五月末に被告京都支店から転勤したが、その前に、本件証券取引に係る同月一八日現在の残高承認書(乙一二)を持参して、原告代表者を訪れ、その内容を確認の上、記名押印して郵送するよう依頼した。原告は、同年六月一日ころ、右残高承認書を被告に返送した。

原告代表者は、Cが訪れた際、本件証券取引で損が出たことに不満を述べたが、利回り保証の話を持ち出すことはなかった。

また、本件訴訟に至るまで、原告代表者から被告に対し、Cを通じての本件証券取引に関する苦情が出たことはなかった。

(2) 原告は、平成六年六月一日、本件訴訟を提起した。

二1  そこで、本件利回り保証契約締結の事実(請求原因2(一))につき、判断する。

原告代表者の供述中には、平成元年五月中旬ないし下旬ころ、原告事務所の応接室で、原告代表者がC及びDに対し、一億円を預けるので、二〇パーセントの利回り保証を求めたところ、Dは、「二〇パーセントというのはきつい数字であるので、一五パーセント以上であればなんとか約束する。」と答えたので、「とにかく、一億円を任せるから、売買の銘柄の指定は一切しないから、一五パーセントを必ず守って下さい。」という指示をした、原告が投資した一億円のうち、九〇〇〇万円がファンドに固定されると、年間一五パーセントの利益を上げることが難しいから、現金のいらない信用取引を開始してくれと言われて、信用取引を開始した旨の供述部分がある。

しかしながら、①利回り保証約束及び一任勘定取引の約定を否定する趣旨の証人C及び証人Dの各供述部分があること、②原告代表者の供述によっても、本件利回り保証契約を締結した際には、取引期間は一年と思っていたが、いつ精算するとか、利息の支払をどうするのかという話はしていないこと、③本件訴訟に至るまでの間に原告が被告に対し本件利回り保証契約に沿った利息等の支払を求めたり、清算を求めたことを裏付けるに足りる証拠はないこと(もっとも、原告代表者の供述中には、平成二年五月にローンの切り換えで返済期限が六か月に延びたから、本件証券取引開始後一年を経過した時点では清算を求めなかった旨の供述部分があるが、他方で、その後一年以上経過した平成三年一〇月一四日に被告京都支店に訪れたときは、株式市況が低迷し、利回り保証の約束に沿った要求をすることは現実的ではないと考え、右清算の話を持ち出さなかった、株式の信用取引をやめれば、損を拡大せずに済むと考えていた旨の供述部分があることを勘案すると、原告代表者がそもそも清算を求める意思があったかどうか疑わしいといわざるをえない。)、④原告代表者は、Cから、信用取引の委託保証金が不足してくると、追証を求められたり、信用取引の損金の支払を求められて、その都度、これに応じていたが(前記一2(四)(3))、本件利回り保証契約を締結しているのであれば、そのような名目で支払をする必要はないはずであること、⑤原告主張の本件利回り保証契約に沿った書面は作成されていないこと、⑥原告代表者が一度に一億円を投資するからには、D又はCの方から、利回り保証を窺わせるような言辞があった可能性も一応ありうるが、既に原告は証券投資資金として一億円の銀行融資の話が内定していたこと(同(二)(1))及び当時の株式市況の状況によれば、原告代表者は、利回り保証を求めなくても、被告から助言を受けて取引を行うことにより、年一五パーセント程度の利益が上がるものと期待して投資に応じたものと推認することができることに照らし、本件利回り保証契約を締結した旨の原告代表者の右供述部分は措信することはできない。

他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

2  したがって、原告の本件利回り保証契約に基づく元利金の返還請求は理由がない。

三  次に、原告は、本件証券取引において被告が忠実義務又は善管注意義務に違反し、原告は損害を被った旨(請求原因3)主張するので、以下において、順次判断する。

1(一)  原告は、本件証券取引は、一任勘定取引約定の下に行われた過当取引であるから、被告には忠実義務違反又は善管注意義務違反がある旨(請求原因3(二))主張し、原告代表者の供述中には、本件証券取引は、被告が一任勘定取引として行った旨の供述部分がある。

しかしながら、①原告代表者は、本件証券取引を開始する約一二年前に、株式の現物取引をした経験があり、証券投資に関する相当の知識を有していたこと(前記一2(一)(3))、②原告代表者は、本件証券取引に際し、銘柄の選定、数量、価格、売買の時期等につき、Cのアドバイスを受けてはいたものの、最終的には自らの判断で決定してその指示をしていたこと(原告代表者は、前記一2(四)(3)のとおり、被告から送付される取引報告書及び月次報告書(月二回)に目を通して、本件証券取引の状況を把握していた。)、③日本特殊陶業、日本甜菜製糖藤及び帝人製機の三銘柄のように、Cから推奨を受けることなく、原告代表者が自ら銘柄及び株数を指定して、買い付けた銘柄があり(前記一2(四)(2))、また、東急株及びフジクラ株の信用取引のように、原告代表者がC又はEの助言をいれずに、売却したこともあったこと(同(六)(1))、④原告は、平成元年六月八日のアマダソノイケワラントの取引については、原告代表者のゴルフのためCが原告代表者と連絡がとれない時間帯に行われており、このことは本件証券取引が原告に対する事前の連絡がないまま、Cの裁量により行われた一任勘定取引であることの証左である旨主張するが、仮に原告主張のとおりアマダソノイケワラントの取引につきCから事前連絡がなく、原告が事後的に右取引を承諾したものであったとしても、このことから直ちに本件証券取引全体が一任勘定取引であったとまでは認められないことに照らすと、原告代表者の右供述部分は措信することはできず、他に原告と被告が一任勘定取引の約定をし、被告が原告の取引口座を支配していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

また、本件証券取引の内容は、別表No1ないし11のとおりであって、その取引期間、売買の回数及び委託手数料額(五三八万二三七四円)に照らすと、かなり頻繁に取引が行われたことが認められるものの、原告の投資金額、本件証券取引中には、六か月の決済期限のある信用取引が相当の割合を占めていることなどを勘案すると、本件証券取引が量的に異常であるとまでは認められない。

更に、Cが勧誘した銘柄のうち、最高値で買い付け、安値で売却したことになった銘柄があることは事実であるが、そうであるからといって、Cにおいて原告に損をさせ、あるいは手数料稼ぎの意図の下に、銘柄の推奨をしたものとまで認められないし、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって、原告の右過当取引の主張は理由がない。

2  次に、原告は、平成三年一〇月一四日、C及びその上司であるE課長に対し、当時の原告のすべての建玉を処分し、口座を清算するよう申し入れたにもかかわらず、E課長は、「年末年始には必ず高くなるから今処分するのはやめときなさい。」と言って、原告代表者の申入れを拒否し、原告の建玉の処分をさせず、「絶対確実に値上がりする。」との断定的判断を提供してアラビア石油株の買付けを勧誘した旨(請求原因3(三))主張し、これに沿う原告代表者の供述部分がある。

原告が平成三年一〇月一四日に被告を通じてアラビア石油株を買い付けたことは、前記一2(六)(2)のとおりである。

しかし、①原告代表者の右供述部分と反対の趣旨の証人E及び証人Cの各供述部分があること、②原告は、別表No5、6、10のとおり、右アラビア石油株の買い付け後も平成四年八月六日まで取引を継続し、その間に被告が原告の取引の指示に従わなかったことを窺わせる証拠はないこと、③原告代表者の投資経験及び証券取引に関する知識、右アラビア石油株の買付けに至るまでの取引の経緯によれば、仮にE課長から原告代表者に対してアラビア石油株が値上がりする旨の言辞があったとしても、原告代表者がこれを鵜呑みにしたとまでは考えがたいことに照らし、原告代表者の右供述部分は措信することはできず、他に原告の右主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

3  原告は、ワラント取引は証券会社と顧客との相対売買であり、一任勘定取引約定の下に行われた本件ワラント取引は利益相反行為に当たるから、被告には忠実義務違反又は善管注意義務違反がある旨(請求原因3(四))主張する。

しかし、原告の主張の前提となる一任勘定取引約定が認められないことは右1のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

四1  原告は、Cが本件ワラント取引を勧誘するに際し、ワラントの特質及び危険性等を十分に説明すべき義務があるのに、これを怠り、その結果、原告は、本件ワラント取引により三一一九万一七八三円の損害を被った旨(請求原因4)主張するので、以下において判断する。

原告が平成元年九月二六日にCの勧誘に応じて本件ワラント一〇〇ワラントを代金三五三一万八二五〇円で買い付けたこと、平成二年一月二三日、Cから半分売却するよう勧められ、五〇ワラントを代金一〇〇〇万七三八八円で売却したこと、原告が同年五月一六日にCの勧誘で本件ワラント五〇ワラントを代金六五一万九五〇〇円で買い付けたこと、原告が同年一〇月三〇日に残余の一〇〇ワラントを売却し、結果的に、原告は、本件ワラント取引により、合計三一一九万一七八三円の損失を被ったことは、前記一2(五)のとおりである。

2(一)  ところで、外貨建てワラントは、一般投資家にとって、株式等と比較して周知性の低い商品であり、しかも、新株引受権を行使しないまま、権利行使期限が経過すると無価値となる、権利行使期限到来前でも、株式の時価が権利行使価格を上回る可能性がなくなったときは、無価値当然となる、ワラントの取引価格は、株価の変動に応じて変動するが、これのみならず、残存権利行使期間の長短、外国為替相場等を基礎に複雑に変動し、その変動幅は株価よりもはるかに大きいなどといったワラントの特質からすれば、証券会社の従業員がワラント取引の勧誘をする場合には、顧客の年齢、職業、投資経験、ワラントに対する既得の知識等に応じて、顧客に対し、ワラントの特質、価格形成のメカニズム及び危険性等を十分に説明すべき信義則上の義務があるというべきである。

(二)  これを本件についてみるに、①Cは、平成三年六月六日ころ、原告代表者に対してアマダソノイケワラントの勧誘をした際、ワラント取引説明書(甲五)を提示しながら、ワラントは、新株引受権のことで、ある決められた一定の価格で株式を購入できる権利であり、その権利の売買がワラント取引である、権利の売買であるがゆえに価格の変動性というのは非常に高い、株式に比べたらハイリスク・ハイリターンである、権利行使期日が来ると権利が消滅してゼロになるなどの説明をしているが(前記一2(三)(1))、他方で、Cは、ワラントの売却時期等を判断するための前提となる価格形成のメカニズムやワラントの価格の確認方法、ワラントの残存権利行使期間が短くなるとワラントの値動きがなくなり、売却しにくくなることなどの取引の実情については、説明していないこと、②原告代表者は、本件証券取引開始前から株式の現物取引の経験を有し、証券投資に関する相当の知識を有していたものの、原告が平成元年六月八日にアマダソノイケワラントを買い付ける前には、ワラント取引の経験がなかったことに照らすと、Cは、原告代表者にワラントの売却時期等を判断するための前提となるワラントの特質及び危険性等の説明を十分尽くさなかったというべきであるから、右勧誘には、説明義務違反の違法があったものと認められる。

そして、Cの右違法な勧誘は、被告の事業の執行について行われたものであるから、被告は使用者責任を負うべきである(もっとも、原告は、使用者責任につき明示の主張をしていないが、原告の本件不法行為の主張を全体として見れば、当然に右使用者責任の主張をする意思を含むものと解される。)。

3  Cの原告に対する違法な勧誘によって、原告は、原告主張の本件ワラント取引による損失額に相当する三一一九万一七八三円の損害を被ったことが認められる。

しかしながら、他方で、①原告代表者の投資経験及び証券投資に関する知識並びに原告がワラント取引説明書(右説明書の記載内容は前記一2(三)(2))のとおりである。)を受領した後本件ワラント取引が行われるまで三か月ないし一一か月が経過していることにかんがみると、その間に、原告は、右説明書等の資料を手掛かりに、ワラントについて正確な理解をするため、Cや被告京都支店の他の従業員に質問するなどして、より詳しい説明を求めたり、自ら研究して理解を深めた上で、買付けや売却の投資判断をすることにより損害の発生及びその拡大を回避することが可能であったから、原告においても落ち度があったものと認められること、②原告は、別表No11のとおり、本件ワラント取引までに、一一銘柄のワラント取引を行い、差引六〇〇万四八一一円の利益を上げており、その間の取引を通じて、ある程度ワラントの特質等を理解していたものと窺われること(原告代表者の供述中には、ワラントについて、報告書が来た段階ではわからなかったが、その後にわかった旨の供述部分がある。)をしんしゃくすると、過失相殺として、本件ワラント取引により被った原告の損害額の八割を減ずるのが相当である。

そうすると、被告が原告に賠償すべき損害額は、原告の右損害額三一一九万一七八三円の二割に相当する六二三万八三五六円となる。

五  以上によれば、原告の請求は、六二三万八三五六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成六年六月一四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 大鷹一郎)

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