大判例

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京都地方裁判所 平成6年(行ウ)33号・平5年(行ウ)22号 判決

甲事件原告

宮木里美

(ほか六名)

乙事件原告

宮木里美

(ほか七名)

右訴訟代理人弁護士

高橋修

右同

宮本平一

甲及び乙事件被告

大江町長 佐藤克巳(A)

霜沢弘(B)

右両名訴訟代理人弁護士

小澤義彦

事実及び理由

第三 判断

一  旧規則及び旧内規に基づく被告霜沢に対する給与の支給の違法性

前記争いがない事実(第二の二の1ないし3)によると、大江町では、新給与条例及び本件条例が制定されるまでは、条例の定めによってではなく、旧規則及び町長が任意に定めた旧内規に基づいて、大江病院の院長である被告霜沢に対する給与(諸手当を含む。以下同じ。)の額が決定され、支給されてきたことが認められる。

そうすると、大江町の職員である被告霜沢に対する給与の額の決定は、被告大江町長に一任されていたことになり、旧規則及び旧内規は、給与条例主義を定めた地方自治法二〇四条三項、二〇四条の二に違反して、無効といわざるをえない。

したがって、旧規則及び旧内規に基づく被告霜沢に対する給与の支給は、違法な公金の支出に該当するといわざるをえない。

二  争点1について

1  しかしながら、前記争いがない事実(第二の二の4、5)によれば、平成五年一二月二一日、新給与条例及び本件条例が制定され、右各条例には、遡及条項及び内払条項の定めがあり、これらの各条項が適用されることになれば、被告霜沢に対する過去の給与の支給は、右各条例に基づくものとみなされ、遡って適法な給与の支給とみなされることになる(最判平成五年五月二七日判例時報一四六〇号五七頁参照)。

2  これに対し、原告らは、争点1に関する原告らの主張の如く、本件条例は違法無効であると主張するので、以下検討する。

ところで、条例は、地方公共団体の議会の議決によって成立し(地方自治法九六条一項一号)、条例の定めた日ないし公布の日から一〇日後に施行され(同法一六条三項)、法規範としての効力を有するが、法令に違反しない限りにおいて制定することができるとされている(憲法九四条、地方自治法一四条一項)。

したがって、条例が、その成立要件を欠き、あるいは成立過程に重大かつ明白な瑕疵がある場合、又はその内容が、法令の規定ないし趣旨に反する場合には、条例としての効力を有しないものといわなければならない(最判昭和五三年一二月二一日民集三二巻九号一七二三頁参照)。

3  原告らは、本件条例の無効原因として、本件条例が、本件訴訟(甲事件)の訴訟対策として制定され、委員会審議が非公開でなされたと主張する。

しかし、右主張は、本件条例の成立要件や成立過程の重大明白な瑕疵の主張とは認められず、右主張事実の存在をもってしても、本件条例の無効事由とは認められないので、右主張は、採用の限りでない。

4  次に原告らは、本件条例の三条ないし五条の定めが、被告霜沢に対して、極めて高額な給与を支給することを内容とするもので、その必要性を欠き、不合理であり、地方公務員法二四条一項、三項、民法九〇条に違反するという。

前示のとおり、条例は、法令に違反しない限りにおいて効力を有するものであるから、本件条例の右各条項が、地方公務員法二四条一項、三項、民法九〇条に違反する趣旨であるか検討する。

地方公務員法二四条一項は職務給の原則を、同条三項は均衡の原則を定めたものであることは、原告ら主張のとおりであって、被告らもこれを争わない。右にいう職務給の原則は、地方公共団体の職員の給与は、その職務と責任に応ずるもの、すなわち、当該地方公共団体に対する貢献度に応じて決定されなければならないとする原則である。また、均衡の原則は、職員の給与は、<1>生計費、<2>国家公務員の給与、<3>他の地方公務員の給与、<4>民間事業従事者の給与、<5>その他の事情、を考慮して定めなければならないとする原則で、いずれも地方公共団体職員の勤務条件のうちで最も重要な給与について、その決定に関する原則ないし指針を定めたものと解するのが相当である。

そして、具体的な給与額の決定は、職務給の原則の外、右<1>ないし<4>の各金額に、<5>のその他の事情として、当該地域や公共団体の社会的、経済的諸事情、たとえば、当該地域の産業の景況、職員採用の難易、財源の有無等を総合考慮して決定されるもので、給与に関する条例の議決機関である議会の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当である。

してみると、本件条例に基づいて支給される給与が極めて高額であるからといって、直ちに、本件条例が、原告ら主張の法令に違反し、効力を有しないということはできず、議会に、右裁量権の行使の範囲を逸脱し、あるいはその行使に当たって裁量権を濫用したとの事情が認められない限り、その議決によって制定された本件条例を無効ということはできないというべきである。

原告らは、大江病院の特別会計が平成二年度から赤字であって、大江町の一般会計から多額の補填がなされていると主張し、被告らにおいてもその事実を争わない。しかしながら、大江町議会は、これらの事情を十分認識したうえで、本件条例を議決したものと推認しうるのであって、右事実の存在をもってしても、右にいう裁量権の逸脱、濫用とは認められないというべきである。

そして、他に、大江町議会が、右裁量権の範囲を逸脱し、あるいは濫用したとの事実は、本件全証拠によっても認めることはできない。

なお、原告らは、被告霜沢に支給する給与が、他の国公立病院の院長の給与や被告大江町長の給与に比較して、著しく高額であると主張する。確かに、被告霜沢の給与が、被告大江町長の給与より高額であることは争いがないが、町長は、特別職であって地方公務員法の適用はないから(同法三、四条)、これらを比較することは意味がない。また、〔証拠略〕によれば、地方公営企業に属する病院の医師の給与の平均月額が、大江病院の医師のそれを上回る病院数は相当数あるうえに、京都府内の診療所においても、被告霜沢に対する給与額と大差のない給与が支払われている例(甲事件の乙一三、国民健康保険山城病院組合に対する調査嘱託)も認められ、前示のとおり、給与額の決定は、諸般の事情を総合考慮してなされることを考え併せると、議会の前記裁量権の濫用ないし逸脱と認められるほど、被告霜沢の給与が、他の病院長の給与に比較して著しく高額であるとまでは認めることはできない。

そうすると、本件条例は、無効といえず、有効であるといわざるをえない。

5  原告らは、本件条例の遡及条項は、行政法規の不遡及の原則に反して無効であると主張する。

しかし、行政法規といえども、国民に不利益ないし義務を課し、既得権を奪い、公益性を欠くものでない限り、遡及適用が否定されるものではないというべきである。そして、本件条例の遡及条項が、国民に不利益ないし義務を課し、既得権を奪い、公益性を欠くものであることを認めるに足りる証拠はない。

原告らは、遡及条項が有効とすると、町財産が回復されず、住民の利益が侵害されると主張するが、前示の不利益ないし義務が課されるか、既得権が奪われるかは、当該行政法規の適用を受ける者(本件では、大江病院の医師)について判断すべきであって、一般住民について考慮すべきでない(一般住民については、議会が議決を通じて判断すべきものである。)から、右主張は採用できない。

6  原告らは、また、本件条例の遡及条項を有効としても、会計年度独立の原則に反して、過去の年度の支給まで適法になるものではないと主張する。

しかし、〔証拠略〕によれば、被告霜沢に対する給与は、それぞれの年度の予算に従い、当該年度の歳入をもって充てられていることが認められるので、右主張は理由がない。

三  争点2について

以上のとおり、新給与条例、本件条例、新規則の公布に伴い、旧規則は廃止され、旧規則第二条に基づき定められていた旧内規も旧規則の廃止に伴い当然に廃止されたものである。

してみると、被告大江町長が、右廃止された旧規則や旧内規に基づき、今後とも、被告霜沢に対し、給与の支給をなす余地があるとは認められず、右廃止された旧規則や旧内規に基づく給与の支給の差止めを求める甲事件の訴えは、その利益を欠くに至ったというべきである。

四  争点3について

以上のとおり、本件条例は有効であるから、これが違法無効であることを前提とする、被告大江町長に対する乙事件の差止請求は、理由がない。

五  争点4について

前示のとおり、旧規則及び旧内規は、新給与条例及び本件条例並びに新規則の公布に伴って廃止され、旧条例、旧規則及び旧内規に基づいて被告霜沢に対して支給された給与は、いずれも新給与条例及び本件条例の規定による給与とみなされることになるのであり、また、本件条例に基づく被告霜沢に対する給与(内払分を含む。)の支給も有効であるから、被告大江町長の被告霜沢に対する平成四年九月分以降の給与の支給に違法はなく、被告霜沢に不当利得は存在しないことになる。

したがって、原告らの被告霜沢に対する甲、乙事件の請求は、いずれも理由がない。

六  争点5について

被告霜沢は、本件条例の無効を理由とした同被告に対する甲事件の不当利得返還請求は、監査請求を経ていないと主張する。

しかし、〔証拠略〕によると、甲事件の原告らは、被告霜沢に支給された給与が著しく不当に高額であって違法であるとして、その不当利得の返還を求め、監査請求をしたものであり、大江町監査委員もこの点について判断していることが認められる。

してみると、被告霜沢に対する給与の支給という財務会計行為について、適法な監査を経た以上、原告らが、その後の訴訟において、監査請求の理由として主張した理由以外の違法事由を主張することは、何ら禁止されているものではなく、主張する違法事由ごとに監査を経なければならないものでもない(最判昭和六二年二月二〇日民集四一巻一号一二二頁参照)。

したがって、被告霜沢の右主張は理由がない。

第四 結論

以上のとおりであるから、甲事件原告らの被告大江町長に対する訴えは、その利益を欠き、不適法であるから、却下することとし、乙事件の被告大江町長に対する請求及び甲、乙事件の被告霜沢に対する請求は、いずれも理由がないので棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 中村隆次 府内覚)

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