大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成7年(行ウ)6号 判決 1995年12月22日

原告

グループ市民の眼

右代表者事務局長

折田泰宏

右訴訟代理人弁護士

中村広明

被告

京都市長

田邊朋之

右訴訟代理人弁護士

崎間昌一郎

主文

一  被告が、原告に対し、平成五年二月二三日付けでした支出命令書(一三四件)についての非公開決定を取り消す。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨。

第二  事案の概要

一  訴訟物

本件は、原告のした、京都市公文書の公開に関する条例(平成三年七月一日京都市条例第一二号・以下、本件条例という。)に基づく公文書の公開請求に対して、被告が非公開とした処分(以下、本件処分という。)をしたので、その取消を求める抗告訴訟である。

二  争いがない事実

1  原告は肩書所在地に事務局を置く権利能力なき社団であり、被告は本件条例の実施機関である。

2  原告は、平成五年二月九日、本件条例に基づき、被告に対し、「議員の出張の費用(議会費)の支出命令書(平成四年度上半期)」の公開請求をしたところ、被告は、同月二三日、右請求に対応する公文書としては、「支出命令書(一三四件)」(以下、本件公文書という。)がこれに当たるとした上、本件公文書に記録されている情報は、本件条例八条七号に該当するとして、本件処分をした。

3  原告は、本件処分に対して、同年三月一一日、異議申立てを行ったが、被告は、平成六年一一月七日付けで、棄却した。

三  争点

本件公文書に記録されている非公開情報の本件条例八条七号該当性

四  争点に関する当事者の主張

1  被告

(一) 本件条例八条には、「実施機関は、次の各号の一に該当する情報が記録されている公文書については、公文書の公開をしないことができる」旨規定され、その七号に、「市が行う許可、認可、試験、争訟、交渉、渉外、入札、人事その他の事務事業に関する情報で、公開することにより次のいずれかに該当するもの」と規定され、同号ウに、「関係当事者間の信頼関係が著しく損なわれると認められるもの」、同号エに、「当該事務事業又は同種の事務事業の公正かつ適切な執行に著しい支障が生じると認められるもの」がそれぞれ規定されている。

(二) 本件公文書は、市議会議員の出張に係る旅費についての市長の支出命令書であるが、これらには、金額、市議会議員の氏名、用務地、用務、旅行期間、内訳等がそれぞれ記載されている。

(三) 議員の出張は、議会の権限で判断し、議会の統括者であり代表者である議長の旅行命令に基づいて行われる。この旅行命令簿は、議会の作成する文書として本件条例の公開対象文書ではないが、本件公文書は、議会からの予算執行の依頼に基づき、市長が作成管理する文書として、本件条例の公開対象文書である。

(四) 本件公文書は、議員の出張に係る経費支出が記載されたもので、これは、市長の予算執行に関する事務として、本件条例八条七号の「その他の事務事業に関する情報」が記録された文書に該当するが、実質的には、議員の議会活動に関する情報、すなわち、議会情報である。

この議会情報については、本件条例の公開対象の情報ではなく、議会においてその公開の是非、範囲につき検討中である。

したがって、議会の独立性、自律性を無視し、その意向に反して市長が本件公文書を公開することは、議員出張に係る経費支出の情報のみが公開されることになって、一方的な解釈、誤解を生じ、議会活動の公正かつ円滑な執行に支障が生じるおそれがあり、また、市長と議会の信頼関係を著しく損なうものであるから、非公開事由を定めた本件条例八条七号ウに該当する。

2  原告

被告の主張する非公開事由は、本件条例八条七号ウに該当しない。

本件条例八条七号ウの「関係当事者間の信頼関係が著しく損なわれると認められるもの」の判断に当たっては、その結果、同号エの「事務事業の目的が損なわれ、又は公正かつ適切な執行に支障を生じる」かどうかを基準として、厳格に運用するものとされている。

したがって、本件公文書を公開することにより、京都市の事務事業の目的が損なわれ、又は公正かつ適切な執行に支障を生じることについて、被告が主張、立証すべきであるが、被告はこれを行わない。

また、情報公開条例の非公開情報の定め方の系譜をたどれば、「関係当事者間の信頼関係」が問題となるのは、任意提供情報の場合であって、一般的、情緒的な信頼関係を意味するものではない。

第三  判断

一  事実認定

証拠によれば、以下の事実が認められる。

1  被告主張の(一)のとおり、本件条例八条には、「実施機関は、次の各号の一に該当する情報が記録されている公文書については、公文書の公開をしないことができる」旨規定され、その七号に、「市が行う許可、認可、試験、争訟、交渉、渉外、入札、人事その他の事務事業に関する情報で、公開することにより、次のいずれかに該当するもの」、同号ウに、「関係当事者間の信頼関係が著しく損なわれると認められるもの」、同号エに、「当該事務事業又は同種の事務事業の公正かつ適切な執行に著しい支障が生じると認められるもの」がそれぞれ規定されている。

(乙一)

2  公文書公開事務の手引(以下、手引という。)によると、本件条例八条七号の趣旨は、京都市の行う事務事業の中には、その性質上、公開することによって、その目的が損なわれたり、公正かつ適切な執行が妨げられるものがあるため、これらに係る情報について非公開とすることができると定めたものと解される。そして、同号にいう「その他の事務事業」とは、京都市の行うあらゆる事務事業をいうものとされ、京都市においては、同号ウの「関係当事者間の信頼関係が著しく損なわれると認められるもの」の判断に当たっては、その結果、同号エの「事務事業の目的が損なわれ、又は公正かつ適切な執行に支障を生じる」かどうかを基準として、厳格に運用するものとされている。

(乙一)

3  被告主張の(二)のとおり、本件公文書は、市議会議員の出張に係る旅費についての市長の支出命令書であるが、これらには、金額、市議会議員の氏名、用務地、用務、旅行期間、内訳等がそれぞれ記載されている。

(弁論の全趣日)

4  議員の出張は、議会の権限で判断し、議会の統括者であり代表者である議長の旅行命令に基づいて行われる。この旅行命令簿は、議会の作成する文書として本件条例の公開対象文書ではないが、本件公文書は、議会からの予算執行の依頼に基づき、市長が、予算執行に関する権限に基づき作成管理する文書として、本件条例の公開対象文書である。

(乙一、弁論の全趣旨)

5  議員の議会活動に関する情報、すなわち、議会情報については、本件条例の公開対象の情報ではなく、議会においてその公開の是非、範囲につき、現在検討中である。

(乙三、弁論の全趣旨)

二  争点(非公開情報の本件条例八条七号の該当性)について

1  前記認定事実によれば、本件公文書に記載された議員の出張旅費に関する情報は、市長の予算執行に関する事務に係るものとして、本件条例八条七号にいう「その他の事務事業に関する情報」に該当すると認めるのが相当である。

そして、この情報が明らかになると、関係当事者間の信頼関係が損なわれるか否かは、前認定のとおり、当該事務事業又は同種の事務事業の目的が損なわれ、公正かつ適切な執行に支障を生じるかどうかを基準として、できる限り限定的に解釈すべきところ、右にいう当該又は同種の事務事業とは、本件の場合、市長の予算執行に関する事務をいうものと解される。

2  しかるに、被告は、本件公文書が公開されることにより、右事務につき、その目的が損なわれ、公正かつ適切な執行に支障を生じることについて、具体的な主張もしないし、何らの立証もしない。

3  したがって、本件公文書が公開されることにより、市長の予算執行に関する事務につき、その目的が損なわれ、公正かつ適切な執行に支障を生じるとは認められず、結局、本件公文書に記載された情報が、本件条例八条七号ウにいう非公開情報に該当するということはできないといわざるをえない。

4  被告は、本件公文書に記載された情報は、議員の議会活動に関する議会情報の一つであり、この議会情報については、現在、本件条例の公開対象の情報ではなく、議会においてその公開の是非、範囲につき検討中であるから、議会の独立性、自律性を無視し、その意向に反して市長が本件公文書を公開することは、市長と議会の信頼関係を著しく損なうものであると主張する。

被告主張のとおり、本件情報が議会情報の一つであるとしても、本件公文書は、前認定のとおり、市長の作成管理する文書として、本件条例の対象文書に該当する以上、本件条例の非公開事由に該当しない限り、公開は免れないといわざるをえない。

第四  結論

以上のとおり、本件公文書に記載されている情報が、本件条例八条七号の非公開事由に該当するとしてなされた本件処分は違法であり、取消を免れない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官松尾政行 裁判官中村隆次 裁判官池上尚子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例